【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

文字の大きさ
上 下
52 / 174

37 三千オーベルで承りますっ

しおりを挟む
     ◆三千オーベルで承りますっ

 大樹パパのお料理教室。
 ちょっと薄暗いけど小さな窓から光が入る、殿下のお屋敷の厨房からお届けします。
 本日は。スープとサラダと小枝のリクエストのハムチーマヨです。
 なんて。
 ただの朝ごはんの用意ですけど。
 まず、前日から作ってある野菜の煮汁をダシにして、スープ作りです。
 あ、その前に。小鍋に水を入れて、適当に切ったニンジンを湯がいておきましょう。煮ながら放置。
 で、野菜の煮汁の材料は、野菜の皮やヘタだけど。その時々で料理に使った端材の野菜を煮ておけばいいのです。まぁ大体、ニンジンや玉ねぎや長ネギとか、根菜がよくダシが取れるよ。セロリやニラなど香りの強いものを入れると微妙に味が変わるから、毎回味が違って飽きないね。
 じっくり煮ていくと、黄金色になるから。それがいわゆる野菜出汁だしです。
 そこに塩や胡椒を足すと良いスープになりますよ。

 日本ではさ、ダシが命で。顆粒のものがよくあったんだけど。
 俺も普通に、かつおだしとか、海産物系のダシをよく使っていて。そちらの方が馴染みがあるのだけど。
 殿下が言うことには、海はここから馬車で五日もかかるってことで。ほえぇぇ。
 今はあるもので、なんとかやっている感じだ。
 他にも洋風の鶏ガラやコンソメやブイヨンやぁ??
 あぁ、顆粒だしのありがたみよぉぉぉ。

 ってわけで、その煮汁にスライスしたショウガを入れ。とりあえず煮ておく。
 ううぅーん。ショウガのツンとする香りと野菜汁の香りが混ざって。スッキリの中にも美味そうな匂いぃ。
 スープを煮ている間に、サラダを作る。
 生野菜で食べられるものを適当にザクザク。
 キモは、ドレッシングだ。基本は油と塩と酢を入れるのだが。そこにレモンやオレンジといった果汁を入れると、それなりのドレッシングができるよ。
 お好みでコショウやバジルなど香辛料を入れるのもいいです。
 小学校の家庭科で作らされたレシピって、なんでか大人になっても覚えているんだよなぁ。
 で、俺は。一番最初にお湯で柔らかく煮ておいたニンジンをマッシュしまして。オレンジの果汁を絞って。基本の材料を入れて、菜箸で混ぜるっ。
 それでほんのり野菜の甘みが出るのと…小枝が好んで食べないニンジンを、強制的に食べさせることができるのだっ。
 あとはハムチーマヨです。半分に切ったコッペパンを、切り口を下にしてフライパンで焼き。
 鉄板の余ったところで、ハムとチーズを焼きます。ジューっと、トロッとしてきたら。
 焼けたパンを引きあげマヨを塗り。そこにハムチーをドンで。出来上がり。
 大の大人が四人いるので、十五個ほどそれを作ります。
 余ったら、騎士さんが食べてくれるから。思い切っていっぱい作るのです。いつもすみませんね。
 で、パンが出来たら。
 煮汁をこしてスープだけにして。塩コショウで味を調整。そこに長ネギを縦半分に切って千切りしたものを鍋に入れ。溶いた卵をアツアツのスープへ流し入れる。二日酔いに効くネギとショウガと卵のスープの完成です。

 食卓に出して、毒見も済ませて、さぁ、どうぞ。

「タイジュ。俺は朝ごはんはいらない。二日酔いで食べられない」
 殿下が、どこかのダメ親父的発言をし。
「さっき鎮痛して楽になったはずですけどぉ? まぁ食べなくていいですけど、スープだけでも飲んでください。お腹になにも入っていないと、気持ち悪いのがいつまでも治りませんよ」
 そうして、スープを勧めると。殿下はスープの皿にスプーンを入れる。
 黄金色のスープの中に黄色い溶き卵が浮いていて。ネギは体を温める効能がありますし、味も主張しないので食べやすいかと。
「あぁぁぁ、美味い」
 やはり殿下は、なにやら染み入る声を出すのだった。あ、に濁点がついている感じで。
「さっぱりしている。なんか、頭のモヤモヤがスッとするみたいで。これなら食べられる」
 とはいえ、殿下は気だるそうにスプーンを口に運ぶのだが。

 すると小枝が、ハムチーマヨにかぶりついて、チーズをビヨーンと伸ばした。
 なにかのCМのような、わかりやすいビヨーーンだ。
「ハフハフ、パパのハムチーマヨ、最高っ! ハムの塩味がマヨとコラボしてジューシーでぇ、チーズがトロリで、うまうまなのぉ」
 ほっぺを手で押さえ、ハムチーマヨを堪能する小枝。エンジェルッ。
 この世界のチーズは、日本にあったようなスライスチーズはなくて。でっかくて丸いやつ。
 包丁で切ったり削ったりして使う感じ。
 だから、思い切った厚みで切ったりして。
 そして無添加だから、コクがあってヤバいウマいビヨーンだ。

 というか。殿下がハフハフしている小枝を横目で見て。
「タイジュ。やはり、食べる」
 と言い出した。

 殿下、小枝のコメントで食欲を掻き立てられているのでは?
 小枝が食べたいとか美味しいとか言うものを、殿下は食べたがる節があります。
 まぁ、笑顔で小枝がパンに食いついているサマは、確かに美味そうに見えるね。
 そして、パンにかぶりついた殿下。王族とは思えないワイルドさです。
「なんだこれ、うまっっ。チーズをこのようにとろりとさせて食べたことはないな。固まったままのものをパンにはさんだり酒のつまみにすることが多い。だがそういえばハンバーグ雪崩にもトロリを乗せていたか?」
「えぇ、俺らはチーズはとろりとさせて食べるのが好きで。もちろん、酒のさかなにもしますけど。この国のチーズはこんなに美味しくて伸びのあるチーズなのですから、ビヨーンさせなきゃもったいないですよ」
 殿下とそんな話しながらも。小枝を見やると、パンしか食べていなかったから注意します。
「小枝、サラダも食べなさい。ハムチーマヨに野菜をはさまなかったのだからね」
「えぇぇ? わかったぁ。オレンジ味、美味しいから。まぁいいかぁ」
 ドレッシングにニンジンが入っていることに気づいていないようだな? ふっふっふ。
 しかし、殿下が食事に加わり、これでいつもの食事風景ですね。

「小枝、実は。陛下からのお達しで、小枝がジョシュア殿下の遊び相手に選ばれたのですが…」
 食事中、とうとうレギがあの件を切り出しました。
 お子様の小枝に、お伺いを立てるように聞くが。
 小枝はケロッとした笑顔で、答えるのだった。

「パパからお話を聞きました。ぼくは、王子のお相手なんか、できないと思うのですけどぉ…お仕事として、一回三千オーベルでうけたまわりますっ」

「えぇっ??」
 小枝が突拍子もないことを言い出すから。俺は驚いてしまった。
「お仕事だったら、つらいことも涙をのんでたえられます。レギ様、いかがでしょう」
「いいですよ、コエダは仕事をしたいと言っていましたからね。つらいというのは気にかかりますが。相性もあるでしょうし、まずは王子と顔合わせをしていただいてもよろしいか?」
「相性っ! そうですね。王子が遊んでみて、ぼくのことを面白くない子だって思うかもしれませんよね? わかりました。顔合わせをします」

 それで、日程の調整をすることになって。
 この話はいったん終了しました。
 お友達と遊ぶのに、金銭を要求するのは駄目じゃないかとも思いますが。
 小枝は命懸けなので。
 駄目だと思いつつも、致し方なしというところか。お小遣いでもないとやってられない、みたいな?
 だから俺も、この場はなにも言わなかった。

「タイジュ、コエダ。今日は俺とともにエルアンリの屋敷に行ってもらいたい。医者として」
 エルアンリ王子は、昨日お見掛けした、儚げな印象の殿下の弟です。
 確かに彼の顔色は気になるところがありましたが。
 久しぶりの医者のお仕事に、俺は興奮してしまいました。
 まぁ、殿下の不眠症を治すのも、大事な医者のお仕事ですけどね。
 なんとなく、殿下以外の患者にワクワク…してはいけません。患者さんはみなさん苦しんでいるのですからね。

 粛々と、仕事をさせていただきましょうっ。

しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

処理中です...