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35 まずは、パパから
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◆まずは、パパから
風呂から上がって寝室にきた殿下は。白シャツにズボンといういつもの寝るときのスタイルで、ベッドに腰かけた。
「適度な飲酒、適度なダンス、風呂で体温も上げた。不眠解消に良いとされるものをやったのだから、今宵はよく眠れそうだな?」
そう言ってベッドに横たわる殿下。手招きされたから、俺も彼のベッドに入って横になる。
すると、殿下に抱き寄せられた。
「ちょっと…」
ディオン殿下に所有されることに納得はしたものの。
夜の相手を許したわけではないから、背中に手を回す殿下に文句を口にする。
まだ、抱き枕までですよ。
「人肌も、不眠に良いのだろう?」
ひとつ拳分くらいしか離れていない距離でのイケメンに、俺は目を丸くする。
人形のように整った顔だけど、唇がなめらかに動くから。生身の人間なのが、理解できるというか。
というか、まつ毛、長っ。美顔の破壊力がすさまじいです。
「あぁ、毎日こんな日が続いたらいい」
なにやら殿下が夢見心地に言うから、まだ酔っているのだろうなと思う。
そしてそれが本音なのだろうとも思って。
俺は小さく笑んだ。
「こんなものなら、いつもしているでしょう? あ、そうだ」
俺は少しベッドの上方に体を移動して、殿下の頭を胸に抱く。
「心臓の鼓動を聞くのも、寝るのに良いんです。リズムが、母の胎内にいた頃のことを思い出して、リラックスできるようですよ」
そこまで言って。幼い頃に離れた母を思い出させるのは酷だろうか、と思ったのだけど。
殿下は俺の胸に耳をそばだてて、フフと笑う。
「あぁ、なんか。くすぐったくなる音だな?」
「えぇ? 変ですか?」
「いや、ずっと聞いていたい」
そうして、そっと目を閉じた。
このまま、自力で眠れるといいのですけど。
「今、殿下が続いてほしいと思っているものは、子供の頃に経験すべきものだったのでしょうね? 親のそばで寝て安心感を得たり。談笑しながら食事をしたり。そういう家族の風景。些細なこと。でも、大事なこと」
俺は、どうしても。殿下と小枝の境遇が似ていると思ってしまう。
親の庇護を受けられなかった子供だ。
「小枝も、母に守ってもらえなかった子供です。殿下は以前、俺に…というか小枝に、親は子を差し出して保身をはかるものだって言いましたね?」
馬車移動の初日、くらいの話だ。あれから、もう一週間ほどになるんだな。
「あのときは、すまない。おまえを否定したかったわけではないんだ」
殿下はバツが悪そうにつぶやいた。
でも別に、責めているわけじゃないのです。
「えぇ、あのときはびっくりしたけど。今は殿下がなぜあのようなことを言ったのか、わかります。やはり殿下は、親にかばってもらえなかった人だったのだって。俺も小枝も、親が無条件に子を守るものだなんて思っていないのですよ。小枝の本当の母、俺の姉なのですけど。彼女がそういう人だったから」
俺は最悪な姉の顔を思い出す。
同じ親に育てられ、同じく医者を目指して。なぜこうも道を違えてしまったのだろうか。
「小枝がこの前、腐ったパンを食べて死にそうになった、みたいな話をしたでしょう? 姉は、自分の能力向上のために小枝を放置していた。与えられたパンを何日もかけて食べて、生き延びていたんです。そのとき腐ったパンを食べてしまった、という話で」
「おまえがコエダに腐ったパンを出すなんて、ありえないと思っていたが」
その殿下の言葉は、俺を無条件に信頼しているように聞こえて。こそばゆいな。
「えぇ、まぁ。それは俺が小枝を保護する前の話なので。んん、だから。殿下は小枝と同じなのです。俺が小枝を育てたように、貴方のことも俺が育ててあげられたら良かった」
彼の頭を、俺は優しく抱く。己でくるんで、なにもかもから守ってあげたかった。
俺は彼に買われて、奴隷という身分ではある。
けれど彼は純粋に、生きるために俺の能力を必要としていて。若干の強制力はありながらも、決して無体や乱暴な行いはなくて。
だから、俺の自由を奪う彼だけど。なんだか憎めなくて。
彼が小枝と同様に、親に恵まれない子供だと知れば。
俺は彼を抱き締めてやりたいって思ってしまうのだった。
「だから。俺が貴方のパパになりますよ」
言うと、ちょっとの間のあと、彼はブスリと言うのだ。
「…俺はおまえの恋人希望なのだが?」
「まずは、パパから」
俺がそう言ったら。なんでか俺の胸に顔をうずめて、殿下はブフッと笑いを吹き出した。
「それ、普通『まずはお友達から』って言うやつだろうが。まずパパからって、なんだ?」
「ちょっと、胸の近くで笑われるとくすぐったいんですけど。っていうか、入眠するのにいろいろやっているんですけど、眠れそうですか? 殿下」
「いや、好きな人とくっついていたら、ドキドキして寝られるわけがない」
殿下の言葉に、俺はギョッとして身を引くが。
すると殿下が顔を上げて、俺をみつめる。
「あと、俺のことはディオンと呼べ」
「でも、レギが…」
礼節にうるさい彼が、殿下の名を呼ぶことを従者の俺に許すはずがない。
「だから、寝室では。ディオンな」
「ディオン、さ、ま」
「様はいらない。私室で堅苦しいのはいらぬ」
殿下と彼を呼んで、一線を引いていたつもりもあったのだ。
なのに、一気に距離を詰められた感覚がある。
「ディ、ディオン…つか、好きな人って。俺のことが好きなのですか?」
戸惑いながらたずねると、ディオンは心外だという顔で俺を見た。
「あぁ? ずっとそう言っていただろうがっ」
「いいえ、聞いていませんけど」
なんか、それっぽいことは。あったよ? いろいろ。ほのめかすやつ?
でも、好きは。初耳、だと思います。
「そうか? ならおまえは、相当鈍いってことになるな。大体、恋人希望だと先ほども言ったし。夜の相手前提の抱き枕とまで言っているのに、なぜ俺の気持ちを疑うのだ? 解せぬ」
ちょっと怒り口調で、犬歯を見せながら言うけど。
でも。だってさぁ。
「だって、まず大前提で、おっさんの俺を誰かが好きになるとか考えられないんです。二十八ですよ? ディオンより五歳も年上。そして、男! 奴隷!! パパ!!!」
俺は小枝を息子に迎え入れたときに、おおよそ結婚というものをあきらめた。
それ以前に、モテたこともないし、縁もなかったし。
小枝のせいで、というわけではなくて。
俺には恋愛や結婚は向いていないって思っていた節がある。
それよりも、目の前の小さな命をなんとか育てたいって。そのことだけを思っていた。
だから殿下にそれっぽいことを言われても。そんなわけない。勘違いだって。
王子様が奴隷にそんなこと思うわけない、身の程知らずに、妙な妄想繰り広げんなって。
自分で自分を戒めていたんだけど?
「全部ひっくるめて、タイジュで。そんなおまえが好きなのだが?」
そう言って、ディオンがどんどん近づいてきて。
イケメンがどんどん迫ってきて。
「ディ、ディ、ディオン?」
「キスしていいか?」
ディオンの手が、俺の髪に触れて。ディオンの高い鼻が俺の鼻にチョンとついて…。
「ダメーーーーっ」
唇がつきそう、になった瞬間。スリーパーしちゃった。
「くぅ、タイジュっ、おぼえてろ…」
捨て台詞を吐いたディオンは。俺の顔の横に顔を項垂れさせて。
がっくりと、寝た。怖ぇぇぇ。でかいぃ。重いぃ。
そして俺は、手で自分の頭を抱えるのだった。
あぁっ、今日もやっちまった。すっごい、いい感じの入眠モードだったのにぃ。
飲酒、ダンス、人肌、お風呂、心臓の鼓動、ファイブコンボはそうそうないっていうのにぃ。
今日こそ自力で寝てもらうチャンスだったのにぃ。
つか、好きなんて言われたら、一緒のベッドで寝られないじゃん。意識するじゃん。
寝るけど。仕事だから寝るけどぉ!
しかししかし、殿下は無理強いはしないと思うけど。
もうそろそろ、俺が、真面目に考えないと駄目そう。
なんか、そろそろディオンに失礼な域に入っていそう。
俺、殿下は嫌いじゃないんだけど。触られても嫌悪感とかないんだけど。
でも、するの? 俺が? 殿下とそういうことできるの?
キス? エッチ?
そうしてすぐそばで寝ている殿下の、肉厚で色っぽい唇を見て。
びゃぁぁぁぁぁぁ、ってなる。
いや、医学的に考えれば、そんなに恥ずかしいことではないよ。性交は、人類が生活する上で重要な位置づけにある行為。
大体、俺は医者だよ? 裸体も数多の老若男女、見てきたのだ。
メカニズムだってわかっている。
興奮した体はアレがこうなってそうなるとか。快感を得る箇所はアソコやココや。
だだだ、男性同士の性交では、どこを使って、その際の注意点や、病気のリスクや、なにやかや。痛みばかりあるわけではなく上手にいたせば異性間に等しいエクスタシーがもたらされ…。
ああああ、知っているよ。知っているけど。
経験がないんですぅ。だから一歩を踏み出す道は険しいのですぅぅ。
どうせなら、奴隷なんだから言うこと聞けって、あちらから仕掛けてくれた方が納得するっていうか?
いやいや、無理やりはあかんよ。同意大事。
ディオンは俺を傷つけたくないから、無理やり命令できるのに、しないでくれているんだ。その紳士な姿勢を無下にしたらいけないし。
ディオンはそれだけ俺の意思を尊重して、大事にしてくれてるんだよね?
あちらから…というのは。
俺の思考放棄でした。一番ディオンに失礼で、駄目なやつ。
あとスリーパーしちゃったら、強引になんて真似は出来ないっていうか?
つまり、やはり。無理やりあちらがいたすことはできないのだぁ。
つまり、やはり。俺がその気にならないと成立しないのだぁ。
で、俺は。ディオンのこと好きなの?
風呂から上がって寝室にきた殿下は。白シャツにズボンといういつもの寝るときのスタイルで、ベッドに腰かけた。
「適度な飲酒、適度なダンス、風呂で体温も上げた。不眠解消に良いとされるものをやったのだから、今宵はよく眠れそうだな?」
そう言ってベッドに横たわる殿下。手招きされたから、俺も彼のベッドに入って横になる。
すると、殿下に抱き寄せられた。
「ちょっと…」
ディオン殿下に所有されることに納得はしたものの。
夜の相手を許したわけではないから、背中に手を回す殿下に文句を口にする。
まだ、抱き枕までですよ。
「人肌も、不眠に良いのだろう?」
ひとつ拳分くらいしか離れていない距離でのイケメンに、俺は目を丸くする。
人形のように整った顔だけど、唇がなめらかに動くから。生身の人間なのが、理解できるというか。
というか、まつ毛、長っ。美顔の破壊力がすさまじいです。
「あぁ、毎日こんな日が続いたらいい」
なにやら殿下が夢見心地に言うから、まだ酔っているのだろうなと思う。
そしてそれが本音なのだろうとも思って。
俺は小さく笑んだ。
「こんなものなら、いつもしているでしょう? あ、そうだ」
俺は少しベッドの上方に体を移動して、殿下の頭を胸に抱く。
「心臓の鼓動を聞くのも、寝るのに良いんです。リズムが、母の胎内にいた頃のことを思い出して、リラックスできるようですよ」
そこまで言って。幼い頃に離れた母を思い出させるのは酷だろうか、と思ったのだけど。
殿下は俺の胸に耳をそばだてて、フフと笑う。
「あぁ、なんか。くすぐったくなる音だな?」
「えぇ? 変ですか?」
「いや、ずっと聞いていたい」
そうして、そっと目を閉じた。
このまま、自力で眠れるといいのですけど。
「今、殿下が続いてほしいと思っているものは、子供の頃に経験すべきものだったのでしょうね? 親のそばで寝て安心感を得たり。談笑しながら食事をしたり。そういう家族の風景。些細なこと。でも、大事なこと」
俺は、どうしても。殿下と小枝の境遇が似ていると思ってしまう。
親の庇護を受けられなかった子供だ。
「小枝も、母に守ってもらえなかった子供です。殿下は以前、俺に…というか小枝に、親は子を差し出して保身をはかるものだって言いましたね?」
馬車移動の初日、くらいの話だ。あれから、もう一週間ほどになるんだな。
「あのときは、すまない。おまえを否定したかったわけではないんだ」
殿下はバツが悪そうにつぶやいた。
でも別に、責めているわけじゃないのです。
「えぇ、あのときはびっくりしたけど。今は殿下がなぜあのようなことを言ったのか、わかります。やはり殿下は、親にかばってもらえなかった人だったのだって。俺も小枝も、親が無条件に子を守るものだなんて思っていないのですよ。小枝の本当の母、俺の姉なのですけど。彼女がそういう人だったから」
俺は最悪な姉の顔を思い出す。
同じ親に育てられ、同じく医者を目指して。なぜこうも道を違えてしまったのだろうか。
「小枝がこの前、腐ったパンを食べて死にそうになった、みたいな話をしたでしょう? 姉は、自分の能力向上のために小枝を放置していた。与えられたパンを何日もかけて食べて、生き延びていたんです。そのとき腐ったパンを食べてしまった、という話で」
「おまえがコエダに腐ったパンを出すなんて、ありえないと思っていたが」
その殿下の言葉は、俺を無条件に信頼しているように聞こえて。こそばゆいな。
「えぇ、まぁ。それは俺が小枝を保護する前の話なので。んん、だから。殿下は小枝と同じなのです。俺が小枝を育てたように、貴方のことも俺が育ててあげられたら良かった」
彼の頭を、俺は優しく抱く。己でくるんで、なにもかもから守ってあげたかった。
俺は彼に買われて、奴隷という身分ではある。
けれど彼は純粋に、生きるために俺の能力を必要としていて。若干の強制力はありながらも、決して無体や乱暴な行いはなくて。
だから、俺の自由を奪う彼だけど。なんだか憎めなくて。
彼が小枝と同様に、親に恵まれない子供だと知れば。
俺は彼を抱き締めてやりたいって思ってしまうのだった。
「だから。俺が貴方のパパになりますよ」
言うと、ちょっとの間のあと、彼はブスリと言うのだ。
「…俺はおまえの恋人希望なのだが?」
「まずは、パパから」
俺がそう言ったら。なんでか俺の胸に顔をうずめて、殿下はブフッと笑いを吹き出した。
「それ、普通『まずはお友達から』って言うやつだろうが。まずパパからって、なんだ?」
「ちょっと、胸の近くで笑われるとくすぐったいんですけど。っていうか、入眠するのにいろいろやっているんですけど、眠れそうですか? 殿下」
「いや、好きな人とくっついていたら、ドキドキして寝られるわけがない」
殿下の言葉に、俺はギョッとして身を引くが。
すると殿下が顔を上げて、俺をみつめる。
「あと、俺のことはディオンと呼べ」
「でも、レギが…」
礼節にうるさい彼が、殿下の名を呼ぶことを従者の俺に許すはずがない。
「だから、寝室では。ディオンな」
「ディオン、さ、ま」
「様はいらない。私室で堅苦しいのはいらぬ」
殿下と彼を呼んで、一線を引いていたつもりもあったのだ。
なのに、一気に距離を詰められた感覚がある。
「ディ、ディオン…つか、好きな人って。俺のことが好きなのですか?」
戸惑いながらたずねると、ディオンは心外だという顔で俺を見た。
「あぁ? ずっとそう言っていただろうがっ」
「いいえ、聞いていませんけど」
なんか、それっぽいことは。あったよ? いろいろ。ほのめかすやつ?
でも、好きは。初耳、だと思います。
「そうか? ならおまえは、相当鈍いってことになるな。大体、恋人希望だと先ほども言ったし。夜の相手前提の抱き枕とまで言っているのに、なぜ俺の気持ちを疑うのだ? 解せぬ」
ちょっと怒り口調で、犬歯を見せながら言うけど。
でも。だってさぁ。
「だって、まず大前提で、おっさんの俺を誰かが好きになるとか考えられないんです。二十八ですよ? ディオンより五歳も年上。そして、男! 奴隷!! パパ!!!」
俺は小枝を息子に迎え入れたときに、おおよそ結婚というものをあきらめた。
それ以前に、モテたこともないし、縁もなかったし。
小枝のせいで、というわけではなくて。
俺には恋愛や結婚は向いていないって思っていた節がある。
それよりも、目の前の小さな命をなんとか育てたいって。そのことだけを思っていた。
だから殿下にそれっぽいことを言われても。そんなわけない。勘違いだって。
王子様が奴隷にそんなこと思うわけない、身の程知らずに、妙な妄想繰り広げんなって。
自分で自分を戒めていたんだけど?
「全部ひっくるめて、タイジュで。そんなおまえが好きなのだが?」
そう言って、ディオンがどんどん近づいてきて。
イケメンがどんどん迫ってきて。
「ディ、ディ、ディオン?」
「キスしていいか?」
ディオンの手が、俺の髪に触れて。ディオンの高い鼻が俺の鼻にチョンとついて…。
「ダメーーーーっ」
唇がつきそう、になった瞬間。スリーパーしちゃった。
「くぅ、タイジュっ、おぼえてろ…」
捨て台詞を吐いたディオンは。俺の顔の横に顔を項垂れさせて。
がっくりと、寝た。怖ぇぇぇ。でかいぃ。重いぃ。
そして俺は、手で自分の頭を抱えるのだった。
あぁっ、今日もやっちまった。すっごい、いい感じの入眠モードだったのにぃ。
飲酒、ダンス、人肌、お風呂、心臓の鼓動、ファイブコンボはそうそうないっていうのにぃ。
今日こそ自力で寝てもらうチャンスだったのにぃ。
つか、好きなんて言われたら、一緒のベッドで寝られないじゃん。意識するじゃん。
寝るけど。仕事だから寝るけどぉ!
しかししかし、殿下は無理強いはしないと思うけど。
もうそろそろ、俺が、真面目に考えないと駄目そう。
なんか、そろそろディオンに失礼な域に入っていそう。
俺、殿下は嫌いじゃないんだけど。触られても嫌悪感とかないんだけど。
でも、するの? 俺が? 殿下とそういうことできるの?
キス? エッチ?
そうしてすぐそばで寝ている殿下の、肉厚で色っぽい唇を見て。
びゃぁぁぁぁぁぁ、ってなる。
いや、医学的に考えれば、そんなに恥ずかしいことではないよ。性交は、人類が生活する上で重要な位置づけにある行為。
大体、俺は医者だよ? 裸体も数多の老若男女、見てきたのだ。
メカニズムだってわかっている。
興奮した体はアレがこうなってそうなるとか。快感を得る箇所はアソコやココや。
だだだ、男性同士の性交では、どこを使って、その際の注意点や、病気のリスクや、なにやかや。痛みばかりあるわけではなく上手にいたせば異性間に等しいエクスタシーがもたらされ…。
ああああ、知っているよ。知っているけど。
経験がないんですぅ。だから一歩を踏み出す道は険しいのですぅぅ。
どうせなら、奴隷なんだから言うこと聞けって、あちらから仕掛けてくれた方が納得するっていうか?
いやいや、無理やりはあかんよ。同意大事。
ディオンは俺を傷つけたくないから、無理やり命令できるのに、しないでくれているんだ。その紳士な姿勢を無下にしたらいけないし。
ディオンはそれだけ俺の意思を尊重して、大事にしてくれてるんだよね?
あちらから…というのは。
俺の思考放棄でした。一番ディオンに失礼で、駄目なやつ。
あとスリーパーしちゃったら、強引になんて真似は出来ないっていうか?
つまり、やはり。無理やりあちらがいたすことはできないのだぁ。
つまり、やはり。俺がその気にならないと成立しないのだぁ。
で、俺は。ディオンのこと好きなの?
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