【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

文字の大きさ
上 下
16 / 174

14 スタインベルンの神の手

しおりを挟む
     ◆スタインベルンの神の手

 この国の王子であるらしい、ディオンさんの治療に当たった俺たちだったが。
 王子の容態が安定していることを知った医師たちは、早々に俺たちを排除し。
 あとの治療は彼らがするということになった。
 お役御免で、正規医にバトンタッチ。はぁ??

 えぇ? そうですかぁ? 抜糸までは俺が様子を見た方がいいと思うんですけどぉ。
 と思ったところで、奴隷の俺らの意見が通るわけもない。

 というわけで、俺と小枝、そしてロークさんは再び重傷者テントに戻ってきた。
 王子に付き添っていた間に、重傷者テントの半数以上が新しい患者と入れ替わっていた。
 みなさん、やはり傷口が化膿していて。痛みと熱発に苦しんでいる。
 敵の剣は、余程不潔なんだね?
 戦場で剣の手入れがおろそかなのかもしれないが。切れ味も…いや、そこは考えないようにしよう。おぞぞ。

 小枝がテント内にそっとクリーンをかけ、清潔にし。
 俺がスリーパーで眠らせ、傷の処置をする。患者が目覚める頃には、痛みもやわらいでいることだろう。

 それでさぁ、さっきの話だけど。俺の中ではブスブスとくすぶっているんだよね。
 だから頭の中でぶつぶつ言ってしまいます。
 口に出して、バイアで電気ショック喰らうのは嫌なので。あくまで脳内処理です。むぅ。

 医者であるからには、担当した患者は責任を持って最後まで診たいものなんだ。
 それなりの自負を持って診察しているわけなので。
 それに、元気になって退院していく患者が笑顔で家に帰って行くのを見送るのが、医者の醍醐味だいごみってやつだろう?
 それを途中で奪われるのは、なんともやりきれないっていうかね。

 わかるよ? 私が王子を元気にしましたって言いたいんだよね?
 それで、なにかしら褒美とかももらいたいわけだよね?
 そういうのが透けて見えるから、またイラっとしてしまうわけだ。

 だから、言ったんだよ。
 もしも王子がひどい痛みを訴えるようでしたら、すぐにお知らせくださいって。
 結構な大手術だったんだから、山を越えたからって、まだ油断できないからね? それぐらいは医者なんだからわかっているよね? って顔で睨んだら。
 奴隷風情がって、言われたけど。知らんがな。

 でも、褒美かぁ。出るのかなぁ?
 奴隷契約の解除とかだったら、欲しかったかもぉ。せめて小枝だけでも…。
 まぁ一千万相当の褒賞なんて、そうそうないだろうけどな?
 それに王子の治療から離れてしまった俺には、決して回ってこない代物だ。買えなかった宝くじだと思おう。
 いつまでも女々しく取らぬタヌキの皮算用するのは、らしくないっ。
 でもなぁ、小枝がなぁ、あぁぁ。

 とにかく俺はディオンさんを最後まで診ることができなくて、不完全燃焼なのだった。

 しかし手柄は奪われても、知る人は知るようで。
 重体と言われていた王子が一命を取り留めたことと、重傷者テントから死人が出なくなったことで。
 俺たち親子は。
 女神フォスティーヌが遣わした使者、だとか。
 スタインベルンの兵士を癒す神の手、だとか。
 陰で言われるようになっていた。

 たとえば。
 夜、重傷者テントの裏で、いつものように小枝と夕食をとっていたら。
 強面こわもての兵士がそっと現れて…小枝の前にリンゴをそそっと置いていくのだ。
 …おそなえ?
 俺の前にも、パンや果物が置かれ。手を合わせられる。
 …仏像?

「俺たちには、どんな傷も癒してくれる神の手がある。女神フォスティーヌの加護があるのだから、この戦争に負けるわけはないのだっ」
 おおぉぉーと遠くで雄叫びも聞こえ、俺ら親子はびくぅぅっとする。
 兵士が鼓舞されている?

「パパぁ、もしかしてぼくたちは、死んだ王子の位置づけにぃ?」
「そうかもな。王子の命が助かって、運命が変わったとしても。結局兵士は鼓舞されて、戦争には勝つ。これ以上町が壊されず、歴史通りに戦争が終わり、この国が平和になってくれるなら、それでもいいんじゃないか?」

 小枝が言うことには。
 前回は王子が死んで、弔い合戦によって兵士が奮い起こされ、戦争に勝利したようだが。
 それよりは。神の使者に守られた兵士が、力づけられて勝利する方が健全かもしれないな。
 神の使者が俺たちなのは、ちょっと照れるけど。

 運命が変わると、悪い方に転がる。
 それも杞憂だったなら、もっといい。

 とても食べきれなさそうな量のリンゴが、小枝の目の前には積まれている。
 奴隷で、いつひもじい思いをするかわからないけど。さすがに、手に余る食料を抱えてはいられない。腐らせたら食料がもったいないし。

 なので最後の方は。
「お気持ちだけ受け取らせていただきます。このリンゴがあなたの血肉になることで、戦争が勝利に導かれることを祈っております」
 と言って固辞すると。

 兵士たちは滂沱ぼうだの涙を流して、手をこすり合わせるのだった。

 あぁあぁ、俺たち、そういうのじゃないんですけど。と思って、戸惑う。
 まぁしかし、クリーンとスリーパーの魔法が女神によって授けられたのなら、全く違うとも言い切れないのか?
 うーん、自覚がないし。女神に頼まれたわけでもないから、わからないよねぇ。

 そんな騒動がありながらも、夕食を終え。
 辺りも闇に沈んで、星のまたたきが聞こえるほどの静寂が流れた頃。

「おまえがスタインベルンの神の手とやらかぁ?」
 いきなり近くで声がして。気づいたときには、闇に紛れた黒い男が俺たちに剣を振りかぶっていた。

 誰ぇーーーっっ?
 と思いながら。俺は涙目で小枝に抱きついた。

 なになに、なんでいきなり、黒い人がいるのっ? 驚きで目が見開きっぱなしだぁぁ。
 だがなんも考えず、俺は小枝を抱えたまま横にぐるりと回転した。
 いてて、とっさに変な動きしたから、脇腹がったよっ。
 つか、すぐ横でザシャッと、重い剣が地べたをえぐるヤバい音が聞こえたよっ。

 脇腹痛いとか言っている場合じゃないよっ。
 顔の横で風圧が頬を舐めていったよっ。
 ひえっ? 剣? あっぶねぇぇっ。
 マジで剣で攻撃したの? 俺らを? 
 なにすんだ、てめぇっ、小枝に当たったら危ないだろがっ!!
 つか、なんで殺気満々?
 なんでぇぇぇ? 俺ら騎士じゃなくてただの医者なんですけどぉ?
 それとも、小枝があんまり可愛いから、嫉妬?? なら…仕方ない。

 安定の現実逃避、この間コンマ一秒!!

 てか、よくわからないが。俺らはこの黒い男に攻撃されている、みたいで?
 それは理解したけど。
 刺客しかくは返す刀、いや剣だけど。さらに剣を振りかぶって、俺らを狙う。
 けど体勢が、小枝を抱えたまま寝転んでいる状態で。

 もう避けられなぁぁぁい。もうムリィィィ。

しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます

八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」  ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。  でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!  一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

処理中です...