【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

文字の大きさ
上 下
3 / 174

1 ループだよ、これ、ループっ

しおりを挟む
     ◆ループだよ、これ、ループっ

 お昼ご飯を食べたあとで、公園に小枝と遊びに行った。
 午前中は客が来ていて、小枝と遊んであげられなかったからな。前の日から約束していたのに、ごめんなぁ? 小枝。
 父子家庭の休日は忙しいのっ。だというのに、前の職場の同僚だった田辺はこちらの都合を考えてくれないから、困る。
 そして、ちょっとデリカシーがない。あの子さえいなきゃ…なんて口走るんだからな。

 小枝のいない人生なんて、考えられないよ。

 医者なんて、ぶっちゃけどこでもやれるんだ。
 確かに大学病院にいれば、学ぶことは多いし、珍しい症例にも触れられる。
 けれど、固執することはない。
 診療所などでは、素早く正確な診断がより求められる。
 珍しい病気や慎重なケアが求められる患者は、大きな病院に回すことが多い。難病治療はそちらでお任せだ。
 それよりも初見で、重病、軽症、緊急性の有無を見逃さないことが大事になる。
 それには、大学病院で珍しい症例とじっくり向き合うよりも。現場で数をこなして経験を積む方が有用なんです。
 御厨医院は入院設備はないので。かかりつけ医的役割も大きいしね。
 大学病院と医院はそれぞれの役割があって、適材適所なんだ。どちらも必要。
 その中で俺は、診療所で働くことを選んだというだけだ。人生環境に合った柔軟な対応、ってやつだよ。

 あとね、仕事も重要だけど。小枝と触れ合う時間もとても貴重なんだからね。
 小枝の五歳は、もう巡ってこない。
 子供は成長が早いんだから一瞬一瞬が大事なスペシャルタイムなんだぞ。

 けれど小枝は、田辺と俺の話を聞いていたみたい。

 公園に行っても、ベンチに座る俺の隣にぴったりとくっついて。離れようとしなかった。
 たぶん、花菜が渡米したときのことを思い出して不安になっちゃったんだろうな? 涙ぐんでいたもん。
 泣くことなんかないよ、小枝。俺は小枝のそばにずっといるんだから。

 けれど俺のキャリアを考えて、大学病院に戻っていいなんて言ってくれる。
 不安だろうに、俺のことを考えてくれるなんて。小枝は本当に健気な優しい子だな?
 パパは感動した。

 でも、大学病院に戻るつもりはない。小枝と過ごすこの暮らしが、パパには一番大切なんだ。
 不安なんか、吹き飛ばしちゃって?
 俺は小枝を離さない。
 パパとしては未熟かもしれないが、一生懸命頑張って、小枝を立派に育て上げてみせるのだ。

 そんな気持ちが伝わったのか。小枝は笑顔を見せて、公園のベンチから飛び降りた。
「パパ、滑り台に行くね?」
 薄茶の目んめを細めて、笑顔で言う小枝は、本当に天使ちゃん。
 あんまり可愛いから、人さらいにあわないようにしっかりと見ていないとな。

 けれど。人さらいじゃなくて。なんか、穴が開いた。

 小枝が落ちる、と思って。とっさに手を伸ばしたけれど。そこから意識がなくなった。
 公園のど真ん中に落とし穴を作るなんて、どこの非常識人の仕業しわざだっ。
 パパはオコです。

     ★★★★★

「パパ、パパ、しっかりしてぇ」
 泣きべそな小枝の声がして、俺は目を覚ました。
 なんか、草の地べたに寝ている。

「あれ、穴に落ちた? と思ったけど。ここは?」
 周りは、木が生えている。公園は、こんなに緑豊かな感じじゃなかったのに。
 そう考えていると、小枝が覗き込んで。大粒の涙をぼたぼたと俺の顔にこぼした。
「パパ、生きてぇ」
「生きてるよ、大丈夫だ、小枝」

 俺は身を起こし、自分の体がどこも異状ないか確認する。
 意識を失っていたから頭を打ったかもしれないと思ったが。打撲や痛みやこぶはない。
 おかしいな。なんで意識なかった?

 そうだ、小枝も同じ穴に落ちた。

「小枝は? 大丈夫か? どこも痛くないか?」
 慌てて小枝の頭や腕を手で撫でて、痛がらないか様子を見たが。
 痛そうな顔はしないけど。悲しそうな顔をしている。
「大丈夫だけど、ごめんねぇ? ぼくのせいで、パパがこっちに来ちゃうなんて…ごめんねぇ?」
「謝ることはないよ。悪いのは落とし穴を掘った奴だ。公園に穴を掘るなんて…」
 そう言って。改めて周りを見てみると。

「公園じゃないっ!」

 なんか、小枝とふたりで見知らぬ場所にいた。
 小枝と行った公園は河川敷だから、辺りは開けていて、遊具が置いてある整備された公園だったのに。
 今いるところは、まんま、森だ。
 木が日差しを覆うほどに、いっぱい生えている。こういうのを鬱蒼というのだろう。
 地べたも土に雑草が生えている。芝生みたいな、作られた感じではない。

「え? なに? ここどこ?」
 パパとしての威厳もなく、オロオロした。スマホを取り出すが、圏外? 電波なし?
「パパ、ここは異世界だよ」
 小枝が、よくわからないことを言うので。思わず丸い目で見てしまった。

「信じられないかもしれないけど。ぼく生まれる前に、ここにいたことがあった。あのね、この異世界で暮らしていた記憶があるの」
「異世界? 記憶? 生まれる前?」

 医者なんぞをしていると、データ重視の科学的なものだけを信じる傾向があるが。
 実は人体は神秘に満ちている。
 脳内メカニズムなど、解明されていないことも多いし。
 ポジティブ思考で癌が消滅した、なんてこともある。
 それだけ信じて治療しない、というのは、医者的にはおすすめしないけど。
 つまり。子供が前世の記憶や、母胎の中の記憶を持っている話は、たまにあって。
 だから小枝の話を有無を言わせず否定したりはしない。
 しないけど。
 それはやはり、すぐには信じられない話なのだった。

「ぼく、この光景に見覚えがあるんだ。間違いないよ、あのときと一緒だよ。こっちに来たら、くっきりはっきり思い出しちゃったよぉ、あぁマズイよぉ」
 薄茶の癖毛が天使のように愛らしい、その姿で。
 今まで少し舌足らずだったのが可愛かったのに、なにやら滑舌も良くなっている我が子が。
 大人びた話し方、というか。俺と同じ感じで話すのが、ちょっと寂しい。

「小枝、なんだか言葉がなめらかになったね?」
「今、そこ重要じゃないからっ。ホントにヤバいんだからぁ。前回と同じパターンなのぉ。過去のやり直しをさせられているみたい。ループだよ、これ、ループっ」
「どうしたんだ? ループってなに? ホントに大丈夫なのか、小枝??」
「大丈夫じゃないぃ。パパぁ、ごめんなさぁい」
 なにやらよくわからない言葉を口にする小枝に聞くけれど。彼はただ顔を青くするばかり。

「わかった…いや、よくわからんから。詳しくパパに教えてくれないか? 小枝」
 パニック状態の小枝にお願いしたら。彼の涙は引っ込んだ。

 
しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます

八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」  ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。  でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!  一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

処理中です...