【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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2-37 見事なバッドエンド

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     ◆見事なバッドエンド

 昼間に、卒業証書を受け渡しした、厳格な雰囲気な講堂とは別に。生徒が一堂に会しても、充分な広さがある、ダンスパーティー会場。その施設が、学園内にはある。

 ダンスは、紳士淑女がたしなむ娯楽であり。学園の授業で必須科目にもなっている。
 ちなみに、ダンスの授業では。ぼくは、陛下と楽しく踊らせていただきまして。
 時間も忘れて、あはは、うふふ、とばかりに調子に乗って踊り狂っていたら。
 もう良いです、と先生に言われて。
 ダンスの授業は一日で終了してしまいました。
 ま、単位は取れたということです。

 で、つまり。
 ダンスは、貴族が標準装備しなくてはならない技術である、ということだ。

 そのため、授業の他にも。
 本番の夜会に参加しても、まごまごしないよう、こうして、疑似夜会のようなパーティーが、ことあるごとに学園内で開催されるのだ。
 貴族社会の基本のきを、学園生活中に、身につけさせるんだって。なるほど?

 縦長のパーティー会場には、大きなシャンデリアが、縦に三つ並び、豪華絢爛。火が灯され、幻想的なオレンジの光が、シャンデリアの水晶に、キラキラと反射して、輝いていた。

 その下で、ぼくら、五組の卒業生たちが、ダンスを踊る。
 在校生たちは、壁際で、それを見守っているのだ。

 ぼくと陛下は、まぁ、いつものようにダンスをしている。
 授業が一日で終了してしまったとおり、ぼくたちは、意識しなくてもステップが踏める、ベテランダンサーの域なのです。
 平民に落ちたからといって、公爵子息に変わりなし。という心情で、母上に厳しいダンスレッスンを課されたのだが。その成果が、今、出ていますよっ。
 母上っ。ありがとうっ。

 さすがに、ドレス姿でダンスをしたことはなかったけれど。基本ができているから、まぁ、なんとかなるものですね。
 陛下のリードも巧みなので。今のところ、危なげなく踊れていますよ。

 つか、それより。どうしても、公女が気になってしまうよね?

 こうして、陛下とダンスを踊れているので。ぼくと公女の攻防は、これにて終了。だよね?
 そう、安心しても、いいとは思うのだけど。
 でもぉ、なんとなく、あっさりしすぎじゃない?
 いえ、自分でフラグを立ててはいけませんね?
 変なフラグを立てると、ヤベェ展開になりそうだから。やめます。

 だけど、すっごく不満げにカッツェとダンスしている公女が。やはり気になります。
 どんなお話をしているのでしょう? 
 聞き耳を立てるまでもなく、公女が、ワルツの調べをものともしない大声で、カッツェに怒鳴っていました。

「なんで、公女の私が、たかが公爵の三男なんかと、ダンスしなきゃならないのよっ?」
 助けてもらったのに、なんという言い草っ。
 ぼくは目が点です。

 公女が『エスコートなしに、会場に入れなーい』って、言っていたのではありませんか?
 もう。傍若無人ですね。
 貧乏くじを引かせてしまったカッツェに、合わせる顔がありません。ごめんよ、カッツェ。

「貴方がエスコートの依頼を、誰にもしていなかったからでしょう? 私にとっても、これはイレギュラーの事態です」
「なによ? 公女の相手が、不満だとでも言うの?」

 カッツェが言い返したら、それにも反応する公女。怒りの沸点低すぎ。
 そして、どないやねん、って思う。
 ダンスしたくないのか、したいのか、もう、よくわかりません。

「えぇ、大いに不満です。陛下と王妃の警護が出来るのは、ご学友特権で。その栄誉は今日、この日が最後。私はその任務をつつがなく全うしたかったから、この役目を引き受けましたが。本当なら、私は、常に、クロウ様の後ろに控えていたかったのですから」
「なに? もう、クロウを王妃呼ばわり? 馬鹿じゃないの? 貴方、いつの間にクロウに攻略されたのよ?」

 あぁ、カッツェ、あまりあおらないでぇ、と思うのと。
 ぼくは、カッツェを攻略した覚えなどありませんん、という思いで。気がそぞろです。
 そうは言っても、陛下の足を踏むようなヘマは、いたしませんが。

「攻略などと、あの方に、そのような下品な言葉は似合いません。あの方は、とても心がお優しく、気高い方。彼こそ、我が国の王妃に相応しい。私が兄を敬愛している、その気持ちに、彼だけが寄り添い、肯定してくれたのです」
「兄を敬愛? あなた、お兄様を敵視していたのではないの?」
「私は、兄を慕っている。でも、ライバルでもあり、嫌いな面もあります。クロウ様は、そういう人間の弱い部分までも、温かく包み込んで、それでいいと言ってくださる、そういう器の大きい方なのです」

 手放しで、カッツェがぼくを誉めそやすから。もう。恥ずかしくて。顔が熱くなってしまった。
 ええぇぇ? なんか、そんな深い話をしたつもりはないのですけど。良いように取ってくれたのですね?
 カッツェは、お優しい方なのだな?
 うん。兄弟愛の深いところ、ぼくは好きだよ。

「なに、ソレ…そんなことで、クロウなんかに懐柔されちゃって。バカみたい」
「はい。私は、馬鹿みたいに、クロウ様に、忠誠心を持って、お仕えしているのです。なので、もうこれ以上、貴方はクロウ様に近づかないでください」

 ダンスの一曲目が終わり。カッツェは公女の手を離した。
 これで、卒業生のダンス、いわゆる掴みは終わったわけだけど。
 公女はうつむいて、会場の真ん中で、ポツリと突っ立ったままだった。

「クロウ様、警護に戻ります」
 カッツェは、ワンコが飼い主にじゃれるような、邪気のない笑みを向けて。ぼくの方に駆け寄るが。
 ぼくは、公女の険しい顔つきに、背筋を震わせていた。
 なにやら、ざわざわとした感覚のものが、足元をすり抜けていくような体感があって。ただただ、恐怖を覚える。

「待って、カッツェ。彼女の様子がおかしいよ?」
 そうして、彼も公女を振り返り。
 陛下は、ぼくを守るように、肩を抱いた。

「なによ。みんなして、クロウ、クロウって。クロウが王妃に相応しい? 男の王妃なんか、相応しいわけないでしょ? みんな、バカなの? カザレニア国の人間、みんなバカなの?」
 呪いを吐き出すみたいに、ブツブツとつぶやく公女を。
 みんなが…在校生の生徒も、教師も、ぼくたちも、遠巻きに見ている。

 カッツェは、ぼくらの前に立って警護し。
 不穏を感じ取った、ベルナルドとマリー、アイリスたちも、ぼくのそばに寄ってきていた。

「あんたがいるから、駄目なのよっ。あんたなんかっ、あんたさえいなかったら、私が王妃だったのよぉっ!」
 公女はぼくを指差した。
 その表情は、激しい憤怒。唇を歪め、目を見開き、口も大きく引き裂かれ、とても怖い、ホラーな形相だった。
 そのうち、彼女の周りに、桃色のオーラが渦巻いて。

 がおーーーーっ、てなった。

 がおーーっ?
 大量の魔力が、公女の周囲を取り巻いている。
 よくよく見てみたら。ピンクのオーラの向こう側には…そこには、ピンクの熊がいたのだ。

 大きな、大きな、熊。
 桃色の毛が生えた、熊。
 耳の後ろから、ピンクのツインテールだけ残っている、熊。
 まつ毛長くて、ちょっと可愛い。
 なんて、思っている場合ではなかった。

 熊が地団太を踏むと、会場中が地震みたいに揺れて。
 生徒たちは、キャーッと叫び声をあげ。阿鼻叫喚。
 熊の頭が、シャンデリアをかすって、シャラシャラと水晶が音を鳴らす。

「あらあら、まぁまぁ、これは見事なバッドエンドねぇ?」
 マリーが、感嘆したみたいに言い。
 ぼくは。これが、と目をみはる。

 アイキンのバッドエンド、えぐぅ。

 主人公ちゃんが熊になるバッドエンドなんて、見たことないんですけど?
 でも、癖強くせつよなアイキンだからな。そういうこともあるかもね?
 だけど、このままでは、バッドエンドもそうだけど、大惨事です。

 ピンク熊は、ぼくをみつけて、がおーーーっと鳴き。ぼくを攻撃しようとする。
 公女は、ぼくさえいなければ、まだ王妃になれると思っているかもしれないけど。

 普通に、もう無理だからねぇ?

 でも、ぼくだって。ただ、やられるわけにはいきませんよっ。
 隣にいる陛下に、危険があってはなりませんからね?
 ぼくは指をさして、告げたっ。
「ドラゴンっ」
 すると、たちまち、氷のドラゴンが会場内に現れた。
 薄青の、透明な体をくねらせて、アンギャ―と鳴く。
 そしてキラリと目を光らせると、ぼくの考えどおりに、ピンクの熊に抱きついた。

 そう、がっぷりよつである。

 ガシーーーィィィと、同じ大きさのドラゴンとピンクの熊が組み合って。お相撲のように、押したり引いたり。
 ドラゴンを操るぼくも、公女のすごい圧を感じます。
 あの公女、結構な魔力持ちだったのですね?

 すごーい、魔力チートのぼくも驚きぃ。

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