【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

文字の大きさ
163 / 176

2-28 リア充、爆発しろっ

しおりを挟む
     ◆リア充、爆発しろっ

 リーリアに穴に落されて、すぐに脱出できたけど。校内に入る前に、雨にも降られちゃって。白い制服は泥汚れで、ドロドロ。
 勘弁してください。これは洗濯で落とすのが大変ですよ?

 まぁ、それで。こんな格好じゃ、陛下の前に立てないから。体操着に着替えようと思って。
 更衣室の自分用のロッカーに、手をかけたのだけど。
 そういえば、長袖長ズボンの体操着は、家で洗濯したまま置いてきてしまったのだった。

 いわゆる、忘れ物、である。

 でも、夏用の体操着はあるから、良いかと思って。それを着て、食堂に向かった。
 まぁ、この世界では、みなさん、肌の露出を嫌がりますが。
 ぼくは前世で、夏はTシャツとハーフパンツみたいな格好で、過ごしていたから。あまり抵抗がないんだよね。
 体操着の短パンは、短いといっても、膝上くらいのズボンだし。
 体のラインが、ぴったりしたやつだったら、ぼくも恥ずかしくなったかもしれないけど。
 オーバーサイズの体操着だから、特に気にならなかった。

 だけど、同じく、体操着に着替えたベルナルドが、ぼくを見て、ギョッとした。
「く、く、く、クロウ様。それは…ちょっと。あ、私の上着を…しかし、私のものを着せたら、陛下が怒りますかね? でも、このまんまよりは…あぁ、クロウ様…それは駄目ですぅ」

 ベルナルドは、なんかいろいろ言っていたけれど。
 あまり要領を得ないし。リーリアが陛下になにを言っているのか、それが気になってしまって。
 早く、食堂に行きたかったから。無視しちゃった。

 小走りで、廊下を抜けて、食堂へ入り。真っすぐに陛下の元へ。
 あっ、リーリアが、ぼくの席に座っています。もう、やりたい放題ですね?

 それよりも、陛下。リーリアの嘘話を信じないでくださいよ?
 強制力も、ストップでお願いしますよ?

 気が気でないぼくは、陛下のそばに立ち。まずは遅刻を謝った。
「ランチに遅れて、申し訳ありませぇん」
 ちょっと屈んで、会釈するように小首を傾げる。
 礼を取るほどじゃないけど、ちょっと膝を曲げて挨拶すると。
 陛下が、目を丸くして、ぼくをガン見していた。

「ショタクロっ、それを愛でる陛下。激萌えっ」
 マリーが、最早、しっかりした声でつぶやいた。
 いえ、ショタじゃないです。ぼくは一応成人男子なので。
 鳥ガラボディで、頼りなく見えても、二十歳越えですよっ?
 マリーは知っているはずですが?

「クロウ、そのような、あられもない姿を、見せてはならぬ」
 そう言って、陛下が制服の上着を脱いで、ぼくに着せてくれた。
 体操着の上が、なかったから。半そでだったけど。急に雨に降られたから、少し肌寒くて。膝頭をこすっていたのです。
 だから、袖を通した制服から伝う、陛下のぬくもりが、あったかぁい。

 でも、陛下。あられもない姿って、なんですか?
 一応、学校指定の体操着なんですけど。
 イレギュラー入学だから、わかりやすいように。胸の名入れは、自分でつけましたけど。なにか?

「彼シャツならぬ、ブカブカの彼ジャケっ、袖余りッ、てぇてぇてぇてぇ…」
 またもやマリーが、てぇてぇ言ってます。
 つか、アレはオタク特有の発作ですね? 大丈夫ですか? マリー、こちらへ戻ってきてぇ。

 マリーに目が釘付けになっていたら。
 いつの間にか、陛下が、ぼくをお姫様抱っこして。

 ギャッ、また、食堂なんか、人目のあるところで姫抱っこするなんて。陛下のバカぁ。

 でも、すごい速さで食堂を出てくれたから。まぁいいか。
 ぼくの羞恥心をおもんぱかってくださって、ありがとうございます、陛下。
 しかし、いったいどこへ?

 つか、リーリア嬢の一件は、どうなったのでしょう?
 陛下は、走ってはいないが、ものすごく早い、超俊足ちょうしゅんそくで、廊下を進むと。陛下が学園に借りている休憩室に、ぼくとともに入っていった。
 扉に鍵までかけて。そして、陛下の大きな執務机の後ろにぼくをおろした。

 なんか…いろんなものから、ぼくを隠そうとする気合を感じます。
 そんなに、あられもない感じですか? おかしいなぁ。

 床に座っている状態で、陛下はぼくに覆いかぶさるように、ぼくの体の横に手を突く。
 これは、床ドン?
 いえ、床ドンは、押し倒しているのと、同義では?

 ぼくは床に肘をつき、かろうじて顔は上げているが。
 近距離の陛下の麗しい顔の圧におされて、タジタジ状態です。

「へ、陛下?」
「クロウ、我は。おまえに言わなければならないことがある。クロウにとっては、聞きたくない話かもしれないが…」
 とっても、深刻そうな顔つきで、陛下に言われ、ぼくは嫌な予感に、身を震わせる。
 まさか、それって…別れ話、なのですか?

 陛下は、やっぱり、リーリアの話を信じてしまったのでしょうか?
 どんな話をしたのか、わかりませんが。ぼくがベルナルドと浮気、みたいなことを言っていましたから。そのようなことを?
 別れるのは、嫌です。
 でも、陛下のお言葉は、絶対で。
 陛下が嫌なことを、無理強いすることなんか、できない。
 でも。だけど。嫌って、言っちゃいそう。

 世の、婚約破棄された悪役令嬢は。毅然とした態度で、受け止める人が多かったけど。
 ぼくは、無理ぃ。絶対に、泣く。もう、泣きそう…。

「クロウ…王妃は。足首を見せてはならぬっ」
 そう言って、陛下はぼくの足首を手で持って、高く上げた。

「ひえぇぇぇぇっ」
 適度に体が柔らかいから、足がくの字に折れる。
 ぼくの膝が、胸につきそうなんですけど?

「足首、細すぎ。我が握ったら、折れてしまいそうではないか? つか、この足首の筋が、色っぽくてけしからんっ。それに、なんだ? このピンクで小さな膝頭は? こんなエロいものを、食堂へ来る間、誰もかもに見せてきたというのか? けしからんっ」

 そう言って、陛下は、ぼくの膝を舐めた。
 舐めた?
 陛下、言っていることと行動が合わなくて、ちょっとおかしいんですけど?

「せ、制服が汚れて、着替えたのですが。た、体操着の上着を忘れてしまったのです。ぎゃ」
 今度は、少し開いたズボンの隙間に、手を入れてくる。へ、陛下ぁ?

「このような、隙間から、クロウの太ももが見えるなど。けしからん。首のラインもだ。色っぽいおまえの細い首は、襟の付いたもので、ちゃんと隠しておかなければダメではないか? 手首もだ。この細くて華奢な手首をさらせば、その手首を掴んでみたいと思う男どもが寄ってきて、おまえを…あぁ、駄目だ。首、手首、太もも、足首、見せるの禁止っ!」
 そんなぁ、それでは、なにを着ればいいのかわからないではないですか?
 どうすればいいのですかっ! 簀巻すまきですか?

 つか、別れ話ではないんですか? それはそれで、良かったんですけど。

 あぁ、ズボンをたくし上げて、太ももをかじらないでください。
 くすぐったいし。それに、あ、あれです。なんか、もぞもぞしてきます。

「クロウ、我は。猛烈に、圧倒的に、おまえが不足している。クロウ不足だっ」
 ぼくの太ももを甘噛みした陛下は、今度はチュプチュプと音を立てて膝を舐め。さらに唇を、ふくらはぎに移動し。ついばみながら、足首に向かっていく。
 ふぁ…それは。刺激が強い、か、と。
 足を、まんべんなく、貪られていますぅ。

「本当に、限界が近いのだ。それなのに、クロウは無防備に。そのような誘う姿で、我の前に現れるのだから。参ってしまう」
 いえ、誘ってません。ただの体操着なのですけど。

「八月の結婚式など、とても待てぬ。おまえが、液体だったなら、と。以前言っていたな? マジで、クロウは液体なのではないか? だったら、ちゅうちゅう吸わせてくれ」
「いえ、あの。ぼくは、液体では…」
 陛下は、ぼくの答えは求めていないようで。一心に足を舐めながら。目をグルグルさせている。
 あぁ、本当に、限界だったのですね?
 その気持ちはわかります。同じ男ですからね。

 スイッチ、入っちゃいましたね?

「この前、おまえから、魔力を貰って。すごく心地よくて。寝落ちするほどだったが。あれでも足りぬ。いや、少しの供給により、一瞬満たされたことで。もっともっとと、クロウを求め。剣術大会では、ついに唇を奪ってしまった。だが、触れてしまえば、さらに、クロウが欲しくなる。どうしてくれるッ?」
「はぁ…申し訳ありませんん」
 なんで、ぼくは謝っているのでしょう?

 でも、まぁ。ぼくを求めてくれるのは、率直に嬉しいです。
 特に、別れ話をされるのかと、思ったあとのことでしたから。余計に。

 だから。陛下の顔が近づいてきて。唇と唇が触れ合って。深く、深く、陛下がぼくの口腔に舌をもぐり込ませて、きつく、束縛するように、舌を絡めてきても。
 拒んだり、しなかった。

 頭の片隅に、ここは学校の中だぞって、意識はあったけれど。
 机の影に隠れて、チュウとか。学生恋愛の醍醐味だいごみじゃん?
 陰キャのぼくが、そんな大胆なことが出来るとは、思わなかったけど。

 学校で、キス。なんて。
 昔のぼくなら『リア充、爆発しろっ』って思うところだけど。
 前世のリア充様、申し訳ありません。学校でひそやかに行うキスは、背徳感マックスで、格別でした。

 そして、ねっとりとしたキスで、ぼくをトロトロのデロデロにした陛下は。
 ちょっと眉尻を下げた、可愛い顔で、ぼくに聞いてくるのだった。

「なぁ、クロウ? 我は、とっても我慢したと思わないか?」
 そんな。金髪キラキラの狼さんが、懐いて、甘えるみたいに言われたら。
 胸がぎゅーーんって高鳴って。
 陛下をよしよしって、してあげたくなっちゃうよ。

 だからぼくは。陛下の頭を手で優しくナデナデ…って思ったら。陛下の制服のジャケットが大きくて、袖から手が出ていなかった。
 ズボッと袖口をまくって、手を出し。改めて、ナデナデ…。

「はい。よく頑張りましたね、イアン様」
 陛下の頭は、大きな体躯に見合った、大きな頭。
 でも、小顔に見えるのは、なぜなのか。得ですねぇ?
 その頭を、優しく、優しく、髪をすくように、撫でていく。
 気持ち良さそうに、目を細める陛下を見ると。なんだかぼくまで、胸がじんわりと温かくなっていくようだった。

 すると、そのとき。扉を軽く、コココンとノックする音が聞こえた。
 ひえっ、誰か来たっ、と思ったが。
 陛下は、冷静な顔つきに戻って。ぼくを再びお姫様抱っこする。

「馬車の用意ができたようだ。城に戻るぞ。もう、我慢できぬ」
 立ちあがった陛下は、大きなストライドで部屋を出て、車止めに向かって行くのだった。

 えええっ、聞いてないよぉ? つか、午後の授業は? シオンたちは? 公爵家に連絡は?
 あと…リーリア様の件は、どうなったのですかぁ?


 ★★★★★

 別枠の『幽モブ アダルトルート』にて、2-28.5話、いけない気持ち、があります。
 Rー18です。読まなくても本編に影響はありませんが。より、作品をお楽しみいただけます。Rが大丈夫な方は、よろしければ、ご覧ください。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

主人公の義弟兼当て馬の俺は原作に巻き込まれないためにも旅にでたい

発光食品
BL
『リュミエール王国と光の騎士〜愛と魔法で世界を救え〜』 そんないかにもなタイトルで始まる冒険RPG通称リュミ騎士。結構自由度の高いゲームで種族から、地位、自分の持つ魔法、職業なんかを決め、好きにプレーできるということで人気を誇っていた。そんな中主人公のみに共通して持っている力は光属性。前提として主人公は光属性の力を使い、世界を救わなければいけない。そのエンドコンテンツとして、世界中を旅するも良し、結婚して子供を作ることができる。これまた凄い機能なのだが、この世界は女同士でも男同士でも結婚することが出来る。子供も光属性の加護?とやらで作れるというめちゃくちゃ設定だ。 そんな世界に転生してしまった隼人。もちろん主人公に転生したものと思っていたが、属性は闇。 あれ?おかしいぞ?そう思った隼人だったが、すぐそばにいたこの世界の兄を見て現実を知ってしまう。 「あ、こいつが主人公だ」 超絶美形完璧光属性兄攻め×そんな兄から逃げたい闇属性受けの繰り広げるファンタジーラブストーリー

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

処理中です...