【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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番外 モブから略奪? リーリア・ブランの野望 ⑦

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「そうです。私はアルガル公国の第三公女、リーリア・アルガル。同じく、国を背負う者として、私、陛下のお気持ちが、よくわかりますの。クロウ様に救われたとはいえ、男の方を婚約者に据えなければならなかったことは、本当におつらい決断でしたわね? でも陛下の責務は、王族の血脈を子々孫々まで永らえること。それはことです。そんなときに私が現れたから。クロウ様は、婚約者の座を脅かされると思って、私に嫌がらせをし始めたのですわっ」

 どうよ? 完璧じゃね?
 つか、クロウは子が産めないとか、家格が合うとか、国を背負うとか、血脈を永らえるとか、王族ならぐらりとくるワードを、てんこ盛りに出来たわ?
 私、超天才っ。

 これだけ言って、落ちない王族なんかいないわよ。さぁ、駄目押しよ?

「クロウ様も、お可哀想な方ですわね? そのように、陛下にしがみつかないとならないなんて」
 悪役にも情をかける、優しい私を演出よ。健気けなげでしょ?
 男の方は、こういう、わかりやすいのが好きよね?

「必死で、醜い方だから、陛下もクロウ様に、愛など感じられないのでしょう?」
 知ってるのよ? 私。陛下は、クロウ様を一度たりとも愛したこと、ないのよね?
 ゲームの中で、そう主人公に愚痴っていたもの。
 孤島から脱出したのは、クロウ様のおかげで。
 世論とか。常識とか。公爵家の確執とか。そういうものをかんがみて、渋々、婚約者にしたのよね? 
 その呪縛から、今、私が解放して差し上げるわ?

「でも、私。妙案を思いつきましたの。クロウ様と私が、入れ替わってしまえば、いいのですわ?」
 なんか、遠くでブモブモ言っているけど。
 目の前の陛下は、頬がゆるんでいて。うふふ、好感触ですわ?

「クロウと貴方が入れ替わる?」
 ほら、食いついてきている。
 いいアイデアですものね? いけるわっ。

「えぇ、結婚式の号外が出てしまったから、その日は、もう延期できませんでしょう? でも、陛下は、クロウ様と結婚なさることは、ないんじゃないかしら? 私がクロウ様と入れ替わって、陛下と結婚式を挙げればいいのです。そうすれば、陛下が愛のない結婚をすることもなく。お世継ぎも、私が産んで差し上げられますから。すべてが丸くおさまるでしょう?」
 そして、私の辻褄合わせも完璧に丸くおさまったわ。
 どう? 良い話でしょう? さぁ、ノッてきなさいよ。
 そうしたら、その足で、クロウに婚約破棄を突きつけて差し上げるわぁ!!

「がえんじない」

 ブモブモブモブモブーーーーッ。
 これまでにもなく、ブモが激しく鳴ったわ?

 は? 今、なにが起こったのかしら? 完璧な話の流れだったはずよ?
 つか、横のクマみたいな人。なんで、笑ってんのよ。
 私が王妃になったら、即、解雇してやるからっ。

「リーリア嬢。我は、クロウを心の底から愛している」
 驚きすぎて、目をみはり。頭もぼんやりしていて。
 気づいたら。陛下が。それは、それは、麗しく、柔らかい微笑みをして、言った。
 私を好きで、その顔をしていたのなら。うっとりするところだけど。

 彼はその顔で、クロウを愛していると口にした。

「我は、クロウと結婚式を挙げるその日を、指折り数えて待っているのだ。我とクロウの仲に水を差す者は、たとえ公女と言えど、容赦は出来ぬ」
 そうして、私に背中を向けた陛下は。光の中へ歩いて行ってしまわれた。

 えっ? マジで、今なにが起こった?
 陛下が、私にがえんじないって言うなんて。嘘でしょ?
 私、主人公なのよ? どうしてうまくいかないの?
 つか、クロウとの結婚を楽しみにしてる、みたいなこと、言った?
 なんで? クロウよ? モブよ? 男よ?

 ここは乙女ゲームの世界じゃん。

 なんで、陛下は男のクロウにうつつを抜かすわけ?
 百歩譲って、前の主人公のアイリスだったら、納得できなくもないけど。あり得ないんですけどぉ?

 大歓声の中、陛下とシオン様の対戦が始まった。
 私は暗い暗い、関係者専用通路で。しばらくぼんやりしていたけれど。
 おっさんの騎士に追い立てられて、観客席に戻っていった。

 それでも、まだモヤッとしていたのだけど。
 ようやく頭を働かせて、グラウンドに目をやると。陛下が。なんか、大きなものに抱えられて、ウィニングランをしている。

 シオン様、負けたのね?
 まぁ、陛下は第一攻略対象者ですものね? 試合に勝つのは、決まっているわ。
 元の席まで、戻ってきて。貴賓席を見やると。

 クロウが、陛下のキスを受けて。うっとりしていた。
 その場面を見て、怒ったシオン様が、剣でフェンスをガンガン叩いている。
 ベルナルドは、シオン様をなだめつつも、クロウを微笑ましく見やり。
 カッツェは、クロウと陛下がキスしたのを、面白くなさそうに、口をとがらせている。
 そして、クロウと陛下を守るように。アルフレドもそばにいて。アイリスとともに、笑っていた。

 なによ。その場面は。逆ハールートを達成しているときに見られる、レアスチルじゃん?

 クロウのいるところには、私がいるはずだった。
 陛下に、キスされるのも私。
 シオン様やカッツェ様が、それを見て嫉妬する、その対象も、私。
 ベルナルドに、優しい眼差しで見られるのも、私。
 アルフレドが、命を懸けて守るのも、私だったはずなのにぃ。

 どうして。どうして。どうして。

 黒い気持ちで、塗り潰されていたとき。ハッと目が覚めるような、声が聞こえた。
 人の声で『ぴんぽんぱんぽーん』と言っているが。
 これって、前世でよく聞いた、放送?
 機械がないこの世界で、なんで、放送なんてできるの?

「カザレニア国民の皆様。セントカミュ学園で行われた剣術大会は、イアン・カザレニア二十四世陛下の優勝で、幕を閉じました。陛下の雄姿をご覧になれなかった方に、朗報でございます。八月十三日に、剣闘士大会が行われます。今回は、流血死者はなしの、健全な大会で。女性やお子様も、安心して観戦できる仕様に、生まれ変わりました。さらに、今代の騎士爵をかけて争っている、永遠のライバル、セドリック騎士団長と、シヴァーディ副長の闘いも、見逃せませんよぉ? 華麗なる騎士たちの、闘いが繰り広げられる剣闘士大会に、ぜひ足を運んでくださいませ。ここで、ビッグサプラーイズ。なんと、剣術大会の準決勝で、見事な剣術を披露した、カッツェ・オフロ公爵子息、シオン・バジリスク公爵子息の、ゲスト出演も決定っ! リニューアル後の剣闘士大会を、お楽しみにお待ちください。ピンポンパンポーン」
 耳に柔らかく響く、男性の声で。クロウがそう言い。放送が終わった。

「天から響く、神の声よ? 陛下が、本土に渡ったときに聞いた、アレと同じだったわ」
「え、これが噂の? 俺、四月は地方の実家にいて、聞きそびれたんだけど。これがそうなのか? すごいな。これって、王都中に響いているんだろう?」
「そうなの。クロウ様の魔法の効果らしいわよ?」

 そばにいた生徒たちが、口々にそう言って。クロウの魔力に、舌を巻いていた。
 つか、王都中に響かせる魔法って、なに?
 どうすれば、放送の魔法なんか出来るのよ?
 それに、王都中ってことは、そこまで魔力が行き届いているってことでしょう? どんだけ強力な魔力を持っているの?

 ズルいわ。モブのくせに、魔力チートとか。聞いてないんですけどぉ?

 うぅ…もう、無理なのかしら?
 陛下にも、がえんじないを貰って。攻略対象ほぼ全員の、好感度が底辺のブモブモ音。
 これって、挽回できない? これからどうしましょう。

 でも…ちょっと待って? 私が公女だってことは、もう、バレているんでしょう?
 そうしたら、大々的に身分を明かして、警護対象に加えてもらえばいいんじゃないかしら?

 これは、ナイスアイデアよ? リーリア。
 だって。警護上、という口実で、特別扱いされているランチの席に、私、座れるじゃん?
 警護される名目で、陛下とご一緒していても、不自然じゃないわ?

 陛下に近づけさえすれば、男なんか、簡単に落とせる。
 か弱いフリして、体を寄せれば。どんな男もドキッとするものよ。

 あと…そうね。ダメ押しで。クロウには浮気をしてもらおうかしら?
 今はラブラブでも、誰かと浮気するような男なら。陛下もすぐに、愛想が尽きるはずよ。

 いいね、いいね、まだやれるわ? 張り切って、次に行くわよぉ。


 翌日は、剣術大会の振り替え休日で。その翌日の火の日。
 私は、食堂の、特別席に。しずしずと歩いて行って。ランチを食べる、みなさまたちに向かって。淑女の礼を取った。
「お食事中、申し訳ありません。御挨拶させていただきます。私、隣国アルガル公国の公女、リーリア・アルガルでございます。諸事情により、身分を隠してまいりましたが。今日からは、公女として。こちらでお勉強をさせていただきますので。よろしくお願いします」

 すると、さっそく。ブモブモが鳴り出した。もう。うるさいぃ。

「まぁ、公女様でしたの? 私、シャーロットです。仲良くしてくださいね? リーリア様」
 この席の人の中で、唯一、私のことを知らなかったらしい、シャーロット王妹殿下が。無邪気にそう言った。

 つか、途中参戦の薄茶モブが、どうして私の出自を知っているのかしら?
 それとも、ただぼんやりしているだけかしら?
 たぶんそうね。公女って地位がどういうものかも、わからない。田舎の、芋貴族令嬢って感じですもの。

「それで、公女として。私も、警護対象にしていただきたいの。ランチの席や、普段の生活にも、警護をつけていただきたいのですわ? 近頃は物騒ですものね」
 そう言って、ちらりとクロウを見やる。
 私、クロウに狙われているの。って、芽を植え付けておくのよ。

 陛下は、眉間のシワはあるものの、小さくうなずいた。
 よし。ここに加わることが出来たわ。
 この、特別な人たちに囲まれる席が。どれだけ、学園の生徒たちの垂涎の的か。貴方たち当事者は、わかっていないのでしょうね?

 そして。公女の私が座る席は。身分的、警備対象優先順位的に見ても、クロウの席よっ。

「クロウ、我の隣に来い。むしろ…来い」
 陛下に誘われ、クロウは席を移動した。
 むしろ、ってなに?
 つか、クロウの席をゲットしたのは、良いけれど。陛下の隣の席の方が、良かったわぁ?
 クロウが席につくと。陛下が近くからクロウの顔をのぞき込んで。
 クロウは、恥じらって、頬を染め。
 シオン様は近い近いと、陛下を牽制する。

 なに? この甘々空間。私、なにを見せられているのかしら?

 そしてブモブモ音が…特にカッツェとベルナルドのブモ音が、激しいんですけど?
 対面の窓際に、カッツェ、陛下、クロウ、シオン様、の順で並び。
 私の列は、窓際から、ベルナルド、私、アイリス、シャーロット、薄茶モブの順に並んでいる。
 つか、なんでアイリスで一拍置くのよ。殿下に危害を加えるとでも思っているのかしら? いやぁな感じね。

「あぁ、正面からクロウ様を見ていられる、良い席だったのに」
 カッツェがつぶやく。
 はい? いつの間に、カッツェはクロウに攻略されていたのかしら?

「そういう点なら。隣り合っていたのも良いが、私からクロウ様がよく見えて、なかなか良い」
 そうして、ベルナルドのブモ音が、少し小さくなった。
 なに、それ? ベルナルドもクロウラブなの?

 まぁ、剣術大会で、その傾向は現れていたけど。
 ってことは? まさか、クロウが逆ハー制覇しているってことなの? 考えられんっ。なんで、こんなモブがっ。
「お兄様、マリーが、お話があるっていうのだけど。少々いいかしら?」
 ランチの後のティータイムで、シャーロットの声がかかり、陛下はうなずいた。
 つか、薄茶モブは、マリーっていうのね? 陛下に話しかけるとか。無礼極まりないわね?

「陛下とクロウ様の結婚式が終わると、肖像画が、瞬く間に売れると思うのですけど。肖像画は、時間も手間もかかりまして、量産ができません。でも、わが社の印刷技術が向上いたしまして、プロマイドなるものを制作いたしましたの。こちら、サンプル品になります。失礼がない品かどうか、ご覧いただきたいのですが?」

 マリーとやらは、プロマイドのサンプルを、陛下に差し出した。
 つか、プロマイドって? あの、アイドルの写真みたいなやつ?
 まぁ、前世でもすたれた文化になりつつあったけど。
 でも、プロマイドって名前は、前世のものよね? このマリーも転生者なのかしら?

「肖像画は、一枚一枚手書きですから、お値段もそれなりにいたしますけど。こちらは印刷なので。手頃なお値段で販売できまして、王国の民には、手が届きやすい品になります。しかし、王族の威信が傷つくようでは困りますので。陛下に事前に、ご判断いただければと」
「良いのではないか? 印刷も綺麗だし、光沢があって高級感もあるではないか。それに、クロウと我が結婚したということを、安価で国の隅々にまで広げられる、一品になりうるなら、なんの文句もない」
 陛下は上機嫌で、マリーに許しを出し。

「しかし、マリー様。この顔は、ちょっと盛りすぎでは?」
 と、クロウが困り顔で言い。

「マリー殿、このプロマイドを売ってください。肖像画でなければいいのだろう? シオンっ」
 と、カッツェが鼻息荒く言い。

「いいえ、マリー殿。ぜひ私に、全部売ってください。言い値で買います。クロウ様の人気は、すでに我が領地では絶大なのです。農地の危機を救った、大恩人ですから」
 と、ベルナルドが眼鏡をキラリとさせて言う。
 つか、ベルナルドの領地問題を解決したのも、クロウなの? きぃぃ。

「あぁ、ぼくの兄上がぁ…全国にさらされてしまう、ぼくの兄上がぁ…」
 と、シオン様が、しょんぼり眉でつぶやく。イケメンが台無し。

「さすがのクロウフィーバーですわね。心配は、杞憂でしたわ」
 と、アイリスがつぶやいた。
 なんか、意味深に、こちらを見て、笑みを浮かべるのが、気にはなったけど。

 とにかく、私は事前に立てた計画を実行するだけよ。
 クロウを貶めて、婚約者の座から引きずり落とす計画を、ね。

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