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2-幕間 兄弟のこそこそ話 ②

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     ◆兄弟のこそこそ話 ②

 二学年の授業が終わり。ぼくがいる教室に、シオンが合流した。
 王家の馬車も、到着したということで。ぼくたちは校舎を出て、学園の出入り口付近にある、馬車の待合所のような。前世ふうに言うと、ロータリーのようなところへ向かう。

 つつがなく、シャーロットとアイリスが、王宮からのお迎えの馬車に乗り込んで、去って行くのを見送り。
 ぼくらも、すぐに公爵家の馬車が車止め、停留所みたいなところに止まるのを見て。
 見送ってくれる、ベルナルドとカッツェに会釈をする。
「お見送り、ありがとうございました」
「お気をつけて」
 硬い表情で、ふたりは挨拶し。
 ぼくは、シオンとともに、馬車に乗り込んだ。

 帰りの道中、馬車に揺られながら。ぼくは、シオンに聞いたのだ。
「シオン、ベルナルドとカッツェは、ぼくのこと。もしかして、良く思っていない?」

 彼らに、話しかけてはみるものの。返答は、堅苦しい感じのものが多いし。
 ぼくがコミュ障で、おどおどしているのも、原因かもしれないけれど。
 なんとなく、壁のようなものを感じるのは、気のせいだろうか?

 すると、シオンは長い脚を組んで、答える。
 ちなみに、席は隣だ。
 馬車内は、六人くらいが乗れる、対面式の椅子。つまり、車内は広々空間なのに。
 なぜ、肩を寄せ合って隣に並ぶのでしょうか?
 甘えんぼの弟で、困ります。

「少なくとも、カッツェは。兄上ではなく、ぼくを良く思っていないのだと思います。勝手にライバル認定されてしまったようで…」
「あぁ、剣術大会で、対戦したいって言っていたな」

 ぼくは、先ほど教室で話したことを思い出して、シオンに言う。
 セドリックに目をかけられたシオンを、打ち負かして。己の実力を示したい、というところか?

「そう、ぼくの教室まで、わざわざやってきて。有終の美を飾るためにも、ぼくに出場してほしい、と言ってきて。大勢の前だったので、断れなかったのです」
「どうして? 嫌なら、断ってもいいんじゃないか?」
「公爵家の威信に関わるので。面と向かって、挑まれたのです。受けなければ高位貴族の名折れです」
 そうなのかい?
 ぼくなんかよりも、シオンの方が、マジで、貴族然としているな。
 でも、ぼくが挑まれたら、受けられないよう。へなちょこ剣だもの。
 そう思って、情けない顔をしてしまったのか。
 シオンが慌てて、言い直した。

「あっ、兄上は、受けないでくださいね。兄上にかかる火の粉は、ぼくが払います。そのための、ボディーガードですから。兄上が力を発揮する場所は、剣ではなく、別なところにあるのです」
 そうなのかい?
 そこら辺、詳しく教えてもらいたい。
 ぼくはなにをしたらいいのですか?
 ぼくの価値なんか、自分ではよくわかりません。
 でも、シオンは、するりと話を戻してしまった。むぅ。

「ぼくが出なければ、楽々勝てるところを。難敵を用意してしまうところは、剣術馬鹿的に、好感が持てるのですが。どちらにしても、カッツェは有終の美を飾ることができないでしょう」
「そうなのか? シオンが勝つから?」
「いいえ、陛下が出場するに決まっているからです」
 あぁ、なるほど。
 剣術大会は、いわゆる体育祭に該当する。学園内のお楽しみイベントのひとつだ。
 陛下は、学園生活を満喫したいはずだから。出るよねぇ?

「そんなわけで、カッツェは。兄上が嫌いなのではなく、ぼくに対抗意識を持っているのです。しかしそれも、剣術大会の結果で、態度などは良い方へ変わってくるでしょう。問題は、ベルナルドなのです」

 ですよねぇ。
 カッツェは、言葉遣いや表情は硬いものの、話の流れで、笑みを見せたりもするが。
 ベルナルドは終始、厳しい眼差しでぼくを見ている。
 陛下に馴れ馴れしい、ぼくのことが、嫌なのかなぁ。と、最初は思っていたが。
 特に嫌がらせをするわけでもないのに、不満げなのだ。
 なにを考えているのか、謎。

「ベルナルドの、ウィレム伯爵家は、我が公爵家創設以来、約百年ほどのお付き合いがあります。ウィレム領はなだらかな丘陵地。領の中で一番高い小山の上にある水源地から水を領内に行き渡らせるような装置を作っています。人々が生活する分には、充分な水量ですが。農地に大量の水が必要となる五月に。どうしても水が不足し。そこを公爵家の水魔法で補っていたようなのです。つい最近まで…」

 あちゃー、と、ぼくは思う。
「それって。ここ十年は、悲惨な状況になっちゃった、ってこと?」

 父上や、公爵家の運営は、ほぼ十年間ストップ状態だった。
 言うまでもないが、アナベラとバミネのせいでね。

 それでも倒産しないというのは。どういう原理なのか、ぼくにはわからないのだが。

 ま、ここ数日、父上について、貴族のお家訪問をしたところによると。
 配下の方が、手広くいるようで。
 下の稼ぎを、上が吸い上げる仕組みが、きっちり出来ている模様。
 御屋形様の指示がなくても、淡々と稼ぎを上納していたようです。

 うちの父がすみません、十年間、ご苦労様でした。という気になったものだ。

 それはともかく。
 数少ない、父上が出向かなくては動かない仕事、というのが。そのウィレム伯爵家のことであったらしい。

「まぁ、突然、没交渉になって。農地に水が行き渡らなくなったのですからね。特に領境りょうざかいにある農地は、水が届かなくて。放棄や。職替えをする者も、いたという話です。バジリスク公爵家が、アナベラやバミネに乗っ取られていた、その事情は、もうわかったでしょうが。十年の水の恨みは。そうだったんですねぇ…と、簡単に納得できるものでは、ないのではないかと」

「そうだな。豊かな農地が、ここ十年の水不足で、荒れてしまったのなら。農民もそうだが。伯爵家の収入減でもあっただろうし。これは、ベルナルドと、ちょっとお話した方が良さそうだね?」
「五月に、伯爵領に出向く予定はあるようですよ? 父上が」
「ぼくらが水を流すのは、簡単なことだが。それでは根本の解決にならないような気がするな。どちらにしても、当事者の話を聞きたい。伯爵家はどうお考えか、ね?」

 シオンは犬歯を見せて、ニヤリと笑い。ぼくを、熱い眼差しでみつめる。
「聡明な兄上の、手腕が見られそうですね?」
「聡明は、大袈裟だ。でも、十年の苦汁を飲んだ伯爵家のために、いろいろ考えたいとは思うよ」

 この世界には、機械がないし。ぼくが作り出せるようなものといったら、衣装ぐらいしかないのだけど。
 苦しんできた人のために、前世の知識を、出来る限り絞り出すことくらいは、しようと思う。

 でも本当に、知ってることしか知らないからね?
 シオンや父が、聡明だ、神童だ、やけにハードル上げてくるんだけど。
 本当に困るんだよねぇ。

 大したことできなくても、怒らないでよねぇ?

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