【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

文字の大きさ
上 下
137 / 176

2-14 ドラゴン、知らないんですか?

しおりを挟む
     ◆ドラゴン、知らないんですか?

 登校初日、一回目の授業。
 午前中は、魔法とはなんぞや、みたいな。基礎的な、座学の授業を受けた。

 陛下や、ベルナルド、カッツェたちは。こんなことは、子供のときに知っている、みたいな? 基本のき。のようなものなので。付き合わせてしまって、すみません。
 でも、ぼくは初めて聞くようなことばかりで、新鮮でした。
 魔法を使ったことは、もう、あるものの。感覚的にやっていたので。基本は大事ですよね?

 簡単に言うと、体の中に流れる魔力の具現化、みたいです。
 やっぱり、魔法はイメージなのですよね?

 なんで、魔力が体の中から湧いてくるのか、というのは。
 なぜ、心臓は勝手に動くのか、みたいなことと同じらしいので。深く追求しなくても良さそうです。

 それで、ランチタイムをはさんで。午後は魔法の実技の時間です。
 ちなみに、ランチタイム時に猫の姿だったシオンは、陛下の私室をお借りして、問題なく人型に戻ったそうです。陛下、うちの弟が、お手数をおかけしました。

「イアン様、クロウ様。魔法を実施するにあたって、気掛かりな点や、困っている点はありますか?」
 教師の方たちは。基本、生徒を家名で呼ぶのだが。
 いくら生徒といえど、現国王であり、最高権力者である陛下や、次期王妃のぼくを、呼び捨てにできないということで。名前に様をつけることになったらしい。

 まぁ、ぼくも。エイデンの家名が長く、バジリスクさんは聞き慣れないし。
 陛下なんか、カザレニアさん、になるからな。
 ちょっとおかしいね、やっぱり。

 で、魔法の実技をするのに。ぼくたちは、今、グラウンドにいる。
 いわゆる、外の、広い空間だ。
 魔法科の生徒が実技をするのに、専用の施設がある。そこには、魔法の影響が外に及ばないよう、強力なバリアが成されているみたいなのだが。
 陛下は、国内最高の魔力の持ち主だし。
 ぼくも、魔力が多いと、前評判が高いものだから。
 バリアが破壊される恐れがあるため、一応、外で様子を見ることにしたらしい。

 そんなぁ、いくらなんでも。ぼくはバリアを破壊したりしませんよ?
 でも、陛下の炎魔法は…壊しちゃうかもね?

「我は、自分で出した炎を消せなくて、困っている。できれば、己の魔法を、己で制御したいのだ。咄嗟のときに、そばにクロウが、いつもいるとは限らないのでな」

 陛下の悩みに、魔法科の教師が深くうなずく。
「それは、カザレニア王家の、最大の難問でございますね? カザレニア建国以来、何千年と。王家の、一番魔力の強い者は、対の者の力を借りなければ、強烈な火炎を鎮火させることができなかった。王族の魔力は特殊で、純粋ゆえに、その炎はいつまでも燃え続けるのでしょう。今まで、その難問を解いた先達は、おりませぬ」

 つまり、陛下の悩みは、一教師が解決できるものではないということだね。
 確かに、ぼくのコップ一杯分の魔力の水と、シオンのドバドバの水の量。それで陛下の炎は、鎮火できたけれど。物理的な水の量で消えるわけではないみたいだからね?

「あの、箱の中に入れるのはどうですか? 火は真空の中では燃えないと聞いたことがあります。陛下は、火炎系の魔法だけですか?」
「魔法属性は、ひとりひとつだと思うが?」

 この世界では、それが当たり前みたい。教師もうなずいている。
 前世の『剣と魔法の世界』を書いた、俺ツエー系の小説は。全属性網羅する強者が、うじゃうじゃいたが。
 アイキンは、乙女ゲームだからな。魔法に特化していないんだな、きっと。知らんけど。

 そこに、ベルナルドが手を上げた。
「私は土属性なので、密閉の箱を作れます」
「そうか。では、試してみよう。クロウ以外の者が我の炎を消せるなら、それは大変有益なことだ」
 陛下に、期待の目でみつめられた、ベルナルドは。地に手をついて、小さな箱を作った。蓋がないやつ。
 そこに、陛下が炎の玉をひとつ落とし。
 ベルナルドが蓋をして、密封した。
 箱の中の酸素が尽きて、陛下の炎が消せたら、成功である。

「授業が終わるまでに、消えていたら。世紀の大発見ですな? では、クロウ様のお悩みは?」
 とりあえず、一時間ほど、このまま様子を見るようだったので。
 ぼくは先生に、悩みを告げた。

「実は、先日。ぼく、すっごく怒っちゃって。無意識にドラゴン、出しちゃったのです」
 教師は、ちょっと小首を傾げ。
 ぼくに聞いた。
「どんなものか、それを今、意識的に出すことはできますか?」
 ぼくも、ちょっと小首を傾げて。背後の空間に指をさしてみた。

 ドラゴン、ドラゴンって思っていたら。
 空気中の水分が集合して、氷の粒になり。どんどん大きくなって。
 うん。あのときと同じようなやつができたよっ。

「こんなやつです」
 得意満面で、先生に示すと。背後のドラゴンが、ぎゃおーんと鳴いた。

 すると、その場にいる人たちは、軒並み驚いて。何歩か後退あとずさっていた。
 いつも冷静な陛下も、珍しく目をみはっています。レアですね。

「な、なんだ? この生き物はっ」
 教師の驚愕の声に、ぼくは説明を加える。
「だから、ドラゴンです。龍。伝説の生き物で、よく絵本とかにあるやつですよ?」
 もちろんご存知ですよね? とばかりにたずねると。
 後ろのドラゴンも、ギョ? って鳴いた。

「そんな本は、見たことがありませんよ、クロウ様」
「嘘ぉ? ドラゴン、知らないんですか?」
 再び聞くと、後ろのドラゴンも、アンギョー? って鳴いている。

 ちょっと、うるさいんですけど?

 みなさんの顔を見ても、小さく首を横に振っている。
 えぇ? どうして? シオンはドラゴン知っていたのに。

 そこで、ぼくは。思い出した。
 ぼくはシオンに、王家の英雄伝説を馬鹿みたいに読み聞かせまくっていたのだが。
 さすがに、シオンが飽きたと言い始め。
 一字一句、そらんじられますと言われてしまって。
 それで、シオンが楽しめるような絵本を、自作で作ったのだった。
 まぁ、前世のお話を頼りに作った、勇者が森の奥に住み着くドラゴンをやっつけるという、冒険活劇なので。自分で考えたわけではありませんよ?
 前世ではよくある、定番のやつです。

 つまり、ドラゴンは。この世界では流通していないものだったのだ。

 まぁ、ドラゴンは。前世でも、伝説の生き物だから。実際には、いないわけだけど。
 でも、たぶん、ドラゴンって言えば、誰もが想像できる生き物であると思うんだ?
 だとすると、誰も見たことがないドラゴンを、みんなが思い起こせるほどに浸透させた人って、すごいと思わない? 誰かは知らないけど。

 つまり、ぼくが作った絵本を読んで、育ったシオンは。ドラゴンを知っていたけど。
 父上もたぶん、ぼくが作った絵本を、母経由で仕入れて、知っていたのだろうけど。
 この世界の人は、ドラゴンを知らない、という…。

 ヤバい。超、ドラゴン知ってる前提で話しちゃったよ。

「あの、これはドラゴンという、ぼくの想像上の生物でした」
 架空の生き物を出しちゃって、先生もさぞ困惑したでしょう。すみませんでした。

「なんか、この、ドラゴン? ってやつ。クロウと同じように、首を曲げたり、驚いたりしているぞ?」
 陛下がそう言うと。
 教師も。ぼくの作ったドラゴンが無害だとわかって、平静を取り戻した。

「お、おそらく。クロウ様がお作りになったものなので、クロウ様の思考と同じように動いているのでしょう」
 陛下は、そうなのか、と言って。ドラゴンを見上げ。
 空気中の水分を凍らせて作られた、薄水色のブルーホワイトうんちゃらドラゴンみたいな…いや、どちらかというとティラノサウルスみたいなコレが。陛下と目を合わせた。

「ギャオーーーン」
 ドラゴンは、大きな声で鳴いて。
 大きな太ももの足を、ドスドス踏み鳴らすと。すごい勢いで陛下に顔を近づけた。

 あ、危ないっ。

 ぼくは咄嗟に、ドラゴンを消そうと思ったけど。ま、間に合わなーい。
 と思ったら。
 このドラゴン。陛下の唇に、優しくチュウした。

 いやぁーーっ…。

 ぼくの心のままに動くドラゴンが、陛下にチュウしたら。ぼ、ぼ、ぼくが陛下とキスしたいみたいじゃーん?
 したいけど。

 呆気にとられたぼくが、ワタワタしている横で。ドラゴンは、なにやらモジモジし始めて。短い手を伸ばして、陛下を抱っこしてしまった。
 そして頬を染めて、笑顔で、ブンブン揺さぶっている。

「やーめーてーっ」
 ぼくはドラゴンを指差し、ちょっぱやで消した。跡形もなく消し去ったぜ。

 ちょっと宙に浮いていた陛下は、ストンと華麗に着地し。フッと笑う。
「クロウ…我は、チュウも抱っこも、いつでも大歓迎だぞ?」

 ぼくは、恥ずかしすぎて、沸騰した頬に両手を当てて、顔を隠した。
「イアン様、クロウ様。私から学べることは、ないかもしれませんね? 魔法の実技は、しばらく、このグラウンドで行いましょう。大きなドラゴンが、バリアを突き破るかもしれませんので」
 青い顔で、教師はそう言い。
 ぼくは、羞恥で顔があげられずにいて。
 陛下だけが、すごく満足した顔をしていた。

 ちなみに、陛下の炎は、密封の箱の中で一時間以上も燃え続け。結局、ぼくの水魔法で鎮火したのだった。
 つまり、酸素がなくなれば火が消える、という物理的な作用では、陛下の炎は消せないってことみたい。
 世紀の大発見とはならなくて。みんながっかり、だったけど。
 これからも、いろいろ模索していこう、ということになりました。

 海に落した陛下の炎が、いつかは消えるみたいに。きっと、なにか方法はありますよ。
 千年以上みつけられなかった方策なのです。気長にやりましょうね?

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

出来損ないアルファ公爵子息、父に無限エンカウント危険辺境領地に追放されたら、求婚してきた国王一番の愛息、スパダリ上級オメガ王子がついて来た!

みゃー
BL
同じく連載中の「アンダー(底辺)アルファとハイ(上級)オメガは、まずお友達から始めます!」の、異世界編、スピンオフです! 主人公二人が、もし異世界にいたらと言う設定です。 アルファ公爵子息は恒輝。 上級オメガ王子様は、明人です。 けれど、現代が舞台の「アンダー(底辺)アルファとハイ(上級)オメガは、まずお友達から始めます!」とは、全く、全くの別物のお話です。 出来損いアルファ公爵子息、超危険辺境領地に追放されたら、求婚してきた上級オメガ王子が付いて来た! 只今、常に文体を試行錯誤中でして、文体が変わる時もあります事をお詫びします。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...