【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

文字の大きさ
上 下
77 / 176

番外 モブに期待、コーデリア・カザレニアの悔恨

しおりを挟む
     ◆番外 モブに期待、コーデリア・カザレニアの悔恨

 私こと、コーデリアは。娘のシャーロットに手を引かれ、庭に向かっている。
 なんでも、ガーデンパーティーをしているとのこと。
 お茶会なんて、久しぶりね。

 先日、行儀見習いと称して、後宮の働き手となった、アイリス嬢は。娘の良い話し相手であり。後宮の雰囲気を明るくするムードメーカーでもある。
 ガーデンパーティーも、アイリスが発案したものだというのだ。

「普通のお茶会では、ないのですって。プリンをいっぱい作ったらしいわ? 面白いことをするわね、アイリスは」
 そう言って、黒猫を抱えた娘は、明るい笑顔を見せる。

 シャーロットも、アイリスが来る前は。
 いつも不満を口にして。溜まる鬱屈を、使用人にぶつけたりしたこともあった。
 王族のプライドを、歪ませ。高飛車な物言いをすることも、多かったのだが。

 アイリスが来てからは、それもだいぶ減った。
 こうして笑顔を見せてくれるようになったことが、一番の、良い変化だった。

 そうして、王城と後宮の境にある、芝生に覆われた、開けた庭につくと。
 そこでは陛下が。屈託のない笑みを、浮かべていて。
 私は、目をみはった。

 そばには、クロウがいる。
 彼が陛下に、良い変化をもたらしてくれたのだと、すぐにわかった。
 シャーロットに、アイリスがいるように。
 陛下は、クロウとともにあることで、お心をほぐすことができたのだろう。

 母として、これほどに幸せな情景が、あるだろうか?
 庭で、大勢の使用人が談笑しているところを見て、私は、過去のきらびやかな時代に、思いを巡らせた。

 十年以上前になるが、シャーロットが一歳になったお祝いに、この王城で、盛大なパーティーが催された。
 名だたる貴族が、王城を訪れ。エントランスホールでは、ひしめき合うほどの人々がダンスに興じ。五歳になるイアン王子は、可愛らしいと人々の注目を集め。みんなが笑顔だった。

 しかし、その幸せな情景は、砂の城のごとく、一瞬で崩れ落ちてしまう。

 私の伴侶であり、先王であったレンドルフが。ろくな治療を受けられぬまま、肺炎で逝去した。
 私は、レンドルフ陛下が亡くなったことを、長く嘆き悲しみ。
 これからどうなってしまうのか、その不安にのまれて、ただただ涙していた。

 しかし、それが、最悪の間違いだったのだ。

 大事な者を亡くしたのだから、嘆き悲しむことは、普通なら間違いではない。
 でも、私は王妃だったのだ。
 子供を守るために、気丈であらねばならなかったのに。
 私は。普通に、家族を亡くした者と同じ行動をとってしまった。

 私は、イアンを即位させてはならなかった。
 せめて、摂政として。すべてを支配しなければならなかったのだ。

 私が後ろ盾として、しっかりイアンを支えることができていたら。
 その道筋を作れていれば。
 八歳の、なにもわからぬイアンが、王として担ぎ上げられ。実権を、悪意ある者に奪われることはなかった。

 それ以前に、陛下がろくな治療も受けられなかった、そのことについて、素早く疑問を持つべきだった。
 いろいろ、予兆はあったのに。

 だが結局。私が嘆き悲しんでいる間に、イアンの即位式は済まされ。
 そして、あれよあれよといううちに、この孤島に、少人数だけで閉じ込められてしまった。
 気づいたときには、カザレニアの政治から、王族が完璧に切り離された状態になっていたのだ。

 わかっている。アナベラとバミネは用意周到に、この機会を狙っていた。すべてが計画どおりなのだと。
 一枚も二枚の上手の彼らに、私ごときが敵うわけもなかったかもしれないが。
 それでも、悔やんでしまうのだ。
 あのときこうしていたら、もっと早くに察していれば、最悪の事態を回避できたのではないか、と。

 そうして、ひとつつまづいた、そのことを挽回することもできずに、十年が過ぎる。
 その間、バミネの脅威にさらされて、命も脅かされて。
 長い年月、そのような日々が続けば。イアンもシャーロットも、それはそれは鬱屈がたまることだろう。

 私は、彼らの笑顔を見なくなって、久しかった。

 でも、アイリスとクロウが来たことによって、王城に新しい風が吹き。
 愛する息子と娘の顔に、笑顔が戻った。
 なんて素敵なことだろう。

 以前、イアンがクロウを紹介したとき。彼らの間に、気安さみたいなものを感じ取った。
 イアンは長く、人を、心の内に入れることはなかった。
 それは、母である私のこともだ。
 家族を信用していないわけではないのだろうが。バミネや他者に隙を作らないために、全部を排除するような、頑なさがあったのだ。

 しかし、クロウとイアンの間に、そのような壁はないように見えた。
 交流するうちに、イアンが心を開いたのだろうか?
 そうだったらいい。
 もっと、イアンと仲良くしてちょうだい?
 そんな気持ちで、先日、クロウにお願いしたものだ。
 彼は平民の仕立て屋。王であるイアンとは、一生縁がなくてもおかしくない、身分ではあるが。

 もう、王族だの、身分だの、なんだの、そんな些末なことはどうでもいい。

 ただ、愛する子供たちが、笑って、健やかに生きていけるのなら。
 王であるイアンと、平民のクロウが、出会ったのは縁である。
 良い縁が結びついたのだから、イアンがクロウと接することで、さらに良い変化があることを。私は期待した。

 そして、本日。ガーデンパーティーの会場で、イアンが言った。
「母上、クロウは、我の大事な人になったのです。我の心を救ってくれた、かけがえのない人だ」

 柔らかい笑みを浮かべて、イアンはクロウの肩を抱く。

 えぇ、えぇ。貴方のその顔を見れば、わかりますよ。
 だって…貴方がクロウをみつめるその顔は、レンドルフ様が私をみつめた、あの御顔とそっくりなのですもの。
 だけど。
「大事に想うのなら、決して手放してはいけませんよ?」

 アナベラとバミネの作為にはまって、レンドルフ様を、むざむざと死に追いやってしまったことを。私は、長く、長く、悔やんでいる。

 私は決して、一生、彼らを許しはしないだろう。
 愛する者を、もぎ引き離された、この苦痛を、激情を、忘れたりしない。

 愛する息子が、かけがえのないと言うほどのクロウと、引き離されることになったら。
 きっと、今まで以上の、濃い闇の中をさ迷うことになるだろう。
 それだけは、回避してほしい。その想いを込め、忠告した。

 あぁ、どうか。彼らの恋の行き先が、私たちのような悲しい結末にならないように。と、私はただ祈るばかりだ。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

出来損ないアルファ公爵子息、父に無限エンカウント危険辺境領地に追放されたら、求婚してきた国王一番の愛息、スパダリ上級オメガ王子がついて来た!

みゃー
BL
同じく連載中の「アンダー(底辺)アルファとハイ(上級)オメガは、まずお友達から始めます!」の、異世界編、スピンオフです! 主人公二人が、もし異世界にいたらと言う設定です。 アルファ公爵子息は恒輝。 上級オメガ王子様は、明人です。 けれど、現代が舞台の「アンダー(底辺)アルファとハイ(上級)オメガは、まずお友達から始めます!」とは、全く、全くの別物のお話です。 出来損いアルファ公爵子息、超危険辺境領地に追放されたら、求婚してきた上級オメガ王子が付いて来た! 只今、常に文体を試行錯誤中でして、文体が変わる時もあります事をお詫びします。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

三度目の人生は冷酷な獣人王子と結婚することになりましたが、なぜか溺愛されています

倉本縞
BL
エルガー王国の王子アンスフェルムは、これまで二回、獣人族の王子ラーディンに殺されかかっていた。そのたびに時をさかのぼって生き延びたが、三回目を最後に、その魔術も使えなくなってしまう。 今度こそ、ラーディンに殺されない平穏な人生を歩みたい。 そう思ったアンスフェルムは、いっそラーディンの伴侶になろうと、ラーディンの婚約者候補に名乗りを上げる。 ラーディンは野蛮で冷酷な獣人の王子と噂されていたが、婚約者候補となったアンスフェルムを大事にし、不器用な優しさを示してくれる。その姿に、アンスフェルムも徐々に警戒心を解いてゆく。 エルガー王国がラーディンたち獣人族を裏切る未来を知っているアンスフェルムは、なんとかそれを防ごうと努力するが……。

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

処理中です...