【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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58 王城へ至る道 ④(クロウside)

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     ◆王城へ至る道(クロウside)

 キスされて、涙ぐんでしまった。
 陛下にキスされたことが、嫌だったわけじゃない。
 崇高なるカザレニアの国王を、自分が汚してしまった。あまりにも恐れ多くて。そんな気持ちになってしまったんだ。
 だけど、おののき、震えるぼくを、陛下は優しく抱き締めてくれて。
 安心させるみたいに、背中を撫でてくれたんだ。お優しいぃ。

「我は、結婚はしない。いずれ…その話は片をつける」
 やはり、バミネに強要されている結婚話なのですね?
 それには従わないのですか? そういう決意をしたのでしょうか?
 ぼくは、その話を聞いて、ホッとしたけれど。
 嬉しいって、思っちゃいけないのかな?

 婚約しているかどうか、わからないけど。婚約破棄って、どの物語でも結構な大ごとになるではないか?
 それだけが心配です。
 陛下の負担に、ならなければ良いのですが。

「けじめをつけぬうちに、おまえに手を伸ばすのは、不実なことだと、わかっている。だが、おまえのそばは、心地好い。ずっと、そばにいたいのだ」
 そこは、大丈夫です、陛下。
 ぼくも、陛下をお慕いしているのですから。どんどん、ばんばん、手を伸ばしてくださいませ。
 いや、この言い方では、はしたないですな。ウェルカムです…も、違うか?
 考えているうちに、陛下は話を進めていった。

「おまえは、我の心を初めて揺さぶった、特別な者だ」
 それって、陛下も初恋ってことですか?
 ええぇっ? う、嬉しいですぅ。

 でも、モブが初恋で、良いのかなぁと、ちらりと思いますが。
 美的感覚ヤバい的な?
 ま、ぼくを美しいとは、さすがに思っていないでしょうけど。
 そばにいて心地好いと、言うのだから。たぶん、ぼくのぽややんとしたところが、ほのぼのして、お気に召したのではないかなぁ?
 シオンには、よく『しっかりしてください、兄上』などと、怒られる部分だけどね。
 短所は、他人が見たら長所、ってこともあるよねぇ?

「おまえは、柔らかくて、温かくて、こうして触れていると、なんだか心が和むのだ。触れたい、と思う好きなのだ」
 え? 触れたい、好きって。に、肉欲的な?
 キャーーッ、。照れます。
 ぼくも、他ジャンルの薄い本を、巴と静のせいで目にしたことあるんですけど。
 あんなこと、陛下がなさるんですか? ぼくを相手に?
 いやいや、陛下はそのような、無体な真似はされませんよね?

 初恋なんです。ピュアなんです。

 お美しい陛下は、ぼくが思い浮かべた下品な行いなど、いたしません。
 ぼくは、キスもしたことがなかったのに、こういう知識ばかりが多くて、耳年増みみどしまで、いけません。
 初恋同士、なのだから。純粋なラブを進めていくのです。

 あの腐った知識は忘れるのです。…いや、万が一のときに、忘れない方が良いかも、だけど。

 いやいや、たぶん、ないから。下ネタ系は忘れよう、うん。
「我が…おまえに触れることを、許してほしい」
「僕のような者が、許すなど…」

 つか、ぼくが、陛下に触れるのを、ためらっているのです。おののいているのです。
 陛下は、王様なのですから。なんでもしてくださっていいのです。
 うーん、これでは、また、はしたない感じです。
 えっと、うまく応えられません(泣)。

 そうして戸惑っていたら、陛下がギュッと、力を込めて抱き締めてくれた。
「陛下…」
 ビギナーゆえに、うまく応えられず、すみません。

「この気持ちは、決して戯れなどではない。クロウが好きだ。信じてくれ」
「信じますっ。イアン様のお気持ち、とても嬉しいです」
 すかさず、食い気味に、ぼくははっきりと告げた。

 恥ずかしいとか、無理とか、恐れ多いとか、思っていないで。真摯に告白してくれた陛下に、ぼくもちゃんと想いを返さないと。
 陛下が不安に思うことなど、なにひとつないのですから。

「昨日、そばにいると誓いました。僕のこの気持ちも、戯れなどではありません。イアン様が望むものを、僕はイアン様に、すべて捧げます」
 ぼくの気持ちは、貴方をお慕いし、命を懸けて貴方のそばに居続ける。そのような強い感情です。
 だから、陛下。心配しないで。
 ぼくが貴方をいとう場面など、決してありません。
 そういう気持ちで、微笑みかけた。

 ご結婚など、陛下の事情は、ぼくにはまだよくわからない。
 結婚するお相手がいるうちは、男であり、平民であるぼくに、陛下が触れるのは良くないこと。これは、一般的な常識だ。
 でも、この島から出られず、孤独を抱える陛下に、常識とか、無粋じゃね?

 今の、陛下のお心、お気持ちが、なにより優先されるし、大事なことなのだと思うのだ。
 それに、ぼくにとって陛下は、無条件に従うべき相手で。
 慕う相手で。敬愛する相手で。…恋する相手だ。

 先ほどは、あまりの恐れ多さに、キスされて涙ぐんでしまったけれど。
 キスが嫌だったわけじゃない。

 触れた唇から、陛下の存在が、体に染み込んで来るみたいで。嬉しかった。
 ゼロ距離、じゃなくて。
 もっと近くに。同化するみたいに。混ざり合うように。心までも寄り添うように。近く感じたのだ。

 陛下の唇も、熱かったが。
 ぼくも熱くなって。気持ち良くて。
 大きな手のひらで撫でられると、心臓が破裂するかと思うくらいドキドキした。

 ぼくの心と体が、陛下に恋をしていると、はっきり示している。
 そんな相手に、触れることを許して…なんて言われたらさぁ。
 拒否などできるものかーいっ。

 陛下が望むのなら、ぼくはそれを与えるだけだ。
 それでなくても、衣装を作り上げるまで、数週間しかない。
 ずっとこの島にいたい、とは願ったが。納品したあと、どういうふうに事が進むか、わからないからな。

 でも、この数週間は、絶対に邪魔されない、貴重な期日だ。
 その短い間、陛下がぼくになにかを求めるのなら。ぼくはなんだって差し上げる。

 時間も、想いも、体さえも。

 触れて良いと言うのは、恥ずかしいので。陛下にそっとうなずいて見せると。
 陛下は安堵の笑みを浮かべて、唇と唇を触れ合わせるだけの、優しいキスをした。

 ほら、陛下はやはり、紳士なのだ。
 いきなりベロチューするような、獣ではない。
 ホッ。ぼくも初恋で恋愛初心者なので、どうかこれからも、お手柔らかにお願いします。

 陛下がモブを選ぶのは、アイキンの世界的には、アウトかもしれない。
 でも、主人公のアイリスは、別の道を進んでいるから。
 そのメインルートの裏で、陛下とモブの恋バナが、進んでいても良いのではないか?

 だって、陛下がぼくを望んでいるのだ。

 ぼくも好きなのだから、それに応えたいじゃないか。単純に。
 主人公とか、ゲームとか、ルートとか、関係なく。
 平民でも、王様でも、モブでもなくて。

 ぼくは。クロウはイアン様と恋をするっ。

 誰にも、公式にも、邪魔させないからなっ!
 つか…公式様。温かく見守っていただけると幸いです(弱気)。

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