【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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32 本日の萌えを反芻するオタク ②

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 シヴァーディに、バミネに傷をつけられた、あらましを聞きました。
 なにぃ? それぇ…すっごいドラマじゃん?
 アイキンの舞台設定に、そんな濃密な物語が隠されていたなんて。
 でも、全部攻略したら、出てくる話なのかな?
 それとも、シヴァーディルートで語られる真実ってやつかな?
 だとしたら、それを教えてもらえたぼくって、超ラッキーじゃね?

 シヴァーディとセドリックの友情は、王族のミハエル英雄譚の中にあるエピソードにも匹敵するほどの、熱いものだ。
 それを引き裂こうとしたバミネ、許すまじっ。
 感動と憤りで、涙が止まりません。

「一丁前に、美形をねたむんじゃねぇ、ぽっちゃり悪役令息のくせにぃっ」
 学園で、モテをシヴァーディに取られたことを、恨んだ犯行とか?
 浅いっ。バミネよ、動機が浅すぎるぞ。
 ま、あいつ沸点低すぎだし。つか、鏡見ろや。

「シヴァーディ様がいなくても、バミネがモテるわけねぇだろ。最初からイケメン設定じゃないんだから、わきまえろや、ボケェ」
 悪役が動かないと、物語が動かない、とはいえ。やり過ぎなんだよっ。
 もしかして、暴走しているのか?
 だとしたら、バミネのせいで、物語の大筋が変わっていくということもあるかもしれないな?

 しかし、それにしても…。
「そんなことで、公式が造りたもうたご尊顔に傷をつけるなど、なんという暴挙。なんという罪悪。これはゲーム進行を妨げる、究極の蛮行、愚行でありますぞっ。公式よ、悪に裁きの鉄槌をっ」

 ゲームの世界に転生すると、よく、ゲームの強制力が働いて、大筋に無理矢理引き戻そうとする、理由のつかない心の変化とか、あるじゃん?
 公式の力が働くのなら、バミネはもう成敗されてもいいんじゃねぇかな?
 ぼくがこうして、呪詛を吐きまくってやったから。あいつには、きっと罰が当たるだろう。ざまぁ。

 なんて。人をざまぁしている場合ではなかった。

 そういえば、シヴァーディはここに来たとき、成敗とか宣言していなかったか?
 あれ? これって第三成敗の危機じゃね?

「ところで、シヴァーディ様? なにかお怒りでしたか?」
 恐る恐るたずねると、勘違いだって言ってくれたよ。ホッ。

 麗しの騎士様が、剣を振り上げる姿を拝見したいとは思いますが。それで、ぼくの首チョンパは勘弁です。
 もう少し生きたいのです。シオンも心配だしね。

 だけど、続いて。ぼくには魔力がないと断言されてしまい。
 それには、ちょっと反論してしまった。
「魔力…少しは、あるでしょう?」
 だって、全然なかったら、ヤバいじゃん?
 シオンの呪いを解くために、ペンダントをバミネから奪い返して。ぼくの魔力をシオンに注いで、解呪するという作戦なんだよ?
 もし、ペンダントを奪い返しても、ぼくの魔力がカスだったら、どうするぅ?

 いや、眠っていて、シヴァーディに感知できないだけだよね?
 でも魔力が眠っている間に、枯渇してたらどうしよう?
 そういうことってあるの?
 眠っているだけならいいんだけどね。魔力に目覚めたとき、少しはないと困ります。
 せめて、解呪できるくらいは。

 それにさ、せっかく魔法のある世界に転生したんだから、一度くらいは魔法を発動してみたいじゃないか?
 風をそよがせたり、ランプに火をつけたり、氷の剣を作ってバミネにグサッとしたり? してみたいじゃん?

 でも、シヴァーディは、神妙な顔で言うのだ。
「魔力を持つということは、良いことばかりではない」
 そうなの?
 だって、ランプに火を灯せるだけでも、便利でしょ?

 でも、まぁ。日常生活で、魔法はなくても、支障なく暮らせるけどね。
 この世界は機械がない分、不便で。
 便利な世界だった前世を知っているぼくは、この生活に慣れるのにちょっと時間がかかった。
 けれど今は。特に支障なく暮らしているよ。機械がなくても、それなりに暮らせるものだね?
 ミシンがないから、ぼくなんかでも仕立て屋さんをやれているわけだしね。ミシン、苦手だったからな、ぼく。

 シヴァーディは騒がせてすまないと謝ってから、サロンを出ていった。
 いえいえ、またいつでも遊びに来てください。お待ちしております。

 そして、騎士様と入れ替わりに、陛下が現れた。
 えぇ? 第三成敗は回避できましたよね? 大丈夫ですよね?

 イアン様は、少し心配そうに眉間を歪ませて、ぼくにたずねた。
 これが、第三萌え案件である。

「泣いたのか? シヴァーディに、きついことを言われたか?」
 そう言って、ぼくの目元に親指で触れ、涙を拭ってくれた。

 いやぁぁぁ、どこの王子様? 王様だけど。

 もう、少女漫画に出てくる、パーフェクトヒーローじゃん?
 陛下は少し陰があるから、クール系で無口だけど、ヒロインのピンチには駆けつける、絶対無敵のスパダリ彼氏じゃん?
 こんなんされたら、アイリスもメロメロでしょうが?
 ここで、ぼくは。重大なことに気づいてしまった。

 ハッ、主人公ちゃんがいない?

 まさか、このシチュエーションは、イベントではないよね?
 つか、噴水の周り走ったのも、シヴァーディの昔話も、イベントじゃないよね?
 無意識でアイリスのイベント奪ってないよね?
 大丈夫だよね? お邪魔ムシのクロウ、しちゃってないよね?

 でも、イベントかと思っちゃうくらい。陛下のスマートな所作に、ぼくもクラクラです。
「いえ、シヴァーディ様の傷が、お話が、痛々しくて」
 つか、半分バミネへの怒りで、悔し泣きだが。
 本当にむかつく。
 美は、愛でてこその美なのだ。万民が感嘆するものを破壊しては駄目なのだ。美を害する悪はこの世にいらぬ。滅べ。
 と思っていたら、陛下がプッと笑った。
 へ? 王が吹き出すとか、レアシーンなんですけどぉ?
 スクショさせてください。

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