【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

文字の大きさ
上 下
19 / 176

13 そう言われても、ぼくはモブ

しおりを挟む
     ◆そう言われても、ぼくはモブ

 王が去ったあと、ぼくはエントランスホールで、しばし放心していた。
 アイリスが、なにやら不穏な言葉を言っていたな。
 つか、あの子、絶対転生者だろ?
 王様を救って、とか。成敗に気をつけてとか。アイキンならではの言葉、知らなきゃ出てこないんじゃね?

 でも。どうなんだろう? アイリスはどこからどう見ても、キラキラの主人公ちゃんで。
 だったら、主人公が王様を救うのは当然の流れだろう?
 でも、アイリスはぼくに、王様を救えなんて言った。

 いやいや、そう言われても、ぼくはモブ。

 どう転んだって、王様を救う流れになんかならないよ。
 アイキンをやっていた転生者なら、そんなのわかり切っていることだろう?
 だから、イマイチ、アイリスが転生した者だという確信が持てなかった。

 転生なんて概念自体。なに言ってんの? 頭おかしいの? 案件だし。不用意に、問いただせないよな?
 それにぼくはモブのクロウだから、アイリスに会うこと自体が、アイリスのイベントを邪魔する存在になりかねない。彼女の恋路を邪魔しないためにも、彼女とは極力会わない方が良い。そう思うんだけど。

 三パーセントの確率で出現する、クロウフィーバー。
 それだけは、いったいなんなのか、聞きたい衝動に駆られている。
 彼女のイベント時ではないときに、なんとかもう一度アイリスに会って、そこのところを聞けないだろうか?

「おい、クロウ。いつまでも座ってんな。部屋に案内するから」
 セドリックに声をかけられ、ぼくはようやく、放心から立ち戻った。
 見上げると、セドリックが手を差し出している。
 ぼくが手を出すと。彼は勢いよくぼくの体を引き上げ、立たせてくれた。

「かっる。ちゃんと食事は食べているのか?」
「いっぱい食べますよ。ふたり分でも余裕です」
 自分自身は、それほど大食漢ではないが。
 夜になったら、チョンが人型になる。チョンは猫のときはそれほど食べられないから、夜、いっぱい食べるのだ。
 ひとり分の食事では、チョンが物足りなくなりそうだから、事前に食事の量は多めに、というのをアピールしておいた方が良いと思ったのだ。
 もちろん、食事係の人にも、その点をお願いしようと思っているけどね。

「ふーん、見かけによらないな」
 そう言って、セドリックはぼくの荷物を持って、あの、王も登っていった階段を、上がっていった。

 っていうか、ナマ陛下を見ちゃったんだよなぁ。
 あぁ、感動したよ。この階段の中ほどにいた、王様の立ち姿。
 黄金の髪がたっぷりで、みやびで、豪華で。
 それに、モブに声をかけるとは思わなかったから。あんな間近で陛下のご尊顔を目にできるとも考えてなくて。
 陛下の麗しい顔を思い出すと、興奮して、いまだに心臓が震えるよ。

 この感動を、ぼくはセドリックにぶつけずにはいられなかった。
「セドリック様。陛下はなんてお美しいのでしょう? あまりにもまぶしくて、長く目を開けていられないほどでした。海色の瞳が、水面が輝くかのごとく、キラキラ光っていましたよ」
 まるで、神が降臨されたかのようだった。
 いや。ミカエルだな。大天使ミカエル様だ。
 ぼくのイメージだと。ミカエル様は、口が悪いけど、力は強大。
『はぁ? 俺様が守ってんだから、傷ひとつ、つけさせねぇに決まってんだろっ』って、尊大に言い放つ感じ。
 ミカエルは、確か、神の軍隊を率いる大天使だった。
 あれ? カザレニアの王族のイメージにもピッタリじゃね?

 でも、この世界では。神や天使の概念はあれども、名前の付いた者は、いたかなぁ? よくわからないから、ここでは言えないけど。

 セドリックは、ぼくの話しかけをスルーして。黙々と廊下を進んでいくが。ぼくはまだまだ、感想を吐露し足りなかった。
「幼い頃に、よく英雄王の話を本で読みました。たくましく、勇壮で、気高い。そんな、想像していた英雄王の御姿よりも、陛下はさらにお美しくて。僕は、あのような方にお目にかかれて、とても幸せでした」
 少し息を切らせながら、告げると。
 セドリックは足を止め、ぼくを不思議そうに見やった。

「…もう、取りつくろわねぇ。クロウ。単刀直入に聞くが、おまえは騎士団の依頼で仕事をしに来たんだろう?」
 ようやく反応を返したセドリックに、嬉しくなって、ぼくは笑顔でうなずいた。

「はい。陛下にお似合いの衣装を必ず仕立ててみせます」
「バミネは、俺たちの敵なんだ」
「僕も、あの方は嫌いです」
 まぎれもない、ぼくの本心だ。
 ぼくは。ぼくたち家族は。アイツになにもかもを奪われたのだから。

「ふーん、さようですか」
 口の端を引き上げて、セドリックは揶揄するような、ちょっと嫌な笑みを浮かべた。
 まだ、チクチク感じるから。セドリックも陛下が言ったように、ぼくをバミネのスパイだと思っているのだろう。
 それは仕方がない。
 ぼくは外から来た人間だから。警戒するのはもっともなことなのだ。
 むしろ、陛下の御身を護る親衛隊ならば、それくらい警戒心バリバリでいいんじゃない?

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

出来損ないアルファ公爵子息、父に無限エンカウント危険辺境領地に追放されたら、求婚してきた国王一番の愛息、スパダリ上級オメガ王子がついて来た!

みゃー
BL
同じく連載中の「アンダー(底辺)アルファとハイ(上級)オメガは、まずお友達から始めます!」の、異世界編、スピンオフです! 主人公二人が、もし異世界にいたらと言う設定です。 アルファ公爵子息は恒輝。 上級オメガ王子様は、明人です。 けれど、現代が舞台の「アンダー(底辺)アルファとハイ(上級)オメガは、まずお友達から始めます!」とは、全く、全くの別物のお話です。 出来損いアルファ公爵子息、超危険辺境領地に追放されたら、求婚してきた上級オメガ王子が付いて来た! 只今、常に文体を試行錯誤中でして、文体が変わる時もあります事をお詫びします。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...