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86 廣伊がいない
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◆廣伊がいない
仲間が増えたので、赤穂の屋敷で宴席を設けることになった。
居間は、まぁまぁ大きな部屋で、真ん中に大きな囲炉裏があるのだが。
まずはライラがデーンと寝ているところに。
囲炉裏とライラの間に、天誠と紫輝が座り。紫輝の横には月光、そして赤穂と続き。さらに赤穂の隣に青桐が。そして、その横に堺。最後は藤王、その横に天誠という。囲炉裏を囲む人脈の輪ができていた。
誰かが誰かの友達で、みんな友達。すっごーい。
みんなは、ひとっ風呂浴びてきて。作務衣に綿入り丹前というラフなスタイルで、くつろいでいるが。かたわらには、もれなく剣が置かれていて。物騒なんだよねぇ。
武人は剣を手放せない生き物なんだな、きっと。
みんなの目の前には食膳があり、さらに屋敷の使用人が、そつなく御酒を注いでいく。
でも紫輝は、お茶だけど。
「あーあ、この中で俺だけ未成年か。ま、お酒なんかマズいから、いいんだもんね」
負け惜しみを吐いてみる。
すると月光がニコニコして紫輝に言う。
「いいの、いいの。紫輝はまっずいお酒なんか飲まなくて。ほら、パパが茶碗蒸しあげるからな?」
「ぱぱって、なんだ?」
藤王が聞くのに、天誠が答える。
「三百年前の言葉で、お父さんって意味だ。月光はパパという響きが気に入ったようだ」
紫輝は、月光から茶碗蒸しをわけてもらい、ご満悦。
木製のお匙で薄黄色のつるつるをすくって食べると、ほっぺが落ちそう。
軍にいると、こういう繊細な御料理って出てこないから。幸せである。
「この前、屋敷に掘りごたつを作ろうかと思って、考えてみたんだが…」
「こたつっ、人をダメにする、あの魅惑のこたつかっ。欲しいっ」
紫輝は目をハートにして、天誠をみつめた。
囲炉裏も風情があっていいのだが。この世界の家は気密性が高くないから、やはり、どこか薄ら寒くて。
こたつがあったら、今の季節を乗り越えられそう。
「ほりごたつって、なんだ?」
またもや藤王が天誠に聞く。藤王は知識欲が旺盛だなぁ。
もしくは、天誠がなにを考えているのか、興味があるのかもしれないけれど。
「人が座れるように、たとえば、この囲炉裏の部分だけ床板を下げ。その上に机を置き。布団をかけて天板を置く。中には七輪などをたけば、暖気が逃げない掘りごたつができる。以前の世界にあった道具だ」
なるほど、それなら電気を使わないから、機械を作らなくてもいいんだな。
紫輝と天誠は、この世界に機械を持ち込まない、作らないようにしようと決めていたから、どうするのかなぁと、思っていたのだ。
「しかし、そこでひとつ問題が。こたつの中にはもれなく、猫が入るっ」
「あぁ、入るね」
断言し、紫輝は、想像した。
掘りごたつの中に、みっちりと詰まる、大きなライラの姿を。
それはそれで、可愛いぃ。
「こたつの中に七輪を置いていたら、ライラが燃えるかもしれない。だから、掘りごたつ案は、振出しに戻った。もう少し考えなければ…」
「紫輝が、ライラさんに、こたつの中に入らないでとお願いすればいいのではないですか?」
小首を傾げた堺が言うが。
そんなことっ…。紫輝は驚愕の目で堺を見やる。
「猫は、こたつを見たら、とりあえず入る、そういう生き物なんだよ、堺っ。きっと、遺伝子に組み込まれた、絶対的な指令に違いない。なのに、入るななんて…俺は言えないよぉ」
「そうなのですか? すみません、猫にそのような使命があったとは知らずに…」
「堺、真に受けるな。あいつの猫に対する見識は、だいぶおかしい」
紫輝と堺が、あんまりツッコミどころの多いやり取りをしているものだから。
青桐は我慢できなかった。
「いやいや、紫輝はおかしくなんかないぞ。いくら入るなと言ったところで、ライラは四辺あるいずれかの入り口から必ず侵入する。しかも強引に。ゴリゴリと。隠密も真っ青なくらい、いつの間にか入っている。それが、猫なのだ」
手裏基成が、真剣にライラのことを主張している。
その図が、凄まじい違和感で、みんなの目を胡乱にさせた。
「…この人は、本当に手裏基成なのか?」
「それは、間違いない…はずだ」
青桐の問いかけに、藤王が答え。
とりあえず、天誠は基成であるのは確定された。良かったよ。
まさか、そこから夢物語だったらどうしようかと、紫輝は一瞬、思ってしまった。
「そうなのぉ? 天誠が基成じゃなかったら、紫輝の結婚が無効になって、最高だったのにぃ」
頬を膨らませて、桃色さんが不満そうに言う。
月光はまだ、紫輝と天誠の結婚破棄をあきらめていないようだ。
「もう、結婚しているのか?」
藤王に聞かれ、天誠はうなずく。
「あぁ。祝言を済ませ、赤穂の血脈図に名を記した。あとは発表のタイミング…いい機会が来るのを待つのみだ」
「この村に、王国作っちゃえばいいんじゃね?」
そうしたら、青桐がそんなことを言うものだから、みんな目を丸くした。
「この村の子供たちが、無邪気で。俺は驚いた。最初、紫輝が。龍鬼が自然体で暮らせる村と言ったとき。堺は信じていなかったぞ? そんな村は見たことがないから、と。ここに来るまでに通った村でも、龍鬼だと知れたら、滞在するのも嫌という雰囲気で。すごく冷たくて。でも、この村は、温かいから。ぎこちないながらも、堺が、子供と笑顔で接するのを見て、ここに王国作ってもいいんじゃね? って、思ったんだ」
「この村では、狭すぎる。紫輝を隠れ里に閉じ込めておく気はない」
「すでに、ここは拠点として使用しているようだし。ここを起点に、勢力を拡大していくのもアリだと思うのだが?」
「その案は、悪くはない。しかし、勢力拡大となると、戦が激化する恐れがある。ここの立地は、ヘタをしたら、手裏と将堂に挟み撃ちにされかねないのだ。一騎当千の輩がそろっているとはいえ、さすがに軍相手に戦をするには、戦力が足りないしな」
問答は、天誠の立地が悪いという答えで、終了。
青桐は、むむっと唸った。
「そうか、この村は龍鬼に優しい、良い村だから。このような村が、いっぱいできたらいいなと、思ったのだが」
「そうだな、この村は私の理想にも近い。堺が笑顔で、心のままに過ごせそうだ」
青桐と藤王は、堺が住みよい村、つまり龍鬼に害のない環境を作ることに重きを置いている。
いわば、同じ場所を目指す同志であるわけだが。
四季村は、そんな彼らの理想郷であるのだろう。
「はっ、小さいなぁ。この村を全国展開するくらいの気合が欲しいんだが?」
しかし天誠はあおるように、彼らを鼻で笑った。
「そのためにも、穏便に手裏と将堂を統合したいのだ。互いに現時点で、税の徴収など、村とのつながりが確立している。組織が機能しているので、それをうまく利用すれば、終戦後、各村に差別を撤廃する指導を行き渡らせられるだろうと、俺は考えている。具体案もすでにできている」
「警察だね」
「役場とかもな」
天誠の話に、紫輝が笑顔でけいさつと言うので。
ふたりの中では、差別を撤廃された未来の景色が見えているのかもしれないと、青桐は思った。
「けいさつって、なんだ?」
やはり藤王は知りたがった。天誠は酒をあおりながら、説明する。
「警察は、村の治安を守る組織、といったところか。終戦したら、兵士が余るだろう? 急に無職で放り出すわけにはいかない。で、村ごとに治安を維持する兵士を配備するわけだ。役場も同様に。そこは文官などが勤め、税の徴収や戸籍…血脈図のようなものだが、それを管理させる。国の直轄である彼らが指導することで、差別観は薄まっていくと考えているのだ」
「紫輝、おまえの弟はすげぇな。俺らの代の先のことまで考えている。俺たちの代だけ良ければ、っていう発想じゃないのが、視野が広くて、なんか壮大」
青桐は素直に感嘆し、紫輝に笑顔を向けた。
ニヤリ、だが。
「どうかな? 天誠は、俺が住みよい世界ってのを考えてくれてるだけだと思うよ。でもそれは、結果的に、次代にもつながることなんだよね。ま、天誠が頭良いのは否定しないよ。俺の自慢の弟だからな」
紫輝と天誠はニコリと笑い合い。そして再び、青桐に目を向けた。
「俺たちの代で、龍鬼の子供は望めないが。次代の龍鬼がどこで生まれても、そこで差別や奇異の目を向けられないような、そんな世界になっていると良いなって、俺も思うよ」
「なんで、子供ができないんだ?」
「だって、俺たちみんな、今の伴侶が大好きだからさ。伴侶を差し置いて女性と付き合うとかありえないだろ? 龍鬼は一途なんだからね。だから、俺たちの代では、龍鬼が子供を成すことはできないかなぁって。あ、藤王はアリか?」
藤王に、紫輝は視線を投げるが。
彼は首を横に振り、酒をあおる。
「女性と付き合う気などないから、私もナシだ。それに、堺が私の伴侶とならないのなら、龍鬼の私に相手など、もう現れることはない」
「あれ? その言葉、俺、つい最近聞いたな…あ、堺が言ったのと同じだ。二ヶ月前くらいに、堺も。俺が恋人にならないなら、龍鬼の私にそのような人など、もう現れたりしないって、言ってた。兄弟そっくりだね?」
「「は?」」
藤王と青桐が、同時に反応し。同時に堺へ振り向いた。
間に挟まれた堺は、白皙の顔が、心なしか青くなっている。
「ってことは藤王も、あっつい恋愛してくれる人、きっと現われるよ? 堺に青桐が現われたようにな」
紫輝は良いことを言ったのだが。
藤王も青桐も聞いちゃあいなかった。
「いやいや、待て待て。じゃあ、堺とこいつは、まだ二ヶ月付き合っていないということか? それで、もう伴侶呼ばわりなのかっ?」
「っていうか、堺、やっぱり紫輝に求婚していたのか? 今は俺だけだよな? な?」
堺は、わちゃわちゃ言うふたりに。
求婚ではないのです、とか。つい最近恋を知ったと言ったではありませんか、とか。丁寧に言い訳をするのだが。
ああぁぁ。もう、みんな、落ち着いてっ。
「あれぇ、そういえば廣伊がいないなぁ。廣伊がいれば、龍鬼が全員集合だったのに、残念だねぇ?」
話題を変えようと思って、少し大きく声を張ったのに。
「紫輝…それでは誤魔化せないよ」
月光が冷静にツッコんだ。ですよねぇ?
仲間が増えたので、赤穂の屋敷で宴席を設けることになった。
居間は、まぁまぁ大きな部屋で、真ん中に大きな囲炉裏があるのだが。
まずはライラがデーンと寝ているところに。
囲炉裏とライラの間に、天誠と紫輝が座り。紫輝の横には月光、そして赤穂と続き。さらに赤穂の隣に青桐が。そして、その横に堺。最後は藤王、その横に天誠という。囲炉裏を囲む人脈の輪ができていた。
誰かが誰かの友達で、みんな友達。すっごーい。
みんなは、ひとっ風呂浴びてきて。作務衣に綿入り丹前というラフなスタイルで、くつろいでいるが。かたわらには、もれなく剣が置かれていて。物騒なんだよねぇ。
武人は剣を手放せない生き物なんだな、きっと。
みんなの目の前には食膳があり、さらに屋敷の使用人が、そつなく御酒を注いでいく。
でも紫輝は、お茶だけど。
「あーあ、この中で俺だけ未成年か。ま、お酒なんかマズいから、いいんだもんね」
負け惜しみを吐いてみる。
すると月光がニコニコして紫輝に言う。
「いいの、いいの。紫輝はまっずいお酒なんか飲まなくて。ほら、パパが茶碗蒸しあげるからな?」
「ぱぱって、なんだ?」
藤王が聞くのに、天誠が答える。
「三百年前の言葉で、お父さんって意味だ。月光はパパという響きが気に入ったようだ」
紫輝は、月光から茶碗蒸しをわけてもらい、ご満悦。
木製のお匙で薄黄色のつるつるをすくって食べると、ほっぺが落ちそう。
軍にいると、こういう繊細な御料理って出てこないから。幸せである。
「この前、屋敷に掘りごたつを作ろうかと思って、考えてみたんだが…」
「こたつっ、人をダメにする、あの魅惑のこたつかっ。欲しいっ」
紫輝は目をハートにして、天誠をみつめた。
囲炉裏も風情があっていいのだが。この世界の家は気密性が高くないから、やはり、どこか薄ら寒くて。
こたつがあったら、今の季節を乗り越えられそう。
「ほりごたつって、なんだ?」
またもや藤王が天誠に聞く。藤王は知識欲が旺盛だなぁ。
もしくは、天誠がなにを考えているのか、興味があるのかもしれないけれど。
「人が座れるように、たとえば、この囲炉裏の部分だけ床板を下げ。その上に机を置き。布団をかけて天板を置く。中には七輪などをたけば、暖気が逃げない掘りごたつができる。以前の世界にあった道具だ」
なるほど、それなら電気を使わないから、機械を作らなくてもいいんだな。
紫輝と天誠は、この世界に機械を持ち込まない、作らないようにしようと決めていたから、どうするのかなぁと、思っていたのだ。
「しかし、そこでひとつ問題が。こたつの中にはもれなく、猫が入るっ」
「あぁ、入るね」
断言し、紫輝は、想像した。
掘りごたつの中に、みっちりと詰まる、大きなライラの姿を。
それはそれで、可愛いぃ。
「こたつの中に七輪を置いていたら、ライラが燃えるかもしれない。だから、掘りごたつ案は、振出しに戻った。もう少し考えなければ…」
「紫輝が、ライラさんに、こたつの中に入らないでとお願いすればいいのではないですか?」
小首を傾げた堺が言うが。
そんなことっ…。紫輝は驚愕の目で堺を見やる。
「猫は、こたつを見たら、とりあえず入る、そういう生き物なんだよ、堺っ。きっと、遺伝子に組み込まれた、絶対的な指令に違いない。なのに、入るななんて…俺は言えないよぉ」
「そうなのですか? すみません、猫にそのような使命があったとは知らずに…」
「堺、真に受けるな。あいつの猫に対する見識は、だいぶおかしい」
紫輝と堺が、あんまりツッコミどころの多いやり取りをしているものだから。
青桐は我慢できなかった。
「いやいや、紫輝はおかしくなんかないぞ。いくら入るなと言ったところで、ライラは四辺あるいずれかの入り口から必ず侵入する。しかも強引に。ゴリゴリと。隠密も真っ青なくらい、いつの間にか入っている。それが、猫なのだ」
手裏基成が、真剣にライラのことを主張している。
その図が、凄まじい違和感で、みんなの目を胡乱にさせた。
「…この人は、本当に手裏基成なのか?」
「それは、間違いない…はずだ」
青桐の問いかけに、藤王が答え。
とりあえず、天誠は基成であるのは確定された。良かったよ。
まさか、そこから夢物語だったらどうしようかと、紫輝は一瞬、思ってしまった。
「そうなのぉ? 天誠が基成じゃなかったら、紫輝の結婚が無効になって、最高だったのにぃ」
頬を膨らませて、桃色さんが不満そうに言う。
月光はまだ、紫輝と天誠の結婚破棄をあきらめていないようだ。
「もう、結婚しているのか?」
藤王に聞かれ、天誠はうなずく。
「あぁ。祝言を済ませ、赤穂の血脈図に名を記した。あとは発表のタイミング…いい機会が来るのを待つのみだ」
「この村に、王国作っちゃえばいいんじゃね?」
そうしたら、青桐がそんなことを言うものだから、みんな目を丸くした。
「この村の子供たちが、無邪気で。俺は驚いた。最初、紫輝が。龍鬼が自然体で暮らせる村と言ったとき。堺は信じていなかったぞ? そんな村は見たことがないから、と。ここに来るまでに通った村でも、龍鬼だと知れたら、滞在するのも嫌という雰囲気で。すごく冷たくて。でも、この村は、温かいから。ぎこちないながらも、堺が、子供と笑顔で接するのを見て、ここに王国作ってもいいんじゃね? って、思ったんだ」
「この村では、狭すぎる。紫輝を隠れ里に閉じ込めておく気はない」
「すでに、ここは拠点として使用しているようだし。ここを起点に、勢力を拡大していくのもアリだと思うのだが?」
「その案は、悪くはない。しかし、勢力拡大となると、戦が激化する恐れがある。ここの立地は、ヘタをしたら、手裏と将堂に挟み撃ちにされかねないのだ。一騎当千の輩がそろっているとはいえ、さすがに軍相手に戦をするには、戦力が足りないしな」
問答は、天誠の立地が悪いという答えで、終了。
青桐は、むむっと唸った。
「そうか、この村は龍鬼に優しい、良い村だから。このような村が、いっぱいできたらいいなと、思ったのだが」
「そうだな、この村は私の理想にも近い。堺が笑顔で、心のままに過ごせそうだ」
青桐と藤王は、堺が住みよい村、つまり龍鬼に害のない環境を作ることに重きを置いている。
いわば、同じ場所を目指す同志であるわけだが。
四季村は、そんな彼らの理想郷であるのだろう。
「はっ、小さいなぁ。この村を全国展開するくらいの気合が欲しいんだが?」
しかし天誠はあおるように、彼らを鼻で笑った。
「そのためにも、穏便に手裏と将堂を統合したいのだ。互いに現時点で、税の徴収など、村とのつながりが確立している。組織が機能しているので、それをうまく利用すれば、終戦後、各村に差別を撤廃する指導を行き渡らせられるだろうと、俺は考えている。具体案もすでにできている」
「警察だね」
「役場とかもな」
天誠の話に、紫輝が笑顔でけいさつと言うので。
ふたりの中では、差別を撤廃された未来の景色が見えているのかもしれないと、青桐は思った。
「けいさつって、なんだ?」
やはり藤王は知りたがった。天誠は酒をあおりながら、説明する。
「警察は、村の治安を守る組織、といったところか。終戦したら、兵士が余るだろう? 急に無職で放り出すわけにはいかない。で、村ごとに治安を維持する兵士を配備するわけだ。役場も同様に。そこは文官などが勤め、税の徴収や戸籍…血脈図のようなものだが、それを管理させる。国の直轄である彼らが指導することで、差別観は薄まっていくと考えているのだ」
「紫輝、おまえの弟はすげぇな。俺らの代の先のことまで考えている。俺たちの代だけ良ければ、っていう発想じゃないのが、視野が広くて、なんか壮大」
青桐は素直に感嘆し、紫輝に笑顔を向けた。
ニヤリ、だが。
「どうかな? 天誠は、俺が住みよい世界ってのを考えてくれてるだけだと思うよ。でもそれは、結果的に、次代にもつながることなんだよね。ま、天誠が頭良いのは否定しないよ。俺の自慢の弟だからな」
紫輝と天誠はニコリと笑い合い。そして再び、青桐に目を向けた。
「俺たちの代で、龍鬼の子供は望めないが。次代の龍鬼がどこで生まれても、そこで差別や奇異の目を向けられないような、そんな世界になっていると良いなって、俺も思うよ」
「なんで、子供ができないんだ?」
「だって、俺たちみんな、今の伴侶が大好きだからさ。伴侶を差し置いて女性と付き合うとかありえないだろ? 龍鬼は一途なんだからね。だから、俺たちの代では、龍鬼が子供を成すことはできないかなぁって。あ、藤王はアリか?」
藤王に、紫輝は視線を投げるが。
彼は首を横に振り、酒をあおる。
「女性と付き合う気などないから、私もナシだ。それに、堺が私の伴侶とならないのなら、龍鬼の私に相手など、もう現れることはない」
「あれ? その言葉、俺、つい最近聞いたな…あ、堺が言ったのと同じだ。二ヶ月前くらいに、堺も。俺が恋人にならないなら、龍鬼の私にそのような人など、もう現れたりしないって、言ってた。兄弟そっくりだね?」
「「は?」」
藤王と青桐が、同時に反応し。同時に堺へ振り向いた。
間に挟まれた堺は、白皙の顔が、心なしか青くなっている。
「ってことは藤王も、あっつい恋愛してくれる人、きっと現われるよ? 堺に青桐が現われたようにな」
紫輝は良いことを言ったのだが。
藤王も青桐も聞いちゃあいなかった。
「いやいや、待て待て。じゃあ、堺とこいつは、まだ二ヶ月付き合っていないということか? それで、もう伴侶呼ばわりなのかっ?」
「っていうか、堺、やっぱり紫輝に求婚していたのか? 今は俺だけだよな? な?」
堺は、わちゃわちゃ言うふたりに。
求婚ではないのです、とか。つい最近恋を知ったと言ったではありませんか、とか。丁寧に言い訳をするのだが。
ああぁぁ。もう、みんな、落ち着いてっ。
「あれぇ、そういえば廣伊がいないなぁ。廣伊がいれば、龍鬼が全員集合だったのに、残念だねぇ?」
話題を変えようと思って、少し大きく声を張ったのに。
「紫輝…それでは誤魔化せないよ」
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