【完結】異世界行ったら龍認定されました

北川晶

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85 負のループ

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     ◆負のループ

 紫輝が、天誠と藤王と、ともにいたとき。高台から、赤穂と月光が降りてきた。
 赤穂は、作務衣に丹前羽織っているラフなスタイルだが。月光は、着物を重ね着して、エプロンみたいな腰巻をつけた、この世界の女の子が好むスタイルだ。
 なんというか、膝下のロングスカートにロングブーツ履いてるボブカット女子に見えるよ。

「わぁ、本当に藤王がいるぅ。首尾よく仲間に引き入れられたみたいだね?」
 ピンクの大翼をわさわささせながら、月光が言うのに。藤王は小首を傾げる。
 まぁ、つい最近、金蓮暗殺の場にいた月光とも、顔を合わせていたのだが。
 藤王の、月光の印象というのは、赤穂の陰に隠れて、おとなしくしているフラミンゴ。というものだったのだ。

 こんな、きゃぴきゃぴした女子ではない。

「赤穂様、瀬来様、その節はどうも…」
 一応、目礼して謝る藤王。
 肩身狭そう…と紫輝は思う。
 ま、仕方ないよね。赤穂を傷つけたし。

「本当だよねぇ、困っちゃったよねぇ、こんなことになっちゃうなんてねぇ…」
 そうしたら、やっぱり月光が、ネチネチし始めたよ。
 ですよね。言うよね。

「もう、月光さん。チクチク言わないの」
 頬を膨らませる月光の背中、というか肩を押して、紫輝は早々に高台に上がろうとした。
 トラブル回避だ。
 そうしたら、紫輝の後ろをついてきたライラが、藤王の隣に通りがかったとき、言った。

「あなた、おんちゃんを泣かせたことは、どうやらごかいだったみたいね。いいわ、ゆるしてあげる。白いのどうしで、あたしがお嫁さんになってあげてもいいわよ?」
「ダメッ」

 急に紫輝が大きな声を出すから、月光はひえっと、翼をすくめた。
 月光にはライラの声は聞こえていない。

 紫輝はライラのそばに寄ると、首に抱きついて、懇願した。
「駄目だよぉ、ライラは俺のお嫁さんになるんだろう? 白いの仲間だろうと、ライラはお嫁に行かせないからっ」
 最初の方はライラに、後ろの方は藤王に向かって紫輝は言った。
 でも、藤王はきょとんだ。

「おまえはなにを言っているのだ? つか、これも。また文句言っているのか?」
 藤王は眉間にしわを寄せて、これ、とライラを指差す。あれ?

「ライラの言葉、聞こえてないの? でも、最初の頃、話してたのに」
「棘を抜いたら、聞こえなくなった」
 しばらく無言で、紫輝と藤王がみつめ合っていたが。
 そこに天誠が、注釈を入れる。

「二年前からまとっていた紫輝の能力の欠片と、ライラの呪いが解けたから、ライラの話は聞こえなくなったんだろう」
「じゃあ、ライラがお嫁さんになる話は、なしで。お話しできないんだって。残念だねぇ」
「あら、おはなしできないの? ざんねんねぇ」
 紫輝とライラは、お嫁の話をとっととチャラにして、月光とともにルンルンで高台に登って行った。
 それに堺と青桐も続いていく。

「…なんだったんだ?」
「ライラは神秘なので、深く考えるな」
 さっぱり状況が読めない藤王に、安曇は笑いかける。
 愛想の良い安曇、なんか怖い。

「藤王、ちょっと話があるんだが」
 そこに、赤穂が声をかけてきた。
 藤王は、彼をじっくり見やる。

 先ほど、青桐と話したが。目の前の赤穂は、やはり瓜二つ。しかし、まとう気迫が、段違いだと感じた。
 表面だけ見れば、別人だと思う者は、少ないだろうが。
 見る人が見たら、別人だとわかる。
 でもそういう相手は、だいたい手練れの者。
 幹部級はこの顛末は知っているだろうから、支障はないのかもしれない。

「赤穂と藤王がふたりきりというのは、良くない。俺も同席させてもらう」
「だいぶ、赤裸々な話をするつもりだ。俺は良いが、藤王はもしかしたら、安曇には知られたくない話かもしれないが?」
 気遣うように、赤穂が藤王を見やる。
 将堂の猛犬、血塗られた闘将と言われ。手裏兵も、味方の将堂兵も恐れるという、赤穂が。意外と配慮のできる男なので、驚いた。
 藤王も、赤穂のことを、誰彼かまわず斬るような、血に飢えた男のように思っていたので。

 でも、よくよく考えると。赤穂の評価は、金蓮が口にしたことばかりだ。
 藤王は、弟の上司であった赤穂と、普通に会話していたし。あの繊細な弟が、彼のそばにいて、壊れることはなかったのだから。

 本人を見ずに、他人の評価で彼を評価した、己が愚かだった、ということなのだろう。

「ちょうどいい。堺や紫輝の前では言えなかった、私の根幹に関わる部分を、今回の計画の主軸である安曇には知っておいてもらいたい。私が将堂憎しな件、赤穂、おそらく、その辺の話であろう?」
「たぶん。俺の屋敷で宴席の用意がされているから、本邸で話してもいいか?」
 安曇がうなずいたので、三人は高台に上がっていき、人気のない本邸に入っていった。

 その間も、藤王は思案していた。
 青桐と気迫が段違い、とはいえ。やはり丸くなったような気がする。

 堺が十五歳のとき、藤王は将堂を離れたが。そのとき、赤穂は十三歳。年若く当主になった金蓮のことを、あなどる者や、苦言という名の暴言を吐く輩を、問答無用で斬り捨てていた。
 あの頃の赤穂は、ガリガリにとがっていた。

 紫輝は、金蓮と赤穂の子供だという。
 この八年で、赤穂にも、いろいろあったということなのだろう。

 本邸には、先触れをしていたのだろう。居間の囲炉裏には火がついて、室内は暖かい。
 安曇の腹心である亜義が、お茶を人数分用意すると。安曇が言った。

「亜義、人払いしろ。おまえも下がっていい」
 小さく頭を下げると、亜義は部屋を出て。辺りは静かになった。
 この村は、亜義のような隠密が、そこかしこにいる気配がある。
 安曇は紫輝を守るため、と言うのだろうが。将堂の要人も、この村には集結しつつあり。万全の警備がなされているのだろう。

 話を始める前に、藤王は赤穂に頭を下げた。
「赤穂様、申し訳ありませんでした。貴方を殺すつもりは、毛頭なかったのですが…」
「矢を射たのは、銀杏なのだろう。おまえは指示したにすぎない。ま、痛かったがな。傷が、というより。息子の命を縮めたかもしれないことに…」

 赤穂の言葉に、安曇も深くうなずく。
「それは、俺も痛かった。紫輝が千夜の傷を治したとき、消耗が激しかったので、二度と使うなと釘を刺してはおいたのだが。ま、父親が死ぬとなったら…やはり紫輝は止まってくれなかった」

 赤穂は、父親と言われ、ニヤリとするが。
 ただ嬉しがってもいられないという、複雑な表情を見せた。

「赤穂様の傷を治したのは、紫輝なのか?」
 藤王は安曇にたずねる。
 どうやって? あの龍鬼は傷も癒せるのか?

「紫輝は、時を操る龍鬼だ。その物の時間を巻き戻して、維持している。という感じか」
「傷を治すのではなく、その物の時間を巻き戻す? なんて出鱈目な能力だ」
 そして、膨大で、圧倒的な能力だ。
 藤王は、己の能力がそれなりに高いと自負していた。
 特殊能力に関しても、己の力が強いから、他者の特殊能力を模倣できるのだと思っている。

 しかし、紫輝は。己よりはるかに強力な龍鬼で。
 だから己は、時空の穴に手を突っ込むことしかできなかった。
 紫輝の能力の片鱗をなぞったにすぎなかったのだと、今、気づいた。

 時間を巻き戻して、維持?
 いくら模倣する能力があったとしても、そんなのできる気がしない。

「…技を繰り出すことが、龍鬼の寿命に関わるという噂がある。知っているか?」
 赤穂が安曇に聞く。それは紫輝の寿命に関する、繊細な話題だ。

「あぁ、俺も一時は、龍鬼として過ごしていたので。そのとき、これほどに差別される龍鬼というものは、いったいなんなのかと、研究したことがある。そこで、そういう文献を読んだことがあった。まぁ、理にかなっている。普通は使えない能力を使えば、肉体に負担がかかるのは道理だ。紫輝は子供のときに、時空を超えた。それは、かなりの大技だろう。加えて千夜と赤穂の傷を治した。もう大技は使わせねぇ」

「わかっているなら、いい。で、藤王への話というのは、他でもない。金蓮と寝たか?」
 雑談からの、唐突な本題突入に、藤王は飲んでいたお茶が気管に入ってむせた。
 先ほどは、配慮のできる男かと思って、感心したのに。やっぱり無神経だった。
 そして無神経に、赤穂は話を続ける。

「人格者であった藤王が、将堂を裏切るというのが、俺はどうにも信じられなくてな。だが、人格者であるがゆえに受容できないものがあるのだろうと、安曇に言われ…そして思い当たったのだ。将堂を見限り、金蓮を暗殺しようと思うほどの、屈辱的ななにか。煮え湯を飲まされたと感じるほどのなにかが。金蓮と関係を持った折に、あったのだろう?」
 ようやく息を整え、藤王は睨むような眼力で赤穂を見やる。

「…っ、寝る、が、性交を指すのなら、寝ていない。一方的に体をいじくられたがな」
「なるほど。それは確かに、煮え湯に等しいな。心の伴わない性行為ほど、心を傷つけるものはない。俺も体験したからわかるぞ。兄上は…俺を藤王だと思い込んでいた」

 驚きに、藤王は目をみはる。
 自分がいなくなったことで、金蓮の毒牙が赤穂に向いたのかと思い、いたたまれない気になり。顔を曇らせる。

「俺は、月光を愛していたが、そのときは一緒にいられなくて、苦しくて。同じ傷痕を兄上と舐め合ったのだ。だから、藤王がそんな顔して、気に病むことはない。ある意味、同意だった。互いに間違った、同意ではあるが…」
 苦々しい顔つきで、赤穂は唇を噛む。

「だが、紫輝が生まれたことは、最上の喜びだ。紫輝には、両親が愛し合って生まれたのだと、言ってやりたかったが。あの子はさといから、それも隠しきれなくてな。しかし、あの子は月光との仲をつなぐ、かすがいになってくれて。紫輝がいなかったら、俺と月光は、いまだ、暗闇の中を歩いていたかもしれない。ただ存在するだけで、愛おしい子だ。だから俺は、もう金蓮に憎しみは向けない。ただ、ひたすらに、あの子を守るつもりだ」

 藤王は、きゃぴきゃぴした、先ほどの月光を思い出す。
 突出した頭脳を持ち、将堂の宝玉と誉めそやされていたはずなのに。彼はなぜか、華々しく前面に立つことなく、赤穂の陰に隠れていたという印象だった。

 でも今は、すごく明るい顔つきで、紫輝たちと楽しそうに過ごしている。
 赤穂と彼、そして金蓮の間に、どれほどの紆余曲折があったのか、それは知らないが。
 陰にいた月光に、光がさし。赤穂とふたりで、明るい道を歩いているのなら。それは喜ばしいことだと思う。

 しかし。赤穂には、得るものがあった。だから許せるのだろうが。
 藤王は、金蓮の仕打ちによって、すべてを失ったと言っても過言ではない。

 赤穂になにを言われても、到底許すことなどできない。そう思っていた。

「金蓮を許せ、とは言わない。だが、知っていてもらいたいのは。金蓮も父上に性虐待をされていたようなのだ」
 声もなく、藤王は驚愕し。赤穂をみつめた。
 彼はたんたんと話していく。

「父が『男ではない、この醜い体を、美しいと褒めてくれたのだ』と、金蓮は俺に言った。いつか男の体にしてやると言い、体に触れたのだと…」
「おぞましいっ、聞きたくない」

 親が子供の体に触れるなど、あってはならない。そう思い、藤王は赤穂からも顔をそむけたが。
 そこで、藤王は思い出した。

「不破が、将堂山吹が大罪を犯したので、暗殺したと…言っていた」
「なに?」

 赤穂も安曇も、藤王にいぶかしげな顔を向けた。
 先代、不破が。山吹を殺したという話は、藤王も初めて口にするので。
 ふたりが驚くのは、無理もないことだ。

「先代の不破は、千里眼という特殊能力を持ち。不遇な扱いを受ける龍鬼を助ける、救済の龍鬼だった。だが、その救済には、子供への虐待も含まれていて…前当主が金蓮を虐待していたというのなら、彼が山吹様を暗殺したのも、道理だった…のか?」

「忌まわしい、負のループだな」
 藤王のつぶやきに、安曇もつぶやいた。
 るうぷという言葉がわからないが。
 赤穂はため息交じりに『ふのるうぷってのは、なんだ?』と安曇にたずねている。

「虐待が虐待を呼ぶ。親から虐待された子供が、自分が親になったとき。自分もそうされた、親はそうするものだと思い込み、同じく子を虐待してしまう。そしてその子が、また己の子に…というのが負のループという。ループというのは、輪っかのことだ。延々と回り続ける。誰かが断ち切らないと、いつまでも虐待はなくならないのだ」

 藤王は安曇の話を聞いて、ゾッとした。
 自分は、金蓮にされたことを、堺にもしようとしたのだ。
 同意なく、激しいキスをしてしまった。
 まだキスの意味も知らなかった、無垢な弟に。

 白皙の顔を青くする藤王を、安曇は肩を叩いて励ました。
「堺は、大丈夫だ。紫輝の話を聞く限り、純粋、純真、ピュアッピュアだ。堺はすでに、忌まわしい輪っかからは外れているさ」
「そうか…そうだな。やはり堺は、私では駄目なのだ。青桐が、優しく、大切に愛してくれるというのなら。彼に任せる方が、堺のためになる」

「…堺に手を出したから、八年も雲隠れしていたのか?」
 空気を読まない赤穂が、デリケートな部分に足を突っ込んできた。と思い、安曇は半目になる。

「熱を出した堺に、口移しで水を与えながら…キスをしたのだ」
「は? キス、だけか? おいおい、俺なんざ十歳前にベロチュウは済んでたぞ。堺もだが、藤王も負けず劣らずの純粋、純真じゃね? それだけで八年は隠れすぎだっつうの」
「不破に、そうしろと言われたのだっ」

「「真面目かっ」」
 赤穂と安曇、ふたり同時に言われて。
 え? そんなに? と思ってしまう。

 でも。字面にすると、キスしただけ、なのだが。
 藤王は、無垢な弟によこしまな想いを向けたことこそが、大罪に値すると思っていて。

 自分のことを、自分が許せないのだ。

「不破は、私の知る限り、すべての龍鬼を助けたと言える。廣伊を倉庫で育てた両親も、殺したらしい。堺を手にかけようとした私の両親も。そして両親を殺そうとした私を、親殺しにしないよう、不破が両親を手にかけ。私の心も守ってくれた。…あの場に私が残ったら、堺は私によって負のループとやらに巻き込まれたかもしれない。それも、おそらく阻止してくれたのだ」

「まぁ、確かに。負のループを断ち切るのは大変だと言われている。結果的には、それで良かったのかもしれないな。不破が納得しているなら、きっと、それが最善だったのだろう」

 安曇は思う。三百年前は平和な世の中だったが、虐待により子供が殺される事象は、後を絶たなかった。
 人のさがなのか、何百、何千年経っても、虐待もいじめも差別もなくならないというのは、人の心に進歩がないとしか言いようがない。

「先代、不破の意志を継いだおまえに。俺は、命を救われた。銀杏も、手裏家の座敷牢から出された。俺が孤児たちを働き手にしようと考えついたのは、おまえにならってのこともある。不破は多くの者を救ってきたのだ。堺のことで、気に病んでいることもあるだろうが、今の彼は、幸せそうじゃないか。戦の世だから、おまえによって傷つけられた者がいないとは言わないが。少なくとも、おまえの大事な人のことを、おまえは傷つけていない。だからもう、自分を責めるのはやめろ。おまえは、おまえが考えている以上に、立派で、真面目な男だよ」

 安曇の言葉を噛み締め、藤王はひとつうなずく。
「…そうだな。これ以上は自虐になる。赤穂、金蓮のことは、今はなんとも言えないが。一考はするつもりだ。それよりも今は、終戦に向けて進むことが建設的だろう。己の憎しみはいったん脇に置くことにする」

「そうしてくれると、ありがたい。不用意な敵対行動は、終戦への道の妨げになる恐れがある。手裏と将堂を統合するまでは、突出せず、今までどおりを心掛けたい」

「不用意…金蓮暗殺を起こしてしまったが…というか、赤穂はなぜ、将堂に戻らないのか? 一度死んだのか?」
 今回の金蓮暗殺が、不用意な敵対行動とみなされ、我知らず安曇の足を引っ張ったのではないかと、藤王は心配になった。
 そこに、赤穂が言う。

「死んではいないのだが。金蓮が、藤王を連れ戻せなかったという失態を隠すため、すべてなかったことにした。だから、金蓮暗殺事件はなかったし、そこで巻き込まれて瀕死になった俺は、捨て置かれ。代りを青桐が勤めているところだ。あれ、言葉にすると、案外ひどいな、兄上の所業は」
 ハハハと赤穂は軽く笑うが。
 それでいいのかと、藤王は思う。なんか、不憫。

「むしろ、今の位置は、俺にとって好都合だ。月光は、あまり体が強くない。月光が軍に戻ったのは、紫輝を探すためだったが。望みが叶ったからには、早めに軍から引き剥がしたかったので、いい機会だったな。それに、この位置は俯瞰ふかんして物事を見れる。べったり張りついて紫輝を守りたいとは思うが、それは廣伊や堺に任せるよ」

「廣伊も、もう仲間か?」
 たずねると、安曇がニヤリと、悪い男の顔で笑った。

「あぁ、おまえが加わり、現存する龍鬼は、すべて紫輝が掌握することになった」
 背筋がゾワッとした。
 紫輝がこの世界に来たのは、四月、まだ一年経っていなかった。
 そんな短期間で龍鬼を掌握するなんて…。

 龍鬼は、迫害を受け、力で従わせられていることが多いので、すごく臆病で警戒心が強い。
 柔らかい笑顔で、蝶を追いかけていたのに。戦場に出て、笑顔を凍らせてしまった堺も。
 倉庫で育てられ、人と関われず、村人から袋叩きにされ、人間不信で表情を失った廣伊も。
 藤王がどれだけ親身に接しても、心を開かせることはできなかった。

 いったい、なにをどうしたら、そのようなことができるのだ。
 でも。堺の、紫輝に向ける信頼の目を見れば。
 その安曇が言った『掌握』という言葉が、ただのお友達、のような軽いものではないのだとわかる。

「それは…やべぇな」
 それ以外の言葉が浮かばなかった。
 安曇と紫輝、このふたりの兄弟に、己がなにをしてやれるのか、それはわからないが。

 とりあえず藤王は、安曇に従っていようと思うのだった。思考停止、である。

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