【完結】異世界行ったら龍認定されました

北川晶

文字の大きさ
上 下
106 / 159

番外 筆頭参謀、里中巴 5   ★

しおりを挟む
 本拠地に入り、本当なら青桐邸で、青桐の准将としての教育を続ける予定だったが。
 不慮の出来事が起き、今は、堺の屋敷に世話になっている。

 堺の指導のおかげか、青桐は着々と力をつけ、准将として振舞えるようになってきたが。
 記憶喪失の者に書類仕事は任せられない。
 本拠地に戻って、少しはのんびりできるのかな、などと甘く考えていた巴は。毎日の書類仕事に、げんなりしている。
 今までの経過についての報告とか、人事案とか、下から上がってくる作戦についての詳細とか。
 あぁ、紙の無駄遣い。裏に絵とか描きたい。

「巴、今日はここに泊まろう。この雨じゃ帰れない」
 書類に集中していた巴が顔をあげると、外はすっかり日が落ちて。さらには雨と風がすさまじい感じになっていた。
 冬の嵐だ。
 堺の屋敷まで、馬で十分ほどかかるし。この世界では、雨の夜中、灯りのない外を出歩く人はまずいない。

「日が落ちる前に、教えてくれれば良かったのに。僕が集中すると、周りが見えなくなるたちだって、幸直はわかっているだろう?」
「日が落ちる前だって、雨がひどくて帰れなかったよ。別室に職員が寝床の準備を整えてくれたから、今日は仕事を終えよう」

 今、巴たちがいるのは、指令本部なので。本来は、人が泊まるような施設ではないのだが。
 こうした突発的に帰れなくなる事態や、手裏の奇襲などに備え、寝泊りできる最低限のものは用意されている。
 寝床が敷かれているのは、机を端に寄せた会議室なので。本当に寝るだけだが。
 おにぎりと漬物、ランプ、あと清拭用の湯と手拭い、寝間着の浴衣が室内に置かれてあった。

 これは幹部仕様で。他の職員は大会議室で、着の身着のままの雑魚寝ざこねである。

 夕食をとったあと、軽く体を拭いて、浴衣に着替える。
 軍服は堅苦しいので、楽になった。
 本来は、基地や本部などにいるときは、戦闘態勢を崩さず、軍服着用を義務付けられている。
 寝るときだけ、防具は外していいのだが。
 でも、今日は土砂降りなので。こんな中、手裏は仕掛けて来ない。
 前線基地ならともかく、本拠地は将堂の領地のど真ん中なので、さらに危機感は薄くなる。

「巴、ちょっと話していいか?」
 布団の上に座って、あとは寝るだけという感じになったとき。幸直が切り出した。
 なにもすることはないので、嵐の夜長、お話は大歓迎である。

「昨日の午後、近況を知らせに、本邸に帰ったときに。妻が言ったんだ。妊娠五ヶ月だと。七月に休暇がありましたよね、ってさ」
「…え?」

 幹部は大体、四月から十月まで前線基地に詰める。
 その間、休みなしなのは厳しいので。一週間くらいだが、休暇をもらえるのだ。
 今年は六月に大規模戦闘があり、七月に手裏が兵を引いた。そこに合わせて休暇をもらったのだけれど。

「幸直は、七月の休暇に、帰郷はしなかったよな?」
 手裏の兵が引いたばかりで、気が抜けない状態だった。
 幸直と巴は、休暇をもらったのだが。ふたりで、地形調査に向かったのだ。
 奇襲で使えるような地形がないかを探しつつ、再び手裏が大規模戦闘を仕掛けてきたなら、すぐに基地に戻れるよう、近場に滞在していて。敵兵が陣を敷きやすい、湖の探索や。戦場に近い崖の状況。馬が走らせられる傾斜があるか、みたいなことを調べて回った。
 ふたり、だったが。
 逢引き、のような色っぽい雰囲気では決してない。
 話の内容は、ずっと戦術についてだったので。

 問題はそこではない。幸直が帰郷していないということは、だ。

「実は、ふたり目も、怪しいんだ。時期が微妙にずれていて。しかし、女性のことはわからないだろ? 十月十日というけれど、早いときも遅いときもあるし…」

 しかし、今度ばかりは全く身に覚えがないと。
 幸直に、ふたり目の子供が生まれたというのは、巴は噂に聞いたのだ。
 家族のことを、彼は巴にあまり話したがらないので、触れられたくないことなのだと思って。巴も、そのことは聞かないでいたのだが。

 まさか、疑念があって言えなかったのか?

「ぶっちゃけ、親父に寝取られたんだ。お姫様は屋敷から出ないし、親父はまだまだ男盛り。俺の母親が亡くなって久しいしな。クマタカ血脈なら、誰だって構わないんじゃね?」

 自分の妻を、幸直はお姫様と揶揄して言う。側仕えを何人も連れて歩き、ふたりで話もままならないとか。
 夫婦というには歪な関係だと、以前も思ったことがある。
 幸直は自嘲するように、皮肉げに笑って肩をすくめるけど。

「馬鹿。僕の前で、強がるな」
 言ってやると、彼はいつもの自信満々の顔ではなく。
 どこか、途方に暮れた少年のような顔になる。

「なんて顔をしているんだ? 僕の知っている幸直は、快活明朗で、堂々としていて、威厳があって、美しい。僕の自慢の友達だぞ」
 一瞬、瞳を陰らせた幸直は。寝床をまたいで巴を抱き締めると、キスしてきた。
 いつもの、優しく甘いものではなく。
 必死にもがいているような、がむしゃらなくちづけ。
 あまり執拗だと、巴は一線引くのだが。今日ばかりは、幸直を突き放せない。
 巴は翼を広げて、彼の望むまま布団に押し倒されてやった。あおむけに寝るのは、翼を畳んでいるより、開いた方が痛くない。

「いいのか? このままじゃ、俺はおまえを抱くぞ。巴は男にられるの、嫌なんじゃないのか?」
 覆い被さる幸直が、巴を見下ろす。
 巴は、欲情して目をぎらつかせる、野性味のある幸直の顔に、ぞくぞくしていた。

「好きでもない男に犯られるのが、嫌なんだ。幸直のことは、好きだよ。こうして、幸直の気が晴れるなら、それでいいと思うくらいにはな。好き…」
 幸直は巴の頬に手を当て、情熱的にくちづけてきた。
 いつもはゆっくりと舌を舐めて、絡めて、吸い上げるような、穏やかで、心地よいキスが多いが。
 今は舌先を甘く噛んで、舌をきつくまといつかせ、絡ませる、ぐちゅぐちゅと口腔から音が鳴るような、激しいキスだ。

 こんなくちづけは初めてで。巴は目がくらみそうになる。

 一応、絵を描くうえで、女性も男性も、骨格や身体的特徴、女性なら丸みを帯びた肉付き、男性なら筋肉の盛り上がり、なんかを勉強しているし。
 基成として、ねやの教育を受けていて。
 体験はしていないけれど。まぁ、情交のやり方は女相手も男相手も、わかっている。

 わかっているけど…初めては初めて。
 ここは、経験者の幸直に任せてしまうしかない。

 それにさぁ、目が離せないよ。幸直がエロくて。

 深いキスをしているときに、ちらちら見える、舌の動きのなまめかしさとか。
 少し垂れて、色っぽいと思っている目元が、赤くなって、艶がいよいよ増しているとか。
 野生の獣が獲物を食らうように、己の乳首を貪っているとか。

 ヤバい。体がじんじんしてきて。もっと幸直を見たいのに、のぼせてしまう。

「すまない、巴。俺、おまえに甘えているな。でも、俺がこんな弱味見せられんの、巴だけだ。巴、だけが…俺の」
 襟を崩して首筋や胸を舐めていたが、幸直は巴の帯をほどいて。贈り物を包む風呂敷を開けるときのように喜々とした顔で、浴衣の前を開く。
 そして本格的に右胸に舌を這わせ、攻め始めた。
 平らな胸などつまらないだろうに、なんだかねっとりと美味そうに食いついている…。
 楽しいなら、まあ、いいけど。

 でも、こちらの感覚は、あまり余裕がないかな。
 くすぐったいような、チクチクするような。
 殴られているときでも、うめき声なんかあげなかったが。この感覚はなんだか、声を我慢できない感じ。

「…ふ、ぅぁ」
 喉が締まるのに、声は漏れて。
 その声に、幸直の舌の動きが早くなる。
 舌先を固くとがらせて、乳頭を弾いていじめるような。

「そ、れ…や、ぁ…幸直…あぁ」
「声、聞かせて。巴。巴を抱いてるって、実感したい」
 上目づかいでねだられて。
 その、少し可哀想な感じでみつめてくるの、ずるいぃ。

「や、め…も、ぉ…くすぐったい、って…ふ、んぁ」
「巴の、その、ひっそり微笑む顔、好き。俺の全部、許してるみたいで」

 巴の顔を両手で包んで、愛しげに見やると。幸直は極上の笑みを浮かべて、くちづけた。
 なに、それ。すっごく愛されているみたいで、誤解しちゃうぞ。

 幸直は、奥さんのことを好きではないかもしれないけれど。
 父に取られて、傷ついていないわけではない。
 ただ、傷ついた心を寄り添わせる相手に、己を選んだ。それだけのことなのだ。
 怪我をしたら、医者に診てもらうようなもの。
 深い意味なんて、ないのに。

「あおむけで、痛くないか? 初めては…後ろからの方が楽だと聞くが」
 そんな。うつ伏せになったら、幸直の快楽に耐えて眉をしかめる表情や、イく瞬間の顔とか、見られないじゃないか。
 そんな絶好の機会を奪われるわけにはいかない。

「このままが、いい。幸直の顔、見たい」
「見知らぬ誰かに、なぶられるように思っちゃうのか? そんな怖い記憶は、俺が消してやるからっ」

 いや、大抵の者は倒してきたので、幸直が想像するような、怖い思いはしていないんですが。
 なんか、そう思い込んで。強く抱き締めてくるし。

 イく顔が見たいなんて本当のことも言えないので、そのままにしておいた。

 ランプの灯が揺れる、薄暗がりの室内に、巴のあえぎが響くが。外の暴風の音が、かき消してくれる。
 巴のなやましい声音を耳にするのは、そばにいる幸直だけだった。

 幸直は巴の陰茎を上下に擦り立てて、先に極めさせた。
 だが、ここからが本番だと、わかっている。
 吐き出した巴の白濁を、幸直は蕾になすりつけ、指で後孔をこじ開けていく。
 そこは本来、入ってくる場所ではないから。無意識に幸直の指を拒んでしまうが。

 今日は幸直も止まらず。巴も彼を止めなかった。

 それに、体の奥に、気持ち良くなる場所があることを知っている。そこを探し当てることができれば、男性同士の情交でも快感を得られると、教育された。
 戦場では、男性ばかりの環境で過ごすので、手裏の当主がそうして欲を晴らすこともあるだろう…ということだったのだが。
 される側になってしまったな。

「顔見て、睦み合うの、初めてなんだが。いいな。巴がいい場所とか、よくわかる」
 つぶやいて、幸直は巴の内壁を、奥から抜ける際のところまで、じっくりと愛撫する。
 巴は、どこに触れられても、肌が粟立あわだつほどに感じるが。その中でも、飛びきり反応する部分があって。

 それをみつけると、幸直は無邪気に笑った。

 彼は大抵、格好いいのだが。たまに可愛い顔をする。その緩急がいいのだ。
「あ、あ…そこ…」
 指がかすめた、ある一点を、巴は訴える。
 すると幸直は的確に、そこを探し当てた。深く中に挿し込まれた幸直の中指が、念入りにその部分を撫でこする。

「あぁ、んぁ、そこ、あ、あっ、幸直、駄目、ゆっくりして…ん、そ、う…ゆっくり、んっ」
 先ほど出したばかりなのに、幸直にそこを撫でられていると、みるみる屹立がみなぎってくるのがわかる。
 幸直を受け入れて、体がつらくならないよう、そこを撫でられる感覚に集中していると。
 指が二本に増やされた。

「すご、柔らかい。あぁ、早く。巴を食いたい」
「いいよ、来て」
 少しぐらい、痛くても大丈夫だ。タコ殴りよりは、痛くないだろうと思うので。両手を広げて幸直を誘うが。
 彼は奥歯を噛みしめる癖に、首を横に振る。

「口、三角にして…煽るな。傷つけたくないし。痛くしたら、二度目はないかも」

 口、三角って、なに? とは思いつつ。
 唇を一度引き結ぶ。
 だらしなく、口開けてんなってことかな?
 ま、いっか。
 巴は薄く笑って、幸直にうなずいて見せる。もう大丈夫だから。

「そんな意地悪言わないから。ほら、来い」
 なんか、泣きそうな顔をして、幸直は眉間を寄せた。
 その顔、良いな。
 さっきの、奥歯噛み締めた顔も、悪い男みたいで良かったぞ。あとで描き起こそう。

「巴…俺の巴。大好きだよ」
 後ろから指を引き抜いた幸直は、手を広げた巴の胸の中に体を埋めて、抱き締める。
 巴も彼の首に腕を回した。
 そして、彼が腰を入れると、後孔に幸直の先端が当たり。そのままゆっくり侵入してくる。

「う、あ、あ…」
 幸直は巴の膝裏を手で掴んで、足を開かせて押し上げると。蕾の中にグンと剛直を突き入れてきた。
 一気に入ってきた物凄い質量に、さすがの巴も、息をのむ。
 痛い、ではなく。苦しい、だ。

「力、抜いて。巴、上手にできてるから…な?」
「あ、あぁ…。幸直。信じて、いるっ」
 己の精で濡れたそこが、ぐちゅぐちゅと音を立てている。
 幸直のモノで、かき回されているのがわかるが。彼は、それほど激しく動いているわけではなく。まだ、巴の中で己を馴染ませている最中だ。
 いきなり無茶するような男じゃない。
 幸直は優しいから。わかっているよ。

 体の中に、熱いものがある。幸直がいる。
 それを思うだけで、中がウズウズじんじんしてきた。もどかしくて、やるせなくて、せつなくて。

「幸直、も…うご、いて」
「巴っ」
 感極まったように、幸直は巴をかき抱き、唇で唇を深く結びつけると、腰を小刻みに律動させた。

「巴は、巴だけは、ずっと、俺のそばに、いるよな」
 わかってやっているのか、幸直は剛直で、巴の中の良い部分を常に刺激している。
 初めて、体の奥を開かれた、ヒリヒリした痛みやジリジリする痺れはあるものの。それすら押し流す勢いの快感が生まれていた。
 たぶん、これが経験値だな。
 初めての己から官能を引き出す、そうする余裕があるのだ。
 だから己は幸直に任せていれば、極上の情交を味わえるはず。

「いるっ。幸直のそばに、いる、ぁ…」
 一番大事な己の親友だ。君が望む限り、そばにいる。
 巴は、せつない想いを胸に秘め、幸直の頭をゆるりと撫でた。

 甘えん坊の、己の親友。
 ちょっとチャラいけど。その明るさが君の魅力だよ。
 みんなが君を好きなのに。なんで己だけだなんて言うのだろう?

 あぁ、わからない。考えがまとまらない。
 ひりつくほどの、ただれるほどの、強烈な刺激が、ずっと腰に渦巻いて、幸直が突き入れるたびに。ギュン、ギュン、と快楽が体の内で暴れるのだ。

「っん…あっ」
「イきそう? 巴、イける?」
 うかがうように、幸直が聞いてくる。
 たぶん、無意識に、中が収縮して、剛直を締めつけているのだ。

「ん、イく。わ、かんないけど…イき、そう…」
 言うと、幸直は巴の陰茎を手で握り、こすり上げた。剥き出しの神経のようなそこを、まさぐられれば、すぐにも性感が高まって。唐突に宙に放り投げられた感覚がした。

「…あぁっ」
 巴は体を身震いさせ、精を放った。
「くっ…」
 後孔がビクビクとわななく中、幸直が根元まで深く剛直を挿入する。腰を揺すりあげ。熱い精を己の中に注ぎ込んだ。
 体の奥、己の全部が、幸直のものになったという感覚で、心までも満たされる。

 は! 大事な瞬間、目をつぶってしまった。

 慌てて目を開けると。幸直はすでに、ニヤリと余裕の笑みを浮かべている。
 あぁ、究極の瞬間、見そびれた…。
 脱力して、抱えあげられていた足を、バタリと布団におろす。
 だが。身を起こした幸直は、浴衣を脱いだ。

 脱いでくれたっ!

 太い首の下に、盛り上がった胸筋、引き締まった筋肉は鎧のように、幸直の体躯を飾り立て。それは見事な、均整の取れた体つきだった。

 やった。ご褒美ですか? 一度はこの目で拝んでみたいと思っていた、極上の完璧肉体。最高です。

 そんなふうに見惚れていた巴を、幸直はじっくりと見下ろし。再び身を屈めてくちづけた。
 巴もありがとうの気持ちを込めて、そのキスを迎え入れる。
 眼福です。御馳走さまです。

 しかしキスの熱量はどんどん高まっていく。
 舌を、己の舌に巻きつけて、ねっとりと絡めて。先ほどの余裕のないがむしゃらなキスとは別物の、濃厚で甘ったるくて、しつこい接吻せっぷん

「ん…んふぅ…っん?」
 情交は、終わったのかと思ったが。体の中の剛直は、みるみるみなぎっていき、ゆっくり動いている。
 剛直の突端が、内壁を摩擦しながら行き来し、あの良い部分を、何度もこすられる。

 これが、抜かずのもう一回ですか? 

 唇を離した幸直が、濡れた唇を舌なめずりして、聞いてくる。
「もっと、欲しい。巴…俺に全部、くれよ」
 彼のヤバエロい顔を見て、巴の脳みそに小さな雷が落ちた。

「ふふ、そんなにぼんやりした目で俺を見て…気持ち良かった? もう一度、いい?」
 よくわからないけど、とりあえず流れでうなずいたら。幸直は巴の浴衣を脱がし、手を自分の首に回させて。上体を引き起こした。
 剛直を抜かぬまま、座る幸直の上に体を下ろされる。

 対面座位というやつだな。って、考察している場合じゃない。

 一糸まとわぬ己の膝裏に、幸直の手が差し入れられ。その手の動きで上下に揺さぶられる。
 第二回戦に突入してしまった。

「わっ、深ぃ…あ、あ…幸直っ、これはっ、あぁっ」
 幹部のいる区画には、誰も来ないと思うが。
 声を、誰にも聞かれたくはない。でも、漏れ出てしまうから。幸直の耳元で、おさえめにあえぐことになってしまう。

「あぁ、可愛い。巴、マジ、可愛い。いいぜ。もっと。全部、俺のものだ」
 揺さぶられると怖いから、しがみつきたいが。今度こそ、幸直の良い顔をおがみたいと思って。
 ももの上に座ることで、同じ高さの顔の位置になる幸直を、みつめる。
 巴は…自分も幸直に見られてしまうことには、気づいていなかった。

「巴の、その黒い目にみつめられると、いつも吸い込まれそうな気分になる。俺の顔、好きなのか?」
 うっとりした、その顔つき。いい。
 問いかけてくる眼差しの色も。いい。
 幸直にそんなふうに聞かれたら。本音が漏れてしまうよ。

「ん、好き。幸直、好き」
「あぁ、可愛い。ごめんな、初めてなのに、二度もさせて。でも、健気けなげに俺のこと、受け入れてくれて。いっぱい俺のこと甘やかしてくれて。あんまり巴が可愛いから、止まんねぇ…」

 欲望のままに、幸直は巴を揺さぶった。
 重力で、必ず幸直を根元まで迎え入れることになるから。奥をズンズン突き上げられて、苦しい、もどかしい。

「あ、あ、あ…もっと、ゆっくり…ん、んぁ」
 でも、ゆっくりと言ったら。幸直が巴の足を揺らさないで、腰だけを突き入れる動きに変えてくれた。
 奥を叩かれる感じはなくなって、ホッとする。

「巴は、ゆっくりが好きだな。ん? こうすると。気持ち良い?」
 幸直が腰を揺らすと、ぐちゅぐちゅと後孔がかき回されるような感じがする。
 二回分の精液で濡らされ、剛直の異物感はあまりなくなっていた。
 ただただ、じんじんして。
 良いのかどうかはわからない。

 でも、幸直が厚めの唇を頬笑ませ、気持ち良い? なんて聞いてくるのを見たら。
 心がキュンと握り込まれたような気になって。いい。

「幸直は、イイのか? 俺なんかで、気持ち良くなれるか?」
「馬鹿。ギンギンなの、わかるだろ? そういう可愛いこと言うと…マジ、止まんなくなるぞ」
 また足を持ち上げ、幸直は激しく動き出した。
 ガクガクと揺さぶられ、中の良い部分をジュクジュクとこすり立てられ、悦楽が湧き上がってくる、が。

 目の前の幸直の顔が。気持ち良いのだろうけど、眉間にしわを寄せて、なにかに耐えているようにも見えてしまい。
 巴は幸直の眉の間を、指で撫でた。

「大丈夫。幸直、僕がそばにいるから。ひとりにしないから」
 幸直は。一瞬、泣きそうな顔になって。そっと巴の唇にくちづけた。

「あぁ、胸、鷲掴みされたわぁ…こんな気持ちになんの、初めて。好き。もう…本当に、好き。巴は俺のだ。なにがあっても離さねぇからっ」
 下から熱烈に突き上げられると、バサバサ音がした。己の翼が、意図せず動いている。

「イきそうなの、わかる。羽、ぱたぱたして、可愛い」
 なんだか、幸直が。己を可愛い可愛い連呼しているが。
 自分はそんな、可愛い容姿をしていないはずだった。
 手裏家には、かなりの高級品である鏡があったのだ。
 己の顔は、凡庸で。目蓋は重く、いつも『眠そうな顔をしているな。シャキッとしろ』と父に言われていたほどだし。口も鼻も小さい方だし。なにより、審美眼のある己のお眼鏡にかなわないのだから。たいしたことはないのだ。

 幸直は、ちょっと変わっている。

「可愛い巴。今度は中だけで、イって見せて」
 いつも、ふさふさの柔らかそうな茶髪が、情事の汗に濡れ。まなじりが赤く染まり。微笑む口元は、卑猥な言葉をつむぐ。
 壮絶にエロい顔で言われて。
 そんなの無理って、思ったけれど。
 小刻みに突き上げられ、中をぐちゅぐちゅにされ、じんじんがウズウズに変わって。
 体が、幸直を求めてキュンキュンして。

 いやらしくて、もどかしい熱を誤魔化すように。くちづけてくる幸直の唇に、齧りついて。甘く舌を絡めて。
「あ、ん…や、あ、あ…ダメ、あっ、幸直…あぁ、幸直っ」

 もう訳がわからない、という感じで惑乱したら。
 屹立を刺激される前に、達してしまった。
 そのあとも、惑乱状態が続いて、あまりよく覚えていないが。
 また押し倒されて、幸直に体中を舐め回されて、もう出ないって泣かされるまで愛撫されて。

 一晩中、飢える獣に貪られていた。

 結局、幸直が達する瞬間を、目にできなかったことだけが、心残りだけど。
 でも幸直と睦み合ったのは、己が受け入れたことだから、すごく幸せな時間だったよ、うん。
 このときは、まさか次の日に。堺と紫輝に身バレして、この関係が一回で終了するなんて。思いもしなかったから。

 尚更そう思うよね。幸せな時間だったなって。

しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

処理中です...