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72 ダブルデートのすすめ
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◆ダブルデートのすすめ
「でも、紫輝。なぜ兄さんは、金蓮様を暗殺しようとしたのですか? 手裏の作戦で?」
堺はまだ信じられないのかもしれない。自分の兄が、将堂を裏切って、手裏に寝返ったということを。
「手裏の作戦では、なかったようだ。天誠…いわゆる手裏基成は、そのとき俺と一緒にいた。赤穂が重傷という知らせを受けたとき、そのような作戦はなかったはずだと、怒りをあらわにしていたから。藤王の独断で、金蓮暗殺が実行されたようなんだ」
「兄さんの意志だというのですか? どうして…」
「理由は俺にもわからない。だが、藤王と金蓮の間には、かなり根深い確執があるようだな。それは、彼に聞かないとわからないことだ」
紫輝が言うと、青桐もうなずいた。
「堺の、あの事件のこともだ。なぜ、堺の剣から、先代の不破を守ったのか。なぜ彼について行ったのか…」
ひとつ息を吐いて気合を入れた紫輝は、思い切って堺にたずねた。
「それで…藤王が堺に会いたがっているんだが。堺はどう思う?」
「そんなの駄目だ」
紫輝は堺に聞いたのに、青桐が反対した。
なんで? という目で見ると。青桐は犬歯を剥き出しにして吠える。
「藤王は堺に…求婚したみたいなんだ。そんな兄貴に、会わせられないっ」
「ええ? さっき、その話、聞いてないんですけどぉ?」
拗ねたように紫輝が言うと。
堺は、頬を赤くしたり青くしたり、大変な感じになった。
「あの…それはあまり、関係ない話かと思いまして」
「関係なくもないんだよね。藤王は、堺を伴侶として迎えたいと思っているようだから」
「そんなの、尚更会わせるわけにいかねぇ」
堺、紫輝、青桐の順で、声を出し。わちゃわちゃし始めた。
紫輝はふたりを、手で制す。落ち着いてっ。
「まぁ、まぁ、興奮しないで。無理強いしない、堺の意志を尊重すると、藤王は言っていたらしいから。それに、堺と藤王は兄弟だ。長く離れていた兄弟の再会に、水を差せないだろう?」
紫輝が青桐に言い聞かせると、彼はムムムッと唇を引き結ぶ。
この人、視野が広く、全体的に物事を見れるタイプだと思うのに。
堺のことになると、心狭いな。
「もちろん、会いたいです。ずっと、探していたのですから。伴侶の件は、今は青桐様がいるので、断ることになりますが。過去の話も、家族の話も、兄としたい話はいっぱいあって。なにより、兄が生きていることを、早く確認したいのです」
「だが、無理強いしないと言っても、口だけで、堺を連れ去られてしまうかもしれない」
青桐の心配はもっともだ。
そこら辺は、こちらも考えているよ。
「藤王は、天誠に言わせると、クソ真面目さんのようで。ま、堺の兄貴だなって思うんだけど。それにしても最強の龍鬼と言われている人だからね。堺を奪取されないよう、こちらも考えている。で、ダブルデートをしようと思っているんだ」
「だぶるでぇと?」
堺と青桐が、ふたり同時に声を発する。
うんうん、仲良しさんがにじみ出ていていいね。
「ダブルデートというのは、三百年前の言葉で、二組の恋人が一緒に遊びに行くというときに使うんだ。だから、俺と天誠、堺と藤王の組で、お出掛けするの。もしも藤王が、堺をさらおうとしても。俺と天誠が阻止するから。安全だと思うんだけど。どう?」
「なんで、堺の恋人が、俺でなくて兄なんだよっ? しばくぞ」
怖ぇ、青桐、ちょっとヤンキー入ってるよね?
つか、かぶっていた猫が、見当たりません。
「それはさぁ、兄弟の再会がメイン…主題なわけだから、仕方ないでしょう。あと、手裏の幹部が将堂の領地まで忍んで来るんだからね、向こうも命懸けだよ。それでも会いたいと言うんだから。そこは目をつぶってくださいよ、青桐さん」
堺が心配そうな顔で、青桐をみつめている。
その顔、弱そう。
堺に、そんなウルウルの目でみつめられたら、すぐにも折れそう。
己なら折れるね。ボッキボキだね。
そう思ってたら、やっぱ折れた。ですよねぇ?
「堺が、会いたいのなら。だが、堺の伴侶は、俺だから。そこは、兄になんと言われても、死守してくれ? 頼むな、堺?」
「はい。必ず」
もう…すぐにもキスしそうな勢いなんですけど。
これはもう、一線超えていると見た。
でも、堺が幸せそうだから、小姑はなにも言わないよ。
「じゃあ、会う方向で、調整するよ。あと青桐と堺を、俺の村に招待する。そこは俺たちの拠点で、龍鬼が自然体で暮らせる村。仲間がいる村。なにかがあったら、逃げ込んでいい村だ。一度、ふたりでその村に入って。翌日、堺と俺が、藤王のいるところに行く感じにするから。幸直たちが協力してくれるようなら、一月中に予定を組むよ。瀬間は堅そうだから、本拠地の外に出るのを許さないかもしれないからな。短期決戦で行こう」
「それってさ。藤王も仲間にするつもりなのか?」
青桐が、鋭いところをついてきた。
苦笑して、紫輝は青桐を見る。
「まぁ、できればいいと、思っている。強力な龍鬼が仲間なのは、心強いし。堺だって、兄と対立はしたくないだろう。しかし、金蓮との確執が、藤王を頑なにする場合もある。堺が藤王の気持ちを和らげてくれたら、仲間になってくれるかもしれないね。でも、それで堺になにかを我慢させたり、譲歩させたりする気はない。堺の言動に、もしも藤王が気分を害して、決裂したとしても。それは堺のせいじゃないから、安心して」
「そういう言い方されたら、逆に、堺には重圧だろうが?」
青桐からツッコみが入りました。
もう、堺にデレデレのあまあまじゃないかっ。
「そうか? 堺はありのままでいいからな? うーん…藤王の目標というのを聞いたんだが。堺を伴侶に迎えることと、龍鬼を虐げる世の中を壊す、というものだった。それは逆に返せば、堺が幸せに暮らせる世界を作りたいってことだろ? 俺らと藤王の目指すものは、似ていると思う。藤王が、冷静で真面目な男であるなら、堺がなにを言ったところで、仲間にはなると思うよ。失恋、ということになったら、しばらくは雲隠れしちゃうかもしれないけれど。兄という生き物は、弟のためになんでもやれちゃうものだから。俺はその辺は心配していない」
「…俺が一緒に行くのは、駄目なのか?」
おずおずと、青桐が聞いてくるが。それは普通に考えて、無理でしょ。
「未来を見通す俺の目には、修羅場しか見えないが。青桐は違うのか? 我慢してくれ」
今、彼と。ブラコン溺愛兄の遭遇なんて。堺が針のむしろだから、やめてあげて。
「じゃあ、ちょうどお昼どきだから、今日はこの辺で。準備ができたら報告するな?」
紫輝はシャッと席を立ち。シャッと部屋を出た。
だってさ、今頃、部屋の中はラブラブのハートだらけ空間と化しているぞ。
お邪魔ムシは早く退散しなきゃ。
もう、うらやましいっつうの。
ダブルデートのあとは、己も天誠とラブラブしてやるっ、と心に決めた紫輝だった。
★★★★★
馬丁さんから、ミロの手綱を渡されて、さぁ、帰ろうか、というとき。
青桐がひとりで現れた。
あれ? まだなにか聞きたいことあった?
もうだいぶ、鼻血も出ないくらい、洗いざらいしゃべったけど。
「紫輝、この前言っていた、風呂の件だが」
風呂? 青桐邸に新しく作る風呂の相談だろうか? ヒノキ風呂でいいですよ。
「なんで、堺が白い背中なの知ってんだよっ」
そこかよっ、細かい言葉尻をつついてきやがるっ。
本当に、堺を溺愛、マジ惚れ、なんですな?
「堺と初めて会ったとき、堺が泉で体を洗っていたんだよ」
「堺の体、見たのかよ? どんだけ見たんだ? あぁ?」
オラオラで、怖いです。
己は眼力だけが強い、似非ヤンキーなんですぅ。
「うぇ…ちょっと、背中だけ、です。綺麗すぎて、目が離せなかったけど。月明かりに、体の輪郭を輝かせていて、色の白い背中が、光を吸い込んでいるようで。泉の精か、月の神か、という感じで、見惚れてしまいましたっ」
「そうなんだよ。堺は、月の神様だと思うんだよ」
ニヤリと笑って、青桐も同意するから。紫輝もうなずいた。
「そうそう、月の神様。氷の精霊」
ふたりは意気投合し、笑い合う。
そのとき青桐は、紫輝に、堺の前面を見られていないようだとわかり、ホッとした。
だって、堺の、あの、桃色が恥じらって赤くなったような色の乳首は、凶悪すぎて、誰にも見られてはいけないと思うのだ。
そう。己だけ、知っていればいい。
あと、なんでも知っているような紫輝に、一歩先んじたようで、いい気分でもあった。
ま、いいことばかりでもないんだが。
「それだけ? 青桐。お腹空いたから、帰りたいんだけどぉ」
「さっき、堺が青い顔しただろ」
ん? 堺は顔を赤くしたり青くしたりしていて、どの話かよくわからないんだが。
きょとんとした顔で、紫輝は青桐をみつめる。
青桐は、なにやら言いにくそうにしていた。
「おまえは、自分のことも純粋培養だと言っていたな。自分が龍鬼であることを知らなかったと」
「あぁ。そうだよ」
「俺は、世の中の龍鬼への反応には疎いが。龍鬼対策として、堺の術を破るくらいには、龍鬼のことを勉強した。書物もいろいろ読んだから、龍鬼の生態に関しては知っている方だと思う。でも、おまえはここに来たばかりで、龍鬼がどういうものなのか、一般的なことを知らないのかと思って。自分のことを、知っておいた方がいいんじゃないかと思って…」
青桐がなにを言いたいのかわからなくて、紫輝は少し首を傾げる。
「龍鬼は、短命だ。三十代で亡くなる者が多い」
言われて、紫輝は、一瞬、音が聞こえなくなった。
キーンと耳鳴りがして。
「でも、これは一般論だ。普通の人でも、三十で亡くなる人もいれば百歳超える人もいるだろ? 統計上は、そうだって話で。紫輝が三十代で死ぬと決まったわけではない」
一生懸命、青桐がフォローしてくれるけど。
うん。わかるよ。三百年前は、事故とかも多かったしね。
次の日、元気だなんて。そんな保証は、誰にもないもんね。うん。わかってる。わかってる。
「堺は、紫輝の話を聞いて、自分が死んだあとの俺を想像したんだ。おまえの言葉は、現実味があるから。きっと、俺もそうなるだろう。うん。しかし、堺には。命を軽んじなくても、それはある程度、起きうる未来だったから。衝撃を受けてしまったんだな」
「そうか、そうか。ごめん。考えなしだったな。堺のこと、青桐が慰めてやって。今を楽しくするのを考えるのが、大事なんだって、言ってやって」
紫輝も、自分で言っているくらいだから、それをわかっているのだ。
でも。なかなか飲み込めないのも、事実だ。
「大丈夫か? 紫輝。でも、知っておいた方がいいと思って。おまえは、今までも大きな技を何回か使っているようだから、もうあまり、能力は使わない方がいいと思う」
「能力の大きさや回数が、寿命に関係あるのか?」
「普通の人間と龍鬼の差は、そこだから。人より龍鬼が短命なのは、人知を超える能力を出すせいではないかと、書かれてはいた。でも、本当にそうかは、わからないだろ?」
確かに、書物に書かれていることが、絶対に正しいとは限らないけど。
でも。信ぴょう性もあるな。
「そうか。うん。わかった。自分なりに消化するよ」
「傷ついたか? 知らせない方が良かったかな…」
「いや。知っている方がいいに決まっている。時間を無駄に使えないじゃん? だったら、やっぱり、早く俺たち結婚できるようにしないとな。ほら、青桐もイチャイチャラブラブしてきて」
紫輝は青桐にウィンクすると。
ミロに乗って、堺の屋敷を出た。
しばらく馬を走らせて、第五大隊の宿舎ではなく、河川敷に向かう。
そして、川べりで馬から降り。人がいないのを確認して、ライラを出した。
ババーンと獣型になったライラの首に、紫輝はしがみつく。
「あらあら、おんちゃん、甘えんぼさんね」
「天誠に、一緒にお爺ちゃんになろうって、約束したんだ。そして、天誠が死んだのを見届けて、一日あとに俺も死ぬの。ライラも一緒にな」
「そうね。それがいいわね」
「うん。それがいいんだ」
紫輝が亡くなったあと、残された天誠が、闇の底をさ迷い、苦しみ、嘆き悲しむ姿が、紫輝には見える。
だから天誠を、もうひとりにはできないし。
己が先に死ぬことも、できないと…思っている。思っていた。
「あと、二十年くらいは、いけるか? それにしても、短いな。まさかの、余命宣告をされるとは…」
ちょっと声が震えるくらい、ものすごくショックだったけど。涙が出るほどではない。
ひたすらに、どうしよう、という気分だ。
「こういうときは、天誠に相談するのがいい。自分では答えが出ないしな。うん、天誠もショックだろうけど。きっと、なにか考えてくれる。今までもそうだった。千夜の腕を治したときも、的確なアドバイスをしてくれた。俺の弟は賢いんだからな」
自分に言い聞かせるように、紫輝はつぶやき続ける。
ライラは、紫輝にしがみつかれているから、嬉しくて、ゴロゴロと喉を鳴らした。
その音を聞いていれば、自然と気持ちが落ち着いてくる。
そうしたら、思い出してしまったのだ。
天誠が、あの技を二度と紫輝に使わせるなと、千夜に告げていたことを。
結構な真剣さだった。
「もしかしたら、天誠は知っていたのかな? 龍鬼が短命だって」
そうじゃなきゃ、大怪我を治せるすごい技を、使うななんて言うはずない。
自分が死にそうでも、使うななんて。
天誠は、この世界にひとりで堕ちたとき、龍鬼と蔑まれ。この龍鬼というものは、いったいなんなんだって、調べたことがあるって、以前言っていた。
あぁ、知っていたのだ。
知っていて、尚。紫輝を閉じ込めて、ふたりきりの生活を堪能することをしないで。紫輝が笑顔であるように、努めてくれたのだ。
そこに、天誠の大きな愛を感じる。
「そっか。だったら、やっぱ。頑張らないと。俺も早く、天誠とイチャイチャラブラブしたいんだもんね」
「てんちゃんとおんちゃんはらぶらぶぅ」
また変な歌を歌い出したライラを、剣に戻して。紫輝は馬に乗った。
「はぁ、お腹空いた。今日は野際、なに作ってくれてるかなぁ?」
「でも、紫輝。なぜ兄さんは、金蓮様を暗殺しようとしたのですか? 手裏の作戦で?」
堺はまだ信じられないのかもしれない。自分の兄が、将堂を裏切って、手裏に寝返ったということを。
「手裏の作戦では、なかったようだ。天誠…いわゆる手裏基成は、そのとき俺と一緒にいた。赤穂が重傷という知らせを受けたとき、そのような作戦はなかったはずだと、怒りをあらわにしていたから。藤王の独断で、金蓮暗殺が実行されたようなんだ」
「兄さんの意志だというのですか? どうして…」
「理由は俺にもわからない。だが、藤王と金蓮の間には、かなり根深い確執があるようだな。それは、彼に聞かないとわからないことだ」
紫輝が言うと、青桐もうなずいた。
「堺の、あの事件のこともだ。なぜ、堺の剣から、先代の不破を守ったのか。なぜ彼について行ったのか…」
ひとつ息を吐いて気合を入れた紫輝は、思い切って堺にたずねた。
「それで…藤王が堺に会いたがっているんだが。堺はどう思う?」
「そんなの駄目だ」
紫輝は堺に聞いたのに、青桐が反対した。
なんで? という目で見ると。青桐は犬歯を剥き出しにして吠える。
「藤王は堺に…求婚したみたいなんだ。そんな兄貴に、会わせられないっ」
「ええ? さっき、その話、聞いてないんですけどぉ?」
拗ねたように紫輝が言うと。
堺は、頬を赤くしたり青くしたり、大変な感じになった。
「あの…それはあまり、関係ない話かと思いまして」
「関係なくもないんだよね。藤王は、堺を伴侶として迎えたいと思っているようだから」
「そんなの、尚更会わせるわけにいかねぇ」
堺、紫輝、青桐の順で、声を出し。わちゃわちゃし始めた。
紫輝はふたりを、手で制す。落ち着いてっ。
「まぁ、まぁ、興奮しないで。無理強いしない、堺の意志を尊重すると、藤王は言っていたらしいから。それに、堺と藤王は兄弟だ。長く離れていた兄弟の再会に、水を差せないだろう?」
紫輝が青桐に言い聞かせると、彼はムムムッと唇を引き結ぶ。
この人、視野が広く、全体的に物事を見れるタイプだと思うのに。
堺のことになると、心狭いな。
「もちろん、会いたいです。ずっと、探していたのですから。伴侶の件は、今は青桐様がいるので、断ることになりますが。過去の話も、家族の話も、兄としたい話はいっぱいあって。なにより、兄が生きていることを、早く確認したいのです」
「だが、無理強いしないと言っても、口だけで、堺を連れ去られてしまうかもしれない」
青桐の心配はもっともだ。
そこら辺は、こちらも考えているよ。
「藤王は、天誠に言わせると、クソ真面目さんのようで。ま、堺の兄貴だなって思うんだけど。それにしても最強の龍鬼と言われている人だからね。堺を奪取されないよう、こちらも考えている。で、ダブルデートをしようと思っているんだ」
「だぶるでぇと?」
堺と青桐が、ふたり同時に声を発する。
うんうん、仲良しさんがにじみ出ていていいね。
「ダブルデートというのは、三百年前の言葉で、二組の恋人が一緒に遊びに行くというときに使うんだ。だから、俺と天誠、堺と藤王の組で、お出掛けするの。もしも藤王が、堺をさらおうとしても。俺と天誠が阻止するから。安全だと思うんだけど。どう?」
「なんで、堺の恋人が、俺でなくて兄なんだよっ? しばくぞ」
怖ぇ、青桐、ちょっとヤンキー入ってるよね?
つか、かぶっていた猫が、見当たりません。
「それはさぁ、兄弟の再会がメイン…主題なわけだから、仕方ないでしょう。あと、手裏の幹部が将堂の領地まで忍んで来るんだからね、向こうも命懸けだよ。それでも会いたいと言うんだから。そこは目をつぶってくださいよ、青桐さん」
堺が心配そうな顔で、青桐をみつめている。
その顔、弱そう。
堺に、そんなウルウルの目でみつめられたら、すぐにも折れそう。
己なら折れるね。ボッキボキだね。
そう思ってたら、やっぱ折れた。ですよねぇ?
「堺が、会いたいのなら。だが、堺の伴侶は、俺だから。そこは、兄になんと言われても、死守してくれ? 頼むな、堺?」
「はい。必ず」
もう…すぐにもキスしそうな勢いなんですけど。
これはもう、一線超えていると見た。
でも、堺が幸せそうだから、小姑はなにも言わないよ。
「じゃあ、会う方向で、調整するよ。あと青桐と堺を、俺の村に招待する。そこは俺たちの拠点で、龍鬼が自然体で暮らせる村。仲間がいる村。なにかがあったら、逃げ込んでいい村だ。一度、ふたりでその村に入って。翌日、堺と俺が、藤王のいるところに行く感じにするから。幸直たちが協力してくれるようなら、一月中に予定を組むよ。瀬間は堅そうだから、本拠地の外に出るのを許さないかもしれないからな。短期決戦で行こう」
「それってさ。藤王も仲間にするつもりなのか?」
青桐が、鋭いところをついてきた。
苦笑して、紫輝は青桐を見る。
「まぁ、できればいいと、思っている。強力な龍鬼が仲間なのは、心強いし。堺だって、兄と対立はしたくないだろう。しかし、金蓮との確執が、藤王を頑なにする場合もある。堺が藤王の気持ちを和らげてくれたら、仲間になってくれるかもしれないね。でも、それで堺になにかを我慢させたり、譲歩させたりする気はない。堺の言動に、もしも藤王が気分を害して、決裂したとしても。それは堺のせいじゃないから、安心して」
「そういう言い方されたら、逆に、堺には重圧だろうが?」
青桐からツッコみが入りました。
もう、堺にデレデレのあまあまじゃないかっ。
「そうか? 堺はありのままでいいからな? うーん…藤王の目標というのを聞いたんだが。堺を伴侶に迎えることと、龍鬼を虐げる世の中を壊す、というものだった。それは逆に返せば、堺が幸せに暮らせる世界を作りたいってことだろ? 俺らと藤王の目指すものは、似ていると思う。藤王が、冷静で真面目な男であるなら、堺がなにを言ったところで、仲間にはなると思うよ。失恋、ということになったら、しばらくは雲隠れしちゃうかもしれないけれど。兄という生き物は、弟のためになんでもやれちゃうものだから。俺はその辺は心配していない」
「…俺が一緒に行くのは、駄目なのか?」
おずおずと、青桐が聞いてくるが。それは普通に考えて、無理でしょ。
「未来を見通す俺の目には、修羅場しか見えないが。青桐は違うのか? 我慢してくれ」
今、彼と。ブラコン溺愛兄の遭遇なんて。堺が針のむしろだから、やめてあげて。
「じゃあ、ちょうどお昼どきだから、今日はこの辺で。準備ができたら報告するな?」
紫輝はシャッと席を立ち。シャッと部屋を出た。
だってさ、今頃、部屋の中はラブラブのハートだらけ空間と化しているぞ。
お邪魔ムシは早く退散しなきゃ。
もう、うらやましいっつうの。
ダブルデートのあとは、己も天誠とラブラブしてやるっ、と心に決めた紫輝だった。
★★★★★
馬丁さんから、ミロの手綱を渡されて、さぁ、帰ろうか、というとき。
青桐がひとりで現れた。
あれ? まだなにか聞きたいことあった?
もうだいぶ、鼻血も出ないくらい、洗いざらいしゃべったけど。
「紫輝、この前言っていた、風呂の件だが」
風呂? 青桐邸に新しく作る風呂の相談だろうか? ヒノキ風呂でいいですよ。
「なんで、堺が白い背中なの知ってんだよっ」
そこかよっ、細かい言葉尻をつついてきやがるっ。
本当に、堺を溺愛、マジ惚れ、なんですな?
「堺と初めて会ったとき、堺が泉で体を洗っていたんだよ」
「堺の体、見たのかよ? どんだけ見たんだ? あぁ?」
オラオラで、怖いです。
己は眼力だけが強い、似非ヤンキーなんですぅ。
「うぇ…ちょっと、背中だけ、です。綺麗すぎて、目が離せなかったけど。月明かりに、体の輪郭を輝かせていて、色の白い背中が、光を吸い込んでいるようで。泉の精か、月の神か、という感じで、見惚れてしまいましたっ」
「そうなんだよ。堺は、月の神様だと思うんだよ」
ニヤリと笑って、青桐も同意するから。紫輝もうなずいた。
「そうそう、月の神様。氷の精霊」
ふたりは意気投合し、笑い合う。
そのとき青桐は、紫輝に、堺の前面を見られていないようだとわかり、ホッとした。
だって、堺の、あの、桃色が恥じらって赤くなったような色の乳首は、凶悪すぎて、誰にも見られてはいけないと思うのだ。
そう。己だけ、知っていればいい。
あと、なんでも知っているような紫輝に、一歩先んじたようで、いい気分でもあった。
ま、いいことばかりでもないんだが。
「それだけ? 青桐。お腹空いたから、帰りたいんだけどぉ」
「さっき、堺が青い顔しただろ」
ん? 堺は顔を赤くしたり青くしたりしていて、どの話かよくわからないんだが。
きょとんとした顔で、紫輝は青桐をみつめる。
青桐は、なにやら言いにくそうにしていた。
「おまえは、自分のことも純粋培養だと言っていたな。自分が龍鬼であることを知らなかったと」
「あぁ。そうだよ」
「俺は、世の中の龍鬼への反応には疎いが。龍鬼対策として、堺の術を破るくらいには、龍鬼のことを勉強した。書物もいろいろ読んだから、龍鬼の生態に関しては知っている方だと思う。でも、おまえはここに来たばかりで、龍鬼がどういうものなのか、一般的なことを知らないのかと思って。自分のことを、知っておいた方がいいんじゃないかと思って…」
青桐がなにを言いたいのかわからなくて、紫輝は少し首を傾げる。
「龍鬼は、短命だ。三十代で亡くなる者が多い」
言われて、紫輝は、一瞬、音が聞こえなくなった。
キーンと耳鳴りがして。
「でも、これは一般論だ。普通の人でも、三十で亡くなる人もいれば百歳超える人もいるだろ? 統計上は、そうだって話で。紫輝が三十代で死ぬと決まったわけではない」
一生懸命、青桐がフォローしてくれるけど。
うん。わかるよ。三百年前は、事故とかも多かったしね。
次の日、元気だなんて。そんな保証は、誰にもないもんね。うん。わかってる。わかってる。
「堺は、紫輝の話を聞いて、自分が死んだあとの俺を想像したんだ。おまえの言葉は、現実味があるから。きっと、俺もそうなるだろう。うん。しかし、堺には。命を軽んじなくても、それはある程度、起きうる未来だったから。衝撃を受けてしまったんだな」
「そうか、そうか。ごめん。考えなしだったな。堺のこと、青桐が慰めてやって。今を楽しくするのを考えるのが、大事なんだって、言ってやって」
紫輝も、自分で言っているくらいだから、それをわかっているのだ。
でも。なかなか飲み込めないのも、事実だ。
「大丈夫か? 紫輝。でも、知っておいた方がいいと思って。おまえは、今までも大きな技を何回か使っているようだから、もうあまり、能力は使わない方がいいと思う」
「能力の大きさや回数が、寿命に関係あるのか?」
「普通の人間と龍鬼の差は、そこだから。人より龍鬼が短命なのは、人知を超える能力を出すせいではないかと、書かれてはいた。でも、本当にそうかは、わからないだろ?」
確かに、書物に書かれていることが、絶対に正しいとは限らないけど。
でも。信ぴょう性もあるな。
「そうか。うん。わかった。自分なりに消化するよ」
「傷ついたか? 知らせない方が良かったかな…」
「いや。知っている方がいいに決まっている。時間を無駄に使えないじゃん? だったら、やっぱり、早く俺たち結婚できるようにしないとな。ほら、青桐もイチャイチャラブラブしてきて」
紫輝は青桐にウィンクすると。
ミロに乗って、堺の屋敷を出た。
しばらく馬を走らせて、第五大隊の宿舎ではなく、河川敷に向かう。
そして、川べりで馬から降り。人がいないのを確認して、ライラを出した。
ババーンと獣型になったライラの首に、紫輝はしがみつく。
「あらあら、おんちゃん、甘えんぼさんね」
「天誠に、一緒にお爺ちゃんになろうって、約束したんだ。そして、天誠が死んだのを見届けて、一日あとに俺も死ぬの。ライラも一緒にな」
「そうね。それがいいわね」
「うん。それがいいんだ」
紫輝が亡くなったあと、残された天誠が、闇の底をさ迷い、苦しみ、嘆き悲しむ姿が、紫輝には見える。
だから天誠を、もうひとりにはできないし。
己が先に死ぬことも、できないと…思っている。思っていた。
「あと、二十年くらいは、いけるか? それにしても、短いな。まさかの、余命宣告をされるとは…」
ちょっと声が震えるくらい、ものすごくショックだったけど。涙が出るほどではない。
ひたすらに、どうしよう、という気分だ。
「こういうときは、天誠に相談するのがいい。自分では答えが出ないしな。うん、天誠もショックだろうけど。きっと、なにか考えてくれる。今までもそうだった。千夜の腕を治したときも、的確なアドバイスをしてくれた。俺の弟は賢いんだからな」
自分に言い聞かせるように、紫輝はつぶやき続ける。
ライラは、紫輝にしがみつかれているから、嬉しくて、ゴロゴロと喉を鳴らした。
その音を聞いていれば、自然と気持ちが落ち着いてくる。
そうしたら、思い出してしまったのだ。
天誠が、あの技を二度と紫輝に使わせるなと、千夜に告げていたことを。
結構な真剣さだった。
「もしかしたら、天誠は知っていたのかな? 龍鬼が短命だって」
そうじゃなきゃ、大怪我を治せるすごい技を、使うななんて言うはずない。
自分が死にそうでも、使うななんて。
天誠は、この世界にひとりで堕ちたとき、龍鬼と蔑まれ。この龍鬼というものは、いったいなんなんだって、調べたことがあるって、以前言っていた。
あぁ、知っていたのだ。
知っていて、尚。紫輝を閉じ込めて、ふたりきりの生活を堪能することをしないで。紫輝が笑顔であるように、努めてくれたのだ。
そこに、天誠の大きな愛を感じる。
「そっか。だったら、やっぱ。頑張らないと。俺も早く、天誠とイチャイチャラブラブしたいんだもんね」
「てんちゃんとおんちゃんはらぶらぶぅ」
また変な歌を歌い出したライラを、剣に戻して。紫輝は馬に乗った。
「はぁ、お腹空いた。今日は野際、なに作ってくれてるかなぁ?」
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今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
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前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。

新しい道を歩み始めた貴方へ
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今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
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あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
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髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
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志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
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これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
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