【完結】異世界行ったら龍認定されました

北川晶

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70 いろいろ全部バレました(泣)

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     ◆いろいろ全部バレました(泣)

 今、紫輝たちがいる、こじんまりとした囲炉裏の間は。簡易な茶室である。
 だから、小さい部屋なんだね。
 その小さい部屋の中に。紫輝と青桐と堺。さらに幸直と巴と千夜がみっしりと入っていた。
 いや、まぁ。それほどみっしりではないが。
 隣の人とギリ膝が触れないくらいの感じ。

 以上。思考の逃避行動終了。

 紫輝はライラ剣に問いかける。
『なんで教えてくれなかったんだよ?』
『おしえたわぁ』
 うん。確かに言っていた。『おんちゃんたかたかてんちゃんせんにゃ』と。

『タカは幸直だとして、なんで巴は天ちゃんなんだ?』
『おんなじはねが、はえてるわぁ』
 うん。生えてるね。ライラはお利口さんだな。己が馬鹿なだけである。

「つか、なんで幸直と巴が、ここにいるんだよぉ? 爆睡してたんじゃないのかよぉ」
「爆睡してたが、トイレに起きたんだ。そして、ここを通りがかったとき、なんか話してるなと思って。部屋に戻ろうとしたら、巴がふらふら歩いてたから、危ないと思って。一緒について、またトイレに行って。その帰り道になんか影が動いていたから、捕まえてみたら、望月だったからびっくりして。紫輝に聞こうと思ったら、終戦だって言ってた」

 あぁ、もう。どこからツッコんでいいのやら。
 やっぱ、幹部の屋敷に隠密入れるのは、危なかったな。

「千夜は、俺の龍鬼の能力で治しました。終わり」
 簡潔な説明過ぎて、幸直はキレた。
 でも、そうとしか言いようがないもんねぇ。

「はぁ? 説明になってないんだけど? 紫輝、なにがどうなってんのか、教えろよ。仲間だろ?」
「だってさぁ、幸直は名家の出だろ? 幸直は俺に好意的だが、美濃家が反対したら、幸直は俺らを裏切るかもしれないじゃん?」
「裏切らないよぉ。友達を売るような真似をするような男に見えるのか?」
 色男が眉尻を下げて、必死で訴えている。可哀想に見せるのはずるいぞ。

「見えないけど」
「じゃあ、いいだろ? 仲間外れは嫌だよぉ。それに巴は名家じゃないし。巴もいいだろ?」
「でも、巴は…」
 本物の手裏基成だ。
 これ、言ったら。巴のここでの生活が壊れちゃうかもしれない。
 だけど、紫輝の旦那は。巴の家族を殺した事件に関わっているわけで。
 それを知ったら、巴は、自分たちの計画をぶち壊しに来るかもしれないじゃないか。
 どうなるのか、わからない。
 だけど、ここで巴を仲間外れにしたら。なんか、気分悪いし。
 でも、仲間の命がかかっているから、軽い同情で決断できないし。

「巴は、手裏基成ですよね?」
 ああでもないこうでもない、と紫輝が悩んでいたら。堺が言ってしまった。
 えええぇ? 堺?

「紫輝は、巴のことを気遣って、言えないようなので。私から言います。詳しいことを話したあとに、計画がとん挫するのは。困るのです」
「なに言ってんだ? 堺。巴が手裏基成なんて、あり得ない」
 幸直が言うが。小刻みに震えていた巴は、つぶやいた。

「いいや、幸直。僕は、正真正銘、手裏基成だよ。ただ…今、手裏基成と名乗っている者とは、全くの別人だけどね。疾風怒涛どとう、勇猛果敢、統率力のある手裏家の総帥、基成。誰、それ?」

 それは、天誠を称える言葉だった。
 巴は、その噂を将堂で聞き、どんな気持ちになったのだろう。

「少なくとも、僕はもう、手裏基成ではない。僕には、この手裏の翼は相応しくない。だから、羽をムシるんだ」
 巴はゆるりと顔をあげ。堺ではなく、紫輝に目を合わせた。

「僕を気遣って、言えないっていうことは。君が気づいたのか? 僕の翼が手裏のものだと」
 紫輝は、ここで嘘をつくのは、誠実ではないような気がして。腹を据えて、巴と向き合った。

「そうだ。俺の旦那は手裏基成だから。巴と同じ翼なんだ」
 言い切ると、巴はなんでか、吹き出した。

「ウケる。こんな近くに、とんだ伏兵がいたものだ」
「言わないよ、巴が手裏基成だってことは。でも、計画を邪魔されるのは困るんだ」

「今、基成をやっている奴は、何者なんだ?」
「…安曇眞仲だ」
「安曇か。僕を腰抜け呼ばわりした」

 もうっ、天誠! なに言ってくれちゃってんの?

 紫輝はつい、心の中で怒ってしまった。
 でも、巴が気分を害した様子はない。

「腰抜けは、そのとおり。僕は家族を殺されたというのに、瀕死の安曇に、刀を向けられなかったんだ。手裏家に生まれたけれど、剣術が苦手で。僕は絵を描いていたかった。でも、父上には認めてもらえず。軍に入らなければ、縁を切ると言われていた矢先、あの事件が起きた」

 悲しいような、あきらめているような、なんとも切ない眼差しで、巴は語っていく。

「家督を継ぐのは、弟の基晶。彼が初陣するまでは、家にいることを許されていた。十六で初陣しなかったのは、手裏家の味噌っかすで、刀もまともに振れない僕を、外に出すのが、父上は恥ずかしいと思っていたからだろう。でも、みんな殺されてしまって。両親の仇だと思っても、僕は安曇を殺せなかった。地に這いつくばっていても、ギラリとした目で睨んで。僕からも、死神からも、何物からも、抗おうとしていた安曇の気迫に、僕は負けたんだ。その場から逃げて、絵の先生の元で、かくまってもらったんだよ」

 紫輝の知らない、天誠の姿だった。
 天誠は紫輝に会うまでは死ねないと思って、そうして、本当に目の前にいただろう死神からも、気迫で逃げおおせたのだ。
 家族を亡くした巴には、申し訳ないけれど。
 でも紫輝は、やはり天誠が生きていてくれて良かったと思う。

「手裏から追手をかけられ、将堂の領地へ逃げたかったが、この翼では将堂へも行けないから。翼を斧で切断し。その傷が癒えるまでは、絵の先生にかくまってもらえた。しかし先生は高齢だったから、間もなく亡くなり。元手のない僕は、将堂軍に入るしかなかった。でも、この黒い翼で、カラスだといじめられ。いじめられたくなかったから、剣技を磨いて幹部になった。皮肉だね、手裏にいたときは、あんなに刀が怖かったというのに」

 ふと、巴は幸直を見て。少し挑発的に笑った。
「幹部になれたのも、わざと幸直の前で手柄をたてて、引き立ててもらえるよう工作したからさ。僕の実力は、父上が見限ったほどだから、大したことはない」

「そんなことない。ちゃんと実力を見て、俺は巴を引き立てたんだぞ。巴の兵法は、地味だが、基本に忠実で、安定感のある作戦が多い。俺は奇抜な作戦を立てがちだから、巴がおさえてくれて、助かっているんだ。すごく良い参謀だと思っているよ」

「それも、幸直とは質の違う案を出せば、人目を引くと思っただけのことさ」
「なんで、急にそんなこと言うんだ? 昨日は俺たち…」

「もうわかっただろう、僕が手裏基成だと。名家のお坊ちゃんが、関わる相手じゃない」
 巴と幸直のやり取りを見て。

 おやおや? このふたりはもしかして…と紫輝は思った。

 特に幸直は、巴に、同僚以上の想いを向けているように見える。
 愛などない、と言っていた幸直が。巴に気に入られたくて、頑張っているように見えた。

 そして巴は、そんな幸直を突き放しているような?

「巴は、巴だよ。さっき自分で、もう基成じゃないって言ったじゃないか。俺は巴だから…」
「今は、そういう話じゃない。紫輝、終戦のことに話を戻すけど。僕は今でも、絵を描いて暮らしていきたいと思っている。終戦して、手裏も将堂もない世の中になるのなら、それは僕には願ってもないことだ。邪魔なんかしないよ。でも、元、手裏基成が作戦に加わるのは。いつ裏切られるかと、びくびくするのは嫌だろうから。僕はこの件には触れないでおく。見ざる聞かざるだ。だから君たちも、僕のことは目こぼししてくれ。それで五分五分だと思うが、どうだ?」

「目こぼしというか、元より言うつもりはない。俺の弟が、巴の家族を。というのも、謝れるようなものではないけれど。俺はせめて、巴の今の生活を守りたいと思っていて。おびやかすつもりも、壊すつもりもなかったんだ。俺たちのこと、怒っていい立場なのに、巴がそう言ってくれるのは、助かるよ」

「今の手裏基成が旦那で、基成は安曇で、安曇が紫輝の弟…というのは。ツッコミが追いつかないくらいな話だが。それもこれも、僕は全部関わらないことにするよ」

 すっと巴は席を立って、出口に向かった。
「巴、俺、巴が平穏な中で絵を描いていられるような世界を作ってみせるから…」

「あぁ。そうなったら、どんなに素敵なことだろう…期待してるよ、紫輝」

 そう言って、巴は茶室を出て行った。
 慌てて、幸直も続こうとする。

「待って、巴。紫輝、俺はあとで全部教えてもらうから。仲間外れ禁止。あと…巴のことは、マジで内緒にしてくれ。将堂でバレたら、首が飛ぶ」
「言わないってば。巴の生活を守りたい、俺はそう思っている」

 幸直は力強くうなずいて。部屋を出て行った。
 茶室に残っているのは、紫輝と堺と千夜、そして三白眼の青桐だ。

「幸直と巴にバレてしまって、大丈夫ですか?」
 堺が心配そうに聞いてくるのに、紫輝は腕を組んで頭をひねる。

「うーん。幸直は好意的だし、大丈夫だろう。なにからなにまで明かさず、幸直が満足し、彼が協力しようと思えるくらいに、情報を提供するつもりだ。巴は、しばらくは様子見する。幸直とセット…一緒に行動させて、彼の真意を見極めようと思う。本当に、絵を描きたいという夢があるのなら、協力したいと思ってるよ」

「俺には、なにからなにまで、一切合切、ありとあらゆる情報を開示してもらうぞ。おまえ…将堂にいながら、基成が旦那ってなんだ? あと、この男は何者だ?」
 紫輝の言葉尻を捕まえて、三白眼の青桐が牙をむいた。シャー、とね。
 謎が謎を呼んで、ストレス溜まっていたんだな?
 とりあえず千夜の紹介をした。

「千夜は俺の隠密だよ。つか、幸直に捕まるとか、どんなドジ? 千夜」
「すまない。彼の方が上手うわてだとしか言えない」
「やっぱ、幹部邸には、隠密は入れられないみたいだね。でも、この屋敷は堺がいるから。堺に守ってもらうよ」

「しかし、時雨様は、紫輝より青桐様を優先するだろう? とっさのときに、誰かが紫輝を守れないと困る」
「もうバレたんだから、おまえが守ればいいだろう」
 紫輝と千夜が話しているところに、青桐が口をはさんだ。

「おまえ…千夜? が紫輝を守っていることは、俺たちや、幸直は、もうわかっていることだ。堺が俺を守るのは基本だから、確かにあてにはできないかもな。でも、なんか…紫輝も結構な重要人物に思えてきたし。守り手は必要だろう。だが、陰に隠れていると。千夜か刺客かわからないから、姿を現して紫輝を守る方がいい」

「だったら、これからは大和をつけよう。実は、千夜は先の戦で腕を斬られた。俺が龍鬼の能力で治したんだが。千夜が怪我を負った場面を目撃した者は多い。腕が治った千夜を、表には出せないんだ。幸直のような反応をされるからな」

「それは、そちらが調整しろ。おまえに護衛がつくことを許す、ということだ」
「ありがとう、青桐」
 紫輝が千夜を見れば、彼もうなずく。これで、護衛問題は解決したな。

「それで? 全部、ちゃきちゃき、吐いてもらおうか?」
 そうして紫輝は。紫輝が五歳のときからさかのぼって、今までの、あれやこれやを、洗いざらい青桐に話すことになってしまった。
 青桐にも堺にも、これで隠し事は一切ない。かな?
 千夜の腕のことも、己の能力のことも、まさかの巴が手裏基成だったことまで。

 いろいろ全部バレました(泣)。

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