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番外 炎龍、時雨藤王 3
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藤王は堺を救うため、前線基地に駆けつけたかった。それで三日の休暇を、直属の上司となった金蓮に願い出たのだが。
彼は猫のような大きな目を細めて笑い、こう言った。
「着任早々休暇願いとは。龍鬼というのは、ずいぶん偉いんだなぁ? それに物を頼む態度じゃない。私の頭より下で、頭を下げよ」
小柄でかなり年下の金蓮よりも、藤王は頭ひとつ分以上背が高かった。
藤王はその場にひざまずき、頭を下げて頼む。堺のために。
「お願いします。弟が心配なんです。どうか三日、私に休暇をお与えください」
「駄目だ、おまえは私の龍鬼だろう。必ず私のそばにいなければならない」
頭を下げれば休暇を認めてもらえると思っていた藤王は、憤り。
すっくと立ち上がると、金蓮を睨み下ろした。
「私は金輪際、貴方に頭は下げない。私に頭を下げさせたかったら、部下に忠義を尽くしたいと思わせる者となるべきだ。威厳というのは、ただ偉そうにすることではなく。万民に自然と頭を下げたいと思わせる、高潔さと正しさを持ち合わせなければならない。金蓮様、次代当主として正しい威厳を身につけていただきたい」
金蓮は、怒られる場面が少なかった。
将堂家次代当主として、すでに目上の者も金蓮には頭を下げ。金蓮も、父である当主の前ではそつのない、優秀な長子として振舞っている。
だから、真正面から叱られたことが新鮮だった。
赤い瞳は燃えているのに、金蓮を冷ややかにみつめる。白髪は光にきらめいて輝かしい。スッと通った鼻筋も、薄い唇も、なにもかもが美しく整っていた。
金蓮は、このように美しく気品のある人物を初めて見たのだ。
そしてまだ十代前半であるのにしっかりと己を意志を持ち、権力におもねらない藤王に、心酔してしまう。
一方の藤王は。
家が偉いだけで己も偉いと思い込んでいるお坊ちゃんを相手にしている時間はないと判断し。踵を返す。
金蓮の上司は、父である左将軍。しかし父が休暇を出してくれるとは思えなかった。
父は戦場で、堺が死んでもいいと思っている節がある。
そんなのは、絶対にダメだ。
なので大将に談判するしかなかった。
当時大将であった山吹は、龍鬼を戦場の駒として扱う非情な男であったが。それゆえに、強力な駒を失うのを良しとはしない性質だ。
「堺は幼いですが、優秀な龍鬼です。しかしいかに優秀でも、七歳という若輩で前線に立ち続ければ、いずれ死んでしまうかもしれません。それは将堂の将来に不利益です」
藤王の意見に賛同した山吹は、当時右将軍であった麟義(瀬間の父)に、堺を補佐につけるよう辞令を出してくれて。藤王にも三日の休暇を出した。
そして自力で休暇をもぎ取った藤王は、その足で前線基地へ馬を走らせたのだった。
★★★★★
藤王は富士のふもとにある前線基地に着くと、すぐに堺を探した。
右の第五大隊は、軍の中でも先鋒を務めることが多い激戦部隊だ。
このとき廣伊は、まだ将堂軍に在籍していない。
つまり統率力のない中で、荒くれ者が多く、激戦による兵の入れ替わりも激しいことから、殺伐とした空気が漂う部隊だった。
「おまえ、あの手裏兵を逃がしやがって。あいつが次に襲ってきて俺が死んだら、どう責任を取るつもりだ?」
藤王が堺をみつけたとき、堺は仲間に囲まれ責められているところだった。
龍鬼なので、胸倉つかんだり袋叩きなどはなかったが。
大きな仲間たちが円で囲む、その中心に立たされていた。
「しかし、彼に戦意はもうありませんでした。将堂は、無駄な殺生を禁じています」
「そんなのは建前だよ。上の連中は、前線のことなんかわかっちゃいないんだからよぉ」
「おまえが逃がしたあの兵のせいで俺が死んだら、慰謝料をふんだくってやる」
「こいつは名家の御子息だから、たんまり金をふんだくれるな」
「なら死んでからと言わず、今、いただきたいものだなぁ?」
前線で生き残る猛者の大男と、七歳のまだまだ幼い堺とでは、勝負にならない。
剣術の勝負ならまだしも。
味方同士で争うことも、実質禁止だ。
「私には、お金などありません…」
「そうだな? おまえは時雨家から捨てられたんだ。龍鬼だからな。名家のお坊ちゃんなのに、可哀想に…こんないつ死んでもおかしくない部隊に配属されるとは。だが、それとこれとは…」
「誰が捨てられただって?」
藤王が、我慢できなくなり。彼らの前に姿を現した。
できれば堺に、穏便にこの場を収集してもらいたかった。
上官として立つのなら、それも必要な才覚だからだ。
しかし己の大事な弟を、捨てられたなどと思われるのは業腹だ。
「し、時雨様」
白髪はそれほど珍しい髪色ではない。白鳥血脈の者もシラサギ血脈の者も、多くいる。
だが白髪の龍鬼となったら、それは堺と左参謀の藤王しかいないのだ。
突然の上官登場に、一兵士たちは慌てる。
「私の弟が随分と世話になっているようだ」
「いえ、そんなことは…」
言葉を濁して、堺を責めていた連中はその場から去った。
他愛ない。
藤王は己が現れたことで、堺は満面の笑みを見せてくれると思った。
しかし暗い表情をして、唇を引き結ぶ。
「申し訳ありません、兄上。お手数をおかけして…」
「堺、おまえはまだ幼いんだ。あのように大きな男たちに囲まれたら、私だって怖いよ。それより、兄上なんて言わず、いつものように兄さんと言って笑っておくれ?」
堺は、藤王に笑いかけようとするのだが。表情が引きつってしまい。
目を潤ませた。
「駄目です、気を抜くと、すぐに涙が出てしまって。男なら、泣いてはいけないのに」
「泣いたっていい。私の前で気を張ることなどない」
薄青の瞳が涙で潤むと、鮮やかな色に変化する。
堺が泣きそうだとその色を見たくなって、ついみつめてしまう。
早く抱き寄せて、慰めたいとも思うのだが。
「いいえ、男はそういうものだと、みなさんおっしゃいます。それに軍に入ったら、兄上が格上なので、兄さんなどと子供っぽい呼び方は控えなさいと、母上にきつく言いつけられています」
涙をこらえてキッと顔をあげる堺が、いじらしくて。藤王はたまらず弟を抱き寄せ、背中をポンと叩いた。
兄に、親しみを向けるのを禁じられ。戦場でひとり、耐え忍び。仲間にも責められて。
堺は居場所がなかったのだろう。
あぁ本当に、堺をそばに置いて己が逐一守ってやりたい。
しかし堺は、赤穂の龍鬼になる予定だった。
己が、金蓮の後ろにつくように。
将堂家次男である赤穂の後ろには、いずれ堺がつくのだ。
そのために、堺は右軍にいなくてはならない。
「地位がどうだろうと、堺が私の弟であることは変わらない。兄さんと呼んでくれ。な?」
なだめるように囁くと。堺は小さくうなずいた。
声を出したら、泣いてしまうのかな?
手のひらにおさまる小さな頭を、優しく優しく撫でて。藤王は弟が腕の中にいることを実感して、安堵する。
堺は、生きている。
命を脅かす環境から弟を救い出すことができたのだ。
そして一刻も早く、このような荒々しい者たちのいるところからも堺を連れ出したい。
「あ…兄さんは、今日はお仕事ですか?」
「あぁ、とっても大切な仕事だ。堺、一緒に幹部棟へ行こう」
「一緒に?」
自分は一兵卒だからそんなところには行ったことがない、と言うように小首を傾げる。
そういった仕草は、相変わらず弟は上品だった。
荒くれどもの中にいても態度が粗野にならなくて、兄はとても嬉しい。
そうして藤王は、堺を麟義将軍に預けることに成功し。
とりあえず使い捨てのような雑な扱いから、堺の待遇を引き上げることができた。
幹部棟の、麟義が住まう敷地。その離れに堺の部屋が設けられた。
使用人ではないが、補佐という仮の位なので、麟義の世話をする者と同じ扱いになる。
しかし第五大隊より、断然マシなのだった。
「よろしいのでしょうか、こんな特別良くしていただいて」
藤王はその日、当然のように堺と添い寝をした。
藤王がそばにいるときは一緒に寝るというのが、堺の中でも当たり前になっていたので。それは自然の流れだった。
「堺。第五大隊では大部屋だったか?」
「いえ、龍鬼と一緒には寝られないということで。宿舎のそばでテントを張っておりました」
屋根の下にも入れてもらえないなんて、不憫すぎる。
藤王は初陣を父の補佐として迎えたから、龍鬼は野宿して当たり前みたいなひどい扱いを受けたことがなかった。
藤王は龍鬼でありながら、龍鬼が普通受けるべくひどい事柄を体験していない、稀有な龍鬼だったのだ。
先ほど堺が、あからさまにカツアゲにあっていたが。藤王にそんなことを言ってくる輩はいない。
暴言を吐けば、名家を侮辱したとして捕らえられることもあるからだ。
しかし同じ家に生まれながら、堺はあなどられる。
それは堺が時雨家で冷遇されていることが、外にまで漏れているからなのだろう。
名家の恥のような話は、面白がられて、星が流れる速度で辺りに広がる。
「龍鬼は個室を与えられるものだ。だから、気後れすることはない」
「…兄さんもひとりで過ごしてきたのですね。私も兄さんを手本にして、お役目に励みます」
「偉いなぁ、堺は。とても立派だ。さすが私の弟」
白い肌、つるりとした頬を指先でくすぐると。堺はクスクスと笑った。
「やめて、兄さん。くすぐったいです」
「そうして、笑っていなさい。堺は笑顔が可愛いんだから」
藤王が言うと、たちまち堺の薄青の瞳が潤んだ。
笑みと涙が連動しているのかもしれない。
涙をこらえると、笑顔も引っ込んでしまうのだ。
可哀想に。
こうなるまでに、何度泣いて、こらえて、笑顔を封じてと、してきたのだろう。
あんなに柔らかく、麗らかな笑みを浮かべる子だったというのに。
たまらず、藤王は堺を抱き締めた。
そうすると堺も、藤王の胸に顔をうずめ。頬をすりつけてくる。
堺もきっと、頼る相手がなく心細かったのだろう。
当たり前だ、まだ七歳なのだから。
いじらしく健気な弟を、藤王は守りたかった。
嫁にすると言ったのも、堺をそばに置いて守り、彼がなにも憂うことのない世界で好きなことだけさせてやりたい。そう思ったからで。
なんら疚しい気持ちはなかった。
このときは。
藤王は一日、堺が麟義の元で仕事を務められるか確認し。次の日の朝、本拠地へ戻っていった。
堺は、前線には出てもらうが、常時前線で戦うようなことはさせないと麟義将軍は約束してくれた。
それだけでも、安心できる。
心の優しい子だから、戦場で斬り合いをすることだけでも憂いを帯びるだろうが。
時雨家に生まれた以上、それを避けられないのだとしたら。堺には乗り切ってもらうしかない。
龍鬼特有の超越した身体能力と、生真面目に取り組んできた剣術で。堺も人並み以上の戦士ではある。
龍鬼の能力で瞬間移動もできるので、最悪命の危険を感じたら激戦区域から脱出することもできるだろう。
自分の嫁にするまで、生き残っていてくれるはずだ。
可愛い、目の中に入れても確実に痛くないだろう、可愛い己の弟。
堺は読書が好きだし、自然のものも好きだから、屋敷の中で静かに動植物の研究や学問を極めたりできるようにしてあげたい。
堺は、己が幸せにするのだ。
★★★★★
藤王が十六歳のとき、衝撃的なことが起こった。
龍鬼が売られてきたのだ。
どのような能力の龍鬼かわからないので、藤王に立ち会ってもらいたいという人事からの依頼だった。
しかし案内された部屋には、箱がひとつあるだけで。龍鬼の姿はない。
どこにいるのだと聞こうとした矢先、箱が開けられ。
中から子供が出てきた。
緑の髪のやせこけた子供。下着しか身につけておらず、体には無数の殴打痕があった。
「なんと痛ましい。早く、水だ。このままでは死んでしまう」
人事の者がバケツに水を汲み、大きな敷布などを持ってきた。
洗うとでも思ったのか。
でも、まあいい。小さな箱の中にくの字になって押し込まれていた、その子を取り出し。敷布に包むと。
バケツの水を口に含んで、藤王は口移しで子供に水を飲ませた。
「藤王様、龍鬼ですよ?」
「私も龍鬼だが、なにか?」
すでに九年ほど軍につとめ、地位も築いていた藤王は。その知恵や剣技の優秀さで。龍鬼だが、上層部の誰よりも一目置かれた存在になっていた。
龍鬼だが。藤王を龍鬼として見る者も少ない。
堺などは、未だに龍鬼だから近寄るな、などと。どこでも言われているようだが。
藤王にそんなことを言う者はいないのだ。
それよりも、この死にそうな子供をなんとか助けなければならない。
藤王は本拠地にある藤王の屋敷に子供を運び込み、まずは回復させることにした。
子供の名前は高槻廣伊。小さくて、子供のようだったが、当時十一歳の堺よりも年上の十三歳だった。
両親が死んだことで自宅の倉庫の中で育てられていたのを発見され、村人に売られたという経緯だった。
藤王は知らなかった。世の龍鬼の扱いを。
龍鬼は外で買い物ができないので、入用のものは使用人にお申し付けください、と言われていて。素直に従い、己の家と、本拠地と、前線基地しか出向いたことがなく。
そんな小さい世界がすべてだと思ってすごしていたのだ。
だから外で龍鬼がどんな目にあわされるのか、知らなかった。
綺麗に体を拭いて治療を施し、清潔な布団に廣伊を寝かせる。
目を覚ました廣伊にいろいろ教えてもらった。
「龍鬼が発見された家は、取り潰しが決まります。でも私の血脈はケツァールで、希少種なのに。私のせいで家が取り潰されて、血脈が途絶えてしまったら…と思うと。悲しいのです」
村人にぼこぼこに殴られたのに、己の一族の安否を心配する廣伊が哀れだった。
「仕方がないのです。龍鬼にどんな能力があるか、わからないのですから。村人は龍鬼を袋叩きにして、動かなくさせてから軍に売るのです。己を守るためなのです」
そんな廣伊の能力は、一生懸命頑張って花芽をひとつ出すような、ほんの些細なものだった。
軍に売られてきた廣伊だから、兵士として働いてもらわなければならない。
体が回復したあと、藤王は廣伊に剣術を仕込んだ。
廣伊は小柄で童顔で、幼い子供にしか見えないのだが。龍鬼特有の卓越した身体能力があり。しかも俊足だった。
倉庫の中で育てられていたので、軍の敷地を走ったのが初めてだと言う。
この俊足は武器になるから極めると良いと助言した。
同族は、堺しかいなかった。
翼のない者が自分たち以外にいると思わなかったから、そのことも衝撃的だった。
藤王は、堺にできなかったことを廣伊にしてやりたかった。
廣伊に目をかけ、己のそばに置いて守ったのだ。
廣伊は倉庫の中で本を読むしかなかったらしい。しかしそのおかげで、博識だったし。礼儀作法も教えればすぐに吸収して。剣技もすぐに頭角を表し。とても有用な龍鬼に育った。
ただ表情筋だけは、全く動かなかったが。
しかし藤王が廣伊を手元に置くのを、金蓮は良い顔をしない。
「龍鬼はひとりでいい。おまえはおまえの仕事をせよ」
藤王は廣伊を筆頭参謀の補佐につけるつもりだったのだが、金蓮はうなずかず。
仕方がなく、左第一大隊の隊長に預けた。そこで二組の兵士として働くことになったのだ。
「龍鬼は戦場で使ってなんぼですよ。私は藤王様に教えていただいたすべてを生かして、生き延びてみせます」
そう言って、廣伊は己の手の中から飛び立ってしまった。
そばにいるのは、いつも唇を引き結んで睨んでくる、家柄だけがいい男。
「藤王、おまえは私のそばにいればいいのだ。見目麗しいおまえだけが、私の護衛に相応しい。汚らわしい他の龍鬼などに目を移すな」
同族を気に掛けるのは当然のことだ。
我らは翼がないだけで、ひどく疎まれているのだから。同族同士で結託し、身を守り合わないと。
そうするべきだ。
廣伊の仕打ちを見て、藤王はより、同族が不遇にあうことに怒りを感じるようになった。
なんで我らは、なにもしていないのに忌み嫌われるのか。
なぜ廣伊は、見も知らぬ村人から暴力を受けなければならないのか。
どうして堺は、親からも白い目を向けられなければならないのか。
なにもかもが理不尽だった。
そして己以外の龍鬼を毛嫌いする金蓮のことも、疑念を持つ。
なぜ金蓮は、己は良くて、堺や廣伊は駄目なのか。
答えなど、出ないけれど。
★★★★★
二二九一年、藤王は十八歳になった。
その年、赤穂が初陣を迎える。
そのことにより、堺は右参謀という確固とした地位を得た。
堺も十三歳になり。兵士としての貫禄も身につけ。藤王としてもホッと一息だった。
これで、よっぽどのことがなければ戦場で堺が死ぬことはない。
あとは赤穂が、龍鬼である堺を無謀な戦地に投入しなければいいのだが。
それだけは心配である。
赤穂はあの金蓮の弟であるし、兄同様、堺を嫌うようでは困る。
さらに、なにやら気性も荒いという噂だ。
あぁ気に掛かる。いっそ己が直接指導するのは、駄目だろうか?
しかし堺の兄になにを言われても、説得力がないかもしれないな。
なにせ己は、とにかく堺が可愛いのだ。
堺が黒だと思えば、白も黒になる。その自覚があるっ。
でもそれでは、堺のためにも赤穂のためにもならないだろう。
ということで、藤王は廣伊に白羽の矢を立てた。
左第一大隊の一兵卒だった廣伊は、二年の間に組長にまでなっていた。
龍鬼の特性である身体能力を生かし、戦場を文字通り駆け抜けたのである。
龍鬼の能力を出せないながらも、剣術で実績を出したのだ。
堺も、戦場では龍鬼の能力を発揮できない性質で、身体能力に特化している。
だから廣伊にいろいろ助言してもらえばいいと思うのだ。
それに廣伊は己が育てたも同然なので、礼儀作法は完璧だ。
名家の子息でも、あしらうことができるだろう。
藤王は廣伊に、赤穂にそれとなく、龍鬼の効果的な使い方を伝授してもらいたかったのだ。
そうして藤王は、廣伊に右軍幹部候補の指導を任せたのだった。
あとで『なんですか、あのクソガキどもはっ』と文句を言われたが。
そつなく対応してくれたので、藤王は満足した。
ちなみに赤穂は、堺と子供の頃から面識があり、龍鬼に対しては友好的だと廣伊から報告を貰っている。
赤穂が金蓮のようではなく、安心したが。
それよりも堺が笑わないので、幼馴染み連中は心配しているようだ。
「表情のことは、自分も人のことは言えないんですけど…それも報告しておきます」
やはり、右の戦場は堺には厳しかったのだろう。
右と左に分かれたことで、休暇がかぶらなくなり。藤王は、堺と年に数回しか会えない状況が続いていた。
どんどん表情を凍らせていく弟を、藤王はみつめることしかできない。
どうしてやったら、良かったのだろう…。
彼は猫のような大きな目を細めて笑い、こう言った。
「着任早々休暇願いとは。龍鬼というのは、ずいぶん偉いんだなぁ? それに物を頼む態度じゃない。私の頭より下で、頭を下げよ」
小柄でかなり年下の金蓮よりも、藤王は頭ひとつ分以上背が高かった。
藤王はその場にひざまずき、頭を下げて頼む。堺のために。
「お願いします。弟が心配なんです。どうか三日、私に休暇をお与えください」
「駄目だ、おまえは私の龍鬼だろう。必ず私のそばにいなければならない」
頭を下げれば休暇を認めてもらえると思っていた藤王は、憤り。
すっくと立ち上がると、金蓮を睨み下ろした。
「私は金輪際、貴方に頭は下げない。私に頭を下げさせたかったら、部下に忠義を尽くしたいと思わせる者となるべきだ。威厳というのは、ただ偉そうにすることではなく。万民に自然と頭を下げたいと思わせる、高潔さと正しさを持ち合わせなければならない。金蓮様、次代当主として正しい威厳を身につけていただきたい」
金蓮は、怒られる場面が少なかった。
将堂家次代当主として、すでに目上の者も金蓮には頭を下げ。金蓮も、父である当主の前ではそつのない、優秀な長子として振舞っている。
だから、真正面から叱られたことが新鮮だった。
赤い瞳は燃えているのに、金蓮を冷ややかにみつめる。白髪は光にきらめいて輝かしい。スッと通った鼻筋も、薄い唇も、なにもかもが美しく整っていた。
金蓮は、このように美しく気品のある人物を初めて見たのだ。
そしてまだ十代前半であるのにしっかりと己を意志を持ち、権力におもねらない藤王に、心酔してしまう。
一方の藤王は。
家が偉いだけで己も偉いと思い込んでいるお坊ちゃんを相手にしている時間はないと判断し。踵を返す。
金蓮の上司は、父である左将軍。しかし父が休暇を出してくれるとは思えなかった。
父は戦場で、堺が死んでもいいと思っている節がある。
そんなのは、絶対にダメだ。
なので大将に談判するしかなかった。
当時大将であった山吹は、龍鬼を戦場の駒として扱う非情な男であったが。それゆえに、強力な駒を失うのを良しとはしない性質だ。
「堺は幼いですが、優秀な龍鬼です。しかしいかに優秀でも、七歳という若輩で前線に立ち続ければ、いずれ死んでしまうかもしれません。それは将堂の将来に不利益です」
藤王の意見に賛同した山吹は、当時右将軍であった麟義(瀬間の父)に、堺を補佐につけるよう辞令を出してくれて。藤王にも三日の休暇を出した。
そして自力で休暇をもぎ取った藤王は、その足で前線基地へ馬を走らせたのだった。
★★★★★
藤王は富士のふもとにある前線基地に着くと、すぐに堺を探した。
右の第五大隊は、軍の中でも先鋒を務めることが多い激戦部隊だ。
このとき廣伊は、まだ将堂軍に在籍していない。
つまり統率力のない中で、荒くれ者が多く、激戦による兵の入れ替わりも激しいことから、殺伐とした空気が漂う部隊だった。
「おまえ、あの手裏兵を逃がしやがって。あいつが次に襲ってきて俺が死んだら、どう責任を取るつもりだ?」
藤王が堺をみつけたとき、堺は仲間に囲まれ責められているところだった。
龍鬼なので、胸倉つかんだり袋叩きなどはなかったが。
大きな仲間たちが円で囲む、その中心に立たされていた。
「しかし、彼に戦意はもうありませんでした。将堂は、無駄な殺生を禁じています」
「そんなのは建前だよ。上の連中は、前線のことなんかわかっちゃいないんだからよぉ」
「おまえが逃がしたあの兵のせいで俺が死んだら、慰謝料をふんだくってやる」
「こいつは名家の御子息だから、たんまり金をふんだくれるな」
「なら死んでからと言わず、今、いただきたいものだなぁ?」
前線で生き残る猛者の大男と、七歳のまだまだ幼い堺とでは、勝負にならない。
剣術の勝負ならまだしも。
味方同士で争うことも、実質禁止だ。
「私には、お金などありません…」
「そうだな? おまえは時雨家から捨てられたんだ。龍鬼だからな。名家のお坊ちゃんなのに、可哀想に…こんないつ死んでもおかしくない部隊に配属されるとは。だが、それとこれとは…」
「誰が捨てられただって?」
藤王が、我慢できなくなり。彼らの前に姿を現した。
できれば堺に、穏便にこの場を収集してもらいたかった。
上官として立つのなら、それも必要な才覚だからだ。
しかし己の大事な弟を、捨てられたなどと思われるのは業腹だ。
「し、時雨様」
白髪はそれほど珍しい髪色ではない。白鳥血脈の者もシラサギ血脈の者も、多くいる。
だが白髪の龍鬼となったら、それは堺と左参謀の藤王しかいないのだ。
突然の上官登場に、一兵士たちは慌てる。
「私の弟が随分と世話になっているようだ」
「いえ、そんなことは…」
言葉を濁して、堺を責めていた連中はその場から去った。
他愛ない。
藤王は己が現れたことで、堺は満面の笑みを見せてくれると思った。
しかし暗い表情をして、唇を引き結ぶ。
「申し訳ありません、兄上。お手数をおかけして…」
「堺、おまえはまだ幼いんだ。あのように大きな男たちに囲まれたら、私だって怖いよ。それより、兄上なんて言わず、いつものように兄さんと言って笑っておくれ?」
堺は、藤王に笑いかけようとするのだが。表情が引きつってしまい。
目を潤ませた。
「駄目です、気を抜くと、すぐに涙が出てしまって。男なら、泣いてはいけないのに」
「泣いたっていい。私の前で気を張ることなどない」
薄青の瞳が涙で潤むと、鮮やかな色に変化する。
堺が泣きそうだとその色を見たくなって、ついみつめてしまう。
早く抱き寄せて、慰めたいとも思うのだが。
「いいえ、男はそういうものだと、みなさんおっしゃいます。それに軍に入ったら、兄上が格上なので、兄さんなどと子供っぽい呼び方は控えなさいと、母上にきつく言いつけられています」
涙をこらえてキッと顔をあげる堺が、いじらしくて。藤王はたまらず弟を抱き寄せ、背中をポンと叩いた。
兄に、親しみを向けるのを禁じられ。戦場でひとり、耐え忍び。仲間にも責められて。
堺は居場所がなかったのだろう。
あぁ本当に、堺をそばに置いて己が逐一守ってやりたい。
しかし堺は、赤穂の龍鬼になる予定だった。
己が、金蓮の後ろにつくように。
将堂家次男である赤穂の後ろには、いずれ堺がつくのだ。
そのために、堺は右軍にいなくてはならない。
「地位がどうだろうと、堺が私の弟であることは変わらない。兄さんと呼んでくれ。な?」
なだめるように囁くと。堺は小さくうなずいた。
声を出したら、泣いてしまうのかな?
手のひらにおさまる小さな頭を、優しく優しく撫でて。藤王は弟が腕の中にいることを実感して、安堵する。
堺は、生きている。
命を脅かす環境から弟を救い出すことができたのだ。
そして一刻も早く、このような荒々しい者たちのいるところからも堺を連れ出したい。
「あ…兄さんは、今日はお仕事ですか?」
「あぁ、とっても大切な仕事だ。堺、一緒に幹部棟へ行こう」
「一緒に?」
自分は一兵卒だからそんなところには行ったことがない、と言うように小首を傾げる。
そういった仕草は、相変わらず弟は上品だった。
荒くれどもの中にいても態度が粗野にならなくて、兄はとても嬉しい。
そうして藤王は、堺を麟義将軍に預けることに成功し。
とりあえず使い捨てのような雑な扱いから、堺の待遇を引き上げることができた。
幹部棟の、麟義が住まう敷地。その離れに堺の部屋が設けられた。
使用人ではないが、補佐という仮の位なので、麟義の世話をする者と同じ扱いになる。
しかし第五大隊より、断然マシなのだった。
「よろしいのでしょうか、こんな特別良くしていただいて」
藤王はその日、当然のように堺と添い寝をした。
藤王がそばにいるときは一緒に寝るというのが、堺の中でも当たり前になっていたので。それは自然の流れだった。
「堺。第五大隊では大部屋だったか?」
「いえ、龍鬼と一緒には寝られないということで。宿舎のそばでテントを張っておりました」
屋根の下にも入れてもらえないなんて、不憫すぎる。
藤王は初陣を父の補佐として迎えたから、龍鬼は野宿して当たり前みたいなひどい扱いを受けたことがなかった。
藤王は龍鬼でありながら、龍鬼が普通受けるべくひどい事柄を体験していない、稀有な龍鬼だったのだ。
先ほど堺が、あからさまにカツアゲにあっていたが。藤王にそんなことを言ってくる輩はいない。
暴言を吐けば、名家を侮辱したとして捕らえられることもあるからだ。
しかし同じ家に生まれながら、堺はあなどられる。
それは堺が時雨家で冷遇されていることが、外にまで漏れているからなのだろう。
名家の恥のような話は、面白がられて、星が流れる速度で辺りに広がる。
「龍鬼は個室を与えられるものだ。だから、気後れすることはない」
「…兄さんもひとりで過ごしてきたのですね。私も兄さんを手本にして、お役目に励みます」
「偉いなぁ、堺は。とても立派だ。さすが私の弟」
白い肌、つるりとした頬を指先でくすぐると。堺はクスクスと笑った。
「やめて、兄さん。くすぐったいです」
「そうして、笑っていなさい。堺は笑顔が可愛いんだから」
藤王が言うと、たちまち堺の薄青の瞳が潤んだ。
笑みと涙が連動しているのかもしれない。
涙をこらえると、笑顔も引っ込んでしまうのだ。
可哀想に。
こうなるまでに、何度泣いて、こらえて、笑顔を封じてと、してきたのだろう。
あんなに柔らかく、麗らかな笑みを浮かべる子だったというのに。
たまらず、藤王は堺を抱き締めた。
そうすると堺も、藤王の胸に顔をうずめ。頬をすりつけてくる。
堺もきっと、頼る相手がなく心細かったのだろう。
当たり前だ、まだ七歳なのだから。
いじらしく健気な弟を、藤王は守りたかった。
嫁にすると言ったのも、堺をそばに置いて守り、彼がなにも憂うことのない世界で好きなことだけさせてやりたい。そう思ったからで。
なんら疚しい気持ちはなかった。
このときは。
藤王は一日、堺が麟義の元で仕事を務められるか確認し。次の日の朝、本拠地へ戻っていった。
堺は、前線には出てもらうが、常時前線で戦うようなことはさせないと麟義将軍は約束してくれた。
それだけでも、安心できる。
心の優しい子だから、戦場で斬り合いをすることだけでも憂いを帯びるだろうが。
時雨家に生まれた以上、それを避けられないのだとしたら。堺には乗り切ってもらうしかない。
龍鬼特有の超越した身体能力と、生真面目に取り組んできた剣術で。堺も人並み以上の戦士ではある。
龍鬼の能力で瞬間移動もできるので、最悪命の危険を感じたら激戦区域から脱出することもできるだろう。
自分の嫁にするまで、生き残っていてくれるはずだ。
可愛い、目の中に入れても確実に痛くないだろう、可愛い己の弟。
堺は読書が好きだし、自然のものも好きだから、屋敷の中で静かに動植物の研究や学問を極めたりできるようにしてあげたい。
堺は、己が幸せにするのだ。
★★★★★
藤王が十六歳のとき、衝撃的なことが起こった。
龍鬼が売られてきたのだ。
どのような能力の龍鬼かわからないので、藤王に立ち会ってもらいたいという人事からの依頼だった。
しかし案内された部屋には、箱がひとつあるだけで。龍鬼の姿はない。
どこにいるのだと聞こうとした矢先、箱が開けられ。
中から子供が出てきた。
緑の髪のやせこけた子供。下着しか身につけておらず、体には無数の殴打痕があった。
「なんと痛ましい。早く、水だ。このままでは死んでしまう」
人事の者がバケツに水を汲み、大きな敷布などを持ってきた。
洗うとでも思ったのか。
でも、まあいい。小さな箱の中にくの字になって押し込まれていた、その子を取り出し。敷布に包むと。
バケツの水を口に含んで、藤王は口移しで子供に水を飲ませた。
「藤王様、龍鬼ですよ?」
「私も龍鬼だが、なにか?」
すでに九年ほど軍につとめ、地位も築いていた藤王は。その知恵や剣技の優秀さで。龍鬼だが、上層部の誰よりも一目置かれた存在になっていた。
龍鬼だが。藤王を龍鬼として見る者も少ない。
堺などは、未だに龍鬼だから近寄るな、などと。どこでも言われているようだが。
藤王にそんなことを言う者はいないのだ。
それよりも、この死にそうな子供をなんとか助けなければならない。
藤王は本拠地にある藤王の屋敷に子供を運び込み、まずは回復させることにした。
子供の名前は高槻廣伊。小さくて、子供のようだったが、当時十一歳の堺よりも年上の十三歳だった。
両親が死んだことで自宅の倉庫の中で育てられていたのを発見され、村人に売られたという経緯だった。
藤王は知らなかった。世の龍鬼の扱いを。
龍鬼は外で買い物ができないので、入用のものは使用人にお申し付けください、と言われていて。素直に従い、己の家と、本拠地と、前線基地しか出向いたことがなく。
そんな小さい世界がすべてだと思ってすごしていたのだ。
だから外で龍鬼がどんな目にあわされるのか、知らなかった。
綺麗に体を拭いて治療を施し、清潔な布団に廣伊を寝かせる。
目を覚ました廣伊にいろいろ教えてもらった。
「龍鬼が発見された家は、取り潰しが決まります。でも私の血脈はケツァールで、希少種なのに。私のせいで家が取り潰されて、血脈が途絶えてしまったら…と思うと。悲しいのです」
村人にぼこぼこに殴られたのに、己の一族の安否を心配する廣伊が哀れだった。
「仕方がないのです。龍鬼にどんな能力があるか、わからないのですから。村人は龍鬼を袋叩きにして、動かなくさせてから軍に売るのです。己を守るためなのです」
そんな廣伊の能力は、一生懸命頑張って花芽をひとつ出すような、ほんの些細なものだった。
軍に売られてきた廣伊だから、兵士として働いてもらわなければならない。
体が回復したあと、藤王は廣伊に剣術を仕込んだ。
廣伊は小柄で童顔で、幼い子供にしか見えないのだが。龍鬼特有の卓越した身体能力があり。しかも俊足だった。
倉庫の中で育てられていたので、軍の敷地を走ったのが初めてだと言う。
この俊足は武器になるから極めると良いと助言した。
同族は、堺しかいなかった。
翼のない者が自分たち以外にいると思わなかったから、そのことも衝撃的だった。
藤王は、堺にできなかったことを廣伊にしてやりたかった。
廣伊に目をかけ、己のそばに置いて守ったのだ。
廣伊は倉庫の中で本を読むしかなかったらしい。しかしそのおかげで、博識だったし。礼儀作法も教えればすぐに吸収して。剣技もすぐに頭角を表し。とても有用な龍鬼に育った。
ただ表情筋だけは、全く動かなかったが。
しかし藤王が廣伊を手元に置くのを、金蓮は良い顔をしない。
「龍鬼はひとりでいい。おまえはおまえの仕事をせよ」
藤王は廣伊を筆頭参謀の補佐につけるつもりだったのだが、金蓮はうなずかず。
仕方がなく、左第一大隊の隊長に預けた。そこで二組の兵士として働くことになったのだ。
「龍鬼は戦場で使ってなんぼですよ。私は藤王様に教えていただいたすべてを生かして、生き延びてみせます」
そう言って、廣伊は己の手の中から飛び立ってしまった。
そばにいるのは、いつも唇を引き結んで睨んでくる、家柄だけがいい男。
「藤王、おまえは私のそばにいればいいのだ。見目麗しいおまえだけが、私の護衛に相応しい。汚らわしい他の龍鬼などに目を移すな」
同族を気に掛けるのは当然のことだ。
我らは翼がないだけで、ひどく疎まれているのだから。同族同士で結託し、身を守り合わないと。
そうするべきだ。
廣伊の仕打ちを見て、藤王はより、同族が不遇にあうことに怒りを感じるようになった。
なんで我らは、なにもしていないのに忌み嫌われるのか。
なぜ廣伊は、見も知らぬ村人から暴力を受けなければならないのか。
どうして堺は、親からも白い目を向けられなければならないのか。
なにもかもが理不尽だった。
そして己以外の龍鬼を毛嫌いする金蓮のことも、疑念を持つ。
なぜ金蓮は、己は良くて、堺や廣伊は駄目なのか。
答えなど、出ないけれど。
★★★★★
二二九一年、藤王は十八歳になった。
その年、赤穂が初陣を迎える。
そのことにより、堺は右参謀という確固とした地位を得た。
堺も十三歳になり。兵士としての貫禄も身につけ。藤王としてもホッと一息だった。
これで、よっぽどのことがなければ戦場で堺が死ぬことはない。
あとは赤穂が、龍鬼である堺を無謀な戦地に投入しなければいいのだが。
それだけは心配である。
赤穂はあの金蓮の弟であるし、兄同様、堺を嫌うようでは困る。
さらに、なにやら気性も荒いという噂だ。
あぁ気に掛かる。いっそ己が直接指導するのは、駄目だろうか?
しかし堺の兄になにを言われても、説得力がないかもしれないな。
なにせ己は、とにかく堺が可愛いのだ。
堺が黒だと思えば、白も黒になる。その自覚があるっ。
でもそれでは、堺のためにも赤穂のためにもならないだろう。
ということで、藤王は廣伊に白羽の矢を立てた。
左第一大隊の一兵卒だった廣伊は、二年の間に組長にまでなっていた。
龍鬼の特性である身体能力を生かし、戦場を文字通り駆け抜けたのである。
龍鬼の能力を出せないながらも、剣術で実績を出したのだ。
堺も、戦場では龍鬼の能力を発揮できない性質で、身体能力に特化している。
だから廣伊にいろいろ助言してもらえばいいと思うのだ。
それに廣伊は己が育てたも同然なので、礼儀作法は完璧だ。
名家の子息でも、あしらうことができるだろう。
藤王は廣伊に、赤穂にそれとなく、龍鬼の効果的な使い方を伝授してもらいたかったのだ。
そうして藤王は、廣伊に右軍幹部候補の指導を任せたのだった。
あとで『なんですか、あのクソガキどもはっ』と文句を言われたが。
そつなく対応してくれたので、藤王は満足した。
ちなみに赤穂は、堺と子供の頃から面識があり、龍鬼に対しては友好的だと廣伊から報告を貰っている。
赤穂が金蓮のようではなく、安心したが。
それよりも堺が笑わないので、幼馴染み連中は心配しているようだ。
「表情のことは、自分も人のことは言えないんですけど…それも報告しておきます」
やはり、右の戦場は堺には厳しかったのだろう。
右と左に分かれたことで、休暇がかぶらなくなり。藤王は、堺と年に数回しか会えない状況が続いていた。
どんどん表情を凍らせていく弟を、藤王はみつめることしかできない。
どうしてやったら、良かったのだろう…。
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