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番外 側近、瀬来月光 1
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◆側近、瀬来月光
十二月二十八日。紫輝が安曇とともに村を出て行った。
金蓮に会うためなのだが、月光は、紫輝の遠ざかっていく後ろ姿を悲しげに見送る。
心配で仕方がないのだ。
月光の目には、紫輝は六歳の紫月に見える。
もちろん体は大きいし、四月にこの世界に来てからも、彼はひとりで立派に生活してきたのだから。しっかりした大人…。大人というには少し子供っぽいから、青年ではある。
でも、息子は。いつまで経っても、息子だから。
とにかく心配なのだ。
紫輝が母親である金蓮に対峙したら、血脈を、彼女に強く感じ取ったら。
紫輝が金蓮にとられちゃうんじゃないか?
もしくは、金蓮はあの性格だから。紫輝を傷つけるのでは?
金蓮が、紫輝が息子だと気づいたら殺そうとするのでは?
頭の中でもやもや考えていたら。
赤穂に頭を小突かれた。
「おい、馬鹿みたいなこと、ぐちゃぐちゃ考えてんじゃねぇ。紫輝が上辺のことで揺らぐことなんか、ねぇ。そんなのは、わかるだろ?」
そう、月光が考えていることは決して起こらない未来。
起こってもいないことにそわそわしてしまうのは、なんでなのかな?
信用していないわけでもないのに。
不安? 子供の初めてのおつかい、みたいな?
「わかるけどぉ。でも、心配なものは心配っ。自分で対処する方がよほど気楽だよね。僕たちは、なんでもふたりでやってきたじゃん?」
村の入り口で、ピンクの羽をバサリとさせて月光はつぶやく。
月光が物心ついた頃には、赤穂はもう目の前にいた。
名家の出で、赤穂と同い年だった月光は、生まれたときから赤穂の側仕え候補だったのだ。
遊んで、学んで、戦って、恋をして…なんでも一緒だ。
「紫輝は、俺たちのように、あいつとともになんでもやってきたんだな。悔しいことに。今からでも首根っこ捕まえて、幼い紫輝をあいつから引っ剥がしたいが。三百年前なんか、手が届きゃしねぇ」
「言わないで。腹立つから」
ぷんと、頬を膨らませる月光をうながし、赤穂は自分たちの屋敷に戻っていった。
今は冬本番で。まだまだ寒い日が続く。
月光の体はそんなに丈夫じゃないから、赤穂は月光の方こそ心配だった。
早く暖かいところへ行こう。
★★★★★
囲炉裏の部屋で、月光と赤穂は差し向かいでまったりしている。
こんなになんにもしない日は。子供のとき…いや、療養期間以来かもしれない。
なんて、月光はジジイのように、お茶を飲みながら思うのだった。
「紫輝が、年越しぱーてぃーしようなんて言っていたけど、年越しって、どう過ごしていたっけ?」
くりすますぱーてぃーなるものをしたので、月光はぱーてぃーが、バカ騒ぎのことだとはわかっていた。
っていうか、三百年前の人たち、バカ騒ぎしすぎじゃない?
なにせ、紫輝に聞くと。一ヶ月に一度は、なにかしら、いべんとなるものがあったらしい。
いべんとって、行事のことだよね。
正月、ばれんたいん、ひなまつり、花見…花見ってなに?
なんで花見て騒ぐの?
四月は手裏が動き出すから、そんなバカ騒ぎしている暇はないんですけど?
「さぁ。時期的に、人事決裁かなぁ。確実に、本拠地で仕事だろ。正月もあまり意識したことねぇ」
そう、赤穂もお茶を飲みながらつぶやいた。
赤穂は養子であり、家族とは名ばかりで、深い関りはない。
ゆえに、家族で行事を楽しむこともなかった。
月光はそれなりに家族で行事をしたが、それになんの意味があるのかはよくわからなかった。
でも、今は。
紫輝となにかをするのは楽しいから。子供と大切な時間を過ごすっていう意味なら、なるほど、よくわかります。
いべんと、大事。大好き。
だけど、瀬来家の行事は絶対そういう意味ではなかったよなぁ…と月光は思い起こす。
★★★★★
正月になると、父は将堂家に新年の挨拶をしに行く。
今年もどうぞご贔屓に、という意味合いが強く。
そこに月光を連れて行くことも、子供と一緒の時間を…なんて意味ではなく。
将堂の坊ちゃんと顔をつなげ、という父の思惑が色濃かった。
物心ついた頃から、月光は赤穂のそばにいる。
幼少期は、一緒に暮らしているわけではなかったから、ずっとべったりというわけではないが。
赤穂と遊ぶ頻度は、誰よりも多かったと自負している。
だから正月なのに、離れでひとりでいる赤穂に、月光は当たり前のように寄り添う。
まだまだ子供だったから、父がどう思うとかは関係なく。ただ遊んだり、お菓子食べたり、そんな感じだけど。
「月光、また遊びに来いよ」
父親に、家に帰ると言われたあと、赤穂は必ず月光にそう言ってくれた。
帰りたくないな。
赤穂のそばにずっといたいな、と。月光は赤穂の家に遊びに行くたび、いつも思ったのだ。
三歳の頃には、自我が芽生えていて。月光は、赤穂のことを好きだと思っていた。
恋愛の意味で。マセマセだ。
同じ頃、堺のことも紹介された。赤穂の力になる龍鬼だと。
でも龍鬼とか、そんなのはどうでもよくて。
おとなしい性格で、可愛いおかっぱの子に、月光は好感を持った。
子供の頃は、月光もやんちゃで。赤穂と一緒になって、チャンバラして庭を駆け回ったり、棒を振りながら蝶を追い回したりしたのだが。
二歳上の堺は、いつも困った顔をして月光たちの後ろを追いかけてきて。蝶には命があるのだから無闇に殺してはいけない、と教えてくれたりもした。
堺は優しいな。自分たちとは気質が違うな。と、月光は感じたものだ。
そして五歳の頃。月光は、麟義瀬間とともに赤穂の側仕えに正式に決まった。
月光は。同僚は堺の方がいいなと思った。
だって、綺麗で可愛いし、剣の腕も確かだというから。赤穂の剣の相手にも、うってつけ。
瀬間は武闘派だけど、熱血で暑苦しいし、生真面目で暑苦しいし、顔の造作も濃くて暑苦しい。
ついでに髪もみかん色で、暑苦しい。
でも堺は、すでに初陣を済ませ、戦場で活躍していたのだった。残念。
側仕えになったことで、月光は赤穂と同じ屋根の下で暮らせるようになった。
初恋を胸に秘め、月光は赤穂に仕える。
でも始終一緒にいる生活で、そんなに長く秘められるわけもないよ。
なにせ、我慢の利かない子供だからね。
まだ性的な感覚はないものの。賢明、聡明な人物を輩出してきた瀬来家の中でも神童と言われる月光なので、恋愛の理論も、体の欲求の理論も、すでに解している。
ただ赤穂は仕えるべき人物だから、分をわきまえていただけなのだ。
しかし、六歳のとき。赤穂が高い熱を出して寝込んだ。
看病していた月光は、赤穂がこのまま死んでしまうのではないかとおろおろしてしまって。
分をわきまえる心など、ぶっ壊れて。
赤穂にキスしたのだ。
大好きな赤穂、死なないで。そんな気持ちをこめて。何度も。何度も。
まぁ子供の熱だから、すぐに下がったんだけど。
そうしたら、意識が朦朧としていたはずの赤穂は。月光がキスしたことを覚えていたのだ。
布団の上に身を起こした赤穂は、聞いた。
「なんで、俺にくちづけたんだ?」
怒っているわけではなく、ただ、理由を知りたいという顔つきだった。
だから月光は、正直に言ったのだ。
「好きだからだよ」
「好きっていうのは、瀬間にも感じるのか?」
「好きは、いっぱいあるけど。赤穂への好きは、特別な好き。っていうか、瀬間のことは好きじゃない。堺のことは好きだけど。キスする好きじゃない。赤穂に感じるのは、キスしたい、好き」
「ふーん」
気のない感じで、うなずいたけど。
赤穂は月光にチュッとくちづけた。
「俺も、月光のことは好き。キスしたい、好き」
その返事を聞いて、月光は嬉しかった。
でも、羽目は外さない。
大人たちは、こういう恋人的な接触をしてはいけない、と言うものだから。
月光は、赤穂から引き離されたくない。だから、べったりくっついたり、人前でチュウしたりは絶対にしないようにしていた。
だけど。やっぱり子供だから。精通がきたら、触りっこをしたくなる。
好奇心で、触りっこはどんどん濃厚になっていって。
赤穂はそれ以上を望むようになってきた。
体を預けていたら、初陣の前に性交までしてしまった。
でも、嫌じゃないから。
好きな人と情を交わすのは、体が重なり、体温が感じられるだけで、すごく気持ちが良いことだ。
まぁ、初めては。どうしても試行錯誤してしまうから、痛いけど。
赤穂とともに乗り越えた、耐えられる痛みだった。
でも自分たちは、まだ十年ほどしか生きていない子供だったのだ。
恋も愛も、理屈ではわかっていても。本質はわかっていない。
特に赤穂は。家族の愛を得られず、孤独の中にいた赤穂は。
月光から向けられる愛情しか知らないから。
本当に己は、月光を愛しているのか? 愛されたから愛したのではないのか?
その区別がつかなくて。
ただ体の快楽に溺れて。深く考えることなく、心地よい月光の愛情に浸っていた。
月光はそんな赤穂の気持ちをわかっていたから、己の気持ちを押しつけようとは思わなかった。
ただ寄り添い、彼が欲しいと望めば与えたのだ。
そんな、ちょっとお子様な赤穂だけど。
剣技の腕前は抜群で。血気盛んで、剣術に秀でた麟義家の瀬間でさえ一度も勝てない。
そんな赤穂に、月光がかなうはずもなく。
剣の相手は瀬間にお任せで、月光は赤穂の頭脳として才覚を発揮した。
赤穂には、金蓮のように人の上に立つ学問は与えられなかった。
ただ、月光がそばにいた。
どんな大人よりも月光は学問を究めていて、参謀職に秀でていた瀬来家の才人として、名高かった。
そして剣術に秀でた麟義家の瀬間は、赤穂と切磋琢磨しどんどん強くなっていく。
強力なふたりが側仕えとしていることで、赤穂は人知れず、優秀な上官の資質を蓄えていったのだ。
赤穂は十一歳で初陣を迎えた。
いきなり右次将軍という地位だ。
月光は赤穂の補佐につき、瀬間と堺は参謀として赤穂に仕えることになった。
でも。堺はそのときすでに、表情を凍らせていたのだ。
優しい気質の堺には、戦場がとても厳しい環境だったのだろう。可哀想に。
月光は、赤穂と一緒になって堺の心を開かせようとした。
まぁ、ちょっかいをかけたのだ。
時間があれば声をかけたし、触れることで龍鬼に嫌悪がないと示そうとした。
だけど…堺は。人に触れられることをものすごく怖がっていて、距離を取られてしまうし。なにを言っても反応を示さないし。
つまり、今思うと。逆効果だったのだ。
「堺のことは、少し様子を見よう。時間が解決することもある」
真新しい茶色の軍服を着た、若き上官、赤穂は。そう言った。
月光は、早く堺の心を癒してあげたかったけれど。
自分が近寄ることで彼が苦しく思うのなら。それは本意ではない。
月光は赤穂の意に従った。
ある日、月光はひとりでいたところを、三人の兵士に囲まれた。
「こんな戦場に、桃色の可愛い女の子がいるなんて…」
「ひとりで歩いていたら危ないですよ、お嬢ちゃん。俺らのような男に食べられちゃうぞ」
下卑た笑いを浮かべる兵士に、月光はどうしてやろうかと考えた。
上官だと示すか? 罵倒を浴びせてやろうか? 有無を言わさず剣で叩きのめすか?
月光は、剣は赤穂と瀬間に任せているが、自分も鍛えていないわけではない。
赤穂の隣にいるのなら、それなりの剣技が求められるのだ。
下級兵士など、相手にならないくらいの技術はある。
「こんなところに女の子がいるわけないだろう。私は上官だぞ、今すぐここから立ち去れ」
胸を張って一喝するが、十一歳の子供が大の大人に言ったところで、聞くわけもない。
高い身長の兵士が、上から威嚇するように月光の顔をのぞき込む。
「はは、上官だってよ。こんな小さくて桃色の嬢ちゃんには、従えないなぁ」
「部下にいやらしいことされたなんて、言えねぇよ。上官ならな?」
ひとりの兵士に背後から抱きつかれそうになり、月光は身をかわした。
あぁ、もう。これは有無を言わさず叩きのめすしかない。
月光が剣に手をやろうとすると、目の前の男が吹っ飛んだ。
横に、足を上げたままの赤穂がいる。
蹴ったみたい。
「俺のに、なにやっているんだ? 殺すぞ」
赤穂はすでに、将堂家の猛犬として、軍内部で恐れられていた。
つまり目が合ったら噛みつかれる、という。
目尻に傷があるため、左の前髪を長く垂らしている。そしてなにより、一ヶ所だけ白いという、特徴的な黒の大翼を持つ赤穂の容姿は。誰もが知っている。
なので、兵士たちはみんな一目散に逃げていった。
「おまえ、体、触らせてんじゃねぇよ」
「触らせるわけないだろ、気持ち悪い。でも、ちょっと驚いちゃったな。桃色の翼は瀬来家のものって周知されているかと思ったのに、そうでもないんだなって」
「月光の親父さんは、あまり目立った動きがないから。瀬来が側近の地位にいることを知らない者も、下級兵士にはいるようだな」
月光の父親は、そのとき右側近の地位に就いていたが。
彼は、瀬来家の中でも凡人で。
奇抜な発想や戦術を思いつくような者ではなかった。
過去、実施された戦術をなぞっているだけなので、華々しい戦果をあげることがない。
なのに出世欲だけは旺盛で、将堂家や名家にはへりくだる。そして、頭が固い人物でもあった。
男は戦い、女は家を守り、強い者には従い、弱い者はこき使う、希少種はえらい、龍鬼は汚い。
そんな凝り固まった『であるべき』を踏襲する人。
月光は、そんな父親があまり好きではない。
俯瞰して見れば、父親は完璧な反面教師であった。こうはなりたくないの、典型だ。
「そうじゃなくて。俺が言いたいのは、月光は可愛いから兵士に気をつけろってことだ。もう…わかるだろ?」
あの兵士たちが、月光をそういう目で見ていたのは明白だった。
穏便に済ませるには、どうしたらいいか。ちょっと長く考えすぎたな。
それと赤穂が、月光を心配していることもわかっている。
「ええ? わからないなぁ。もしかして、僕を愛してるって言ってるのぉ?」
上目づかいで、からかうように言うと。
赤穂はちょっとだけ照れて、バーカと言うのだ。
赤穂のバーカは、愛してると同義だよね? それ、知ってる。
ちょっと。あの兵士たちにはむかついたけど。赤穂のバーカで帳消し。
月光の気分は、うきうきと上がった。
その後、赤穂は。少し暗めの赤い軍服を月光に渡し、自分もそれを着た。
本来、将堂の軍服は保護色の茶色が多い。
赤色は目立つので、剣に相当自信がないと、着てはダメなやつ。
「俺の名は赤穂だから、軍服は赤にする。月光も同じのを着ろ」
赤い軍服は、月光の桃色の翼や髪によく似合い、奇抜さを隠した。
そしてひと目で、赤穂の補佐だとわかる。
桃色の嬢ちゃんに従えない、というあの兵士の言葉を、赤穂は気にしてくれたようだ。
この軍服なら、ひとりでいても、あなどられることもないし。赤穂のものであると示すこともできる。
さりげなく助力してくれる赤穂に、月光は胸がギュンと締めつけられる想いがした。
もう、好き。
今までも好きだったけど、もっと好き。
毎日、どんどん好きになるこの親友に、月光は命を懸けてもいいと思い。
胸の中で、彼に永遠の忠誠を誓うのだった。
★★★★★
今、思うと…愛がなにかも知らない、子供の恋人ごっこの域を出なかったかもしれないが。
赤穂との関係は、あの頃が一番、幸せだったかもしれないと。月光は思うのだった。
十二月二十八日。紫輝が安曇とともに村を出て行った。
金蓮に会うためなのだが、月光は、紫輝の遠ざかっていく後ろ姿を悲しげに見送る。
心配で仕方がないのだ。
月光の目には、紫輝は六歳の紫月に見える。
もちろん体は大きいし、四月にこの世界に来てからも、彼はひとりで立派に生活してきたのだから。しっかりした大人…。大人というには少し子供っぽいから、青年ではある。
でも、息子は。いつまで経っても、息子だから。
とにかく心配なのだ。
紫輝が母親である金蓮に対峙したら、血脈を、彼女に強く感じ取ったら。
紫輝が金蓮にとられちゃうんじゃないか?
もしくは、金蓮はあの性格だから。紫輝を傷つけるのでは?
金蓮が、紫輝が息子だと気づいたら殺そうとするのでは?
頭の中でもやもや考えていたら。
赤穂に頭を小突かれた。
「おい、馬鹿みたいなこと、ぐちゃぐちゃ考えてんじゃねぇ。紫輝が上辺のことで揺らぐことなんか、ねぇ。そんなのは、わかるだろ?」
そう、月光が考えていることは決して起こらない未来。
起こってもいないことにそわそわしてしまうのは、なんでなのかな?
信用していないわけでもないのに。
不安? 子供の初めてのおつかい、みたいな?
「わかるけどぉ。でも、心配なものは心配っ。自分で対処する方がよほど気楽だよね。僕たちは、なんでもふたりでやってきたじゃん?」
村の入り口で、ピンクの羽をバサリとさせて月光はつぶやく。
月光が物心ついた頃には、赤穂はもう目の前にいた。
名家の出で、赤穂と同い年だった月光は、生まれたときから赤穂の側仕え候補だったのだ。
遊んで、学んで、戦って、恋をして…なんでも一緒だ。
「紫輝は、俺たちのように、あいつとともになんでもやってきたんだな。悔しいことに。今からでも首根っこ捕まえて、幼い紫輝をあいつから引っ剥がしたいが。三百年前なんか、手が届きゃしねぇ」
「言わないで。腹立つから」
ぷんと、頬を膨らませる月光をうながし、赤穂は自分たちの屋敷に戻っていった。
今は冬本番で。まだまだ寒い日が続く。
月光の体はそんなに丈夫じゃないから、赤穂は月光の方こそ心配だった。
早く暖かいところへ行こう。
★★★★★
囲炉裏の部屋で、月光と赤穂は差し向かいでまったりしている。
こんなになんにもしない日は。子供のとき…いや、療養期間以来かもしれない。
なんて、月光はジジイのように、お茶を飲みながら思うのだった。
「紫輝が、年越しぱーてぃーしようなんて言っていたけど、年越しって、どう過ごしていたっけ?」
くりすますぱーてぃーなるものをしたので、月光はぱーてぃーが、バカ騒ぎのことだとはわかっていた。
っていうか、三百年前の人たち、バカ騒ぎしすぎじゃない?
なにせ、紫輝に聞くと。一ヶ月に一度は、なにかしら、いべんとなるものがあったらしい。
いべんとって、行事のことだよね。
正月、ばれんたいん、ひなまつり、花見…花見ってなに?
なんで花見て騒ぐの?
四月は手裏が動き出すから、そんなバカ騒ぎしている暇はないんですけど?
「さぁ。時期的に、人事決裁かなぁ。確実に、本拠地で仕事だろ。正月もあまり意識したことねぇ」
そう、赤穂もお茶を飲みながらつぶやいた。
赤穂は養子であり、家族とは名ばかりで、深い関りはない。
ゆえに、家族で行事を楽しむこともなかった。
月光はそれなりに家族で行事をしたが、それになんの意味があるのかはよくわからなかった。
でも、今は。
紫輝となにかをするのは楽しいから。子供と大切な時間を過ごすっていう意味なら、なるほど、よくわかります。
いべんと、大事。大好き。
だけど、瀬来家の行事は絶対そういう意味ではなかったよなぁ…と月光は思い起こす。
★★★★★
正月になると、父は将堂家に新年の挨拶をしに行く。
今年もどうぞご贔屓に、という意味合いが強く。
そこに月光を連れて行くことも、子供と一緒の時間を…なんて意味ではなく。
将堂の坊ちゃんと顔をつなげ、という父の思惑が色濃かった。
物心ついた頃から、月光は赤穂のそばにいる。
幼少期は、一緒に暮らしているわけではなかったから、ずっとべったりというわけではないが。
赤穂と遊ぶ頻度は、誰よりも多かったと自負している。
だから正月なのに、離れでひとりでいる赤穂に、月光は当たり前のように寄り添う。
まだまだ子供だったから、父がどう思うとかは関係なく。ただ遊んだり、お菓子食べたり、そんな感じだけど。
「月光、また遊びに来いよ」
父親に、家に帰ると言われたあと、赤穂は必ず月光にそう言ってくれた。
帰りたくないな。
赤穂のそばにずっといたいな、と。月光は赤穂の家に遊びに行くたび、いつも思ったのだ。
三歳の頃には、自我が芽生えていて。月光は、赤穂のことを好きだと思っていた。
恋愛の意味で。マセマセだ。
同じ頃、堺のことも紹介された。赤穂の力になる龍鬼だと。
でも龍鬼とか、そんなのはどうでもよくて。
おとなしい性格で、可愛いおかっぱの子に、月光は好感を持った。
子供の頃は、月光もやんちゃで。赤穂と一緒になって、チャンバラして庭を駆け回ったり、棒を振りながら蝶を追い回したりしたのだが。
二歳上の堺は、いつも困った顔をして月光たちの後ろを追いかけてきて。蝶には命があるのだから無闇に殺してはいけない、と教えてくれたりもした。
堺は優しいな。自分たちとは気質が違うな。と、月光は感じたものだ。
そして五歳の頃。月光は、麟義瀬間とともに赤穂の側仕えに正式に決まった。
月光は。同僚は堺の方がいいなと思った。
だって、綺麗で可愛いし、剣の腕も確かだというから。赤穂の剣の相手にも、うってつけ。
瀬間は武闘派だけど、熱血で暑苦しいし、生真面目で暑苦しいし、顔の造作も濃くて暑苦しい。
ついでに髪もみかん色で、暑苦しい。
でも堺は、すでに初陣を済ませ、戦場で活躍していたのだった。残念。
側仕えになったことで、月光は赤穂と同じ屋根の下で暮らせるようになった。
初恋を胸に秘め、月光は赤穂に仕える。
でも始終一緒にいる生活で、そんなに長く秘められるわけもないよ。
なにせ、我慢の利かない子供だからね。
まだ性的な感覚はないものの。賢明、聡明な人物を輩出してきた瀬来家の中でも神童と言われる月光なので、恋愛の理論も、体の欲求の理論も、すでに解している。
ただ赤穂は仕えるべき人物だから、分をわきまえていただけなのだ。
しかし、六歳のとき。赤穂が高い熱を出して寝込んだ。
看病していた月光は、赤穂がこのまま死んでしまうのではないかとおろおろしてしまって。
分をわきまえる心など、ぶっ壊れて。
赤穂にキスしたのだ。
大好きな赤穂、死なないで。そんな気持ちをこめて。何度も。何度も。
まぁ子供の熱だから、すぐに下がったんだけど。
そうしたら、意識が朦朧としていたはずの赤穂は。月光がキスしたことを覚えていたのだ。
布団の上に身を起こした赤穂は、聞いた。
「なんで、俺にくちづけたんだ?」
怒っているわけではなく、ただ、理由を知りたいという顔つきだった。
だから月光は、正直に言ったのだ。
「好きだからだよ」
「好きっていうのは、瀬間にも感じるのか?」
「好きは、いっぱいあるけど。赤穂への好きは、特別な好き。っていうか、瀬間のことは好きじゃない。堺のことは好きだけど。キスする好きじゃない。赤穂に感じるのは、キスしたい、好き」
「ふーん」
気のない感じで、うなずいたけど。
赤穂は月光にチュッとくちづけた。
「俺も、月光のことは好き。キスしたい、好き」
その返事を聞いて、月光は嬉しかった。
でも、羽目は外さない。
大人たちは、こういう恋人的な接触をしてはいけない、と言うものだから。
月光は、赤穂から引き離されたくない。だから、べったりくっついたり、人前でチュウしたりは絶対にしないようにしていた。
だけど。やっぱり子供だから。精通がきたら、触りっこをしたくなる。
好奇心で、触りっこはどんどん濃厚になっていって。
赤穂はそれ以上を望むようになってきた。
体を預けていたら、初陣の前に性交までしてしまった。
でも、嫌じゃないから。
好きな人と情を交わすのは、体が重なり、体温が感じられるだけで、すごく気持ちが良いことだ。
まぁ、初めては。どうしても試行錯誤してしまうから、痛いけど。
赤穂とともに乗り越えた、耐えられる痛みだった。
でも自分たちは、まだ十年ほどしか生きていない子供だったのだ。
恋も愛も、理屈ではわかっていても。本質はわかっていない。
特に赤穂は。家族の愛を得られず、孤独の中にいた赤穂は。
月光から向けられる愛情しか知らないから。
本当に己は、月光を愛しているのか? 愛されたから愛したのではないのか?
その区別がつかなくて。
ただ体の快楽に溺れて。深く考えることなく、心地よい月光の愛情に浸っていた。
月光はそんな赤穂の気持ちをわかっていたから、己の気持ちを押しつけようとは思わなかった。
ただ寄り添い、彼が欲しいと望めば与えたのだ。
そんな、ちょっとお子様な赤穂だけど。
剣技の腕前は抜群で。血気盛んで、剣術に秀でた麟義家の瀬間でさえ一度も勝てない。
そんな赤穂に、月光がかなうはずもなく。
剣の相手は瀬間にお任せで、月光は赤穂の頭脳として才覚を発揮した。
赤穂には、金蓮のように人の上に立つ学問は与えられなかった。
ただ、月光がそばにいた。
どんな大人よりも月光は学問を究めていて、参謀職に秀でていた瀬来家の才人として、名高かった。
そして剣術に秀でた麟義家の瀬間は、赤穂と切磋琢磨しどんどん強くなっていく。
強力なふたりが側仕えとしていることで、赤穂は人知れず、優秀な上官の資質を蓄えていったのだ。
赤穂は十一歳で初陣を迎えた。
いきなり右次将軍という地位だ。
月光は赤穂の補佐につき、瀬間と堺は参謀として赤穂に仕えることになった。
でも。堺はそのときすでに、表情を凍らせていたのだ。
優しい気質の堺には、戦場がとても厳しい環境だったのだろう。可哀想に。
月光は、赤穂と一緒になって堺の心を開かせようとした。
まぁ、ちょっかいをかけたのだ。
時間があれば声をかけたし、触れることで龍鬼に嫌悪がないと示そうとした。
だけど…堺は。人に触れられることをものすごく怖がっていて、距離を取られてしまうし。なにを言っても反応を示さないし。
つまり、今思うと。逆効果だったのだ。
「堺のことは、少し様子を見よう。時間が解決することもある」
真新しい茶色の軍服を着た、若き上官、赤穂は。そう言った。
月光は、早く堺の心を癒してあげたかったけれど。
自分が近寄ることで彼が苦しく思うのなら。それは本意ではない。
月光は赤穂の意に従った。
ある日、月光はひとりでいたところを、三人の兵士に囲まれた。
「こんな戦場に、桃色の可愛い女の子がいるなんて…」
「ひとりで歩いていたら危ないですよ、お嬢ちゃん。俺らのような男に食べられちゃうぞ」
下卑た笑いを浮かべる兵士に、月光はどうしてやろうかと考えた。
上官だと示すか? 罵倒を浴びせてやろうか? 有無を言わさず剣で叩きのめすか?
月光は、剣は赤穂と瀬間に任せているが、自分も鍛えていないわけではない。
赤穂の隣にいるのなら、それなりの剣技が求められるのだ。
下級兵士など、相手にならないくらいの技術はある。
「こんなところに女の子がいるわけないだろう。私は上官だぞ、今すぐここから立ち去れ」
胸を張って一喝するが、十一歳の子供が大の大人に言ったところで、聞くわけもない。
高い身長の兵士が、上から威嚇するように月光の顔をのぞき込む。
「はは、上官だってよ。こんな小さくて桃色の嬢ちゃんには、従えないなぁ」
「部下にいやらしいことされたなんて、言えねぇよ。上官ならな?」
ひとりの兵士に背後から抱きつかれそうになり、月光は身をかわした。
あぁ、もう。これは有無を言わさず叩きのめすしかない。
月光が剣に手をやろうとすると、目の前の男が吹っ飛んだ。
横に、足を上げたままの赤穂がいる。
蹴ったみたい。
「俺のに、なにやっているんだ? 殺すぞ」
赤穂はすでに、将堂家の猛犬として、軍内部で恐れられていた。
つまり目が合ったら噛みつかれる、という。
目尻に傷があるため、左の前髪を長く垂らしている。そしてなにより、一ヶ所だけ白いという、特徴的な黒の大翼を持つ赤穂の容姿は。誰もが知っている。
なので、兵士たちはみんな一目散に逃げていった。
「おまえ、体、触らせてんじゃねぇよ」
「触らせるわけないだろ、気持ち悪い。でも、ちょっと驚いちゃったな。桃色の翼は瀬来家のものって周知されているかと思ったのに、そうでもないんだなって」
「月光の親父さんは、あまり目立った動きがないから。瀬来が側近の地位にいることを知らない者も、下級兵士にはいるようだな」
月光の父親は、そのとき右側近の地位に就いていたが。
彼は、瀬来家の中でも凡人で。
奇抜な発想や戦術を思いつくような者ではなかった。
過去、実施された戦術をなぞっているだけなので、華々しい戦果をあげることがない。
なのに出世欲だけは旺盛で、将堂家や名家にはへりくだる。そして、頭が固い人物でもあった。
男は戦い、女は家を守り、強い者には従い、弱い者はこき使う、希少種はえらい、龍鬼は汚い。
そんな凝り固まった『であるべき』を踏襲する人。
月光は、そんな父親があまり好きではない。
俯瞰して見れば、父親は完璧な反面教師であった。こうはなりたくないの、典型だ。
「そうじゃなくて。俺が言いたいのは、月光は可愛いから兵士に気をつけろってことだ。もう…わかるだろ?」
あの兵士たちが、月光をそういう目で見ていたのは明白だった。
穏便に済ませるには、どうしたらいいか。ちょっと長く考えすぎたな。
それと赤穂が、月光を心配していることもわかっている。
「ええ? わからないなぁ。もしかして、僕を愛してるって言ってるのぉ?」
上目づかいで、からかうように言うと。
赤穂はちょっとだけ照れて、バーカと言うのだ。
赤穂のバーカは、愛してると同義だよね? それ、知ってる。
ちょっと。あの兵士たちにはむかついたけど。赤穂のバーカで帳消し。
月光の気分は、うきうきと上がった。
その後、赤穂は。少し暗めの赤い軍服を月光に渡し、自分もそれを着た。
本来、将堂の軍服は保護色の茶色が多い。
赤色は目立つので、剣に相当自信がないと、着てはダメなやつ。
「俺の名は赤穂だから、軍服は赤にする。月光も同じのを着ろ」
赤い軍服は、月光の桃色の翼や髪によく似合い、奇抜さを隠した。
そしてひと目で、赤穂の補佐だとわかる。
桃色の嬢ちゃんに従えない、というあの兵士の言葉を、赤穂は気にしてくれたようだ。
この軍服なら、ひとりでいても、あなどられることもないし。赤穂のものであると示すこともできる。
さりげなく助力してくれる赤穂に、月光は胸がギュンと締めつけられる想いがした。
もう、好き。
今までも好きだったけど、もっと好き。
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★★★★★
今、思うと…愛がなにかも知らない、子供の恋人ごっこの域を出なかったかもしれないが。
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小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
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