【完結】異世界行ったら龍認定されました

北川晶

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44 初夜…何回目?   ★

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     ◆初夜…何回目?

 祝言とクリパを無事に終えた、紫輝と天誠とライラは。公会堂を出て、本棟に戻った。
 屋敷で、すみれに衣装を脱がせてもらって。浴衣に半纏という軽装になると。ようやく肩の荷が下りる。
 そして、まずライラをねぎらった。

「ライラ、お疲れ様。今日はおとなしくしてて、えらかったなぁ?」
「おんちゃん、あたし、ポンポンぱんぱんよぉ」
 人の生気が食事であるライラは、宴席でみんなが発していた陽の気を、つまみ食いしていたのだ。
 美味しい食事にありつけて、ライラは超ご機嫌さんである。

「そうか。じゃあ、もうねんねしていいぞ」
 ライラの赤いリボンを外してやると。彼女はライラ専用ベッドに入り、ひと回りぐるりとしてから、ドシンと横たわった。
 豪快だな。

 寝室にある小さなテーブルには、ふたりの二次会用に、軽食が並べられていて。衣装を受け取ったすみれと、軽食を並べた橘が、一礼して部屋を出て行った。

「じゃあ、ささやかながら、二次会を始めますか」
 天誠は、自分のコップにはワインを注ぐが。紫輝には、お茶の入った湯飲みを手渡す。

「えぇ? 俺もワイン飲みたいぃ。祝言あげて、大人の仲間入りしたのにぃ」
「駄目だ。お酒は二十歳になってから」
 唇をとがらせつつも。紫輝は天誠と乾杯した。
 善き日に、喧嘩してたら、つまらない。

「まぁ、でも。さっきの日本酒は、ヤバかったからいいや。酒って…あんま美味しくないかも?」
「美味しいというより、喉を熱くする刺激を楽しむ感じかな。酔いが回ってくると、それが癖になるんだ。あと、つまみと酒を交互に飲むと、美味いと思う瞬間もある。まぁ、初心者の意見だが」
「天誠でも初心者?」
「俺だって二十代だぞ。五十代の酒のエキスパートからすれば、若造の飲み方だって鼻で笑われるさ」

「ふーん、それより、それより。早く食べたいものが、ありますよぉ??」
 紫輝と天誠は、今日のメインディッシュを手に取り、乾杯のときのように合わせた。

「唐揚げにカンパーイ」
 唐揚げを持って、肉の部分を、天誠の肉と合わせたのだ。
 骨の部分を紙で巻いて、手を汚さないように配慮してあるところが、以前の世界風だ。
 そして、満を持してガブリといった。
 醤油としょうがとニンニクのたまらないハーモニー、そして外側カリカリ、中はジューシー。

「これだ、これだ。うんまーい」
「やべぇ、地鶏だから、身がぷりぷりして、サイコーだな」
 唐揚げは、共食い的な嫌悪感があるようなので、パーティー会場では出さなかったのだが。
 クリスマスだから、どうしてもチキンが食べたくなって。橘にお願いして、揚げてもらったのだ。

 なんでだろう、この日はコレを食べるべき、と言われると。食べたくなるものなんだよな。
 ウナギとか、誕生日の寿司とか。
 あぁ、でも。唐揚げ文化は浸透しないかもしれない。

 だけど、いいんだもんね。天誠とふたりで食べるもんね。
「こんな美味しいものを食べないなんて、人生半分損してるよな」
「全くだな。これがあったら、まずい酒も進むのに」
「まずい酒なら、飲まなければいいんじゃね?」
「まずい酒、というのは。出たくない集まりの比喩だ」
 あぁ、なるほど。
 天誠も面倒くさいお付き合いがあるから、苦労してんだな。と、紫輝は同情してしまう。

「実は。三々九度のとき、酒を鼻に通すなって言われたこと、よくわからなかったんだ。だから思いっきり、鼻で息しちゃって。おえってなった」
「飲み慣れると、酒臭いのも、いい匂いってなるようだが。俺も、まだその域ではないよ。ただ、酒は飲み方の極意を掴むと、途端に美味しいと思うようになる。まずは飲み慣れることだが…紫輝はまだ駄目」
「なんでだよぉ?」
「可愛くて、色っぽくて、ヤバくなるからに決まってんだろ?」

「出たよ、天誠のブラコンモード、からの過保護」
 ケラケラケラと、紫輝が笑う。
 ん? 酔ってる?
 三々九度の日本酒が、まだ残っているのか?

「なぁ、天誠。俺、そっくりな、小さい子がいるんだって。天誠が俺より若い、そっちの子を好きになったら、どうしよう…」
 顔色や言ってることは、それほどおかしくはないのだが。
 兄の威厳にこだわる紫輝が、こういう甘えることを言うのは、兄モードが酒でゆるんでいるからだろう。
 いや。甘えるのは、どんどん甘えてほしいのだが。
 酔いが進んで、ふにゃふにゃになったら。せっかくの初夜が台無しになるからな。

「今その子、六才だろ。そんなこと、あるわけない。というか、兄さんは俺より、七歳も年下になっちゃって。充分に若いっていうのに。紫輝より年下に手を出したら、ロリコン? ショタコン変態だ」

 素知らぬ顔で、天誠は幼少時の紫輝に萌えていたことを棚に上げた。

 紫輝だから、萌えたのだ。紫輝以外の者なら、同じ顔でも触手は動かない。
「まぁ、紫輝相手なら、ショタりょく発揮してもいいけどな?」

 紫輝は、天誠の言葉を聞いて、安堵した。
 彼は、同じ顔の双子の弟が現れても、自分から目を離さない。自分だけを見てくれる。
 自分だけのものだと。実感できたから。

「兄さんが、俺を試すなんて、珍しいな」
「俺だって、おまえを愛してるから。おまえの愛は、試すまでもないって、知ってるよ。溺愛。つか、溺れすぎ。でも、たまに見てみたくなるんだ。今、天誠はどんだけ溺れてんのかな? って」
 基本、紫輝は。己に自信がない。
 容姿も、極悪ノラ猫顔だし。体格もチビでガリだし。頭脳だって、天誠に遠く及ばない。
 女性でないから、柔らかい体や、優しく包み込む深い愛情とか、可愛い仕草や、旦那をねぎらう家事力もないし。

 愛する人の子孫を残すことも、できない。

 だから、たまに。自分より若い子とか、女性の影が見えたら。
 こんな俺でもいいのか? って、天誠に確かめたくなるのだ。
 天誠が、自分によくやるやつ。
 ウザ絡み、だけどね。

「悪趣味だな。溺れている俺を見たいなんて。ま、いつ見たって、溺れているのは間違いない」
 そんなふうに言いながら、天誠はワインを飲むが。
 なんでか嬉しそうに見えた。

「おまえは、兄貴に溺れる、困った弟だよ。客観的に見て、おまえはヤバいやつだ。俺を全力で縛りつけて、外堀埋めて、退路を断って、そうなるように仕向けて、離さない。俺が好きにならなかったら、犯罪一歩手前だぞ」
「いいや、完全に犯罪者だな。兄さんが俺を愛さなかったら。縛りつけて、閉じ込めて、強引に俺のものにしただろうからね」

「でも、そうはならなかった。俺がおまえを愛したから」

 紫輝は天誠の黒髪を、スッと撫でた。
 手触りの良い彼の髪が、紫輝は好きだ。

 髪に触れられている天誠は、髪の先までも神経が通っている心地で。気持ち良さそうに、紫輝の手の感触を楽しんだ。
「兄さんは、なんで、こんなイタイ弟を好きになったんだ?」
 自分で自分のことをイタイ弟と言う天誠を、紫輝は彼の頬を指でつついてなだめる。
 イタイのは事実。
 でも、紫輝にとって弟は、そういうものなのだ。

「んー、魂かな。おまえの魂が、幼い頃から俺を温めてくれたから。そして、どこの誰ともわからない俺を、求めてくれた。愛してくれ、癒してくれって、俺に叫んでいた。だから、愛したくなった。癒してあげたくなった。求めてくれた分、与えたくなった」

 こんな言葉では足りないような気がして、紫輝は小首を傾げながら、愛の言葉を重ねていった。

「おまえは、ヤバいやつ。でも俺は。そんなおまえが、好きなんだ。それほどに求めてくれるのが、心地いいんだ。この場に居て良いって、思わせてくれる。天誠の良いところなんて、馬鹿みたいに、たくさんあるけど。一番は、やっぱり。おまえの魂が、俺の魂の形に、ぴったり、かっちり、気持ち良くはまったから。んー、ぼんやりしてて、わかりづらいかな。なんていうか、たぶん、唯一なんだ。天誠に出会えて良かったって。マジで思うよ」

 つたない言葉で、一生懸命伝えた甲斐があったのか。
 天誠は満足そうに、嬉しそうに、目を細め。慈愛深い眼差しで、紫輝をみつめた。

「俺は、貪欲だよ。きっと、一生分の愛じゃ足りない」
「ならば、好きなだけ。過去も、現在も、未来も、だ」
 どちらからともなく、唇を寄せて、紫輝と天誠はキスをした。
 そして唇を合わせたまま、天誠は紫輝を抱き上げ、ベッドへ連れて行く。
 大事な大事な宝物を、丁寧に寝台に寝かせると、天誠は紫輝に覆いかぶさった。

「初夜、だな」
「初夜…何回目?」

 あどけない目で、紫輝は天誠を見る。
 天誠と、初めてエッチしたときも。初夜のような気分だったし。
 結婚しようと宣言してから、初めて体を合わせたときも、初夜の気分だった。
 あれから何度も、体を合わせたから。今日はもう、さすがに、初夜とは言えないのではないかと思うのだが。

 天誠は言うのだ。
「何度、エッチしていても。結婚式のあとに初めてする情交は、初夜」
「なんか、俺たち、もしかして何回も結婚してね?」
「初々しいのは、いい刺激になる。だから何回でも、俺はウェルカムだが?」
 羽で触れるような優しいタッチで、天誠は紫輝の頬や目蓋や耳にくちづける。
 そして耳の際をかじりながら、甘く甘く囁いた。
 鼓膜をくすぐるような、腰骨に響くような、久々の美声攻撃に、紫輝は頬を赤く染めた。

「せっかくだから、初めてのこと、してみる?」
 紫輝の帯をほどきながら、天誠が提案してくる。
 紫輝も天誠の髪の先にキスして、聞いた。

「初めてのことって? 大概のことは、もうしているんじゃないか?」
 すると、首元を舌で舐めていた天誠が、顔を上げ。紫輝の唇を、親指でスッとなぞった。

「俺の、飲んでみる?」
 黒い天誠の虹彩が、情欲の色を帯びて、きらめいている。
 紫輝は、どきりと胸を高鳴らせた。
 天誠の剛直を、口で愛撫したことはある。舐めて、高ぶらせるところまでは。
 でも天誠が達する前に、剛直は紫輝の中におさめられた。

「外で出すのはもったいない。紫輝の中でイきたい」
 なんて、いつも言われていたから。
 飲みたい…わけではないけれど。初めて…は興味あるかな?

「うん。じゃあ、せっかくなんで…」
 なにが、せっかくなのかは、ともかく。
 紫輝と天誠は、互いの浴衣を脱がせ合い、一糸まとわぬ体で向かい合った。

 天誠はベッドヘッドに枕を積んで、その上に寄り掛かる。上半身を少し起こした状態だ。
 紫輝は、天誠の足の間に体を入れ込み。彼の剛直の前に顔を寄せた。
 もう、すでに、芯を持っているモノを、紫輝は両手で握り。茎の部分に、舌を這わせた。

「あぁ、兄さんが俺のを…って思うと。いつも感動する」
 紫輝は、手で剛直を揉みながら、舐め濡らしていく。びくびくと雄々しくみなぎっていく過程が、手の感触から伝わり。紫輝はどきどきしてきた。

「なんだよ。想像してた、とか?」
「めちゃめちゃ想像したよ。兄さんは口が小さいから。俺のは、喉の奥にまで入らないだろうな、とか?」
「リアルだ。確かに、無理かも」

 剛直の張り出した部分を、甘く噛み。突端のつるりと剥き出しの部分を、舌で強めにえぐる。
 そして口に含んだ。
 歯で傷つけないように、気をつけていれば。この大きなモノが、喉の奥まで入るわけもない。上顎に擦りつけるのが精いっぱいだ。

「ん、んっ…んぅ」
 舌で先端を撫でながら、上顎でくちゅくちゅくすぐると。天誠の先走りが、口の中に広がる。
 己の唾液とまじりあって、紫輝はこくりと、彼をくわえたまま嚥下した。

「んっ、兄さん、いいよ。すごい、気持ち良い」
 天誠が手を伸ばし、紫輝の頭を支える。
 指先で、髪をすいたり、耳をくすぐったりしながら。紫輝を愛撫した。

 紫輝は剛直を口にした状態で、彼を上目で見やる。
 頬を上気させた天誠が、うっとり、己をみつめている。

「兄さん、可愛い俺の兄さんが、小さい口で、俺のを頬張って。美味そうに、もぐもぐしてるとか…。想像以上にエロイな」
 チュプッと唇をすぼめて先端を吸い、口を離すと。唾液が糸を引いたので。紫輝は舌で、もう一度舐め取って。それから天誠に言った。

「なんだよ、今日は、弟の甘えモードなのか?」
「そう、天誠。今日はずっと、弟の天誠だ。今日は、紫輝の弟だった天誠が、夢に見た、最高の日だから。天誠でいさせて?」

 少し考えてみた。
 十七歳までの天誠は、紫輝にとっては、つい最近のことだから。想像はたやすい。
 紫輝に好きだと告げた天誠は。好きと思った頃から、自分と一緒になることを夢見て、いろいろ夢想してきたのだな、と。
 好きな人と、共にある未来を。夢見て、脳裏で描いてきたのだな、と。

 そう思うと。弟が健気で、可愛い。

「想像の俺は、どういうふうに、天誠のことを可愛がったんだ?」
「ソフトクリームを舐めるみたいに、ぺろぺろして」
 即答だった。
 紫輝は苦笑して、天誠の言うように、剛直の先をぺろぺろする。

「ん、こうか?」
「可愛いよ、兄さん。あぁ、そんなにエッチに舌をとがらせて。こんなところ、誰にも見せちゃダメだぞ」
「はは、見せないよ」
 軽く笑ったら、天誠の手が、紫輝の頭を剛直に寄せた。
 くわえろと、うながされ。紫輝は従順に口に含む。

「さっきみたいに、上手にごっくんしてね」
 そう言って、天誠は小刻みに腰を揺らした。
 上顎に、熱い肉棒がこすられて。紫輝の体も熱くなる。
 もどかしくて、足をこすり合わせる。天誠のモノを口にしているだけで、紫輝も高ぶってしまい。屹立が充溢していた。

「頭、ちっさ。もう、可愛くて、マジ、食べちゃいたい」
 天誠の大きな手が、紫輝の髪をわしゃわしゃかき回す。
 頭を撫でられたり、はねた髪の先をいじくられたりする、そんな些細な触感なのに。背筋がゾワリとして、体が高ぶるエッセンスになる。

「もう、出すよ。俺の、全部飲んでね。こぼしたら、ペナルティーだからな?」
 え? 罰則あり?
 そんなの聞いてないんですけどぉ? と思って、慌てていたら。
 紫輝の口の中に、天誠の精が放たれた。
 量が多くて、飲み込めきれないが。とにかく一生懸命嚥下して。
 苦いとか不味いとか思う前に、喉の奥に流し込んでいた。

 とにかく、喉が焼けるようだった。

 プハッと、剛直から口を離し、息を大きく吸い込む。そして、こぼして陰茎の方に垂れてしまった天誠の精を、舌で丁寧に舐め取る。
 達したばかりでも、紫輝が綺麗に舐め拭っていく刺激で、天誠のモノは再びみなぎっていった。

「上手に飲めたね、兄さん?」
 子猫がミルクを飲んだあとみたいに、濡れている紫輝の唇を、天誠は親指で拭う。
 その手の感触が気持ち良くて、紫輝は、酒に酔ったみたいな、ふわふわとした心地で、天誠の首に抱きついた。

「ん、飲んだ。なんか、まだ喉に日本酒の感じが残ってんのかなぁ? あんま、苦くなかったし。天誠の精を飲んだとき、体がジンと熱くなって。体中を、天誠のものが駆け巡っているみたいで…気持ち良い…」
 コテンと、首元に頭を預けた紫輝を見て。

 天誠は…どうしてくれようと思う。

「兄さん…想像の上を行く、ヤバエロ可愛いことするの、やめてくれる?」
 普通なら、精液飲まされて、まずいとか、ふざけんなとか、怒ってもいいところなのに。
 己の精液飲んで、ふにゃふにゃになって、しがみついて、気持ち良いとか言うなんて。
 ここまでは、想像できませんでした。

 興奮して、天誠は紫輝を押し倒す。
 いつだって、最愛の兄を目の前にして、余裕なんかないけれど。
 天誠は、紫輝の濡れた唇を、何度も、貪るように、ついばんだ。

「兄さんの、この唇に初めて触れたときから、この日を夢に見てきた」
「…この日?」
「結婚式だ。結婚して、唇だけじゃなくて、兄さんのすべてに触れて、愛し合うことができる日を…」
 十歳の、紫輝のファーストキスを奪い。
 兄弟で、唇にチュウしちゃダメなんだよ、と言われ。
 それから全く触れていなかったわけではないけれど。
 同意で紫輝に触れることができたのは、つい最近。その間、およそ十六年。

 天誠は、それはそれは、我慢してきたのだ。兄の可愛らしい唇も。兄の、なにもかもを。

 子供の頃に、漠然と思い描いた、兄との結婚。
 一般的な結婚式場で、みんなに祝福されて…。

 そんなものは、小学校卒業する頃には。サンタと同じくらいの、絵空事だとわかっていた。

 それでも、夢を見ずにはいられなくて。
「あの頃、想像したものとは、だいぶ違うものになったが。あの頃、想像していた以上の、上等な結末だった」

 紫輝の両親、ライラ、家族同様の者たち、友人が揃った、正式な、素晴らしい結婚式。
 そしてなにより、兄が自分を愛して、伴侶として望んでくれたのだ。
 なにをどう策略したって、紫輝の心だけは操れない。
 そんな兄が、自分を愛してくれたことこそが、本当に奇跡だと、天誠は思うのだ。

「結末じゃない。俺たちのこれからは、始まったばかりだろ?」
 紫輝に言われ、天誠はハッとする。
 そうだ。結婚がゴールじゃない。

「そうだ。もっと、もっと、兄さんを幸せにしなきゃ」
「俺も、天誠を幸せにする。一緒に、幸せになろう」
 温かで麗らかで、明るい光が降り注ぐかのような、紫輝の笑顔を見て。
 天誠は、こんなところで満足なんかしていられないと思う。

 兄を、世界で一番幸せな男にするのだ。

 そして、自分も。
 紫輝がそばにいるだけで、自分は幸せなのだから。
 兄が己を幸せにするのは、楽勝だな。そう思い。
 天誠は紫輝に、万感の思いを込めたキスをする。

 愛してる。愛してる。
 唇が触れるたびに、心の中で愛してると囁いた。

「ん、ん…てん、せい…愛して、る…」
 唇が、ちょっと離れる隙を縫って、紫輝も天誠に愛を囁く。
 最愛の弟に、想いを捧げるように。

 思いを遂げるため、天誠は紫輝の体を性急に求めた。
 首筋から胸へと舌でたどり、手は腰骨を撫で、後孔をほぐしていく。
 天誠のモノを口淫していたときから、体を高ぶらせていたから。蕾も柔らかくなっていて。
 紫輝のなにもかもが、自分を受け入れてくれているみたいで。天誠は歓喜する。
「兄さん、足を開いて」
 紫輝の方から迎え入れてほしい、そんな気持ちで、天誠はうながす。
 羞恥に頬を染めながらも、紫輝はおずおずと、膝頭を離し。天誠に、己のすべてを、無防備にさらした。

 すでに天を向いている屹立も、柔らかくほころんでいる桃色の蕾も、白く滑らかな肌も、ツンと立つ小さな乳首も。紫輝の全部が、天誠を誘っている。

 天誠は、紫輝の太ももに手をかけ、少しくの字に曲げると、剛直の先を蕾に押し当てた。
 そして体重をかけて、ゆっくりと中へ挿入していく。

 剛直の一番張り出した部分が、蕾の中に入り込むと。紫輝の内側をえぐりつつ、太く、長く、熱いモノが。中を支配していく。

「あ、あ、て、天誠…」
 紫輝は体を満たす弟の熱を感じながら、彼に向かって手を伸ばした。

「あぁ、兄さん、兄さんっ」
 根元まで己を入れ込んだ天誠は、紫輝の太ももから手を離し。紫輝をギュッと、腕の中に抱き締める。

 黒曜石の瞳を潤ませ、優美に微笑み、手を差し伸べるその姿は…まるで慈愛の女神のようだった。

 飛び立ってしまわないように、早く腕の中に閉じ込めないと。
「天誠ぃ、あっちい、ね?」
 首にしがみついて、天誠の黒髪を撫でる紫輝は。からかうみたいに、耳元に囁いた。
 そのまま、天誠が動かないでいると。物欲しそうに、腰をもじもじさせる。

「兄さんが、気持ち良いようにしていいよ。ほら…ここ、好きでしょ?」
 張り出したカリを、紫輝の一番、敏感な、前立腺にあてる。
 激しく動かず、ただ、あてるだけ。
 でも中は、うずうずする愉悦を産み出し、紫輝をもどかしい快楽でさいなむ。

「んん、動いて。意地悪、しない、で」
「だめ。兄さんが、するの。気持ち良いって顔、見せて」

 紫輝が天誠に目を合わせると、彼は淫靡な空気をまとい、蕩けるような眼差しで紫輝をみつめていた。
 己を、快楽の虜にする、妖艶な悪魔のようにも。獲物にすぐにも食らいつきたい、獰猛な獣のようにも、見える。
 それでも、ジンジンする体は、動かさないでいる方がつらくて。
 彼の濡れた黒目に、じっくりとみつめられ。恥ずかしさで、頭が煮えそうだけど。紫輝は腰を動かした。
 ズクリと、快楽のつまった蜜壺に触れ。紫輝は声高にあえいだ。

「あ、あぁ…っ」
 でも、一度、その魅惑の悦を知ってしまったら。動きを止められなくて。
 紫輝は無我夢中で、行為に溺れた。

「ん、ん…イイ、ここ、イイっ」
 はしたないけど、イイところを、ずっとこすっていたくて、腰を揺らめかせてしまう。
 天誠が攻めるほど、自分で動いても、強烈な刺激を得られないが。
 逆に、じりじりした甘ったるい気持ち良さが、長く続いて。陶酔してしまう。

「薄く唇開いて、ピンクの舌がちらちら見えるのが、いやらしいのに、可愛いなぁ。ふふ、唇、引き結んじゃった。恥ずかしいの? 頬を真っ赤にして我慢してる兄さん、色っぽいね?」
 解説しないで、と伝えられないほど。紫輝は没頭して、官能を追求している。
 でも、もっと強い刺激が欲しい。

「も、天誠、動いて…天誠がするの、が、イイ」
「もう、もっと俺の下であえぐ兄さんを堪能したかったのに、そんなこと言われたら…」
 いきなりグンと天誠に突き上げられ、紫輝は声にならない悲鳴を上げた。

「本能が、制御できないだろ?」
 言って、天誠はニヤリと笑う。
 完全に、捕食者のギラギラした目だ。

 でも、そんな天誠を見ても、紫輝は脅えたりしない。
 むしろ野性的なところが、良く見えてしまうから…自分も大概、彼に魅了されているなと思うのだ。

「じゃあ、兄さんの言うとおり、動いてあげるよ。弟は兄さんの言うことには逆らえないからね。その代わり…こっちには触れないよ?」
 人差し指の背の方で、天誠は紫輝の屹立をそっと撫でる。そこは高ぶり切っていて、先走りの蜜で、びちょびちょに濡れそぼっていた。
 少し触れられただけで、ギュンと性感が高まる。

「やぁ…そこも、触ってぇ?」
「兄さんは、もう中イきできるんだから。どっちも欲しいなんて、兄さんはそんな、エッチなこと言わないよね?」
 両方をねだるのはエッチなことだと、天誠に吹き込まれ。
 それを望んだことに、猛烈な恥ずかしさを覚える。

 でも、紫輝は悩んだ。
 自分は、エッチじゃないと思うのだが。
 中でイくのは、気持ちが良いけれど、すっごく追い込まれないとならないから、つらい。
 どうしたらいいのか?

「それとも、エッチなお兄さんだから、弟にいっぱいエッチなことされたくて、そう言うのかなぁ?」
「エッチじゃないっ」
 売り言葉に買い言葉で、紫輝はつい返事をしてしまった。
 天誠は、御満悦な笑みで、紫輝を見下ろす。

「じゃあ、上手に中イきしようね、兄さん?」
 麗しの微笑を浮かべた天誠が、紫輝の屹立を再び指でなぞる。
 はめられた、と紫輝は思うが。
 下から上に向かうその接触に、紫輝は瞬時にとろけてしまう。

 もう少し、強くこすって。
 そうしたらイけるのに…。

 でも無情にも指は紫輝から離れていってしまった。意地悪。

「大丈夫、前立腺を擦れば、すぐにイけるのはわかっているんだから。でも、俺がイくまで、お預けだけどな」
 そうして天誠は。前後に紫輝を揺さぶり始めた。

 紫輝は天誠の首にまたしがみついて、大きな波に耐え忍ぶ。
 とろ火で炙られた紫輝の中は、天誠からもたらされる強烈な刺激に、すぐにも燃え上がる。
「兄さんが、俺にしがみついて、身悶えてんの…燃える。俺の、兄さん…」
「んん、天誠、好きっ」

 セックス中は、ちょっと意地悪だけど。それ以外は、大きな愛で包んでくれる弟を、紫輝も愛している。
 快楽だけではなく。
 こうして抱き合うことで、溶けて、混ざり合って、ひとつになりたいと切望するほどに。

 紫輝は、天誠の頭をかき抱き、深くくちづける。
 舌先でくすぐり、ベロの腹の部分を舐め合って、しっかりと絡めて結びつける。
 離さないで。離さない。
 そんな想いを雄弁に語るように、体をくっつけ、撫でこすり。ふたりはひとつになろうとした。

 そして熱烈に剛直が出し入れされて、そのときが唐突にやってきた。
「んぁっ…」
 紫輝が、急に体を跳ね上げた。中がびくびくと収縮し、天誠のモノをきつく締めあげる。

 紫輝はポーンと高みへ放り出され、達してしまったのだが。中だけが、長く長く痙攣していて。屹立からは、射精していない。

「くっ…イイ。兄さん、これ、ヤバ…っ」
「あっ、あっ、イイ、天誠…やぁ、イイの、続いて…あぁ、やぁぁ…」
 紫輝に煽られるように、天誠も、びくびくとわななく中に、何度も突き入れ。紫輝の中に、何度も射精する。
 すべてを出し切るように、搾り取られるように。

 そして中イきが、ようやくおさまった頃には。紫輝はぐったりしていた。
 でも、まだ。屹立は、しっかり勃起したままだ。

 天誠はそこをやんわり握る。
「やぁ、イった、から…しないでぇ」
「でも、出さないと、つらいだろう? 俺に任せて」
 ちゅ、ちゅ、と紫輝の柔らかい頬や目蓋に、癒しのキスを贈りながら、天誠は屹立をしごいた。

「ゆっくり、優しく、な?」
「あ、ん。や、ぁ」
 むずかりつつも、紫輝は天誠の肩を撫で。身悶えるのに、天誠への愛撫も欠かさない。
 兄の矜持なのかなと、天誠は思うが。
 紫輝の兄の矜持って、本当に可愛いし、愛らしいし、たまらない。と感じ入るのだった。

「イ、く。も…ぅっ」
 今度は、自己申告する余裕があったみたいで。言った直後、紫輝は達した。
 屹立の先端から、ビュクッと白濁が飛んで。
 天誠が、突端を親指で撫でるが、蜜口がパクパクとうごめくだけで、もう精は出なかった。

 挿入したままだった天誠の剛直は、紫輝の絶頂で、また締めつけられる。
 己を、まんべんなく愛撫するような、紫輝の中の脈動を。天誠は堪能した。
 最高の刺激を受けてしまったら、やはりきざしてしまうが。
 紫輝が限界なのを見て取って。
 天誠は紫輝から、剛直を慎重に抜き取るのだった。

 でも突端が出るまで、引き留めるように締めつけてくるから。天誠は理性をかき集めなければならなかった。
 突き上げたいけど…紫輝を壊すわけにはいかないので。

「お疲れ様、兄さん。今日も、すっごく良かったよ。ありがとう」
 疲労困憊の紫輝が、寝台に身を沈めている中。天誠は、紫輝の顔中に、感謝のキスの嵐を贈る。
 天誠はいつも、己を受け入れてくれてありがとう、という心境なのだ。

 なにせ、イタイ弟の自覚があるので。

「…なんか、変じゃなかった?」
 中イきからのイきっぱなし、という衝撃に、紫輝はびっくりして目を回していたのだ。
 というか、自分になにが起きたのか、よくわかっていない。

「なにも変なことはないよ、大丈夫。初夜だから、ふたりで、初めての体験をしただけさ」
 安心させるかのように、優しい目でみつめる天誠に、紫輝はチュッと音の鳴るキスをした。

「本当? 天誠がいいなら、いいけど…」
 いつもの感じではなかったから、紫輝は不安なのだ。天誠が満足できたのか、わからなくて。
 でも天誠には。全然、怒った様子はないし。
 むしろ機嫌は良さそう? 大丈夫?

「もちろんさ。最高の初夜だ」
 しっかり彼がうなずいてくれたから。紫輝は、ふと天誠に笑いかけ。彼の二の腕を枕にして、満たされた心地で目を閉じた。

 己の腕枕で、安心して眠りにつく兄を、天誠は見やる。
 今日は朝から、長いイベントに出て。初めてのお酒も飲んで。濃厚な初夜セックスもしたから。

 紫輝の電池は切れてしまったようだ。

 愛おしくてならない兄を、天誠は指先でそっと撫でる。
 つるっとした頬は、ずっと赤く色づいて、祝言の喜びを伝えていた。
 小さな唇は、己のモノをくわえて、精まで飲んでくれた。
 今は閉ざされた、黒い瞳は、ずっと自分をみつめてくれた。

 なんて素敵な日。なんて最高な日だ。

「あぁ…手裏になんか、戻りたくない」
 切実な本音をつぶやく天誠だった。

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一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

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まつも☆きらら
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中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
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アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

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黒ハット
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 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

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戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。 死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。 そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

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髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

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