47 / 159
38 首脳会談 ①
しおりを挟む 一方、その少し前のことだ。周兄弟の方でもオペラを観に行った曹らが帰って来ないことで騒ぎになっていた。ホテルのロビーに降りてフロントでチェックインの有無を確認したが、未だ誰も戻って来た形跡はない。
時刻は既に日付けをまたいでいる。劇場はとっくに閉まっているし、彼ら全員の電話が繋がらないということは、非常事態を意味する。精鋭の曹が付いていながら連絡が取れないというからにはそれなりの理由があるはずだ。
「ヤツらを見た者がいないかどうか確かめたくても術がない。全員が一気に消えて連絡も取れないとなれば、拉致以外に考えられないが……」
「問題は敵の正体だ。兄貴、心当たりがあるか?」
「取り立てて思い付かんな。正直なところヨーロッパに敵を作った覚えもない」
「ふむ……。誰かこっちで頼りになりそうな人物がいるか……」
警察に助力を依頼するのも手だが、例え異国といえども裏社会の人間と知って親身に協力してくれるかは怪しいところだ。周が考え込んでいると、
「周風? 周風じゃないの!」
突如女が声を掛けてきて、全員で声の主を振り返った。
「お……前! 楚優秦……」
風はもとより誰もが驚きの表情で互いを見やる。
「なんて偶然かしら! あなたとこんなところで会うなんて」
優秦の方は白々しいくらいに浮かれ気味だ。
「まさかウィーンにいらっしゃるなんて驚きだわ。観光か何かかしら? それともお仕事かしらね?」
「お前こそ何故ここへ……? 住まいはフランスじゃなかったか?」
「あら、アタシたちは今このウィーンに住んでいるのよ」
ご存知なかったのかしらと笑う。
「ウィーンに住んでいるだと? では父上の楚光順も一緒か?」
この娘については論外だが、父親の光順は信頼に値する人物だ。この土地に住んでいるというのなら、もしかしたら何か助力が得られるかも知れない。
「お父上にお会いしたい。連絡を取りたいんだが」
もとよりこの女に事情を打ち明ける気など更々ないので、頼るならば父親のみが賢明だ。だが、優秦はしれっと笑ってみせた。
「残念だけどパパは不在よ。今アメリカに旅行中なの」
大嘘である。光順は家にいたが、優秦の方が女友達と旅行に行くと偽って、ここ数日はホテル暮らしをしていたのだ。父の光順は宝飾市が開催される間、ウィーンにやって来る周風と娘の優秦を会わせまいと家族旅行に誘ったのだが、彼女の方からその期間は友人と旅に出掛けると嘘をついて、父親を騙したのだ。
当然、光順はホッと胸を撫で下ろし、これで何事もなく済むと思っているはずだ。まさか娘が嘘をついてとんでもない企てを犯しているなどとは思うはずもなかった。
時刻は既に日付けをまたいでいる。劇場はとっくに閉まっているし、彼ら全員の電話が繋がらないということは、非常事態を意味する。精鋭の曹が付いていながら連絡が取れないというからにはそれなりの理由があるはずだ。
「ヤツらを見た者がいないかどうか確かめたくても術がない。全員が一気に消えて連絡も取れないとなれば、拉致以外に考えられないが……」
「問題は敵の正体だ。兄貴、心当たりがあるか?」
「取り立てて思い付かんな。正直なところヨーロッパに敵を作った覚えもない」
「ふむ……。誰かこっちで頼りになりそうな人物がいるか……」
警察に助力を依頼するのも手だが、例え異国といえども裏社会の人間と知って親身に協力してくれるかは怪しいところだ。周が考え込んでいると、
「周風? 周風じゃないの!」
突如女が声を掛けてきて、全員で声の主を振り返った。
「お……前! 楚優秦……」
風はもとより誰もが驚きの表情で互いを見やる。
「なんて偶然かしら! あなたとこんなところで会うなんて」
優秦の方は白々しいくらいに浮かれ気味だ。
「まさかウィーンにいらっしゃるなんて驚きだわ。観光か何かかしら? それともお仕事かしらね?」
「お前こそ何故ここへ……? 住まいはフランスじゃなかったか?」
「あら、アタシたちは今このウィーンに住んでいるのよ」
ご存知なかったのかしらと笑う。
「ウィーンに住んでいるだと? では父上の楚光順も一緒か?」
この娘については論外だが、父親の光順は信頼に値する人物だ。この土地に住んでいるというのなら、もしかしたら何か助力が得られるかも知れない。
「お父上にお会いしたい。連絡を取りたいんだが」
もとよりこの女に事情を打ち明ける気など更々ないので、頼るならば父親のみが賢明だ。だが、優秦はしれっと笑ってみせた。
「残念だけどパパは不在よ。今アメリカに旅行中なの」
大嘘である。光順は家にいたが、優秦の方が女友達と旅行に行くと偽って、ここ数日はホテル暮らしをしていたのだ。父の光順は宝飾市が開催される間、ウィーンにやって来る周風と娘の優秦を会わせまいと家族旅行に誘ったのだが、彼女の方からその期間は友人と旅に出掛けると嘘をついて、父親を騙したのだ。
当然、光順はホッと胸を撫で下ろし、これで何事もなく済むと思っているはずだ。まさか娘が嘘をついてとんでもない企てを犯しているなどとは思うはずもなかった。
25
お気に入りに追加
580
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

番だと言われて囲われました。
桜
BL
戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。
死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。
そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる