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20 天誠のこと、嫌い?
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◆天誠のこと、嫌い?
「いいか、その男の話は、二度とすんな。不愉快だ」
言うだけ言い捨てて、赤穂は怒りの足取りで、紫輝がいつも食事するスペース『秘密の庭』を出て。樹海の森に消えていく。
「もちろん、天誠を思い出させるような話は、二度とする気はないよ」
赤穂が遠くに去ってから、紫輝はつぶやき。小さくベロを出す。
なんか、赤穂が来てから怒涛の展開で、すごく疲れた。
紫輝は重いため息をついて、切り株の上に座った体勢で、ぐったりする。
赤穂が突然、紫輝の前に現れて。嫁になれとか言われて、キスしようとするから。
慌てて、親子だってバラしちゃった。
こんなふうに言っても、納得しないだろうと思ったのに。
案外、簡単に了承され。ええぇ、ってなる。
それから、赤穂と月光のなれそめ、なんか聞いちゃって。
紫輝は月光のことを、ニコニコふわふわしていて、掴みどころがないというか。それでいて頭がキレるから、深く関わるのはちょっと怖いな、なんて思っていたりしたのだが。
赤穂の話を聞いたら、彼の印象が大化けした。
「月光さん、チョー健気じゃん。切ないじゃーん」
背をのけぞらせて、紫輝は思わず声に出した。
あの話、マジで涙出そうだった。
なんか赤穂が、不器用さ全開で、紫輝の母親の話を回避したから。
涙、引っ込んじゃったけど。
「月光さんって、たぶん、軸が赤穂なんだな。赤穂の子供を探すために、俺に探りを入れてきて。その詮索具合が、えぐかったから。ちょっと引いちゃったけど」
理由がわかれば、月光の必死さとか、紫月への愛情とか、赤穂への思いやりとか、すごく伝わるし。
月光は、お母さんになるとか、紫輝に言ったが。
うん。それでもいいかも、なんて思った。
月光をママと呼ぶ日は近いかもしれない。
あぁ、でも駄目。三歳差でママは、きついな。やっぱり。
そのあと、ちょっと、天誠の存在を匂わせてしまったら、赤穂が食いついちゃって。
斬るとか言い始めちゃって、なんでーっ、てなった。
ギラリとした、赤穂の眼差しを思い出し。紫輝は、背筋を震わせる。
あれは、本気だった。
天誠の正体を知られたら、マジで殺される。
今まで、赤穂の剣を受け止めたり、普通に話したりしていて。喧嘩腰になっても、怖いなんて思ったことがなかったのに。
今回は、本当に怖いと思った。
天誠を守らなきゃって。警告アラームが体の中でビンビン響いたのだ。だから。
「弟は、死んだ」
そう赤穂に告げた。
この世界に、天誠は存在しない。そう思い込んで。
天誠が赤穂に殺されてしまったら、この世界にひとり取り残されてしまったらと、そう想像したら。涙腺がゆるんだ。
嫌だ。怖い。天誠がそばにいないなんて…耐えられない。
そんな気持ちがあふれ。
演技したわけではないのだが、涙ぐんでた。
そうしたら、赤穂がひるんだ。
自分の言い分を信じてくれたのかもしれない。と紫輝は思ったのだけど。
まだ、心がここにないとか、ぐちゃぐちゃ言うから。逆ギレしてしまった。
「気に入らないなら、斬ればいいだろ」
目に力を入れて、紫輝は赤穂を睨んだ。
これは、賭けだった。
彼の気性からして、本当に気に入らなければ、赤穂は己を斬るだろう。息子だから斬らないだろうなんて、楽観的なことは考えなかった。
ただ、紫輝は。赤穂の目から、天誠の存在を外したかっただけだった。
どうしても。
たとえ、自分が斬られても。天誠のことだけは、口を割らない。
まぁ…赤穂が斬る前に、ライラが生気を吸うだろうけど。
でもそうなったら、将堂から逃げるしかなくなるから。どちらにしても万事休すだ。
そうならないよう。赤穂に自分の命を握らせる。
この場にいる自分は、赤穂のものなのだ。それを感じて、彼が納得してくれたらいい。
逃げるか、残れるか、どちらになるかわからない…だから賭けなのだ。
「ガキが。簡単に命を放り出すんじゃねぇよ」
赤穂は引いてくれた。そして捨て台詞を吐いて去っていったのだ。
切り抜けられた、かな?
とりあえず、細かいところを追及されなくて、良かった。
胸を撫で下ろすが。赤穂…なんであんなに怒ったのかな? なんか、怒る要素あった?
心がない、とか言ってたけど、いやいやあるし。
「あいつ、情緒不安定だよな。月光さんによしよししてもらえばいいんじゃね?」
的外れなことをつぶやく紫輝だった。
★★★★★
二日ほど、戦場で睨み合いが続いていた両軍だったが。とうとう手裏軍が動き始めた。
そして九月十五日。両軍はぶつかり合い、戦闘が激化した。
第五大隊は、先陣を切る隊。ゆえに、敵が真っ向から当たってくるのは、わかるのだが。
普通は、横手からも攻めたり、奇襲などを用いたりして、揺さぶってくるものだ。
ある意味第五大隊は、敵にとっては精鋭で固められた、攻略しづらい部隊である。
なのに第五大隊に、手裏兵が集中している気がした。
一番分厚い布陣を敷いている、第五大隊を、一点突破する気だろうか?
不破の思惑が見えない。
押され気味ではあったが、なんとか持ちこたえ。日没になった。
仲間たちと近い距離で戦闘したから、返り血を浴びてしまい。
紫輝は久しぶりに、泉で体を洗うことにした。
九月になって、ずいぶん涼しくなってきたから。俺たちの家で、露天風呂に浸かりたい気はある。
でも、天誠の不在時に、ひとりで、あの家に行きたくない。
天誠がいないって、どうしても実感しちゃうからな。
寂しさに拍車がかかるじゃん?
それにあそこは、手裏側に近いから行くな、とも言われている。危険なことはやめよう。
泉には、大和もついてくると言うので。ライラに運んでもらって、塀を飛び越え。
ライラと大和と紫輝、三人並んで、樹海の森を歩く。
久しぶりのお散歩で、ライラはご機嫌だった。
泉に到着し。紫輝はさっそく服を脱いで、水の中へと入っていく。
今日は満月だから、水面にきらめく月光が、とても明るく感じた。
段差になったところから流れ落ちる、小さな滝。水の音が心地よくて。マイナスイオンだなと思う。
体を洗いながら大和と無駄話していたら。
「…だから、大きくなった姫とは、紫輝様よりも先に会っていたんですよ。な、姫?」
なんて話になって。岸辺で並んで座る大和が、ライラにたずねる。
以前は、同じ場所に、千夜とライラが座っていたのだ。
白と瑠璃色が並んでいて、綺麗だったなんて思い返す。
あ、赤茶も可愛いよ?
「なれなれしく話しかけないでちょうだい。あたしをだれだとおもってるの? 姫よっ!」
「そうだよな、俺たち仲良しだよな? 姫?」
「なにいってんのかしら。たべちゃおうかしら」
大和は、ライラの言葉がにゃごにゃごしか聞こえないから。微妙に会話が噛み合っていなくて、おかしい。
そうしたら、ライラが突然叫んだ。
「ピンクよっ」
ライラは、月光の名前は言えない。
でも、ピンクか。まぁ、わかるけどぉ。
「紫輝、誰か来る。泉から上がってください」
大和に言われる前から動き出し。紫輝は岸辺に向かって歩くけど。
大和はそっぽを向いて、大きめの手拭いを振り回した。
「わー、隠してくださいよ。俺が殺されるの、わかるでしょ?」
「いいだろ、男同士だし。誰も殺さないって」
「そうだよ、男同士なんだから。でも僕は、殺しちゃうかもだけど?」
ふたり以外の声が割り込んで、大和はギャー、と叫んで。紫輝を背後から布でくるんだ。
大和は安曇から、紫輝の肌を誰にも見せるなと厳命を受けていた。なので、必死だ。
唐突に現れた月光の目から、紫輝の肌をなんとか隠す。
「こんにちは、月光さん」
「いい満月だね、紫輝」
紫輝と月光は、慌てる大和を無視して、ほのぼのと挨拶をした。
ニコニコした、いつもの可愛らしい笑みを浮かべていた、月光だが。
大和に向かって、目線だけで退場を命じる。
大和は紫輝を見て。
紫輝がうなずいたので、そこから姿を消した。
月光は、空を飛んできたようで。桃色の翼をひとつ大きく羽ばたかせると、コンパクトにたたんだ。
「あれは、安曇の手の者か? 紫輝のそばにつけられる兵が、我が軍にいるなんて。用意周到すぎぃ」
将堂の宝玉が、うーんと唸る。
短期間の潜入では、紫輝のそばには近づけないのだ。
新兵の配属は、血統や家柄、または龍鬼などの特別なものがなければ、基本、無作為である。
しかし腕があれば、二十四組にはもぐり込める。
だが紫輝と同期だったら、同じ隊に何人も割り振らないから、その可能性は極めて低くなる。
つまり、だいぶ前から。紫輝のために、もぐり込ませていたことになるのだが。マジか?
「彼は手裏じゃない。俺のなので。見逃してください」
濡れた体を布で隠し、心配そうな目でみつめる紫輝に。月光はうなずいた。
自分も紫輝に隠密をつけている。
安曇と、考えることも目的も、同じだ。紫輝を守る、それに異論はない。
さらに、ごく自然に、紫輝が彼を『俺の』だと言ったので。月光は感じ取ったのだ。
これは『第三勢力だ』と。
手裏でも、将堂でもない。
紫輝、もしくは安曇を中心とした、別の組織が構築されつつある。
それに対しても、月光は口を出す気はない。
まぁ、紫輝は。勢力うんぬんは、なにも考えていないかもしれないけれど。
もしも、そんな組織ができるなら。むしろ自分が、是非入りたいくらいだ。
それはともかく。月光は本題に入った。
「バレたね」
「…すみません」
恐縮して、紫輝は月光に頭を下げた。
しばらく正体を隠しておくと、月光が言っていたのに。
早々に、こんなことになってしまって。本当にすみません。という気持ちだ。
「大丈夫だよ。赤穂には、頃合いを見て、話すつもりだったんだ。第五大隊と同じく、僕たちも九月いっぱいで本拠地に戻るので。戦の最中は、なにかと忙しいから。落ち着いたら…なんて思っていたんだよ」
月光が許してくれたので、紫輝は布で体を拭きながら、新しい軍服を身につけていく。
着替えている間、月光はライラを撫でたり、鼻をつついたりしていた。
月光の翼の色と同じ、ピンクのつるりとした鼻が気になるみたいだけど。
あまりしつこいと怒られますよ。
「君に会ったあと、赤穂、僕の部屋に押しかけて来たんだ。散々、君の弟について文句を並べ立て。どこの誰だ? 僕が知らないわけないだろうと…詮索されたよ」
ガブっとされる前に、月光は紫輝の方を向いた。
良かった。
でも言われたことについては、ヒヤッとする。
「言ってませんよね? 天誠のこと」
自分が言わなくても、月光からバレてしまったらアウトだ。
でも、月光は約束をした。天誠と眞仲が同一人物だって誰にも言わないと。
口約束だけど。だから、ちょっとドキドキした。
「言ってない。僕は鶴を手放す馬鹿じゃない」
「鶴? 堺のこと?」
ここで堺の話になるのは脈絡がないから、紫輝は首を傾げる。
すると月光は、自分の羽を手でいじった。
なんか、彼氏の前で髪の乱れを気にする女の子みたいな仕草だな、と紫輝は思った。
「鶴の恩返しさ。愛していたのに、秘密を覗いて、鶴は去っていったろう? 僕が安曇の秘密を暴露したら、紫輝は安曇の元に飛んで行ってしまう。僕はそんな愚行は犯さない」
「なるほど」
深く納得すると。月光がフフッと可愛らしく笑った。
「それにしても…同じところでつまずいたな。僕も、安曇の件に関しては、はらわたが煮えくり返る思いだからね」
「天誠のこと、嫌い? なんでみんな、天誠を悪く思うんだ? 弟はすごく頭が良くて、優しくて、格好良いし…」
「そこまで」
弟の良いところを紫輝は並べ立てていく。
月光も赤穂も、紫輝の親だと言うのだから。近しい人には、自分の愛する人を好きになってもらいたいじゃないか。
なのに、月光は。そんな紫輝を手で制した。
「なんで彼を嫌うかって? 彼がどれほど完璧な男だろうと、そんなことは関係ない。紫輝が心酔する男に腹が立つ。ただ、それだけ。嫉妬だよ」
「嫉妬? いや、親なのに…嫉妬って?」
「親だからだ。本来、安曇の立ち位置は、僕たちのものだった。紫輝を愛し、紫輝を育て、紫輝に信頼される、それは親の僕たちであるべきだ。そこを奪われたんだから、腹も立つってものさ」
きゅるんとした丸い目を、鋭くとがらせて、月光が言う。
でも、それってどうしようもなくない?
「そんな無茶な。俺は過去に飛んで…そこで生活をしてきたんだから。仕方がないでしょ?」
「仕方ない…じゃ、気がおさまらないこともある。一番可愛い時期の君を、あの男に取られたんだ。そして今も、紫輝は彼のもの。赤穂もそう言って、怒っていた」
それだけではない。
赤穂は紫輝の話に、疑いを持っていた。
月光は、己の部屋に乗り込んできた赤穂のことを思い返す。
★★★★★
「弟の話をしたときの、紫輝のあの目。あれは、死人を語るときのものではなかった。弟は死んだ、と紫輝は言った。そのとき、涙ぐんで。それは演技ではないように見えたが。わからないな。なぁ、月光。紫輝の弟は、本当に死んでいるのか?」
「紫輝の中では、まだ死んでいないのかもしれないね。色鮮やかに、彼は存在しているのだろう…」
なんて、一度は誤魔化したが。
赤穂は、猪突猛進のように思われがちだが。それほど馬鹿ではない。
そして、隠し事をかぎつける嗅覚が、ずば抜けている。
もしも赤穂が、自ら調べ始めたら。どうなるかわからない。
紫輝の、この件に関わっているのは。堺と高槻と望月だけだ。
最初は、異世界から来たと言っていたが。
記憶喪失の紫輝に。安曇眞仲が、偽の弟の記憶を、さらに植え付け、実験した。
そんな話になっているようだ。
ただ、この話は赤穂には通じない。
紫輝が、誰かに育てられたことを、赤穂に話してしまった。
弟の影響が大きいことも知っている。でも…。
★★★★★
「赤穂に、天誠の話は二度としない。あいつ、俺の弟なのに、殺すとか平気で言うんだもん。俺は弟を、ぜっったいに守ってみせるんだからなっ」
紫輝の言葉に、月光は現実に立ち戻った。
そして紫輝に、にっこりと微笑みかける。
「あぁ、たぶん大丈夫だよ。赤穂は、本当に、心の底から、君の弟に対して憤っていたからね。そして、弟を害すれば、君に嫌われることも、わかった。だから、赤穂が自分から、君の弟を探すことはないと思う。みつけて、つい殺しちゃったら。紫輝が飛んで行っちゃうもんね?」
「そうかな? だったら、いいけど」
とりあえず、納得してうなずく紫輝を。月光は見やる。
実際、赤穂はそう言っていたのだ。
「月光、紫輝を育てた者を知っているなら、報奨金を出してくれないか。あぁ、家族の詳しい情報は、俺の耳に入れるな。弟を、殺しに行っちまうかもしれねぇ」
俺は聞かねぇ、とばかりに耳を塞いでいた。
そういうところ、あいつは本当に可愛いんだから。
つまり、当分は、赤穂が紫輝の背景を探ることはない。と思う。
「紫輝と弟の関係とか気にしたら、もう、憤死しそうだから、考えねぇ。とにかく今、俺は、紫輝が健康で、元気で、生きてそばにいてくれるだけでいい。それと。いつか、俺と月光を父親だと思ってくれたら…もっと幸せだな?」
部屋に来たときは、ものすごく怒っていたけど。
こうして上目遣いで聞いてくる赤穂が。月光はとても愛おしかった。
「赤穂が父親なのはさ、わかるよ。俺も。でも年が近いから、なかなかそういう目で見られないし。天誠を殺すとか言われちゃうと、こっちも警戒しちゃうんだよな…」
口をとがらせて、紫輝が言う。
月光は。赤穂の願いは、まだまだ成就しそうもないな、と息をついた。
「そうだ月光さん、あいつ情緒不安定だから、よしよしって、してやってよ。俺の弟もさ、たまに俺がいなくなるんじゃないかって、不安がったことがあるんだけど。そういうとき、よしよしって頭撫でてやると落ち着いたからさ」
紫輝が、とても得意げな顔をして、月光に助言する。
月光は、あの禍々しさ全開の安曇が、不安がる様子など考えられないのだが。
でも。紫輝が突然、目の前に現れたのだとしたら。
突然、姿を消す恐怖に、ずっと、さらされていたのかもしれない。
あの、居丈高な男に、恐れという感情があるとも思えないけれど。
まぁ、そういう理由があるならば、少しだけ同情してやってもいい。
あくまで、少しだけだが。
「僕が、右軍総司令官様に、よしよしナデナデできると思う?」
「え? だって。結婚してるんでしょ? 伴侶だって言ってたよ」
伴侶なのだから、よしよしくらい、いつだってできるでしょ? と紫輝は思っていた。
一緒に暮らしていて、赤穂のあの様子だと、かなりラブラブなんじゃないかと。
「あぁ…それは。ちょっと間違いだな。厳密には、離婚してます」
語尾にハートマークをつける感じで、月光が可愛らしく言った。
えーっ、嘘っ!
待って待って、だって、この前、すっごくロマンティックな話聞かされて、すごい感動して、涙出そうだったのに。
「どうして? もう、愛し合ってないの?」
紫輝は、ラブラブな両親が、いきなり離婚宣言かましてきたくらいのショックを受けたのだが。
月光は、全然、悲しそうな様子もなく。
逆に瞳をキラキラ輝かせた。
「ううん。愛してるよぉ。でもね。これは赤穂と相談して決めたことなんだ。赤穂に君を託されたとき、僕は彼の伴侶だった。でも君を育てるために、完全に下界との接触を断ったんだ。重度な療養生活と称して、誰とも会わないようにした。そして赤穂は。赤穂の子供が僕の手に渡っていると、将堂に気づかれないよう。僕と離縁したんだよ」
「ええ、俺のせいで別れたの?」
自分のせいで、ようやく手を取り合えた恋人同士が別れてしまったなんて。そんなの、ひどい。
自分がいなかったら、なんて考えて、涙ぐんでしまうけど。
自分が…赤子の紫月がいなかったら。
月光と赤穂は、未だ手もつなげていなかったかもしれないのだった。
そう思うと、複雑である。
「うん。でもね、伴侶を解消しました、と言うだけで。紫輝から将堂の目を外せるなら。それでいい。僕らには、肩書なんか必要ない。僕は赤穂を愛しているし、赤穂も僕を愛している。それが重要なことでしょ? 世間が僕らのことをどう思おうと、どうだっていい」
「ええぇぇ、なにそれ。俺の両親、チョー格好良いんですけどぉ」
なんか、涙声で言う紫輝の頭を、月光はよしよしする。
紫輝が責任を感じることはないよ、と言いながら。
「というわけで、今、僕は。ただの赤穂の部下。まぁ、君を探すのに、軍に復帰して。情報収集していた、この頃は。べったりくっついていたから。焼けぼっくいに火がついた、なんて噂されているけどねぇ?」
「でも、ただの部下でも。愛し合っているんだよね? 世間的には、離婚でも。心は、別れていないんだよね?」
「そう。ただ、将堂一族の監視の目があるから。付き合っていない態を装っている。複雑なんだよね、僕たち」
そういえば、赤穂も。
『伴侶だが、赤穂と月光の関係は複雑なものがある』って言っていた。
赤穂は、離婚のことは言っていなかったが。
そう思いたくないとか。気持ちは、離婚していないとか。そんな感情があったのかもしれない。
なんて、紫輝は想像する。
うーん、複雑だな、大人って。三歳しか違わないけど。
「俺のせいだから、良くはないけど。赤穂が浮気したとかじゃなくて、良かった」
親子だとバレる前、紫輝に嫁になれとか言ってきたような赤穂だから。月光を愛していると言ってはいたけど、イマイチ信じられない。
つか、将堂赤穂が龍鬼を嫁にするとか、普通に無理じゃね?
「ああ見えて赤穂は、案外、真摯なんだよ」
「でも、赤穂は。女性関係派手だったんだろ?」
自分に迫ってきたとは、月光には言いにくかったので。
他の言い方をしてみた。
「うーん。それは、僕たちが子供だったからだ。赤穂が、僕以外の者を見る。その工程は、僕たちが成長するのに、必要なものだったと解釈している」
「どうして? 好きだと思ったら、その人だけを見ていればいい。余所見をされたら、つらいじゃん?」
今、紫輝は。天誠と恋愛をしているから。どうしても天誠で、想像するのだが。
想像するのも嫌な感じだ。
「紫輝が生まれたとき、赤穂は十五歳だよ? それ以前に、僕たちはくっついたり、離れたり、遠回りしたり、家のこととかも、それはまぁ、いろいろなことがあったわけだけど。若いうちは、自分に、より合う人物を探すものなんじゃないかな? どこに運命の相手がいるか。そんなの、簡単に探し出せないよ。でもそうやって、いろいろな相手を見ることは、悪いことじゃない。結果、赤穂は僕を選んでくれたから。いいんじゃない?」
確かに、紫輝も。
天誠に『他の人物とも関われ』と言ったことがある。
簡単に言えば、彼に、自分の世界を狭めてほしくなかったのだ。
天誠は優秀な人物だった。
そして自分は、天誠の一番近くにいたわけだけれど。
天誠が近くにいる兄ばかり見て、他の人の良い部分を見逃しているんじゃないかって。そんなの駄目だって、そのときは思っていたように思う。
でも、その心の裏には。自分は凡人だから。綺麗で頭が良くて優しくて、そんな完璧な弟のそばにいる自信がなかった。
そんな気持ちが、あったのかもしれない。
そのときはまだ、彼の愛に溺れてもいなかった。
だから、たぶん。逃げていたのだ。
天誠が、自分に、真剣な想いを向けていたことを知っていた。
でも、自分は。真っ向から、その想いを受け止められなくて。
天誠を心配するふりをして、逃げていた。
弟は、賢いから。そんな自分を泳がせていたのだろう。
逃がさないけど、無理矢理、捕まえもしない。って感じで。
優しいよな。でも、そのせいで。八年も待たせちゃったのだから。
うー、ごめんな天誠。
「大人なんだなぁ、月光さんは。俺は、今はもう。天誠に、他の人にも目を向けて…なんて言えないや」
つい半年前に、天誠に言っていたはずなのに。
今は言えない。
きっと、半年前より、マジで恋しちゃってんのかもしれないな?
なんて、自嘲したら。
月光がクワッと目を吊り上げて怒った。
「当たり前だろ。僕の息子を泣かせたら、許さないからっ」
急に怒るから、紫輝は慌ててしまう。
「いやいや、今、若いうちはって、月光さんが言ったんじゃ?」
「赤穂は赤穂。でも僕の息子と付き合ってて、他に目を向けるなんて、許せないから。安曇っマジで、許さないから」
「いやいや、浮気とか、されてないから。あの人、マジで子供の頃から俺しか見てないから…自分で言うのもなんだけど。クッソ重たい愛情でヤバいくらいですから」
紫輝が言い募っても、月光はムムムッと口をへの字にしている。
可愛い顔なのに、眉間にしわを寄せている。
あわわ、これは話題を変えてしまおう。
「…元の世界でも、彼氏彼女とかいって、学生のうちに男女交際していて。でも大体は、結婚前提みたいな、重い感じじゃなかった。赤穂もそんな感じで、女性とお付き合いしていたってことなんだね? ね?」
「安曇は紫輝以外の女と付き合っていたことがあるの? いや…あいつが他に目を向けたら、紫輝は自由の身。でも紫輝が泣くのは嫌だなぁ…うーん」
「それ、自分で言うのもなんだけど。考えるの、時間の無駄ですよ」
ぶつぶつつぶやく月光に、紫輝は的確なアドバイスをし。
心の大切な部分を、少し明かした。
「彼は、八年も俺を待っててくれた。俺も、天誠以外、考えられない。だから、たとえ俺が、他に目を向けろと言ったところで、天誠はそんなことはしないんだ。それで、俺はね。たぶん、死んでも、天誠を離さない」
胸の奥をくすぐるような、こそばゆい気持ちで言った、紫輝の告白を聞いて。
月光はブワッと涙を流した。
「紫輝ぃ、君は、とてもいい子で、健気で、可愛い子だよ。でも、安曇は無理ぃ」
そんなにか、と。紫輝は半目で、泣く月光を見やるのだった。
「いいか、その男の話は、二度とすんな。不愉快だ」
言うだけ言い捨てて、赤穂は怒りの足取りで、紫輝がいつも食事するスペース『秘密の庭』を出て。樹海の森に消えていく。
「もちろん、天誠を思い出させるような話は、二度とする気はないよ」
赤穂が遠くに去ってから、紫輝はつぶやき。小さくベロを出す。
なんか、赤穂が来てから怒涛の展開で、すごく疲れた。
紫輝は重いため息をついて、切り株の上に座った体勢で、ぐったりする。
赤穂が突然、紫輝の前に現れて。嫁になれとか言われて、キスしようとするから。
慌てて、親子だってバラしちゃった。
こんなふうに言っても、納得しないだろうと思ったのに。
案外、簡単に了承され。ええぇ、ってなる。
それから、赤穂と月光のなれそめ、なんか聞いちゃって。
紫輝は月光のことを、ニコニコふわふわしていて、掴みどころがないというか。それでいて頭がキレるから、深く関わるのはちょっと怖いな、なんて思っていたりしたのだが。
赤穂の話を聞いたら、彼の印象が大化けした。
「月光さん、チョー健気じゃん。切ないじゃーん」
背をのけぞらせて、紫輝は思わず声に出した。
あの話、マジで涙出そうだった。
なんか赤穂が、不器用さ全開で、紫輝の母親の話を回避したから。
涙、引っ込んじゃったけど。
「月光さんって、たぶん、軸が赤穂なんだな。赤穂の子供を探すために、俺に探りを入れてきて。その詮索具合が、えぐかったから。ちょっと引いちゃったけど」
理由がわかれば、月光の必死さとか、紫月への愛情とか、赤穂への思いやりとか、すごく伝わるし。
月光は、お母さんになるとか、紫輝に言ったが。
うん。それでもいいかも、なんて思った。
月光をママと呼ぶ日は近いかもしれない。
あぁ、でも駄目。三歳差でママは、きついな。やっぱり。
そのあと、ちょっと、天誠の存在を匂わせてしまったら、赤穂が食いついちゃって。
斬るとか言い始めちゃって、なんでーっ、てなった。
ギラリとした、赤穂の眼差しを思い出し。紫輝は、背筋を震わせる。
あれは、本気だった。
天誠の正体を知られたら、マジで殺される。
今まで、赤穂の剣を受け止めたり、普通に話したりしていて。喧嘩腰になっても、怖いなんて思ったことがなかったのに。
今回は、本当に怖いと思った。
天誠を守らなきゃって。警告アラームが体の中でビンビン響いたのだ。だから。
「弟は、死んだ」
そう赤穂に告げた。
この世界に、天誠は存在しない。そう思い込んで。
天誠が赤穂に殺されてしまったら、この世界にひとり取り残されてしまったらと、そう想像したら。涙腺がゆるんだ。
嫌だ。怖い。天誠がそばにいないなんて…耐えられない。
そんな気持ちがあふれ。
演技したわけではないのだが、涙ぐんでた。
そうしたら、赤穂がひるんだ。
自分の言い分を信じてくれたのかもしれない。と紫輝は思ったのだけど。
まだ、心がここにないとか、ぐちゃぐちゃ言うから。逆ギレしてしまった。
「気に入らないなら、斬ればいいだろ」
目に力を入れて、紫輝は赤穂を睨んだ。
これは、賭けだった。
彼の気性からして、本当に気に入らなければ、赤穂は己を斬るだろう。息子だから斬らないだろうなんて、楽観的なことは考えなかった。
ただ、紫輝は。赤穂の目から、天誠の存在を外したかっただけだった。
どうしても。
たとえ、自分が斬られても。天誠のことだけは、口を割らない。
まぁ…赤穂が斬る前に、ライラが生気を吸うだろうけど。
でもそうなったら、将堂から逃げるしかなくなるから。どちらにしても万事休すだ。
そうならないよう。赤穂に自分の命を握らせる。
この場にいる自分は、赤穂のものなのだ。それを感じて、彼が納得してくれたらいい。
逃げるか、残れるか、どちらになるかわからない…だから賭けなのだ。
「ガキが。簡単に命を放り出すんじゃねぇよ」
赤穂は引いてくれた。そして捨て台詞を吐いて去っていったのだ。
切り抜けられた、かな?
とりあえず、細かいところを追及されなくて、良かった。
胸を撫で下ろすが。赤穂…なんであんなに怒ったのかな? なんか、怒る要素あった?
心がない、とか言ってたけど、いやいやあるし。
「あいつ、情緒不安定だよな。月光さんによしよししてもらえばいいんじゃね?」
的外れなことをつぶやく紫輝だった。
★★★★★
二日ほど、戦場で睨み合いが続いていた両軍だったが。とうとう手裏軍が動き始めた。
そして九月十五日。両軍はぶつかり合い、戦闘が激化した。
第五大隊は、先陣を切る隊。ゆえに、敵が真っ向から当たってくるのは、わかるのだが。
普通は、横手からも攻めたり、奇襲などを用いたりして、揺さぶってくるものだ。
ある意味第五大隊は、敵にとっては精鋭で固められた、攻略しづらい部隊である。
なのに第五大隊に、手裏兵が集中している気がした。
一番分厚い布陣を敷いている、第五大隊を、一点突破する気だろうか?
不破の思惑が見えない。
押され気味ではあったが、なんとか持ちこたえ。日没になった。
仲間たちと近い距離で戦闘したから、返り血を浴びてしまい。
紫輝は久しぶりに、泉で体を洗うことにした。
九月になって、ずいぶん涼しくなってきたから。俺たちの家で、露天風呂に浸かりたい気はある。
でも、天誠の不在時に、ひとりで、あの家に行きたくない。
天誠がいないって、どうしても実感しちゃうからな。
寂しさに拍車がかかるじゃん?
それにあそこは、手裏側に近いから行くな、とも言われている。危険なことはやめよう。
泉には、大和もついてくると言うので。ライラに運んでもらって、塀を飛び越え。
ライラと大和と紫輝、三人並んで、樹海の森を歩く。
久しぶりのお散歩で、ライラはご機嫌だった。
泉に到着し。紫輝はさっそく服を脱いで、水の中へと入っていく。
今日は満月だから、水面にきらめく月光が、とても明るく感じた。
段差になったところから流れ落ちる、小さな滝。水の音が心地よくて。マイナスイオンだなと思う。
体を洗いながら大和と無駄話していたら。
「…だから、大きくなった姫とは、紫輝様よりも先に会っていたんですよ。な、姫?」
なんて話になって。岸辺で並んで座る大和が、ライラにたずねる。
以前は、同じ場所に、千夜とライラが座っていたのだ。
白と瑠璃色が並んでいて、綺麗だったなんて思い返す。
あ、赤茶も可愛いよ?
「なれなれしく話しかけないでちょうだい。あたしをだれだとおもってるの? 姫よっ!」
「そうだよな、俺たち仲良しだよな? 姫?」
「なにいってんのかしら。たべちゃおうかしら」
大和は、ライラの言葉がにゃごにゃごしか聞こえないから。微妙に会話が噛み合っていなくて、おかしい。
そうしたら、ライラが突然叫んだ。
「ピンクよっ」
ライラは、月光の名前は言えない。
でも、ピンクか。まぁ、わかるけどぉ。
「紫輝、誰か来る。泉から上がってください」
大和に言われる前から動き出し。紫輝は岸辺に向かって歩くけど。
大和はそっぽを向いて、大きめの手拭いを振り回した。
「わー、隠してくださいよ。俺が殺されるの、わかるでしょ?」
「いいだろ、男同士だし。誰も殺さないって」
「そうだよ、男同士なんだから。でも僕は、殺しちゃうかもだけど?」
ふたり以外の声が割り込んで、大和はギャー、と叫んで。紫輝を背後から布でくるんだ。
大和は安曇から、紫輝の肌を誰にも見せるなと厳命を受けていた。なので、必死だ。
唐突に現れた月光の目から、紫輝の肌をなんとか隠す。
「こんにちは、月光さん」
「いい満月だね、紫輝」
紫輝と月光は、慌てる大和を無視して、ほのぼのと挨拶をした。
ニコニコした、いつもの可愛らしい笑みを浮かべていた、月光だが。
大和に向かって、目線だけで退場を命じる。
大和は紫輝を見て。
紫輝がうなずいたので、そこから姿を消した。
月光は、空を飛んできたようで。桃色の翼をひとつ大きく羽ばたかせると、コンパクトにたたんだ。
「あれは、安曇の手の者か? 紫輝のそばにつけられる兵が、我が軍にいるなんて。用意周到すぎぃ」
将堂の宝玉が、うーんと唸る。
短期間の潜入では、紫輝のそばには近づけないのだ。
新兵の配属は、血統や家柄、または龍鬼などの特別なものがなければ、基本、無作為である。
しかし腕があれば、二十四組にはもぐり込める。
だが紫輝と同期だったら、同じ隊に何人も割り振らないから、その可能性は極めて低くなる。
つまり、だいぶ前から。紫輝のために、もぐり込ませていたことになるのだが。マジか?
「彼は手裏じゃない。俺のなので。見逃してください」
濡れた体を布で隠し、心配そうな目でみつめる紫輝に。月光はうなずいた。
自分も紫輝に隠密をつけている。
安曇と、考えることも目的も、同じだ。紫輝を守る、それに異論はない。
さらに、ごく自然に、紫輝が彼を『俺の』だと言ったので。月光は感じ取ったのだ。
これは『第三勢力だ』と。
手裏でも、将堂でもない。
紫輝、もしくは安曇を中心とした、別の組織が構築されつつある。
それに対しても、月光は口を出す気はない。
まぁ、紫輝は。勢力うんぬんは、なにも考えていないかもしれないけれど。
もしも、そんな組織ができるなら。むしろ自分が、是非入りたいくらいだ。
それはともかく。月光は本題に入った。
「バレたね」
「…すみません」
恐縮して、紫輝は月光に頭を下げた。
しばらく正体を隠しておくと、月光が言っていたのに。
早々に、こんなことになってしまって。本当にすみません。という気持ちだ。
「大丈夫だよ。赤穂には、頃合いを見て、話すつもりだったんだ。第五大隊と同じく、僕たちも九月いっぱいで本拠地に戻るので。戦の最中は、なにかと忙しいから。落ち着いたら…なんて思っていたんだよ」
月光が許してくれたので、紫輝は布で体を拭きながら、新しい軍服を身につけていく。
着替えている間、月光はライラを撫でたり、鼻をつついたりしていた。
月光の翼の色と同じ、ピンクのつるりとした鼻が気になるみたいだけど。
あまりしつこいと怒られますよ。
「君に会ったあと、赤穂、僕の部屋に押しかけて来たんだ。散々、君の弟について文句を並べ立て。どこの誰だ? 僕が知らないわけないだろうと…詮索されたよ」
ガブっとされる前に、月光は紫輝の方を向いた。
良かった。
でも言われたことについては、ヒヤッとする。
「言ってませんよね? 天誠のこと」
自分が言わなくても、月光からバレてしまったらアウトだ。
でも、月光は約束をした。天誠と眞仲が同一人物だって誰にも言わないと。
口約束だけど。だから、ちょっとドキドキした。
「言ってない。僕は鶴を手放す馬鹿じゃない」
「鶴? 堺のこと?」
ここで堺の話になるのは脈絡がないから、紫輝は首を傾げる。
すると月光は、自分の羽を手でいじった。
なんか、彼氏の前で髪の乱れを気にする女の子みたいな仕草だな、と紫輝は思った。
「鶴の恩返しさ。愛していたのに、秘密を覗いて、鶴は去っていったろう? 僕が安曇の秘密を暴露したら、紫輝は安曇の元に飛んで行ってしまう。僕はそんな愚行は犯さない」
「なるほど」
深く納得すると。月光がフフッと可愛らしく笑った。
「それにしても…同じところでつまずいたな。僕も、安曇の件に関しては、はらわたが煮えくり返る思いだからね」
「天誠のこと、嫌い? なんでみんな、天誠を悪く思うんだ? 弟はすごく頭が良くて、優しくて、格好良いし…」
「そこまで」
弟の良いところを紫輝は並べ立てていく。
月光も赤穂も、紫輝の親だと言うのだから。近しい人には、自分の愛する人を好きになってもらいたいじゃないか。
なのに、月光は。そんな紫輝を手で制した。
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「親だからだ。本来、安曇の立ち位置は、僕たちのものだった。紫輝を愛し、紫輝を育て、紫輝に信頼される、それは親の僕たちであるべきだ。そこを奪われたんだから、腹も立つってものさ」
きゅるんとした丸い目を、鋭くとがらせて、月光が言う。
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「そんな無茶な。俺は過去に飛んで…そこで生活をしてきたんだから。仕方がないでしょ?」
「仕方ない…じゃ、気がおさまらないこともある。一番可愛い時期の君を、あの男に取られたんだ。そして今も、紫輝は彼のもの。赤穂もそう言って、怒っていた」
それだけではない。
赤穂は紫輝の話に、疑いを持っていた。
月光は、己の部屋に乗り込んできた赤穂のことを思い返す。
★★★★★
「弟の話をしたときの、紫輝のあの目。あれは、死人を語るときのものではなかった。弟は死んだ、と紫輝は言った。そのとき、涙ぐんで。それは演技ではないように見えたが。わからないな。なぁ、月光。紫輝の弟は、本当に死んでいるのか?」
「紫輝の中では、まだ死んでいないのかもしれないね。色鮮やかに、彼は存在しているのだろう…」
なんて、一度は誤魔化したが。
赤穂は、猪突猛進のように思われがちだが。それほど馬鹿ではない。
そして、隠し事をかぎつける嗅覚が、ずば抜けている。
もしも赤穂が、自ら調べ始めたら。どうなるかわからない。
紫輝の、この件に関わっているのは。堺と高槻と望月だけだ。
最初は、異世界から来たと言っていたが。
記憶喪失の紫輝に。安曇眞仲が、偽の弟の記憶を、さらに植え付け、実験した。
そんな話になっているようだ。
ただ、この話は赤穂には通じない。
紫輝が、誰かに育てられたことを、赤穂に話してしまった。
弟の影響が大きいことも知っている。でも…。
★★★★★
「赤穂に、天誠の話は二度としない。あいつ、俺の弟なのに、殺すとか平気で言うんだもん。俺は弟を、ぜっったいに守ってみせるんだからなっ」
紫輝の言葉に、月光は現実に立ち戻った。
そして紫輝に、にっこりと微笑みかける。
「あぁ、たぶん大丈夫だよ。赤穂は、本当に、心の底から、君の弟に対して憤っていたからね。そして、弟を害すれば、君に嫌われることも、わかった。だから、赤穂が自分から、君の弟を探すことはないと思う。みつけて、つい殺しちゃったら。紫輝が飛んで行っちゃうもんね?」
「そうかな? だったら、いいけど」
とりあえず、納得してうなずく紫輝を。月光は見やる。
実際、赤穂はそう言っていたのだ。
「月光、紫輝を育てた者を知っているなら、報奨金を出してくれないか。あぁ、家族の詳しい情報は、俺の耳に入れるな。弟を、殺しに行っちまうかもしれねぇ」
俺は聞かねぇ、とばかりに耳を塞いでいた。
そういうところ、あいつは本当に可愛いんだから。
つまり、当分は、赤穂が紫輝の背景を探ることはない。と思う。
「紫輝と弟の関係とか気にしたら、もう、憤死しそうだから、考えねぇ。とにかく今、俺は、紫輝が健康で、元気で、生きてそばにいてくれるだけでいい。それと。いつか、俺と月光を父親だと思ってくれたら…もっと幸せだな?」
部屋に来たときは、ものすごく怒っていたけど。
こうして上目遣いで聞いてくる赤穂が。月光はとても愛おしかった。
「赤穂が父親なのはさ、わかるよ。俺も。でも年が近いから、なかなかそういう目で見られないし。天誠を殺すとか言われちゃうと、こっちも警戒しちゃうんだよな…」
口をとがらせて、紫輝が言う。
月光は。赤穂の願いは、まだまだ成就しそうもないな、と息をついた。
「そうだ月光さん、あいつ情緒不安定だから、よしよしって、してやってよ。俺の弟もさ、たまに俺がいなくなるんじゃないかって、不安がったことがあるんだけど。そういうとき、よしよしって頭撫でてやると落ち着いたからさ」
紫輝が、とても得意げな顔をして、月光に助言する。
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でも。紫輝が突然、目の前に現れたのだとしたら。
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あの、居丈高な男に、恐れという感情があるとも思えないけれど。
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「僕が、右軍総司令官様に、よしよしナデナデできると思う?」
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「あぁ…それは。ちょっと間違いだな。厳密には、離婚してます」
語尾にハートマークをつける感じで、月光が可愛らしく言った。
えーっ、嘘っ!
待って待って、だって、この前、すっごくロマンティックな話聞かされて、すごい感動して、涙出そうだったのに。
「どうして? もう、愛し合ってないの?」
紫輝は、ラブラブな両親が、いきなり離婚宣言かましてきたくらいのショックを受けたのだが。
月光は、全然、悲しそうな様子もなく。
逆に瞳をキラキラ輝かせた。
「ううん。愛してるよぉ。でもね。これは赤穂と相談して決めたことなんだ。赤穂に君を託されたとき、僕は彼の伴侶だった。でも君を育てるために、完全に下界との接触を断ったんだ。重度な療養生活と称して、誰とも会わないようにした。そして赤穂は。赤穂の子供が僕の手に渡っていると、将堂に気づかれないよう。僕と離縁したんだよ」
「ええ、俺のせいで別れたの?」
自分のせいで、ようやく手を取り合えた恋人同士が別れてしまったなんて。そんなの、ひどい。
自分がいなかったら、なんて考えて、涙ぐんでしまうけど。
自分が…赤子の紫月がいなかったら。
月光と赤穂は、未だ手もつなげていなかったかもしれないのだった。
そう思うと、複雑である。
「うん。でもね、伴侶を解消しました、と言うだけで。紫輝から将堂の目を外せるなら。それでいい。僕らには、肩書なんか必要ない。僕は赤穂を愛しているし、赤穂も僕を愛している。それが重要なことでしょ? 世間が僕らのことをどう思おうと、どうだっていい」
「ええぇぇ、なにそれ。俺の両親、チョー格好良いんですけどぉ」
なんか、涙声で言う紫輝の頭を、月光はよしよしする。
紫輝が責任を感じることはないよ、と言いながら。
「というわけで、今、僕は。ただの赤穂の部下。まぁ、君を探すのに、軍に復帰して。情報収集していた、この頃は。べったりくっついていたから。焼けぼっくいに火がついた、なんて噂されているけどねぇ?」
「でも、ただの部下でも。愛し合っているんだよね? 世間的には、離婚でも。心は、別れていないんだよね?」
「そう。ただ、将堂一族の監視の目があるから。付き合っていない態を装っている。複雑なんだよね、僕たち」
そういえば、赤穂も。
『伴侶だが、赤穂と月光の関係は複雑なものがある』って言っていた。
赤穂は、離婚のことは言っていなかったが。
そう思いたくないとか。気持ちは、離婚していないとか。そんな感情があったのかもしれない。
なんて、紫輝は想像する。
うーん、複雑だな、大人って。三歳しか違わないけど。
「俺のせいだから、良くはないけど。赤穂が浮気したとかじゃなくて、良かった」
親子だとバレる前、紫輝に嫁になれとか言ってきたような赤穂だから。月光を愛していると言ってはいたけど、イマイチ信じられない。
つか、将堂赤穂が龍鬼を嫁にするとか、普通に無理じゃね?
「ああ見えて赤穂は、案外、真摯なんだよ」
「でも、赤穂は。女性関係派手だったんだろ?」
自分に迫ってきたとは、月光には言いにくかったので。
他の言い方をしてみた。
「うーん。それは、僕たちが子供だったからだ。赤穂が、僕以外の者を見る。その工程は、僕たちが成長するのに、必要なものだったと解釈している」
「どうして? 好きだと思ったら、その人だけを見ていればいい。余所見をされたら、つらいじゃん?」
今、紫輝は。天誠と恋愛をしているから。どうしても天誠で、想像するのだが。
想像するのも嫌な感じだ。
「紫輝が生まれたとき、赤穂は十五歳だよ? それ以前に、僕たちはくっついたり、離れたり、遠回りしたり、家のこととかも、それはまぁ、いろいろなことがあったわけだけど。若いうちは、自分に、より合う人物を探すものなんじゃないかな? どこに運命の相手がいるか。そんなの、簡単に探し出せないよ。でもそうやって、いろいろな相手を見ることは、悪いことじゃない。結果、赤穂は僕を選んでくれたから。いいんじゃない?」
確かに、紫輝も。
天誠に『他の人物とも関われ』と言ったことがある。
簡単に言えば、彼に、自分の世界を狭めてほしくなかったのだ。
天誠は優秀な人物だった。
そして自分は、天誠の一番近くにいたわけだけれど。
天誠が近くにいる兄ばかり見て、他の人の良い部分を見逃しているんじゃないかって。そんなの駄目だって、そのときは思っていたように思う。
でも、その心の裏には。自分は凡人だから。綺麗で頭が良くて優しくて、そんな完璧な弟のそばにいる自信がなかった。
そんな気持ちが、あったのかもしれない。
そのときはまだ、彼の愛に溺れてもいなかった。
だから、たぶん。逃げていたのだ。
天誠が、自分に、真剣な想いを向けていたことを知っていた。
でも、自分は。真っ向から、その想いを受け止められなくて。
天誠を心配するふりをして、逃げていた。
弟は、賢いから。そんな自分を泳がせていたのだろう。
逃がさないけど、無理矢理、捕まえもしない。って感じで。
優しいよな。でも、そのせいで。八年も待たせちゃったのだから。
うー、ごめんな天誠。
「大人なんだなぁ、月光さんは。俺は、今はもう。天誠に、他の人にも目を向けて…なんて言えないや」
つい半年前に、天誠に言っていたはずなのに。
今は言えない。
きっと、半年前より、マジで恋しちゃってんのかもしれないな?
なんて、自嘲したら。
月光がクワッと目を吊り上げて怒った。
「当たり前だろ。僕の息子を泣かせたら、許さないからっ」
急に怒るから、紫輝は慌ててしまう。
「いやいや、今、若いうちはって、月光さんが言ったんじゃ?」
「赤穂は赤穂。でも僕の息子と付き合ってて、他に目を向けるなんて、許せないから。安曇っマジで、許さないから」
「いやいや、浮気とか、されてないから。あの人、マジで子供の頃から俺しか見てないから…自分で言うのもなんだけど。クッソ重たい愛情でヤバいくらいですから」
紫輝が言い募っても、月光はムムムッと口をへの字にしている。
可愛い顔なのに、眉間にしわを寄せている。
あわわ、これは話題を変えてしまおう。
「…元の世界でも、彼氏彼女とかいって、学生のうちに男女交際していて。でも大体は、結婚前提みたいな、重い感じじゃなかった。赤穂もそんな感じで、女性とお付き合いしていたってことなんだね? ね?」
「安曇は紫輝以外の女と付き合っていたことがあるの? いや…あいつが他に目を向けたら、紫輝は自由の身。でも紫輝が泣くのは嫌だなぁ…うーん」
「それ、自分で言うのもなんだけど。考えるの、時間の無駄ですよ」
ぶつぶつつぶやく月光に、紫輝は的確なアドバイスをし。
心の大切な部分を、少し明かした。
「彼は、八年も俺を待っててくれた。俺も、天誠以外、考えられない。だから、たとえ俺が、他に目を向けろと言ったところで、天誠はそんなことはしないんだ。それで、俺はね。たぶん、死んでも、天誠を離さない」
胸の奥をくすぐるような、こそばゆい気持ちで言った、紫輝の告白を聞いて。
月光はブワッと涙を流した。
「紫輝ぃ、君は、とてもいい子で、健気で、可愛い子だよ。でも、安曇は無理ぃ」
そんなにか、と。紫輝は半目で、泣く月光を見やるのだった。
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