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15 家族のどうでもいい日常。
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◆家族のどうでもいい日常。
千夜の昇進祝いの席で、したたかに酒を飲んだ男たちは。深い眠りについている。
前線基地には、各組ごとに、ひとつの宿舎が建てられていて。ひと班に、大部屋ひとつが割り当てられている。
大部屋といっても、およそ十人が横になれば、隙間がなくなるほどの部屋だ。
敵にみつかり、万が一、基地を放棄することになっても。建物を壊して、すぐに逃げることができるような、簡易な宿舎である。
大いびきが、ごうごうと響く中。紫輝は部屋を抜け出した。
未成年という意識は、この世界にはあまりないようなのだが。お酒を飲むのはまだ早い、と自主的に判断したのと。天誠に『絶対に飲むな』と事前に釘を刺されていたこともあり。紫輝は酒を飲まずにお茶を飲んでいた。
だから、素面である。
宴会が終わったあとの庭は、しんと静まり返っている。
慣れた足取りで、紫輝は基地の端である防御塀へと向かった。
もうランプをつけなくても、ここまで歩ける。
辺りを見回し。紫輝は、警備の兵や、以前みつかったことのある月光なんかがいないか確認すると、ライラを出した。
背中に背負った剣から、ライラはババーンと変化し。でっかくて白い猫の姿に戻る。
ビューティホーホワイトキャッツッ! 今日も素敵です。
普通なら、人語を解し、ライオンほどの大きさになってしまった妖猫を、飼い主であっても気味悪がるところだが。
猫バカで、物心ついたときから、ライラがそばにいた環境で育った紫輝は、そんなことはものともしない。
むしろ。二十一歳といった、猫にしては、ご長寿の部類に入り。病気がちで、今にも命が消えそうな状態を憂いていたから。
猫又になったことで、外見が変わろうが、言葉を話そうが。
元気で、生きていてくれる。ただそれだけでいいのだ。
それに。紫輝は。でっかいライラに抱きつくのが好きだ。
大きな肉球に顔を埋めれば、至福の心地。ぷにぷにすべすべが顔中にあるなんて、最高。
しかも、いい匂い。あぁ、たまらん。
龍鬼ということで遠巻きにされて、誰とも話せなくて寂しいときは、ライラが話し相手になってくれるし。紫輝にとっては、ライラが猫又であることは、なんのデメリットもなかった。
つか、でっかいライラが好きです。
「おんちゃん、あたしぃ、もうぽんぽんいっぱいよぉ」
ライラは起き抜けの猫がするように、手を前にギューッと伸ばす。
宴会の席で、仲間がおおらかな気を発していた。
その生気を、彼女がつまみ食いしていたのを、紫輝は知っている。
猫又になったライラの食事は、人間の生気である。
本来は、紫輝が発する生命力で賄えるくらいの、微々たる量で事足りるのだが。紫輝を守るため、ライラは敵の生気を吸い、相手を気絶させて倒してくれるのだ。
でも、今は戦闘状態じゃないし。食べなくてもいいんだけど。楽しい場の気は、ライラにとっては美味しい御馳走なのだ。
つまみ食いは、食べられた本人に自覚症状が出ないくらいのものだから。ま、いいんじゃね?
「ご飯じゃなくて。今日…会えそう?」
「あい。会いたいって、いっているわぁ」
口元のムニムニした部分を引き上げ、ライラはにっこり笑った。
「じゃあ、ライラ。連れて行って」
紫輝はライラの背中に乗って、塀を飛び越える。そして自分たちの家に向かった。
ライラが猫又として存在できているのは、時空を操る龍鬼の能力を持つ、自分のせいだと思う。
意識して、ライラを猫又にしている、なんてこともなく。
今のところ、能力自体、自分で行使できないのだけど。
でもライラは、紫輝がそばにいると元気になると言うので、完全に無関係ではないのだろう。
彼女に、長生きしてもらいたいと思う。自然の摂理を無視した、己の我が儘が、ライラの姿を変えてしまったのかもしれない。
そのことには、罪悪感がある。
普通の猫としての一生を、奪ってしまったことを。
それでも、彼女が『あたし、しあわせよ』と言ってくれるから。紫輝はその言葉に甘えるしかなかった。
天誠が用意してくれた『俺たちの家』には、久しぶりに行く。宿舎を抜け出したことが、千夜にばれてしまい、二週間ほどは自粛していたのだけど。
なんか、天誠に会いたくて、うずうずしている。
楽しみなんだけど、そわそわもしている。
久しぶりに顔を見られると思うと、緊張する、というか。
今更、弟の顔なんか見慣れている。でも。一応恋人だから。どきどきというか。あわあわというか。
そんなことを考えている間に、到着した。
家の中には、すでに明かりが灯り。玄関前で、天誠が立って待っていた。
「久しぶり、兄さん」
ライラの背中から、よじよじと降りた途端に。天誠に抱き寄せられて。頭をわさわさ撫でられた。
そのあと、ライラのことも同じように抱きついて、撫でてる。
あれ? 考えてたのと違う。色っぽくなーい。
別に、期待していたわけじゃないけどぉ。でもこれ、恋人扱いじゃなくて動物扱いじゃね?
いや、ライラも家族だよ。家族だけどねっ。
「兄さん、準備万端整っているよ。ご飯にする? お風呂にする? それとも、俺?」
天誠は紫輝の顔をのぞき込んで、あの、腰が震える美声で甘く囁いた。
でも、恋人扱い、遅いからね。完全に拗ねたからね。
「お風呂っ、ひとりで入る」
「色っぽくなーい。さすが兄さん」
不満げに言うが、クスクス笑いながら。紫輝の鼻を指でつまんだ。
「でも、髪が伸びてきているから、風呂の前に、髪を切ろうか」
紫輝は天誠に言われ、少し長くなった前髪を指でいじる。
彼が紫輝と会って、一番に髪をわさわさしたのは。髪が伸びているのが、気になったからみたいだ。
そういえば、四月にこの世界に来てから、一度も髪を切っていない。さすがに首の後ろとかうざったく感じてはいたのだ。
でも、髪の伸びた天誠がすごく格好いいから。紫輝は、自分も伸ばしてみたいなぁなんて、ちょっと考えていたんだけど。
「…この世界の人たちって、髪伸ばしている人、多いじゃん?」
「切るよ」
有無を言わせない迫力の笑顔で天誠に迫られ。紫輝はううっ、となる。
「でもぉ、赤穂が同じ髪質なんだけど。跳ねてないから。伸ばしたら真っすぐになるんじゃね? って思って」
「いいや、兄さんの髪はウェーブあるから、ワカメのっけたみたいになる」
「ワカメ!? ワカメかぁ…ワカメは嫌かなぁ。じゃあ…切るよ」
「…よしっ。…じゃあ、ここに座って」
思わず気持ちのこもった『よしっ』が出たあと。天誠は取り繕って優しい声を出す。
胸のうちでガッツポーズをしていたけれど。
この、はねた黒猫耳が可愛いのに、伸ばしたら垂れ耳になるじゃねぇか。
それも…可愛いけど。
でも、短髪な方が兄さんの快活さとか、愛くるしさとか、健康的だけどちょっと色っぽかったり、その他もろもろ表されてて、いい感じなのに。伸ばすとか言ってんじゃねぇ。
というのが、天誠の笑顔の向こうの本音であった。
天誠は、あの、なんでも出てくる不思議な黒マントから、ランプ二個を取り出して火をつけ、地べたに置く。そしてマントのフード部分を中に入れ込んで、紫輝の首に巻きつけた。
美容室なんかで、かけられるケープみたいになった。
なんか、本格的。至れり尽くせり。
でも、切る道具は、小刀だった。
「この世界の刃物は、切れ味がいいから、これで充分に髪を切れる。でも、動かないで」
確かに、ハサミじゃないから、動いたら首とか切れちゃうかもしれない。
ひえっ、となり。紫輝は、おとなしくジッとしていた。
「…もしかして、ご飯、用意してた? 今日は宴会だったから、いつもの食事以上に、干し肉とか、乾いた豆とか、いろいろ出たんだよ」
ジッとはしているけれど、暇だから、話はしてしまう。
そんな紫輝のことを、天誠は髪を切る手を止めないまま、クスっと笑って受け入れる。
「気にしなくていい。部下に分けるから。あとでスタッフが美味しくいただきました、ってやつだ」
「スタッフ! 天誠には、スタッフがいるんだな? すげぇな」
弟の出世というか。手助けしてくれる部下がいる、地位にいることを。素直に、無邪気に、紫輝は喜ぶ。
「宴会で。天誠が、千夜と戦った話を聞いたんだ。千夜が、二十四組に入る前だって。そんな前から、天誠がこの地にいたんだなぁって。改めて実感して。なんか、悲しくなった」
「俺はそのとき、紫輝は、俺と同じときに堕ちたと思っていた。手裏の龍鬼の中に、紫輝を探したが、いなくて。将堂にいる小柄な龍鬼とやらを、見に行ったんだ。で、龍鬼を呼び寄せるために、青髪を引き留めたわけ。ま、結局。紫輝じゃなかったから、がっかりしたんだが」
紫輝が責任を感じて、しんみりしちゃうから。天誠は、すかさず、別口に興味が向くよう、話を誘導する。
「青髪は当時、紫輝より弱かったぞ? チャンバラしたときの紫輝の方が、手強かった」
「ええ、そんなはずないよ。弱い千夜とか、考えられない。それに俺、初めての戦場で、動けなくなっちゃったヘタレだし」
「初めては、なんでも怖いに決まってる。兄さんは、よく頑張ったと思う。怖い思いさせて、ごめんね」
天誠は紫輝の頭のてっぺんに、チュッとキスして。黒マントを剥いで、切った髪をバサバサ地面に落とす。
「できた。俺の黒猫さん」
我ながら良い出来だと、天誠は自画自賛する。
後ろ髪は、短くしたから。首元があらわになって、うなじにキスしやすくなったし。
前髪はシャギーして、軽めの短めで。印象的な眼力(天誠には可愛く見えている)をさえぎらない。
横髪は、耳が隠れる程度で清潔感があり。
ゆるっとしたウェーブが、外はねしていて、猫耳みたいで可愛い。
とがった部分を、天誠はお約束で引っ張るが。
すぐに牙を剥いた紫輝が、手でおさえて直してしまう。
「やめろよっ。おまえだって今は黒髪なんだから、黒猫だ」
「俺はカラスさんだ」
「カラスじゃなくて…ハクトウワシだろ?」
紫輝はなんの気なしに、それが事実だと思って訂正したのだが。
天誠は苦笑いしている。なんで?
「紫輝も、カラスは嫌いか?」
すごく神妙な顔で聞かれるから。
紫輝は、天誠としっかり向かい合って、真剣に答える。
「初めに追いかけられたし、戦場で怖いから、苦手意識はあるけど…も、って?」
「カラスは、黒い羽が縁起が悪いと言われ、忌み嫌われている。一番、人口が多いんだけどな?」
「そういう苦手じゃない」
そもそも、紫輝は。龍鬼として、忌み嫌われる側だし。それで、不快な思いを散々している。
自分がされて嫌なことを、他人にするつもりはないし。
そういう意味合いで、手裏と戦っているわけでもない。
「元の時代でも、カラスは縁起が悪いと言われていて、それが今日まで踏襲されているのだろう。カラス血脈の者は、なんとか、排他される立場から逃れたいと思い、力を求めた。それが手裏軍だ」
「じゃあ、闇雲に、領土拡大したいから…ってわけじゃない?」
天誠はお兄さんの、眞仲の顔で。紫輝の頭をポンポンと撫でる。
「どちらにも、理由がある。メリットとデメリット。良い理由と悪い理由。争いで解決しようとするのも、野蛮だが。この世界では、そうするしかない事情もある。距離を置いて交渉する、通信手段がないからな。簡単に話し合いの場を設けて、などと将堂は言ってくるが。身の安全を確保できるとは、現状では到底思えない」
「あの…今、俺、将堂にいるからってわけじゃないんだけど。将堂の悪いところが思いつかなくて。話し合いで政治を進めるって、前の民主主義みたいじゃないか? 悪くないんじゃね? 天誠から見て、将堂の悪い部分ってなに?」
「力づくで攻めてきて、話し合いにも応じない手裏を、紫輝は横暴に感じることだろう。それは確かに、手裏の良くないところだ。しかし、黒だから悪、白だから善と決めつけてはならない。で、将堂の悪いところだが…ズバリ差別主義だ」
あぁ、と紫輝は納得してしまう。
戦とは直結していないように思え、深く考えなかったが。
龍鬼である紫輝は、将堂軍の中では、とにかく生きづらい思いをしている。
でもそれは、全国的なことだと思っていた。
だが、龍鬼だけでなく、血脈の差別もあるのだ。
希少種を優遇するというのは、その他の者を見下すということにもなりかねず。
宴会でも垣間見えた、右と左の対立などは、まさしくそれが一因のような気がするのだ。
「将堂では、カラスは下位の部類だ。将堂がこの地で覇権を握ったら、カラスは虐げられてしまう。今はそれに抗っているんだ」
「うーん」
将堂の『領地を守る』というのも正論だし。手裏の『人権を守る』も正論だ。
紫輝は、わからなくなる。
でもそこで、天誠がポンポンと、紫輝の頭をまた撫でた。
「この問題は、簡単に答えが出るものじゃない。ただ、互いに互いの正論があるということを、わかっていてくれ。紫輝は、俺たちが安全な環境で住むにはどうしたらいいか、今は、そのことを考えていて」
天誠は紫輝を立たせると、肩を抱いて、スマートに家へと誘導した。
紫輝は大きな体躯の天誠に、わざと体重をかけて寄り掛かる。力強く支えてくれるのが、頼もしくて、心地よくて。
なんだかフフッと笑みが出てしまう。
幸せなのだ。天誠とライラ…家族がそばに居てくれることが。
でもそこで、紫輝は気づく。
「あれ? ライラは?」
髪を切っている間、てっきり、そばに居るのかと思っていたが。ライラが見当たらない。
すると開けっ放しの玄関から、ちらりと、白くてふさふさのデカ尻尾が見えている。
「あぁ! 俺たちよりも先に家に入っているよ、ライラ。イケない子ちゃんめっ」
紫輝の、ライラへの悪態は、昔から『イケない子ちゃんめ』だった。
それじゃ、怒っているうちに入らないと、いつも天誠は思うのだけど。
敷居と尻尾をまたいで、紫輝が家に入ると、土間の部分でライラは寝ていた。
「ライラ、土間で寝たら汚くなるよ」
「夏は、ここがいちばん、ちべたくて、きもちいいのよぉ」
仰向けになったライラは、そこでウネウネと金魚体操し、背中を地べたに擦りつける。
あぁあ。
「早急に、ライラベッドを作ろう」
真剣な顔で天誠が言うので、紫輝もうんうんとうなずいた。
「コンクリ敷いたら、汚くならないし、夏も冷たい。けど、コンクリって、どうやって作るのかな?」
天誠がブツブツ言いながら考えている横で、紫輝はブーツを脱いで、小上がりになっている部屋に入る。
ライラが寝ている土間の近くで、ごろんと寝そべった。
新しく切り出した木材の香りがして、新築なのだと実感する。
「あぁ、マジすごいよ。俺たちの家だぜ。自室じゃなくて、家! 何度でも感動しちゃうなぁ」
「まだまだだぞ。兄さんが関東に帰ったあとも、会える家を用意するつもりだ。あと、いずれ、戦に巻き込まれないような場所に、頑丈な屋敷を建てる。しばらくは、こそこそしなければならないかもしれないが。戦が終結したら、一等地にでっかい家を建てよう」
「マジ? なんか夢が膨らむな。そんなの、ちょー楽しみ過ぎる。でも、将堂の本拠地近くに、黒の大翼の天誠がみつかったら…危ないんじゃないか?」
天誠の話は素直に嬉しいし、楽しみで、心躍るものなのだが。
心配でもある。
万が一、天誠が捕縛されたらどうしようって。複雑な心境で眉を歪める紫輝を。
天誠は紫輝の隣に横たわり、背後からやんわりと抱き締めた。
「領地といっても、しっかりと、黒と白に分かれているわけじゃない」
「でも、境界線があるじゃん?」
「それは、もちろん。だが、昔ながらの付き合いや取引がある庄屋…村長みたいな者は、中立という立場で、将堂、手裏、どちらとも商売をしている。たとえば、村で採れた野菜は、一部は所属する領主に税として納めるが。他はどこへ売ってもいいわけだ。それで、将堂の中にも、手裏寄りの村などがある」
十八歳の紫輝に理解してもらえるように、天誠はなるべく、噛み砕いて説明した。
「商売に国境はない、みたいな?」
「まぁ、検閲はあるんだけど。ベルリンの壁みたいに、境界線に、ずっと塀があるわけでもないから、抜け道はいろいろあるんだよ」
天誠は、髪を切ったことで目の前にさらされている、若木のごとき健康的な紫輝のうなじに、早速くちづけた。
「あぁ、ダメ。この前、千夜にキスマークみつかっちゃったんだよ」
紫輝は天誠の腕の中で寝返りを打って、彼と向き合って、寝転ぶ体勢に変えた。
「チッ、目ざといやつだな。わかった。痕はつけない。舐めたりかじったり、するだけだから」
そう言って首筋に顔を埋め、天誠は舌を這わせたり、耳をかじったりした。
キスマークは困るけど。
舐めたりかじったりも、体がジンジンしてきちゃうから、話ができなくて困る。
でも天誠は、紫輝が愛撫にもじもじしている中でも、淡々と話を進めていく。
「それで、俺たちが降り立った、あの場所なんだけど。あそこは元いた、俺たちが住んでいた家と同じ位置だ。あそこは将堂の領地内にあるが、手裏寄りの庄屋が管理する、なかなかレアな物件だ」
紫輝は、そういえば…と思い返す。
眞仲の山の家が、紫輝が降り立った場所だとして。そこから一日歩いた先に、将堂の本拠地があった。
少なくとも、あの場所は、関東圏ということだ。
そこに眞仲が居たということが、本来なら、危ない話だった。
「天誠、危ないじゃないか。なんであのとき、将堂の領地になんか、居たんだ?」
「もちろん、兄さんを迎えるために決まっている。あそこに、紫輝が戻ってくると思いついて、瀬来がいなくなったあと、即、あの家を買い取った。それから兄さんが現れるのを、指折り数えて待ったものだよ。でも、あたりはつけていた。俺は四月の夕方ごろ、この世界に来た。元の世界で手に掴まれたのも、そのくらいだったから、紫輝たちもそうだろうと。日時のズレは、多少あったものの、おおよそ当たっただろ? それに、今も言ったように、あそこは手裏寄り。あの山の中にいれば、そうそう将堂とはかち合わないから、心配無用だ」
鬱蒼とした木々が覆う、あの山が、自分たちが育った家の跡地だなんて。眞仲に保護された当時は、全く考えもつかなかった。
紫輝の家は、高台にある、閑静な住宅地にあった。
確かに、ちょっときつめの坂があったが。山の上に家が建っている、という意識ではなかったなぁ。
「そうか…あの家って、俺の生家でもあったんだよな。天誠は知ってんだよね? 俺の父さんが、そのぉ…」
「赤穂だって? 瀬来が子供を預かるなんて、あいつのしかねぇだろ」
話しながら、天誠は紫輝の軍服の前を開き、胸を舌でたどっていく。
些細な感触が、乳首をかすめた途端に、ソワリと、性感に代わる。
「ん…でも月光さん、子供が大好きだって…」
「赤穂の子供だから、愛情も人一倍だったんだろう。それに…紫輝の…紫月について、暴漢と話していた」
重要な事柄だから、天誠からもたらされる気持ち良い熱が、一瞬サッと引いたように感じた。
「暴漢って、俺を殺そうとした? なんて?」
「剣を振り上げた男に、瀬来は『やめろ、僕の息子だ』と叫んだ。暴漢は子供が消えたあと『おまえのじゃない、赤穂の子だ。おまえほどの才人が、将堂家から龍鬼を出すわけにはいかないと、なぜわからない?』と」
「…その感じだと、月光さんは暴漢と顔見知りみたいだね」
「そうだな。暴漢は将堂家の者なんだろう。ならば、将堂の宝玉と呼ばれた瀬来が、知らない者ではないな」
真面目な話なのに、天誠は紫輝の乳頭を立たせるようにねっとりと舐め、硬い芯が通ってくると、起こすように舌先で弾くようにつつく。
「は、それが誰かは、お、教えてもらえなかった。ん、母さんの、こと、も…」
月光は、まだ重要ななにかを隠しているんだなと、紫輝は感じた。
でも、僕の息子だと言って、守ろうとしてくれた。そのことは、胸の奥がぽかぽかと温かくなるくらい、嬉しいことだった。
「…あの山の家を、手直しすれば。冬の間、紫輝と居られるな」
天誠は愛撫の手を止めず、紫輝の背中や臀部を撫でながら、口は乳首から離さなかった。
右の乳首を存分に感じさせたあと、左の乳首の攻略を開始する。
紫輝はもう、充分に官能を甘受していた。
「ふ、でも、あの山、あ、手裏兵がうようよ、ん、してた、じゃん?」
「それは、俺の命令だから。スタッフさんだよ。だから、俺の命令でスタッフ払いもできる」
天誠の言葉を聞き。
紫輝は、はぁ? となった。
のぼせそうになっていた頭が、キンと冷えたよ。
「おまえ、俺があのとき、殺されそうになって、どんだけ怖かったか…」
「あぁ、あれは、やり過ぎだったよな? サンダル脱げて、靴下ボロボロになっちゃったもんな? 可哀想に。あのあと、こっぴどく叱っておいたから」
天誠が、あの山にいたところから、全部仕込みなのだと。今、気づいた。
いや、説明は受けていたから、初めて聞いたわけじゃないけど。
そういうことかと今、腑に落ちたというか。
それに、あのときの恐怖感とかぶり返してきて、紫輝はむきーっ、となって。
その憤りを、天誠のほっぺを両手で引き延ばすことで、解消しようとした。
「いひゃい、いひゃい」
「嫌い。天誠、チョー嫌いっ」
「怒らないで、紫輝。嫌いって言わないで。悲しくなるよ」
天誠は紫輝を胸に抱き込んで『ごめん、ごめん』と囁く。
紫輝は天誠の胸を拳でぽかぽか殴りながらも、彼のぬくもりに心地よさを感じていた。
紫輝のゴワゴワの黒髪を、天誠の指先が優しく撫でる。
幼い頃、両親が仕事で。帰宅が夜遅いとき。
紫輝と天誠とライラは、いつもくっついて寝ていた。
そのときみたいで、なんだか胸がくすぐったくなる。
淡い安心感に包まれているような、子供帰りした気分になった。
「嫌いじゃないよ。愛してる」
紫輝は顔を上げて、天誠の唇に唇をつけて、ちゅうと吸った。
別人になって、紫輝と愛し合いたかった。その天誠の気持ちは、わかるような、わからないような、なのだが。
それでも、紫輝を想ってしたことだし。
長い間、天誠を待たせてしまったのだから。
ちょっと怒っちゃったけど。いつまでも怒っていたくない。
「紫輝、ごめんな。必ず幸せにするから。俺の我が儘を許して」
いつも凛々しくて、自信に満ちている、天誠の端正な顔つきが。すがるような、許しを請う表情になっている。
そんな顔をさせたいわけではなかった。
でも紫輝は。天誠のそんな表情を引き出せる、唯一の人物で。紫輝自身、それを自覚もしている。
天誠には、余裕があり、威厳と気品に満ちた、あの、いつもの表情でいてほしい。
「許す。もう怒ってないよ…天誠」
紫輝は許すという意思表示で、口を開けて、天誠の深いキスを迎え入れる。
鼻から甘い吐息が漏れてしまうほどに、情熱的なくちづけを交わし。彼に身を委ねた。
そういえば、天誠と会う前。久しぶりだし、恋人的にどんな顔をすれば、とか意識しちゃってたけど。
普通に会話していたし、緊張もしなかったし、なんならチュウの催促とかしてる。
顔を合わせる前の方が、ドキドキして。初々しい気持ちが湧いちゃう感じだったな。
なんて、エロいキスをしながら、紫輝は考えてしまった。
「なぁ、兄さん。本当に、お風呂はひとりで入るの?」
紫輝の唇を舌先でくすぐり、乳首は親指で揉みながら。天誠は、あの大人の色気ダダ漏れの、魅惑の低音ボイスで聞いてくる。
「そこは…強引にいっていいんじゃない、かな?」
髪を切る前の話をしてくる天誠に。紫輝的には、あれは、拗ねた末の大人げない言動だったし。ひとりで入る気なんか、はなからなかったわけなので。むしろなかったことにしてくれればいいのに、って感じだった。
っていうか、ここまで人の体を煽っておいて、そんなこと言うなんて。意地悪だと思います。
「でも、兄さんに嫌われたくないし。嫌いって言われたばかりだし」
「もう、嫌いなんて言わない」
「ダメ。もっと弟を甘やかしてください」
あぁ、これは、兄の愛を試す、ウザ弟モードになっている。
こうなったら、天誠は。紫輝の愛情を確かめるまで、引かないのを知っている。
昔からウザ絡みしてくる、困った弟なのである。
「もう、こういうの、俺のキャラじゃないのにぃ」
羞恥心を押し殺し、紫輝は天誠の高い鼻梁を指先で撫で。鼻の頭にチュッと音を立てるキスをした。
「愛してるよ、天誠。俺をお風呂に連れてって」
仕方なさそうに。瞳を戸惑いに揺らし。でも恥ずかしさに頬を染めて。弟を満足させるべく台詞を考えただろう兄の、その愛らしい様子に。
天誠はメラッと燃えた。
天誠は紫輝を床に押しつけ、上から覆いかぶさって、がむしゃらにくちづける。
こんなに可愛くて、エロい生き物を目の前にして、我慢などできない。
紫輝も、天誠の激しいキスに、精いっぱい応えてくれる。経験が少ないのに一生懸命、弟に尽くそうとするその健気な感じが、天誠の恋心をかきむしってやまないのだ。
なんでこんなに、兄さんはツボを突いてくるのだろう?
神? 天使通り越して、神なの?
息を継ぐ合間に、悦楽に黒い瞳を潤ませた紫輝が。ちょっと舌足らずな感じで、言った。
「だ、ダメだよ。天誠、ライラに見られちゃうよ」
下半身に、ギュンと血が集まってくる。
天誠は奥歯を噛んで、燃え盛る情欲をおさえ込み。ニヤリと笑う。
「なんか、子供に情事を見られたくない、新米ママみたいな台詞だな」
「いいじゃん。ライラは俺の子供みたいなもんだし」
「いいや、ライラは紫輝の母親だ。ママだ。絶対。でも、ママにも見られたくないよな、この先は…」
素早く立ち上がった天誠は、横抱きにした紫輝に淫猥なキスをかましながら、風呂場へ向かうのだった。
千夜の昇進祝いの席で、したたかに酒を飲んだ男たちは。深い眠りについている。
前線基地には、各組ごとに、ひとつの宿舎が建てられていて。ひと班に、大部屋ひとつが割り当てられている。
大部屋といっても、およそ十人が横になれば、隙間がなくなるほどの部屋だ。
敵にみつかり、万が一、基地を放棄することになっても。建物を壊して、すぐに逃げることができるような、簡易な宿舎である。
大いびきが、ごうごうと響く中。紫輝は部屋を抜け出した。
未成年という意識は、この世界にはあまりないようなのだが。お酒を飲むのはまだ早い、と自主的に判断したのと。天誠に『絶対に飲むな』と事前に釘を刺されていたこともあり。紫輝は酒を飲まずにお茶を飲んでいた。
だから、素面である。
宴会が終わったあとの庭は、しんと静まり返っている。
慣れた足取りで、紫輝は基地の端である防御塀へと向かった。
もうランプをつけなくても、ここまで歩ける。
辺りを見回し。紫輝は、警備の兵や、以前みつかったことのある月光なんかがいないか確認すると、ライラを出した。
背中に背負った剣から、ライラはババーンと変化し。でっかくて白い猫の姿に戻る。
ビューティホーホワイトキャッツッ! 今日も素敵です。
普通なら、人語を解し、ライオンほどの大きさになってしまった妖猫を、飼い主であっても気味悪がるところだが。
猫バカで、物心ついたときから、ライラがそばにいた環境で育った紫輝は、そんなことはものともしない。
むしろ。二十一歳といった、猫にしては、ご長寿の部類に入り。病気がちで、今にも命が消えそうな状態を憂いていたから。
猫又になったことで、外見が変わろうが、言葉を話そうが。
元気で、生きていてくれる。ただそれだけでいいのだ。
それに。紫輝は。でっかいライラに抱きつくのが好きだ。
大きな肉球に顔を埋めれば、至福の心地。ぷにぷにすべすべが顔中にあるなんて、最高。
しかも、いい匂い。あぁ、たまらん。
龍鬼ということで遠巻きにされて、誰とも話せなくて寂しいときは、ライラが話し相手になってくれるし。紫輝にとっては、ライラが猫又であることは、なんのデメリットもなかった。
つか、でっかいライラが好きです。
「おんちゃん、あたしぃ、もうぽんぽんいっぱいよぉ」
ライラは起き抜けの猫がするように、手を前にギューッと伸ばす。
宴会の席で、仲間がおおらかな気を発していた。
その生気を、彼女がつまみ食いしていたのを、紫輝は知っている。
猫又になったライラの食事は、人間の生気である。
本来は、紫輝が発する生命力で賄えるくらいの、微々たる量で事足りるのだが。紫輝を守るため、ライラは敵の生気を吸い、相手を気絶させて倒してくれるのだ。
でも、今は戦闘状態じゃないし。食べなくてもいいんだけど。楽しい場の気は、ライラにとっては美味しい御馳走なのだ。
つまみ食いは、食べられた本人に自覚症状が出ないくらいのものだから。ま、いいんじゃね?
「ご飯じゃなくて。今日…会えそう?」
「あい。会いたいって、いっているわぁ」
口元のムニムニした部分を引き上げ、ライラはにっこり笑った。
「じゃあ、ライラ。連れて行って」
紫輝はライラの背中に乗って、塀を飛び越える。そして自分たちの家に向かった。
ライラが猫又として存在できているのは、時空を操る龍鬼の能力を持つ、自分のせいだと思う。
意識して、ライラを猫又にしている、なんてこともなく。
今のところ、能力自体、自分で行使できないのだけど。
でもライラは、紫輝がそばにいると元気になると言うので、完全に無関係ではないのだろう。
彼女に、長生きしてもらいたいと思う。自然の摂理を無視した、己の我が儘が、ライラの姿を変えてしまったのかもしれない。
そのことには、罪悪感がある。
普通の猫としての一生を、奪ってしまったことを。
それでも、彼女が『あたし、しあわせよ』と言ってくれるから。紫輝はその言葉に甘えるしかなかった。
天誠が用意してくれた『俺たちの家』には、久しぶりに行く。宿舎を抜け出したことが、千夜にばれてしまい、二週間ほどは自粛していたのだけど。
なんか、天誠に会いたくて、うずうずしている。
楽しみなんだけど、そわそわもしている。
久しぶりに顔を見られると思うと、緊張する、というか。
今更、弟の顔なんか見慣れている。でも。一応恋人だから。どきどきというか。あわあわというか。
そんなことを考えている間に、到着した。
家の中には、すでに明かりが灯り。玄関前で、天誠が立って待っていた。
「久しぶり、兄さん」
ライラの背中から、よじよじと降りた途端に。天誠に抱き寄せられて。頭をわさわさ撫でられた。
そのあと、ライラのことも同じように抱きついて、撫でてる。
あれ? 考えてたのと違う。色っぽくなーい。
別に、期待していたわけじゃないけどぉ。でもこれ、恋人扱いじゃなくて動物扱いじゃね?
いや、ライラも家族だよ。家族だけどねっ。
「兄さん、準備万端整っているよ。ご飯にする? お風呂にする? それとも、俺?」
天誠は紫輝の顔をのぞき込んで、あの、腰が震える美声で甘く囁いた。
でも、恋人扱い、遅いからね。完全に拗ねたからね。
「お風呂っ、ひとりで入る」
「色っぽくなーい。さすが兄さん」
不満げに言うが、クスクス笑いながら。紫輝の鼻を指でつまんだ。
「でも、髪が伸びてきているから、風呂の前に、髪を切ろうか」
紫輝は天誠に言われ、少し長くなった前髪を指でいじる。
彼が紫輝と会って、一番に髪をわさわさしたのは。髪が伸びているのが、気になったからみたいだ。
そういえば、四月にこの世界に来てから、一度も髪を切っていない。さすがに首の後ろとかうざったく感じてはいたのだ。
でも、髪の伸びた天誠がすごく格好いいから。紫輝は、自分も伸ばしてみたいなぁなんて、ちょっと考えていたんだけど。
「…この世界の人たちって、髪伸ばしている人、多いじゃん?」
「切るよ」
有無を言わせない迫力の笑顔で天誠に迫られ。紫輝はううっ、となる。
「でもぉ、赤穂が同じ髪質なんだけど。跳ねてないから。伸ばしたら真っすぐになるんじゃね? って思って」
「いいや、兄さんの髪はウェーブあるから、ワカメのっけたみたいになる」
「ワカメ!? ワカメかぁ…ワカメは嫌かなぁ。じゃあ…切るよ」
「…よしっ。…じゃあ、ここに座って」
思わず気持ちのこもった『よしっ』が出たあと。天誠は取り繕って優しい声を出す。
胸のうちでガッツポーズをしていたけれど。
この、はねた黒猫耳が可愛いのに、伸ばしたら垂れ耳になるじゃねぇか。
それも…可愛いけど。
でも、短髪な方が兄さんの快活さとか、愛くるしさとか、健康的だけどちょっと色っぽかったり、その他もろもろ表されてて、いい感じなのに。伸ばすとか言ってんじゃねぇ。
というのが、天誠の笑顔の向こうの本音であった。
天誠は、あの、なんでも出てくる不思議な黒マントから、ランプ二個を取り出して火をつけ、地べたに置く。そしてマントのフード部分を中に入れ込んで、紫輝の首に巻きつけた。
美容室なんかで、かけられるケープみたいになった。
なんか、本格的。至れり尽くせり。
でも、切る道具は、小刀だった。
「この世界の刃物は、切れ味がいいから、これで充分に髪を切れる。でも、動かないで」
確かに、ハサミじゃないから、動いたら首とか切れちゃうかもしれない。
ひえっ、となり。紫輝は、おとなしくジッとしていた。
「…もしかして、ご飯、用意してた? 今日は宴会だったから、いつもの食事以上に、干し肉とか、乾いた豆とか、いろいろ出たんだよ」
ジッとはしているけれど、暇だから、話はしてしまう。
そんな紫輝のことを、天誠は髪を切る手を止めないまま、クスっと笑って受け入れる。
「気にしなくていい。部下に分けるから。あとでスタッフが美味しくいただきました、ってやつだ」
「スタッフ! 天誠には、スタッフがいるんだな? すげぇな」
弟の出世というか。手助けしてくれる部下がいる、地位にいることを。素直に、無邪気に、紫輝は喜ぶ。
「宴会で。天誠が、千夜と戦った話を聞いたんだ。千夜が、二十四組に入る前だって。そんな前から、天誠がこの地にいたんだなぁって。改めて実感して。なんか、悲しくなった」
「俺はそのとき、紫輝は、俺と同じときに堕ちたと思っていた。手裏の龍鬼の中に、紫輝を探したが、いなくて。将堂にいる小柄な龍鬼とやらを、見に行ったんだ。で、龍鬼を呼び寄せるために、青髪を引き留めたわけ。ま、結局。紫輝じゃなかったから、がっかりしたんだが」
紫輝が責任を感じて、しんみりしちゃうから。天誠は、すかさず、別口に興味が向くよう、話を誘導する。
「青髪は当時、紫輝より弱かったぞ? チャンバラしたときの紫輝の方が、手強かった」
「ええ、そんなはずないよ。弱い千夜とか、考えられない。それに俺、初めての戦場で、動けなくなっちゃったヘタレだし」
「初めては、なんでも怖いに決まってる。兄さんは、よく頑張ったと思う。怖い思いさせて、ごめんね」
天誠は紫輝の頭のてっぺんに、チュッとキスして。黒マントを剥いで、切った髪をバサバサ地面に落とす。
「できた。俺の黒猫さん」
我ながら良い出来だと、天誠は自画自賛する。
後ろ髪は、短くしたから。首元があらわになって、うなじにキスしやすくなったし。
前髪はシャギーして、軽めの短めで。印象的な眼力(天誠には可愛く見えている)をさえぎらない。
横髪は、耳が隠れる程度で清潔感があり。
ゆるっとしたウェーブが、外はねしていて、猫耳みたいで可愛い。
とがった部分を、天誠はお約束で引っ張るが。
すぐに牙を剥いた紫輝が、手でおさえて直してしまう。
「やめろよっ。おまえだって今は黒髪なんだから、黒猫だ」
「俺はカラスさんだ」
「カラスじゃなくて…ハクトウワシだろ?」
紫輝はなんの気なしに、それが事実だと思って訂正したのだが。
天誠は苦笑いしている。なんで?
「紫輝も、カラスは嫌いか?」
すごく神妙な顔で聞かれるから。
紫輝は、天誠としっかり向かい合って、真剣に答える。
「初めに追いかけられたし、戦場で怖いから、苦手意識はあるけど…も、って?」
「カラスは、黒い羽が縁起が悪いと言われ、忌み嫌われている。一番、人口が多いんだけどな?」
「そういう苦手じゃない」
そもそも、紫輝は。龍鬼として、忌み嫌われる側だし。それで、不快な思いを散々している。
自分がされて嫌なことを、他人にするつもりはないし。
そういう意味合いで、手裏と戦っているわけでもない。
「元の時代でも、カラスは縁起が悪いと言われていて、それが今日まで踏襲されているのだろう。カラス血脈の者は、なんとか、排他される立場から逃れたいと思い、力を求めた。それが手裏軍だ」
「じゃあ、闇雲に、領土拡大したいから…ってわけじゃない?」
天誠はお兄さんの、眞仲の顔で。紫輝の頭をポンポンと撫でる。
「どちらにも、理由がある。メリットとデメリット。良い理由と悪い理由。争いで解決しようとするのも、野蛮だが。この世界では、そうするしかない事情もある。距離を置いて交渉する、通信手段がないからな。簡単に話し合いの場を設けて、などと将堂は言ってくるが。身の安全を確保できるとは、現状では到底思えない」
「あの…今、俺、将堂にいるからってわけじゃないんだけど。将堂の悪いところが思いつかなくて。話し合いで政治を進めるって、前の民主主義みたいじゃないか? 悪くないんじゃね? 天誠から見て、将堂の悪い部分ってなに?」
「力づくで攻めてきて、話し合いにも応じない手裏を、紫輝は横暴に感じることだろう。それは確かに、手裏の良くないところだ。しかし、黒だから悪、白だから善と決めつけてはならない。で、将堂の悪いところだが…ズバリ差別主義だ」
あぁ、と紫輝は納得してしまう。
戦とは直結していないように思え、深く考えなかったが。
龍鬼である紫輝は、将堂軍の中では、とにかく生きづらい思いをしている。
でもそれは、全国的なことだと思っていた。
だが、龍鬼だけでなく、血脈の差別もあるのだ。
希少種を優遇するというのは、その他の者を見下すということにもなりかねず。
宴会でも垣間見えた、右と左の対立などは、まさしくそれが一因のような気がするのだ。
「将堂では、カラスは下位の部類だ。将堂がこの地で覇権を握ったら、カラスは虐げられてしまう。今はそれに抗っているんだ」
「うーん」
将堂の『領地を守る』というのも正論だし。手裏の『人権を守る』も正論だ。
紫輝は、わからなくなる。
でもそこで、天誠がポンポンと、紫輝の頭をまた撫でた。
「この問題は、簡単に答えが出るものじゃない。ただ、互いに互いの正論があるということを、わかっていてくれ。紫輝は、俺たちが安全な環境で住むにはどうしたらいいか、今は、そのことを考えていて」
天誠は紫輝を立たせると、肩を抱いて、スマートに家へと誘導した。
紫輝は大きな体躯の天誠に、わざと体重をかけて寄り掛かる。力強く支えてくれるのが、頼もしくて、心地よくて。
なんだかフフッと笑みが出てしまう。
幸せなのだ。天誠とライラ…家族がそばに居てくれることが。
でもそこで、紫輝は気づく。
「あれ? ライラは?」
髪を切っている間、てっきり、そばに居るのかと思っていたが。ライラが見当たらない。
すると開けっ放しの玄関から、ちらりと、白くてふさふさのデカ尻尾が見えている。
「あぁ! 俺たちよりも先に家に入っているよ、ライラ。イケない子ちゃんめっ」
紫輝の、ライラへの悪態は、昔から『イケない子ちゃんめ』だった。
それじゃ、怒っているうちに入らないと、いつも天誠は思うのだけど。
敷居と尻尾をまたいで、紫輝が家に入ると、土間の部分でライラは寝ていた。
「ライラ、土間で寝たら汚くなるよ」
「夏は、ここがいちばん、ちべたくて、きもちいいのよぉ」
仰向けになったライラは、そこでウネウネと金魚体操し、背中を地べたに擦りつける。
あぁあ。
「早急に、ライラベッドを作ろう」
真剣な顔で天誠が言うので、紫輝もうんうんとうなずいた。
「コンクリ敷いたら、汚くならないし、夏も冷たい。けど、コンクリって、どうやって作るのかな?」
天誠がブツブツ言いながら考えている横で、紫輝はブーツを脱いで、小上がりになっている部屋に入る。
ライラが寝ている土間の近くで、ごろんと寝そべった。
新しく切り出した木材の香りがして、新築なのだと実感する。
「あぁ、マジすごいよ。俺たちの家だぜ。自室じゃなくて、家! 何度でも感動しちゃうなぁ」
「まだまだだぞ。兄さんが関東に帰ったあとも、会える家を用意するつもりだ。あと、いずれ、戦に巻き込まれないような場所に、頑丈な屋敷を建てる。しばらくは、こそこそしなければならないかもしれないが。戦が終結したら、一等地にでっかい家を建てよう」
「マジ? なんか夢が膨らむな。そんなの、ちょー楽しみ過ぎる。でも、将堂の本拠地近くに、黒の大翼の天誠がみつかったら…危ないんじゃないか?」
天誠の話は素直に嬉しいし、楽しみで、心躍るものなのだが。
心配でもある。
万が一、天誠が捕縛されたらどうしようって。複雑な心境で眉を歪める紫輝を。
天誠は紫輝の隣に横たわり、背後からやんわりと抱き締めた。
「領地といっても、しっかりと、黒と白に分かれているわけじゃない」
「でも、境界線があるじゃん?」
「それは、もちろん。だが、昔ながらの付き合いや取引がある庄屋…村長みたいな者は、中立という立場で、将堂、手裏、どちらとも商売をしている。たとえば、村で採れた野菜は、一部は所属する領主に税として納めるが。他はどこへ売ってもいいわけだ。それで、将堂の中にも、手裏寄りの村などがある」
十八歳の紫輝に理解してもらえるように、天誠はなるべく、噛み砕いて説明した。
「商売に国境はない、みたいな?」
「まぁ、検閲はあるんだけど。ベルリンの壁みたいに、境界線に、ずっと塀があるわけでもないから、抜け道はいろいろあるんだよ」
天誠は、髪を切ったことで目の前にさらされている、若木のごとき健康的な紫輝のうなじに、早速くちづけた。
「あぁ、ダメ。この前、千夜にキスマークみつかっちゃったんだよ」
紫輝は天誠の腕の中で寝返りを打って、彼と向き合って、寝転ぶ体勢に変えた。
「チッ、目ざといやつだな。わかった。痕はつけない。舐めたりかじったり、するだけだから」
そう言って首筋に顔を埋め、天誠は舌を這わせたり、耳をかじったりした。
キスマークは困るけど。
舐めたりかじったりも、体がジンジンしてきちゃうから、話ができなくて困る。
でも天誠は、紫輝が愛撫にもじもじしている中でも、淡々と話を進めていく。
「それで、俺たちが降り立った、あの場所なんだけど。あそこは元いた、俺たちが住んでいた家と同じ位置だ。あそこは将堂の領地内にあるが、手裏寄りの庄屋が管理する、なかなかレアな物件だ」
紫輝は、そういえば…と思い返す。
眞仲の山の家が、紫輝が降り立った場所だとして。そこから一日歩いた先に、将堂の本拠地があった。
少なくとも、あの場所は、関東圏ということだ。
そこに眞仲が居たということが、本来なら、危ない話だった。
「天誠、危ないじゃないか。なんであのとき、将堂の領地になんか、居たんだ?」
「もちろん、兄さんを迎えるために決まっている。あそこに、紫輝が戻ってくると思いついて、瀬来がいなくなったあと、即、あの家を買い取った。それから兄さんが現れるのを、指折り数えて待ったものだよ。でも、あたりはつけていた。俺は四月の夕方ごろ、この世界に来た。元の世界で手に掴まれたのも、そのくらいだったから、紫輝たちもそうだろうと。日時のズレは、多少あったものの、おおよそ当たっただろ? それに、今も言ったように、あそこは手裏寄り。あの山の中にいれば、そうそう将堂とはかち合わないから、心配無用だ」
鬱蒼とした木々が覆う、あの山が、自分たちが育った家の跡地だなんて。眞仲に保護された当時は、全く考えもつかなかった。
紫輝の家は、高台にある、閑静な住宅地にあった。
確かに、ちょっときつめの坂があったが。山の上に家が建っている、という意識ではなかったなぁ。
「そうか…あの家って、俺の生家でもあったんだよな。天誠は知ってんだよね? 俺の父さんが、そのぉ…」
「赤穂だって? 瀬来が子供を預かるなんて、あいつのしかねぇだろ」
話しながら、天誠は紫輝の軍服の前を開き、胸を舌でたどっていく。
些細な感触が、乳首をかすめた途端に、ソワリと、性感に代わる。
「ん…でも月光さん、子供が大好きだって…」
「赤穂の子供だから、愛情も人一倍だったんだろう。それに…紫輝の…紫月について、暴漢と話していた」
重要な事柄だから、天誠からもたらされる気持ち良い熱が、一瞬サッと引いたように感じた。
「暴漢って、俺を殺そうとした? なんて?」
「剣を振り上げた男に、瀬来は『やめろ、僕の息子だ』と叫んだ。暴漢は子供が消えたあと『おまえのじゃない、赤穂の子だ。おまえほどの才人が、将堂家から龍鬼を出すわけにはいかないと、なぜわからない?』と」
「…その感じだと、月光さんは暴漢と顔見知りみたいだね」
「そうだな。暴漢は将堂家の者なんだろう。ならば、将堂の宝玉と呼ばれた瀬来が、知らない者ではないな」
真面目な話なのに、天誠は紫輝の乳頭を立たせるようにねっとりと舐め、硬い芯が通ってくると、起こすように舌先で弾くようにつつく。
「は、それが誰かは、お、教えてもらえなかった。ん、母さんの、こと、も…」
月光は、まだ重要ななにかを隠しているんだなと、紫輝は感じた。
でも、僕の息子だと言って、守ろうとしてくれた。そのことは、胸の奥がぽかぽかと温かくなるくらい、嬉しいことだった。
「…あの山の家を、手直しすれば。冬の間、紫輝と居られるな」
天誠は愛撫の手を止めず、紫輝の背中や臀部を撫でながら、口は乳首から離さなかった。
右の乳首を存分に感じさせたあと、左の乳首の攻略を開始する。
紫輝はもう、充分に官能を甘受していた。
「ふ、でも、あの山、あ、手裏兵がうようよ、ん、してた、じゃん?」
「それは、俺の命令だから。スタッフさんだよ。だから、俺の命令でスタッフ払いもできる」
天誠の言葉を聞き。
紫輝は、はぁ? となった。
のぼせそうになっていた頭が、キンと冷えたよ。
「おまえ、俺があのとき、殺されそうになって、どんだけ怖かったか…」
「あぁ、あれは、やり過ぎだったよな? サンダル脱げて、靴下ボロボロになっちゃったもんな? 可哀想に。あのあと、こっぴどく叱っておいたから」
天誠が、あの山にいたところから、全部仕込みなのだと。今、気づいた。
いや、説明は受けていたから、初めて聞いたわけじゃないけど。
そういうことかと今、腑に落ちたというか。
それに、あのときの恐怖感とかぶり返してきて、紫輝はむきーっ、となって。
その憤りを、天誠のほっぺを両手で引き延ばすことで、解消しようとした。
「いひゃい、いひゃい」
「嫌い。天誠、チョー嫌いっ」
「怒らないで、紫輝。嫌いって言わないで。悲しくなるよ」
天誠は紫輝を胸に抱き込んで『ごめん、ごめん』と囁く。
紫輝は天誠の胸を拳でぽかぽか殴りながらも、彼のぬくもりに心地よさを感じていた。
紫輝のゴワゴワの黒髪を、天誠の指先が優しく撫でる。
幼い頃、両親が仕事で。帰宅が夜遅いとき。
紫輝と天誠とライラは、いつもくっついて寝ていた。
そのときみたいで、なんだか胸がくすぐったくなる。
淡い安心感に包まれているような、子供帰りした気分になった。
「嫌いじゃないよ。愛してる」
紫輝は顔を上げて、天誠の唇に唇をつけて、ちゅうと吸った。
別人になって、紫輝と愛し合いたかった。その天誠の気持ちは、わかるような、わからないような、なのだが。
それでも、紫輝を想ってしたことだし。
長い間、天誠を待たせてしまったのだから。
ちょっと怒っちゃったけど。いつまでも怒っていたくない。
「紫輝、ごめんな。必ず幸せにするから。俺の我が儘を許して」
いつも凛々しくて、自信に満ちている、天誠の端正な顔つきが。すがるような、許しを請う表情になっている。
そんな顔をさせたいわけではなかった。
でも紫輝は。天誠のそんな表情を引き出せる、唯一の人物で。紫輝自身、それを自覚もしている。
天誠には、余裕があり、威厳と気品に満ちた、あの、いつもの表情でいてほしい。
「許す。もう怒ってないよ…天誠」
紫輝は許すという意思表示で、口を開けて、天誠の深いキスを迎え入れる。
鼻から甘い吐息が漏れてしまうほどに、情熱的なくちづけを交わし。彼に身を委ねた。
そういえば、天誠と会う前。久しぶりだし、恋人的にどんな顔をすれば、とか意識しちゃってたけど。
普通に会話していたし、緊張もしなかったし、なんならチュウの催促とかしてる。
顔を合わせる前の方が、ドキドキして。初々しい気持ちが湧いちゃう感じだったな。
なんて、エロいキスをしながら、紫輝は考えてしまった。
「なぁ、兄さん。本当に、お風呂はひとりで入るの?」
紫輝の唇を舌先でくすぐり、乳首は親指で揉みながら。天誠は、あの大人の色気ダダ漏れの、魅惑の低音ボイスで聞いてくる。
「そこは…強引にいっていいんじゃない、かな?」
髪を切る前の話をしてくる天誠に。紫輝的には、あれは、拗ねた末の大人げない言動だったし。ひとりで入る気なんか、はなからなかったわけなので。むしろなかったことにしてくれればいいのに、って感じだった。
っていうか、ここまで人の体を煽っておいて、そんなこと言うなんて。意地悪だと思います。
「でも、兄さんに嫌われたくないし。嫌いって言われたばかりだし」
「もう、嫌いなんて言わない」
「ダメ。もっと弟を甘やかしてください」
あぁ、これは、兄の愛を試す、ウザ弟モードになっている。
こうなったら、天誠は。紫輝の愛情を確かめるまで、引かないのを知っている。
昔からウザ絡みしてくる、困った弟なのである。
「もう、こういうの、俺のキャラじゃないのにぃ」
羞恥心を押し殺し、紫輝は天誠の高い鼻梁を指先で撫で。鼻の頭にチュッと音を立てるキスをした。
「愛してるよ、天誠。俺をお風呂に連れてって」
仕方なさそうに。瞳を戸惑いに揺らし。でも恥ずかしさに頬を染めて。弟を満足させるべく台詞を考えただろう兄の、その愛らしい様子に。
天誠はメラッと燃えた。
天誠は紫輝を床に押しつけ、上から覆いかぶさって、がむしゃらにくちづける。
こんなに可愛くて、エロい生き物を目の前にして、我慢などできない。
紫輝も、天誠の激しいキスに、精いっぱい応えてくれる。経験が少ないのに一生懸命、弟に尽くそうとするその健気な感じが、天誠の恋心をかきむしってやまないのだ。
なんでこんなに、兄さんはツボを突いてくるのだろう?
神? 天使通り越して、神なの?
息を継ぐ合間に、悦楽に黒い瞳を潤ませた紫輝が。ちょっと舌足らずな感じで、言った。
「だ、ダメだよ。天誠、ライラに見られちゃうよ」
下半身に、ギュンと血が集まってくる。
天誠は奥歯を噛んで、燃え盛る情欲をおさえ込み。ニヤリと笑う。
「なんか、子供に情事を見られたくない、新米ママみたいな台詞だな」
「いいじゃん。ライラは俺の子供みたいなもんだし」
「いいや、ライラは紫輝の母親だ。ママだ。絶対。でも、ママにも見られたくないよな、この先は…」
素早く立ち上がった天誠は、横抱きにした紫輝に淫猥なキスをかましながら、風呂場へ向かうのだった。
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