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エピローグ テオ・ターン 最終回
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◆エピローグ テオ・ターン 最終回
勇者一行は、つつがなく魔国に入国し。現在は辻馬車を借り切って、魔王城へと向かっているところだ。
途中、宿屋や。川辺などで野宿しながら。魔国の民の様子や、その暮らしぶりなど。俺は村人Aの役割として、情報収集をしていたのだが。
その報告を、馬車の中でみんなに共有する。
「およそ、百年ほど前に、勇者が魔王と懇意にしたことがあって。それからは『勇者と聞いても、無闇に攻撃を仕掛けてはいけません。それは魔王のお友達かもしれません』という旨が、魔国中に周知徹底されているみたいだ」
勇者と魔王がお友達になった、なんて話は。俺は聞いたことがなかったので。驚いたのだが。
魔国では、結構有名な話で。
村人にもらった旅のお守りなるものも、その勇者が流行らせたものだというのだ。へぇ?
「それから近頃の魔国は、近隣諸国と融和がはかられていて。人族の国の商人も多く出入りしているんだって。モヨリ町で食べたっんももって果実も、魔国が原産らしいよ?」
「そうなのか? 知らなかったなぁ」
俺の報告に、サファは驚きつつも、首をひねる。
良い関係を保つ国に、喧嘩を仕掛けるような真似をして良いのだろうかと。ちょっと迷っているようだった。
「たとえば、俺らのすることで、大きな戦争とかになったら、嫌だよな? 戦争になれば、多くの死者が出て、俺はさすがに、その大勢を助けることはできないだろう。テオの言葉が嘘とは言わないけど。その情報が、本当なのか。それも含めて。慎重に見極めて。できれば穏便に話し合いで解決出来たら、良いよな?」
サファは、年長のクリスに聞き。彼がそれにうなずく。
そうして、おおよその方針が決まり。
いよいよ、俺たち勇者一行は、魔王城へと入っていくのだった。
★★★★★
馬車から見えた魔王城は、メガラスという大きな魔鳥が辺りを旋回する、いかにもおどろおどろしい、塔が何本も建つ縦長の城だった。
魔王城の全景が見える、城門の前で、辻馬車を降り。城門の警備をする魔族に、サファは名乗りを上げた。
「俺は勇者サファイア。魔王にお目通りを願いたい」
すると、頑丈な城の門が、ガガッと開いて。
その先に、長い黒髪をポニーテールにしている。横に大きなツノがガッと出た、いかにも最高司令官という強者のオーラを放つ騎士が、立っていた。
その、おさえていてもひしひし迫る大きな魔力を感じ取って。サファも、仲間も、無意識に戦闘態勢になったが。
「勇者一行がこちらに向かっていることは、報告に上がっていた。魔王が謁見に応じると言っている。こちらへどうぞ」
黒い騎士服をまとった彼は、必要最小限の言葉をつむぎ、きらびやかな馬車を手で示した。
拍子抜けしつつも、俺たちはそこへ乗り込む。
「テオが言ったように、攻撃の気配があったら、すぐに反撃をすればいい。みんな、油断するな? テオは俺のそばから離れるなよ?」
馬車に乗ったサファが、小声でそう言い。仲間はみんな、うなずくのだった。
それで、馬車に三十分ほど揺られ、魔王城の入り口に到着した勇者一行は、黒い騎士の案内で謁見の間に通された。
謁見の間は、柱や床がクリスタルで作られている。透明なガラスのようにも見えるが。鑑定では、クリスタルと出ている。
マジで、コレ、全部宝石でできているの? どんだけお金持ちなの? 魔王。
そして正面に階段があって、その上に魔王が座る玉座があるのだが。
その魔王の椅子に座っているのは。
なにやら、もっちりとふくよかな、お子様なのだった。見た感じ、十歳くらい?
ほっぺがふくふくしていて、ほっぺの肉に目が埋もれて、糸目。そしておちょぼ口で。なんか、村人にもらった旅のお守りに造形が似ているのだ。
でも、髪がピンクのボブカットだけど。
「ぼくが魔王のマミでぇす」
玉座にいるお子様は、魔王だと宣言すると、口をへの字にして、鼻で息をフンとつくのだ。
つか…俺は。言わずにはいられなかった。
「無理だっ、あんな、まぁるいお子様に剣を向けちゃ、いけないよサファっ」
「しかし、アレが魔王なのだろう? あの無害なフォルムに騙されるな、テオっ」
そうだ、鑑定すればいいんだ。それで、あのお子様が何者か、どれだけの能力を有しているのか、わかる。
マミ・ドラベチカ 種族:魔族
職業:魔王の三男
スキル:風魔法Lv.30
炎魔法Lv.2
備考:ラブレスの呪い持ち
「サファ、この子、魔王の三男だって。魔王じゃないよ? 風魔法もレベル30だよ、この子に攻撃したら、弱い者いじめになっちゃうよ?」
俺がそう指摘すると、マミは、なんでそれを…というリアクションをする。
「いかにも、ま、ま、魔王の三男ですけどぉ? つか、勇者よ。要件をお聞きしよう」
ムフンと笑って、マミは続けようとする。
え、続けるの?
「俺は、魔王に話があるのだが? まぁ、いい。では、魔王の三男よ。我が国の王が、魔王に囚われた大妖精の開放を要求している。その話を聞き入れる気はあるか?」
「だ、だいようせい?」
「あぁ、大妖精だ」
「だいようせいぃぃ??」
ピンクボブは、ズモモッと意味深に凄んで見せるが。
ピョッと、ない首を傾げ。しばらくして、オロオロと頭を振って。への字口をワナワナさせた。
こ、これはっ。
「ははうえーっ、だいよーせーって、なぁにぃぃぃ?」
泣きそうになりながら、母を呼ばわるのだった。
これは、泣きべそな御子様だっ。
「もう、だから言ったでしょう? マミには、まだ魔王は早いってぇ。魔王は威厳と気品。それが大事ですよ?」
そう言って、舞台の端から出てきたのは。
キラキラ輝く、細かいウェーブの赤い長髪に、極彩色の羽がふわりんとそよぐ、一目見てタダモノではないとわかる人物だ。
たぶん、保護対象の、大妖精?
そう思って、鑑定したら。俺は驚愕して、声を失った。
「あなたが、王がお探しの、なんでも望みを叶えるという大妖精ですか?」
マミが母と呼ぶので、彼女? でも声は男性だから、彼? 性別はわからないが。
細長い楕円形の羽が何枚もある、軽やかに飛んでいるこの人が、大妖精だと思って。サファは、声をかけるけど。
違うの、違うの。
あれ、ヤバいやつだよぉ。
と思って、震える手で、サファの服を掴んだ。
「サファ、違うの。あれ、大妖精じゃなくて…」
ブルブルする俺を、いぶかしげにサファは見やるが。
答えは彼が言ってくれた。
「大妖精? 違いますよぉ。ぼくは熾天使サリエル。そして、創世神でもあります。ぼく、この世界を作っちゃいましたぁ」
創世神サリエルは、ハージマのような小さな村でも、絵本が出回っているくらい。とっても古いが、みんなが知っているおとぎ話だ。
普通なら、誰かが創世神を名乗っても、みんな相手にしないだろうが。
俺の鑑定でも、そう出ている。
サリエル・ドラベチカ 種族:熾天使サリエル
職業:魔王の伴侶、魔王の三男、創世神。旅の安全守ります、もっちり天使サリエルの本尊。
スキル:鑑定不能
鑑定不能は、俺の場合、よっぽど測り知れない能力か、レベルをカンストしているときにしか出てこない。
つまり、この天使は。
前世などで、チートな漫画や小説を見てきた俺でも、想像しえない、大きな能力を持っているということになる。
勇者のサファでさえ、俺は鑑定できるというのに。それ以上、ということだ。
サファたちは、信じられないっという顔で、俺を見るが。鑑定でも偽りなしと、うんうんうなずくと。
えぇぇ? って顔になった。
「あなたたちは、ヘルセリウム国の勇者御一行ですか? はたまたご苦労様ですぅ。あの王様、ぼくのことを手に入れたいらしくてぇ、勇者が生まれると、すぐに送り込んでくるんですよ。でも、ぼくは。魔王妃なのです。そしてこの子は、ぼくの御子のマミです」
サリエルは、マミを手で示して紹介し。ピンクボブは胸を張るつもりで腹を出した。
「そうです。ぼくは、ただのまぁるいお子様ではありませんっ。呪いをかけられて、このような見た目であれど。御年103歳なのですっ」
あのピンクボブが、103歳なのは驚きだ。
どう見ても十歳前後の御子様で。足も、椅子から地についていないし。
さっき泣きながら母を呼ばわっていたんですけど??
でも、本当に103歳なのだとしたら。魔王の三男で、あの低レベルスキルはあり得ないかも。もしかしたら十歳相当で、呪いとやらに、成長も止められているのかもな?
「勇者一行、謁見に遅れてすまなかった」
突然、ビリッと響くような美声と、強大な魔力をまとう御仁が登場し。サファが本能的に身構える。
藍色の長い髪に、何重にも巻いた大きなツノ。
年齢は四十代くらい、かな? 魔族は、見た目年齢は当てにならないけど。
ダンディな渋さの中に、誰もが目をみはる美貌。
なにも言う必要はない。その威厳と気品、気配だけで、魔王とわかる。
魔王は、マミをひょいと玉座から摘まみ上げ。腕に乗せると。玉座に腰かけた。
「マミが一度、魔王をやってみたいというのでな? 親バカな魔王だと思って、不敬を許してくれぬか?」
「はぁ、それはいいですけど。あの、この方が、次期魔王ですか?」
サファは、魔王の気迫に物怖じすることなく。聞きづらいことを聞いた。
それ、聞くぅぅぅ?
「いや、優秀な長男がいるのでな。まぁ、この先のことは、どうなるのかわからぬ…マミも、ワンチャンあるかもしれぬよ?」
魔王は、言い訳のように、マミに言い。マミはムフンと満足そうに鼻で息をつくが。
いや、って言ったよね?
そこは華麗にスルーして、サファは魔王に問いかけた。
「私は、ヘルセリウム国の王に、魔王に囚われた大妖精を救うよう、命じられましたが。魔王城に大妖精はいない。そして、奥方は囚われているのではなく、望んで魔王に嫁がれた、ということでよろしいか?」
それに答えたのは、頬を手で揉むサリエルだった。
「はいっ。百年以上前から、ぼくは魔王の、お、お、奥さんでぇす」
あの照れ照れした様子から見て、本当に、無理やりという感じはなさそう。
俺たちは、拍子抜けしてしまった。
王様、話が違いますっ。
てか、スキルが鑑定不能な彼が、囚われるなどということが、まず、ありえないのだった。
サリエルの言を受け、魔王が俺らに目を向けて、告げる。
「話が早くてありがたい、勇者よ。ヘルセリウム国の王は、我が妻を、なんでも望みを叶える者だと思っているようだが、そのようなことはない。逆に、魔王の敵と判断されたなら。自然災害級の災いが国に及ぶと、認識を新たにしてもらいたい。勇者よ。できうるならば、ここは穏便に引いてもらい。国王にその旨を伝えてはもらえまいか? 我ら魔国の民は。人族との争いを望まぬ。現在は人族の商人とも懇意にしており、平和な状態なのだ」
俺は。小さい村の出身で、その村からも出たことがなかった。
ヘルセリウム国の国王も見たことはないし。
魔王を。いや、言うなれば、魔族を見たのも、今回がはじめてだ。
それでも、わかることは。
うちの国王はダメで。魔王は話の通じるいい人。ということかな?
それに、魔王がマミを抱えて、それに寄り添うサリエル。その三人の光景が。いかにもラブラブなご家族という感じで。
魔王とサリエルを引き離すなんてことになったら、それこそ、こちらが極悪人ではないか?
つか、鑑定不能のサリエルを、いかな勇者とて、引きずっていくことはできない。
「うーん、それは無理かな?」
しかしサファは、魔王の提案を拒絶した。
えええぇぇ? サファっ、魔王とやるの?
つか、魔王よりサリエルの方がヤバいよ? 創世神だよ? 神だよ? 無理だよぉぉぉ。
「国王がお探しの大妖精は存在しない。なので、俺にはもう戦う理由はないのだが。うちの国王、ちょっと頑固ジジイだからさ。大妖精、いませんでしたぁ。魔王も倒しませんでしたぁ、って言ったら。投獄されちゃうかもしれないじゃん? だから、魔王の言ったことを国王に伝えるのは、無理です。まぁ、伝えるだけ伝えて、捕まっても、逃げるのは簡単でしょうけど。少なからず被害は出ますからね。だったら、王都には戻らない方がいいでしょ?」
俺は、すっごい、ドキドキしちゃったが。
サファは魔王と、一戦交えないみたい。
ホッ。いかに魔剣があろうとも。無理な空気がひしひしするからねっ。
魔王とサリエルも、もちろんヤバいが。
案内役の黒騎士も。姿は見せないが、舞台の袖で見守っているらしい御付きの方も。魔王の周囲には、魔王に準じる強大な魔力を持つ者が大勢いる。
あまりにも簡単に、魔国に入国できて。あまりにも事無く、魔王城まで到達し。あまりにも無防備に、勇者を魔王城の中に引き入れた。ように見えていたが。
そんなことはなかったのだ。
魔王城の警備体制は万全である。
たとえサファが稀代の勇者であろうとも。魔王級の実力者を、何人も相手にはできないだろう。
つまり、勇者一行は太刀打ちできないってことだ。
「ですよねぇ? 歴代の勇者にも、そういう理由で断られました」
目がつぶれそうなほどに美しいお顔立ちなのに、サリエルは眉を八の字にして、悲しそうにつぶやいた。すみません。
「勇者は、この星の自浄作用的な役割があります。増えすぎた魔獣を駆除したり、強力になり過ぎた悪人を滅ぼしたり。つまり、勇者はこの星に必要で、簡単には失えない、逸材です。国に帰れば、身動きできなくなるというのであれば、そこに帰れと言うことはできません。勇者、サファイア。国王に従うばかりではなく、この星のために勇者として尽力してくださいませ」
サリエルに、なんか、すっごく大きな話をされて。
俺も、サファも、仲間も、圧倒されてしまった。
星単位、とはね。
でも。なんか、わかる。
サファには。ヘルセリウム国だけでは、きっとフィールドが小さすぎるのだ。
この星、と言われると。なんか、大仰だけど。
国とか関係なく、困った人をサファは助けに行くのではないかな?
「そうします。俺は俺のできることをしていく。テオと一緒に。な?」
「うん。一緒に行くよ、サファ」
俺はもちろん、彼についていくつもりだったから。うなずくと。
サファは嬉しそうに笑った。
「よし。じゃあ、勇者一行は魔王城を退散するか」
みんなにも、サファは笑みを向けるが。
「しばし待たれよ。勇者、その魔剣はずいぶん禍々しい気を放っているが。私が預かろうか?」
魔王にそう言われ、サファは魔王にも笑みを向けた。
「え? そう? それは嬉しい提案だな」
でも、そのとき。魔剣がサファの腰でガタガタっと震えた。
「魔王、魔剣が話したいことがあるという。抜剣を許してもらえるか?」
サファの問いに、魔王はうなずき。サファは魔剣を抜いた。
「ちょっとっ、魔王。あんた、このピュアっ子の天使ちゃんと、エロエロ勇者がするようなぐっちょぐちょのセックスが出来んのっ? あたしはエロパワーがないと、いっやっ!!」
魔剣がオネェ言葉でベラベラッとしゃべるのに。
サリエルは頬を真っ赤にして、セッ、セッ、と声を詰まらせていた。
その妻の様子を見て。魔王は首を振る。
「すまない、勇者よ。私はバリバリの現役であるが、うちの妻は百年以上連れ添い、八人も子を成したというのに、セックスと言えないピュアっ子ゆえ、そのエロ魔剣の管理は、エロ勇者にお任せしよう」
「おいっ」
思わず、サファが魔王にツッコんだ。まぁ、気持ちはわかる。
「じゃ、今度こそお暇するぞ」
サファは魔剣を鞘に納めて。仲間とともに謁見の間を後にした。
まぁ、戦闘もなく、被害者もいなかったわけだから、良かった。で、いいのかな?
★★★★★
魔王城を出ると、行きに乗ってきた馬車が止まっていて。そのきらびやかな馬車で、国境まで乗せていってくれるという。
至れり尽くせりだな?
というわけで、勇者一行は馬車に乗り込み。今日泊る宿屋までの道すがら、今回の旅の総括をするのだった。
「魔王、良い人だったね? 話が通じて、良かったよ」
馬車に揺られながら、俺はサファに言う。
「こちらに敵意がなかったからだ。魔族の敵であれば、俺たちは容赦なくやられていただろう。今の魔王は冷徹で残忍だという噂だ。サリエルも含めて、触らぬ神に祟りなし、というところか」
肩をすくめて、サファは話を続けた。
「何百年か前の話だが、魔王妃を殺された魔王は、国をひとつ滅ぼしたという。先ほどの魔王は、その類だと思うな?」
俺は首を傾げた。だってその話、魔王悪くなくね?
「でも、それって。残忍なのかな? 奥さん殺されたら、そりゃあ怒るんじゃない? サファはどう?」
「俺? あぁ、滅ぼす滅ぼす。テオを殺されたら、敵の血を一滴も残さぬくらいに細切れにして、辺りを死の荒野にして、星も真っ二つにして、すべて滅ぼしてやる」
笑顔ながら、あまりにも残忍なサファの答えに、俺は引いた。いや、みんなドン引きだ。
質問を間違えてしまったようだな。
つか、おまえ、勇者じゃなくて魔王なんじゃね?
「星を真っ二つにするのはよせ」
とりあえず、忠告しておいた。創世神サリエルに怒られちゃうよ。
「つか、魔王の人柄はさておいて。国王に嘘つかれた。あのジジイ、信じらんねぇ」
ぶすくれワンコ勇者に、イオナがおっとりと告げた。
「でも、国王様は本当に、なんでも望みを叶える大妖精がいると信じているのかもしれませんわよぉ? だって、たぶん。誰も間違いを正していないのですものぉ」
イオナの話は、無きにしもあらずで。みんながうなずく。
サリエルも、歴代の勇者たちに断られたと言っていたからな。
きっとサファの前任勇者も。魔王討伐の旅のあと、国を捨てて、どこかへ行ってしまったのだろうな?
なぜ勇者が戻ってこないのか、ちょっと考えろや国王。と、思わないでもない。
「しかし、私たちの師匠は、前の勇者さまではないのですか?」
クリスの問いにはサファが答える。
「勇者は勇者だが。師匠は、他国の勇者だったから。ヘルセリウム国王の依頼は受けていないらしいよ? 世直し道中の最中にスカウトされて、年も年だったから国に腰を落ち着けるつもりで、勇者育成のスカウトを受けたって言ってた」
馬車の中に、ふーん、という納得の空気が流れた。
「それで、サファイアさま。これからどうするのですか?」
ユーリが今後のことについて、サファにたずねる。
みんなも、そのことを聞きたいようで。対面に座る三人が、ジッとサファをみつめた。
「魔王に言ったように、魔王を倒さなかったから国には戻れないけど。とりあえず、しれっとハージマに戻って、テオと結婚式をあげようと思っているっ」
拳を握って、サファは力説するが。
いや、クリスたちが聞きたいのは、そういうことじゃないと思うよ?
「そのあと、国王から追手がかかる前に、どこか旅に出よう。テオの、実家のパン屋を継ぐ夢は。叶えてあげられなくて申し訳ないけど。いつか、どこかの国でレストランを開こう。資金は潤沢だからな?」
「それは、いつかで良いよ。創世神が言ったように、サファは勇者として人々を助けていきたいんだろう? 俺はサファに付き合う。どこでも、サファと一緒なら、俺は幸せだよ?」
「テーオー」
嬉しさを目いっぱい表現して、サファは満面の笑みで俺をムギュっと抱きしめた。
「私たちも、お供させてくださいませ? 私たちは最強のパーティーでしょう? みんなで魔獣を駆除しながら、あちこち旅をしたいですわぁ?」
イオナの言葉に、みんながうなずき。
当面の方向性は決まった。
「それは、あたしも賛成よぉ? こんな最強のエロパーティーは滅多にお目にかかれないもの。常にエロゲージが満タンで、あたしは最高に幸せなのよぉ?」
しかし、魔剣がそういうことを言うものだから。
魔剣にエロパーティー認識をされた俺たちは、なんとも言えない気まずい空気を醸すのだった。
「ま、俺らが若いうちはいいけどさ。サファがお爺ちゃんになったら、この魔剣、どうすんの?」
俺がつぶやくと。サファは答える。
「ジジイになっても、俺はメキメキだ。魔王には負けねぇ」
真顔でサファは、そういう残念エロワンコ発言をする。
もう、そこ、魔王と張り合うところじゃないからねっ?
「でも、まぁ。ある程度、年を取ったら。次代の勇者に下げ渡せばいいんじゃね? 勇者は代々絶倫らしいから」
あぁ、という目で。クリスたちに見られ。サファはさすがに手を横に振った。
「いや、俺は普通だが」
「「「「「いやいやいや」」」」」
クリスたちと俺、さらに魔剣にまでツッコまれるサファだった。
まぁ。魔王討伐の、この旅は。甲斐なく終わってしまったが。
俺はサファと、じっくりと心を交わすことができて。己の気持ちにも素直になれて。
サファと愛し合うことができるようになったから。
悪くない旅路だった。って思おう。うん。
そのとき、馬車がガタンと大きく揺れて。俺はサファの膝の上に倒れ込んでしまう。
つか、彼の股間に、もろ、顔を突っ込んでしまった。
「わぁ、ラッキー」
サファは喜んじゃって。俺を助け起こしはするけど。さらにギュギュっと抱きつかれて。
やーめーろー。
あれ? つか。こういう場面では、必ずラッキースケベのレベルが上がる音が聞こえるのだが。そういえばこの頃、聞かないなぁ。と思って。
サファを鑑定してみたら。
ラッキースケベのレベルが鑑定不能になっていた。
え? いつの間にか、カンストしてた?
マジか??
end
勇者一行は、つつがなく魔国に入国し。現在は辻馬車を借り切って、魔王城へと向かっているところだ。
途中、宿屋や。川辺などで野宿しながら。魔国の民の様子や、その暮らしぶりなど。俺は村人Aの役割として、情報収集をしていたのだが。
その報告を、馬車の中でみんなに共有する。
「およそ、百年ほど前に、勇者が魔王と懇意にしたことがあって。それからは『勇者と聞いても、無闇に攻撃を仕掛けてはいけません。それは魔王のお友達かもしれません』という旨が、魔国中に周知徹底されているみたいだ」
勇者と魔王がお友達になった、なんて話は。俺は聞いたことがなかったので。驚いたのだが。
魔国では、結構有名な話で。
村人にもらった旅のお守りなるものも、その勇者が流行らせたものだというのだ。へぇ?
「それから近頃の魔国は、近隣諸国と融和がはかられていて。人族の国の商人も多く出入りしているんだって。モヨリ町で食べたっんももって果実も、魔国が原産らしいよ?」
「そうなのか? 知らなかったなぁ」
俺の報告に、サファは驚きつつも、首をひねる。
良い関係を保つ国に、喧嘩を仕掛けるような真似をして良いのだろうかと。ちょっと迷っているようだった。
「たとえば、俺らのすることで、大きな戦争とかになったら、嫌だよな? 戦争になれば、多くの死者が出て、俺はさすがに、その大勢を助けることはできないだろう。テオの言葉が嘘とは言わないけど。その情報が、本当なのか。それも含めて。慎重に見極めて。できれば穏便に話し合いで解決出来たら、良いよな?」
サファは、年長のクリスに聞き。彼がそれにうなずく。
そうして、おおよその方針が決まり。
いよいよ、俺たち勇者一行は、魔王城へと入っていくのだった。
★★★★★
馬車から見えた魔王城は、メガラスという大きな魔鳥が辺りを旋回する、いかにもおどろおどろしい、塔が何本も建つ縦長の城だった。
魔王城の全景が見える、城門の前で、辻馬車を降り。城門の警備をする魔族に、サファは名乗りを上げた。
「俺は勇者サファイア。魔王にお目通りを願いたい」
すると、頑丈な城の門が、ガガッと開いて。
その先に、長い黒髪をポニーテールにしている。横に大きなツノがガッと出た、いかにも最高司令官という強者のオーラを放つ騎士が、立っていた。
その、おさえていてもひしひし迫る大きな魔力を感じ取って。サファも、仲間も、無意識に戦闘態勢になったが。
「勇者一行がこちらに向かっていることは、報告に上がっていた。魔王が謁見に応じると言っている。こちらへどうぞ」
黒い騎士服をまとった彼は、必要最小限の言葉をつむぎ、きらびやかな馬車を手で示した。
拍子抜けしつつも、俺たちはそこへ乗り込む。
「テオが言ったように、攻撃の気配があったら、すぐに反撃をすればいい。みんな、油断するな? テオは俺のそばから離れるなよ?」
馬車に乗ったサファが、小声でそう言い。仲間はみんな、うなずくのだった。
それで、馬車に三十分ほど揺られ、魔王城の入り口に到着した勇者一行は、黒い騎士の案内で謁見の間に通された。
謁見の間は、柱や床がクリスタルで作られている。透明なガラスのようにも見えるが。鑑定では、クリスタルと出ている。
マジで、コレ、全部宝石でできているの? どんだけお金持ちなの? 魔王。
そして正面に階段があって、その上に魔王が座る玉座があるのだが。
その魔王の椅子に座っているのは。
なにやら、もっちりとふくよかな、お子様なのだった。見た感じ、十歳くらい?
ほっぺがふくふくしていて、ほっぺの肉に目が埋もれて、糸目。そしておちょぼ口で。なんか、村人にもらった旅のお守りに造形が似ているのだ。
でも、髪がピンクのボブカットだけど。
「ぼくが魔王のマミでぇす」
玉座にいるお子様は、魔王だと宣言すると、口をへの字にして、鼻で息をフンとつくのだ。
つか…俺は。言わずにはいられなかった。
「無理だっ、あんな、まぁるいお子様に剣を向けちゃ、いけないよサファっ」
「しかし、アレが魔王なのだろう? あの無害なフォルムに騙されるな、テオっ」
そうだ、鑑定すればいいんだ。それで、あのお子様が何者か、どれだけの能力を有しているのか、わかる。
マミ・ドラベチカ 種族:魔族
職業:魔王の三男
スキル:風魔法Lv.30
炎魔法Lv.2
備考:ラブレスの呪い持ち
「サファ、この子、魔王の三男だって。魔王じゃないよ? 風魔法もレベル30だよ、この子に攻撃したら、弱い者いじめになっちゃうよ?」
俺がそう指摘すると、マミは、なんでそれを…というリアクションをする。
「いかにも、ま、ま、魔王の三男ですけどぉ? つか、勇者よ。要件をお聞きしよう」
ムフンと笑って、マミは続けようとする。
え、続けるの?
「俺は、魔王に話があるのだが? まぁ、いい。では、魔王の三男よ。我が国の王が、魔王に囚われた大妖精の開放を要求している。その話を聞き入れる気はあるか?」
「だ、だいようせい?」
「あぁ、大妖精だ」
「だいようせいぃぃ??」
ピンクボブは、ズモモッと意味深に凄んで見せるが。
ピョッと、ない首を傾げ。しばらくして、オロオロと頭を振って。への字口をワナワナさせた。
こ、これはっ。
「ははうえーっ、だいよーせーって、なぁにぃぃぃ?」
泣きそうになりながら、母を呼ばわるのだった。
これは、泣きべそな御子様だっ。
「もう、だから言ったでしょう? マミには、まだ魔王は早いってぇ。魔王は威厳と気品。それが大事ですよ?」
そう言って、舞台の端から出てきたのは。
キラキラ輝く、細かいウェーブの赤い長髪に、極彩色の羽がふわりんとそよぐ、一目見てタダモノではないとわかる人物だ。
たぶん、保護対象の、大妖精?
そう思って、鑑定したら。俺は驚愕して、声を失った。
「あなたが、王がお探しの、なんでも望みを叶えるという大妖精ですか?」
マミが母と呼ぶので、彼女? でも声は男性だから、彼? 性別はわからないが。
細長い楕円形の羽が何枚もある、軽やかに飛んでいるこの人が、大妖精だと思って。サファは、声をかけるけど。
違うの、違うの。
あれ、ヤバいやつだよぉ。
と思って、震える手で、サファの服を掴んだ。
「サファ、違うの。あれ、大妖精じゃなくて…」
ブルブルする俺を、いぶかしげにサファは見やるが。
答えは彼が言ってくれた。
「大妖精? 違いますよぉ。ぼくは熾天使サリエル。そして、創世神でもあります。ぼく、この世界を作っちゃいましたぁ」
創世神サリエルは、ハージマのような小さな村でも、絵本が出回っているくらい。とっても古いが、みんなが知っているおとぎ話だ。
普通なら、誰かが創世神を名乗っても、みんな相手にしないだろうが。
俺の鑑定でも、そう出ている。
サリエル・ドラベチカ 種族:熾天使サリエル
職業:魔王の伴侶、魔王の三男、創世神。旅の安全守ります、もっちり天使サリエルの本尊。
スキル:鑑定不能
鑑定不能は、俺の場合、よっぽど測り知れない能力か、レベルをカンストしているときにしか出てこない。
つまり、この天使は。
前世などで、チートな漫画や小説を見てきた俺でも、想像しえない、大きな能力を持っているということになる。
勇者のサファでさえ、俺は鑑定できるというのに。それ以上、ということだ。
サファたちは、信じられないっという顔で、俺を見るが。鑑定でも偽りなしと、うんうんうなずくと。
えぇぇ? って顔になった。
「あなたたちは、ヘルセリウム国の勇者御一行ですか? はたまたご苦労様ですぅ。あの王様、ぼくのことを手に入れたいらしくてぇ、勇者が生まれると、すぐに送り込んでくるんですよ。でも、ぼくは。魔王妃なのです。そしてこの子は、ぼくの御子のマミです」
サリエルは、マミを手で示して紹介し。ピンクボブは胸を張るつもりで腹を出した。
「そうです。ぼくは、ただのまぁるいお子様ではありませんっ。呪いをかけられて、このような見た目であれど。御年103歳なのですっ」
あのピンクボブが、103歳なのは驚きだ。
どう見ても十歳前後の御子様で。足も、椅子から地についていないし。
さっき泣きながら母を呼ばわっていたんですけど??
でも、本当に103歳なのだとしたら。魔王の三男で、あの低レベルスキルはあり得ないかも。もしかしたら十歳相当で、呪いとやらに、成長も止められているのかもな?
「勇者一行、謁見に遅れてすまなかった」
突然、ビリッと響くような美声と、強大な魔力をまとう御仁が登場し。サファが本能的に身構える。
藍色の長い髪に、何重にも巻いた大きなツノ。
年齢は四十代くらい、かな? 魔族は、見た目年齢は当てにならないけど。
ダンディな渋さの中に、誰もが目をみはる美貌。
なにも言う必要はない。その威厳と気品、気配だけで、魔王とわかる。
魔王は、マミをひょいと玉座から摘まみ上げ。腕に乗せると。玉座に腰かけた。
「マミが一度、魔王をやってみたいというのでな? 親バカな魔王だと思って、不敬を許してくれぬか?」
「はぁ、それはいいですけど。あの、この方が、次期魔王ですか?」
サファは、魔王の気迫に物怖じすることなく。聞きづらいことを聞いた。
それ、聞くぅぅぅ?
「いや、優秀な長男がいるのでな。まぁ、この先のことは、どうなるのかわからぬ…マミも、ワンチャンあるかもしれぬよ?」
魔王は、言い訳のように、マミに言い。マミはムフンと満足そうに鼻で息をつくが。
いや、って言ったよね?
そこは華麗にスルーして、サファは魔王に問いかけた。
「私は、ヘルセリウム国の王に、魔王に囚われた大妖精を救うよう、命じられましたが。魔王城に大妖精はいない。そして、奥方は囚われているのではなく、望んで魔王に嫁がれた、ということでよろしいか?」
それに答えたのは、頬を手で揉むサリエルだった。
「はいっ。百年以上前から、ぼくは魔王の、お、お、奥さんでぇす」
あの照れ照れした様子から見て、本当に、無理やりという感じはなさそう。
俺たちは、拍子抜けしてしまった。
王様、話が違いますっ。
てか、スキルが鑑定不能な彼が、囚われるなどということが、まず、ありえないのだった。
サリエルの言を受け、魔王が俺らに目を向けて、告げる。
「話が早くてありがたい、勇者よ。ヘルセリウム国の王は、我が妻を、なんでも望みを叶える者だと思っているようだが、そのようなことはない。逆に、魔王の敵と判断されたなら。自然災害級の災いが国に及ぶと、認識を新たにしてもらいたい。勇者よ。できうるならば、ここは穏便に引いてもらい。国王にその旨を伝えてはもらえまいか? 我ら魔国の民は。人族との争いを望まぬ。現在は人族の商人とも懇意にしており、平和な状態なのだ」
俺は。小さい村の出身で、その村からも出たことがなかった。
ヘルセリウム国の国王も見たことはないし。
魔王を。いや、言うなれば、魔族を見たのも、今回がはじめてだ。
それでも、わかることは。
うちの国王はダメで。魔王は話の通じるいい人。ということかな?
それに、魔王がマミを抱えて、それに寄り添うサリエル。その三人の光景が。いかにもラブラブなご家族という感じで。
魔王とサリエルを引き離すなんてことになったら、それこそ、こちらが極悪人ではないか?
つか、鑑定不能のサリエルを、いかな勇者とて、引きずっていくことはできない。
「うーん、それは無理かな?」
しかしサファは、魔王の提案を拒絶した。
えええぇぇ? サファっ、魔王とやるの?
つか、魔王よりサリエルの方がヤバいよ? 創世神だよ? 神だよ? 無理だよぉぉぉ。
「国王がお探しの大妖精は存在しない。なので、俺にはもう戦う理由はないのだが。うちの国王、ちょっと頑固ジジイだからさ。大妖精、いませんでしたぁ。魔王も倒しませんでしたぁ、って言ったら。投獄されちゃうかもしれないじゃん? だから、魔王の言ったことを国王に伝えるのは、無理です。まぁ、伝えるだけ伝えて、捕まっても、逃げるのは簡単でしょうけど。少なからず被害は出ますからね。だったら、王都には戻らない方がいいでしょ?」
俺は、すっごい、ドキドキしちゃったが。
サファは魔王と、一戦交えないみたい。
ホッ。いかに魔剣があろうとも。無理な空気がひしひしするからねっ。
魔王とサリエルも、もちろんヤバいが。
案内役の黒騎士も。姿は見せないが、舞台の袖で見守っているらしい御付きの方も。魔王の周囲には、魔王に準じる強大な魔力を持つ者が大勢いる。
あまりにも簡単に、魔国に入国できて。あまりにも事無く、魔王城まで到達し。あまりにも無防備に、勇者を魔王城の中に引き入れた。ように見えていたが。
そんなことはなかったのだ。
魔王城の警備体制は万全である。
たとえサファが稀代の勇者であろうとも。魔王級の実力者を、何人も相手にはできないだろう。
つまり、勇者一行は太刀打ちできないってことだ。
「ですよねぇ? 歴代の勇者にも、そういう理由で断られました」
目がつぶれそうなほどに美しいお顔立ちなのに、サリエルは眉を八の字にして、悲しそうにつぶやいた。すみません。
「勇者は、この星の自浄作用的な役割があります。増えすぎた魔獣を駆除したり、強力になり過ぎた悪人を滅ぼしたり。つまり、勇者はこの星に必要で、簡単には失えない、逸材です。国に帰れば、身動きできなくなるというのであれば、そこに帰れと言うことはできません。勇者、サファイア。国王に従うばかりではなく、この星のために勇者として尽力してくださいませ」
サリエルに、なんか、すっごく大きな話をされて。
俺も、サファも、仲間も、圧倒されてしまった。
星単位、とはね。
でも。なんか、わかる。
サファには。ヘルセリウム国だけでは、きっとフィールドが小さすぎるのだ。
この星、と言われると。なんか、大仰だけど。
国とか関係なく、困った人をサファは助けに行くのではないかな?
「そうします。俺は俺のできることをしていく。テオと一緒に。な?」
「うん。一緒に行くよ、サファ」
俺はもちろん、彼についていくつもりだったから。うなずくと。
サファは嬉しそうに笑った。
「よし。じゃあ、勇者一行は魔王城を退散するか」
みんなにも、サファは笑みを向けるが。
「しばし待たれよ。勇者、その魔剣はずいぶん禍々しい気を放っているが。私が預かろうか?」
魔王にそう言われ、サファは魔王にも笑みを向けた。
「え? そう? それは嬉しい提案だな」
でも、そのとき。魔剣がサファの腰でガタガタっと震えた。
「魔王、魔剣が話したいことがあるという。抜剣を許してもらえるか?」
サファの問いに、魔王はうなずき。サファは魔剣を抜いた。
「ちょっとっ、魔王。あんた、このピュアっ子の天使ちゃんと、エロエロ勇者がするようなぐっちょぐちょのセックスが出来んのっ? あたしはエロパワーがないと、いっやっ!!」
魔剣がオネェ言葉でベラベラッとしゃべるのに。
サリエルは頬を真っ赤にして、セッ、セッ、と声を詰まらせていた。
その妻の様子を見て。魔王は首を振る。
「すまない、勇者よ。私はバリバリの現役であるが、うちの妻は百年以上連れ添い、八人も子を成したというのに、セックスと言えないピュアっ子ゆえ、そのエロ魔剣の管理は、エロ勇者にお任せしよう」
「おいっ」
思わず、サファが魔王にツッコんだ。まぁ、気持ちはわかる。
「じゃ、今度こそお暇するぞ」
サファは魔剣を鞘に納めて。仲間とともに謁見の間を後にした。
まぁ、戦闘もなく、被害者もいなかったわけだから、良かった。で、いいのかな?
★★★★★
魔王城を出ると、行きに乗ってきた馬車が止まっていて。そのきらびやかな馬車で、国境まで乗せていってくれるという。
至れり尽くせりだな?
というわけで、勇者一行は馬車に乗り込み。今日泊る宿屋までの道すがら、今回の旅の総括をするのだった。
「魔王、良い人だったね? 話が通じて、良かったよ」
馬車に揺られながら、俺はサファに言う。
「こちらに敵意がなかったからだ。魔族の敵であれば、俺たちは容赦なくやられていただろう。今の魔王は冷徹で残忍だという噂だ。サリエルも含めて、触らぬ神に祟りなし、というところか」
肩をすくめて、サファは話を続けた。
「何百年か前の話だが、魔王妃を殺された魔王は、国をひとつ滅ぼしたという。先ほどの魔王は、その類だと思うな?」
俺は首を傾げた。だってその話、魔王悪くなくね?
「でも、それって。残忍なのかな? 奥さん殺されたら、そりゃあ怒るんじゃない? サファはどう?」
「俺? あぁ、滅ぼす滅ぼす。テオを殺されたら、敵の血を一滴も残さぬくらいに細切れにして、辺りを死の荒野にして、星も真っ二つにして、すべて滅ぼしてやる」
笑顔ながら、あまりにも残忍なサファの答えに、俺は引いた。いや、みんなドン引きだ。
質問を間違えてしまったようだな。
つか、おまえ、勇者じゃなくて魔王なんじゃね?
「星を真っ二つにするのはよせ」
とりあえず、忠告しておいた。創世神サリエルに怒られちゃうよ。
「つか、魔王の人柄はさておいて。国王に嘘つかれた。あのジジイ、信じらんねぇ」
ぶすくれワンコ勇者に、イオナがおっとりと告げた。
「でも、国王様は本当に、なんでも望みを叶える大妖精がいると信じているのかもしれませんわよぉ? だって、たぶん。誰も間違いを正していないのですものぉ」
イオナの話は、無きにしもあらずで。みんながうなずく。
サリエルも、歴代の勇者たちに断られたと言っていたからな。
きっとサファの前任勇者も。魔王討伐の旅のあと、国を捨てて、どこかへ行ってしまったのだろうな?
なぜ勇者が戻ってこないのか、ちょっと考えろや国王。と、思わないでもない。
「しかし、私たちの師匠は、前の勇者さまではないのですか?」
クリスの問いにはサファが答える。
「勇者は勇者だが。師匠は、他国の勇者だったから。ヘルセリウム国王の依頼は受けていないらしいよ? 世直し道中の最中にスカウトされて、年も年だったから国に腰を落ち着けるつもりで、勇者育成のスカウトを受けたって言ってた」
馬車の中に、ふーん、という納得の空気が流れた。
「それで、サファイアさま。これからどうするのですか?」
ユーリが今後のことについて、サファにたずねる。
みんなも、そのことを聞きたいようで。対面に座る三人が、ジッとサファをみつめた。
「魔王に言ったように、魔王を倒さなかったから国には戻れないけど。とりあえず、しれっとハージマに戻って、テオと結婚式をあげようと思っているっ」
拳を握って、サファは力説するが。
いや、クリスたちが聞きたいのは、そういうことじゃないと思うよ?
「そのあと、国王から追手がかかる前に、どこか旅に出よう。テオの、実家のパン屋を継ぐ夢は。叶えてあげられなくて申し訳ないけど。いつか、どこかの国でレストランを開こう。資金は潤沢だからな?」
「それは、いつかで良いよ。創世神が言ったように、サファは勇者として人々を助けていきたいんだろう? 俺はサファに付き合う。どこでも、サファと一緒なら、俺は幸せだよ?」
「テーオー」
嬉しさを目いっぱい表現して、サファは満面の笑みで俺をムギュっと抱きしめた。
「私たちも、お供させてくださいませ? 私たちは最強のパーティーでしょう? みんなで魔獣を駆除しながら、あちこち旅をしたいですわぁ?」
イオナの言葉に、みんながうなずき。
当面の方向性は決まった。
「それは、あたしも賛成よぉ? こんな最強のエロパーティーは滅多にお目にかかれないもの。常にエロゲージが満タンで、あたしは最高に幸せなのよぉ?」
しかし、魔剣がそういうことを言うものだから。
魔剣にエロパーティー認識をされた俺たちは、なんとも言えない気まずい空気を醸すのだった。
「ま、俺らが若いうちはいいけどさ。サファがお爺ちゃんになったら、この魔剣、どうすんの?」
俺がつぶやくと。サファは答える。
「ジジイになっても、俺はメキメキだ。魔王には負けねぇ」
真顔でサファは、そういう残念エロワンコ発言をする。
もう、そこ、魔王と張り合うところじゃないからねっ?
「でも、まぁ。ある程度、年を取ったら。次代の勇者に下げ渡せばいいんじゃね? 勇者は代々絶倫らしいから」
あぁ、という目で。クリスたちに見られ。サファはさすがに手を横に振った。
「いや、俺は普通だが」
「「「「「いやいやいや」」」」」
クリスたちと俺、さらに魔剣にまでツッコまれるサファだった。
まぁ。魔王討伐の、この旅は。甲斐なく終わってしまったが。
俺はサファと、じっくりと心を交わすことができて。己の気持ちにも素直になれて。
サファと愛し合うことができるようになったから。
悪くない旅路だった。って思おう。うん。
そのとき、馬車がガタンと大きく揺れて。俺はサファの膝の上に倒れ込んでしまう。
つか、彼の股間に、もろ、顔を突っ込んでしまった。
「わぁ、ラッキー」
サファは喜んじゃって。俺を助け起こしはするけど。さらにギュギュっと抱きつかれて。
やーめーろー。
あれ? つか。こういう場面では、必ずラッキースケベのレベルが上がる音が聞こえるのだが。そういえばこの頃、聞かないなぁ。と思って。
サファを鑑定してみたら。
ラッキースケベのレベルが鑑定不能になっていた。
え? いつの間にか、カンストしてた?
マジか??
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次回作は勇スケのようなアホエロではありませんが。大人アダルトなムードなので。よろしければお楽しみいただけたら望外の喜びです。
では、次回作でも出会えますように。感想いっぱいくれてありがとう(踊)