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37 俺は乙女だっつーのっ テオ・ターン
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◆俺は乙女だっつーのっ テオ・ターン
胸の前で手をモミモミしている緑色のドラゴンが、モジモジしながら。勇者一行、いや、俺とサファに言っている。
「あなたたちは、ダンジョンに入ったときから、好き合っていたじゃなぁい? 確かにぃ? サファとエッチするのをお預けにしたりとか、鬼畜なテオに、少しキュンだけど。でも、アレは主人がワンコを躾けるプレイでしょ? あたし、プレイは嘘くさくて、好きじゃないのぉ」
ここはボス部屋で、ユメバクはラスボスにしては弱すぎだったので。
たぶん、このくねくねしたドラゴンがラスボスなのだろうけど。
つか、プレイじゃねぇしっっ。
でもサファは、俺らが最初から好き合っていたというところに引っかかって、なにやら照れ照れしている。
おいっ、否定しろやっ。
「だけど、まぁ。ロマンティックだったのは、確かだわぁ? 夢の中でも、まさか、あ…」
「あなた、男ですよね?」
夢の中のことを暴露されたくなくて。俺はすかさず、誰も言わないけど、みんな思っている疑問について、たずねた。
「は?」
「つか、オスですよね? 口調がオネェですけど」
「ばかやろぉぉぉ! 俺は乙女だっつーのっ、空気読めやぁぁーーっ」
裏声だったドラゴンが、ドスの利いた男の声になって。ガオオォォォォォッと叫ぶ。
ほらぁ、男じゃーん。
つか、うまく話をそらして、過去話の暴露をなんとか回避できたな。
あの話は、誰にも知られたくなかった。
アレは、俺の黒歴史だ。
なんにもできなくて。なんにも生まれなくて。ただ死んだ。
と思っている場合ではなかった。
ドラゴンがガオォォォォォッと叫んだとき、ボス部屋の様相が一変して。
目の前にはピンク色の照明…この世界は、光源はランプだけなので。ピンクのランプというのはないはずなのだが。なにやら部屋がピンク色に染まった、大きなベッドのある部屋に、サファとふたりでいた。
『みなさぁん? あたしの元にたどり着いた、はじめてのお客様だからぁ、贔屓したいのは山々なんだけどぉ。あたしが丹精込めて作った魔剣を、簡単には渡せませんことよぉ?』
おーほほほ、と。悪役令嬢みたいな笑い方をする、ドラゴン。
姿は見えないが、声がオネェなのでわかります。
『最後の試練は、エッチをしないと出られない部屋よぉ? 魔剣をゲットするには、十回分の絶頂エネルギーが必要。まぁ、数多のエロい試練を乗り越えてきたあなた方なら、簡単なミッションね? だって、ひとり二回も極めれば、出られる部屋ですものぉ? でも、インターバルを置くと、ゲージは下がっていくから、気をつけてぇ? 連続絶頂がおすすめよ? さぁ、魔剣のラブゲージを満タンにして、あたしと勝負しましょ? 待っているわね?』
またもや、おーほほほ、と笑い声がして。
部屋の中は静かになった。
「えぇー…エッチしないと出られない部屋、だってさ」
「そうらしいな」
サファは、扉のノブを回したり、剣で殴ったりしているけど。開かないみたいだな。
「先生たちは、別部屋かな?」
「あぁ。ダンジョンに入ったときから、俺らの動向は見られていたようだから。カップル分けされたんだろ」
「………」
なんとなく、気まずい感じで。俺とサファはベッドに腰かけた。
はじめてラブホテルに入ったカップルみたい、だからではない。
だって。
間にいろいろ挟まったけど。さっき、頬を叩かれたからな。
それを、思い出して。手で頬を、ちょっとさすったりしたら。
サファが慌てて、俺の頬に手を添えた。
「ごめん、痛かったか?」
「いや、俺も悪かったし。でも、ユメバクを鑑定していたから。死んでも、元に戻れると思っていたんだよ」
「……ん」
そうは言っても。サファはやっぱり、受け入れられないみたい。
まぁ、そうだろうな? 好きだと言っていた相手が、いきなりマンションから飛び降りたら。そりゃ、驚くよ。
でも。あの夢から抜け出すには、俺が死ぬしかなかった。
ユメバクを鑑定して、見えた対処法が。夢主の死、だったからだ。
そして、あの夢は。田代が出てきた世界は。確かに俺の前世で。
だったら夢主は、俺しかいない。
まぁ、できれば。自分で死ぬのは普通に怖いし。サファが俺を殺してくれたら、良かったんだけど。
サファが、俺を殺す選択肢はないとか言って、夢の中で寿命で死ぬまで暮らすつもりみたいだったから。
それは、ダメだろうと思った。
だって、俺が死ねば元に戻れるって、攻略法がわかっているゲームだ。
いつまでも、その場にいる意味はない。
まぁ、生きて帰れるとは書いていなかったので。もしかしたら、本当に死ぬかもと。ちょっと覚悟をして。
サファと抱き合えるのは、これが最後かもしれないって。夢の中で思ったりしたけれど。
俺と生きるために生まれた。俺に手をかけたりしないって。泣きそうな顔でサファが言うから。
あぁ、サファには。冗談でも俺を殺すことはできないんだなって。わかってしまった。
そんなサファに、俺を殺させるのは、酷なことだ。
だから、自分で自分に手を下した。
サファを、無事に、この世界に戻すために…。
でも、そのことは。サファをいっぱい傷つけてしまったみたいだ。
いっぱい泣かせてしまったし。
勇者がぼろ泣きするのはどうかとは思うけど。
それだけショックだったんだろうから…ごめんな?
この場に俺がいることが、サファは嬉しいようで。
両手で俺の頬をさすりながら、額と額をくっつけて。俺の体温を確かめている。
ちゃんと生きているのを、確かめているみたいだな?
俺も。今こうして、生きて、サファと向かい合っていることが。とても嬉しいよ。
前世の記憶は、また、曖昧になって。
田代の顔も中本の顔も、わからなくなったけど。
目の前にサファがいて。
あぁ、サファの顔はこんなだったとか。
サファの声とか。大きくて、少しかさついた手のひらの感触とか。
匂いとか、呼吸の間とか。全部が、サファだなぁと実感したら。
俺もなんだか落ち着いた。
やっぱり前世のことを強制的に思い出させられて。心が揺さぶられて。いつもの感覚とは違っていて。精神的に窮地に追い込まれてはいたんだろうな?
しょっぱい前世は、苦しかったけど。
みんな無事に戻れたから…ま、いっか。
「つか、改まって、ここでエッチしろとか言われると。したくなくね?」
「いや…」
そのサファの返答に、驚く。
魔獣の思惑に乗りたくねぇとか、言うかと思ったから。
「いや?」
「俺はいつでも、テオとエッチしたいんで」
額をくっつけたまま、神妙に言うけど。言ってることと、顔の真面目具合が合ってない。
「サファ…どうしておまえは、俺の前では残念勇者なんだ?」
勇者サファイアは、高潔で威厳をたたえ、すべての国民の上に立つ超人である。
そのたたずまいは、美麗にして気高く、鋼の体躯、整った容貌は、まるで闘神の化身。
であるはずなのに。
俺の前にいるのは、俺を喰らう機会を狙うギラギラワンコなのだ。
「だって、テオを相手に、取り繕ったり、カッコつけたりしたくないんだ。ま、たまには。テオに良いところ見せたくて、張り切っちゃうけど。できれば俺は、素の自分で勝負したい、っていうか?」
拳を握ったサファが、俺の前でキリリとして。歯をきらりと輝かせて、最高の角度からの笑みを投げるが。
いつもの彼が、彼なもんだから。渾身のイケメンスマイルも、俺の胸には響かないのだ。
「そうか。サファは、素が残念なんだな?」
「なんだよぉ。そんなこと言うのは、テオだけなんだからなっ」
そう言って、頬を膨らますサファは。全く孤高の勇者らしくないのだった。
いつもの、クソエロ駄犬勇者。
だけど、それが。俺のサファなのだ。
それでいい。それが、いい。
俺は、愛おしさがこみ上げて。彼の髪に、指を差し入れて、やんわりと撫でる。
あぁ、柔らかい髪。
なんとなく、懐かしいって思ってしまい。指先でくしゃりと銀の髪をかき混ぜた。
「あのさ…夢の中のことだけど」
俺が切り出すと。サファは、少し苦い顔つきになって。俺の肩を抱いた。
ギュッて、彼の手が俺を掴む。
もう、どこへも行かないようにって。そんな気持ちが伝わる。
「過去は過去、今は今で、良いじゃん」
一言のあと、小さくため息をついて。再び、言葉を紡ぐ。
「俺は、前世が中本だっていう意識はないんだ。つか、前世というのが、いまだによくわからない。でも。もし、俺らの前身が、田代と中本だったとして。過去の俺らがダメダメだったとしてもさ。今は、過去の業を払拭できている。そう、思わないか? だって、俺は今。テオのことが好きだって、テオにいっぱい伝えているし。テオが恋人だって、誰にも胸を張って言える。テオも、前世では中本に言えなかったみたいだけど。俺のこと、好きって言ってくれたしな?」
「まぁ、そうだな」
過去でしてきた失敗は、今の世界でしていない。
つい最近まで、俺は。サファのことを拒否って、前世と同じこと繰り返していたみたいだけど。
今は彼のことを、好きだと認めて。
たまに、怒っちゃうけど。
好きの気持ちを表に出して。サファに笑いかけてもいるからな?
「だから、今度はね。そこを乗り越えた俺たちは、次のステージに行こう。一緒に、生きていこう。幸せになろう。長生きしよう、俺たち。俺がテオを、必ず、なにものからも守るから」
「…うん」
そうだ。そうなんだ。
もう、モヤがかかってしまった、前世のことは。終わったこと。
俺はこの世界で、サファと生きていく。
精一杯、生きて。できれば、幸せになれたらいい。
サファを愛しているって。想いを伝えていけたらいい。
俺のうなずきを見たサファは。ニッコリ笑って。
大きな体で、俺に抱きついてきて。
その体重で、俺をベッドに押し倒してきた。
ぐえっ、もう、体重差を考えてくれよっ。
「だけど、勇者の俺をいじめて、泣かせた罪は。重いぞぉ? 贖ってもらうからな、テーオ」
そして、俺の腹をコチョコチョとくすぐったり、頬や首筋にチュッチュしたり。罰とも思えない罰を、してくる。
「あはは、くすぐったいってぇ、やーめーろー」
「だぁめ、やめない。テオは一生、俺のそばで笑ってる刑、な?」
サファは囁いて、唇にキスをした。
ぽってりとした色っぽい唇は、微笑みの形をしたままで、俺の唇に吸いついてくる。
チュッと音をさせて、離れ。また、クチュッと押しつけて、俺の唇にまといつく。
俺の腹をくすぐっていた手先は、いつの間にか、官能を引き出すようなねっとりとした動きに変わり。俺のベルトや服の紐をほどいていく。
だけどキスは、唇をハムハムする優しいくちづけだ。
唇の触れ合いだけで、ゆっくりムードを盛り上げて。
サファはその間に、己の剣や装備や服を、乱暴にベッドの下に落としていった。
ひとつ、ハッと息をつき、俺の体をまたいでのしかかっていた体を引き起こすと、シャツを脱ぎ捨てる。
俺を見下ろすのは、均整の取れた筋肉がたくましい、青い瞳の美しい男だ。
「綺麗だな…」
寝たまま、手で、彼の腹筋を撫でる。
体の厚みも、筋肉の盛り上がりも、俺より頑健で、たくましくて、つやつやと肌に張りがあって。頼もしい。
「全部、おまえのものだ。テオ、俺の全部はテオのもの」
全部、と言われ。俺は腹筋から下に手をおろしていき。すでにズボンの中で窮屈そうになっているサファのソレに、手を這わせる。
サファは、熱い吐息をついた。
「ふ、テオが触ってくれるの、嬉しい」
「これも、俺のなんだろ? つか、こんなおっきいの、俺の中に入っていたとか、嘘だろ?」
サファのズボンの紐を解いて、下着から彼のモノを取り出すと。それはすでに隆々と天を向いて、己を主張しているが。両の手でないと包み込めない、そのあまりの長大さに、おののいて。俺は薄目で見やるのだった。
「嘘じゃねぇし。つか、テオは俺のこれで、奥をツンツンされるのが好きなんだからな?」
「う、そー」
「嘘じゃないってば」
サファは勇者パワーで、端っこにいた俺をベッドの中央に乗り上げさせて。
改めて、組み敷いた俺のことを、正面から見下ろした。
「両想いになってから、はじめてのエッチだね?」
まぁ、前世のことは、夢の中なので。
最後に田代の名を呼んだことを、サファは覚えていなかったから。
たぶん、あのときは中本の意識が強く出ていたんだろうな。
俺の胸に、田代の想いがあふれていたように…。
つまり、本当に、自身の生身の体をサファと合わせるのは。告白してからは、はじめてだ。
俺がうなずくと、サファは。唇にむちゅっとキスをして、唇を触れ合わせたままで囁いた。
「テオ、最高にハッピーなエッチ、しよ? いっぱい幸せで、ラブラブなやつ」
「して、サファ」
恥ずかしいから、言葉は少なくなっちゃうけど。
彼の体に手を回して、裸の胸と胸を合わせれば。俺の気持ちは伝わると思う。
俺も、サファと、幸せな気持ちで抱き合いたいんだって。
熱い気持ちで、ゆっくりと瞬きをし合って。
互いの気持ちが同じであると、微笑み合って。
俺たちは、深くて濃厚なくちづけを交わした。
胸の前で手をモミモミしている緑色のドラゴンが、モジモジしながら。勇者一行、いや、俺とサファに言っている。
「あなたたちは、ダンジョンに入ったときから、好き合っていたじゃなぁい? 確かにぃ? サファとエッチするのをお預けにしたりとか、鬼畜なテオに、少しキュンだけど。でも、アレは主人がワンコを躾けるプレイでしょ? あたし、プレイは嘘くさくて、好きじゃないのぉ」
ここはボス部屋で、ユメバクはラスボスにしては弱すぎだったので。
たぶん、このくねくねしたドラゴンがラスボスなのだろうけど。
つか、プレイじゃねぇしっっ。
でもサファは、俺らが最初から好き合っていたというところに引っかかって、なにやら照れ照れしている。
おいっ、否定しろやっ。
「だけど、まぁ。ロマンティックだったのは、確かだわぁ? 夢の中でも、まさか、あ…」
「あなた、男ですよね?」
夢の中のことを暴露されたくなくて。俺はすかさず、誰も言わないけど、みんな思っている疑問について、たずねた。
「は?」
「つか、オスですよね? 口調がオネェですけど」
「ばかやろぉぉぉ! 俺は乙女だっつーのっ、空気読めやぁぁーーっ」
裏声だったドラゴンが、ドスの利いた男の声になって。ガオオォォォォォッと叫ぶ。
ほらぁ、男じゃーん。
つか、うまく話をそらして、過去話の暴露をなんとか回避できたな。
あの話は、誰にも知られたくなかった。
アレは、俺の黒歴史だ。
なんにもできなくて。なんにも生まれなくて。ただ死んだ。
と思っている場合ではなかった。
ドラゴンがガオォォォォォッと叫んだとき、ボス部屋の様相が一変して。
目の前にはピンク色の照明…この世界は、光源はランプだけなので。ピンクのランプというのはないはずなのだが。なにやら部屋がピンク色に染まった、大きなベッドのある部屋に、サファとふたりでいた。
『みなさぁん? あたしの元にたどり着いた、はじめてのお客様だからぁ、贔屓したいのは山々なんだけどぉ。あたしが丹精込めて作った魔剣を、簡単には渡せませんことよぉ?』
おーほほほ、と。悪役令嬢みたいな笑い方をする、ドラゴン。
姿は見えないが、声がオネェなのでわかります。
『最後の試練は、エッチをしないと出られない部屋よぉ? 魔剣をゲットするには、十回分の絶頂エネルギーが必要。まぁ、数多のエロい試練を乗り越えてきたあなた方なら、簡単なミッションね? だって、ひとり二回も極めれば、出られる部屋ですものぉ? でも、インターバルを置くと、ゲージは下がっていくから、気をつけてぇ? 連続絶頂がおすすめよ? さぁ、魔剣のラブゲージを満タンにして、あたしと勝負しましょ? 待っているわね?』
またもや、おーほほほ、と笑い声がして。
部屋の中は静かになった。
「えぇー…エッチしないと出られない部屋、だってさ」
「そうらしいな」
サファは、扉のノブを回したり、剣で殴ったりしているけど。開かないみたいだな。
「先生たちは、別部屋かな?」
「あぁ。ダンジョンに入ったときから、俺らの動向は見られていたようだから。カップル分けされたんだろ」
「………」
なんとなく、気まずい感じで。俺とサファはベッドに腰かけた。
はじめてラブホテルに入ったカップルみたい、だからではない。
だって。
間にいろいろ挟まったけど。さっき、頬を叩かれたからな。
それを、思い出して。手で頬を、ちょっとさすったりしたら。
サファが慌てて、俺の頬に手を添えた。
「ごめん、痛かったか?」
「いや、俺も悪かったし。でも、ユメバクを鑑定していたから。死んでも、元に戻れると思っていたんだよ」
「……ん」
そうは言っても。サファはやっぱり、受け入れられないみたい。
まぁ、そうだろうな? 好きだと言っていた相手が、いきなりマンションから飛び降りたら。そりゃ、驚くよ。
でも。あの夢から抜け出すには、俺が死ぬしかなかった。
ユメバクを鑑定して、見えた対処法が。夢主の死、だったからだ。
そして、あの夢は。田代が出てきた世界は。確かに俺の前世で。
だったら夢主は、俺しかいない。
まぁ、できれば。自分で死ぬのは普通に怖いし。サファが俺を殺してくれたら、良かったんだけど。
サファが、俺を殺す選択肢はないとか言って、夢の中で寿命で死ぬまで暮らすつもりみたいだったから。
それは、ダメだろうと思った。
だって、俺が死ねば元に戻れるって、攻略法がわかっているゲームだ。
いつまでも、その場にいる意味はない。
まぁ、生きて帰れるとは書いていなかったので。もしかしたら、本当に死ぬかもと。ちょっと覚悟をして。
サファと抱き合えるのは、これが最後かもしれないって。夢の中で思ったりしたけれど。
俺と生きるために生まれた。俺に手をかけたりしないって。泣きそうな顔でサファが言うから。
あぁ、サファには。冗談でも俺を殺すことはできないんだなって。わかってしまった。
そんなサファに、俺を殺させるのは、酷なことだ。
だから、自分で自分に手を下した。
サファを、無事に、この世界に戻すために…。
でも、そのことは。サファをいっぱい傷つけてしまったみたいだ。
いっぱい泣かせてしまったし。
勇者がぼろ泣きするのはどうかとは思うけど。
それだけショックだったんだろうから…ごめんな?
この場に俺がいることが、サファは嬉しいようで。
両手で俺の頬をさすりながら、額と額をくっつけて。俺の体温を確かめている。
ちゃんと生きているのを、確かめているみたいだな?
俺も。今こうして、生きて、サファと向かい合っていることが。とても嬉しいよ。
前世の記憶は、また、曖昧になって。
田代の顔も中本の顔も、わからなくなったけど。
目の前にサファがいて。
あぁ、サファの顔はこんなだったとか。
サファの声とか。大きくて、少しかさついた手のひらの感触とか。
匂いとか、呼吸の間とか。全部が、サファだなぁと実感したら。
俺もなんだか落ち着いた。
やっぱり前世のことを強制的に思い出させられて。心が揺さぶられて。いつもの感覚とは違っていて。精神的に窮地に追い込まれてはいたんだろうな?
しょっぱい前世は、苦しかったけど。
みんな無事に戻れたから…ま、いっか。
「つか、改まって、ここでエッチしろとか言われると。したくなくね?」
「いや…」
そのサファの返答に、驚く。
魔獣の思惑に乗りたくねぇとか、言うかと思ったから。
「いや?」
「俺はいつでも、テオとエッチしたいんで」
額をくっつけたまま、神妙に言うけど。言ってることと、顔の真面目具合が合ってない。
「サファ…どうしておまえは、俺の前では残念勇者なんだ?」
勇者サファイアは、高潔で威厳をたたえ、すべての国民の上に立つ超人である。
そのたたずまいは、美麗にして気高く、鋼の体躯、整った容貌は、まるで闘神の化身。
であるはずなのに。
俺の前にいるのは、俺を喰らう機会を狙うギラギラワンコなのだ。
「だって、テオを相手に、取り繕ったり、カッコつけたりしたくないんだ。ま、たまには。テオに良いところ見せたくて、張り切っちゃうけど。できれば俺は、素の自分で勝負したい、っていうか?」
拳を握ったサファが、俺の前でキリリとして。歯をきらりと輝かせて、最高の角度からの笑みを投げるが。
いつもの彼が、彼なもんだから。渾身のイケメンスマイルも、俺の胸には響かないのだ。
「そうか。サファは、素が残念なんだな?」
「なんだよぉ。そんなこと言うのは、テオだけなんだからなっ」
そう言って、頬を膨らますサファは。全く孤高の勇者らしくないのだった。
いつもの、クソエロ駄犬勇者。
だけど、それが。俺のサファなのだ。
それでいい。それが、いい。
俺は、愛おしさがこみ上げて。彼の髪に、指を差し入れて、やんわりと撫でる。
あぁ、柔らかい髪。
なんとなく、懐かしいって思ってしまい。指先でくしゃりと銀の髪をかき混ぜた。
「あのさ…夢の中のことだけど」
俺が切り出すと。サファは、少し苦い顔つきになって。俺の肩を抱いた。
ギュッて、彼の手が俺を掴む。
もう、どこへも行かないようにって。そんな気持ちが伝わる。
「過去は過去、今は今で、良いじゃん」
一言のあと、小さくため息をついて。再び、言葉を紡ぐ。
「俺は、前世が中本だっていう意識はないんだ。つか、前世というのが、いまだによくわからない。でも。もし、俺らの前身が、田代と中本だったとして。過去の俺らがダメダメだったとしてもさ。今は、過去の業を払拭できている。そう、思わないか? だって、俺は今。テオのことが好きだって、テオにいっぱい伝えているし。テオが恋人だって、誰にも胸を張って言える。テオも、前世では中本に言えなかったみたいだけど。俺のこと、好きって言ってくれたしな?」
「まぁ、そうだな」
過去でしてきた失敗は、今の世界でしていない。
つい最近まで、俺は。サファのことを拒否って、前世と同じこと繰り返していたみたいだけど。
今は彼のことを、好きだと認めて。
たまに、怒っちゃうけど。
好きの気持ちを表に出して。サファに笑いかけてもいるからな?
「だから、今度はね。そこを乗り越えた俺たちは、次のステージに行こう。一緒に、生きていこう。幸せになろう。長生きしよう、俺たち。俺がテオを、必ず、なにものからも守るから」
「…うん」
そうだ。そうなんだ。
もう、モヤがかかってしまった、前世のことは。終わったこと。
俺はこの世界で、サファと生きていく。
精一杯、生きて。できれば、幸せになれたらいい。
サファを愛しているって。想いを伝えていけたらいい。
俺のうなずきを見たサファは。ニッコリ笑って。
大きな体で、俺に抱きついてきて。
その体重で、俺をベッドに押し倒してきた。
ぐえっ、もう、体重差を考えてくれよっ。
「だけど、勇者の俺をいじめて、泣かせた罪は。重いぞぉ? 贖ってもらうからな、テーオ」
そして、俺の腹をコチョコチョとくすぐったり、頬や首筋にチュッチュしたり。罰とも思えない罰を、してくる。
「あはは、くすぐったいってぇ、やーめーろー」
「だぁめ、やめない。テオは一生、俺のそばで笑ってる刑、な?」
サファは囁いて、唇にキスをした。
ぽってりとした色っぽい唇は、微笑みの形をしたままで、俺の唇に吸いついてくる。
チュッと音をさせて、離れ。また、クチュッと押しつけて、俺の唇にまといつく。
俺の腹をくすぐっていた手先は、いつの間にか、官能を引き出すようなねっとりとした動きに変わり。俺のベルトや服の紐をほどいていく。
だけどキスは、唇をハムハムする優しいくちづけだ。
唇の触れ合いだけで、ゆっくりムードを盛り上げて。
サファはその間に、己の剣や装備や服を、乱暴にベッドの下に落としていった。
ひとつ、ハッと息をつき、俺の体をまたいでのしかかっていた体を引き起こすと、シャツを脱ぎ捨てる。
俺を見下ろすのは、均整の取れた筋肉がたくましい、青い瞳の美しい男だ。
「綺麗だな…」
寝たまま、手で、彼の腹筋を撫でる。
体の厚みも、筋肉の盛り上がりも、俺より頑健で、たくましくて、つやつやと肌に張りがあって。頼もしい。
「全部、おまえのものだ。テオ、俺の全部はテオのもの」
全部、と言われ。俺は腹筋から下に手をおろしていき。すでにズボンの中で窮屈そうになっているサファのソレに、手を這わせる。
サファは、熱い吐息をついた。
「ふ、テオが触ってくれるの、嬉しい」
「これも、俺のなんだろ? つか、こんなおっきいの、俺の中に入っていたとか、嘘だろ?」
サファのズボンの紐を解いて、下着から彼のモノを取り出すと。それはすでに隆々と天を向いて、己を主張しているが。両の手でないと包み込めない、そのあまりの長大さに、おののいて。俺は薄目で見やるのだった。
「嘘じゃねぇし。つか、テオは俺のこれで、奥をツンツンされるのが好きなんだからな?」
「う、そー」
「嘘じゃないってば」
サファは勇者パワーで、端っこにいた俺をベッドの中央に乗り上げさせて。
改めて、組み敷いた俺のことを、正面から見下ろした。
「両想いになってから、はじめてのエッチだね?」
まぁ、前世のことは、夢の中なので。
最後に田代の名を呼んだことを、サファは覚えていなかったから。
たぶん、あのときは中本の意識が強く出ていたんだろうな。
俺の胸に、田代の想いがあふれていたように…。
つまり、本当に、自身の生身の体をサファと合わせるのは。告白してからは、はじめてだ。
俺がうなずくと、サファは。唇にむちゅっとキスをして、唇を触れ合わせたままで囁いた。
「テオ、最高にハッピーなエッチ、しよ? いっぱい幸せで、ラブラブなやつ」
「して、サファ」
恥ずかしいから、言葉は少なくなっちゃうけど。
彼の体に手を回して、裸の胸と胸を合わせれば。俺の気持ちは伝わると思う。
俺も、サファと、幸せな気持ちで抱き合いたいんだって。
熱い気持ちで、ゆっくりと瞬きをし合って。
互いの気持ちが同じであると、微笑み合って。
俺たちは、深くて濃厚なくちづけを交わした。
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それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。
するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。
それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき…
遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。
……とまぁ、ここまでは良くある話。
僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき…
遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。
「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」
それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。
なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…?
2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。
皆様お陰です、有り難う御座います。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
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