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37 俺は乙女だっつーのっ テオ・ターン
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◆俺は乙女だっつーのっ テオ・ターン
胸の前で手をモミモミしている緑色のドラゴンが、モジモジしながら。勇者一行、いや、俺とサファに言っている。
「あなたたちは、ダンジョンに入ったときから、好き合っていたじゃなぁい? 確かにぃ? サファとエッチするのをお預けにしたりとか、鬼畜なテオに、少しキュンだけど。でも、アレは主人がワンコを躾けるプレイでしょ? あたし、プレイは嘘くさくて、好きじゃないのぉ」
ここはボス部屋で、ユメバクはラスボスにしては弱すぎだったので。
たぶん、このくねくねしたドラゴンがラスボスなのだろうけど。
つか、プレイじゃねぇしっっ。
でもサファは、俺らが最初から好き合っていたというところに引っかかって、なにやら照れ照れしている。
おいっ、否定しろやっ。
「だけど、まぁ。ロマンティックだったのは、確かだわぁ? 夢の中でも、まさか、あ…」
「あなた、男ですよね?」
夢の中のことを暴露されたくなくて。俺はすかさず、誰も言わないけど、みんな思っている疑問について、たずねた。
「は?」
「つか、オスですよね? 口調がオネェですけど」
「ばかやろぉぉぉ! 俺は乙女だっつーのっ、空気読めやぁぁーーっ」
裏声だったドラゴンが、ドスの利いた男の声になって。ガオオォォォォォッと叫ぶ。
ほらぁ、男じゃーん。
つか、うまく話をそらして、過去話の暴露をなんとか回避できたな。
あの話は、誰にも知られたくなかった。
アレは、俺の黒歴史だ。
なんにもできなくて。なんにも生まれなくて。ただ死んだ。
と思っている場合ではなかった。
ドラゴンがガオォォォォォッと叫んだとき、ボス部屋の様相が一変して。
目の前にはピンク色の照明…この世界は、光源はランプだけなので。ピンクのランプというのはないはずなのだが。なにやら部屋がピンク色に染まった、大きなベッドのある部屋に、サファとふたりでいた。
『みなさぁん? あたしの元にたどり着いた、はじめてのお客様だからぁ、贔屓したいのは山々なんだけどぉ。あたしが丹精込めて作った魔剣を、簡単には渡せませんことよぉ?』
おーほほほ、と。悪役令嬢みたいな笑い方をする、ドラゴン。
姿は見えないが、声がオネェなのでわかります。
『最後の試練は、エッチをしないと出られない部屋よぉ? 魔剣をゲットするには、十回分の絶頂エネルギーが必要。まぁ、数多のエロい試練を乗り越えてきたあなた方なら、簡単なミッションね? だって、ひとり二回も極めれば、出られる部屋ですものぉ? でも、インターバルを置くと、ゲージは下がっていくから、気をつけてぇ? 連続絶頂がおすすめよ? さぁ、魔剣のラブゲージを満タンにして、あたしと勝負しましょ? 待っているわね?』
またもや、おーほほほ、と笑い声がして。
部屋の中は静かになった。
「えぇー…エッチしないと出られない部屋、だってさ」
「そうらしいな」
サファは、扉のノブを回したり、剣で殴ったりしているけど。開かないみたいだな。
「先生たちは、別部屋かな?」
「あぁ。ダンジョンに入ったときから、俺らの動向は見られていたようだから。カップル分けされたんだろ」
「………」
なんとなく、気まずい感じで。俺とサファはベッドに腰かけた。
はじめてラブホテルに入ったカップルみたい、だからではない。
だって。
間にいろいろ挟まったけど。さっき、頬を叩かれたからな。
それを、思い出して。手で頬を、ちょっとさすったりしたら。
サファが慌てて、俺の頬に手を添えた。
「ごめん、痛かったか?」
「いや、俺も悪かったし。でも、ユメバクを鑑定していたから。死んでも、元に戻れると思っていたんだよ」
「……ん」
そうは言っても。サファはやっぱり、受け入れられないみたい。
まぁ、そうだろうな? 好きだと言っていた相手が、いきなりマンションから飛び降りたら。そりゃ、驚くよ。
でも。あの夢から抜け出すには、俺が死ぬしかなかった。
ユメバクを鑑定して、見えた対処法が。夢主の死、だったからだ。
そして、あの夢は。田代が出てきた世界は。確かに俺の前世で。
だったら夢主は、俺しかいない。
まぁ、できれば。自分で死ぬのは普通に怖いし。サファが俺を殺してくれたら、良かったんだけど。
サファが、俺を殺す選択肢はないとか言って、夢の中で寿命で死ぬまで暮らすつもりみたいだったから。
それは、ダメだろうと思った。
だって、俺が死ねば元に戻れるって、攻略法がわかっているゲームだ。
いつまでも、その場にいる意味はない。
まぁ、生きて帰れるとは書いていなかったので。もしかしたら、本当に死ぬかもと。ちょっと覚悟をして。
サファと抱き合えるのは、これが最後かもしれないって。夢の中で思ったりしたけれど。
俺と生きるために生まれた。俺に手をかけたりしないって。泣きそうな顔でサファが言うから。
あぁ、サファには。冗談でも俺を殺すことはできないんだなって。わかってしまった。
そんなサファに、俺を殺させるのは、酷なことだ。
だから、自分で自分に手を下した。
サファを、無事に、この世界に戻すために…。
でも、そのことは。サファをいっぱい傷つけてしまったみたいだ。
いっぱい泣かせてしまったし。
勇者がぼろ泣きするのはどうかとは思うけど。
それだけショックだったんだろうから…ごめんな?
この場に俺がいることが、サファは嬉しいようで。
両手で俺の頬をさすりながら、額と額をくっつけて。俺の体温を確かめている。
ちゃんと生きているのを、確かめているみたいだな?
俺も。今こうして、生きて、サファと向かい合っていることが。とても嬉しいよ。
前世の記憶は、また、曖昧になって。
田代の顔も中本の顔も、わからなくなったけど。
目の前にサファがいて。
あぁ、サファの顔はこんなだったとか。
サファの声とか。大きくて、少しかさついた手のひらの感触とか。
匂いとか、呼吸の間とか。全部が、サファだなぁと実感したら。
俺もなんだか落ち着いた。
やっぱり前世のことを強制的に思い出させられて。心が揺さぶられて。いつもの感覚とは違っていて。精神的に窮地に追い込まれてはいたんだろうな?
しょっぱい前世は、苦しかったけど。
みんな無事に戻れたから…ま、いっか。
「つか、改まって、ここでエッチしろとか言われると。したくなくね?」
「いや…」
そのサファの返答に、驚く。
魔獣の思惑に乗りたくねぇとか、言うかと思ったから。
「いや?」
「俺はいつでも、テオとエッチしたいんで」
額をくっつけたまま、神妙に言うけど。言ってることと、顔の真面目具合が合ってない。
「サファ…どうしておまえは、俺の前では残念勇者なんだ?」
勇者サファイアは、高潔で威厳をたたえ、すべての国民の上に立つ超人である。
そのたたずまいは、美麗にして気高く、鋼の体躯、整った容貌は、まるで闘神の化身。
であるはずなのに。
俺の前にいるのは、俺を喰らう機会を狙うギラギラワンコなのだ。
「だって、テオを相手に、取り繕ったり、カッコつけたりしたくないんだ。ま、たまには。テオに良いところ見せたくて、張り切っちゃうけど。できれば俺は、素の自分で勝負したい、っていうか?」
拳を握ったサファが、俺の前でキリリとして。歯をきらりと輝かせて、最高の角度からの笑みを投げるが。
いつもの彼が、彼なもんだから。渾身のイケメンスマイルも、俺の胸には響かないのだ。
「そうか。サファは、素が残念なんだな?」
「なんだよぉ。そんなこと言うのは、テオだけなんだからなっ」
そう言って、頬を膨らますサファは。全く孤高の勇者らしくないのだった。
いつもの、クソエロ駄犬勇者。
だけど、それが。俺のサファなのだ。
それでいい。それが、いい。
俺は、愛おしさがこみ上げて。彼の髪に、指を差し入れて、やんわりと撫でる。
あぁ、柔らかい髪。
なんとなく、懐かしいって思ってしまい。指先でくしゃりと銀の髪をかき混ぜた。
「あのさ…夢の中のことだけど」
俺が切り出すと。サファは、少し苦い顔つきになって。俺の肩を抱いた。
ギュッて、彼の手が俺を掴む。
もう、どこへも行かないようにって。そんな気持ちが伝わる。
「過去は過去、今は今で、良いじゃん」
一言のあと、小さくため息をついて。再び、言葉を紡ぐ。
「俺は、前世が中本だっていう意識はないんだ。つか、前世というのが、いまだによくわからない。でも。もし、俺らの前身が、田代と中本だったとして。過去の俺らがダメダメだったとしてもさ。今は、過去の業を払拭できている。そう、思わないか? だって、俺は今。テオのことが好きだって、テオにいっぱい伝えているし。テオが恋人だって、誰にも胸を張って言える。テオも、前世では中本に言えなかったみたいだけど。俺のこと、好きって言ってくれたしな?」
「まぁ、そうだな」
過去でしてきた失敗は、今の世界でしていない。
つい最近まで、俺は。サファのことを拒否って、前世と同じこと繰り返していたみたいだけど。
今は彼のことを、好きだと認めて。
たまに、怒っちゃうけど。
好きの気持ちを表に出して。サファに笑いかけてもいるからな?
「だから、今度はね。そこを乗り越えた俺たちは、次のステージに行こう。一緒に、生きていこう。幸せになろう。長生きしよう、俺たち。俺がテオを、必ず、なにものからも守るから」
「…うん」
そうだ。そうなんだ。
もう、モヤがかかってしまった、前世のことは。終わったこと。
俺はこの世界で、サファと生きていく。
精一杯、生きて。できれば、幸せになれたらいい。
サファを愛しているって。想いを伝えていけたらいい。
俺のうなずきを見たサファは。ニッコリ笑って。
大きな体で、俺に抱きついてきて。
その体重で、俺をベッドに押し倒してきた。
ぐえっ、もう、体重差を考えてくれよっ。
「だけど、勇者の俺をいじめて、泣かせた罪は。重いぞぉ? 贖ってもらうからな、テーオ」
そして、俺の腹をコチョコチョとくすぐったり、頬や首筋にチュッチュしたり。罰とも思えない罰を、してくる。
「あはは、くすぐったいってぇ、やーめーろー」
「だぁめ、やめない。テオは一生、俺のそばで笑ってる刑、な?」
サファは囁いて、唇にキスをした。
ぽってりとした色っぽい唇は、微笑みの形をしたままで、俺の唇に吸いついてくる。
チュッと音をさせて、離れ。また、クチュッと押しつけて、俺の唇にまといつく。
俺の腹をくすぐっていた手先は、いつの間にか、官能を引き出すようなねっとりとした動きに変わり。俺のベルトや服の紐をほどいていく。
だけどキスは、唇をハムハムする優しいくちづけだ。
唇の触れ合いだけで、ゆっくりムードを盛り上げて。
サファはその間に、己の剣や装備や服を、乱暴にベッドの下に落としていった。
ひとつ、ハッと息をつき、俺の体をまたいでのしかかっていた体を引き起こすと、シャツを脱ぎ捨てる。
俺を見下ろすのは、均整の取れた筋肉がたくましい、青い瞳の美しい男だ。
「綺麗だな…」
寝たまま、手で、彼の腹筋を撫でる。
体の厚みも、筋肉の盛り上がりも、俺より頑健で、たくましくて、つやつやと肌に張りがあって。頼もしい。
「全部、おまえのものだ。テオ、俺の全部はテオのもの」
全部、と言われ。俺は腹筋から下に手をおろしていき。すでにズボンの中で窮屈そうになっているサファのソレに、手を這わせる。
サファは、熱い吐息をついた。
「ふ、テオが触ってくれるの、嬉しい」
「これも、俺のなんだろ? つか、こんなおっきいの、俺の中に入っていたとか、嘘だろ?」
サファのズボンの紐を解いて、下着から彼のモノを取り出すと。それはすでに隆々と天を向いて、己を主張しているが。両の手でないと包み込めない、そのあまりの長大さに、おののいて。俺は薄目で見やるのだった。
「嘘じゃねぇし。つか、テオは俺のこれで、奥をツンツンされるのが好きなんだからな?」
「う、そー」
「嘘じゃないってば」
サファは勇者パワーで、端っこにいた俺をベッドの中央に乗り上げさせて。
改めて、組み敷いた俺のことを、正面から見下ろした。
「両想いになってから、はじめてのエッチだね?」
まぁ、前世のことは、夢の中なので。
最後に田代の名を呼んだことを、サファは覚えていなかったから。
たぶん、あのときは中本の意識が強く出ていたんだろうな。
俺の胸に、田代の想いがあふれていたように…。
つまり、本当に、自身の生身の体をサファと合わせるのは。告白してからは、はじめてだ。
俺がうなずくと、サファは。唇にむちゅっとキスをして、唇を触れ合わせたままで囁いた。
「テオ、最高にハッピーなエッチ、しよ? いっぱい幸せで、ラブラブなやつ」
「して、サファ」
恥ずかしいから、言葉は少なくなっちゃうけど。
彼の体に手を回して、裸の胸と胸を合わせれば。俺の気持ちは伝わると思う。
俺も、サファと、幸せな気持ちで抱き合いたいんだって。
熱い気持ちで、ゆっくりと瞬きをし合って。
互いの気持ちが同じであると、微笑み合って。
俺たちは、深くて濃厚なくちづけを交わした。
胸の前で手をモミモミしている緑色のドラゴンが、モジモジしながら。勇者一行、いや、俺とサファに言っている。
「あなたたちは、ダンジョンに入ったときから、好き合っていたじゃなぁい? 確かにぃ? サファとエッチするのをお預けにしたりとか、鬼畜なテオに、少しキュンだけど。でも、アレは主人がワンコを躾けるプレイでしょ? あたし、プレイは嘘くさくて、好きじゃないのぉ」
ここはボス部屋で、ユメバクはラスボスにしては弱すぎだったので。
たぶん、このくねくねしたドラゴンがラスボスなのだろうけど。
つか、プレイじゃねぇしっっ。
でもサファは、俺らが最初から好き合っていたというところに引っかかって、なにやら照れ照れしている。
おいっ、否定しろやっ。
「だけど、まぁ。ロマンティックだったのは、確かだわぁ? 夢の中でも、まさか、あ…」
「あなた、男ですよね?」
夢の中のことを暴露されたくなくて。俺はすかさず、誰も言わないけど、みんな思っている疑問について、たずねた。
「は?」
「つか、オスですよね? 口調がオネェですけど」
「ばかやろぉぉぉ! 俺は乙女だっつーのっ、空気読めやぁぁーーっ」
裏声だったドラゴンが、ドスの利いた男の声になって。ガオオォォォォォッと叫ぶ。
ほらぁ、男じゃーん。
つか、うまく話をそらして、過去話の暴露をなんとか回避できたな。
あの話は、誰にも知られたくなかった。
アレは、俺の黒歴史だ。
なんにもできなくて。なんにも生まれなくて。ただ死んだ。
と思っている場合ではなかった。
ドラゴンがガオォォォォォッと叫んだとき、ボス部屋の様相が一変して。
目の前にはピンク色の照明…この世界は、光源はランプだけなので。ピンクのランプというのはないはずなのだが。なにやら部屋がピンク色に染まった、大きなベッドのある部屋に、サファとふたりでいた。
『みなさぁん? あたしの元にたどり着いた、はじめてのお客様だからぁ、贔屓したいのは山々なんだけどぉ。あたしが丹精込めて作った魔剣を、簡単には渡せませんことよぉ?』
おーほほほ、と。悪役令嬢みたいな笑い方をする、ドラゴン。
姿は見えないが、声がオネェなのでわかります。
『最後の試練は、エッチをしないと出られない部屋よぉ? 魔剣をゲットするには、十回分の絶頂エネルギーが必要。まぁ、数多のエロい試練を乗り越えてきたあなた方なら、簡単なミッションね? だって、ひとり二回も極めれば、出られる部屋ですものぉ? でも、インターバルを置くと、ゲージは下がっていくから、気をつけてぇ? 連続絶頂がおすすめよ? さぁ、魔剣のラブゲージを満タンにして、あたしと勝負しましょ? 待っているわね?』
またもや、おーほほほ、と笑い声がして。
部屋の中は静かになった。
「えぇー…エッチしないと出られない部屋、だってさ」
「そうらしいな」
サファは、扉のノブを回したり、剣で殴ったりしているけど。開かないみたいだな。
「先生たちは、別部屋かな?」
「あぁ。ダンジョンに入ったときから、俺らの動向は見られていたようだから。カップル分けされたんだろ」
「………」
なんとなく、気まずい感じで。俺とサファはベッドに腰かけた。
はじめてラブホテルに入ったカップルみたい、だからではない。
だって。
間にいろいろ挟まったけど。さっき、頬を叩かれたからな。
それを、思い出して。手で頬を、ちょっとさすったりしたら。
サファが慌てて、俺の頬に手を添えた。
「ごめん、痛かったか?」
「いや、俺も悪かったし。でも、ユメバクを鑑定していたから。死んでも、元に戻れると思っていたんだよ」
「……ん」
そうは言っても。サファはやっぱり、受け入れられないみたい。
まぁ、そうだろうな? 好きだと言っていた相手が、いきなりマンションから飛び降りたら。そりゃ、驚くよ。
でも。あの夢から抜け出すには、俺が死ぬしかなかった。
ユメバクを鑑定して、見えた対処法が。夢主の死、だったからだ。
そして、あの夢は。田代が出てきた世界は。確かに俺の前世で。
だったら夢主は、俺しかいない。
まぁ、できれば。自分で死ぬのは普通に怖いし。サファが俺を殺してくれたら、良かったんだけど。
サファが、俺を殺す選択肢はないとか言って、夢の中で寿命で死ぬまで暮らすつもりみたいだったから。
それは、ダメだろうと思った。
だって、俺が死ねば元に戻れるって、攻略法がわかっているゲームだ。
いつまでも、その場にいる意味はない。
まぁ、生きて帰れるとは書いていなかったので。もしかしたら、本当に死ぬかもと。ちょっと覚悟をして。
サファと抱き合えるのは、これが最後かもしれないって。夢の中で思ったりしたけれど。
俺と生きるために生まれた。俺に手をかけたりしないって。泣きそうな顔でサファが言うから。
あぁ、サファには。冗談でも俺を殺すことはできないんだなって。わかってしまった。
そんなサファに、俺を殺させるのは、酷なことだ。
だから、自分で自分に手を下した。
サファを、無事に、この世界に戻すために…。
でも、そのことは。サファをいっぱい傷つけてしまったみたいだ。
いっぱい泣かせてしまったし。
勇者がぼろ泣きするのはどうかとは思うけど。
それだけショックだったんだろうから…ごめんな?
この場に俺がいることが、サファは嬉しいようで。
両手で俺の頬をさすりながら、額と額をくっつけて。俺の体温を確かめている。
ちゃんと生きているのを、確かめているみたいだな?
俺も。今こうして、生きて、サファと向かい合っていることが。とても嬉しいよ。
前世の記憶は、また、曖昧になって。
田代の顔も中本の顔も、わからなくなったけど。
目の前にサファがいて。
あぁ、サファの顔はこんなだったとか。
サファの声とか。大きくて、少しかさついた手のひらの感触とか。
匂いとか、呼吸の間とか。全部が、サファだなぁと実感したら。
俺もなんだか落ち着いた。
やっぱり前世のことを強制的に思い出させられて。心が揺さぶられて。いつもの感覚とは違っていて。精神的に窮地に追い込まれてはいたんだろうな?
しょっぱい前世は、苦しかったけど。
みんな無事に戻れたから…ま、いっか。
「つか、改まって、ここでエッチしろとか言われると。したくなくね?」
「いや…」
そのサファの返答に、驚く。
魔獣の思惑に乗りたくねぇとか、言うかと思ったから。
「いや?」
「俺はいつでも、テオとエッチしたいんで」
額をくっつけたまま、神妙に言うけど。言ってることと、顔の真面目具合が合ってない。
「サファ…どうしておまえは、俺の前では残念勇者なんだ?」
勇者サファイアは、高潔で威厳をたたえ、すべての国民の上に立つ超人である。
そのたたずまいは、美麗にして気高く、鋼の体躯、整った容貌は、まるで闘神の化身。
であるはずなのに。
俺の前にいるのは、俺を喰らう機会を狙うギラギラワンコなのだ。
「だって、テオを相手に、取り繕ったり、カッコつけたりしたくないんだ。ま、たまには。テオに良いところ見せたくて、張り切っちゃうけど。できれば俺は、素の自分で勝負したい、っていうか?」
拳を握ったサファが、俺の前でキリリとして。歯をきらりと輝かせて、最高の角度からの笑みを投げるが。
いつもの彼が、彼なもんだから。渾身のイケメンスマイルも、俺の胸には響かないのだ。
「そうか。サファは、素が残念なんだな?」
「なんだよぉ。そんなこと言うのは、テオだけなんだからなっ」
そう言って、頬を膨らますサファは。全く孤高の勇者らしくないのだった。
いつもの、クソエロ駄犬勇者。
だけど、それが。俺のサファなのだ。
それでいい。それが、いい。
俺は、愛おしさがこみ上げて。彼の髪に、指を差し入れて、やんわりと撫でる。
あぁ、柔らかい髪。
なんとなく、懐かしいって思ってしまい。指先でくしゃりと銀の髪をかき混ぜた。
「あのさ…夢の中のことだけど」
俺が切り出すと。サファは、少し苦い顔つきになって。俺の肩を抱いた。
ギュッて、彼の手が俺を掴む。
もう、どこへも行かないようにって。そんな気持ちが伝わる。
「過去は過去、今は今で、良いじゃん」
一言のあと、小さくため息をついて。再び、言葉を紡ぐ。
「俺は、前世が中本だっていう意識はないんだ。つか、前世というのが、いまだによくわからない。でも。もし、俺らの前身が、田代と中本だったとして。過去の俺らがダメダメだったとしてもさ。今は、過去の業を払拭できている。そう、思わないか? だって、俺は今。テオのことが好きだって、テオにいっぱい伝えているし。テオが恋人だって、誰にも胸を張って言える。テオも、前世では中本に言えなかったみたいだけど。俺のこと、好きって言ってくれたしな?」
「まぁ、そうだな」
過去でしてきた失敗は、今の世界でしていない。
つい最近まで、俺は。サファのことを拒否って、前世と同じこと繰り返していたみたいだけど。
今は彼のことを、好きだと認めて。
たまに、怒っちゃうけど。
好きの気持ちを表に出して。サファに笑いかけてもいるからな?
「だから、今度はね。そこを乗り越えた俺たちは、次のステージに行こう。一緒に、生きていこう。幸せになろう。長生きしよう、俺たち。俺がテオを、必ず、なにものからも守るから」
「…うん」
そうだ。そうなんだ。
もう、モヤがかかってしまった、前世のことは。終わったこと。
俺はこの世界で、サファと生きていく。
精一杯、生きて。できれば、幸せになれたらいい。
サファを愛しているって。想いを伝えていけたらいい。
俺のうなずきを見たサファは。ニッコリ笑って。
大きな体で、俺に抱きついてきて。
その体重で、俺をベッドに押し倒してきた。
ぐえっ、もう、体重差を考えてくれよっ。
「だけど、勇者の俺をいじめて、泣かせた罪は。重いぞぉ? 贖ってもらうからな、テーオ」
そして、俺の腹をコチョコチョとくすぐったり、頬や首筋にチュッチュしたり。罰とも思えない罰を、してくる。
「あはは、くすぐったいってぇ、やーめーろー」
「だぁめ、やめない。テオは一生、俺のそばで笑ってる刑、な?」
サファは囁いて、唇にキスをした。
ぽってりとした色っぽい唇は、微笑みの形をしたままで、俺の唇に吸いついてくる。
チュッと音をさせて、離れ。また、クチュッと押しつけて、俺の唇にまといつく。
俺の腹をくすぐっていた手先は、いつの間にか、官能を引き出すようなねっとりとした動きに変わり。俺のベルトや服の紐をほどいていく。
だけどキスは、唇をハムハムする優しいくちづけだ。
唇の触れ合いだけで、ゆっくりムードを盛り上げて。
サファはその間に、己の剣や装備や服を、乱暴にベッドの下に落としていった。
ひとつ、ハッと息をつき、俺の体をまたいでのしかかっていた体を引き起こすと、シャツを脱ぎ捨てる。
俺を見下ろすのは、均整の取れた筋肉がたくましい、青い瞳の美しい男だ。
「綺麗だな…」
寝たまま、手で、彼の腹筋を撫でる。
体の厚みも、筋肉の盛り上がりも、俺より頑健で、たくましくて、つやつやと肌に張りがあって。頼もしい。
「全部、おまえのものだ。テオ、俺の全部はテオのもの」
全部、と言われ。俺は腹筋から下に手をおろしていき。すでにズボンの中で窮屈そうになっているサファのソレに、手を這わせる。
サファは、熱い吐息をついた。
「ふ、テオが触ってくれるの、嬉しい」
「これも、俺のなんだろ? つか、こんなおっきいの、俺の中に入っていたとか、嘘だろ?」
サファのズボンの紐を解いて、下着から彼のモノを取り出すと。それはすでに隆々と天を向いて、己を主張しているが。両の手でないと包み込めない、そのあまりの長大さに、おののいて。俺は薄目で見やるのだった。
「嘘じゃねぇし。つか、テオは俺のこれで、奥をツンツンされるのが好きなんだからな?」
「う、そー」
「嘘じゃないってば」
サファは勇者パワーで、端っこにいた俺をベッドの中央に乗り上げさせて。
改めて、組み敷いた俺のことを、正面から見下ろした。
「両想いになってから、はじめてのエッチだね?」
まぁ、前世のことは、夢の中なので。
最後に田代の名を呼んだことを、サファは覚えていなかったから。
たぶん、あのときは中本の意識が強く出ていたんだろうな。
俺の胸に、田代の想いがあふれていたように…。
つまり、本当に、自身の生身の体をサファと合わせるのは。告白してからは、はじめてだ。
俺がうなずくと、サファは。唇にむちゅっとキスをして、唇を触れ合わせたままで囁いた。
「テオ、最高にハッピーなエッチ、しよ? いっぱい幸せで、ラブラブなやつ」
「して、サファ」
恥ずかしいから、言葉は少なくなっちゃうけど。
彼の体に手を回して、裸の胸と胸を合わせれば。俺の気持ちは伝わると思う。
俺も、サファと、幸せな気持ちで抱き合いたいんだって。
熱い気持ちで、ゆっくりと瞬きをし合って。
互いの気持ちが同じであると、微笑み合って。
俺たちは、深くて濃厚なくちづけを交わした。
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