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35 しょっぱい初恋 テオ・ターン   ★

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     ◆しょっぱい初恋 テオ・ターン

 黒皮のソファに押し倒されている、俺。黒髪地味眼鏡の田代。
 押し倒している、やつ。アプリコットの髪のサファ。が、中に入っている中本。
「こいつが好きだったって言うなら。なんで笑いかけないんだ? 田代は、恋している顔じゃないよ」
 サファにそう言われて、俺は首を傾げる。
 まぁ、それは。意識してやっていることなのです。

「それはさ、好きですオーラを出したら、中本が引くと思って。それに俺の気持ちが、周りにバレてもマズいんだ。さっき、電車で説明したとおりにさ?」
「あの説明じゃ、全然わからないし。つか、ま、百歩譲って。周りにバレたくないから? 隠しているから? 外ではツンツンしているとしてもさ。この部屋に入ったら、笑ってもイイだろ?」
「だから、中本は。俺と本気で付き合っていたんじゃなくて。暇つぶしだったから…」
「あぁ、そこで、こじれてんだ。さっき、中本はテオのこと…じゃなくて田代のこと、本気で好きだったって、言ったろ?」
 こじれてると言われて。
 いかにも、俺の前世の初恋は、こじれていたなと思ってしまう。

「そうかもしれないけど。でも、俺が知ってる中本は、そうじゃなかったし…」
「あぁっ、もう。俺が嫌なの。この世界に来てから、テオは全然笑ってくれないし。テオも田代も、笑顔が最高に可愛いんだから。俺の前では笑ってくれなきゃ、嫌なんだっ」
 サファは俺の頬を、愛おしそうに手で撫でて。お願いワンコになる。

 そうだな? 好きなら、その好きの気持ちが表に出るのは自然なことで。
 気持ちを隠す方が、不自然なことだもん。
 好きなんだから、笑いかければいい。いつもサファにしているみたいに。

 夢に。過去の記憶に、引きずられることはない。

「わかった。サファ。エッチ、しよう」
 そう言ったら。サファはものの見事に、目を真ん丸にした。
「は? なんでそうなる? いきなり、なに言ってんの?」
 俺はサファの腕をかいくぐって。ソファから降りると。中本の自室に向かって歩いて行き、驚いたままのサファを手招きする。

「もしかしたら、この夢の中は。俺のしょっぱい初恋を、甘酸っぱく昇華するのに良い機会なのかもしれない。中にサファが入っているなら、俺も安心して体をゆだねられるし。思うままに、好きって気持ちを表していいし。誰にも怒られないし。笑っても、いい」
 そう言って、にっこり笑いかけた。

「中本に出来なかった、我慢していた想いを、表に出したいってこと?」
「全然うまくできなかった前世の初恋を、甘いものに変えたいってことさ。でもサファは、この体ではしたくない?」
 そういえば、俺の目に映っているのが、サファの姿ではないように。
 サファの目にも、俺はテオではなく田代なのだ。
 その気にならないかもしれないと思ったけど。

「いや。俺はいつだって。どんな姿だって。テオと抱き合いたいと思っている。いいんじゃないか? わだかまりをここで全部捨て去って。新しい俺とおまえで、この世界で生きていく。その、はじめの一歩だと思えば」
 サファは中本の部屋に入り込んで、俺をベッドに押し倒した。早業だな?

「この世界で生きるって…夢の中から脱出しないつもりか?」
「ん? 当たり前だろ? 俺にテオを殺す選択肢なんかねぇよ。俺はテオとここで生きる」
 それには、同意できなかった。
 夢の中にずっといるなんて、それじゃ、なにも解決しない。
 いつまでもユメバクに囚われたままになる。
 俺は首を横に振って、サファを説得する。

「バカな。おまえは勇者だよ? ヘルセリウム国の人たちを助けるために生まれてきたんだ。元に戻らなきゃ」
「いいや。俺はテオと生きるために生まれたんだ。俺の最愛を救えないで、勇者なんか名乗れるかっ。俺は、テオを手にかけたりしない。俺はテオとともに生きると誓った。どこだっていいじゃん。テオと生きられるのなら、どこだって…俺はどの世界でも、テオと一緒なら幸せだ」
 サファの決心は固かった。
 困ってしまうけど。こんなに熱く、俺とともにいることを望んでくれるサファに。
 これ以上、なにも言えなくなった。

「俺も、サファと一緒なら、どこでも幸せだよ」

 俺は彼を抱き寄せて、自分からキスした。
 中本には、嫌われたくなくて、できなかったこと。
 でも、サファなら。絶対に喜んでくれるよね?
 最初はぎこちなく、唇を合わせて。そのうち、サファが唇で唇をくすぐってくるから。
 フフって笑みをこぼしながら。幸せなキスをする。
「ほらぁ、やっぱり。笑顔が可愛い。一番可愛い田代の顔を知らないんだから、中本は馬鹿なやつだ。おあいにく様ぁって感じ?」

 顔は中本なのに。中本にディスられる中本。ウケる。
 つか、サファは。中本に厳し過ぎだな?

「でもさ、制服を脱がして、エッチするの。子供のテオとするみたいで、なんか背徳感があるな?」
「おいぃ、これでも十八なんだが? 前の俺らと同じ年なんだからな?」
 元の世界でも、俺は小柄な方だったけど。
 前世の俺は、同じ年でも、日本人という童顔種族ゆえ、さらに年相応に見えないという。

「そうか? なら、遠慮なく」
 ネクタイを外して、一番上まで止まっているシャツのボタンをはずしていく。そして、サファは包み紙を開くように丁寧にシャツの前を開き。俺の胸をあらわにすると。
 いきなり乳首を口に含んできた。

「んぁ、そこからかよぉ? 前世の俺は、そんなにエロ上級者じゃないんだからなっ」
 別に、元の世界でも、エロ上級者というわけではないが。
 間違いなく、経験は。この頃の俺よりも多いはずだ。
 サファのせいでな。

「聞きたくないけど、何回くらい?」
 俺の体を舐めて、官能を煽りながら、サファは聞いてくる。
「うーん、たぶん。二回くらい? 俺が痛がったから。あまり回数は多くなくて…」
「痛い? それはいけないな。じゃあ、いっぱいほぐして、良くしないと」
 素早く、俺の衣服を全部取り去ったサファは、ベッドサイドの引き出しからローションを取り出して、手にたっぷりと出した。
 つか、そこにそれがあるの、サファ知っているんだな? やっぱり中本と意識が同化しているのかな?

「男は濡れないからなって、よく言われた」
「うわぁ、中本、デリカシーないなぁ」
 濡れた手を、俺の後ろに塗りつけて。固いつぼみの口を開かせるように、ゆっくり、じっくり、ローションを馴染ませていく。
 元の世界では、結構早く、指を差し入れてきたけれど。
 本当に、初めての俺を抱くみたいに。丁寧に時間をかけて準備してくれた。

「ロマンティックな気分とか、睦言とかも、体をリラックスさせるエッセンスだってのに。そんなことを言ったら、体がこわばっちゃうじゃんか?」
 後ろをいじりながら、口は俺の陰茎を舐めて。サファは後孔以外からも俺の官能を引き出そうとしてくれた。
 うん。性に不慣れの体だから。後ろだけでなく、そこの刺激も欲しいかも。

「サファは、そういうの、すごく詳しいな? その、誰かと?」
 王都で、いっぱい経験を積んだんだろうなと、当たり前のように思っていた。
 だって、サファは。
 勇者で、最高のイケメンで、モテモテなのは当然だし。
 それに、最初から手慣れていたと思うから。

 でも、首を横に振った。
「誤解しないでくれよ? 俺、テオと体を合わせるときのことを考えて、王都で勉強はしたけど。実践はしてないから。テオとしたのが、正真正銘、最初のセックスだから」

 それは、驚いた。
 余裕の態度で、いつもリードされていたように思うし。
 相手には、彼は事欠かないと思っていたからな。
 つか、童貞同士で、最初から気持ち良いセックスとか。奇跡だよ。
 うぅ、ゲコヌメェの奇跡なのか…そう思いたくないぃ。けど。
 少なくとも、俺と中本の初体験はさんざんだった。痛くて、泣いたし。

「俺の婚約者は、テオだと思っていた。だから絶対、男同士でそういうことになるわけじゃん。でも、どうしても最初は痛いって聞いてて。だけど絶対テオに、痛い思いをさせたくなくて。医学書を読みあさったし。経験者からもいっぱい話を聞いたんだよ。だって、テオに気持ち良くなってほしいからさ?」
 すると、後孔に差し込まれた指の先に、あの、すっごく感じる部分があって。そこに触れた。
「んっふ…あ、サファ」
「ここに、男の良い部分があるとかね? いっぱい勉強したんだよ?」

 褒めて、とばかりに。俺の頬にチュウをしてくるから。
 俺はサファの髪をやんわり撫でた。
 でも、いつものふんわりした髪質ではなくて。あぁ、中本なんだって、思うけど。
 俺は中本の髪をこんな風に触ったことはなかったなと、改めて思い出した。

「痛くない?」
 優しく、サファに聞かれて。俺はこくりとうなずく。
 なんか、猛烈に、恥ずかしいなっ。今更感、というか。
 ま、この体は、はじめてみたいなものだけど。
 だって俺は、男同士の性交に慣れなくて。
 中本としたとき、気持ち良くなったことがなかったから。

「じゃあ、ゆっくり、広げるね?」
 元の世界で、サファと抱き合ったときと比べて、自分の体が固いなって思った。
 もっと柔らかく、柔軟に彼を受け入れられたと思っていたのに。
 サファの指にも、違和感を感じてしまう。
 田代の体内にある、快楽の芽が、芽吹いていないというか。感じる部分が未熟、というか。
 だけど、サファが一生懸命、俺をほぐしてくれたから。
 最初は違和感があった指の動きにも、だんだん慣れてきて。
 くちゅくちゅと音を立てて、スムーズに抜き差しできるようになると。じわじわと、中で気持ち良さを感じられるようになって。
 彼を迎え入れられると思えた。

「いいよ、来て」
 俺が手を広げると。サファは正面から俺を抱きしめて。ギュっとしてくれた。
 それだけで、なんだか心がポカポカして、嬉しくなる。
 そして、後ろに剛直があてがわれた。
 慎重に、じれったいくらいにゆっくりと。つぼみを割り広げながら、サファは挿入した。
「全部、入ったよ。大丈夫? 痛くない?」
 やっぱり、彼のモノは大きくて。苦しくて。息も上がってしまうけど。
 だけど、温かくて。
 体の中に愛する人がいるんだって。そう思うと。愛おしさが胸にあふれて。
 彼の気遣いが、くすぐったくて。
 俺は微笑んだ。

「大丈夫だよ、動いて」
 サファは、ゆっくり腰を前後させる。剛直の先の方で、中の良いところをこすられると。ジンと、いつも感じていた、あの気持ち良い感覚が湧きあがってきて。
「はぅ、いい。いいよ、サファ。気持ち良い」
「そう? 良かった。テオに痛い思いはさせないよ? 大好き、テオ」
 あぁ、俺の大好きなサファがそばにいる。
 そう思えば、どんどん気持ち良くなってきて。
「ん、ふ…ぅは、んっ」
 ようやく熱くなってきた体が、官能を生んで。声を喘がせる。
 俺の様子を見ながら、サファの動きも徐々に大胆になってくる。
「は、あ…きつぅ、すごい、締めつけ。テオ、大丈夫?」
「ん、平気。サファ、好き。もっと、して?」

 もしかしたら、これが最後かもしれないから。俺は、せつない気持ちで彼をきつく抱いて。快楽に溺れた。

 サファとは、いろんな体位を今までしてきたけど。
 今は、スタンダードに、正常位で抱いている。
 キスをしながら、ただ腰を揺らすだけとか。本当に、高校生の、はじめての…みたいで。
 なんか、おかしい。

「サファ? いつもみたいに動いていいんだよ?」
「でも、傷つけたくないから。ここにはゲコヌメェのローションも、カバゴンの媚薬もないからな?」
 この世界で、ゲコヌメェとか言われると、違和感が半端なくて、笑ってしまう。
 だけどサファは、いつもの余裕の笑みではなく、ちょっと苦笑気味に、口角をあげた。
「それに、なんか、初体験みたいな気分なんだ。エロダンジョンとかに入る前に、テオを抱いたら、こんなんだったかなぁって?」
「初々しいってことか? 失礼だな。テオの俺は、ベテランおばちゃんみたいに思ってんのかよ?」
 なんか、情交の最中に、こんなベラベラしゃべっているのが、もう、ムードないっていうか?
 こういうところが、ベテランっぽいのかもしれないけど?

「それはそれで、いいところはいっぱいあるし? 気持ち良いこと、いっぱい楽しめるからいいけどな?」
 だけどサファは、そう言って、妖しげにエロティックに笑った。
 ベテランおばちゃんで楽しんでいるのなら、いいけどぉ。
「てか、俺だって、サファとするの、片手で数えるくらいなんだからなっ? おばちゃん扱い禁止ぃ」
「おばちゃんは、自分で言い出したんだろ? もう、テオはいちいち可愛いこと言うんだからっ」
 そう言って、サファは。俺の頬をカジカジしながら、喉の奥で笑うのだ。
 うぅ、低音が響いて。声、色っぽすぎぃ。
 尾てい骨がぞわぞわしちゃうってぇ。

「でも、この体。すごく敏感で。あまり、もたないかも。テオの中が、良くって、良くって、たまんない…」
 そうして、我慢の糸が切れたみたいに、少し荒々しく動き始めた。
「あ、んぁ、サファ…ん、あっ」
「ごめん、腰、止まんね…すげ、良い。やばっ、うぁ」
 なんか、余裕のないサファも珍しく感じて。
 俺は、可愛いって思っちゃって。サファを手で抱きしめて。受け止めた。
「ふふ、そこ、いい。ん、もっと、して? んぁぁ、いい」

「気持ち良いのか? 裕」

 その言葉を聞いて。前世の名前を呼ばれて。
 驚いて、彼を見たら。
 歯を食いしばって、官能に耐える、高校生の中本が、そこにいた。

「はじめて、感じてくれたな? あぁ、嬉しい。好き。好きだよ…裕」

 はじめて彼に、名前を呼ばれて。好きだと言ってもらえたような、気になって。
 熱いなにかが、胸にこみ上げて。
 俺は、心のままに彼の首に抱きついて。叫んだ。

「俺も好きっ、晴っ」

 そして、一気に高みを駆け上って。俺たちは同時に絶頂を迎えた。

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