36 / 43
34 文明の利器、使いこなしてんじゃん? テオ・ターン
しおりを挟む
◆文明の利器、使いこなしてんじゃん? テオ・ターン
夢の中だというのに、真面目に授業を受けて。放課後になったら。
サファからラインが来た。
画面には、いつものところで、という。中本がいつも送ってくる文面と同じ文字が並んでる。
サファ、朝はトイレを見て、はしゃいでいたというのに。
もう文明の利器、使いこなしてんじゃん?
とりあえず、俺は席を立ち。教室を出る。
俺に話しかけるやつなど、ひとりもいない。それは、前世と同じことだ。
だって。俺はわざと、目立たないように心掛けていたから。
一年生のときに、中本とちょっと仲良くなって。
でも、中本は仕事の関係で、学校を欠席しがちだったから。二年でクラスが違えば、もう顔を合わさなくなって。
だけど中本と仲良くなりたい女子や男友達から。
いい気になるなって。中本に付きまとうなって。俺と彼とは住む世界が違うんだって、脅された。
確かに彼は、外見が派手で、モデルで学生のうちからひと稼ぎしているし。
おしゃれで、気さくで、スポーツ万能で。陽キャイケメン、人生勝ち組。
ただ一点、勉強だけは苦労していたけど。
唯一の、彼との接点が、そこだった。
休みがちで、授業についていけなくなった中本に、当時学級委員だった俺が、勉強を教えたんだ。
とはいえ、俺は普通に、ゲームも本も好きなオタクで。
さらに勉強しか取り柄のない、おしゃれ皆無の地味眼鏡だから。中本と釣り合わないと言われたら、その通りだ。
はいはい、自分とは住む世界が違うのは、明らかでございますとも。文句なんかありません。
だから。そんな、俺なんかを脅さなくたって。中本はもう、俺なんか見てやしなかったよ。
クラスが分かれたら、速攻、他人。そういうもんさ。
でも、中本に群がる陽キャ勢に目をつけられたくなかったから。彼らの視界に入らないよう、クラスの隅でひっそりしていたのだ。
痛くない腹を探られたくないし。
こちらは穏便に、学校生活を送りたいだけ。
たまに、彼を見かけられたら。それで、満足だった。
だけど中本は。三年になると、なぜか再び、俺の前に立ちはだかった。
「委員長、前みたいに、また勉強を教えてよ。今度は誰にも内緒で、な?」
中本は高校三年生になると、学校を無事に卒業するため仕事をセーブするようになった。
進学しないで、卒業したら芸能活動をするというなら、それなりの成績で卒業しろ。と、親に課されたらしい。
「今まで放置してたくせに、体面ばかり気にしてさ。うっざ」
それが、中本の口癖。
自分の稼ぎでタワマンにひとり暮らししている中本は。放課後、俺を必ず呼んで。
勉強をするが。
すぐに飽きて。暇つぶしだと称して、キスをした。
「マネが、女関係で揉めるなって、うるさくて」
つまり、女の代わりに触らせて、ということらしい。
「田代、こんなこと頼めるの、おまえだけだ」
肩を組んで、女を口説くようなセリフで耳元に囁かれたら。
そういうことに免疫のない俺は。どう対処したらいいかわからなくて。
そして、いつの間にか。そういうことになっていた。
「は? 用事がある? 用事なんて、大したことないんだろ? いつも俺を優先しろよ」
ちょっと荒い言葉遣いでゴリ押しされたら、断り切れなくて。
「髪、柔らかいな? なんか、いい匂いがする」
「えぇ? 帰っちゃうの? 俺が暇になるじゃん。泊っていけよぉ」
「田代は、俺の言うことならなんでも聞いてくれるんだよな? 優しいなぁ、俺の委員長は」
そして甘えるように言われると。悪い気はしなくて。
「あぁ、いいぜ、すっげ、気持ちいい。でも、おまえは痛そう。どうしたら、痛くなくなるのかな? なぁ、田代はどうするのが好き? これは? ここは好き?」
体を合わせるときは、お姫様のように大事に大事にしてくれた。
だけど、これは。秘密の関係。誰にも言えない、後ろめたい関係だった。
いつものところで、と言われた場所。焼却炉のある学校の裏庭、そこにベンチがふたつあって。
ひとつに、中本が腰かけていて。
俺は、もうひとつのベンチに腰掛ける。
「なんで、隣に座らねぇんだよ、テオ」
そうだった、中身はサファだった。
なんとなく夢に引きずられて、過去の田代裕の意識が強くなっているみたいだな?
俺はスマホに書き入れる。チョリンと中本のスマホが鳴って。彼がそれを見やる。
『以前はこの距離感だった。俺は中本と学校では話せない』
誰にも内緒で、と言われているのだ。誰かにみつけられても言い訳できる距離感じゃないと…。
「なんでだよっ」
でも、そんなこと。サファにはわからないよね?
牙をむいて怒るサファに、俺はスマホを振って見せた。
彼は、ムッとしつつも、スマホを操る。おぉ、すごいじゃん。
『友達なんだから、普通に学校で話せばいい』
『俺は陰キャでおまえは陽キャ、住む世界が違う』
『同じ世界にいる。つか』
サファは立ち上がって、俺を見やり。また声を出して、言った。
「コソコソ隠れて、おまえに勉強教わって、おまえを秘密の恋人にしている、こいつ。俺は嫌い。つか、ここは夢の中なんだろ? 誰に遠慮がいるっていうんだ?」
中本の中に入っても、いつもの堂々とした態度を崩さないサファを、俺はまぶしいと思って。
俺もベンチから立ち上がって、サファをみつめる。
「それもそうだな? ここは夢の中だ。とはいえ、田代は人目が気になるタイプだから。家に行こう」
「家? って、どこ?」
「中本の家だ。ついてきて」
学校から電車に乗って、勝手知ったる中本のタワマンに向かう。
その間に、この世界の基本情報を、サファに教えておかないとならない。
そうでないと、一方的にサファに嫌われる中本が可哀想だからな。
「俺らがいた世界は、同性との婚姻システムもあって、割と同性とのお付き合いが寛容だけど。この、俺の前世の世界では、同性と付き合うこと自体が、まだ公に出来にくい風潮があった。同性カップルは、からかいの対象になったり。奇異な目で見られたり。仕事にも支障が出る。だから、同性で付き合うときは、その関係を周りに知られないよう、配慮しなければならなかった」
「テオと付き合ったら、仕事がなくなるっていうのか? そんな仕事、辞めちまえ」
「乱暴なご意見、ありがとうございます」
サファは、この世界の仕組み自体を怒っているみたい。
まぁ、心のままに生きるサファには。生きにくい世界なんだろうな?
もしも俺との関係を隠さなきゃならないとなったら、相当なストレスがかかりそう。それが容易に想像できる。
「さらに、スクールカーストというものがあって。派手なグループと地味なグループの人が接触すると、なんでってなったり?」
「なんで、ってなにが? 自分の性格に合わせて友達を選ばなきゃならないってこと? 同じ性質のものが寄り集まっても、面白くねぇだろ?」
「なんでかは、俺もわからないけど。俺らの世界にもあったじゃないか? 勇者には聖女がお似合い、とか? 村の女の子に、俺とサファが踊るのは変って言われたり?」
「それは、まぁ、外野はグダグダ言うが。女子は、俺がテオだけと遊ぶから嫉妬したんじゃね?」
「ま、そういう、嫉妬みたいなものも、あるのかも。そんな感じ」
「変な世界だな? 俺には合わねぇ。テオと手もつなげないなんて、無理」
電車の中で、サファが俺の手を握る。途端に、周囲の視線が刺さるように思えた。
サファは、見て見ぬふりだが。
俺は、恥ずかしくて、うつむいてしまった。
いや、俺ではなく。たぶん、田代がだけど。
モデルとしても、若手俳優としても売り出し中の中本が、誰かに見咎められないかと、思いはしたが。
これは夢だから大丈夫と。俺は己に言い聞かせた。
駅の近くの、タワマン十八階。
そこまで行き、中本の表札の前で止まる。俺がうながすと、サファはよどみなくカギを取り出し、中に入った。
「なんか、黒くて暗い部屋だな?」
サファが言うのに、俺は答える。
「モノトーンを基調にした、スタイリッシュな部屋って言うんだよ」
「俺は、緑が好き。あ、中本は田代の黒髪が好きで、部屋を黒くしたのかもな?」
「それはない。中本は別に、俺が好きだったわけじゃないよ」
速攻、否定したら。なんでかサファが怒った。
「は? 好きだったよ。テオも、わかるだろ?」
「わからないよ、そんなことを言われたことはなかったし。それに、中本は。仕事の関係で、女性と遊べないから、代わりに俺で遊んでいただけだ」
黒皮製のソファにそっと腰かけて、そう言うと。
サファはどっかりと俺の隣に並んで座る。
「こいつ、それを言わなくて。こいつのそういうところ、俺、マジ嫌いだけど。中本は田代のことを好きで、大事にしたいとか、可愛いとか、思っていたぞ?」
サファの言うことは、信じたいけど。俺は納得できなくて、眉間を寄せる。
だって、好きとか大事とか可愛いとか、そんな感じを中本から受けたことがなかったから。
「それはもしかしたら、俺の願望なんじゃないかな? サファが入っている中本は、俺の夢の中の中本だもん。そうだったらいいなっていう、俺に都合のいい中本なんじゃないか?」
「都合がいい中本なら、もっと美化されていてもイイだろ? でも、中に入っている俺が、いけすかねぇって思うくらいだからな? テオの願望は入ってないし。その上で、中本は田代が好きだった。それは、確かだよ」
サファはひと息ついて、再び俺に牙をむく。
「っていうか、テオこそ。昼間は中本が初恋なんて言っていたけど、本当なのか? 無理やり付き合わされていただけなんじゃないのか? そうだったら、俺。マジで中本、許せないからっ」
「中本が中本に怒っているの、ウケる」
くすっと笑うと。
サファが、俺の頬を両手で包んだ。
「テオ、今、俺の前で初めて笑ったんだぜ? なぁ中本のこと、すっごくつらそうな顔で見ているの、わかってる? 好きじゃないなら、無理することない」
「好きだよ。好き、だった」
中本は覚えていないかもしれないけど。
高校受験の日に、俺は新調した眼鏡の度が合わなくて。電車に酔ってしまったんだ。
眼鏡をはずして、ベンチで、気持ち悪いのをやり過ごそうとしていた。
目の前を、受験生らしい生徒が横切っていって。焦れば焦るほど、具合が悪くなって。
でも、誰も助けてくれなくて。
そりゃ、そうだ。ライバルだもんな?
そんな中で。中本が俺の手を引っ張ってくれた。
「具合が悪いのか? でも、遅刻したら試験が受けられなくなる。駅のホームじゃなくて、試験会場で休んでいた方がいいよ。その方が、どうにでもなるだろ?」
「ただ、それだけだけど。俺は、それだけで、胸に刺さったというか」
そんな話をしたら、サファは中本の顔でふてくされて。
「あああああぁ、聞きたくない。俺とじゃない、テオの恋バナとかっ」
ぶすくれワンコになった。
いや、前世の話だし。
「だからね。俺は、好きだったから。なにをされても、ただそばにいられたら良かったんだけど。中本にその気はないじゃん? たまたま勉強を教えてくれる同級生ってだけなのに。中本のことを好きな俺が、そばにいて、触れたりしてもいいのかなって。そんな当時の気持ちを思い出したんだよ」
「なに言ってんだ? 田代に触れたのは、手を出したのは、中本じゃん。好きの一言も言わないで。テオは、もっと怒ればいい。俺には怒るじゃん? 許可なく触るなって。なんで中本に怒んないの?」
とうとうサファは、激おこワンコになった。
「俺より中本が好きなのか? だから中本は怒らないけど、俺には怒るのかよっ? 俺の方がテオを好きだし、いい男なのにぃっ」
ガバッと抱き締めて、ソファに押し倒された。
あ、ウザワンコだった。
夢の中だというのに、真面目に授業を受けて。放課後になったら。
サファからラインが来た。
画面には、いつものところで、という。中本がいつも送ってくる文面と同じ文字が並んでる。
サファ、朝はトイレを見て、はしゃいでいたというのに。
もう文明の利器、使いこなしてんじゃん?
とりあえず、俺は席を立ち。教室を出る。
俺に話しかけるやつなど、ひとりもいない。それは、前世と同じことだ。
だって。俺はわざと、目立たないように心掛けていたから。
一年生のときに、中本とちょっと仲良くなって。
でも、中本は仕事の関係で、学校を欠席しがちだったから。二年でクラスが違えば、もう顔を合わさなくなって。
だけど中本と仲良くなりたい女子や男友達から。
いい気になるなって。中本に付きまとうなって。俺と彼とは住む世界が違うんだって、脅された。
確かに彼は、外見が派手で、モデルで学生のうちからひと稼ぎしているし。
おしゃれで、気さくで、スポーツ万能で。陽キャイケメン、人生勝ち組。
ただ一点、勉強だけは苦労していたけど。
唯一の、彼との接点が、そこだった。
休みがちで、授業についていけなくなった中本に、当時学級委員だった俺が、勉強を教えたんだ。
とはいえ、俺は普通に、ゲームも本も好きなオタクで。
さらに勉強しか取り柄のない、おしゃれ皆無の地味眼鏡だから。中本と釣り合わないと言われたら、その通りだ。
はいはい、自分とは住む世界が違うのは、明らかでございますとも。文句なんかありません。
だから。そんな、俺なんかを脅さなくたって。中本はもう、俺なんか見てやしなかったよ。
クラスが分かれたら、速攻、他人。そういうもんさ。
でも、中本に群がる陽キャ勢に目をつけられたくなかったから。彼らの視界に入らないよう、クラスの隅でひっそりしていたのだ。
痛くない腹を探られたくないし。
こちらは穏便に、学校生活を送りたいだけ。
たまに、彼を見かけられたら。それで、満足だった。
だけど中本は。三年になると、なぜか再び、俺の前に立ちはだかった。
「委員長、前みたいに、また勉強を教えてよ。今度は誰にも内緒で、な?」
中本は高校三年生になると、学校を無事に卒業するため仕事をセーブするようになった。
進学しないで、卒業したら芸能活動をするというなら、それなりの成績で卒業しろ。と、親に課されたらしい。
「今まで放置してたくせに、体面ばかり気にしてさ。うっざ」
それが、中本の口癖。
自分の稼ぎでタワマンにひとり暮らししている中本は。放課後、俺を必ず呼んで。
勉強をするが。
すぐに飽きて。暇つぶしだと称して、キスをした。
「マネが、女関係で揉めるなって、うるさくて」
つまり、女の代わりに触らせて、ということらしい。
「田代、こんなこと頼めるの、おまえだけだ」
肩を組んで、女を口説くようなセリフで耳元に囁かれたら。
そういうことに免疫のない俺は。どう対処したらいいかわからなくて。
そして、いつの間にか。そういうことになっていた。
「は? 用事がある? 用事なんて、大したことないんだろ? いつも俺を優先しろよ」
ちょっと荒い言葉遣いでゴリ押しされたら、断り切れなくて。
「髪、柔らかいな? なんか、いい匂いがする」
「えぇ? 帰っちゃうの? 俺が暇になるじゃん。泊っていけよぉ」
「田代は、俺の言うことならなんでも聞いてくれるんだよな? 優しいなぁ、俺の委員長は」
そして甘えるように言われると。悪い気はしなくて。
「あぁ、いいぜ、すっげ、気持ちいい。でも、おまえは痛そう。どうしたら、痛くなくなるのかな? なぁ、田代はどうするのが好き? これは? ここは好き?」
体を合わせるときは、お姫様のように大事に大事にしてくれた。
だけど、これは。秘密の関係。誰にも言えない、後ろめたい関係だった。
いつものところで、と言われた場所。焼却炉のある学校の裏庭、そこにベンチがふたつあって。
ひとつに、中本が腰かけていて。
俺は、もうひとつのベンチに腰掛ける。
「なんで、隣に座らねぇんだよ、テオ」
そうだった、中身はサファだった。
なんとなく夢に引きずられて、過去の田代裕の意識が強くなっているみたいだな?
俺はスマホに書き入れる。チョリンと中本のスマホが鳴って。彼がそれを見やる。
『以前はこの距離感だった。俺は中本と学校では話せない』
誰にも内緒で、と言われているのだ。誰かにみつけられても言い訳できる距離感じゃないと…。
「なんでだよっ」
でも、そんなこと。サファにはわからないよね?
牙をむいて怒るサファに、俺はスマホを振って見せた。
彼は、ムッとしつつも、スマホを操る。おぉ、すごいじゃん。
『友達なんだから、普通に学校で話せばいい』
『俺は陰キャでおまえは陽キャ、住む世界が違う』
『同じ世界にいる。つか』
サファは立ち上がって、俺を見やり。また声を出して、言った。
「コソコソ隠れて、おまえに勉強教わって、おまえを秘密の恋人にしている、こいつ。俺は嫌い。つか、ここは夢の中なんだろ? 誰に遠慮がいるっていうんだ?」
中本の中に入っても、いつもの堂々とした態度を崩さないサファを、俺はまぶしいと思って。
俺もベンチから立ち上がって、サファをみつめる。
「それもそうだな? ここは夢の中だ。とはいえ、田代は人目が気になるタイプだから。家に行こう」
「家? って、どこ?」
「中本の家だ。ついてきて」
学校から電車に乗って、勝手知ったる中本のタワマンに向かう。
その間に、この世界の基本情報を、サファに教えておかないとならない。
そうでないと、一方的にサファに嫌われる中本が可哀想だからな。
「俺らがいた世界は、同性との婚姻システムもあって、割と同性とのお付き合いが寛容だけど。この、俺の前世の世界では、同性と付き合うこと自体が、まだ公に出来にくい風潮があった。同性カップルは、からかいの対象になったり。奇異な目で見られたり。仕事にも支障が出る。だから、同性で付き合うときは、その関係を周りに知られないよう、配慮しなければならなかった」
「テオと付き合ったら、仕事がなくなるっていうのか? そんな仕事、辞めちまえ」
「乱暴なご意見、ありがとうございます」
サファは、この世界の仕組み自体を怒っているみたい。
まぁ、心のままに生きるサファには。生きにくい世界なんだろうな?
もしも俺との関係を隠さなきゃならないとなったら、相当なストレスがかかりそう。それが容易に想像できる。
「さらに、スクールカーストというものがあって。派手なグループと地味なグループの人が接触すると、なんでってなったり?」
「なんで、ってなにが? 自分の性格に合わせて友達を選ばなきゃならないってこと? 同じ性質のものが寄り集まっても、面白くねぇだろ?」
「なんでかは、俺もわからないけど。俺らの世界にもあったじゃないか? 勇者には聖女がお似合い、とか? 村の女の子に、俺とサファが踊るのは変って言われたり?」
「それは、まぁ、外野はグダグダ言うが。女子は、俺がテオだけと遊ぶから嫉妬したんじゃね?」
「ま、そういう、嫉妬みたいなものも、あるのかも。そんな感じ」
「変な世界だな? 俺には合わねぇ。テオと手もつなげないなんて、無理」
電車の中で、サファが俺の手を握る。途端に、周囲の視線が刺さるように思えた。
サファは、見て見ぬふりだが。
俺は、恥ずかしくて、うつむいてしまった。
いや、俺ではなく。たぶん、田代がだけど。
モデルとしても、若手俳優としても売り出し中の中本が、誰かに見咎められないかと、思いはしたが。
これは夢だから大丈夫と。俺は己に言い聞かせた。
駅の近くの、タワマン十八階。
そこまで行き、中本の表札の前で止まる。俺がうながすと、サファはよどみなくカギを取り出し、中に入った。
「なんか、黒くて暗い部屋だな?」
サファが言うのに、俺は答える。
「モノトーンを基調にした、スタイリッシュな部屋って言うんだよ」
「俺は、緑が好き。あ、中本は田代の黒髪が好きで、部屋を黒くしたのかもな?」
「それはない。中本は別に、俺が好きだったわけじゃないよ」
速攻、否定したら。なんでかサファが怒った。
「は? 好きだったよ。テオも、わかるだろ?」
「わからないよ、そんなことを言われたことはなかったし。それに、中本は。仕事の関係で、女性と遊べないから、代わりに俺で遊んでいただけだ」
黒皮製のソファにそっと腰かけて、そう言うと。
サファはどっかりと俺の隣に並んで座る。
「こいつ、それを言わなくて。こいつのそういうところ、俺、マジ嫌いだけど。中本は田代のことを好きで、大事にしたいとか、可愛いとか、思っていたぞ?」
サファの言うことは、信じたいけど。俺は納得できなくて、眉間を寄せる。
だって、好きとか大事とか可愛いとか、そんな感じを中本から受けたことがなかったから。
「それはもしかしたら、俺の願望なんじゃないかな? サファが入っている中本は、俺の夢の中の中本だもん。そうだったらいいなっていう、俺に都合のいい中本なんじゃないか?」
「都合がいい中本なら、もっと美化されていてもイイだろ? でも、中に入っている俺が、いけすかねぇって思うくらいだからな? テオの願望は入ってないし。その上で、中本は田代が好きだった。それは、確かだよ」
サファはひと息ついて、再び俺に牙をむく。
「っていうか、テオこそ。昼間は中本が初恋なんて言っていたけど、本当なのか? 無理やり付き合わされていただけなんじゃないのか? そうだったら、俺。マジで中本、許せないからっ」
「中本が中本に怒っているの、ウケる」
くすっと笑うと。
サファが、俺の頬を両手で包んだ。
「テオ、今、俺の前で初めて笑ったんだぜ? なぁ中本のこと、すっごくつらそうな顔で見ているの、わかってる? 好きじゃないなら、無理することない」
「好きだよ。好き、だった」
中本は覚えていないかもしれないけど。
高校受験の日に、俺は新調した眼鏡の度が合わなくて。電車に酔ってしまったんだ。
眼鏡をはずして、ベンチで、気持ち悪いのをやり過ごそうとしていた。
目の前を、受験生らしい生徒が横切っていって。焦れば焦るほど、具合が悪くなって。
でも、誰も助けてくれなくて。
そりゃ、そうだ。ライバルだもんな?
そんな中で。中本が俺の手を引っ張ってくれた。
「具合が悪いのか? でも、遅刻したら試験が受けられなくなる。駅のホームじゃなくて、試験会場で休んでいた方がいいよ。その方が、どうにでもなるだろ?」
「ただ、それだけだけど。俺は、それだけで、胸に刺さったというか」
そんな話をしたら、サファは中本の顔でふてくされて。
「あああああぁ、聞きたくない。俺とじゃない、テオの恋バナとかっ」
ぶすくれワンコになった。
いや、前世の話だし。
「だからね。俺は、好きだったから。なにをされても、ただそばにいられたら良かったんだけど。中本にその気はないじゃん? たまたま勉強を教えてくれる同級生ってだけなのに。中本のことを好きな俺が、そばにいて、触れたりしてもいいのかなって。そんな当時の気持ちを思い出したんだよ」
「なに言ってんだ? 田代に触れたのは、手を出したのは、中本じゃん。好きの一言も言わないで。テオは、もっと怒ればいい。俺には怒るじゃん? 許可なく触るなって。なんで中本に怒んないの?」
とうとうサファは、激おこワンコになった。
「俺より中本が好きなのか? だから中本は怒らないけど、俺には怒るのかよっ? 俺の方がテオを好きだし、いい男なのにぃっ」
ガバッと抱き締めて、ソファに押し倒された。
あ、ウザワンコだった。
111
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。
夏笆(なつは)
BL
公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。
ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。
そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。
初めての発情期を迎えようかという年齢になった。
これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。
しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。
男性しか存在しない、オメガバースの世界です。
改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。
※蔑視する内容を含みます。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる