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30 ロマンティックが止まらないっ テオ・ターン

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     ◆ロマンティックが止まらないっ テオ・ターン

 まさか。勇者には誰もかなわないから、俺がサファより弱いのは当たり前、だなんて言われるとは思わなかった。
 でも、確かに。そうなんだよ。
 勇者のサファに勝てるやつは、この世にいない。
 でも、俺は。
 サファは俺の幼馴染で。子供のときから強かったけど。なんていうか。同い年の子とタメを張れないのが、なんか、嫌だったわけだ。
 勇者には勝てないって、わかっているのに。
 幼馴染にはギリ勝てんじゃないかって。
 でも、やっぱり勝てないから、サファきらーいって。そんな頭の悪いことを考えていたわけ。

 改めて考えると、この、おバカな勘違い思考がとても恥ずかしい。

 でもサファは。そんな謎思考でグルグルしていた俺を、怒ることなく。
 いや、ちょっと怒ったみたいだけど。
 それは、勇者の自分を否定されたみたいに思って。そこだけ、怒ったみたいだったけど。
 俺の間違いを正して。俺のこと、この星で一番強い男、だなんて言ってくれた。

 それは、言い過ぎだと思うけど。

 サファは真剣に、そう思っているみたいだった。
 取り留めもなく。彼に、自分の気持ちを垂れ流すように話していたけど。
 そうするうちに、俺は気づいたのだ。
 俺は弱いんだと、嘆いたときに。
 サファが。勇者より強い男なんだから、胸を張って、俺の隣を歩けばいいって、俺に言ってくれて。

 そのとき。あぁ、俺は。サファに並び立ちたかったのだなぁって。

 力の強い弱いではなくて。対等な人間として、サファの目に映りたかったんだなぁって。
 自分の奥底にあった気持ちを、理解した。

 そうしたら、もう。サファを拒絶する理由は、なにもなくなっちゃった。
 だって、サファは。
 いつだって、俺の隣に寄り添ってくれたし。
 俺より、俺のことを知っていて、理解して。ちゃんと等身大の俺を見てくれていたんだもん。
 そして、頑固で、ツンな俺を、好きになってくれたんだもん。

 だから、もう。素直に、愛していると告げられた。
 俺の告白を、サファは受け入れてくれて。
 お互いに好き合っていると、心を見せ合った俺たちは。きつく抱き合って、くちづけた。

「好き、好きだよテオ。もう、離さない。俺の。俺のだ」
 愛の言葉を囁くサファが、俺にくちづけながら、サファイアの瞳で熱くみつめる。
 両想いになって、好きの気持ちがあふれるままに、キスをして。
 サファ越しの夜空に、流れ星がいっぱい見えている。

 あぁ、なんてロマンティックなんだ。

 だけど、サファが俺の足を開いて、体を股の間に入れ込むから。
 俺は、慌てた。

「ダメだよ、サファ。ここは、野原だけど。ボス部屋の中だ。こんなとこで…」
 言葉にはできないが。
 敵陣のど真ん中でセックスする気か? 馬鹿か?

 いや、俺だって。最高にロマンティックだし。好き同志だし。そういう流れだし。
 サファに応えたい気持ちは、山々だよ?
 でも。ダメでしょ? 無理でしょ? 馬鹿なのっ??

「でも、テオ。俺たち、やっと気持ちが通じ合って。結婚を前提にお付き合いというところまで来たんだから。もっと深く確かめ合いたい、というか。だって、今最高潮に、心もあそこも、ギュンギュンなんだよ?」

 そうして、サファは。俺の股間に股間を押し当てる。
 いかにも、ギュンギュンだ。
 ズボン越しでも、サファのそれは、いつでも凶器で。
 そこが息づいて、熱く脈打って。どくんどくんって、俺のモノを刺激すれば。
 彼の存在を感じれば。
 俺だって、ギュンって、なるよ。

「ダメだってば。ふふ、馬鹿ワンコ、ステイ」
 俺は、俺の唇を甘くカミカミしているサファの頭を、手で撫でてあやすけど。
「しぃ。な? ちょっとだけ、しよ?」
 せつなく、腰をくねらせて。サファは剛直で、俺のモノをゴリゴリこする。
 体の下に彼が手を差し入れて。大きな手で、お尻を揉まれると。そこに力が入った。

「ふふ、お尻、キュッてなった。挿入しているときに、これをされると。すっげ、いいんだぜ?」
 耳に色っぽく囁いて。耳たぶをやわと噛んだ。
「んは、ぁ、そ、そうなの? てか、耳、やぁ」
「あぁ、可愛い。マジ、可愛い。なぁ? 抱きたい。テオ、抱きたい、抱きたい」
 そんなに、お願いされると。ダメって言う自分が悪いような気にもなって。
 サファの銀の髪に手を差し入れて、もどかしい気持ちのままに、指でかき乱した。
「待って、サファ。こら、手を入れちゃ…ん、そこ、ダメ。もう、ふふ、サファ、あ、あ、ダメだってば」

 そのとき。足音が聞こえて。
 俺は、サファの腹を蹴り上げて、彼を体の上からどかすのだった。柔道の崩れ巴投げ、みたいな。
「ぐぉ…テオ、ひでぇ」
 だって、仕方がないじゃん。クリスがもう、すぐそこにいるんだから。
「風呂の交代です。キリがないので、来ました」
「あぁ、クリス先生。交代だな。よし、行くぞ、サファ」
 俺は立ち上がって、サファを置いて風呂場に先に行った。
 つか、女性陣はいつの間にか風呂から上がっていて、クリスも入浴を済ませたあとだったんだな?
 まぁ、結構、話し込んじゃってた感じ? 警備がおろそかで、すみませんでしたぁ。

     ★★★★★

 適当なところで服を脱ぎ、体の汚れをササッと流してから、俺は岩風呂の中に入る。
 温泉は、若干濁り湯なので。
 膨張しかけた己が、湯の中では見えないのが良い。ここで、その気を冷まそう。

 まもなく、サファも入ってきたが。
 隆々としたモノを隠しもせずに、俺の前に立つ。

「…舐、める?」
 ここまで膨張したナニは、そのまま放置では可哀想な気がして。聞いたのだが。
 珍しく、ちょっと不機嫌そうに口をへの字にしていたサファは。鼻でため息をついて。風呂に浸かった。

「いい。簡単に済ませたくない気分だからな?」
「ボス部屋を抜けるまでは。用心した方がいいよ。いつだって、なにが起きるかわからないんだし。実際、今の状況も、いつものボス部屋とも違っていて、怖いじゃん。え、え、エッチなんか、してたら。そこを襲われたら。対処できないかもしれないじゃん?」

「確かに、テオの言うことは正しいよ。ただ、いい気分を邪魔されて、ちょっと拗ねただけだ。慰めろ」
 そう言って、サファは俺の肩を抱き寄せて。頭をこてんと、首筋に埋めるのだった。
 おい、逆じゃねぇ?
 大きな体格のおまえが、こてんしても、可愛くないぞ?
 仕方ねぇから、拗ねワンコのご機嫌取りに、毛並みを撫でてやろう。
 そうしたら、への字の口元がゆるんで。にやりと笑むのだった。
 勇者、ちょろちょろのちょろだな。

「ごめんな、サファ。意地張って、サファを拒絶しちゃってて。今思うと、俺が初恋をこじらせてたんだな?」
「俺が初恋なのか? フフッ、すっげぇ、嬉しいな。今の告白で、今までのことはチャラにしてやる」

 そうして、サファはチュウしてきた。
 サファはキスが好きだよな? 隙をみつけちゃ、チュウしてくるもんな。
 ま、俺も好きだが。サファの唇に、唇挟まれる感触が、好きぃ。

「わかるよ。男のプライドってやつだろ? 嫁になるのは、なんか、ただ所有されるってニュアンスに感じて、テオは嫌だったんだろ?」
「んー、そうかも。おまえの帰りを、家でジッと待ってるとか、嫌だなぁって。ちょっと考えちゃったし」
「えぇぇ? 俺は家にテオを置いていかないよ? 絶対、嫌だね。だって、俺がさみしいじゃん。それにねぇ、テオ。嫁は、マジ最強説なんだよ? 勇者を尻の下に敷いていいんだよ? つか、テオが俺を所有してっ」
 そうして、目元にキスする。ムッチュッて、音をさせて。
 なんか、大事にされているようにも。
 ウザいようにも、感じるな?

「勇者を囲う村人Aの図が、もう、おかしいっつうの。ま、最強の男を所有したら、最高に男っぽいかもしれないがな?」
 片頬をゆがめて、自嘲する。
 そこまで、男気にこだわっているつもりはないんだけど。
 でも。どうしても、サファと張り合っちゃう気には、なるんだよな?
 勇者相手に、なんだけど。サファに、負けたくないんだ。
 謎の、負けず嫌い。

「でも、そういうところに引っかかっちゃうの、人間ぽくって可愛いと思う」
「なんだよ、その言い方。おまえだって人間だろ? なんか、上から目線じゃね?」
 下に見ている、って感じではないけど。
 ちょっと気にかかる言い方だから。ツッコんだ。
 そうしたら、サファは皮肉げな笑みで、言うのだ。

「ふふ、そんなことを言うのは、テオだけだよ。俺は、人間じゃない。勇者って生き物だ。神に等しき、孤高の存在。ひとりだけ強くて、ひとりだけ突出する。だから人は、俺にひれ伏すんだ…テオ以外はね?」
「こら、そんなさみしいこと、言うな」
 俺はサファの頬を両手でぴしゃりと挟んで。額をごっちんした。
 だって、その言い方じゃ…。
 俺は、大多数の人の上に、ひとりだけ立っているサファの図を想像してしまったのだ。
 サファのシルエットは、うつむいて、その背中はうら淋しい。

「この、アホ犬が。孤独に酔いしれるとか、バカじゃね? らしくないっつうの。サファは、人間だ。種族も勇者も関係ない。サファは、俺の幼馴染で。悪友で…俺の婚約者っ。それだけっ」
「犬なの? 人なの?」
 って、サファは苦笑して、ツッコむけど。
 サファは。
 種族:勇者、のサファは。
 己がこの世にひとりだけの勇者であることに、思うところがあるのかもしれない。

 だけど、サファは。ひとりじゃないよ。
 俺も両親も、仲間も、サファを慕う人たちも。周りにいっぱいいるじゃん?
 特別視されたくないのなら。
 俺がいつも、そばにいるし。

「テオ、俺の婚約者。俺はテオがいれば、それでいい」
 そんなことを真顔で言うから。
「だから、なに、孤独ぶって、同情誘ってんだっ、つうの。アホ犬は、アホなんだから、難しいこと、考えなくて、いいのっ」
 言葉の区切りで、デコピンをかましてやった。

 ったく、いつまでも、しょぼくれワンコ気取りやがって。
 そういうの、俺はきらーい。
 サファは、バカみたいに元気いっぱいで、自信満々で、凛とした顔つきで、しっかと仁王立ちしているのが似合っているんだからな?
 いつも、そうしていればいいんだ。

 でも。わかった。
 サファには、俺が必要なんだな。
 勇者と、ただの村人が結婚というのは。俺、ビビりだから。誰にも受け入れられないんじゃないかって、まだ気後れするけど。
 こいつ、俺がいなかったら。マジで、ひとりになっちゃうんだ。
 ちょっと、おこがましいかもしれないけど。
 たぶん、そうなんだ。

「いいか? おまえをひとりにはしないよ。俺が、死ぬまで、そばにいてやるからっ」

 なんて、彼の頬を手で撫でながら、言っちゃったけど。
 我に返ると、なんか、すっごい恥ずかしいこと言っちゃったような気がして。
 サファは、孤独なんか感じていなくて、そんな気もなかったかもしれないのに。
 だから。誤魔化すみたいにして。
 今のなし、な、気分で。
 明るい声を出して、サファに言ったのだ。

「あぁ、温泉はポッカポカになるな? のぼせそうだから。もう出ようぜ?」
 俺がそう言って、立ち上がると。
 サファも、立ち上がって。

 そして…やんわりと抱き締められた。
「…大好き」
 湯気の立ちこめる中で、銀の髪がけぶるサファに。
 囁く美声で、そう言われて。
 目元を、愛しげに細め。青い瞳の中に、流れ星のきらめきが入り込んで。

 俺は。ぎゅーーん、とキた。
 ロマンティックが止まらないっ。

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