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20 深淵を見通す…って、誰が?? テオ・ターン
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◆深淵を見通す…って、誰が?? テオ・ターン
魔獣、ゲコヌメェを撃破し、第三階層に突入する俺ら、勇者一行。
でも俺は、魔獣…というより、サファの凶器にぶっ刺され。イオナのヒールを受けても、まだなにか、股に挟まっているかのような違和感を感じていて。
いや、歩けるんだが。
有無を言わせず、サファの肩に担がれてしまった。
「おろせよ、サファ。歩くことくらい、できる」
「嫌だよ。俺のせいで、無理させたんだから。今日はテオに、なにもさせないからな?」
そうして、意味深に俺の腰を撫でる。
やめろよぉ、そういうふうに匂わせるのはぁ。
サファの後ろを歩くイオナが、俺のことをジト目で見ているんですけどっ。
「それにボス部屋は、俺らが攻略したんだから。通路の雑魚は、クリスとユーリに任せればいい。彼らにも、活躍の場を与えないとな?」
そういうものかなぁと、思いつつ。
クリスとユーリは文句も言わずに、連係プレイで通路に現れる魔獣を倒していくのだった。
だけど。この通路は、ボムベアの巣のようで。
ボムベアは、なんか、爆弾を投げてくるクマ、なんだけど。
その爆弾をどうやって入手しているのかは、不明な。あまり生態を知られていない魔獣なのだった。
まぁ、ここにいる魔獣は、どれも初めて遭遇する、謎魔獣ばかりだけどな。
ボムベアの爆弾を、ユーリが魔法で爆発させ、クマはクリスが斬る。
同士討ち? ではないけど。
それを繰り返していたら、一匹、ベアに突破された。
「勇者様、すまないっ」
突破されたクリスが、謝るが。サファは、嬉々とした感じで剣を抜いた。
「任せろっ」
俺は肩に担がれて、後ろしか見えないから。彼の顔は知らないが。
ウキウキワクワクの感情が、ダダ漏れているから。
大体そういうとき、どんな顔をしているのかは、わかる。
にやりと、口角をあげた、好戦的で、野性味を帯びた顔だ。
サファは、クリスの剣を逃れて、こちらにツッコんでくるクマに、斬りかかる。
つか、俺を抱えたままなんですけどっ?
それでも、なんの障害もないというように、早いスピードで動くし。
剣さばきにも、淀みはない。
「おろせよ、俺、邪魔だろ?」
「そう見える? テオが邪魔なんて、絶対ないし。むしろテンション上がるっつぅの。ずっと抱えていたいっ」
なんか、最後の方、欲望が透けて見えたが。
まぁ、言ってみただけ。俺はやつにとって、蚊ほどの存在感もないらしい。
そして、クマのドロップ品であるクマ肉を拾いながら、イオナがつぶやいた。
「あぁ、サファイアさま、格好いいですわぁ。普段は理知的で、深淵を見通すような、凛としたお顔立ちですけど。ワイルドなサファイアさまも、素敵ですわぁ?」
深淵を見通す…って、誰が??
俺は、サファのこと。一度も、頭がいいなんて思ったことない。
つか、普段から。クソ馬鹿駄犬勇者がぁって、怒っているくらいで。
深淵を見通すって、目に見えない事柄を見抜く、みたいな? 聡い人物のような意味だと思うのだが。
真面目に考え込むような姿なんざ、ひとっ欠片も、見たことがないぞ?
大体、キリリとしているとき。サファは。
ヤベェ悪戯を考えていたり。俺のなにかを妄想していたりするのだ。
そのあとは、必ず迷惑な厄災が降りかかるのだ。
決まっているのだ。
そういうときこそ、要注意なのだっ。
てか。世間様が目に写すサファと。俺の目に映るサファが。大河の対岸ほどもかけ離れていることを知った。
俺だって。サファが勇者なのは、ちゃんと認識しているよ?
でもな。
うん。どちらかと言えば、俺がよく見るのは。
今、イオナがワイルドだと言った。嬉々として魔獣を狩る、ヤンチャな顔の方が多いのかもしれないな。
はしゃぐ、馬鹿ワンコ。
「テオ、どうだ? ボムベアは、全部狩りとったぜぇ?」
抱える俺を、神輿の担ぎ棒のごとく、ゆさゆさと揺さぶるサファ。
やーめーろー。
でも、俺に、褒めて褒めてと、全身でアピールしてくるから。
しょうがねぇなっ。
「えらいえらい、さすが勇者さまだな」
そう言って、サファの銀の髪をモフッてやったのだ。
「ふふぅ、褒められてる感じ、しねぇ」
文句を言うけど。嬉しそうな笑いが漏れているぞ、馬鹿ワンコ。
★★★★★
第三階層のボス部屋の手前で、俺たちは退避場所に入って。しっかり休憩を取ることにした。
今日の戦利品である、クマ肉を。包丁で叩いてミンチにして、ハーブで臭みを消して。塩、コショウ、卵、牛乳、パン粉などなど、混ぜてコネコネ。焚火の上に鉄板を置いて、形を整えた肉をジュジュッと焼けば。クマ肉ハンバーグの出来上がり。
野菜も鉄板の上で焼いて、付け合わせにする。
ソースは、スライムがドロップしたワインと、バターを合わせたやつだ。
さぁ、召し上がれ。
「んぁぁぁ、美味しいっ。こんなダンジョンの奥で、こんな美味しいものが食べられるなんてぇ」
「つか、うちのシェフより、美味しいものを作らないでよっ、テオ」
イオナとユーリが、褒めてるような、怒っているような、ことを言う。
でも、料理を褒められるのは、単純に嬉しいですよ。
「あり合わせで喜んでもらえて、嬉しいよ、イオナ、ユーリ」
男性陣は、黙々と口にかき込んでいるので。
黙っているけど、こちらも、美味しいと、態度であらわされているな。よしよし。
また、例によって、退避場所には風呂場があるので。仲間は順番に湯を使い。
今日の汚れをさっぱり洗い流した。ふぅ。
ゲコヌメェに、ヌメヌメにされたからな。
イオナの浄化で、綺麗にはなったのだけど。気持ち的な意味で、体を洗えて、すっきりしたよ。
広場に戻ったら。寝床を用意していたサファに、当たり前のように、ここに座れと示される。
まぁ、いいけど。
「テオ、どこか、痛いところはなかったか? 気持ちは? 怒っているなら、全部口に出して、吐き出してしまった方がいいぞ?」
甲斐甲斐しく俺の世話をするサファを、俺はジト目で見やる。
サファは。
ビクビクワンコになっていた。
ご主人様に叱られそうなときの、アレだ。
たぶん、合意なくセックスしたことを、気に病んでいるのだろう。
俺が、怒っているとか。俺が、傷ついているとか。俺が、サファを嫌いになったとか。
そんなところだと、思うが。
旅に出る前、同意なく触れるなと、約束させたから。そこに引っかかっているのかもしれないな?
確かに、今回のことは。本当の意味では、合意ではない。
サファのことを、俺が好きになって。サファの嫁になりたい、サファに抱いてほしいって。思ったわけではないからな。
でも、俺は。許したのだ。
サファが、俺を抱くことを。
彼を正気に戻すためとはいえ、自分から、抱いていいと言った。
だから。サファが、そんなにビクつく必要はない。
今回は、ノーカウント。それで、いいのに。
いつまでも、うじうじしてぇ。
「じゃあ、サファがそこまで言うなら、言わせてもらおうかなぁ?」
ドスンと、俺が彼の前に座って、言うと。
サファは、正座で、身を縮めた。
耳をペソっと下げた、泣きべそフェンリルが見える。
「おまえ、ここんとこ、まるで良いとこ、ないからな? ま、さっきのボムベアと、第二階層のボス瞬殺は、良かったけど。しょっぱなから、毒を浴びるし。紐を解くのにもたもたするし、カエルに乗っ取られるし。ダメダメじゃん?」
サファは、さらに、ペソォとするけど。
セックスのことを言われないので、ハテナになった。
「旅に出る前、俺を惚れさせるなんて息巻いていたけど。こんなんじゃ、全然、惚れねぇな」
俺の言葉のあと。サファの背後で、ブブーという効果音が鳴った。
どうやら、レベルが落ちたようだ。
なにって…ラッキースケベのレベルだろう?
全く、わかりやすくて、嫌になる。
俺は、苦笑して。言った。
「だから、いつまでもしょんぼりしてないで。いつもの、自信満々ワンコに戻れよ。そして、魔獣を瞬殺してくれ」
そうでないと、俺の身が持たない。
早く、このエロダンジョンから、抜けたいのだ。
「それとも、もう、あきらめるか? 旅の同行も、婚約話もなしに…」
「しないっ。あきらめない。もっと、もっと、テオに好きになってもらいたい。テオをお嫁さんにしたい」
サファは鼻息荒く、俺にしっかり宣言した。
でも、自信なさそうに、そっと聞く。
「テオ。今回のことで、俺のこと、嫌いになってない?」
「嫌いになってねぇって、言ってんじゃん。でも、いつまでもうじうじしていたら。嫌いになるかもな?」
はうぅ、と唸って。まだ、耳がペソォとしているが。
少し、瞳に力が戻ってきた。サファイアの瞳に、温かい光が戻った。
そうそう、元気になれ。おまえが元気ないと、こっちも調子が狂うんだ。
「旅に誘った、責任を取れ。俺を最後まで、守り抜いてくれよ」
「責任っ、とる。テオのことは、俺が必ず守る。もう魔獣に指一本、触れさせねぇからな?」
「本当かよ。じゃあ、ま、期待している」
にやりと、挑発的に笑う。やれるもんならやってみろ、的な?
そうしたら、サファは。
満面の笑みになって、俺に抱きついてきた。
うわっ、この、馬鹿ワンコ。
でかい図体で、飛び掛かってくんじゃねぇ。
俺は、激しい勢いで押し倒され、床に頭をぶつけるかと思ったが。
サファは優しく、俺の頭を手で支えて。そっとそっと、卵を抱える繊細さで、俺を寝床に横たえた。
「惚れた? 俺のこと、好きになった?」
額と額をぶつけて、すっごく甘い微笑みで、たずねるから。
ちょっと、ドキリとしちゃったけど。
「調子に乗るな、ばぁか。まだなにも、してねぇだろ?」
俺が、そう言い放っても。サファは嬉しそうな顔のまんまで。
額をぐりぐり、俺に押しつけて。クスクスと笑う。
俺も、サファの髪をナデナデして。
それで、なんか、こんな顔を近づけて馬鹿みたいって思うと。おかしくなって。
ふたりで、笑い合った。
みんな、もう寝ているから。そっと。こっそりと、だけど。
まぁ、これで。仲直りはできたかな?
俺たちの間にあった、ギクシャクした空気がなくなって。
互いのわだかまりがほぐれたのが、なんとなく、わかった。
「仲直りのチュウ、させて」
なにやら甘えんぼモードで、サファに囁かれて。
俺は、うなずきはしなかったけど。
そっと顔を寄せてくるサファの鼻に、鼻が当たらないよう、ちょっと頭を傾けて。
流れのままに、サファのキスを受け入れた。
いつもサファは、すぐに深いくちづけに移行していくけど。
今日は、俺の唇をついばむような、可愛らしいキスだけをした。
でも、ちゅぷって、音が鳴るほど。しっとりと濡れる、くちづけで。
上唇に吸いついたり。下唇は甘噛みしたり。ふたついっぺんに、サファの口の中に食べられちゃったり。
ディープキスじゃなくても、充分にいやらしいんだけど。
うっすら、唇を開いても。サファは口腔に入り込んでこなかった。
俺の唇を、舌で、めくりあげるみたいにするけど。
もう、俺の口で、遊ぶなぁっ。
くすぐったいような、むず痒いような、感触に。
フフっと、笑みが漏れて。
サファも、クスクスと喉の奥で笑いながら。
戯れるキスをいっぱいした。
サファは、唇をひとつ吸うたびに、うかがうように俺をみつめたが。
笑い交じりに、俺はただ、彼を受け入れた。
「おやすみのチュウも、していい?」
お伺いをたてられたので、今度は、小さくうなずく。
このくらいのキスなら、まぁ、いいかと思って。
そうしたら。サファは。
今度は舌を絡める、ディープなキスをして。
もう、どうして。おやすみのチュウが、こんなにいやらしいやつなんだよって。
心の中で、人知れずツッコんだ。
やっぱり、調子に乗ったな? 駄犬勇者めっ。
魔獣、ゲコヌメェを撃破し、第三階層に突入する俺ら、勇者一行。
でも俺は、魔獣…というより、サファの凶器にぶっ刺され。イオナのヒールを受けても、まだなにか、股に挟まっているかのような違和感を感じていて。
いや、歩けるんだが。
有無を言わせず、サファの肩に担がれてしまった。
「おろせよ、サファ。歩くことくらい、できる」
「嫌だよ。俺のせいで、無理させたんだから。今日はテオに、なにもさせないからな?」
そうして、意味深に俺の腰を撫でる。
やめろよぉ、そういうふうに匂わせるのはぁ。
サファの後ろを歩くイオナが、俺のことをジト目で見ているんですけどっ。
「それにボス部屋は、俺らが攻略したんだから。通路の雑魚は、クリスとユーリに任せればいい。彼らにも、活躍の場を与えないとな?」
そういうものかなぁと、思いつつ。
クリスとユーリは文句も言わずに、連係プレイで通路に現れる魔獣を倒していくのだった。
だけど。この通路は、ボムベアの巣のようで。
ボムベアは、なんか、爆弾を投げてくるクマ、なんだけど。
その爆弾をどうやって入手しているのかは、不明な。あまり生態を知られていない魔獣なのだった。
まぁ、ここにいる魔獣は、どれも初めて遭遇する、謎魔獣ばかりだけどな。
ボムベアの爆弾を、ユーリが魔法で爆発させ、クマはクリスが斬る。
同士討ち? ではないけど。
それを繰り返していたら、一匹、ベアに突破された。
「勇者様、すまないっ」
突破されたクリスが、謝るが。サファは、嬉々とした感じで剣を抜いた。
「任せろっ」
俺は肩に担がれて、後ろしか見えないから。彼の顔は知らないが。
ウキウキワクワクの感情が、ダダ漏れているから。
大体そういうとき、どんな顔をしているのかは、わかる。
にやりと、口角をあげた、好戦的で、野性味を帯びた顔だ。
サファは、クリスの剣を逃れて、こちらにツッコんでくるクマに、斬りかかる。
つか、俺を抱えたままなんですけどっ?
それでも、なんの障害もないというように、早いスピードで動くし。
剣さばきにも、淀みはない。
「おろせよ、俺、邪魔だろ?」
「そう見える? テオが邪魔なんて、絶対ないし。むしろテンション上がるっつぅの。ずっと抱えていたいっ」
なんか、最後の方、欲望が透けて見えたが。
まぁ、言ってみただけ。俺はやつにとって、蚊ほどの存在感もないらしい。
そして、クマのドロップ品であるクマ肉を拾いながら、イオナがつぶやいた。
「あぁ、サファイアさま、格好いいですわぁ。普段は理知的で、深淵を見通すような、凛としたお顔立ちですけど。ワイルドなサファイアさまも、素敵ですわぁ?」
深淵を見通す…って、誰が??
俺は、サファのこと。一度も、頭がいいなんて思ったことない。
つか、普段から。クソ馬鹿駄犬勇者がぁって、怒っているくらいで。
深淵を見通すって、目に見えない事柄を見抜く、みたいな? 聡い人物のような意味だと思うのだが。
真面目に考え込むような姿なんざ、ひとっ欠片も、見たことがないぞ?
大体、キリリとしているとき。サファは。
ヤベェ悪戯を考えていたり。俺のなにかを妄想していたりするのだ。
そのあとは、必ず迷惑な厄災が降りかかるのだ。
決まっているのだ。
そういうときこそ、要注意なのだっ。
てか。世間様が目に写すサファと。俺の目に映るサファが。大河の対岸ほどもかけ離れていることを知った。
俺だって。サファが勇者なのは、ちゃんと認識しているよ?
でもな。
うん。どちらかと言えば、俺がよく見るのは。
今、イオナがワイルドだと言った。嬉々として魔獣を狩る、ヤンチャな顔の方が多いのかもしれないな。
はしゃぐ、馬鹿ワンコ。
「テオ、どうだ? ボムベアは、全部狩りとったぜぇ?」
抱える俺を、神輿の担ぎ棒のごとく、ゆさゆさと揺さぶるサファ。
やーめーろー。
でも、俺に、褒めて褒めてと、全身でアピールしてくるから。
しょうがねぇなっ。
「えらいえらい、さすが勇者さまだな」
そう言って、サファの銀の髪をモフッてやったのだ。
「ふふぅ、褒められてる感じ、しねぇ」
文句を言うけど。嬉しそうな笑いが漏れているぞ、馬鹿ワンコ。
★★★★★
第三階層のボス部屋の手前で、俺たちは退避場所に入って。しっかり休憩を取ることにした。
今日の戦利品である、クマ肉を。包丁で叩いてミンチにして、ハーブで臭みを消して。塩、コショウ、卵、牛乳、パン粉などなど、混ぜてコネコネ。焚火の上に鉄板を置いて、形を整えた肉をジュジュッと焼けば。クマ肉ハンバーグの出来上がり。
野菜も鉄板の上で焼いて、付け合わせにする。
ソースは、スライムがドロップしたワインと、バターを合わせたやつだ。
さぁ、召し上がれ。
「んぁぁぁ、美味しいっ。こんなダンジョンの奥で、こんな美味しいものが食べられるなんてぇ」
「つか、うちのシェフより、美味しいものを作らないでよっ、テオ」
イオナとユーリが、褒めてるような、怒っているような、ことを言う。
でも、料理を褒められるのは、単純に嬉しいですよ。
「あり合わせで喜んでもらえて、嬉しいよ、イオナ、ユーリ」
男性陣は、黙々と口にかき込んでいるので。
黙っているけど、こちらも、美味しいと、態度であらわされているな。よしよし。
また、例によって、退避場所には風呂場があるので。仲間は順番に湯を使い。
今日の汚れをさっぱり洗い流した。ふぅ。
ゲコヌメェに、ヌメヌメにされたからな。
イオナの浄化で、綺麗にはなったのだけど。気持ち的な意味で、体を洗えて、すっきりしたよ。
広場に戻ったら。寝床を用意していたサファに、当たり前のように、ここに座れと示される。
まぁ、いいけど。
「テオ、どこか、痛いところはなかったか? 気持ちは? 怒っているなら、全部口に出して、吐き出してしまった方がいいぞ?」
甲斐甲斐しく俺の世話をするサファを、俺はジト目で見やる。
サファは。
ビクビクワンコになっていた。
ご主人様に叱られそうなときの、アレだ。
たぶん、合意なくセックスしたことを、気に病んでいるのだろう。
俺が、怒っているとか。俺が、傷ついているとか。俺が、サファを嫌いになったとか。
そんなところだと、思うが。
旅に出る前、同意なく触れるなと、約束させたから。そこに引っかかっているのかもしれないな?
確かに、今回のことは。本当の意味では、合意ではない。
サファのことを、俺が好きになって。サファの嫁になりたい、サファに抱いてほしいって。思ったわけではないからな。
でも、俺は。許したのだ。
サファが、俺を抱くことを。
彼を正気に戻すためとはいえ、自分から、抱いていいと言った。
だから。サファが、そんなにビクつく必要はない。
今回は、ノーカウント。それで、いいのに。
いつまでも、うじうじしてぇ。
「じゃあ、サファがそこまで言うなら、言わせてもらおうかなぁ?」
ドスンと、俺が彼の前に座って、言うと。
サファは、正座で、身を縮めた。
耳をペソっと下げた、泣きべそフェンリルが見える。
「おまえ、ここんとこ、まるで良いとこ、ないからな? ま、さっきのボムベアと、第二階層のボス瞬殺は、良かったけど。しょっぱなから、毒を浴びるし。紐を解くのにもたもたするし、カエルに乗っ取られるし。ダメダメじゃん?」
サファは、さらに、ペソォとするけど。
セックスのことを言われないので、ハテナになった。
「旅に出る前、俺を惚れさせるなんて息巻いていたけど。こんなんじゃ、全然、惚れねぇな」
俺の言葉のあと。サファの背後で、ブブーという効果音が鳴った。
どうやら、レベルが落ちたようだ。
なにって…ラッキースケベのレベルだろう?
全く、わかりやすくて、嫌になる。
俺は、苦笑して。言った。
「だから、いつまでもしょんぼりしてないで。いつもの、自信満々ワンコに戻れよ。そして、魔獣を瞬殺してくれ」
そうでないと、俺の身が持たない。
早く、このエロダンジョンから、抜けたいのだ。
「それとも、もう、あきらめるか? 旅の同行も、婚約話もなしに…」
「しないっ。あきらめない。もっと、もっと、テオに好きになってもらいたい。テオをお嫁さんにしたい」
サファは鼻息荒く、俺にしっかり宣言した。
でも、自信なさそうに、そっと聞く。
「テオ。今回のことで、俺のこと、嫌いになってない?」
「嫌いになってねぇって、言ってんじゃん。でも、いつまでもうじうじしていたら。嫌いになるかもな?」
はうぅ、と唸って。まだ、耳がペソォとしているが。
少し、瞳に力が戻ってきた。サファイアの瞳に、温かい光が戻った。
そうそう、元気になれ。おまえが元気ないと、こっちも調子が狂うんだ。
「旅に誘った、責任を取れ。俺を最後まで、守り抜いてくれよ」
「責任っ、とる。テオのことは、俺が必ず守る。もう魔獣に指一本、触れさせねぇからな?」
「本当かよ。じゃあ、ま、期待している」
にやりと、挑発的に笑う。やれるもんならやってみろ、的な?
そうしたら、サファは。
満面の笑みになって、俺に抱きついてきた。
うわっ、この、馬鹿ワンコ。
でかい図体で、飛び掛かってくんじゃねぇ。
俺は、激しい勢いで押し倒され、床に頭をぶつけるかと思ったが。
サファは優しく、俺の頭を手で支えて。そっとそっと、卵を抱える繊細さで、俺を寝床に横たえた。
「惚れた? 俺のこと、好きになった?」
額と額をぶつけて、すっごく甘い微笑みで、たずねるから。
ちょっと、ドキリとしちゃったけど。
「調子に乗るな、ばぁか。まだなにも、してねぇだろ?」
俺が、そう言い放っても。サファは嬉しそうな顔のまんまで。
額をぐりぐり、俺に押しつけて。クスクスと笑う。
俺も、サファの髪をナデナデして。
それで、なんか、こんな顔を近づけて馬鹿みたいって思うと。おかしくなって。
ふたりで、笑い合った。
みんな、もう寝ているから。そっと。こっそりと、だけど。
まぁ、これで。仲直りはできたかな?
俺たちの間にあった、ギクシャクした空気がなくなって。
互いのわだかまりがほぐれたのが、なんとなく、わかった。
「仲直りのチュウ、させて」
なにやら甘えんぼモードで、サファに囁かれて。
俺は、うなずきはしなかったけど。
そっと顔を寄せてくるサファの鼻に、鼻が当たらないよう、ちょっと頭を傾けて。
流れのままに、サファのキスを受け入れた。
いつもサファは、すぐに深いくちづけに移行していくけど。
今日は、俺の唇をついばむような、可愛らしいキスだけをした。
でも、ちゅぷって、音が鳴るほど。しっとりと濡れる、くちづけで。
上唇に吸いついたり。下唇は甘噛みしたり。ふたついっぺんに、サファの口の中に食べられちゃったり。
ディープキスじゃなくても、充分にいやらしいんだけど。
うっすら、唇を開いても。サファは口腔に入り込んでこなかった。
俺の唇を、舌で、めくりあげるみたいにするけど。
もう、俺の口で、遊ぶなぁっ。
くすぐったいような、むず痒いような、感触に。
フフっと、笑みが漏れて。
サファも、クスクスと喉の奥で笑いながら。
戯れるキスをいっぱいした。
サファは、唇をひとつ吸うたびに、うかがうように俺をみつめたが。
笑い交じりに、俺はただ、彼を受け入れた。
「おやすみのチュウも、していい?」
お伺いをたてられたので、今度は、小さくうなずく。
このくらいのキスなら、まぁ、いいかと思って。
そうしたら。サファは。
今度は舌を絡める、ディープなキスをして。
もう、どうして。おやすみのチュウが、こんなにいやらしいやつなんだよって。
心の中で、人知れずツッコんだ。
やっぱり、調子に乗ったな? 駄犬勇者めっ。
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タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
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