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20 深淵を見通す…って、誰が?? テオ・ターン

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     ◆深淵を見通す…って、誰が?? テオ・ターン

 魔獣、ゲコヌメェを撃破し、第三階層に突入する俺ら、勇者一行。
 でも俺は、魔獣…というより、サファの凶器にぶっ刺され。イオナのヒールを受けても、まだなにか、股に挟まっているかのような違和感を感じていて。
 いや、歩けるんだが。
 有無を言わせず、サファの肩にかつがれてしまった。

「おろせよ、サファ。歩くことくらい、できる」
「嫌だよ。俺のせいで、無理させたんだから。今日はテオに、なにもさせないからな?」
 そうして、意味深に俺の腰を撫でる。
 やめろよぉ、そういうふうに匂わせるのはぁ。
 サファの後ろを歩くイオナが、俺のことをジト目で見ているんですけどっ。

「それにボス部屋は、俺らが攻略したんだから。通路の雑魚ざこは、クリスとユーリに任せればいい。彼らにも、活躍の場を与えないとな?」
 そういうものかなぁと、思いつつ。
 クリスとユーリは文句も言わずに、連係プレイで通路に現れる魔獣を倒していくのだった。

 だけど。この通路は、ボムベアの巣のようで。
 ボムベアは、なんか、爆弾を投げてくるクマ、なんだけど。
 その爆弾をどうやって入手しているのかは、不明な。あまり生態を知られていない魔獣なのだった。
 まぁ、ここにいる魔獣は、どれも初めて遭遇する、謎魔獣ばかりだけどな。

 ボムベアの爆弾を、ユーリが魔法で爆発させ、クマはクリスが斬る。
 同士討ち? ではないけど。
 それを繰り返していたら、一匹、ベアに突破された。

「勇者様、すまないっ」
 突破されたクリスが、謝るが。サファは、嬉々とした感じで剣を抜いた。
「任せろっ」

 俺は肩に担がれて、後ろしか見えないから。彼の顔は知らないが。
 ウキウキワクワクの感情が、ダダ漏れているから。
 大体そういうとき、どんな顔をしているのかは、わかる。
 にやりと、口角をあげた、好戦的で、野性味を帯びた顔だ。

 サファは、クリスの剣を逃れて、こちらにツッコんでくるクマに、斬りかかる。
 つか、俺を抱えたままなんですけどっ?
 それでも、なんの障害もないというように、早いスピードで動くし。
 剣さばきにも、よどみはない。

「おろせよ、俺、邪魔だろ?」
「そう見える? テオが邪魔なんて、絶対ないし。むしろテンション上がるっつぅの。ずっと抱えていたいっ」
 なんか、最後の方、欲望が透けて見えたが。
 まぁ、言ってみただけ。俺はやつにとって、蚊ほどの存在感もないらしい。

 そして、クマのドロップ品であるクマ肉を拾いながら、イオナがつぶやいた。
「あぁ、サファイアさま、格好いいですわぁ。普段は理知的で、深淵を見通すような、凛としたお顔立ちですけど。ワイルドなサファイアさまも、素敵ですわぁ?」

 深淵を見通す…って、誰が??

 俺は、サファのこと。一度も、頭がいいなんて思ったことない。
 つか、普段から。クソ馬鹿駄犬勇者がぁって、怒っているくらいで。
 深淵を見通すって、目に見えない事柄を見抜く、みたいな? 聡い人物のような意味だと思うのだが。
 真面目に考え込むような姿なんざ、ひとっ欠片も、見たことがないぞ?

 大体、キリリとしているとき。サファは。
 ヤベェ悪戯を考えていたり。俺のなにかを妄想していたりするのだ。
 そのあとは、必ず迷惑な厄災が降りかかるのだ。
 決まっているのだ。
 そういうときこそ、要注意なのだっ。

 てか。世間様が目に写すサファと。俺の目に映るサファが。大河の対岸ほどもかけ離れていることを知った。

 俺だって。サファが勇者なのは、ちゃんと認識しているよ?
 でもな。
 うん。どちらかと言えば、俺がよく見るのは。
 今、イオナがワイルドだと言った。嬉々として魔獣を狩る、ヤンチャな顔の方が多いのかもしれないな。
 はしゃぐ、馬鹿ワンコ。

「テオ、どうだ? ボムベアは、全部狩りとったぜぇ?」
 抱える俺を、神輿みこしの担ぎ棒のごとく、ゆさゆさと揺さぶるサファ。
 やーめーろー。
 でも、俺に、褒めて褒めてと、全身でアピールしてくるから。
 しょうがねぇなっ。

「えらいえらい、さすが勇者さまだな」
 そう言って、サファの銀の髪をモフッてやったのだ。
「ふふぅ、褒められてる感じ、しねぇ」
 文句を言うけど。嬉しそうな笑いが漏れているぞ、馬鹿ワンコ。

     ★★★★★

 第三階層のボス部屋の手前で、俺たちは退避場所に入って。しっかり休憩を取ることにした。
 今日の戦利品である、クマ肉を。包丁で叩いてミンチにして、ハーブで臭みを消して。塩、コショウ、卵、牛乳、パン粉などなど、混ぜてコネコネ。焚火の上に鉄板を置いて、形を整えた肉をジュジュッと焼けば。クマ肉ハンバーグの出来上がり。
 野菜も鉄板の上で焼いて、付け合わせにする。
 ソースは、スライムがドロップしたワインと、バターを合わせたやつだ。
 さぁ、召し上がれ。

「んぁぁぁ、美味しいっ。こんなダンジョンの奥で、こんな美味しいものが食べられるなんてぇ」
「つか、うちのシェフより、美味しいものを作らないでよっ、テオ」
 イオナとユーリが、褒めてるような、怒っているような、ことを言う。
 でも、料理を褒められるのは、単純に嬉しいですよ。
「あり合わせで喜んでもらえて、嬉しいよ、イオナ、ユーリ」
 男性陣は、黙々と口にかき込んでいるので。
 黙っているけど、こちらも、美味しいと、態度であらわされているな。よしよし。

 また、例によって、退避場所には風呂場があるので。仲間は順番に湯を使い。
 今日の汚れをさっぱり洗い流した。ふぅ。
 ゲコヌメェに、ヌメヌメにされたからな。
 イオナの浄化で、綺麗にはなったのだけど。気持ち的な意味で、体を洗えて、すっきりしたよ。

 広場に戻ったら。寝床を用意していたサファに、当たり前のように、ここに座れと示される。
 まぁ、いいけど。
「テオ、どこか、痛いところはなかったか? 気持ちは? 怒っているなら、全部口に出して、吐き出してしまった方がいいぞ?」

 甲斐甲斐しく俺の世話をするサファを、俺はジト目で見やる。
 サファは。

 ビクビクワンコになっていた。

 ご主人様に叱られそうなときの、アレだ。
 たぶん、合意なくセックスしたことを、気に病んでいるのだろう。
 俺が、怒っているとか。俺が、傷ついているとか。俺が、サファを嫌いになったとか。
 そんなところだと、思うが。

 旅に出る前、同意なく触れるなと、約束させたから。そこに引っかかっているのかもしれないな?

 確かに、今回のことは。本当の意味では、合意ではない。
 サファのことを、俺が好きになって。サファの嫁になりたい、サファに抱いてほしいって。思ったわけではないからな。
 でも、俺は。許したのだ。
 サファが、俺を抱くことを。
 彼を正気に戻すためとはいえ、自分から、抱いていいと言った。

 だから。サファが、そんなにビクつく必要はない。
 今回は、ノーカウント。それで、いいのに。
 いつまでも、うじうじしてぇ。

「じゃあ、サファがそこまで言うなら、言わせてもらおうかなぁ?」
 ドスンと、俺が彼の前に座って、言うと。
 サファは、正座で、身を縮めた。
 耳をペソっと下げた、泣きべそフェンリルが見える。

「おまえ、ここんとこ、まるで良いとこ、ないからな? ま、さっきのボムベアと、第二階層のボス瞬殺は、良かったけど。しょっぱなから、毒を浴びるし。紐を解くのにもたもたするし、カエルに乗っ取られるし。ダメダメじゃん?」
 サファは、さらに、ペソォとするけど。
 セックスのことを言われないので、ハテナになった。

「旅に出る前、俺を惚れさせるなんて息巻いていたけど。こんなんじゃ、全然、惚れねぇな」
 俺の言葉のあと。サファの背後で、ブブーという効果音が鳴った。
 どうやら、レベルが落ちたようだ。
 なにって…ラッキースケベのレベルだろう?
 全く、わかりやすくて、嫌になる。
 俺は、苦笑して。言った。

「だから、いつまでもしょんぼりしてないで。いつもの、自信満々ワンコに戻れよ。そして、魔獣を瞬殺してくれ」
 そうでないと、俺の身が持たない。
 早く、このエロダンジョンから、抜けたいのだ。

「それとも、もう、あきらめるか? 旅の同行も、婚約話もなしに…」
「しないっ。あきらめない。もっと、もっと、テオに好きになってもらいたい。テオをお嫁さんにしたい」
 サファは鼻息荒く、俺にしっかり宣言した。
 でも、自信なさそうに、そっと聞く。

「テオ。今回のことで、俺のこと、嫌いになってない?」
「嫌いになってねぇって、言ってんじゃん。でも、いつまでもうじうじしていたら。嫌いになるかもな?」
 はうぅ、と唸って。まだ、耳がペソォとしているが。
 少し、瞳に力が戻ってきた。サファイアの瞳に、温かい光が戻った。

 そうそう、元気になれ。おまえが元気ないと、こっちも調子が狂うんだ。

「旅に誘った、責任を取れ。俺を最後まで、守り抜いてくれよ」
「責任っ、とる。テオのことは、俺が必ず守る。もう魔獣に指一本、触れさせねぇからな?」
「本当かよ。じゃあ、ま、期待している」

 にやりと、挑発的に笑う。やれるもんならやってみろ、的な?
 そうしたら、サファは。
 満面の笑みになって、俺に抱きついてきた。

 うわっ、この、馬鹿ワンコ。
 でかい図体で、飛び掛かってくんじゃねぇ。

 俺は、激しい勢いで押し倒され、床に頭をぶつけるかと思ったが。
 サファは優しく、俺の頭を手で支えて。そっとそっと、卵を抱える繊細さで、俺を寝床に横たえた。

「惚れた? 俺のこと、好きになった?」
 額と額をぶつけて、すっごく甘い微笑みで、たずねるから。
 ちょっと、ドキリとしちゃったけど。

「調子に乗るな、ばぁか。まだなにも、してねぇだろ?」
 俺が、そう言い放っても。サファは嬉しそうな顔のまんまで。
 額をぐりぐり、俺に押しつけて。クスクスと笑う。
 俺も、サファの髪をナデナデして。
 それで、なんか、こんな顔を近づけて馬鹿みたいって思うと。おかしくなって。
 ふたりで、笑い合った。
 みんな、もう寝ているから。そっと。こっそりと、だけど。

 まぁ、これで。仲直りはできたかな?
 俺たちの間にあった、ギクシャクした空気がなくなって。
 互いのわだかまりがほぐれたのが、なんとなく、わかった。

「仲直りのチュウ、させて」
 なにやら甘えんぼモードで、サファに囁かれて。
 俺は、うなずきはしなかったけど。
 そっと顔を寄せてくるサファの鼻に、鼻が当たらないよう、ちょっと頭を傾けて。
 流れのままに、サファのキスを受け入れた。

 いつもサファは、すぐに深いくちづけに移行していくけど。
 今日は、俺の唇をついばむような、可愛らしいキスだけをした。
 でも、ちゅぷって、音が鳴るほど。しっとりと濡れる、くちづけで。
 上唇に吸いついたり。下唇は甘噛みしたり。ふたついっぺんに、サファの口の中に食べられちゃったり。

 ディープキスじゃなくても、充分にいやらしいんだけど。

 うっすら、唇を開いても。サファは口腔に入り込んでこなかった。
 俺の唇を、舌で、めくりあげるみたいにするけど。
 もう、俺の口で、遊ぶなぁっ。

 くすぐったいような、むずがゆいような、感触に。
 フフっと、笑みが漏れて。
 サファも、クスクスと喉の奥で笑いながら。
 たわむれるキスをいっぱいした。

 サファは、唇をひとつ吸うたびに、うかがうように俺をみつめたが。
 笑い交じりに、俺はただ、彼を受け入れた。

「おやすみのチュウも、していい?」
 おうかがいをたてられたので、今度は、小さくうなずく。
 このくらいのキスなら、まぁ、いいかと思って。

 そうしたら。サファは。
 今度は舌を絡める、ディープなキスをして。

 もう、どうして。おやすみのチュウが、こんなにいやらしいやつなんだよって。
 心の中で、人知れずツッコんだ。

 やっぱり、調子に乗ったな? 駄犬勇者めっ。

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