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12 第一階層のボス部屋の手前 テオ・ターン

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     ◆第一階層のボス部屋の手前 テオ・ターン

 エロダンジョンに入ったはいいが、早速、見たことのない魔物に襲われて。解毒のために、ダンジョンを引き返すことになってしまった、勇者一行。
 毒を浴びてしまった、サファとユーリの解毒が済んで。装備も整えて。
 気を取り直して、もう一度、ダンジョンに突入した。

 解毒の話は、しないよ? サファもユーリも、俺も。なかったことにしたいだろうからな?
 俺はただ、サファを死なせたくなくて、必死で。
 そうしたら、なんか、いつの間にか、俺まで…んんっ、これ以上は思い出さないのっ。

 アレは。治療だから。完全に、ノーカウントです。

 それで。落ちてきたスライムの残骸は。やはり、あの酒瓶に変わっていて。
 それで、バラケイアが倒れたところには、やはり、瓶が落ちているのだが。鑑定すると。
「バラの香りの、高級化粧品だって。肌が、モチモチつるつるになるよって書いてある」
 もう、俺が鑑定持ちなのは、バレたので。隠すことなく、告げた。

「あなた、なんで鑑定持ちだって言わなかったのよ? 隠し事をされると、命に関わることもあるわ?」
 化粧品を渡したイオナに、聞かれる。
 まぁ、そうだよね? 信用問題、ってことだね?
 でも、こちらにも事情があったのだからね。

「冒険中に、そんなに役立つ能力だって知らなかったんだ。もう隠し事はないから。マジで」
 本当かしら、という目で見られるけど。
 疑いの目で見られちゃうのは、、まぁ、隠し事していた俺が悪いんだから、仕方がないね。

 それで、とにかく。
 通路を進んで行くと、スライムが落ちてきて。スライムの体液は布を溶かすから。
 サファとユーリが炎魔法で蹴散らす。

 あと、でっかい唇で、辺りのものを吸引しまくる魔植物、リップチュウチュウ(鑑定により名が判明)も現れたけど。それも、サファが炎で焼いた。
 魔植物は、基本、火に弱いね?

「俺をチュウチュウするのは、テオだけでいいんで」
 魔物を倒して、サファが得意げに言うけど。
 一言、多いんだ。バカ。

 ちなみに、リップチュウチュウのドロップ品は、精力剤だった。
 もしかして、冒険者が精液吸われて腰砕けになるやつって、コレ?
 冒険者の精液を吸ってできた、副産物? いらねぇ…。

 そんな感じで、勇者一行は、なんとか第一階層のボス部屋の手前まで来た。
 しかし、今まで出会った魔物が、あまりにも、見たことのないものだったし。
 一度、毒に侵されて、体力も消耗したということで。
 慎重を期して、ボス部屋に入る前に、睡眠をとる、長い休憩をすることになった。

 ダンジョンの中に入ると、日が差さないから、時間がよくわからないが。
 疲労感から。まぁ、夜だろう。
 ボス部屋の手前には、ちょうど冒険者が休めるようなスペース、いわゆる退避部屋というのがある。五十名くらいは入りそうな、ちょっと開けた空間があって。入り口がひとつだから、魔物が入ってきても、すぐに退治できる。
 休憩するには、もってこいの場所なのだ。
 そこで焚火を起こして、一息入れた。

 火を囲んで、焼いた肉とスープとパンの簡単な食事(それでも、俺がいなかった頃よりはマシな食事)をとる。
 あと、退避部屋を探検したら、奥から水音がしたから。その部分を見てみたら。天井からお湯が落ちてくるところがあった。
 鑑定しても、なんの混じりけもない、普通のお湯。
 雫はぽたぽたとしか落ちてこないが。手拭いを濡らして、サッと体を拭くには、充分だな。
 ダンジョン的には、冒険者に優しい作りだなと思った。

 まぁ、中身の魔物が、癖ツヨ過ぎるけど。

「ユーリの治療は、なんで、先生がやっていたんだ?」
 食べて、体も清めて、みんなでまったりしているところに。サファがぶっこんで来た。
 そこに触れるぅ? ユーリが可哀想だろ? 涙目になってるじゃん。

 この件は。ユーリは、なにも言えないので。
 イオナが答えた。
「だってぇ、ユーリのおっぱいを舐めている私の顔を、先生には見られたくないしぃ。でも、私一人で治療するには、ユーリのおっぱいは大きすぎますわぁ? だから、私は。少し離れて。新しい装備や服の用意をしていましたの」
 イオナは、おっとり、にっこりと、言うけれど。
 人々の心や病を癒す聖女なのに、結構ひどいね。

「…俺は、一刻の猶予もないと思ったから。解毒した」
 今まで、あまり言葉を発さなかったクリスが。ぽつりと言う。
 ユーリは、その言葉に。むすっとして、頬を膨らませている。

 男の人に、胸を舐められたのが。やっぱり不快だったのかな?
 でも、治療してくれた恩があるから。クリスに怒ったり、暴言吐いたりは、さすがにしなかった。
 さすが、優等生。常識はわきまえているみたいで、良かったよぉ。

 それはともかく。
 クリスのことを、俺は、濃茶のおひげが、クマちゃんみたいって思っていたんだけど。

「クリスは、なんで先生って呼ばれているの?」
 俺が聞くと。イオナが得意げに教えてくれる。
「クリスは、私たち三人の、剣術の先生なのよ。だから、あなたも。クリスのことは先生とお呼びなさい?」

「剣術の先生は、師匠じゃないのか?」
 さらにたずねると。クリスが、首を横に振りながら、言った。

「俺たちには、共通の師匠が、別にいる。俺はいわゆる、勇者様たちの、兄弟子という立ち位置だ。でも、テオにはなにも教えていないから、クリスでいいよ?」
 優しい声音で、そう言ってくれる。
 クリスは、本当に優しいんだ。俺が忙しく設営していると、なにも言わずに手伝ってくれるし。力持ちだから、少し大きめの倒木とかも運んでくれるしね。
 料理も、切るだけならできるって。
 いやいや、食事係は、それをやってもらえるだけでも、助かります。

 だから、俺は。その優しいクリスに、いつも感動するのだ。
 頼もしくて、尊敬できる、大人だぁって。

「サファの先生なら、俺も先生って呼びたい。クリス、いい?」
「あぁ、好きに呼べ」
 にこにこと、俺とクリスが笑い合っていると。
 サファが、唇を突き出して、睨んできた。

 スルースキル、発動!

     ★★★★★

 睡眠をしっかりとって、リフレッシュした勇者一行は、ひとつ目のボス部屋の前に立った。

「信じらんねぇ。勇者の俺が、一日で、たったひとつの階層もクリアできねぇなんて…」
 そんな風につぶやくサファを、背中を叩いてなだめつつ。扉を開けさせたが。

「ん、開かないな」
 ボス部屋は、両開きの扉で、右と左の二枚であるが。右だけ押しても開かない構造のようだった。
 そして、なかなか重い。

「みんなで、押し開こう。せーのっ!」
 サファの掛け声で、俺たちは入り口の扉を押していくが。あるところまで行くと、急に軽くなって。
 勢いのまま、俺はコロンと部屋の中に転がってしまった。

 そうしたら、目の前に。
 大きな蛇の魔獣…ビッグスネークカモンがいたぁ。

「テオ、危なーい」
 とか言って、サファは俺を抱え。ピョーンと飛んだと思ったら。
 魔獣がとぐろを巻く、そのど真ん中に飛び込んだ。

「ぎゃぁぁぁぁっ、なんで、俺と一緒に、敵地のど真ん中に飛び込むんだよっ??」
「いやぁ、ここに、空間があったからさぁ。てへ?」
 勇者のくせに、てへ? とか言うんじゃねぇっ!
 つか、まつ毛バサバサ美麗な美形のくせに、馬鹿面しやがって。
 マジ、殴りてぇ。この、駄犬がぁっ。

 俺が睨んでいると、サファは、自信満々な笑みでニヤリとする。
「まぁまぁ、このくらいの魔獣は、瞬殺してやる」
 そうして、気をみなぎらせたサファは。部屋いっぱいにでっかくなっている蛇を、シャシャッと輪切りにして、殲滅した。
 マジで、瞬殺。ホッ。
 ビッグスネークカモンのいたところには、まむしドリンクがドロップしていた。
「まむしドリンク。滋養、強壮、精力増進、などなど」
 鑑定文を読むけれど。サファは精力有り余っているから、いらないな?

「つか、先生たち、いなくね?」
 蛇を倒したあと、部屋にいるのは、俺とサファだけだった。

「あぁ、入り口が、扉の半分しかないから。たぶん、別の部屋に誘い込まれたんだな?」
「仲間を分断する罠があったのか。大丈夫かなぁ?」
「クリスは強いし。大丈夫だろ。それより、宝箱がある」
「あっ、鑑定してから…」
 宝箱こそ、罠があるっていうのに。
 サファは不用意に開けやがった。勇者のくせに迂闊うかつな奴めっ。

 そうしたら、箱の中から、なんか、なわみたいなものがいっぱい出てきて。部屋中にロープが張り巡らされた。
 俺は、そのひもに触れてしまって。体をあちこち、縛られてしまう。
 手は後方に引っ張られ、腰は前方に引っ張られて、グルグル巻きになって宙に浮き。足は膝が曲がった状態で、左右に引っ張られて。
 後ろ手で、空中に座っているような体勢で。がんじがらめになってしまった。

「テオ、大丈夫か? 今、縄を切ってやるから」
 そうして、サファが。剣を振りかぶる。
 しかし、あんな巨大な蛇を、一刀両断した剣が。なんでか、ビヨーンと弾いて、跳ね返されてしまうのだ。

「嘘だろ? 切れない」
 サファが、反動をつけないで、ぎこぎことノコギリみたいにして切ってみるけど。それでも、縄は切れないのだ。

 えっ? これ、どうするの?

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