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5 俺にツッコむ気、満々だろ? テオ・ターン   ★

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     ◆俺にツッコむ気、満々だろ? テオ・ターン

 俺は今、最大にピンチである。白銀の狼魔獣、フェンリルに襲われているのだ。
 いや、サファのことだけど。

 普段は、無害なワンコを装っているくせに。
 中身は、でっかくて、超強くて、無敵で、凶悪で、俺を食おうとしている、狼…より、たちの悪いやつ。
 それって、もう、魔獣のフェンリルでいいだろ?
 フェンリルは、犬系で、一番大きくて、強い魔獣だもん。
 それに、サファの名字がマーロウだし。魔狼であってるっ。

 その、フェンリル…いや、サファが。今、俺を、俺のベッドに押し倒して、その上にのしかかっている。
 ベッドが、ギシギシいっているぅ。完全に、重量オーバーだよ。
 壊れたら、弁償してもらうからな?

 いや、こんなことを思うのは。今のこの状況が、全く受け入れられないから。

 なんで、こんなことになっちゃったのやら。
 パンの仕込みを終えた、俺は。さっき、自室に戻ってきて。一休みしていたんだけど。
 そうしたら、扉をノックされて。
 村の宴会に行った両親が帰ってきたのかと思って、戸を開けたら。

 そこにはサファがいた。

 いきなり現れたサファは。いかにも宴会の主役という出で立ちで。
 白いシャツに、濃い紫のタイを飾った、黒の上下というシックな盛装だった。
 銀の髪は、緩やかなウェーブが後ろに流れるように、整髪されて。
 なんか、化粧でもしているのかと思うくらい、キラキラしている。
 胸板が分厚いから、夜会用の装いが、美麗で。よく似合っていて。王都で暮らしただけあって、垢ぬけていて。

 うん。まぁ、立派になったんじゃね?

 タイを乱暴に外す仕草が、男の色気満載だ。
 とても同い年には見えない。
 あんまり、ゴージャスなんで。つい、見惚れてしまったが。

 それを、誤魔化すように。彼を突き放すように、俺は言う。
「話なんか、もうないだろ?」
 すると。なんでか。脈絡もなにもなく。

 サファにキスされた。

 突然のことに、慌てて。
 なんで、こんなことをするのかって、問い詰めたら。
 サファは。俺を婚約者だって思っていた、なんて言い出したんだ。

 はぁ、そんな話? いつ、したよ? って、思うだろ?

 そうしたら。ずっと俺のそばにいてって、子供の頃に言ったことが、プロポーズだって。
 しらんがな。

 いや、覚えてはいるけど。
 そのときは、サファが王都に行ってしまえば、もう二度と、この村には戻ってこないと思って。適当に、相槌を打った、みたいな?
 サファはプロポーズだったって言い張るけど。俺はそんなつもりなかった。
 そう言ったら、怒っちゃって。

 今、ベッドに押し倒されている、みたいな。なんでぇ?

「テオは、恥ずかしがり屋で怒りんぼだから。空気読んで、みんなの前で、婚約者だって言わなかった…」
 覆いかぶさっているサファは、濃い青の瞳を熱くうるませて、俺を見下ろす。
 それは、賢明な判断だ。
 つか、空気読めるなら、いつも読んでほしい。
 あと、それは、あの酒場でのことだと思うが。
 あのときの、意味不明な彼のうなずきには。そんな意味があったらしい。
 しらんがな。

 それにしても、勘違いが甚だしい。
 大体、男同士で、プロポーズとか。考えられるわけないしぃ。
 なんて、思っていたら。
 サファの顔が、だんだん近づいてきて。また、キスされた。

 ヤバい。サファの、肉厚の唇に、キスされると。すっげ、気持ちいいんだ。
 この年になるまで、キスとか、したことがなかったけど。

 キスって、なんで、こんなに気持ちいいのぉ?

 特に、口の中の、上の方に、サファの舌が触れると。もう、下半身に、直にクルっていうか。
 頭がクラッとして。腰骨が、ウズウズする感じになる。

 こいつ、顔だけはいいからな。
 俺は、人並みの美的感覚があるから、整ったこいつの顔には弱いんだ。
 だって、サファ以上に綺麗な人物に、会ったことねぇんだもん。
 黙っていれば、こいつが一番、俺の好みのタイプの顔をしているんだもん。

 だから、キスされても。嫌悪感が湧かないのが、困る。
 普通、同性に迫られたら。
 キスされたら。おえぇって、なっても。おかしくないけど。
 サファの場合、性別不明の美麗な神様にキスされているみたいな、錯覚がするっていうか?

 いやいや、そんな場合ではないよ。
 しっかり、拒絶しなきゃ。

 だって、こいつ、俺にツッコむ気、満々だろ?

 いくら神様? は、言い過ぎか。完全無欠の勇者様? が相手だとしても。
 ツッコまれるのは、勘弁。無理無理。

「旅立つ前に、話せて良かった。まさか、テオが。俺の婚約者じゃないって言い出すなんてな? ま、認めねぇけど。テオは、プロポーズを受けたんだから、俺の嫁にする。でも、あくまで、なかったことにするつもりなら。この旅の間に、しっかり俺に、惚れさせて。旅が終わるまでには、俺の嫁になりたいって、テオに思ってもらえるようにするから」
「そんなの、絶対、ない…んっ」

 やっぱり、嫁って言った。こいつ、俺にツッコむ気なんだっ。
 そんなの、断固回避しなきゃ。
 さっきから、俺の足に当たっている、こいつのナニ、凶器だもん。
 こんな大きなモノ、誰にも、ツッコんだらダメだよ。
 傷害罪だよ。

 だけど。そんなことを、いっぱい考えたけど。
 言葉の途中で、キスされて。口の中の、すっごく敏感な上あごばかり、執拗に舐められちゃって。
 気持ち良すぎて、頭がボゥっとしてくる。
 もう、なんで、そこばっかりぃ。

「ん、んっ…んぁ」
 自分の鼻から漏れる吐息が、自分のものではないみたい。
 なに、こんな、甘えたみたいな声が出ちゃうのぉ? ひぃぃ。

 でも、口の中をまさぐっているだけなのに、なんでか下半身に直撃する、エロい猛攻に。
 キスもしたことなかった、性的経験値ゼロの俺が、太刀打ちできるわけもなく。
 顎を伝う、口から漏れた、俺の唾液を。サファが、舌でレロッと舐めあげたとき。
 ぞくぞく、ってして。
 キスもしていないのに、あぁ、と。思わぬ喘ぎが漏れた。
 もう、サファに何をされても。気持ちいぃ。

「キス、気持ちいい? 俺が好きだから、感じているんだよね?」
 嬉しそうな、秘密を囁くような、色っぽい声で、サファに言われたが。
 そのとき、俺は。
 夢から覚めたみたいに、ハッとして。反射的に答えていた。

「嫌い。サファなんか、嫌いだも…んぁっ」
 俺は、ずっと思っていたのだ。

 サファなんか、嫌い。

 俺を、いつも振り回して。怖いことばかりして、俺を泣かしたじゃん。
 俺は、サファと一緒にいると。いつも、弱い自分を突きつけられるんだ。
 サファは、強いから。なんだかんだで、怖い目にあっても、俺を助けてくれたけど。

 それで、泣く俺は、弱い。
 サファは強い。

 それを、明確に示されているみたいだから。
 だから、嫌い。
 サファの横にいるだけで。弱い俺を、嫌でも実感させられるから。

 でも、嫌いって言ったら。
 サファの、サファイアの瞳が、凍りついたみたいな色になった。
 それで、やつは。固くなってる俺のモノを、ギュっと握ったんだ。イテテ。

「嫌いって言ったら、握りつぶすよ」
 決して、サファは。力を入れてはいなかったが。
 そんな、急所を握られて、そんなことを言われたらさぁ。
 つか、勇者の力で、本気で握られたら。そんな柔らかいモノは、すぐに、もげてしまうよ。
 そんなの想像したらさぁ、身がすくむよ。マジで。
 サファは、それほど、乱暴なやつじゃないって、わかってはいても。
 でも、今。怒っているんだろ?
 なにするか、わからないじゃん。

 だから、怖くて。涙が出そうになった。

「あぁ、泣かないで。ただ、テオに。嫌いって、言われたくないだけ…」
 俺は、こくこくと、うなずく。
 サファに『嫌い』は、危険ワード過ぎる。
 もう、言わない。

「俺が、テオを傷つけるわけない。意地悪しなかったら、大事に、大事に、守ってあげるよ? ね?」
 サファは俺を、大事な宝物を見るような目で、みつめる。

 なんで、そんなに俺に執着するんだ?
 俺はただの、村人Aだよ?
 子供の頃に、森について行っても、俺は泣くばかりの弱虫で。なんの役にも立たなかっただろう?
 剣も魔法も使えないよ?
 それに、なにより、男同士だし。
 顔も、サファほど綺麗だったら、わかるけど。俺は、ザ、平凡な。どこにでもいるような顔立ちだ。
 王都には、美男美女がいっぱいいただろう?
 こんなにキスが上手いのだから、恋人もいっぱい、できたんだろう?
 新しい友達や仲間は、学のない俺なんかより、みんな優秀なやつらだろう?
 イオナもユーリも、可愛い女の子じゃないか?

 なのに。なんで、俺を嫁にするなんて、言うんだよ。

 でも。そんなの。なんでかは、わからないけど。
 とりあえず、サファの怒りを解かないと。
 俺のナニがヤバい。
 大事な部分の、存続の危機。まだ、男の子でいさせてっ!

「ん、サファ、意地悪しないから。怒らないで?」
 思った以上に、情けない声が出てしまった。
 だって、握られたまんまで、怖いんだもんっ。

「怒ってないよ。ほら、テオ。俺の首に、手を回して」
 うながされ、おずおずと、サファにしがみつく。
 言うこと聞くから、股間から手を離してっ。

 そうしたら、すぐそばにある、麗しい顔が。うっそりと微笑んで。
 額をごっつんこしたと思ったら。また、くちづけてきた。

 あぁ、また。気持ちいいの、来る。

 なんか、いつの間にか足を開かされていて。股間の、俺のモノに、サファのごっつい、ゴリゴリのやつが、押し当てられている。
 服越しでも、その凶器で刺激されると。
 俺の下半身も、直の刺激に、やっぱり高ぶっちゃう。

 それは、仕方がないっていうか。
 男なら、刺激されたら、気持ちよくなっちゃうもんだよ。うん。
 あぁ、でも。快感に弱すぎで、チョロすぎで。自分で自分に引くよ。

 だけど。キスで上あごをくすぐられながら、屹立を、彼の剛直で、こすり上げられると。
 もう、そこが。ジンジンしてきて。勝手に腰が動いちゃう。
 良い感覚を、追ってしまう。

「あぁ、その動き、いいよ、テオ」
 ぎゃああ、実況しないでくれ、恥ずかしいっ。無意識なんだからっ。

 でもサファに、巧みにキスされて。口がふさがっているから。文句も言えない。
 つか、くちゅくちゅと、音が鳴るほど、舌が、俺の舌に、絡んで、絡んで。
 こんな濃厚なキス、もちろん初めてだから。息を吸うタイミングもわからない。

 ふとした隙に、大きく口を開けて、息を吸い込むが。すかさず、サファがくちづけてきて。
 俺の唇、食べちゃうみたいに、がぶりとされて。
 なんか、舌が、深いところまで潜り込んでくるような。熱い熱いくちづけをされてしまう。

 うう、いい。いいんだ。
 もう、いいしか、考えられないぃ。

 なんか、酸欠みたいに、ぼんやりして。気づいたら。
 俺のモノが、外気にさらされていて、サファの剛直と一緒に、彼の大きな手の中に握り込まれていた。

 い、いつの間に?
 そして、彼のモノの、脈動が。俺のモノに、伝わって。

 どくんって。

 その感覚が、熱くて。心臓が跳ねるみたいで。
 俺のも、どくんって。震えた。

「ねぇ、テオ。気持ちいいのは、俺に嫌悪感がない証拠だろ? だから。俺の手でイったら。チャンスをくれ。一緒に旅をして。テオが俺を好きになる、その機会が欲しい」

 サファに、そんな風に言われるけど。そんなのっ。
 直接、握られているのに。イかないわけないだろ?
 男は、こすれば出る生き物なのに。

 でも、サファは。俺の返事を聞かずに、キスして。俺の口をふさいだ。
 こいつ、まずは俺をイかせて、男に二言なしとか言うつもりだな?
 くっそ。じゃあ、俺は。出さなきゃいいってわけか?

 いやいや、そんなの、無理だよ。
 エロいキスされて。サファの大きな熱い手で、敏感な部分を上下にこすられたらさ。
 もう、すぐにも。イきそう。
 我慢なんか、出来るわけないよっ。

「テオ、好きだよ。子供のときから、ずっと好き。嫌いとか、言わないで? 俺だって、傷つくよ」
 サファは、俺の首元に、頭をこすりつけて。悲しそうにつぶやく。

 うぅ、そんなことされたら。俺が、いじめてるみたいじゃん。

 柔らかい、サファの銀の髪が、俺の顎の下をくすぐる。
 子供のときに、喧嘩して。俺がすっごい怒っていると。
 こうやって、サファが。怒らないでって、言ってきたっけな?
 そういうところ、変わらないな。
 子供のときから、森の魔獣をひとりで倒しちゃうくらい、強かったのに。
 怒る俺に、半泣きで、ごめんねって言う。
 その幼いサファの顔を思い出して。

 なんか、可哀想になってきた。

「もう、言わないよ。でも。婚約とか。本当に、考えたことなかったから…」
 サファのくせ毛を手で撫でて、怒ってないと示す。
 以前と変わらない、柔らかな手触りだ。

 すると、サファはニッコリ笑って、俺を見やる。
「じゃあ、旅の間に考えてみて? 俺と結婚すること、意識してくれよ」

 そうして、サファは。彼の手と、俺の屹立の間に、やつの剛直を入れ込んで。下から上に、ググっと、進み入れてくる。
 俺は、屹立を。彼の張り出した部分で、グリリッと押し上げられて。射精感が突き上げられた。
「うぁっ、や、そんなの…」
 先走りの蜜が、先端から、少し漏れた。その感覚も、良くて。

 自慰で、こんな気持ちよく、なったことない。

 体がビクンとなって、思わずしがみついていたサファの首を、引き寄せた。
「俺の腰に、足を絡ませて。行くよ」
 快楽を逃せられるのかと思ったのに。サファに足を巻き付けたら。より、サファと体が密着して。
 俺の屹立が、サファの突端に、揉みくちゃに、ぐちゅぐちゅと、こすり上げられてしまう。
 あ、いい。
 巻き付けた足を離して、身を引かなきゃならないのに。
 腰に渦巻く官能が、あらがえないくらい、良いから。逆に足を引き寄せて、サファに腰を押しつけてしまう。
 ぐちゅぐちゅと、いやらしい音が響いて。俺を煽る。
 んぁ、どんどん良くなる。ヤバい、イイ。
 腰をくねらせて、自分から、イイ感覚を追い求めてしまう。

「や、あ、あ、あぁ…で、出ちゃうから、離して、サファぁ」
「出る、じゃなくて。イくって、言って?」
「ん、イく。イくからぁ、離して、サファ、あ、や、んぁ」
 ギシギシと、ベッドが激しく軋んで。俺は、サファに小刻みに揺さぶられる。
 でも、感覚は、股間に集中していて。
 もう、気持ちいいことしか、考えられない。

「ダメ。離さないよ? 俺の手で、イったら。旅に一緒に行く、約束だもんな。ほら、ここから、出して?」
 サファが、俺の突端を、手の先でくりくりといじったら。

 もう、ダメ。

 彼の剛直が、屹立の根元から先端まで、まんべんなく刺激して。それに押し出されるようにして。俺は白濁を勢いよく飛ばしてしまった。
 背筋から、すさまじい快楽が、ぞくぞくっと走って。
 腰が抜けそうなほどの射精感を、俺はサファに味わわされてしまった。

 俺は、びくびくと震える体を、サファに押しつけて。腰も、ねだるようにうごめかせて。
 そして、達してしまった。

 約束、してないぃ。でも、訂正できなかったぁ。
 あぁ、これで。旅に行くのが決定しちゃったな?

 絶頂感によるものと、あきらめの気持ちで、ため息をつくが。
 サファはまだ、俺の股間を握って、腰を動かしている。
「んぁ、サファ、俺、イったよ?」
「んん。俺は、まだだから。もう少し、付き合って」
 はぁ? っと思う間もなく。俺はまた、サファに揉みくちゃにされて。

「ば、馬鹿ぁ、サファぁ、そういうところ、きらーい」
「その、きらーいは、可愛いから、許す」
 そのあとは、舌と舌を結ぶような深いキスをされちゃって。
 きらーい、の言葉は。全部サファに食べられた。

 文句を言うように、腰を突き上げれば。それはサファには、快楽のご褒美に変わり。
 そのうちに、また俺も、高ぶってきて…。
 サファが達するときには、俺も。二度目の精を放つ羽目になってしまった。

 俺の腹に、大量の精を吐き出したサファは。満足そうな顔をして、チュッと、俺の唇をついばむキスをしたのだった。
 恋人面は、やめろ。まだ、そういうんじゃないんだからなっ?
 でも。サファの精液が、俺の腹の上を熱く焼いて。
 その感覚に、俺は、悦楽のわななきを感じてしまった。

 ううん。気のせい。

 まだ、俺は、そんなに心を許していないし。
 婚約とか、する気はないからなっ。

 だけど。はじめての行為が、濃厚すぎて。俺は、身がとろけちゃったみたいになって。
 呆然自失、というか。
 なんか、なにも考えられなくなって。
 後始末とか、全部、サファがやってくれた。
 てきぱき。

 なんか、サファが、すっごい元気になっているのは、気のせいかなぁ?
 いいや。だって。
 レベルが上がる音が。ピコーンピコーン激しくなっていたから、気のせいじゃないだろうな。
 きっと、サファの中で、なにかが、爆上がっているのだろう。

 俺は、ただ、ベッドの上で、ぐったりしていた。

 そうしたら、サファが。なんか、妙な空間から、防具を一式、取り出している。
「それ、マジックボックス?」
 マジックボックスは、なんでも入れられる、魔法の空間で。主人が、欲しいものを取り出せるようになっている、便利魔法だ。
 時間が止まっているから、食材を入れてもオッケー。
 魔獣を倒すとアイテムやドロップ品が出るから、冒険者は、それを収集するのに、よく使っているよ。

 でも、だいぶ魔法レベルが高くないと、これは使えないみたいだけど。
 俺は、魔法スキルがないから、無理。
 だから、荷物運びのレベルが50で、力持ちなわけだけど。
 俺はそれで、いいのっ。

「あぁ。この防具を着て、明日、広場に来て」
「つか。やっぱ、行かなきゃダメ? マジックボックスあるなら、荷物持ちはいらないだろう?」
「約束、だろ? この魔王討伐の旅は、王様の依頼だけど。俺にとっては、テオの気を変えるための、大事な旅だ。そちらが、メインだから」
「いやいや、魔王討伐がメインに決まってんだろ」

 馬鹿なことを言うサファに、素で、ツッコんだ。
 王様の依頼を反故にしたら、普通に死亡案件だっつうのに。
 こいつの優先順位は、全くおかしい。

 だが。そうは言っても。酒場で、大勢の人の前で、約束しちゃったし。
 さっきのも。サファは、だいぶ強引だったけど。
 あんな必死な顔を見せるから。

 もう、仕方がないかなぁ。

「わかった。行ってやる。でも、今日みたいな、こういうのは。なしだからな? 俺が同意してなきゃ、触っちゃダメ。約束、出来るか?」
 ここは、きっちり、言っておかないと。サファは、すぐ調子に乗るから。
 一回したら、二回も三回も同じ、とか言って、言いくるめてきそうだからな?
 こいつは、そういう、言い訳とかの口が立つんだ。
 だから、俺とサファが、同じイタズラをしても。
 サファは怒られないけど。俺は怒られるの。
 理不尽。

 大体な、恋人でもないのに、こういう濃厚な触りっことか。ダメなんだからなっ?

「あぁ、約束する。同意なしで、もう、触れない」
 でも、案外、あっさり。サファが承諾した。
 拍子抜けだけど。
 これなら、旅の間も。俺の貞操は守れそうだ。
 だって俺は。絶対、同意なんかしないんだからなっ。

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