【完結】勇者のスキルにラッキースケベがある(村人A専用って、俺ぇ!?)

北川晶

文字の大きさ
上 下
5 / 43

3 村人Aの役割、果たします。 テオ・ターン

しおりを挟む
     ◆村人Aの役割、果たします。 テオ・ターン

 王都から帰ってきたサファに、俺は、村で唯一ある酒場に連れて行かれ。
 そこで、サファは。彼の仲間たちを、俺に紹介した。
 つか、俺は暇じゃないんだがな? 仕事中だし。

 この村では、お酒は二十歳で解禁なので。俺はまだ、お酒は飲めない。
 だから、酒場なのにオレンジジュースを頼む。

「私は、エールをください。まぁ、あなたはジュースなの? エールなんて、ジュースみたいなものよ?」
 彼の仲間の、黒髪ロング女子が、そう言う。
 自分でも、格好悪いと思ってんだから、ツッコまないで。

「ユーリ。テオは、まだ仕事中だから、飲まないんだよ。俺もオレンジジュース」
 仕事中だからもあるけど、未成年だから、飲まないのっ。そういうルールを守らないの、俺、嫌いなんで。
 俺をかばってくれたのか、サファも、オレンジジュース頼んだ。
 ま、そういうところは、昔から変わらず。優しい面もあるよ、うん。

 でも。迷惑の方が、圧倒的に多いけどな。

 彼の仲間は、みんなエールを頼んだ。大人だなぁ。
「テオ、俺の仲間を紹介するな? 右から、聖女でヒーラーのイオナ。剣士のクリス。魔法使いのユーリだ」
 サファはひとりひとり手で示すが。大雑把な、説明だな。

 イオナは、ハニーイエローで、長く波打つ髪が、ふわふわしている。
 目尻が少し垂れていて、あどけない印象。
 聖女なだけあって、優しげで清楚で敬虔なイメージ。手を組んで目を閉じる、あの聖女スタイルが、容易に想像できる感じ?
 体のラインが見える、白いヒラヒラの衣装に。防具は手甲と脛当てくらい。
 ヒーラーだから、前衛に出ないのかもしれないけど。冒険に出るなら、ちょっと軽装過ぎるな?
 でも。おお、浄化や毒消しのレベルが、500を超えているぞ。
 さすが、勇者御一行のヒーラーだけあるな?

 クリスは、見た感じ、彼の仲間の中で一番年長かな? 三十歳前後くらいか。
 エールを豪快に飲む感じが、手慣れている。頼もしい大人だぁ。
 剣士の彼は、勇者のサファより長身で。がっしりとした体躯は、サファより筋肉が分厚そう。
 大きな剣を携えて、胸や肩や膝に、しっかり防具をつけている。剣戟のレベルが、1300超え。すげぇ。
 同じ戦闘タイプでも、サファの体つきはスレンダーで、クリスはクマって感じ。
 髪色もヒゲも、こげ茶だし。
 心の中で、クマって呼んでいいですか?

 ユーリは、魔法使い特有の三角の帽子をかぶっていて。黒いマントを身につけている。
 そして、黒髪のストレートロング。
 杖を持っている。ザ・魔法使い、って感じ。
 スキルは、爆炎魔法1856、凍結魔法247、暴風魔法26、と。火系のぶっ放し魔法が得意なタイプ?
 どちらにしても、爆炎スキル1856は、すげぇ、魔法使いだ。
 先ほど、俺に。エールはジュース、と言ったみたいに。ちょっと、勝気で。ツンツン気味?
 目元も猫みたいに、ちょっと吊り気味で。口はへの字に引き結ばれている。
 姿勢が良く。マントの合わせ目から見えるのは、かっちりしたブラウスで。
 なんとなく、学校でも制服を着崩さない、優等生というか。潔癖な雰囲気があるな。

 ちなみに、勇者のサファは。剣戟も魔法も、レベルは軒並み2000超え。さすがというか。ヤベェというか。

「で、こちらは、テオ。俺の幼馴染だ」
 俺のことも、サファはみんなに紹介したが。
 最後に、目を微笑ませて。うん、とうなずくの。なに?

「それでな? テオ。相談なんだが。俺たちは、ヘルセリウム国の、国王直々に、魔王討伐の指令を受けたんだ」
 ヘルセリウム国は、ハージマを含む、この国のことである。

「へぇ、すごいじゃん。国王様が、おまえに頼み事するなんて。さすが勇者だな?」
 社交辞令で、そう言ったけど。
 サファは、なんか。得意げに、嬉しそうに、笑った。
 国王に、魔王討伐を任命されたのが、よほど誇らしいんだろうな?

「魔王に囚われた大妖精を、国王は、俺らに救出してほしいんだって。その大妖精は、主と認めた相手の望みを、なんでも叶えてくれるんだ」
「大妖精? はじめて聞くよ、そんな話」

 でも、なんでも望みを叶えるなんて、そんなの、本当かなぁ?
 つか、国王は、なにか叶えたい望みがあるってことなのかな?
 王様になっても、まだ欲しいものがあるんだなぁ? 強欲ぅ。

「まぁ、それで。魔王城に行く前に、ラルラウア山へ魔剣を取りに行こうと思っているんだ。そこのダンジョンの最下層で、ラスボスは、剣に魔獣の血を吸わせていて。その剣は、とても禍々しい魔力を放っているらしい。それを手に入れられたら、魔王にも対抗できる」

 ラルラウア山は、はじまりの村から、魔王城へ向かう途中にある山だ。
 標高は、そんなに高くはないのだが。
 そこのふもとにあるダンジョンから、魔獣があふれ出ているという話を。近くを通りがかったという冒険者から聞いていた。
 だから、魔王城へ向かうとしても。冒険者たちはみんな、そのラルラウア山は迂回する。
 ゆえに、ダンジョンの情報は。俺は、あまり持っていなかった。

「俺の店に立ち寄る冒険者たちは、そのダンジョンを敬遠しているみたいだ。ダンジョンの周辺の森に、中級以上の魔獣が出没するらしいぞ?」
 このくらいの情報しか出せないが。
 村人Aの役割を果たすべく。俺は、知る限りの情報を、サファに開示した。

「まぁ、初級者には、きついだろうが。俺らは大丈夫だ。中級程度は朝飯前さ。俺はそのダンジョンに潜って、魔剣をゲットする」
 サファが断言すると。酒場にいた冒険者たちが、おおぉと声をあげた。

 どうやら、勇者一行の話に、聞き耳を立てていたみたい。

「そうか。じゃあ、頑張れよ? サファ」
 俺は、村人Aの役割を果たせて。満足して、笑みを浮かべた。

 そうしたら、サファは。目を丸くした。
「なに言ってんだ? おまえも一緒に行くんだよ。勇者一行の仲間になってくれ」
「無理っ」

 速攻断った。つか、サファと一緒にダンジョン潜るとか、冗談じゃない。
 嫌な予感しかしないよ。

 でも、サファは。俺が断るとは、思ってもいなかったみたい。
 開いた口が塞がらない、という顔をした。
 おいおい、イケメンの勇者様が、そんな間抜けな顔をしたらダメだろ。

「あぁぁぁあ、萎えた。国王の指令だったけど、テオが行かないんなら、断っちゃおうかなぁ??」
 グテリ、と、机に突っ伏して言う、勇者。

 はぁ? 俺のせいにするつもり?
 つか、オレンジジュースで酔ったの?

 そうしたら、サファの仲間たちが、特に、聖女イオナが、慌てた。
「なにをおっしゃるの? サファイアさま。国王さまの依頼を断るなんて、冗談でも口にしてはいけませんわ? ちょっと、あなたも。勇者様が誘っているのに、速攻断るとか、何様なの? 大体、さっきから勇者様にタメ口で、少しは立場をわきまえなさい??」

 おっとりさんだと思っていたが、結構、毒舌だった。
 でも、タメ口は。サファは、俺の友達だしな?
 つか、サファ相手に、敬語とか。無理。尊敬してないしぃ。
 あ、魔王を倒せたら、尊敬してもいいけどぉ?

 俺の中で、サファは。なんか、簡単に魔獣を倒せる力があるくせに、俺の前では、ちょっと情けなくて。
 強引に、遊びに誘うくせに。そこで危ない目にあって、俺が泣くと。オロオロしちゃって。
 全然、カッコ良くないの。
 だから。勇者だって言われてもなぁ? って感じ?

「いやぁ、でも。俺は、しがないパン屋ですし」
 まぁ、初対面のイオナに、そこら辺を説明するのも面倒なので。とにかく、辞退の方向で話を進める。
 これ、絶対、俺にメリットなんもないやつぅ。

「そんなの、どうでもいいですわ? 勇者様のお言葉に従いなさい」
 でも、イオナは。聖女の気品を前面に出して。ゴリ押しするのだった。
 横暴です、聖女様。
 彼女の言葉に、俺は、どうでもよくはないだろ…と思っていたが。
 いつの間にか酒場にいたらしい、俺の親父が。席を立って、言った。

「そうだ、テオ。パン屋なんか、どうでもいい。せっかく勇者様が、旅に誘ってくれたのだ。素晴らしい冒険が、おまえの前にはあるのだぞ? つか、サファくんには、子供のときに世話になっただろう。恩返しをしてこい」

 ええぇぇぇ?
 親父、自分の職業を、なんかとか、言わないでくれよぉ。俺も目指している道なんですけどぉ?
 つか、恩返しって、なに?
 俺は、サファに。迷惑かけられた覚えしかない。

 それにさ、親父。あんたが旅に出たいだけだろ?
 親父が冒険者にあこがれて、酒場に入り浸って彼らの話を聞いているの、知ってんだからな?

「そうだ、そうだ、兄ちゃん。勇者と魔王討伐の旅なんて、俺がしたいくらいだ。目的を達成したら、一躍、勇者の仲間も、英雄なんだぞ?」
 あなたがしたいのなら、あなたが行ってください、と。俺は、ジト目で思う。
 大体、酒場には。血気盛んな冒険者が多くいるのだ。
 そりゃ、勇者と御一緒したい輩で、この酒場は埋め尽くされているだろう。
 ここは、俺の村なのに。
 俺にとって、アウェーだった。

 そんなわけで、断れない雰囲気になっちゃったんですけどぉ??

 もうっ。サファのやつ。これ、仕組みやがったなぁ?
 ちょっと断っただけで、大ブーイングだし。
 サファの勧誘を無下にしたら、マジで、村八分の総スカンになりそう。
 酒場の外で、村人たちも、こちらの様子をうかがっているし。

 あぁぁぁ、めんどくせ。

「…料理と荷物持ちしかできねぇぞ? 魔獣に攻撃とか、無理だからな?」
「もちろんだよ。テオのことは、俺が絶対に、守ってやるからな?」

 さっきまで、泥のように落ち込んでいた勇者が、もう、ケロッとして、俺に笑みを投げた。
 くそっ。はかられたかな。
 でも、国王の依頼を、断るとか。言われたら、困るし。
 それが俺のせいなんて知られたら。普通に処刑されんじゃね?
 村八分どころじゃなく、死? 死亡案件ですか?

 ぎゃあぁぁぁあ、やっぱり、サファは。俺に、凶事しか運んでこねぇな?
 厄介極まりないっ。やっぱり、サファ、きらーい。

 もう、仕方がないなぁ。
 こうなったら、俺は戦闘時は、すみっこに隠れて、息をひそめているしかない。
 そうじゃないと、死ぬ。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。  

処理中です...