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1 物語は、はじまりの村から始まる テオ・ターン

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     ◆物語は、はじまりの村から始まる テオ・ターン

 俺は、テオドール。通称、テオ。十八歳。
 はじまりの村、ハージマで。両親とともにパン屋を営んでおります。
 今の、俺のステータスは、こんな感じ。

 テオドール・リンツ 十八歳 種族:人間
 職業:料理人、村人A、鑑定士
 スキル:荷物運びLv.50
     料理Lv.30
     片付けLv.12
     俊足Lv.5
 特殊スキル:鑑定Lv.15

 特殊スキル欄が下になったのは、普通のスキルが、それを上回っちゃったから。優先順位が低くなっちゃったんだろうね?
 荷物運びが、レベル50なのは。
 ほら。パン屋って、粉を多く使うだろう? 小麦粉をせっせと運んでいたら、なんか、レベルが上がっちゃったんだよね。
 でも、普通の村人的に言うと、レベル10以上になれば、なかなかの職人扱いになるんだよ?
 だから料理レベル30の、俺の店は。おかげさまで繁盛しているよ。エッヘン。

 サファは、子供のときから、ほとんどのスキルが、レベル100を上回っていたけど。
 アレは、規格外なんだからね?
 なにせ、勇者って生き物だ。剣術も運動神経も魔法も。なにもかもが、化け物級なわけ。
 十歳で、レベル100超えとか。普通の人間じゃ、ありえないんだからね?

 でも、だからこその、勇者なんだ。
 そうでなければ、魔王なんか倒せないでしょ。

 ま、俺には関係ないことだ。頑張ってぇ。

 俺は、特殊スキル:鑑定、があるから。自分のスキルも、お客のスキルレベルも、わかるけど。
 普通の人は、十歳の鑑定の儀で、鑑定を受けたら。あとは、あまり。自分のレベルとか、調べないものなんだ。
 だって、王都の役所に行って、有料で、鑑定してもらわなきゃならないんだよ?
 めんどくさいし、お金を払ってまで知りたいものでもない。
 普通に暮らしている分には、レベルとか、あまり関係ないからね?
 つつましく、日々、懸命に働くのみですよ。

 ところで、ここハージマ村は、はじまりの村なので。よく冒険者が、森に探検に行く前に、立ち寄ります。
 そして、俺のパン屋に冒険者が来ると。俺は、情報を口にするのだ。
 他愛もないことだよ?
 東に、魔獣ボムベア(なんか、爆弾投げてくるクマ)が出た、とか。
 西に、スライムが大量発生中とか。
 それで、村人Aの役割が果たされて。職業欄の鑑定士の上に、村人Aがあるわけ。

 鑑定スキルも、それなりに使っているんだけどね?
 冒険者が、横暴な振る舞いをしたりしたときに、鑑定して。
 俺より、レベルが低かったら。荷物運びの馬鹿力を使って、店から追い出したりするんだ。

 冒険者は、なんでか威張りんぼなやつが多いから。困っちゃうよねぇ。
 でも、はじまりの村は、はじまりだけあって、周りの森にいる魔獣も、そんなに強くない。
 初級者用? みたいな。
 だから、この村に来る冒険者も、初級者じゃん? だから、俺でも対応できるんだよね。

 俺は、あまり、身長が伸びなくて。中肉中背ってやつだから。相手は大抵、俺を見くびってくるけど。
 でも、荷物運びレベル50は、結構な力持ちなんだよ?
 二十キロの小麦粉の袋を、三つくらいなら、軽々持てるんだからね? まぁまぁでしょ。
 あと、俊足もあるから。荷物を持って、サカサカ移動もできるよ?
 料理人的には、なかなかいいスキルを手に出来たと思っている。

 ま、そんなわけで。はじまりの村で、のんびりのほほんライフを満喫していた、俺。
 そこに、嵐がやってきたのだ。

「勇者だ。勇者、サファイアが。この村に戻ってきたぞぉ??」

 なんだか、店の外が騒がしいと思ったら。
 肉屋の息子が、そう叫びながら、村を走り回っていた。

 は? なんで勇者が、この村に来るの? まっすぐ、魔王城へ行けばいいのに。
 と、俺は。人知れず、思う。
 店のカウンターから、離れる気はない。

 そうしたら、母さんが厨房から出てきて。俺に言った。
「あら、テオ。アルフくんの声が聞こえなかったの? サファくんが、戻ってきたのよ? 早く、お出迎えに行ってらっしゃい?」
 嫌です。とは言えないので。首を振って、やんわり断る。
 ちなみに、アルフくんは、肉屋の息子である。

「別に、俺が行かなくても。村人がみんなで、お出迎えするんだろ?」
 なにせ、このハージマ村は。勇者生誕の地として、賑わいを見せている。
 勇者にあやかりたい冒険者も、よく訪れているので。国の境にある割には、栄えた村なのだ。
 そんな、恩恵を享受している村人は、もろ手を挙げて、勇者を出迎えるに決まっている。

「なに、言ってんの。子供の頃は、サファくんに、べったりだったじゃない?」
 母よ。
 俺が、べったりだったのではなく。サファが、俺にべったりだったのです。
 細目にして、俺は不本意だと表す。

「一番の親友で、幼馴染のあんたが、お出迎えしないなんて。そんな薄情な息子に育てた覚えは、ないわよ? とにかく行ってらっしゃい。そして、パンをいっぱい買わせなさい」

 母は。商魂たくましい女性だった。
 サファには、むしろ、会いたくないが。
 勇者一行として、サファは多くの仲間を引き連れているかもしれないしな?
 確かに、パンをいっぱい買ってもらえるかもしれない。

 俺は、母の言葉を受けて。しぶしぶ店を出るのだった。
 でも、出た、すぐそこに。
 通りで村人に囲まれたサファが、いたのだ。
 揉みくちゃ、ほどではないが。みなさんの歓迎ぶりに、若干引き気味の、勇者。に、見える。

「あぁ、テオ。久しぶり。か、変わらないね? 子供のときのテオのままだ」
 サファは、俺を目にして一番に、そう言った。
 くっきりしたアーモンド形の目元を、やんわり細めて。
 ヤッバイくらいの、キラキラ壮絶イケメンの微笑みで。周りを悩殺したが。

 は?
 それって。俺が子供のまんまだって言いたいわけ?
 ちゃんと、成長してるっつうの、ボケ。

 まぁ? サファは。
 確かに、上にも横にも、がっちり大きくなっているからぁ?
 それほど身長の伸びなかった俺を、馬鹿にしちゃうんだろうけどぉ?
 ムカつく。

 サファは、俺が見上げるほどの長身になっていた。
 短髪だけど。襟足が見えないくらい、ちょっと長めにして、おしゃれにしている銀の髪は。子供の頃から比べて、三倍、キラキラしくなっている。

 サファの名前の由来である、サファイア色の瞳は、光が差して、濃く、深く、穏やかな青色。
 子供時分は、お人形さんみたいに、ただ整った顔立ちだったが。
 今は、鼻梁は高く、唇は肉感的で。さわやかにキラリと笑うと、誰もが目を奪われる、美丈夫だ。
 顔の輪郭もシャープになって、すっかり大人の男性になっている。そんな中に、威厳や、気品や、色気も備わっているから。
 これは…なんか、女性にモテそう。
 いや、もう、モテてるな。
 村の女の子たちが、遠巻きにキャーキャー言っているし。
 仲間らしき、初顔の女性陣もふたり、サファの斜め後ろにピッタリくっついている。
 モテモテだ。ハーレムだ。
 勇者で、これだけ顔が良かったら。ですよねぇ? という感じだ。

 でも、さすが勇者というくらいだ。体は引き締まっている。
 一般的な冒険者は、服の上に、鎧を身につけ、剣とか武具とか装備するのだが。
 サファは、冒険者より、防具は少なめ。
 胸当て肩当てと、足首から膝を金属で覆うブーツ、腰周りに剣を装備、くらいかな?
 他は、普通の衣服なので。その布越しに見える、腕とか腹とか腿の筋肉が、すごい。
 一見して、分厚い。

 なんか。なにもかもが、俺より一回りも二回りも大きい感じ。
 むむぅ。小さいって言われても、仕方がないか。

「悪かったな、小さいまんまで」
「そんなこと、言ってないよ。でも、再会して早々の言葉が、それって。ふふ、テオらしい。なんか、帰ってきたって感じがする」

 そうだなぁ。そういえば、サファは。
 ハージマに戻ってくるのが、八年ぶりになるのだもんな?
 そうしたら。久しぶりに顔を合わす幼馴染が、こんなツンツンしていたら。さすがに可哀想かな?

 なので。俺は。笑顔を向けて、彼を歓待した。
「おかえり、サファ」
「ただいま、テオ」
 そうして、握手を交わしたが。
 サファは、なんと。俺の手をひっくり返して、甲にキスしたのだ。

 ぎやぁぁぁぁああ?

「な、な、なにすんだ??」
 ブンブンして、振りほどきたいのに。勇者の馬鹿力で、握った手は、びくともしないのだった。
 嘘だろぉぉ? 俺だって、馬鹿力、自負してたのにぃぃ。村一番の馬鹿力なのにぃ。
 勇者を囲む村人たちからも、キャーーっ、と悲鳴があがった。

 はーなーせー。

「なにって? 挨拶に決まっているだろ?」
 不思議顔で首を傾げた、サファは。そのあと、麗しい顔つきで、甘ったるく微笑むのだ。うぇぇ。
 男の俺に、なんでイケメンの無駄遣いをするかなぁ?
 でも。そのサファを見て、村の女の子たちが、今度は華やいだ悲鳴を出す。
 せわしないっ。

「そうだ、テオに話があるんだ。ちょっと、そこの酒場に来てくれないか? おばさん、いいですよね?」
 サファは、俺の後ろで成り行きを見ていた母に、許しを乞う。

「いや、今、忙しいから」
 俺は、なんとか断ろうとするが。母は、それを許さない。
「なに言ってんの。今、一番時間があるでしょ? うちの村の勇者様が、お願いしているのだから。行ってらっしゃい?」
「ありがとう、おばさん」
 そう言って、サファは俺を引っ張って、酒場に入って行くのだった。

 つか、俺の意見は無視? ムカつく。
 サファは、昔から、そういう強引なところがあったよな?

 それで、引きずられていく間に、ちょっとサファのステータスを見たんだけど。
 別れ際は、ラッキースケベ(村人A専用)だったが。
 それが、ラッキースケベ(テオ限定)に変わっているんですけどぉ?
 そして、Lv.1736って、何事ぉ?
 なんで離れていたのに、こんなにレベルが上がっているんですかっ? 解せぬ。

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