【完結】勇者のスキルにラッキースケベがある(村人A専用って、俺ぇ!?)

北川晶

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プロローグ テオ・ターン

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     ◆プロローグ テオ・ターン

 俺が生まれた村では、毎年、四月になると。国の役所から鑑定人が派遣されてきて。十歳の少年少女が、鑑定の儀を受けるという習わしがあった。

「おめでとうございます。この村から、職業:勇者、が誕生いたしました」

 鑑定人は、広場に集まった村人たちに高らかに告げ。
 村の大人たちは、おぉっ、と声をあげる。

 でも、この勇者、というのは。
 大人の村人にまざって、ぼへぇと鑑定人を見ている、俺こと、テオドール・リンツ(テオ)のことではない。
 なんでか、今。俺の腕に抱きついて、おののいている幼馴染。

 この村の、ガキ大将のことだった。

 みんなの前で、勇者だと言われた彼は。
 白銀に輝く、キラキラしい癖っ毛を揺らし、深い深い海の底のような青い瞳で、俺を見やる。

「なぁ、テオ。おまえのステータスって、どんなだった?」
「ん? 職業は料理人でぇ。スキルは、料理に関係ある感じのやつ。まぁ、普通だよ」
「そっか。おまえ、両親のパン屋を継ぎたいって、言っていたもんな? じゃあ、パン屋になるのか?」
 こくりと、やつの言葉にうなずくと。
 彼は、瞳をウリュッとうるませて、言った。

「嫌だぁ、勇者なんか、嫌だよぉ。テオと一緒に、この村にずっといたいよぉ」

 そう言って、とうとう泣き出した。
 俺は、こっそり。ため息をつく。

 俺は、この村のパン屋の息子だ。
 母譲りの黄緑色の髪と瞳は、ちょっと人目を引くが。髪は短めにしているし? まぁ、母も、この色なので。そんなに珍しくないとは思うんだけどぉ。

 つか、俺なんかより。幼馴染の方が。
 銀髪に碧眼で、目んめくりくりな、お人形さんみたいな整った顔をしているから。
 あっちの方が目立つよ、うん。
 てか、こいつは普通じゃない。いろいろな面でな。

 なにが言いたいのかというと。俺は、普通ってこと。
 なにもかも、普通。どこの村にもひとりはいる、普通のガキ。
 そして普通に、両親の営むパン屋を継ぐつもりなの。
 ステータスも、料理人だったから。
 うん。そうなるようにできている? みたいな?

 この世界の人々は、十歳で鑑定を受け、ステータスを知って、職業欄に書かれた職種になるというのが一般的だ。ステータスに書かれた職業が、その人物に最適な職種だからだ。
 この村は、小さな村で。人口も、百人もいないけど。
 みんな、最適な職種について、日々を真面目に働いていた。

 それで。なんで、俺は。このように俯瞰ふかんして、この世界は…などと言うのかというと。
 うっすら、前世の記憶があるからだ。
 その件だけは、普通じゃないかもしれないけど。他は、いたって普通だよ?

 だってね。前世の記憶、なんて言っても。
 自分が誰で、どんな環境で育ったとか。記憶鮮明なわけじゃないし。
 この世界が、前世のゲームの中の世界だと、知っているっていうだけ?
 それに、この世界が、どのゲームとかも、わからないからね。
 でも、あれだろ? 勇者が魔王を倒して、お姫様を救う、みたいな?
 そういうゲームは、前世には星の数ほどあって。
 たぶん、そのうちのどれか、なんだよな?

 そして、この小さな、普通な村人たちが住む、普通な村は。
 はじまりの村、なんだ。
 ゲームの主人公が、一番初めに立ち寄る、村。
 それを知っているだけのことだ。

 で、俺のステータスだけど。
 やつに言った職業は、嘘…ではないけれど。ちょっと隠した事柄がある。
 まぁ、正確に言うとね。

 テオドール・リンツ 十歳 種族:人間
 職業:鑑定士、料理人、村人A
 特殊スキル:鑑定、Lv.レベル
   スキル:料理、Lv.1
       片付け、Lv.1
       荷物運び、Lv.2
       俊足、Lv.2

 って、感じ。
 村人Aは。俺に、ゲームの知識が少しあるから。だから出たのだろう。
 きっと、ゲームの主人公が村に来たら、なにか情報をあげる役どころなのだろうな?
 了解、了解。

 あ、でも。勇者が、あいつだから。
 あいつが、このゲームの主人公なのかな?
 ええぇぇ? あいつに、情報を渡すの、嫌だなぁ。
 しかし。どうせ、勇者は。すぐにも旅立つ。
 いつまでも、はじまりの村でぐずぐずしている勇者など、いないからな。

 あとね。俺は、特殊スキル:鑑定があるから。鑑定士にもなれるんだけどぉ。
 鑑定士は、役所に勤めて、国中の町や村を巡り巡って、齢十歳になる子供を鑑定しまくるという、職業になってしまうから。
 特殊スキルなのに、クソスキルって言われているんだ。

 鑑定士のおねぇさんに。鑑定士になる? って聞かれたけど。
 速攻で首を横に振ったら。ですよね? と、おねぇさんが言うくらいには。人気のない職である。

 幸い、俺には。料理人スキルがあるし。俺はパン屋の息子なので。
 家を継ぐ、一択ですっ。

 というわけで、クソスキルのことを、あいつに言いたくなかったから。黙っていたわけ。
 村人Aは、おねぇさんも首を傾げていたし。
 説明が面倒だから。黙っていた。
 あいつに余計なことを言うと、ウザがらみしてきて、クソめんどくさいし、クソウザいからな。

 それで。鑑定士に、勇者と言われた、あいつ。
 サファイア・マーロウ(サファ)のことだけど。
 彼は、村長の息子で。この村では唯一、俺と同い年の幼馴染だ。

 でも、俺は。サファのこと、きらーい。

 だって。俺はあいつに、散々、振り回されてきたんだからね。
 サファは、この村では一番お金持ちの家の子で。大人たちも、サファには笑顔で応対する。
 それは、うちの両親も例外ではなくて…。
 サファは、俺より上等なシャツを着て。俺と同じ遊びをするから。
 服を汚して。
 それで、なんでか、俺が母さんに怒られるんだ。坊ちゃんを泥遊びに誘うな、とか?
 俺が言い出したんじゃなくて、サファが自分で始めた泥遊びなのに。
 俺が怒られるの、理不尽。

「テオ、一緒に、お風呂に入ろう。綺麗にしたら、おばさんも、もう、怒らないよ」
 それで、サファとお風呂に入る羽目になった。
 そしたら、どこかから、ピコーンと音がするの。
 そのときは、なんの音か、わからなかったけど。

 鑑定のスキルがあると知って、なるほど、と思ったね?

 あの、ピコーンは。レベルアップしたときに鳴る、音なのだ。
 やっぱり、ここは。ゲームの世界なんだな?

 サファとのクソな思い出は、まだまだあるっ。
 秘密基地に案内する、っていうサファについて行ったら。入り口が崩れて、洞窟に閉じ込められたり。
 泣く、俺。慰める、あいつ。そしてピコーン。
 今の、どこでレベルアップする要素があるんだよっ?
 ま、洞窟の入り口が崩れたのは、すぐに村人が気づいてくれて。俺らは、無傷で助かったけど。
 いつも、俺に怖い思いをさせるサファが、やっぱ嫌い。

 まだまだ、あるぜ?
 木の上に逃げた猫を捕まえるって。俺に木登りさせるけど。
 足を踏み外す、俺。落ちる俺の尻を支える、あいつ。
 そして、ピコーン。なんでだっ?

 森の奥に入り過ぎて、魔獣に追われて。半狂乱で逃げる俺、おもちゃの剣で魔獣を倒す、あいつ。
 魔獣から助けてくれて、嬉しかったけど。でも、靴が壊れて。
 おんぶされて村に戻るという、恥をさらす俺。なぜかニコニコの、あいつ。
 そして、ピコーン。
 魔獣を倒したあとじゃなくて、なんで、おんぶしているときに鳴るかな?
 つか、半狂乱に逃げたせいか、すでに俊足のレベルが2じゃねぇかよ。マジでねぇわ。

 とにかく、そんな風に、振り回されてきたが。
 そんな、お坊ちゃんに振り回される日々は、もう終わりだ。
 だって、勇者の鑑定が出たら。修行のために、あいつは王都に行かなくてはならないんだもん。

「テオぉぉ、嫌だよぉ。王都なんかに、行きたくなぁい」
 黙って立っていたら、お人形さんのように、可愛い顔をしているのに。
 情けなく、俺にしがみついて、泣く、あいつ。

 銀色の髪は、絹糸のようにサラサラで、キラキラで。白く透き通るみたいに見えるが、うっすら青みがかる影がつくんだ。ゆるやかなウェーブの癖っ毛が、彼の髪を柔らかそうに見せている。ふわふわ?
 まつ毛はバサバサ、くっきりとしたアーモンド形の目元。
 そして。名と同じ、濃い青色の、サファイアの瞳。

 今はまだ、十歳だから。細っこい手足をしているが。
 伝説の勇者は、みんな、見目麗しく、体格が良く、身体能力がずば抜けて高いんだって、絵本に書いてある。
 サファも、いつか、そうなるんだろうな?

 俺には、関係ないけど。

 まぁ、そんな、今でも十分、整った顔立ちのサファだけど。
 いい年して、こんなにギャン泣きするとか。本当に勇者になれるのか?

「なに、言ってんだ。勇者のステータスは、十年にひとり、出るか出ないかの。レアステータスだぞ? 喜べ」
「嫌だぁ、テオと、離れたくなーい。俺はこの村に、ずっといるぅ」

 ごねて、グズッて、俺にしがみつくサファを。大人たちが、困った顔で見やる。
 そして、大人たちが。ぽつりと言う。
 テオも一緒に…。は?

 いやいやいや。俺は、行かないよ?
 でも、大人たちは。この村から、せっかく英雄になりうる勇者を輩出できそうなのに。サファがごねたら、その栄誉もなくなるから。焦っている。

 俺も、焦っている。俺はこの村で、パン屋を継ぐのだっ。
 王都になど、ましてや、サファの従者になど、なるものか。
 あいつのお守りは、もう、ごめんだ。

「サファ? 勇者だなんて、すっごいなぁ? 俺の幼馴染が、勇者になったら。超、自慢だな? 俺、サファが立派な勇者になるところ、見たいなぁ?」
 俺は、考えつく限りの賛辞を贈り、サファのやる気を引き上げた。
「本当か? じゃあ、俺が立派な勇者になったら。ずっと俺のそばにいてくれる?」
「…うん」

 ちょっと、即答はできなかったけど。
 どうせ王都に行ったら、俺のことなんか、すぐに忘れる。
 そう思って、うなずいた。
 だって、王都には。大きな町があって、大きなお店がいっぱいあって、人も多くて。楽しいことがてんこ盛りだよ? 村のことを思い出す暇なんか、絶対にないよ?
 だから、その気もないけど。とりあえず、うんって返事をしたんだ。

 この村には、サファと同い年の子供が、俺しかいなかった。
 だからサファは、俺にくっついて遊んでいたけど。
 王都には、いっぱいの人がいるんだもん。友達も、いっぱいできるよ。

 俺よりも、サファに見合った、お友達が。

「本当だな? 約束だぞ? そうしたら、俺。頑張って、勇者の修行してくる。すぐに、この村に帰ってくるから。テオ、俺のこと忘れないで。待っててくれよ?」
「もちろんだよ。頑張って、立派な勇者になってくれ?」

 そうして、翌日。サファは、鑑定士の一団と、彼の両親とともに、王都へ旅立っていったのだ。
 村人はみんな、手を振って、彼らに声援を贈った。勇者の前途に栄光あれ、と。
 
 俺も、見送りに参加したけど。
 いつ、一緒に行こうと、サファが言い出すかと。ひやひやしていた。
 でも、子供の我が儘で。子供をひとり、親元から遠く離れた王都なんかに、連れて行くわけにはいかないよな?
 ヨシヨシ。常識のある村長さんで、良かった。
 子供のサファは、常識が少し、アレだけどね。

 そして、いつまでも振り返って、俺に手を振り続ける、サファを。
 俺は。最後の思い出的な意味合いで。鑑定してみた。

 そうしたら。
 
 サファイア・マーロウ 十歳 種族:勇者
 職業:勇者
 特殊スキル:ラッキースケベ(村人A専用)Lv.40

 は?
 なんか他にも、スキルの欄に、剣技とか魔法無効化とか、それはそれは、いっぱい並んでいたけど。
 しかも、レベルが100超えだったけど。
 そして、種族が勇者とか、なに? 勇者って生き物なの? とか。
 ツッコミどころ満載で、いろいろ言いたいところではあったが。
 そんなの、全部、吹っ飛ぶくらいの、衝撃のスキルが?

 勇者のスキルにラッキースケベがある(村人A専用)レベル40。

 なんじゃ、そりゃぁぁ??
 村人A専用って、俺ぇぇ!? 俺のことじゃね? マジか?
 つか、特殊スキル欄の筆頭がラッキースケベって、どういうこと??

 そうして、俺は。あの、ピコーン音の正体を知ったのだ。
 アレは、ラッキースケベのレベルが上がった音だったのだ??
 そういえば、なんか。
 慰める態で、体をナデナデされたり。
 支える態で、尻をモミモミされたり。
 おんぶして、腿をサワサワされたり。
 
 あれは、あいつ的、ラッキースケベだったってことかぁぁ?
 幼馴染が旅立って、ちょっと、しんみりしていたけど。
 鑑定をした瞬間に。俺はサファを忘れることにしたのだった。

 だって、黒歴史ぢゃん。最低っ!

 
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