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24 それが蓮月の本心です
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◆それが蓮月の本心です
「あいつ…やはり斬るべきだったな」
怒りの言葉を口にしたラダウィは、剣をムサファに押しつけると、私を肩に担ぎ上げた。
これは、日本で寝室に連れて行かれたとき同じシチュエーションです。
言ってくれたら、歩くのですけど。
そうは言っても。部屋を出て、迷いのない足取りでずんずん進む王が、どこへ向かっているのかはわからない。
「よもや、本当にあいつが恋人ということはないだろうな?」
地を這うような低い声で聞かれ。
私は恐ろしさと、誤解されている怖気に、慌てて否定をする。
「課長は断じて恋人などではありません。紺野課長には、妻子がいるのです。だから口説かれている自覚も私にはなくて。いえ、口説くというような、明確な言葉も言われていません。変なことを言われても、彼独特の言い回しだと解釈していました」
ラダウィに、身の潔白を一生懸命伝えた。
実際に、そのようなことはなかったですし。
課長と私が、と思い浮かべるだけで。嫌悪感が押し寄せます。
ですが。説明している最中に、外の景色がどんどん変わっていくので。
私は思わず目を奪われてしまう。
王宮の中にある庭、だと思うのですが。竹林が生い茂っています。
そして奥の方には六本柱の東屋があり。
さらにその向こうに、大きな岩で組まれた、プールと言えるほどの広さの風呂があって。
中東とはとても思えない、完全に日本庭園の中の露天風呂、という眺めになったのだ。
「奴と付き合うほど、おまえの目が腐っているとは思わぬ。だが、奴がおまえに触れた、それは許せない」
湯の中に伸びる階段を降り、ラダウィは突然、私の体を肩から落とした。
湯の音がザパッと大きく鳴り、ぬくもりに包まれるが。
びっしょりです。
「下種が触れた体を清めろ」
私が王を見上げると、逆光で、彼の冷たい色の目だけが光って見えた。
凄まじい王の怒りを目の当たりにし。
私は、自分が汚れた者のように感じてしまい。衣装を着たまま手を一生懸命こすった。
汚いままでは、王に触れることすら恐れ多い。
そこは浅めの露天風呂で、尻餅をついていても、湯は腹の辺りまでしかない。
不幸中の幸いだったのは、腕輪を課長に触られずに済んだこと。
ですが、自分の失態が痛苦で。目頭が自然にジワリと熱くなった。
涙目で、手をごしごししていると。
ラダウィも底に膝をついて、私の手首を掴んで洗ってくれる。
「おまえは私の妻だ。私の許可なく他人に体を触れさせるな」
彼の言葉が、華月へのものだとわかっている。
けれど、その言葉は。
子供の頃に、蓮月としていただいた言葉でもある。
レンは私の所有物だから、私以外の者が触れるのを許さぬ。そのようなことを言われたことがありました。
無意識に、その言葉を守り。もしかしたら今まで、誰とも親密にならなかったのかもしれません。
だから、こうして独占欲を目の前で見せられると。
私への言葉でなくても。
自分が求められているように思えて、嬉しくなった。
「はい。もう誰にも触れさせません」
私の答えに満足したのか、ラダウィは小さく笑んだ。
王の真っ白いゴトラが、湯の上に広がっている。
まだ日が高いから、波紋と、彼の衣装を飾る金の刺繍がキラキラと光って。
なにもかもがまぶしくて、美しい情景だった。
「他には、誰がおまえに触れた?」
手を洗い終わると。ラダウィはうかがうような目で私を見やる。
「奴はないだろうが。恋人はいただろう? 女か、男か…」
「私に触れたのは、貴方だけです」
もちろん、全くの接触なしという意味ではなく。性的な関係という意味ですが。
日本で、誰かを受け入れたかと聞かれたときも言いました。
私の体に触れたのは、ラダウィだけだと。
ずっと、長い長い年月。彼しか、心の内にも入れていません。
「貴方が一番わかっているはずです。もし誰かのものであったなら…再会してすぐに、ラダウィ様を受け入れられました」
言葉にしたあとで、大胆なことを口走ってしまったと思い。頬が熱くなる。
「申し訳ありません、陛下に、あけすけなことを…あ」
王が動いて、ちゃぷんとお湯が揺らめく音が響く。
水を吸って重くなった私のゴトラを、王が外し。風呂の外へ放る。
「そうだった。おまえはくちづけもつたなくて…」
フッと王は笑ったが。すぐに口元をへの字に引き結ぶ。
「おまえは、私を煽るのが上手いな? 私は怒っているのだが…」
染めて濃茶色の、私の髪を。ラダウィは手で梳いて。頭を掻き抱いて、唇にキスした。
上唇を噛み、口腔を舌でじっくりと乱す。
ほのかに怒りを感じさせる、乱暴なくちづけだ。
「あの男の思惑は、単純におまえを手に入れようとしただけだろうが。よもや三峰が、あの男を使って、優秀なおまえを取り返そうとしている、ということはないだろうな?」
キスをほどかれても、息はすぐに整わないが。
会社がそのようなことをするはずもないので、そこはきっぱり訂正しなければなりません。
「それこそありえません。私はそれほど優秀ではありませんし。三峰商事は海外で活躍してこそ評価される、実力主義なので。私は会社から、能力を生かし会社に尽力するように、と言われております。さらには国規模の大事業とちっぽけな一社員など比べるべくもありませんっ。とにかく、今日のことは会社に報告し、しょ、処遇を、伺って、ん…おきます」
耳の際や頬のラインを、ラダウィが指先でくすぐってくるから。
ぞわぞわして語尾がちょっと乱れました。
「だが、奴が言ったように。おまえは日本に帰りたいのだろう?」
お仕置きのように、首を甘くかじられた。
ラダウィの指先が、顎や耳をスルリとたどり。その些細な刺激に反応し、艶事を意識する。
彼のいたずらな指の技に溺れてしまいたい。
けれど、王の誤解は解かなくてはならなかった。
「っいいえ、そのような…」
「私とともに来いと言ったとき、すぐにうなずかなかった。行きたくないという目で、社長にすがっていた」
それは、私は華月ではないという、嘘を抱えていたからです。
シマームへ行ってはならないと、思いはしましたが。
決して、一緒に行きたくなかったわけではない。
でも私は。貴方が求める華月ではないから。
だけど。そのことは言えません。
「突然で…戸惑ってしまって…」
曖昧に、口を濁すしかなかった。
でも、その煮え切らない態度が、王を苛立たせるのでしょう。
腕輪ごと、私の左手首を掴んで。ラダウィは宣言した。
「おまえがどんなに望んでも、ここから出さぬ。おまえは私の伴侶として一生王宮で暮らすのだ」
そして歪んだ笑みを片頬に刻んだ。
「ははっ、奴の言は一部合っているようだ。私はおまえを悪の巣窟に閉じ込めるシマームの獣だな?」
「そのようなことはありません。私は決して、閉じ込められているわけではありません。嫌々ここにいるわけでもありません。ラダウィ様から逃げたりしません」
「わかるものかっ」
彼の目から、熱い火花が散った。
憤るラダウィに即座に否定され、どうしたらいいかわからなくなる。
真実を明かす時期はムサファに一任しているので、まだ言えません。
会社の仕事も軌道に乗っていないから、嘘は隠さなければならないが。
ラダウィのそばにいたいと思う、私の気持ちを伝えたい。
ですが、きっと。
嘘が胸の内にあるうちは、この気持ちは王には届かないのでしょうね?
「一生、この国から出られなくても構いません」
華月でないならいらないと、貴方に言われるまで。
嘘をついた咎で死罪になるなら、この命が尽きるまで。
それまででいいから、貴方のそばにいたい。
「逃げない。逆らわない。私はラダウィ様のもの。ラダウィ様が私を望む限り、ここに…貴方のそばにいると誓います」
初恋で、唯一の恋である、貴方の元に。
それが蓮月の本心です。
「おまえが本当にそう思うのなら、行動で示せ」
ラダウィは濡れた衣装をすべて脱いでしまうと、風呂の外に放り。
そして階段に腰かけ、挑発するように足を開いた。
中心でそそり立つ彼のモノから、目が離せません。
いつもその剛直に、己の心も体も、淫蕩に追い詰められてしまう。
熱くて激しい、ソレに。触れたくてたまらない。
「来い」
引き寄せられるように、私は王の足の間に歩を進めた。
「あいつ…やはり斬るべきだったな」
怒りの言葉を口にしたラダウィは、剣をムサファに押しつけると、私を肩に担ぎ上げた。
これは、日本で寝室に連れて行かれたとき同じシチュエーションです。
言ってくれたら、歩くのですけど。
そうは言っても。部屋を出て、迷いのない足取りでずんずん進む王が、どこへ向かっているのかはわからない。
「よもや、本当にあいつが恋人ということはないだろうな?」
地を這うような低い声で聞かれ。
私は恐ろしさと、誤解されている怖気に、慌てて否定をする。
「課長は断じて恋人などではありません。紺野課長には、妻子がいるのです。だから口説かれている自覚も私にはなくて。いえ、口説くというような、明確な言葉も言われていません。変なことを言われても、彼独特の言い回しだと解釈していました」
ラダウィに、身の潔白を一生懸命伝えた。
実際に、そのようなことはなかったですし。
課長と私が、と思い浮かべるだけで。嫌悪感が押し寄せます。
ですが。説明している最中に、外の景色がどんどん変わっていくので。
私は思わず目を奪われてしまう。
王宮の中にある庭、だと思うのですが。竹林が生い茂っています。
そして奥の方には六本柱の東屋があり。
さらにその向こうに、大きな岩で組まれた、プールと言えるほどの広さの風呂があって。
中東とはとても思えない、完全に日本庭園の中の露天風呂、という眺めになったのだ。
「奴と付き合うほど、おまえの目が腐っているとは思わぬ。だが、奴がおまえに触れた、それは許せない」
湯の中に伸びる階段を降り、ラダウィは突然、私の体を肩から落とした。
湯の音がザパッと大きく鳴り、ぬくもりに包まれるが。
びっしょりです。
「下種が触れた体を清めろ」
私が王を見上げると、逆光で、彼の冷たい色の目だけが光って見えた。
凄まじい王の怒りを目の当たりにし。
私は、自分が汚れた者のように感じてしまい。衣装を着たまま手を一生懸命こすった。
汚いままでは、王に触れることすら恐れ多い。
そこは浅めの露天風呂で、尻餅をついていても、湯は腹の辺りまでしかない。
不幸中の幸いだったのは、腕輪を課長に触られずに済んだこと。
ですが、自分の失態が痛苦で。目頭が自然にジワリと熱くなった。
涙目で、手をごしごししていると。
ラダウィも底に膝をついて、私の手首を掴んで洗ってくれる。
「おまえは私の妻だ。私の許可なく他人に体を触れさせるな」
彼の言葉が、華月へのものだとわかっている。
けれど、その言葉は。
子供の頃に、蓮月としていただいた言葉でもある。
レンは私の所有物だから、私以外の者が触れるのを許さぬ。そのようなことを言われたことがありました。
無意識に、その言葉を守り。もしかしたら今まで、誰とも親密にならなかったのかもしれません。
だから、こうして独占欲を目の前で見せられると。
私への言葉でなくても。
自分が求められているように思えて、嬉しくなった。
「はい。もう誰にも触れさせません」
私の答えに満足したのか、ラダウィは小さく笑んだ。
王の真っ白いゴトラが、湯の上に広がっている。
まだ日が高いから、波紋と、彼の衣装を飾る金の刺繍がキラキラと光って。
なにもかもがまぶしくて、美しい情景だった。
「他には、誰がおまえに触れた?」
手を洗い終わると。ラダウィはうかがうような目で私を見やる。
「奴はないだろうが。恋人はいただろう? 女か、男か…」
「私に触れたのは、貴方だけです」
もちろん、全くの接触なしという意味ではなく。性的な関係という意味ですが。
日本で、誰かを受け入れたかと聞かれたときも言いました。
私の体に触れたのは、ラダウィだけだと。
ずっと、長い長い年月。彼しか、心の内にも入れていません。
「貴方が一番わかっているはずです。もし誰かのものであったなら…再会してすぐに、ラダウィ様を受け入れられました」
言葉にしたあとで、大胆なことを口走ってしまったと思い。頬が熱くなる。
「申し訳ありません、陛下に、あけすけなことを…あ」
王が動いて、ちゃぷんとお湯が揺らめく音が響く。
水を吸って重くなった私のゴトラを、王が外し。風呂の外へ放る。
「そうだった。おまえはくちづけもつたなくて…」
フッと王は笑ったが。すぐに口元をへの字に引き結ぶ。
「おまえは、私を煽るのが上手いな? 私は怒っているのだが…」
染めて濃茶色の、私の髪を。ラダウィは手で梳いて。頭を掻き抱いて、唇にキスした。
上唇を噛み、口腔を舌でじっくりと乱す。
ほのかに怒りを感じさせる、乱暴なくちづけだ。
「あの男の思惑は、単純におまえを手に入れようとしただけだろうが。よもや三峰が、あの男を使って、優秀なおまえを取り返そうとしている、ということはないだろうな?」
キスをほどかれても、息はすぐに整わないが。
会社がそのようなことをするはずもないので、そこはきっぱり訂正しなければなりません。
「それこそありえません。私はそれほど優秀ではありませんし。三峰商事は海外で活躍してこそ評価される、実力主義なので。私は会社から、能力を生かし会社に尽力するように、と言われております。さらには国規模の大事業とちっぽけな一社員など比べるべくもありませんっ。とにかく、今日のことは会社に報告し、しょ、処遇を、伺って、ん…おきます」
耳の際や頬のラインを、ラダウィが指先でくすぐってくるから。
ぞわぞわして語尾がちょっと乱れました。
「だが、奴が言ったように。おまえは日本に帰りたいのだろう?」
お仕置きのように、首を甘くかじられた。
ラダウィの指先が、顎や耳をスルリとたどり。その些細な刺激に反応し、艶事を意識する。
彼のいたずらな指の技に溺れてしまいたい。
けれど、王の誤解は解かなくてはならなかった。
「っいいえ、そのような…」
「私とともに来いと言ったとき、すぐにうなずかなかった。行きたくないという目で、社長にすがっていた」
それは、私は華月ではないという、嘘を抱えていたからです。
シマームへ行ってはならないと、思いはしましたが。
決して、一緒に行きたくなかったわけではない。
でも私は。貴方が求める華月ではないから。
だけど。そのことは言えません。
「突然で…戸惑ってしまって…」
曖昧に、口を濁すしかなかった。
でも、その煮え切らない態度が、王を苛立たせるのでしょう。
腕輪ごと、私の左手首を掴んで。ラダウィは宣言した。
「おまえがどんなに望んでも、ここから出さぬ。おまえは私の伴侶として一生王宮で暮らすのだ」
そして歪んだ笑みを片頬に刻んだ。
「ははっ、奴の言は一部合っているようだ。私はおまえを悪の巣窟に閉じ込めるシマームの獣だな?」
「そのようなことはありません。私は決して、閉じ込められているわけではありません。嫌々ここにいるわけでもありません。ラダウィ様から逃げたりしません」
「わかるものかっ」
彼の目から、熱い火花が散った。
憤るラダウィに即座に否定され、どうしたらいいかわからなくなる。
真実を明かす時期はムサファに一任しているので、まだ言えません。
会社の仕事も軌道に乗っていないから、嘘は隠さなければならないが。
ラダウィのそばにいたいと思う、私の気持ちを伝えたい。
ですが、きっと。
嘘が胸の内にあるうちは、この気持ちは王には届かないのでしょうね?
「一生、この国から出られなくても構いません」
華月でないならいらないと、貴方に言われるまで。
嘘をついた咎で死罪になるなら、この命が尽きるまで。
それまででいいから、貴方のそばにいたい。
「逃げない。逆らわない。私はラダウィ様のもの。ラダウィ様が私を望む限り、ここに…貴方のそばにいると誓います」
初恋で、唯一の恋である、貴方の元に。
それが蓮月の本心です。
「おまえが本当にそう思うのなら、行動で示せ」
ラダウィは濡れた衣装をすべて脱いでしまうと、風呂の外に放り。
そして階段に腰かけ、挑発するように足を開いた。
中心でそそり立つ彼のモノから、目が離せません。
いつもその剛直に、己の心も体も、淫蕩に追い詰められてしまう。
熱くて激しい、ソレに。触れたくてたまらない。
「来い」
引き寄せられるように、私は王の足の間に歩を進めた。
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