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7 はじめての、キス   ★

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     ◆はじめての、キス

 ラダウィの寝台の上、しっかりと民族衣装を着込んだ彼の前で。全裸の状態で座っている私は、ひどく心許ない思いで、身を小さくしていましたが。

「くちづけを許す」
 尊大に、胡坐をかく王子に言われ。私は頬を赤くした。

 くちづけ、とは…?

 聖布にしたものとは、別だと思うのですが。
 意味は、わかりますよ。でも、どこに? どうやって? と、戸惑う。

 そんな私を見て、ラダウィはニヤリと笑った。
「なんだ。まさか、挨拶でないキスをしたことがないのか? ムサファに教わっているかと思ったがな?」
 慌てて、私は大きく首を横に振る。
 先生に恋愛感情を持っているみたいな疑いが、まだあるのかもしれませんが。
 それは、絶対にありません。

「先生にも、誰にも、教わっていません。勉強以外のことは…」
「性教育も、勉強だろう?」
 シマームに来る前に、性教育はアメリカの学校で済ませていた。
 でも思春期真っただ中だから。性教育という言葉自体が、恥ずかしく思えて。
 さらに顔を赤くする。

「なら、私が教えてやる」
 大きな手を伸ばし、ラダウィは私の後頭部を引き寄せて、頬にチュッと音の鳴るキスをした。そして唇を首筋に移動させ。先ほど噛んだ辺りを、小さくついばむ。
 くすぐったさと、照れくささで。肩をすぼめ。フフっと笑いが漏れて、唇がほころんだ。
 そのとき、ラダウィが私のゆるんだ唇に、唇を押し当てた。

 ホントに、キス。はじめての、キス。

 心臓が、ドキリと大きく跳ねる。
 苦しさとせつなさがないまぜになって。そっと、目を伏せた。

 彼の気持ちが好奇心でも。なんでも、構わない。
 好きな人が、キスをしてくれた。
 その感動が、熱くて、胸がキュンとして。
 ただ、好きで。好きで。
 もっと、ずっと、くっついていたい。
 そんな気持ちで、ラダウィの温度のある唇の感触だけを追い続けた。

 私は、幸福感に満ちあふれていた。
 けれど、唇をほどいたラダウィは。あの、つまらんという顔つきで。私を睨んだ。

「なるほどな。本当にはじめてのようだな? 礼儀がまるでなっていない」

 れ、礼儀?
 キスに、礼儀があることを。私は知らなくて。ぽやんと彼をみつめてしまった。
 でも、礼儀を失していたならば。怒られても仕方がないです。

「も、申し訳ありません」
 即座に謝罪するが。
 鼻梁が頬に当たる、そのくらいの近い距離で、ラダウィに囁かれた。
「くちづけは、私にされたことと同じ、またはそれ以上のことをして返すのが作法だ。いいな? ほら、今度は口を開けろ。拒むなよ?」
 緊張で固く閉じていた口を、言われたとおりに、ほんの少し開ける。
 すると、微笑みをかたどる王子の唇が、再び吸いついてきた。

 歯列をゆるりと舌でなぞられ。ぞくりとした感覚にのまれそうになるが。彼の舌を噛まないように、気をつけて。しばらくはオドオドしていた。
 でも。同じことをしなければならないのですよね?
 私も舌を、ラダウィの口腔に差し入れて。前歯や、上唇を舌で舐める。
 うぅ。これでいいのか、わからない。
 だけど、ラダウィが唇をつけたままでフッと笑ったから。
 たぶん、うまく返せている。そう思って、ホッとした。

「そうだ、上手にできているぞ? レン」
 褒められると、嬉しくなって。もっと、したくなる。
 押して、引いて。追いかけて、逃げて。
 そんな遊ぶような動きで、私とラダウィはキスを交わす。
 舌先で舌をくすぐられ、自分も彼の舌をくすぐって。
 口の中で、みだらに、ひらめいて。舌の動きが徐々にエスカレートしていった。

「んぅ、ラダウィ、さ、ま…ん、は」
 息を継ぐ間に、甘い声を漏らす。
 口の中が、こんなに敏感だなんて。はじめて知りました。
 舌で上あごを舐められると、肌がゾワリとあわ立って。
 舌の面を舐められると、腰周りがジンと熱くなった。
 頭の中にかすみがかかって。
 彼の手に、すべてを任せてしまいたくなる。

 私は、もうラダウィと同じ動きを返せなくなっていた。
 ただ彼のくちづけに翻弄されて。気持ち良さに酔いしれる。
 ファーストキス、だったのだけど。
 すごく刺激的なものになってしまいましたっ。

 力が入らなくなった体を、ラダウィに押し倒され。ベッドに横になる。
「柔らかくて、美味しい肌だな。舌がつるりと滑って、いつまでも舐めていられる」
 ラダウィは、肌に唇を押し当てて、首筋、鎖骨と舐め濡らしながら、下方へ降りていく。
 吐息を感じるほど近い場所に、彼がいるから。
 ドキドキと高鳴る鼓動が、私の胸を締めつけていた。
 いつも、つねったり引っ張ったりする、悪戯な指先が。繊細な動きで、私の体を撫でていく。
 時折、噛まれて。少し痛いけど。
 それは罰であることを匂わせるためなのでしょう。

 でも私は、罰なのに…歯を立てられる感触にいやらしく反応してしまう。気持ち良いと感じてしまう。
 それはきっと、彼への恋心があるから。なのかな?

 だけど。ぬるりとした彼の舌先が、乳首を舐め濡らしたとき。
 これは性行為だと、しっかり認識した。

「いけません、ラダウィ様」
 中東圏のシマームでは、厳しい戒律がある。
 国によって、その戒律の厳しさは差があるのだが。宗教的に、同性の性行為は禁止されているはずだった。
「なんだ、私に逆らう気か?」
 拒む言葉を口にした私を、彼は冷たい目で見据え。
 見捨てられそうで、怖くなるが。
 でも、注意はしないと。と思って。思い切って声を出した。

「いいえ、ラダウィ様にそむいたりしません。でも、戒律が…」
 私が口にすると。ラダウィは鼻で軽く笑う。
「なんだ、そのようなことか。おまえは私のおもちゃで、罪人なのだ。今のおまえに人権はなく、ゆえに人との交わりには値しない。この私が、罪人に、直々に罰を与えているだけのこと。おまえに拒否する権利などないが。もしここで終わらせたらどうなるか…さといおまえならわかるであろう? レン」

 ラダウィが、私の乳首をきつくつねって。その明らかな痛みに、頭が急激にクリアになった。
 王子の酷薄な表情を目の当たりにし。
 弟が死罪になる場面が、眼裏まなうらに浮かんだ。
 血の気が引いて。私はごくりと息をのむ。
 そんなことには、させません。

「差し出がましいことを言い、申し訳ありませんでした、ラダウィ様。どうか続けて。私を罰してください」
「そうか? 続けていいのだな? レンが泣くまで、ここをいっぱいいじるかもしれないぞ?」
 乳首を指先でくすぐりながら、ラダウィは残忍な言葉を口にする。
 それでも。
「それがラダウィ様の罰ならば、甘んじて受けます」
 どれだけひどい仕打ちをされても。この罰から逃げる選択肢は私の中になかった。

「それほど言うのなら、弟想いのおまえに免じて、続けてやっても構わないぞ?」
 爪で胸の突起を引っかかれ。痛いような、むず痒いような、でももっと感じていたいような、性感を受ける。
 胸の刺激なのに、なぜか下半身がジンジンした。

「…っ、あ」
「薄桃色で、赤ん坊のような色をしている。レン? おまえは…ここを触られるのが、好きだな?」
 乳輪を、舌で丸くたどり。刺激されて芯の通った突起を舐め濡らし。口の中でちゅくっと音を立てて吸いつく。
 そして金の瞳は、同意しなければ許さないという、苛烈な鋭さを見せていた。
「は、い。好き、です」
「どうするのが、好き?」
「な、める。のが…ん、ぁ」
 肉厚の舌が、乳首を起こすようにべロリと舐めあげ。舌先でピンピンと弾く。
「気持ちいいときは、素直に口に出すのだ」
「はい、ラダウィ様。気持ちいい、です」
 ついばむように乳輪に吸いつきながら、彼がフフと笑うと。胸の上にもどかしさが広がって。
「ん、いい、ラダウィさま、あ、いい」
 はじめて味わう官能に、私ははしたなく身悶えてしまった。

「素直なレンは、可愛いな?」
 そう言って、王子は私の陰茎を手の中に包み込んだ。
 根元からくびれの部分へ、陰茎の形を確かめるように、丁寧に指を動かされ。
 ズクンと。自慰で覚えのある感覚が襲う。

「ふ、あ…そこは…」
「ここをこんなに固くしているくせに、先ほどは、いけないなどと言ったな? いやらしいのを隠して、嘘をつくレンは、駄目だな?」
 少し強めに握られて。敏感なそこがギュンと痛くなる。
「レンは、とってもいやらしいのに。真面目ぶるのは、嘘と同じだ。もっと厳しく罰してやらないとな?」
 また、痛くされたくなくて。首を横に振って、必死に言った。
「もう、言いません。嘘もつきません」
「じゃあ、レンは。いやらしくてエッチな子だって、認めるか? 私に、嘘はつかない。逃げないって。約束、できるのか?」
 何度も繰り返し言われると。自分はエッチなんだって。信じそうになる。
 だから、ためらいもなく口にした。
「認めます。私は、え、エッチで。いやらしい、です。約束も、します。だから痛くしないで…」
 その言葉に目を細め、ラダウィは満足そうに微笑んだ。
 そして耳元に囁く。

「じゃあ、エッチなレンには、私がいっぱい、いやらしいことをしてやらないとならないな? レンは私のおもちゃ。私の所有物。だから私以外の者が触れるのは許さぬ。レンは、私から逃げない…」

 呪文のようなその言葉に、私はただ、うなずいて。復唱する。
「私は、ラダウィ様の所有物。私に触れるのは、ラダウィ様だけ。私はラダウィ様から、逃げない」

 まるで、催眠術にかかったみたいに。頭がぼんやりとして。
 いつの間にか、ラダウィにもたらされるくちづけに溺れていた。
 口の中で舌と舌を絡ませ合って、ラダウィにグチュグチュにかき回されて。

 誓いを、口の中に刻印されたような気になった。

 のぼせたみたいになって。唇がほどかれたとき、体はぐったりしていて。
 ラダウィの手に、身をすべて任せてしまう。
 彼のしたいように、体を舐められ。
 陰茎を手でしごかれて。
 先端の蜜口を、指で執拗にいじられて。穂先から透明な体液がトプとあふれる。

「このヌルヌルは、すごく気持ちがイイという証拠だ。ほら、いじると。どんどん濡れる」
 わざと音が立つように、ラダウィは親指で蜜を弾く。突端をピンピン弾かれるたびに、背筋に鮮烈な快感が走った。
「くちゅくちゅ音がするだろう? レンはエッチだなぁ? こうするのが好きなんだな?」
「ん、好き。ラダウィ様、好きです、ん、あ」
 ラダウィは右手で陰茎の先をいじりながら、左手は私の胸を揉み、舌でもう片方の乳首を舐め濡らす。
 アイスを下から上へと舐めぬぐうように、乳頭を舌先で濡らす。
 指先は乳首を摘まみ、先端をキュンキュンと疼かせ。
 そして、たまにきつく唇で吸いつかれて。ジンとすると、先走りが陰茎からあふれた。
 左右の胸と陰茎から、ぴちゃぴちゃと音が鳴って、悦楽の波が押し寄せる。
「おと、や、ん…っい、ん」
 淫靡な水音に、耳から恥辱を煽られ。
 屹立の甘い疼きに感覚が集中し、それがすごく良くて。
 無意識に腰をモジモジと揺らした。

「どうしたのだ? レン。気持ちいいのか?」
「いい、あ、ラダウィさま、も…あ、も、う」
 ラダウィは服を乱していないから。衣装を汚せないと思い。
 私は寝台の敷布を握りしめた。
 その瞬間、唐突に体がびくびくと震えた。
「や、あ、ああぁぁっ」
 彼の手にうながされ。私は思い切り背をそらして、白濁をほとばしらせてしまった。
 陰茎の先端から、体液があふれる感覚は。今まで自慰で受けたものより、数倍気持ちが良くて。
 絶頂のあと、頭がふわっとして。目を閉じる。

「まだ罰は終わっていないぞ」
 絶頂の余韻に、ぼんやりとした中で。ラダウィの冴えた声が聞こえた。

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