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65・5 アイリスの買った薄い本
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【忠告】このお話は『幽閉の王を救出せよっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?』略して幽モブのスピンオフです。幽モブ本編の65話までご覧になったあと、見ていただくのをおすすめします。さらに。おまけのお遊びが許せない方は、本編のみお楽しみください。
◆アイリスの買った薄い本
「おまえは、我の愛しい死神だからだ」
陛下がクロウ様にそうおっしゃったとき、私こと、アイリスは。キターーーっと思って。気が遠くなった。
ゲーム、愛の力で王を救え! 通称アイキンは。
女の子の主人公と、攻略対象が恋をして、最終的に王様を救う。というゲームなのだが。
三パーセントの確率で出現すると言われている、クロウフィーバーという、レアルートがあるのだ。
前世で、私は腐女子でありまして。
もちろん、普通に、主人公を使ってアイキンを攻略するのが、好きではありましたが。
アイキンの中に、そこはかとなく香る腐の匂いを嗅ぎつけても、おりました。
そしてクロウフィーバーに出会ったときは。
マジで、失神しそうになったのです。
ビバ、ビーのエル。
でも、一回目のクロウフィーバーでは、ストーリーをサクサク流してしまって。充分に堪能できなかったなぁと。
そこはとっても未練だったのです。
なので、もう一度クロウフィーバーを拝むべく、周回を重ねてきたの。
なのに。流れ星に当たって死んでしまうなんて。
クロウフィーバーまで、あと一歩だったのにぃ。
神様のいけずっ。
でもそのおかげで、大好きなアイキンの世界に、主人公の姿で転生することができました。
それは、純粋に、嬉しい。
神様ありがとう。
いけず、なんて。思っていませんとも。えぇ、それは聞き間違いです。
主人公なので、いずれ聖魔法に目覚め。王を救出する力を手に入れるのでしょう。
だから、ゲーム開始となる島へ渡る前までは、普通に、陛下を攻略しようと思っていたのですよ?
あの豚が王になったら、最悪ですものね?
でも船の中で、運命を変える雷が、私の心の中にバリバリィっと落ちてきたの。
クロウ様に出会い。
その麗しいお顔を、拝見したとき!
私は、確信した。
これは奇跡のクロウフィーバー!!
サラ艶の黒髪を海風になびかせる、クロウ様の妖艶な、お姿が。
ウザい髪で、顔の見えないモブではなく。
クロウフィーバーのときの、細部にまで緻密に書き込まれた、優美なお顔立ちだったものだから。
きっと、神様が。
クロウフィーバー二回目を堪能できなかった、可哀想な私に、ボーナストラックを用意してくれたのだわ。って思って。
速攻で、陛下攻略をやめたわ(笑)。
アイキンは元より、嫌われからの溺愛がコンセプトなの。
その上、クロウフィーバーは、陛下に死神だと毛嫌いされるところから始まるから。
クロウ様には、とっても試練の道になることは、わかっていたわぁ。
でも、私が助言をすると、イベントが飛んじゃう可能性があったから。
グッと我慢して。
クロウ様と陛下のラブを、陰から見守っていたわけ。
私、主人公だから。目のズームとか。心のシャッターとか。気配隠しとか。やりたいと思ったことが、大概出来ちゃって。
さすがに、塔の上のイベントや、海でのファーストキスなんかは、見れなかったけれど。
大体のイベントは、目撃させていただきました。
最高だったのは、やっぱり、噴水の周りをふたりで走った、キャッキャウフフなやつよ。
ハチに追われていると思って、涙目でウルウルの、可哀想アンド愛らしいクロウ様に、魅了される陛下。
その眼差しは、優しく細められながらも、熱く燃えていて。
それはもう、ドキドキよ。
あと個人的に好きなのは、クロウ様が陛下に剣を渡されて、それをチョン様に見せるシーンかしら?
前世に、客にお茶を持って来る、からくり人形があるんだけど。
剣を乗せられたまま、ぎこちなく動くクロウ様が、あの人形みたいで。ちょっと面白かったわぁ。
普段、クールで清楚なクロウ様が、珍しく見せた、お茶目な一面ね?
陛下の呆れた表情も、レアだったわ。
あぁ、でも。やっぱり、森での誓約も捨てがたいわ。
木漏れ日の中で、ふたりで抱き合う、陛下とクロウ様。
あのアンニュイの瞳で、クロウ様が陛下を見上げ。おそばに置いてください、なんて言うのっっ。
ヤバいわ。今思い出しても、鼻血が出そう。鼻血を吹いている場合でじゃないのに。
その場に跪き、忠誠を誓うシーンは。荘厳で、神々しい、眼福な場面でした。
心のシャッター切りまくり。
おふたりの姿に、スポットライトが当たるかのように、日差しが降り注ぎ。
辺りの新芽に、キラキラ光を当てちゃって。
あぁ、公式さんたら。このシーンにどれだけ気合を入れているのかしら?
主人公のときより、美麗な場面を作っちゃうなんて。罪な方たちね?
そんな、キンクロを目撃して、挙動不審になる私だから。
ファーストキスの場面を直見したら、吐血で死ねる自信があるわぁ。
だから、それはふたりの秘密のイベントってことで。
そんなこんなで『忌々しい死神めっ』という陛下の心情から『我の愛しい死神、ハートマークッ』まで、来るのに。すっごく、すっごく、感無量だったものだから。
そのシーンを、近くで拝めることができて。
本当に、神様ありがとう、という気持ちで。昇天しかけてしまったわけです。はうぅぅぅっ。
遠ざかる意識の奥底で、私は考えを巡らせる。
それにしても、さすがです、クロウ様。
ここまで、最短ルートで来たのではないかしら?
女の子の主人公より、クロウルートの方が断然、成敗の確率が大きいわけなので。生き残るだけでもすごいことですよ?
でもね、リアルで成敗はしないって、私、信じていたの。
ここが、私のボーナストラックなのならね?
そうは思っていたけれどぉ。
陛下が剣を振り下ろさなくて、本当に良かったわぁ。
クロウ様が成敗されたら、私、神様に文句言っちゃうんだからね?
薄い本、十冊用意されても許さないんだからぁ。
薄い本といえば。
前世では、私のように、アイキンの中に、腐の香りを嗅ぎ取った方たちによって、薄い本が出回っていた。
もちろん私はイアン×クロウのキンクロ信者だったのです。
キンクロ、最高。
薄い本は、薄い本なのに高いから、給料が半分削られたりして。泣きも入ったけれど。
でも、それで幸せって感じ?
金をじゃんじゃん落とすから、もっと描いて? って感じ。
だけど、チョーーッとだけ、違う風味も味わいたいというか。
そんな中で、キンクロ以外のお気に入りのカップリングが、シオン×クロウだったの。
シオンは、隠しキャラで。普通にゲームを進めていても、出てきたり、出てこなかったりした。
子猫姿のシオンが、運良く庭に現れたときは、餌付けして。好感度を上げ。
そのうち、自分の心の弱い部分、お父様との確執なんかを吐露すると。主人公の味方になってくれる。
最終決戦で苦戦する主人公に、人型に変化したシオンが、魔力を分けてくれるの。
主人公ルートのときは、森に住む幻獣さんっていう位置づけね。
そして、クロウフィーバーのときは、なんと、クロウと兄弟設定という…。
ヤバい。よだれが出るほど、ヤバい。
弟×兄。ワイルド弟攻め、清楚な細い線の兄受け。
弟よりちっさい兄は受け! パーフェクトっ。
黒髪に黒マントのクロウ様が、黒猫を従えて、真っ黒黒。
あぁ、なんて黒々しくて美しい兄弟なのでしょう。
でも、兄弟設定があって、兄弟でムフフな話もあったんだけど。
私がお気に入りだった話は、ちょっとぶっ飛んでいて。
雨の中でクロウ様が拾った子猫が、実は黒豹魔獣のシオンで。
クロウ様の魔力を吸い取ってしまうっていう、兄弟ではない、パラレル設定だったの。
★★★★★
島に渡る前、クロウはザァと音が鳴るほどの雨の中を、ひとり歩いていた。
大雨の中、町を歩く者はなく。
だから、コソリと動いた物体に、気が付けたのだ。
街灯の柱の陰に、その黒い子猫はいた。
クロウは、頭からかぶる、黒いマントで雨をしのいでいたが。
その黒猫の上に、マントを差しかけてやった。
雨から逃れたが、びしょ濡れの子猫は。ふるふると震えていて、今にも命の火を散らしてしまいそう。
クロウは、子猫を自室に持って帰った。
部屋の中で、しばらく子猫を温めていたクロウだが。
その子猫は、夜になると人型に変化した。
突然姿を変えた男は、本来は黒豹の魔獣であるが。雨に濡れると、たちまち魔力が失われてしまうという。
子猫の姿になったのも、魔力が失われて、実体を保てなくなっていたからだと、説明した。
「助かった。が、おまえは俺を、助けなかった方が良かったかもしれないな。舐めなくても、わかる。その濃密で甘い香りは、上質な魔力を保持している証」
雨から離れ、人型を維持できるようになった、魔獣シオンは。目尻の切れ上がった、危険な色を宿す目で、クロウをみつめる。
一糸まとわぬ体躯を、堂々とさらす男に。クロウは目のやり場に困った。
それでも、細身のクロウは、彼の鍛え上げられたその腹筋を、憧れと羨望の眼差しで盗み見る。
魔の物だからなのか、鋭い視線も、整った顔立ちも、引き締まった大柄な体躯も、クロウの目を引きつける魅力にあふれていた。
野性的で、色っぽくて、邪悪ゆえの美麗。
「クロウ、おまえの魔力を寄越せ」
シオンは、クロウの色白な頬を、大きな手で撫で。肉厚でエロティックに見える唇を寄せる。
そして極上の食事を味わうように、クロウの唇を吸い上げた。
魔力を食べているのか、体が動かない。
クロウは寝台に、すぐに押し倒されてしまった。
「た、助けたというのに、恩を仇で返すとは…」
フカリと布団に身を沈ませ、クロウがつぶやくと。
シオンは、不敵にニヤリと笑い。その大きな口で、クロウの小さな唇に、甘くかみつく。
「そんなことを言いながら、俺に魅かれているのだろう? 自分の気持ちに素直になれ」
クロウのシャツのボタンを、シオンは指先で外し、前を開くと、その平らで白い胸に舌を這わせた。
「ふふ、ざらざらしていて、くすぐったい」
「気持ち良い、だろ?」
初めて会ったのに、どうしてこんなに彼を簡単に、受け入れてしまうのだろう? とクロウは疑問に思うが。
シオンに乳首を舐められて、官能が湧き上がってくると。難しいことは考えられなくなる。
この魔獣に。食われても良いなんて、思ってしまう。
「あぁ、そこ…そんなの…」
乳首の突端を、舌先で、しつこく突かれ。その些細な刺激に、身悶える。
ぴちょんぴちょんと鳴る、卑猥な音が、耳からクロウを駆り立てた。
「いい、んだろ? もっと、欲しいか?」
「んぁぁ。い、い。ダメ、しちゃ…ん、ふ」
ざらざらとした刺激的な舌で舐められると、体がジンジンとして、高ぶってくる。
つい、いいと。本音を漏らしてしまい。
恥ずかしさに頬を染めた。
そんな可愛らしいクロウに。シオンは深くくちづけ。長い舌でクロウの舌を絡めとり、くちゅくちゅと音が鳴るほど味わう。
「ん、ふ、ん、んんぅ…ん」
つたないながらも、クロウも応え。口の中で、舌をぬるぬると愛撫する。
彼からもたらされる悦楽に、身を震わせた。
「あぁ、美味い。おまえの魔力は純度が高い。おまえが気持ち良くなればなるほど、魔力の濃厚さが深くなっていく」
シオンはクロウの長い前髪を手に取り、その先にチュッとキスすると。優しいタッチで、首筋にくちづけていく。
彼に、怖がられたくない。
彼を、穏便に手中におさめたいのだ。
濃厚な魔力だけが目当てなのではない。弱った己にただひとり手を差し伸べてくれたクロウに、シオンも魅了されてしまったのだ。
「気に入ったぞ、クロウ。この清い心も、無垢な体も。よし、おまえの眷属になってやろう」
「眷属?」
「おまえを、どんな災いからも守ってやるってことだよ。その代わり、雨の日はおまえの魔力を食わせろ」
尊大で、傲慢、でもどこかセクシーな、魅惑的な笑み。
美しさに、クロウは思わずポッと頬を赤らめる。
見惚れたことの、照れ隠しに、クロウは鼻先で笑ってやる。
「ふふ、お願いしてる割に、なんか偉そうな、上から目線だな?」
シオンは…できれば、彼から自分を求めてくれたらいいと思っていた。
けれど、求められなくても、逃がしはしない、とも決めている。
そんな、強い気持ちを孕んだ指先で。純真なクロウに、淫蕩な愉悦を刻み込んでいく。
シルエットは、寝台の上でクロウを組み敷く黒豹のよう。
魔獣が、怪しくうごめき。クロウの体を、存分に味わい尽くしている。
その白い体に、まんべんなく舌を這わせて、クロウを快楽の園に落とし込んだ。
「あぁ、ぼくは。どうして…」
黒い瞳を潤ませて、クロウは疑問を口にする。
出会ってすぐに、こんな、はしたないことをしてしまうなんて。
でも、足をシオンに開かれても。抵抗する気にはならなかった。
誘うような眼差しで、彼をみつめてしまう。
戸惑うクロウに構わず、シオンはグンと身を進めた。
★★★★★
「ああぁっ…」
これ以上は思い出したら駄目よ、アイリスッ。
リアルに目の前にいる方たちで、濡れ場を妄想してしまうのは。はしたないわ。
でもでも、細マッチョにガツガツ抱かれる、清楚なお方が。なやましそうに、彼を欲しがる、その描写が。文字どおり垂涎もので。
あぁ、あの薄い本は完成度が高かったから、こちらに持ってきたかったですぅ。
駄目よ駄目。あちらはあちら、こちらはこちらなの。切り替えて、アイリスッ。
そうよ、これは、薄い本の話だから、フィクションよ。
架空で、創作で、パラレル話なのよっ。
今、目の前にいる方たちとは、なんの関係もないことなのよっ。
でも、たまに抱っこさせていただくチョン様を、邪な目で見てしまうのは。
ちょっとだけ、お許しくださいませ。
◆アイリスの買った薄い本
「おまえは、我の愛しい死神だからだ」
陛下がクロウ様にそうおっしゃったとき、私こと、アイリスは。キターーーっと思って。気が遠くなった。
ゲーム、愛の力で王を救え! 通称アイキンは。
女の子の主人公と、攻略対象が恋をして、最終的に王様を救う。というゲームなのだが。
三パーセントの確率で出現すると言われている、クロウフィーバーという、レアルートがあるのだ。
前世で、私は腐女子でありまして。
もちろん、普通に、主人公を使ってアイキンを攻略するのが、好きではありましたが。
アイキンの中に、そこはかとなく香る腐の匂いを嗅ぎつけても、おりました。
そしてクロウフィーバーに出会ったときは。
マジで、失神しそうになったのです。
ビバ、ビーのエル。
でも、一回目のクロウフィーバーでは、ストーリーをサクサク流してしまって。充分に堪能できなかったなぁと。
そこはとっても未練だったのです。
なので、もう一度クロウフィーバーを拝むべく、周回を重ねてきたの。
なのに。流れ星に当たって死んでしまうなんて。
クロウフィーバーまで、あと一歩だったのにぃ。
神様のいけずっ。
でもそのおかげで、大好きなアイキンの世界に、主人公の姿で転生することができました。
それは、純粋に、嬉しい。
神様ありがとう。
いけず、なんて。思っていませんとも。えぇ、それは聞き間違いです。
主人公なので、いずれ聖魔法に目覚め。王を救出する力を手に入れるのでしょう。
だから、ゲーム開始となる島へ渡る前までは、普通に、陛下を攻略しようと思っていたのですよ?
あの豚が王になったら、最悪ですものね?
でも船の中で、運命を変える雷が、私の心の中にバリバリィっと落ちてきたの。
クロウ様に出会い。
その麗しいお顔を、拝見したとき!
私は、確信した。
これは奇跡のクロウフィーバー!!
サラ艶の黒髪を海風になびかせる、クロウ様の妖艶な、お姿が。
ウザい髪で、顔の見えないモブではなく。
クロウフィーバーのときの、細部にまで緻密に書き込まれた、優美なお顔立ちだったものだから。
きっと、神様が。
クロウフィーバー二回目を堪能できなかった、可哀想な私に、ボーナストラックを用意してくれたのだわ。って思って。
速攻で、陛下攻略をやめたわ(笑)。
アイキンは元より、嫌われからの溺愛がコンセプトなの。
その上、クロウフィーバーは、陛下に死神だと毛嫌いされるところから始まるから。
クロウ様には、とっても試練の道になることは、わかっていたわぁ。
でも、私が助言をすると、イベントが飛んじゃう可能性があったから。
グッと我慢して。
クロウ様と陛下のラブを、陰から見守っていたわけ。
私、主人公だから。目のズームとか。心のシャッターとか。気配隠しとか。やりたいと思ったことが、大概出来ちゃって。
さすがに、塔の上のイベントや、海でのファーストキスなんかは、見れなかったけれど。
大体のイベントは、目撃させていただきました。
最高だったのは、やっぱり、噴水の周りをふたりで走った、キャッキャウフフなやつよ。
ハチに追われていると思って、涙目でウルウルの、可哀想アンド愛らしいクロウ様に、魅了される陛下。
その眼差しは、優しく細められながらも、熱く燃えていて。
それはもう、ドキドキよ。
あと個人的に好きなのは、クロウ様が陛下に剣を渡されて、それをチョン様に見せるシーンかしら?
前世に、客にお茶を持って来る、からくり人形があるんだけど。
剣を乗せられたまま、ぎこちなく動くクロウ様が、あの人形みたいで。ちょっと面白かったわぁ。
普段、クールで清楚なクロウ様が、珍しく見せた、お茶目な一面ね?
陛下の呆れた表情も、レアだったわ。
あぁ、でも。やっぱり、森での誓約も捨てがたいわ。
木漏れ日の中で、ふたりで抱き合う、陛下とクロウ様。
あのアンニュイの瞳で、クロウ様が陛下を見上げ。おそばに置いてください、なんて言うのっっ。
ヤバいわ。今思い出しても、鼻血が出そう。鼻血を吹いている場合でじゃないのに。
その場に跪き、忠誠を誓うシーンは。荘厳で、神々しい、眼福な場面でした。
心のシャッター切りまくり。
おふたりの姿に、スポットライトが当たるかのように、日差しが降り注ぎ。
辺りの新芽に、キラキラ光を当てちゃって。
あぁ、公式さんたら。このシーンにどれだけ気合を入れているのかしら?
主人公のときより、美麗な場面を作っちゃうなんて。罪な方たちね?
そんな、キンクロを目撃して、挙動不審になる私だから。
ファーストキスの場面を直見したら、吐血で死ねる自信があるわぁ。
だから、それはふたりの秘密のイベントってことで。
そんなこんなで『忌々しい死神めっ』という陛下の心情から『我の愛しい死神、ハートマークッ』まで、来るのに。すっごく、すっごく、感無量だったものだから。
そのシーンを、近くで拝めることができて。
本当に、神様ありがとう、という気持ちで。昇天しかけてしまったわけです。はうぅぅぅっ。
遠ざかる意識の奥底で、私は考えを巡らせる。
それにしても、さすがです、クロウ様。
ここまで、最短ルートで来たのではないかしら?
女の子の主人公より、クロウルートの方が断然、成敗の確率が大きいわけなので。生き残るだけでもすごいことですよ?
でもね、リアルで成敗はしないって、私、信じていたの。
ここが、私のボーナストラックなのならね?
そうは思っていたけれどぉ。
陛下が剣を振り下ろさなくて、本当に良かったわぁ。
クロウ様が成敗されたら、私、神様に文句言っちゃうんだからね?
薄い本、十冊用意されても許さないんだからぁ。
薄い本といえば。
前世では、私のように、アイキンの中に、腐の香りを嗅ぎ取った方たちによって、薄い本が出回っていた。
もちろん私はイアン×クロウのキンクロ信者だったのです。
キンクロ、最高。
薄い本は、薄い本なのに高いから、給料が半分削られたりして。泣きも入ったけれど。
でも、それで幸せって感じ?
金をじゃんじゃん落とすから、もっと描いて? って感じ。
だけど、チョーーッとだけ、違う風味も味わいたいというか。
そんな中で、キンクロ以外のお気に入りのカップリングが、シオン×クロウだったの。
シオンは、隠しキャラで。普通にゲームを進めていても、出てきたり、出てこなかったりした。
子猫姿のシオンが、運良く庭に現れたときは、餌付けして。好感度を上げ。
そのうち、自分の心の弱い部分、お父様との確執なんかを吐露すると。主人公の味方になってくれる。
最終決戦で苦戦する主人公に、人型に変化したシオンが、魔力を分けてくれるの。
主人公ルートのときは、森に住む幻獣さんっていう位置づけね。
そして、クロウフィーバーのときは、なんと、クロウと兄弟設定という…。
ヤバい。よだれが出るほど、ヤバい。
弟×兄。ワイルド弟攻め、清楚な細い線の兄受け。
弟よりちっさい兄は受け! パーフェクトっ。
黒髪に黒マントのクロウ様が、黒猫を従えて、真っ黒黒。
あぁ、なんて黒々しくて美しい兄弟なのでしょう。
でも、兄弟設定があって、兄弟でムフフな話もあったんだけど。
私がお気に入りだった話は、ちょっとぶっ飛んでいて。
雨の中でクロウ様が拾った子猫が、実は黒豹魔獣のシオンで。
クロウ様の魔力を吸い取ってしまうっていう、兄弟ではない、パラレル設定だったの。
★★★★★
島に渡る前、クロウはザァと音が鳴るほどの雨の中を、ひとり歩いていた。
大雨の中、町を歩く者はなく。
だから、コソリと動いた物体に、気が付けたのだ。
街灯の柱の陰に、その黒い子猫はいた。
クロウは、頭からかぶる、黒いマントで雨をしのいでいたが。
その黒猫の上に、マントを差しかけてやった。
雨から逃れたが、びしょ濡れの子猫は。ふるふると震えていて、今にも命の火を散らしてしまいそう。
クロウは、子猫を自室に持って帰った。
部屋の中で、しばらく子猫を温めていたクロウだが。
その子猫は、夜になると人型に変化した。
突然姿を変えた男は、本来は黒豹の魔獣であるが。雨に濡れると、たちまち魔力が失われてしまうという。
子猫の姿になったのも、魔力が失われて、実体を保てなくなっていたからだと、説明した。
「助かった。が、おまえは俺を、助けなかった方が良かったかもしれないな。舐めなくても、わかる。その濃密で甘い香りは、上質な魔力を保持している証」
雨から離れ、人型を維持できるようになった、魔獣シオンは。目尻の切れ上がった、危険な色を宿す目で、クロウをみつめる。
一糸まとわぬ体躯を、堂々とさらす男に。クロウは目のやり場に困った。
それでも、細身のクロウは、彼の鍛え上げられたその腹筋を、憧れと羨望の眼差しで盗み見る。
魔の物だからなのか、鋭い視線も、整った顔立ちも、引き締まった大柄な体躯も、クロウの目を引きつける魅力にあふれていた。
野性的で、色っぽくて、邪悪ゆえの美麗。
「クロウ、おまえの魔力を寄越せ」
シオンは、クロウの色白な頬を、大きな手で撫で。肉厚でエロティックに見える唇を寄せる。
そして極上の食事を味わうように、クロウの唇を吸い上げた。
魔力を食べているのか、体が動かない。
クロウは寝台に、すぐに押し倒されてしまった。
「た、助けたというのに、恩を仇で返すとは…」
フカリと布団に身を沈ませ、クロウがつぶやくと。
シオンは、不敵にニヤリと笑い。その大きな口で、クロウの小さな唇に、甘くかみつく。
「そんなことを言いながら、俺に魅かれているのだろう? 自分の気持ちに素直になれ」
クロウのシャツのボタンを、シオンは指先で外し、前を開くと、その平らで白い胸に舌を這わせた。
「ふふ、ざらざらしていて、くすぐったい」
「気持ち良い、だろ?」
初めて会ったのに、どうしてこんなに彼を簡単に、受け入れてしまうのだろう? とクロウは疑問に思うが。
シオンに乳首を舐められて、官能が湧き上がってくると。難しいことは考えられなくなる。
この魔獣に。食われても良いなんて、思ってしまう。
「あぁ、そこ…そんなの…」
乳首の突端を、舌先で、しつこく突かれ。その些細な刺激に、身悶える。
ぴちょんぴちょんと鳴る、卑猥な音が、耳からクロウを駆り立てた。
「いい、んだろ? もっと、欲しいか?」
「んぁぁ。い、い。ダメ、しちゃ…ん、ふ」
ざらざらとした刺激的な舌で舐められると、体がジンジンとして、高ぶってくる。
つい、いいと。本音を漏らしてしまい。
恥ずかしさに頬を染めた。
そんな可愛らしいクロウに。シオンは深くくちづけ。長い舌でクロウの舌を絡めとり、くちゅくちゅと音が鳴るほど味わう。
「ん、ふ、ん、んんぅ…ん」
つたないながらも、クロウも応え。口の中で、舌をぬるぬると愛撫する。
彼からもたらされる悦楽に、身を震わせた。
「あぁ、美味い。おまえの魔力は純度が高い。おまえが気持ち良くなればなるほど、魔力の濃厚さが深くなっていく」
シオンはクロウの長い前髪を手に取り、その先にチュッとキスすると。優しいタッチで、首筋にくちづけていく。
彼に、怖がられたくない。
彼を、穏便に手中におさめたいのだ。
濃厚な魔力だけが目当てなのではない。弱った己にただひとり手を差し伸べてくれたクロウに、シオンも魅了されてしまったのだ。
「気に入ったぞ、クロウ。この清い心も、無垢な体も。よし、おまえの眷属になってやろう」
「眷属?」
「おまえを、どんな災いからも守ってやるってことだよ。その代わり、雨の日はおまえの魔力を食わせろ」
尊大で、傲慢、でもどこかセクシーな、魅惑的な笑み。
美しさに、クロウは思わずポッと頬を赤らめる。
見惚れたことの、照れ隠しに、クロウは鼻先で笑ってやる。
「ふふ、お願いしてる割に、なんか偉そうな、上から目線だな?」
シオンは…できれば、彼から自分を求めてくれたらいいと思っていた。
けれど、求められなくても、逃がしはしない、とも決めている。
そんな、強い気持ちを孕んだ指先で。純真なクロウに、淫蕩な愉悦を刻み込んでいく。
シルエットは、寝台の上でクロウを組み敷く黒豹のよう。
魔獣が、怪しくうごめき。クロウの体を、存分に味わい尽くしている。
その白い体に、まんべんなく舌を這わせて、クロウを快楽の園に落とし込んだ。
「あぁ、ぼくは。どうして…」
黒い瞳を潤ませて、クロウは疑問を口にする。
出会ってすぐに、こんな、はしたないことをしてしまうなんて。
でも、足をシオンに開かれても。抵抗する気にはならなかった。
誘うような眼差しで、彼をみつめてしまう。
戸惑うクロウに構わず、シオンはグンと身を進めた。
★★★★★
「ああぁっ…」
これ以上は思い出したら駄目よ、アイリスッ。
リアルに目の前にいる方たちで、濡れ場を妄想してしまうのは。はしたないわ。
でもでも、細マッチョにガツガツ抱かれる、清楚なお方が。なやましそうに、彼を欲しがる、その描写が。文字どおり垂涎もので。
あぁ、あの薄い本は完成度が高かったから、こちらに持ってきたかったですぅ。
駄目よ駄目。あちらはあちら、こちらはこちらなの。切り替えて、アイリスッ。
そうよ、これは、薄い本の話だから、フィクションよ。
架空で、創作で、パラレル話なのよっ。
今、目の前にいる方たちとは、なんの関係もないことなのよっ。
でも、たまに抱っこさせていただくチョン様を、邪な目で見てしまうのは。
ちょっとだけ、お許しくださいませ。
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