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第五話

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今回もストーリーテラーは私ことフルカだぞ!

ルリの飛び跳ねるようなかわいさもいいけど、私の大人な魅力もいいだろ!



「ハアハア・・・・・・・なんで逃げるんですかフルカさん・・・・・・・」

「いや、なんか反射的に・・・・・・」

「普段からやましいことしか考えてないから声かけられた時に逃げたくなるんですよ!」

街中で突発鬼ごっこを繰り広げたわけだけど、結局私は衛兵さんに捕まり、謎に怒られてた。

別にやましいことなんか考えてなかったぞ?ただ人間自然の本性としてだね、ポリ公みたいな存在に声かけられたら逃げたくなるもんなんでね・・・・・・・。
 
うわ、ていうかめっちゃ見られてる。街の人たちから超見られてる。ここで今全裸になったら気持ちいいだろうな・・・・・・・。

「フルカさん?」

「はっ!?ま、まだ何もやってないっす!」

「これから何かする気だったんですか?・・・・・・まあいいです。今回私が話しかけたのはそういう用事じゃないんですよ。私、今日は非番ですから」

「そっすか・・・・・・じゃあなんでそんな格好してんの?」

「これはキャラづけのためです」

「ああそう・・・・・・」

「ま、とりあえずあそこのカフェで話でも・・・・・・・」

こうして、ナンパするつもりが逆にナンパされて私は非番の衛兵さんの話を聞くことになった。



声をかけてきた衛兵さんというのは、180センチぐらいの長身で、なかなかスタイルのいい、金髪で青い目の爽やか可愛い系の青年だ。

なかなかイケメンで可愛いじゃないか。髪の毛を長く伸ばして縛ってるところもかなりいい。それも私の性癖の範囲内だ。

「今日はフルカさんに相談があって声をかけたんですよ」

「はあ・・・・・・・」

私たちはとりあえず近くにあったカフェーに入り、奢ってくれるというので私はここぞとばかりに高めのケーキと紅茶を頼み、衛兵さんはコーヒーを頼んでいた。

こういう時に糖分を摂取しておかないとね。こちとら贅沢は出来ない金回りなんだ。人の金ででもなけりゃ糖分なんて摂取出来ねえ。

「あっ、忘れてました。自己紹介がまだでしたね。私の名前はミドリ。ミドリ・スミヤーマと申します」

「あっ、これはどうもご丁寧に。ご存知かと思いますが、私はフルカ・スカイブルーと申します」

なんかサラリーマン同士の挨拶みたいになってしまった。もし名刺とか持ってたら名刺交換しそうな感じだ。

「いつも弟がお宅のルリくんにお世話になってるみたいで、ありがとうございます」

「お宅の弟が、うちのルリと?」

「ええ、アオと言うんですが、聞いてませんか?」

「あー、アオね、アオ。『アオさん』ね。確かにルリから聞いたことあるな。お兄さんだったんだ」

「ええ、そうなんです」

今度はなんか保護者会みたいになったな。

あーでもそっか、なるほど。この人はルリから聞いた『アオさん』のお兄さんなのか。

ラノベとかのテンプレでよくある、『世間は狭いね』ってやつだ。現実では絶対にないやつね。現実ではこんな偶然絶対にない。マンガとかラノベのテンプレで見るだけだ。

全く面識のない人に話しかけられたと思ってたけど、ルリから弟を通して私のことを聞いてたから話しかけてきたわけか。きっと私なら話を聞いてくれそうだと思ったんだろう。

「今日私が話しかけたのは他でもない。そのアオのことでして」

「ほお」

「そのアオがね、最近元気ないみたいなんですよ」

ここまでテンプレだ。ラノベとか漫画でよくある話の切り出しだ。テンプレと言って差し支えない。

元気ないって言われても知らんよ。そんなざっくりしたこと言われても、本人について何にも知らんのに、確かに元気ないねーとはならない。

ミドリはさらに言葉を続ける。

「原因にはなんとなく心当たりがあるんですよ」

「ほお」

心当たりがあるのか。

「だからボラギ○ールを作ろうと思ったんですよ」

・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・ん?

あれ?会話何ラリーか飛んだ?

落丁かな?書き忘れかな?何ラリーか抜け落ちたとしか思えないような話の飛び方したよね?今。

「いやなんでボラギノ○ル?原因に心当たりがあるって話をしてたよね?今。してたんだよね?どっからその発想に飛んだ?」

「ええ、原因には心当たりがあるんですよ。私たち兄弟は両親から離れて二人でこの街で暮らしてるんで、けっこうカツカツなんです。だからアオもけっこう頑張って働いて、なんとか暮らしを楽にするため、お金を稼ごうとしてくれてるんですよ」

「うんうん」

どうして?どうしてそれで飛んだんだ?そこへ。

「だから頑張ってくれた結果肛門を傷つけてしまったのではないかと思って」

・・・・・・・

・・・・・・あー。なるほどそれでわかった。

いやでもそれ最低だけどね?実の弟に対してしていい想像じゃないけどね?

「あーなるほど。それでわかった。つまり、こういうことだな?二人の暮らしのためにいっぱい稼ごうとハッスルして────ハッスルして、ハッスルするあまりお客さんとハッスルして痔になっちゃったんじゃないかっつーわけだ」

「そうそう、そうなんですよ」

「そうそうじゃねえんだよ」

んー・・・・・・なんかちょっと変なヤツだな、コイツ。

爽やかさで覆い隠されてるけど、ちょっと変なヤツだぞ?

いやでも明らかにおかしいわ。なんで弟のそんな話をこんな爽やかにできるんだ?弟の後ろの穴の話してんのに笑顔爽やかすぎんだろ。

いやもう、爽やかも爽やか、爽やかすぎて・・・・・・

「お前はギャングスターになりたいコロネか!」

「え?なんですか?コロネ?」

しまった、ツッコミ間違えたか。

『爽やか』で『ギャングスターになりたいコロネ』はちょっと連想ゲームとして遠すぎたか。わかりにくかったか・・・・・・。

「え?ちょっとそれはどういうことですか?え?コロネ?え?ギャングスターになりたいコロネ?ちょっとそれはどういうことか、詳しく説明をいただいても・・・・・・」

「あああああうぜえ!!もう別にいいわ!そんなに食い下がるとこじゃねえから!・・・・・・・で?絶対違うと思うけどそれが一番心当たりある原因ってことで、私に相談したいことっていうのは・・・・・・」

「ええ、それでそのボラギノー○・・・・・・っていうか肛門によく効く軟膏を作りたいと思うんですよ。つまり、その材料集めを手伝って欲しいんです」

「なるほどね・・・・・・」

今回はそういう回か。つまりはクエスト回だ。

ただなんだろう。なんとなく無事では終わらないような予感がするな・・・・・・。

断ろうかな?

「もちろん、報酬は弾みますよ?」

やっぱ断るのやめよう。

こうして、私はそこはかとない不安を抱えつつも、この頼みを引き受けることにしたのだった。

そして─────

「あの、お客様・・・・・・店内でそういった話はお控え頂いて」

「あっ・・・・・」

確かに、平日の真っ昼間からカフェで何の話をしてんだ私たちは。

こうして私たちはカフェから追い出されて、肛門によく効く軟膏作りに励むことになるのだった。
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