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四話
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冒険者ギルドで、ルリがフルカに対して何やら言い聞かせていた。
「いいですか、フルカさん。魔族や魔王と戦うためには、連合軍に志願しなければいけません」
ルリのその言葉に、フルカはキョトンとした表情で問い返した。
「連合軍?何だそりゃ」
「冒険者と各国軍隊による、人類連合軍です。そこに志願して参加することで直接魔族と対決することができます。魔王とも戦うことができる・・・・・・かもしれません。まあそこら辺は色々絡んでくるだろうから難しいかもしれませんが・・・・・・」
「ま、でもとりあえずそれに志願すればいいんだな!?ありがとう!じゃあ早速申し込んで────」
「ちょっと待ってください!話はまだ終わってません!」
早速受付へと向かおうとするフルカを、ルリは慌てて引き止めた。
「なんだあ?」
「フルカさん。志願するにはそもそもランクが足りてません。志願するにはそもそもC級以上じゃないとダメなんですよ」
「じゃあダメか」
「そうなんです。さらに志願してから試験を受けなければいけないので、志願したからといって必ずしも参加できるというわけじゃないんですよ」
「また試験かよ!好きだな試験!」
「仕方ないですよ、魔族との戦いは危険なんですから。そう簡単に参加させるわけにはいかないってことです」
「まあどっちにしろ今すぐには無理ってことか・・・・・・。なーんだ」
と、肩を落とすフルカ。そんなフルカとは打って変わって、ルリが珍しくテンション高めにこんなことを言い出した。
「でもでもフルカさん!なんとここで朗報があります!」
「おっ、何だ何だ?」
「姉さんのコネで、連合軍所属の冒険者から話を聞けることになったんです!試験のこととか聞けますよ!」
「おおー!よくやった!でかしたぞ!」
「で、この時間、冒険者ギルドで、っていう指定があったんですが・・・・・・」
ルリがギルド内をキョロキョロと見回すと、ギルド内にある簡単な食事の出来るコーナーで、椅子に座って本を読んでいる男を見つけた。
その男は、青い髪に青い目で、中肉中背、平凡な容姿のどこにでもいそうな普通の男だ。とっくりのセーターにジーンズという格好をしていて、腰に下げた剣を除けば冒険者とはわからない格好をしている。
ルリは姉からもらった似顔絵を取り出しその人とを見比べてからこう言った。
「ああ、あの人だ。あの人ですよ」
「アイツー?アイツなんか冒険者っぽくねえぞ?」
「失礼ですよ!姉さんの言うことが本当ならA級冒険者なんですから!」
「A級?アイツがか?」
冒険者のランクは上からS、A、B、C、D 、E、Fの七段階に分かれている。つまりA級冒険者といえば超すごいのである。
「あの・・・・・・読書中のところ失礼します。あなたがA級冒険者のユウキ・カワダさんですよね?僕はルーフィリア・ホワイトの弟のルリと申します」
フルカと二人で近寄ってそう声をかけると、ユウキと呼ばれた男は本から顔を上げて二人を見た。
「ああ、君がルリくんか。お姉さんから話は聞いてる。いかにも、俺がユウキ・カワダだ。そっちの方は・・・・・・」
「ああ、この人はフルカと言って、僕のパーティ仲間です」
「フルカだ!よろしくな!」
そう言ってフルカはユウキに手を差し出す。
「ああ、よろしく」
ユウキは少しも動揺することなく、差し出された手を握ってフルカと握手した。
「すごいですね・・・・・・フルカさんの格好を見て微塵も動じてませんよ?」
「・・・・・・?動じるも何も、別に私は変な格好してないだろ?」
「してるんですよそれが」
「さて、君らは俺に試験のことを聞きたいんだよな」
フルカの格好はともかく、ユウキはクールに話を進めた。
「あっ、そうそう、そうなんです!」
「ふむ・・・・・・じゃあこういうのはどうだ?俺はちょうど魔族討伐の依頼を受けててな。これから行く予定なんだ。お前ら、例のおにぎり魔族だけじゃ実戦経験が足りないだろ?俺と一緒に依頼を受けながら話を聞くっていうのはどうだ?」
その言葉にフルカは目をキラキラと輝かせて言った。
「それいいな!じゃお言葉に甘えて同行させてもらうか!」
「ちょっそんな軽々しく!」
こうして、ユウキの依頼に同行することになった。
◇
フルカ達三人は、街の南にある草原を歩いていた。この草原に魔族が潜伏しているという情報があって、ユウキに退治依頼が出たのである。
「本当に良かったんですか?僕らが同行なんて、足手まといになってしまうんじゃ・・・・・・」
ルリが恐縮そうにそういうと、ユウキはこともなげに答えた。
「いや、大丈夫だ。フルカはあのヤスナを倒したんだろう?」
「・・・・・・ヤスナ?誰だそれは」
「ヤスナ・グレイだよ。あのパスタの・・・・・・」
「あああの妖怪パスタ投げ少女か!」
「そのあだ名はやめてやれ・・・・・・アイツはあんなんでも一応Cランクだからな。いずれはBランク、Aランクも夢じゃないと言われている」
「アイツパスタのくせにそんなに強かったのか・・・・・・」
「ルリくんも元Bランクのお姉さんから色々稽古を受けてるんだろう?」
「あ、はい!受けてます!」
「なら足手まといにはならないさ。大丈夫だよ」
さて、そこまで来たところで、グーという音が聞こえた。フルカのお腹が鳴ったのである。
「そういえばもうお昼の時間だな」
「お腹すいた・・・・・・」
「お腹空きましたね・・・・・・」
「ならお昼ご飯にしようか」
「それは賛成だけど・・・・・・あいにくだが、私たちは何も持ってないぞ?ユウキも何も持ってないように見えるけど・・・・・・」
「それは大丈夫だ。ここにある」
ユウキは右手を掲げた。すると右手につけていた腕輪が光り出したかと思うと、手の中にお弁当箱が現れた。
「おおー!!何だ!?すげえ!どういうマジックなんだ!?」
「これは・・・・・・ひょっとしてユウキさんの魂技ですか?」
ルリの言葉に、ユウキは首を振って答えた。
「いや、違うな。まあ俺の魂技も似たような能力だけど、これは違う。これはな、この腕輪についてる魂技なんだ」
「・・・・・・?どういうことですか?」
「これはな、大昔にコピー系の魂技を持ってる人が、友人の持ってる時間操作系と空間操作系の魂技を腕輪にコピーしたっていうレアもんなんだよ。重量制限はあるけど、便利なものだ。柘榴の腕輪っていうんだけど、わかりにくいから俺は『アイテムボックス』って呼んでるな」
「へえー・・・・・・ああ、そういえば講座で習ったような記憶がありますね。世の中にはそういう魂技のコピーされたアイテムがあるって・・・・・・確か『神器』とかいうんでしたっけ?」
「そうそう、こう見えても、俺けっこう活躍してるからさ。その功績を認められてギルドから支給されたんだよ。ちょっと自慢してみたくってね」
「へー、いいなー!」
「ま、二人もすぐにギルドから『神器』を支給されるくらいになるさ」
「そうなれるといいですけどね・・・・・・」
「なれるさ。さて、お昼にしようか。うちの姉が張り切って大量のサンドウィッチを作ってくれてな。一人じゃ食べきれなそうなんでどうしようかと思ってたんだ。三人なら食べ切れそうだから良かったぜ」
地面に敷物を広げて、草に囲まれながら、三人はユウキの姉の用意したサンドウィッチを食べた。大層美味しかったという。
◇
「そういえば、魔族との戦況はどんな感じになってるんですか?」
「・・・・・・まあ、はっきり言って膠着状態だな。連合軍側も人材がけっこう削られてきたからな。『栄光の聖女』ソフィア・アスターも『轟音の獅子』リスト・ワイルドも『天頂挽歌』のナイト・ヤシュターも戦死したからな・・・・・・強い人材がいなくなってきて戦力が削られてきてるから、人類側は攻めきれてない状態だ。それで膠着だ」
サンドウィッチを食べながら、三人はこんな話をしていた。
「そういえば魔王って奴がいるんだよな?それはどんな奴なんだ?」
フルカがそう聞いた。ユウキはんー、としばらく考えてから答えた。
「そうだな。あんまりよく分かってないんだが、とりあえず今ある情報から推測すると、今代の魔王は着込めば着込むほど強くなるという魂技を持っているらしいということがわかっている。だから通称『着衣の魔王』と呼ばれている」
「『着衣の魔王』・・・・・ですか。これまた綺麗に対照になってますね・・・・・・」
「そうだなー・・・・・・というか今『今代の』って言わなかったか?魔王ってのはひょっとして何代も続いているようなもんなのか?」
「うん、そうだ。魔王ってのは倒すたびに次の魔王が生まれていく。本当にしつこい野郎なんだ」
「え?でもそれだと倒しても意味なくないですか?また次の魔王が生まれてしまうならいつまで経ってもイタチごっこなんじゃ・・・・・・」
「いや、それがそうでもないんだ。魔族は人類との戦争で数を減らし続けている。魔族における司令塔である魔王が倒されるたび、魔族は慌てふためいて混乱する。奴らは学習しない。先代の魔王は倒されたけど、今代の魔王は強いから倒されないと油断しては、何の対策も出来てないが故に倒されたのち混乱し、カオス状態に陥る。
それを人間側が追撃する。それによって魔族はその数を減らしてきた。かつて一千万人もいて、国まで持っていたと言われる魔族だが、今やかき集めても九千人足りないぐらいの数しかいない。
だから今回の戦いで完全に絶滅させることができるかもしれないんだが・・・・・・あまり楽観視は良くないな。今のところ魔王どころか、魔王直属幹部の四天王すら倒す手立てが見つかっていないくらいなんだからな。ま、でもそういうことでイタチごっこにはならないかな」
「なるほど・・・・・・」
「しかし、魔族は九千人程度しかいないのか・・・・・・あのおにぎり野郎みたいなのが九千人・・・・・・よくそれで膠着状態まで持ってけてるな・・・・・・」
「いや、流石にあんな奴ばっかりじゃないでしょうよ・・・・・・」
「そうだな。もっと殺傷能力の高い魂技を持った奴もいるしな。・・・・・・特に、魔族のやつは非人道的な手段でも平気で使ってくるし、倫理に悖るような魂技でも躊躇わずに使ってくるからな。それでけっこう苦戦を強いられることがあるんだよ」
「はあー、なるほどなあ・・・・・・ところでユウキさん、話は変わりますけど、例の試験のことについて聞きたいんですが────」
ルリのこの言葉を契機にして、三人は本題の試験についての話を聞いた。ルリとフルカの二人は非常に有意義な時間を過ごしたのだった。
・・・・・・
お昼ご飯を食べ終わると、ルリがソワソワし出した。
「どうした?ルリ」
「いや、ちょっとお手洗いに行きたくなって・・・・・・」
と、そんなルリにユウキは謎のゼリー状のブヨブヨとしたものを差し出した。
「ならこれ使え」
「なんです?これは」
「これはスライムだ。そいつに後始末をさせるといい。コイツは魂技によるもので、襲ってこないから安心していい」
「ありがとうございます!助かります!」
ルリはユウキからスライムを受け取ると、二人からは見えない草陰へと走っていった。
後に残ったフルカはユウキへと尋ねた。
「それ、魂技ってやつで生み出したものなのか?」
「うん、そうだ」
「魂技でそんなのを生み出せたりもできるんだな・・・・・・それがユウキの魂技なのか?」
「いや違う。これは俺の姉さんの魂技なんだ。ただ、姉さんは心配性でな。俺と、妹も冒険者やってるんだがこの妹に、護身用として魂技で生み出せるだけ全部貸してくれたんだよ。便利だぞ。さっきみたいにトイレとしても使えるし、何でも食ってくれるし、普通に攻撃とかもできるしな」
「へーそうなんだ・・・・・・ひょっとして美少女とかにもなれたりする?」
「残念ながら、そういうなろう系標準能力は備わってないんだ。でも触手は出せるぞ?」
「スライム・・・・・・触手・・・・・・なるほどエロRPGか!」
「人の姉の能力になんてことを言うんだ。・・・・・・まあ、フルカ、お前も一つ持っとけ。万が一の時のためにな」
「おう、ならありがたく借りさせてもらうぜ!ま、私は全裸だから万が一の時なんてあり得ないけどな!」
しばらくのち、用を済ませたルリが帰ってきた。
「はい、これお返しします。ありがとうございました」
「おお、どういたしまして」
「便利ですねー、これ」
「だろー?なかなか便利なんだよ。・・・・・・さてと、そろそろ行くか」
「そうですね、すいません」
「おお、そうだな!」
三人がの目的地は魔族の目撃情報があったところである。そろそろ行こうかと立ち上がった、その時だった。
「おっ?」
「えっ!?なになに!?」
にゅっと。
フルカとルリの足元にある、地面に伸びる自身の影からいきなり出てきた手に、二人は足首を掴まれる。
そしてそのまま、チャポン、と影の中へ引き込まれてしまった!
「何だ!?」
その影は二人を呑み込んだまま地面を這うように進んでいく。
「クソッ、やられた!こんな魂技を持っていたのか!」
ユウキは一瞬動揺したが、すぐに平静を取り戻した。
「いや、なんてことはない。とにかく、あの影を追ってけばいいんだ。よし、今すぐに─────」
しかし、そううまくはいかない。
ユウキの右側の茂みから飛んで来た大量の矢がユウキを襲ったのである。
「はっ!?」
ユウキは焦りつつも咄嗟に大量の矢に向かってスライムを放り投げた。
「喰えスライム!俺に当たりそうな矢だけでいい!喰ってくれ!」
スライムはその命令を忠実に守りバッと広がると、彼に刺さりそうな矢を全て食べた。
「・・・・・・なるほどな。そう簡単にはいかねえってことか」
矢が飛んできた茂みの方を見ると、ちょうどその攻撃をした当の本人である魔族が出てきたところだった。
その魔族は白い髪に水色の目という儚げな印象の、白装束を着て頭の左側に鬼の面をつけた女性で、クロスボウを構えている。それで矢を飛ばしたのだろう。本人の魂技か、神器なのかはわからないがどうやら大量の矢を飛ばせるらしい。
「お前を倒してから行けってことだな。それまでにアイツらが持ってくれるといいんだが・・・・・・まあダイヤモンドの硬さのパスタを束ねて折るような奴がそう簡単に後れは取らねえだろ」
そして元に戻ったスライムをぽんぽんと二回叩くと、スライムは魔族に向かって高速で弾を射出した。
しかし、魔族は避けることなく、左の頭につけていた鬼の面を被った。
(何だ?何をしてるんだ?)
当然スライムの弾は魔族に当たった。それは魔族を貫くかに思われた。しかし魔族は傷一つつかなかった。
「なっ!?」
確かに弾は魔族に当たった。しかし魔族にはなんらダメージを与えなかったのである。明らかにあの仮面を被ったことによる効果だ。
「・・・・・・なるほど。コイツは少し手強そうな相手だな」
ユウキは焦りを覚えながらそう言った。
こうして、三人は一人と二人に分断されてそれぞれで戦うことになったのである。
「いいですか、フルカさん。魔族や魔王と戦うためには、連合軍に志願しなければいけません」
ルリのその言葉に、フルカはキョトンとした表情で問い返した。
「連合軍?何だそりゃ」
「冒険者と各国軍隊による、人類連合軍です。そこに志願して参加することで直接魔族と対決することができます。魔王とも戦うことができる・・・・・・かもしれません。まあそこら辺は色々絡んでくるだろうから難しいかもしれませんが・・・・・・」
「ま、でもとりあえずそれに志願すればいいんだな!?ありがとう!じゃあ早速申し込んで────」
「ちょっと待ってください!話はまだ終わってません!」
早速受付へと向かおうとするフルカを、ルリは慌てて引き止めた。
「なんだあ?」
「フルカさん。志願するにはそもそもランクが足りてません。志願するにはそもそもC級以上じゃないとダメなんですよ」
「じゃあダメか」
「そうなんです。さらに志願してから試験を受けなければいけないので、志願したからといって必ずしも参加できるというわけじゃないんですよ」
「また試験かよ!好きだな試験!」
「仕方ないですよ、魔族との戦いは危険なんですから。そう簡単に参加させるわけにはいかないってことです」
「まあどっちにしろ今すぐには無理ってことか・・・・・・。なーんだ」
と、肩を落とすフルカ。そんなフルカとは打って変わって、ルリが珍しくテンション高めにこんなことを言い出した。
「でもでもフルカさん!なんとここで朗報があります!」
「おっ、何だ何だ?」
「姉さんのコネで、連合軍所属の冒険者から話を聞けることになったんです!試験のこととか聞けますよ!」
「おおー!よくやった!でかしたぞ!」
「で、この時間、冒険者ギルドで、っていう指定があったんですが・・・・・・」
ルリがギルド内をキョロキョロと見回すと、ギルド内にある簡単な食事の出来るコーナーで、椅子に座って本を読んでいる男を見つけた。
その男は、青い髪に青い目で、中肉中背、平凡な容姿のどこにでもいそうな普通の男だ。とっくりのセーターにジーンズという格好をしていて、腰に下げた剣を除けば冒険者とはわからない格好をしている。
ルリは姉からもらった似顔絵を取り出しその人とを見比べてからこう言った。
「ああ、あの人だ。あの人ですよ」
「アイツー?アイツなんか冒険者っぽくねえぞ?」
「失礼ですよ!姉さんの言うことが本当ならA級冒険者なんですから!」
「A級?アイツがか?」
冒険者のランクは上からS、A、B、C、D 、E、Fの七段階に分かれている。つまりA級冒険者といえば超すごいのである。
「あの・・・・・・読書中のところ失礼します。あなたがA級冒険者のユウキ・カワダさんですよね?僕はルーフィリア・ホワイトの弟のルリと申します」
フルカと二人で近寄ってそう声をかけると、ユウキと呼ばれた男は本から顔を上げて二人を見た。
「ああ、君がルリくんか。お姉さんから話は聞いてる。いかにも、俺がユウキ・カワダだ。そっちの方は・・・・・・」
「ああ、この人はフルカと言って、僕のパーティ仲間です」
「フルカだ!よろしくな!」
そう言ってフルカはユウキに手を差し出す。
「ああ、よろしく」
ユウキは少しも動揺することなく、差し出された手を握ってフルカと握手した。
「すごいですね・・・・・・フルカさんの格好を見て微塵も動じてませんよ?」
「・・・・・・?動じるも何も、別に私は変な格好してないだろ?」
「してるんですよそれが」
「さて、君らは俺に試験のことを聞きたいんだよな」
フルカの格好はともかく、ユウキはクールに話を進めた。
「あっ、そうそう、そうなんです!」
「ふむ・・・・・・じゃあこういうのはどうだ?俺はちょうど魔族討伐の依頼を受けててな。これから行く予定なんだ。お前ら、例のおにぎり魔族だけじゃ実戦経験が足りないだろ?俺と一緒に依頼を受けながら話を聞くっていうのはどうだ?」
その言葉にフルカは目をキラキラと輝かせて言った。
「それいいな!じゃお言葉に甘えて同行させてもらうか!」
「ちょっそんな軽々しく!」
こうして、ユウキの依頼に同行することになった。
◇
フルカ達三人は、街の南にある草原を歩いていた。この草原に魔族が潜伏しているという情報があって、ユウキに退治依頼が出たのである。
「本当に良かったんですか?僕らが同行なんて、足手まといになってしまうんじゃ・・・・・・」
ルリが恐縮そうにそういうと、ユウキはこともなげに答えた。
「いや、大丈夫だ。フルカはあのヤスナを倒したんだろう?」
「・・・・・・ヤスナ?誰だそれは」
「ヤスナ・グレイだよ。あのパスタの・・・・・・」
「あああの妖怪パスタ投げ少女か!」
「そのあだ名はやめてやれ・・・・・・アイツはあんなんでも一応Cランクだからな。いずれはBランク、Aランクも夢じゃないと言われている」
「アイツパスタのくせにそんなに強かったのか・・・・・・」
「ルリくんも元Bランクのお姉さんから色々稽古を受けてるんだろう?」
「あ、はい!受けてます!」
「なら足手まといにはならないさ。大丈夫だよ」
さて、そこまで来たところで、グーという音が聞こえた。フルカのお腹が鳴ったのである。
「そういえばもうお昼の時間だな」
「お腹すいた・・・・・・」
「お腹空きましたね・・・・・・」
「ならお昼ご飯にしようか」
「それは賛成だけど・・・・・・あいにくだが、私たちは何も持ってないぞ?ユウキも何も持ってないように見えるけど・・・・・・」
「それは大丈夫だ。ここにある」
ユウキは右手を掲げた。すると右手につけていた腕輪が光り出したかと思うと、手の中にお弁当箱が現れた。
「おおー!!何だ!?すげえ!どういうマジックなんだ!?」
「これは・・・・・・ひょっとしてユウキさんの魂技ですか?」
ルリの言葉に、ユウキは首を振って答えた。
「いや、違うな。まあ俺の魂技も似たような能力だけど、これは違う。これはな、この腕輪についてる魂技なんだ」
「・・・・・・?どういうことですか?」
「これはな、大昔にコピー系の魂技を持ってる人が、友人の持ってる時間操作系と空間操作系の魂技を腕輪にコピーしたっていうレアもんなんだよ。重量制限はあるけど、便利なものだ。柘榴の腕輪っていうんだけど、わかりにくいから俺は『アイテムボックス』って呼んでるな」
「へえー・・・・・・ああ、そういえば講座で習ったような記憶がありますね。世の中にはそういう魂技のコピーされたアイテムがあるって・・・・・・確か『神器』とかいうんでしたっけ?」
「そうそう、こう見えても、俺けっこう活躍してるからさ。その功績を認められてギルドから支給されたんだよ。ちょっと自慢してみたくってね」
「へー、いいなー!」
「ま、二人もすぐにギルドから『神器』を支給されるくらいになるさ」
「そうなれるといいですけどね・・・・・・」
「なれるさ。さて、お昼にしようか。うちの姉が張り切って大量のサンドウィッチを作ってくれてな。一人じゃ食べきれなそうなんでどうしようかと思ってたんだ。三人なら食べ切れそうだから良かったぜ」
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◇
「そういえば、魔族との戦況はどんな感じになってるんですか?」
「・・・・・・まあ、はっきり言って膠着状態だな。連合軍側も人材がけっこう削られてきたからな。『栄光の聖女』ソフィア・アスターも『轟音の獅子』リスト・ワイルドも『天頂挽歌』のナイト・ヤシュターも戦死したからな・・・・・・強い人材がいなくなってきて戦力が削られてきてるから、人類側は攻めきれてない状態だ。それで膠着だ」
サンドウィッチを食べながら、三人はこんな話をしていた。
「そういえば魔王って奴がいるんだよな?それはどんな奴なんだ?」
フルカがそう聞いた。ユウキはんー、としばらく考えてから答えた。
「そうだな。あんまりよく分かってないんだが、とりあえず今ある情報から推測すると、今代の魔王は着込めば着込むほど強くなるという魂技を持っているらしいということがわかっている。だから通称『着衣の魔王』と呼ばれている」
「『着衣の魔王』・・・・・ですか。これまた綺麗に対照になってますね・・・・・・」
「そうだなー・・・・・・というか今『今代の』って言わなかったか?魔王ってのはひょっとして何代も続いているようなもんなのか?」
「うん、そうだ。魔王ってのは倒すたびに次の魔王が生まれていく。本当にしつこい野郎なんだ」
「え?でもそれだと倒しても意味なくないですか?また次の魔王が生まれてしまうならいつまで経ってもイタチごっこなんじゃ・・・・・・」
「いや、それがそうでもないんだ。魔族は人類との戦争で数を減らし続けている。魔族における司令塔である魔王が倒されるたび、魔族は慌てふためいて混乱する。奴らは学習しない。先代の魔王は倒されたけど、今代の魔王は強いから倒されないと油断しては、何の対策も出来てないが故に倒されたのち混乱し、カオス状態に陥る。
それを人間側が追撃する。それによって魔族はその数を減らしてきた。かつて一千万人もいて、国まで持っていたと言われる魔族だが、今やかき集めても九千人足りないぐらいの数しかいない。
だから今回の戦いで完全に絶滅させることができるかもしれないんだが・・・・・・あまり楽観視は良くないな。今のところ魔王どころか、魔王直属幹部の四天王すら倒す手立てが見つかっていないくらいなんだからな。ま、でもそういうことでイタチごっこにはならないかな」
「なるほど・・・・・・」
「しかし、魔族は九千人程度しかいないのか・・・・・・あのおにぎり野郎みたいなのが九千人・・・・・・よくそれで膠着状態まで持ってけてるな・・・・・・」
「いや、流石にあんな奴ばっかりじゃないでしょうよ・・・・・・」
「そうだな。もっと殺傷能力の高い魂技を持った奴もいるしな。・・・・・・特に、魔族のやつは非人道的な手段でも平気で使ってくるし、倫理に悖るような魂技でも躊躇わずに使ってくるからな。それでけっこう苦戦を強いられることがあるんだよ」
「はあー、なるほどなあ・・・・・・ところでユウキさん、話は変わりますけど、例の試験のことについて聞きたいんですが────」
ルリのこの言葉を契機にして、三人は本題の試験についての話を聞いた。ルリとフルカの二人は非常に有意義な時間を過ごしたのだった。
・・・・・・
お昼ご飯を食べ終わると、ルリがソワソワし出した。
「どうした?ルリ」
「いや、ちょっとお手洗いに行きたくなって・・・・・・」
と、そんなルリにユウキは謎のゼリー状のブヨブヨとしたものを差し出した。
「ならこれ使え」
「なんです?これは」
「これはスライムだ。そいつに後始末をさせるといい。コイツは魂技によるもので、襲ってこないから安心していい」
「ありがとうございます!助かります!」
ルリはユウキからスライムを受け取ると、二人からは見えない草陰へと走っていった。
後に残ったフルカはユウキへと尋ねた。
「それ、魂技ってやつで生み出したものなのか?」
「うん、そうだ」
「魂技でそんなのを生み出せたりもできるんだな・・・・・・それがユウキの魂技なのか?」
「いや違う。これは俺の姉さんの魂技なんだ。ただ、姉さんは心配性でな。俺と、妹も冒険者やってるんだがこの妹に、護身用として魂技で生み出せるだけ全部貸してくれたんだよ。便利だぞ。さっきみたいにトイレとしても使えるし、何でも食ってくれるし、普通に攻撃とかもできるしな」
「へーそうなんだ・・・・・・ひょっとして美少女とかにもなれたりする?」
「残念ながら、そういうなろう系標準能力は備わってないんだ。でも触手は出せるぞ?」
「スライム・・・・・・触手・・・・・・なるほどエロRPGか!」
「人の姉の能力になんてことを言うんだ。・・・・・・まあ、フルカ、お前も一つ持っとけ。万が一の時のためにな」
「おう、ならありがたく借りさせてもらうぜ!ま、私は全裸だから万が一の時なんてあり得ないけどな!」
しばらくのち、用を済ませたルリが帰ってきた。
「はい、これお返しします。ありがとうございました」
「おお、どういたしまして」
「便利ですねー、これ」
「だろー?なかなか便利なんだよ。・・・・・・さてと、そろそろ行くか」
「そうですね、すいません」
「おお、そうだな!」
三人がの目的地は魔族の目撃情報があったところである。そろそろ行こうかと立ち上がった、その時だった。
「おっ?」
「えっ!?なになに!?」
にゅっと。
フルカとルリの足元にある、地面に伸びる自身の影からいきなり出てきた手に、二人は足首を掴まれる。
そしてそのまま、チャポン、と影の中へ引き込まれてしまった!
「何だ!?」
その影は二人を呑み込んだまま地面を這うように進んでいく。
「クソッ、やられた!こんな魂技を持っていたのか!」
ユウキは一瞬動揺したが、すぐに平静を取り戻した。
「いや、なんてことはない。とにかく、あの影を追ってけばいいんだ。よし、今すぐに─────」
しかし、そううまくはいかない。
ユウキの右側の茂みから飛んで来た大量の矢がユウキを襲ったのである。
「はっ!?」
ユウキは焦りつつも咄嗟に大量の矢に向かってスライムを放り投げた。
「喰えスライム!俺に当たりそうな矢だけでいい!喰ってくれ!」
スライムはその命令を忠実に守りバッと広がると、彼に刺さりそうな矢を全て食べた。
「・・・・・・なるほどな。そう簡単にはいかねえってことか」
矢が飛んできた茂みの方を見ると、ちょうどその攻撃をした当の本人である魔族が出てきたところだった。
その魔族は白い髪に水色の目という儚げな印象の、白装束を着て頭の左側に鬼の面をつけた女性で、クロスボウを構えている。それで矢を飛ばしたのだろう。本人の魂技か、神器なのかはわからないがどうやら大量の矢を飛ばせるらしい。
「お前を倒してから行けってことだな。それまでにアイツらが持ってくれるといいんだが・・・・・・まあダイヤモンドの硬さのパスタを束ねて折るような奴がそう簡単に後れは取らねえだろ」
そして元に戻ったスライムをぽんぽんと二回叩くと、スライムは魔族に向かって高速で弾を射出した。
しかし、魔族は避けることなく、左の頭につけていた鬼の面を被った。
(何だ?何をしてるんだ?)
当然スライムの弾は魔族に当たった。それは魔族を貫くかに思われた。しかし魔族は傷一つつかなかった。
「なっ!?」
確かに弾は魔族に当たった。しかし魔族にはなんらダメージを与えなかったのである。明らかにあの仮面を被ったことによる効果だ。
「・・・・・・なるほど。コイツは少し手強そうな相手だな」
ユウキは焦りを覚えながらそう言った。
こうして、三人は一人と二人に分断されてそれぞれで戦うことになったのである。
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フルーツパフェ
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比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
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