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「また……だ」
 自分でも不思議だと首をかしげる。
 なにかを見るたびに、リンクル殿下のことを思い出しているような気がする。
 王都に入ってからはなおさらだ。
 私、こんなにも殿下のことばかり考える生活をしていただろうか?
 ――いや、していたのだろう。
 明日の授業では何をしよう、この間の授業ではどうだったと、毎日殿下のことを考えて過ごしていた。
 きっと、記憶を失った私からすれば、その日々はつい数日前のことだから……。

 ……記憶のない3年間はどうだったんだろう?
 どれくらい殿下のことを思い出し、殿下のことを考えて過ごしていたのか。
 ルゥイの世話に明け暮れて、思い出に浸る余裕などなかったかもしれない。
 もしかしたら、追手におびえてそれどころではなかったのかもしれないし……。
 金平糖を買って、店を出る。
 ふと、先ほどあったマールを思い出す。
 白髪が増えて……3年の月日の流れを感じさせた。
 両親も、年を取っただろう。
 そして、殿下は……。思い出す姿は子供の頃が多い。
 でも、記憶の最後は17歳で。年下ではあっても子供と呼ぶほどには幼くないのだけれど。
 突然頭の中に、殿下の顔が思い浮かんだ。
 殿下の、見たことのない激しい情熱が浮かんだ顔。
 王太子殿下となるべく、顔に感情が出ないように訓練されている殿下の喜怒哀楽がすべて詰まったような胸に迫る激しい感情が爆発しそうな顔だ。
「う……」
 なんだろう、何かを思い出しかけたような。
 殿下のそんな顔を、私はいつ見たのだろう?どこで?
「す……き……」
 絞り出すような殿下の声。
 だめだ。
 思い出しては駄目。
 何故だめなの?
 見てはならないものを見てしまったから?
 ……私、もしかして、殿下が思い人にプロボーズをするところを見てしまった?そして、振られるところまで?
「……て……ごめん……」
 頭が割れそうに傷む。
 何故?忘れないといけない記憶を無理やり思い出そうとしているから?
 謝る殿下の顔。
 17歳なの?
 記憶にある成人した日の殿下よりも顔つきが大人びた殿下の顔。
 もう少し成長している?
 何を謝っているの?
 泣きながら、何を謝ってるの?
 大丈夫だよ。許すよ。何があったか分からないけれど、私は……リンクル殿下のすべてを許すから……。
 そんなに苦しそうな顔をしないで!
 どんと、肩に衝撃を受けてよろめく。
「あんた、大丈夫かい?顔色が悪いけれど!」
 中年の女性に体を支えられた。
「ありがとうございます。……あの、大丈夫ですから」
 はっと意識が現実に戻る。
 女性にお礼を言い顔を上げると、先ほど頭に浮かんだ大人びた殿下よりも、もっと大人になった殿下の顔が目に飛び込んできた。
 にこやかに微笑んでいる青年の顔。
 


==========
ご無沙汰です。間があいてしまいましたが、
ちまちま更新していきます!!!




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