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その後のハナ2

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 ミナーシェ様が、椅子に腰かけた。
「ハナさんも、落ち着きましょう。お茶を飲みましょう、ね?」
 ぽんぽんと椅子に座りなさいと、椅子を叩いて催促されるので、遠慮気味に隣の椅子に腰かける。
 侍女さんたちは何も言わなくてもお茶の用意を始めた。
「ハナさん、よく考えてね。婚約発表の場には、陛下もいらっしゃったの。嘘でした。偽物ですって言えると思う?」
 え?
 あれ?
「でも、その、戦争を回避するために……と、事情を説明すれば……」
 ミナーシェ様は首を横に振った。
「私たちも悪いのだけれど、事前に陛下にも伝えておけばよかったのよね。今回はその暇がなかったのと、どこからか話が漏れるのを恐れて事前に陛下にはお伝えしておかなかったの。もちろん、事情をお話しすれば、騙したなとおしかりを受けるようなことはないわ。ただ……」
 ミナーシェ様が、小さく息を吐き出す。
「貴族というのは、ある意味足の引っ張り合いが大好きな人達も多くてね。公爵家の力を少しでも削ごうとする勢力が、何かあった時に今回のことを持ち出して『陛下にも嘘をつくような者』と言われることも出てくると思うの」
「そんな……! 戦争を回避し、陛下の座を狙っている王弟派を退けるために、何も悪いことをしていないのに、公爵様たちを悪く言う人がいるなんて!」
 ひどい。
 戦争が終結したことで、傷つかずに済んだ人がどれだけいることか。
 ミーサウ王国からもたらされる巫女のお茶で、どれだけの人が癒されることか。
 流行り病で荒れた国が他国から狙われる危険も回避できただろうし、その……立役者を悪者にするというの?
 お茶が運ばれてきた。
「ハナさん、どうぞ」
 運ばれてきたお茶は、少し赤みがかったものだ。
 巫女の花から作られた巫女のお茶……。
「私はね、はちみつを少し入れて飲むのが好みだわ。黒糖もおいしいのだけれど、少し香りが強すぎるように感じてしまうの。口にするのに慣れていないからかしらね」
 ミナーシェ様がはちみつを巫女のお茶に垂らしてくるくるとスプーンで混ぜる。
 そして、体全体にいきわたらせるように巫女のお茶を飲んだ。
「【癒し】を」
 ミナーシェ様が私の肩にそっと触れる。
「ミナーシェ様、私はどこも……」
 驚いて声を出す。
 元巫女が巫女のお茶を飲んで癒せる力は小さな痛みを取る程度だけれど。私は今、どこも悪くはない。
「ふふ、1日も早くハナさんにはめいっぱい元気になってほしいのよ。それからね、せっかく巫女のお茶を飲んで癒せるなら、誰かを癒したいじゃない。ハナさんには分かるでしょう?」
 ミナーシェ様の言葉に素直に頷く。
 もし、私も、巫女のお茶の力を借りたら癒せるようになれば……。たとえどんなに小さな癒しでも、きっと誰かを癒したくてうずうずしてしまうと思う。
 ああそうだ。そうして、きっと……。
「ハナ、いくらお茶を飲みすぎだ。もう今日は飲むのは禁止な」
 とか、ガルン隊長に止められそうだ。
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