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番外編
番外 ガルン視点(書籍原稿の没分)です 少しだけ改稿してあります。
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「隊長~~見ましたよ、見ましたよぉ」
ぐふぐふと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、第二隊長がやってきた。
どうやら、見張りの交代時間になり、第二隊が休憩時間に入ったようだ。
各隊の隊長や副隊長が集まり酒を飲む場として使われるテントの中。
今は俺と、俺の補佐を務める副隊長のシャルがいるだけだ。そこに、新たに第二隊長が入ってきたというわけだ。
「見たって何をだ?」
半分ほど減っているエールでごくりと喉を潤しながら訪ねる。
「スベリアちゃんから、告白されてたでしょう?」
むふふと、とっておきの秘密を暴露するかのように第二隊長が口を開く。
「何? スベリアちゃんが? ガルンに?」
副隊長であり、悪友ともいえるシャルが大声をあげた。
「なんだガルン、聞いてないぞ」
「言ってないんだから、聞いてないだろうな」
ぶっきらぼうな言葉にも、シャルはめげずに言葉を続ける。
「ついに、ガルン、お前も年貢の納め時か?」
ったく、こいつもか。
どいつもこいつも。なんで、そう、早くに俺を結婚させたがるんだろう。いや、もう早くないか。もうすぐ三十になるんだから、十分遅い。遅いから結婚させたがるのか? ……年齢なんて関係ないだろう? 結婚はしたいときにすればいいと思うんだけどな。
そうそう、今日巫女を辞したユーナという娘。彼女だって、結婚したいと思ったから、急に辞めることになったんだよな。周りに迷惑をかけてしまおうが、結婚するなら仕方がない。
運命の相手に出会ってしまえば、あらがえないと――。恋とはそういう物らしいからな。
そうそう、ユーナのことはまだシャルには伝えていなかったな。
「巫女が一人辞める。代わりの者の派遣要請を出しておいてくれ」
俺の言葉に、シャルと第二隊長が驚きの声を上げた。。
「うっわー、マジか! 本当に、お前、年貢を収めるんだな!」
「不落の隊長を、スベリアちゃんがついに落としたか!」
は? 何を言っている? ああ、スベリア巫女がどうって話をしてたか。
「辞めるのは、ユーナ巫女だ。すでに能力が消失したらしいから、早急に頼む」
シャルがガクッと肩を落とした。
「は? 別の巫女? 能力消失って、まったく、最近の若い娘たちは……いや、我慢が足りないのは兵たちの方か……。急に巫女が減ると困るのですが」
「大丈夫だ。ハナが何とかしてくれるだろう?」
シャルが巫女派遣要請の手紙を書きながら、不満げな顔でこちらをにらんだ。
「隊長! ハナ巫女が優秀なのは分かりますが、ハナ巫女が何歳になるのかご存知ですか?」
なんだ、いきなり?
「えーっと、ずいぶん長いこと務めてくれているから、そろそろ二十歳か?」
うかーっと言って、シャルが額に手を置いた。
「あのね、隊長、ハナ巫女は二十三歳です」
「なんだ、ハナは、もう二十三なのか?」
驚いた。
まだ、若い娘だと……初めて会った十五の子供から、そこまで成長しているとは思わなかった。
「隊長……」
シャルがはぁーっとわざと大きなため息をつく。
いや、でも俺は悪くないぞ? ハナはいつも眼鏡とマスクをしていて顔が見えないから、成長しているのが分かりにくいんだ。身長が伸びたわけでもないし、筋肉がついたわけでもないから……。
と、心の中での言い訳を見透かしたように、シャルが書き終えた手紙を俺の胸にドスンと押し付けた。
「内容確認して、サインしてください。……ハナ巫女が、なんと噂されているか知っていますか?」
「ハナの噂? 知ってるぞ。優秀な巫女だろ?」
なんだか優秀だと言われるハナが誇らしくて、思わずにやける。
「……隊長、優秀な巫女であることは認めますが、それだけじゃありません。行き遅れ巫女です。彼女もすぐに二十四歳になりますからね……」
「行き遅れ? あー、そう……なのか」
どう返事をしたものか分からずあいまいに答えておく。
すると、シャルがこぶしを握り締めた。
「隊長、かわいそうだとは思わないんですか?」
「かわいそう?」
何が言いたいのか分からずきょとんとしたら、シャルがまたもや大きなため息をついた。
「ハナ巫女が優秀なのは分かります。だからこそ、ハナ巫女には幸せになってほしいと思いませんか?」
「もちろん、ハナには幸せになってほしいと思ってるぞ? いつも感謝してるし」
「いつも感謝? いつもって、隊長は、ハナ巫女に頼りすぎですっ! いい加減、ハナ巫女を解放してあげてください!」
頼りすぎ?
「解放? ……いや、俺は別に縛り付けてるつもりはないが……」
「でしょうね。ですが、ハナ巫女は人一倍責任感が強くて、心配性で、隊の皆のことを考えてくれています」
シャルの口から次々に出てくるハナの話に、ちょっとだけ胸の奥に小さな塊みたいなものが生まれる。知っているさ。それもこれも。全部、お前が言うハナのことは、俺も知ってる。
「だから、隊長が無茶ばかりするから心配で隊を抜けられないんじゃないですか?」
というシャルの言葉に、第二隊長が口を開いた。
「あー、そういう見方もできるんだなぁ。だけど、あの噂が本当ってこともあるだろう?」
「噂?」
今度は何の噂だ?
「ハナ巫女は、氷の将軍のことを一途に思っているってやつか?」
シャルが小さな声でつぶやく。ハナが氷の将軍を?
「いやありえないだろう」
思わず出た言葉に、シャルと第二隊長がほぼ同時に口を開いた。
「ハナ巫女が恋することがありえないと?」
「ハナ巫女が氷の将軍を落とすなんてありえないよなぁ」
……。二人が何気なく失礼なことを言っている。
「ち、違うぞ、そういう意味で言ったんじゃ、俺は別にハナを馬鹿にするつもりなんて……」
焦って二人の言葉を否定する。
「まぁ、とにかく、どんな事情があるにしろ、隊長はもっとハナ巫女が巫女を辞められるようにしてあげてください」
辞めるも辞めないも本人次第だと思うがなと言ったら、シャルに怒られた。
ハナ巫女の負担を減らして、安心させてあげろ! と。まぁ、そのあたりは、反省しようと思う。
「しばらく、隊長の専属巫女はスベリアちゃんでいいんじゃないか? ちょうどいいでしょ」
第二隊長がにやにやする。
「よくない」
「何? 一緒にいる時間が長くなれば、自制が利かなくなる心配でも?」
まったく、第二隊長の頭の中は色恋しか入ってないんだろうか?
「断ったからだ」
「は?」
「だから、告白されたが、断った。だから、見たことも聞いたことも、周りには言うなよ」
シャルが聞いてないといったが、話してないのは話す必要がないというよりも、わざわざ誰々を振ったなんて言いふらすのがどうかしてるからだ。
「な、な、な、なにしてるんですか! 隊長! スベリアちゃんですよ? 巫女一かわいい、いや、歴代の派遣巫女一かわいいスベリアちゃんを……!」
第二隊長が激しく取り乱している。
「そうか、彼女はかわいいのか」
俺のつぶやきに、第二隊長が大声をあげた。
「何言ってるんですか! かわいいなんてもんじゃなくて、言葉では言い尽くせないほどの」
「そうなのか?」
本気で分からなくてシャルに確認する。第二隊長は話を大きくすることもあるからな。
「ええ、そうですね。確かに人口の多い王都でも見つけられないほどの可愛さだと思いますよ」
「そうか」
「シャル補佐官、ちょっと、何冷静に隊長に答えてるんですか! あの可愛さを分からない隊長はどうなってるんですか!」
コップに残ったエールを飲み干しながら説明する。
「あー、美醜とかよくわからないんだ」
「は? え? 嘘でしょう?」
「分からないというか、顔のパーツや作りよりも、俺は顔つきを見る」
シャルがふふっと笑う。
「新入隊員が入ってきたら、その時の実力ではなく、顔つきで配置を決める」
俺の言葉に、第二隊長がポンっと手を打った。
「ああ、あれ、実力じゃなくて何を見て配属を決めてるのか、疑問だったんですよね。実力もないのに大抜擢することもあるじゃないですか? でも、必ず数年後には実力をつけて台頭してくる。人を見る目があるのか、野生の勘なのか……」
シャルがくくっと笑った。
「野生の勘だって、聞いたかガルン」
「まぁ、野生の勘に近いかもしれないぞ? とにかく顔つきを見ればそいつのことがよくわかる。一言でやる気のある顔と言うことがあるだろう?」
第二隊長はこくんと頷いた。
「だが、野心のある顔と、目標のある顔と、夢のある顔は違う――。一見するとどれもやる気のある顔だが、一番成長するのは」
第二隊長があー、そういうことかとうなづいた。
「なるほど。俺からするとやる気があるな! よし! と思うところも、隊長が見れば違いがあって……具体的な目標を持つ者に期待をするということですか」
シャルがあーあと嘆く。
「で、そのスベリアちゃんの顔が気に入らなかったから断ったってことですか」
「顔じゃない、顔つきだ。何と言うか……欲望が表に出ている感じで……」
正直、ちょっと怖かった。
自分より十以上も下の娘を怖がるなんてどうかと思うが。
「隊長、そりゃかわいそうっしょ。好きな人に告白するんだから、そりゃ恋をかなえたいって欲望が出るってもんで」
うっ。いや、なんか、違う気がしたんだけどな……。
「そんなこと言ってたら、もう一生独身ですよ! あ、そうだ、いっそハナ巫女なんてどうですか? 彼女なら隊長に欲望をむき出しにすることもないでしょう?」
「ハナは、駄目だ」
脊髄反射のように即答する。
「なぜ?」
シャルの目がこちらに向く。
なぜ? あれ? なぜ?
「顔が、いや、顔つきでしたか、気に入らなかったんですか?」
顔?
「あー、その、顔だ。そう、顔がまったく見えないから、うん」
しどろもどろに答えると、シャルが笑う。
「人よりも表情を読むのが得意なガルンからすると、ハナ巫女のように全く顔が見えないと恐れるもんなんですかねぇ?」
「そういえば、隊長、時々ハナ巫女に叱りつけられてますもんね。くくく」
第二隊長まで笑い始めた。
恐れる? ハナを? いや、俺は別にハナのことが怖いわけじゃないぞ。むしろ、ハナといるのは心地いい。表情が見えなくても、ハナから伝わる空気は心地いい。
「あ!」
急に声をあげた俺のことなど、すでに二人の眼中にはなかった。
話題はすぐに別のことに移り、二杯目、三杯目の酒に手を伸ばしている。
なるほど。心地いいからか……どこかで俺は、ずっとハナ巫女に治療されたいと思っていたのかもしれない。
解放してやれというシャルの言葉が胸の奥に沈む。
そうか。ハナも、もう二十三……か。確かに、気が付くのが遅いくらいだったな……。ハナには幸せになってもらわなくちゃな。
そんな会話を交わしてからすぐあとだ。一人の女性に会った。
初めに思ったのは知らない顔だということ。
不審者が隊に紛れ込む可能性もあるから、まず見るのは知った顔か知らない顔か。
知らない顔なのに、妙に懐かしい。懐かしいというか、知っている感じがする。
なんだろう、この感じは……。
不思議だ。……もしかして、これが俗に言う「運命の人と出会った瞬間」なのか?
知らないはずなのに知っている気がする。これは、魂が何かを記憶しているということなのか?
彼女も、初対面であるはずなのに、俺に対して何の警戒もしていない。
怖い怖いと言われ、女性は足がすくむことが多い俺を見ても……だ!
もしかして、彼女も俺に何かを感じている? そうなのか?
顔を改めてみる。美醜……世間の美醜基準で彼女の容姿はどう評価されるのかは分からないが……俺から見れば、それは素敵な顔をしている。
信念のある顔だ。迷いのない、信念に向かって日々努力を重ねている人の顔。
目に曇りはないし、口元にゆがみもない。
なんと、素晴らしい顔つきをした女性だろう!
心臓が高鳴り始めた。これだ、これが、これが、恋だ! 間違いない。
寝ても覚めても彼女の顔が忘れられない。
そんなある日、衝撃の事実を知る。
あの女性が、ハナだったのだ!
なんと言うことだ、俺が恋した相手はハナ。心地よくてそばにずっといてほしいと思っていたハナだ。
顔なんて見なくても、ハナがいい顔つきをしているなんて勤務態度でとっくに分かるはずなのに。俺は……今まで、ハナの何を見ていたのか。
いや、違う。そうじゃない。
顔を見るまで、ハナが「大人の女性」だということに気が付かなかったんだ。
ハナは……もう、大人になっていたんだ――。
マリーゼに、ハナがもう戻らないかもしれないと言われた。
氷の将軍に会って……うまくいけば戻らないということなのだろう。
俺は……それでも……。
ハナ、お前が戻ってくるのを待つよ――。
俺には、お前が必要だ。
==============
さて、お知らせしましたとおり、なんと書籍化します!
それに伴い本編削除いたしました!
うわーい。書籍化嬉しいです(*'ω'*)
もう、なんていうか……イラスト見てほしい。
やばい、ガルン隊長ないわと思ってたけどありかもとか
マーティー怖いと言ってごめん、許すわとか
やっぱりアルフ一筋変更なしとか
いろいろ、思うことがあると思うのでーす。
んでもって、かつてないほど、改稿がんばり、がんばり、まし……た……よ。
いや、どこがかってのは、比較してもらえば一目瞭然……って、比較できないじゃん!おおう、じゃ、新たな気持ちでお楽しみいただけるとうれしいです。
ぐふぐふと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、第二隊長がやってきた。
どうやら、見張りの交代時間になり、第二隊が休憩時間に入ったようだ。
各隊の隊長や副隊長が集まり酒を飲む場として使われるテントの中。
今は俺と、俺の補佐を務める副隊長のシャルがいるだけだ。そこに、新たに第二隊長が入ってきたというわけだ。
「見たって何をだ?」
半分ほど減っているエールでごくりと喉を潤しながら訪ねる。
「スベリアちゃんから、告白されてたでしょう?」
むふふと、とっておきの秘密を暴露するかのように第二隊長が口を開く。
「何? スベリアちゃんが? ガルンに?」
副隊長であり、悪友ともいえるシャルが大声をあげた。
「なんだガルン、聞いてないぞ」
「言ってないんだから、聞いてないだろうな」
ぶっきらぼうな言葉にも、シャルはめげずに言葉を続ける。
「ついに、ガルン、お前も年貢の納め時か?」
ったく、こいつもか。
どいつもこいつも。なんで、そう、早くに俺を結婚させたがるんだろう。いや、もう早くないか。もうすぐ三十になるんだから、十分遅い。遅いから結婚させたがるのか? ……年齢なんて関係ないだろう? 結婚はしたいときにすればいいと思うんだけどな。
そうそう、今日巫女を辞したユーナという娘。彼女だって、結婚したいと思ったから、急に辞めることになったんだよな。周りに迷惑をかけてしまおうが、結婚するなら仕方がない。
運命の相手に出会ってしまえば、あらがえないと――。恋とはそういう物らしいからな。
そうそう、ユーナのことはまだシャルには伝えていなかったな。
「巫女が一人辞める。代わりの者の派遣要請を出しておいてくれ」
俺の言葉に、シャルと第二隊長が驚きの声を上げた。。
「うっわー、マジか! 本当に、お前、年貢を収めるんだな!」
「不落の隊長を、スベリアちゃんがついに落としたか!」
は? 何を言っている? ああ、スベリア巫女がどうって話をしてたか。
「辞めるのは、ユーナ巫女だ。すでに能力が消失したらしいから、早急に頼む」
シャルがガクッと肩を落とした。
「は? 別の巫女? 能力消失って、まったく、最近の若い娘たちは……いや、我慢が足りないのは兵たちの方か……。急に巫女が減ると困るのですが」
「大丈夫だ。ハナが何とかしてくれるだろう?」
シャルが巫女派遣要請の手紙を書きながら、不満げな顔でこちらをにらんだ。
「隊長! ハナ巫女が優秀なのは分かりますが、ハナ巫女が何歳になるのかご存知ですか?」
なんだ、いきなり?
「えーっと、ずいぶん長いこと務めてくれているから、そろそろ二十歳か?」
うかーっと言って、シャルが額に手を置いた。
「あのね、隊長、ハナ巫女は二十三歳です」
「なんだ、ハナは、もう二十三なのか?」
驚いた。
まだ、若い娘だと……初めて会った十五の子供から、そこまで成長しているとは思わなかった。
「隊長……」
シャルがはぁーっとわざと大きなため息をつく。
いや、でも俺は悪くないぞ? ハナはいつも眼鏡とマスクをしていて顔が見えないから、成長しているのが分かりにくいんだ。身長が伸びたわけでもないし、筋肉がついたわけでもないから……。
と、心の中での言い訳を見透かしたように、シャルが書き終えた手紙を俺の胸にドスンと押し付けた。
「内容確認して、サインしてください。……ハナ巫女が、なんと噂されているか知っていますか?」
「ハナの噂? 知ってるぞ。優秀な巫女だろ?」
なんだか優秀だと言われるハナが誇らしくて、思わずにやける。
「……隊長、優秀な巫女であることは認めますが、それだけじゃありません。行き遅れ巫女です。彼女もすぐに二十四歳になりますからね……」
「行き遅れ? あー、そう……なのか」
どう返事をしたものか分からずあいまいに答えておく。
すると、シャルがこぶしを握り締めた。
「隊長、かわいそうだとは思わないんですか?」
「かわいそう?」
何が言いたいのか分からずきょとんとしたら、シャルがまたもや大きなため息をついた。
「ハナ巫女が優秀なのは分かります。だからこそ、ハナ巫女には幸せになってほしいと思いませんか?」
「もちろん、ハナには幸せになってほしいと思ってるぞ? いつも感謝してるし」
「いつも感謝? いつもって、隊長は、ハナ巫女に頼りすぎですっ! いい加減、ハナ巫女を解放してあげてください!」
頼りすぎ?
「解放? ……いや、俺は別に縛り付けてるつもりはないが……」
「でしょうね。ですが、ハナ巫女は人一倍責任感が強くて、心配性で、隊の皆のことを考えてくれています」
シャルの口から次々に出てくるハナの話に、ちょっとだけ胸の奥に小さな塊みたいなものが生まれる。知っているさ。それもこれも。全部、お前が言うハナのことは、俺も知ってる。
「だから、隊長が無茶ばかりするから心配で隊を抜けられないんじゃないですか?」
というシャルの言葉に、第二隊長が口を開いた。
「あー、そういう見方もできるんだなぁ。だけど、あの噂が本当ってこともあるだろう?」
「噂?」
今度は何の噂だ?
「ハナ巫女は、氷の将軍のことを一途に思っているってやつか?」
シャルが小さな声でつぶやく。ハナが氷の将軍を?
「いやありえないだろう」
思わず出た言葉に、シャルと第二隊長がほぼ同時に口を開いた。
「ハナ巫女が恋することがありえないと?」
「ハナ巫女が氷の将軍を落とすなんてありえないよなぁ」
……。二人が何気なく失礼なことを言っている。
「ち、違うぞ、そういう意味で言ったんじゃ、俺は別にハナを馬鹿にするつもりなんて……」
焦って二人の言葉を否定する。
「まぁ、とにかく、どんな事情があるにしろ、隊長はもっとハナ巫女が巫女を辞められるようにしてあげてください」
辞めるも辞めないも本人次第だと思うがなと言ったら、シャルに怒られた。
ハナ巫女の負担を減らして、安心させてあげろ! と。まぁ、そのあたりは、反省しようと思う。
「しばらく、隊長の専属巫女はスベリアちゃんでいいんじゃないか? ちょうどいいでしょ」
第二隊長がにやにやする。
「よくない」
「何? 一緒にいる時間が長くなれば、自制が利かなくなる心配でも?」
まったく、第二隊長の頭の中は色恋しか入ってないんだろうか?
「断ったからだ」
「は?」
「だから、告白されたが、断った。だから、見たことも聞いたことも、周りには言うなよ」
シャルが聞いてないといったが、話してないのは話す必要がないというよりも、わざわざ誰々を振ったなんて言いふらすのがどうかしてるからだ。
「な、な、な、なにしてるんですか! 隊長! スベリアちゃんですよ? 巫女一かわいい、いや、歴代の派遣巫女一かわいいスベリアちゃんを……!」
第二隊長が激しく取り乱している。
「そうか、彼女はかわいいのか」
俺のつぶやきに、第二隊長が大声をあげた。
「何言ってるんですか! かわいいなんてもんじゃなくて、言葉では言い尽くせないほどの」
「そうなのか?」
本気で分からなくてシャルに確認する。第二隊長は話を大きくすることもあるからな。
「ええ、そうですね。確かに人口の多い王都でも見つけられないほどの可愛さだと思いますよ」
「そうか」
「シャル補佐官、ちょっと、何冷静に隊長に答えてるんですか! あの可愛さを分からない隊長はどうなってるんですか!」
コップに残ったエールを飲み干しながら説明する。
「あー、美醜とかよくわからないんだ」
「は? え? 嘘でしょう?」
「分からないというか、顔のパーツや作りよりも、俺は顔つきを見る」
シャルがふふっと笑う。
「新入隊員が入ってきたら、その時の実力ではなく、顔つきで配置を決める」
俺の言葉に、第二隊長がポンっと手を打った。
「ああ、あれ、実力じゃなくて何を見て配属を決めてるのか、疑問だったんですよね。実力もないのに大抜擢することもあるじゃないですか? でも、必ず数年後には実力をつけて台頭してくる。人を見る目があるのか、野生の勘なのか……」
シャルがくくっと笑った。
「野生の勘だって、聞いたかガルン」
「まぁ、野生の勘に近いかもしれないぞ? とにかく顔つきを見ればそいつのことがよくわかる。一言でやる気のある顔と言うことがあるだろう?」
第二隊長はこくんと頷いた。
「だが、野心のある顔と、目標のある顔と、夢のある顔は違う――。一見するとどれもやる気のある顔だが、一番成長するのは」
第二隊長があー、そういうことかとうなづいた。
「なるほど。俺からするとやる気があるな! よし! と思うところも、隊長が見れば違いがあって……具体的な目標を持つ者に期待をするということですか」
シャルがあーあと嘆く。
「で、そのスベリアちゃんの顔が気に入らなかったから断ったってことですか」
「顔じゃない、顔つきだ。何と言うか……欲望が表に出ている感じで……」
正直、ちょっと怖かった。
自分より十以上も下の娘を怖がるなんてどうかと思うが。
「隊長、そりゃかわいそうっしょ。好きな人に告白するんだから、そりゃ恋をかなえたいって欲望が出るってもんで」
うっ。いや、なんか、違う気がしたんだけどな……。
「そんなこと言ってたら、もう一生独身ですよ! あ、そうだ、いっそハナ巫女なんてどうですか? 彼女なら隊長に欲望をむき出しにすることもないでしょう?」
「ハナは、駄目だ」
脊髄反射のように即答する。
「なぜ?」
シャルの目がこちらに向く。
なぜ? あれ? なぜ?
「顔が、いや、顔つきでしたか、気に入らなかったんですか?」
顔?
「あー、その、顔だ。そう、顔がまったく見えないから、うん」
しどろもどろに答えると、シャルが笑う。
「人よりも表情を読むのが得意なガルンからすると、ハナ巫女のように全く顔が見えないと恐れるもんなんですかねぇ?」
「そういえば、隊長、時々ハナ巫女に叱りつけられてますもんね。くくく」
第二隊長まで笑い始めた。
恐れる? ハナを? いや、俺は別にハナのことが怖いわけじゃないぞ。むしろ、ハナといるのは心地いい。表情が見えなくても、ハナから伝わる空気は心地いい。
「あ!」
急に声をあげた俺のことなど、すでに二人の眼中にはなかった。
話題はすぐに別のことに移り、二杯目、三杯目の酒に手を伸ばしている。
なるほど。心地いいからか……どこかで俺は、ずっとハナ巫女に治療されたいと思っていたのかもしれない。
解放してやれというシャルの言葉が胸の奥に沈む。
そうか。ハナも、もう二十三……か。確かに、気が付くのが遅いくらいだったな……。ハナには幸せになってもらわなくちゃな。
そんな会話を交わしてからすぐあとだ。一人の女性に会った。
初めに思ったのは知らない顔だということ。
不審者が隊に紛れ込む可能性もあるから、まず見るのは知った顔か知らない顔か。
知らない顔なのに、妙に懐かしい。懐かしいというか、知っている感じがする。
なんだろう、この感じは……。
不思議だ。……もしかして、これが俗に言う「運命の人と出会った瞬間」なのか?
知らないはずなのに知っている気がする。これは、魂が何かを記憶しているということなのか?
彼女も、初対面であるはずなのに、俺に対して何の警戒もしていない。
怖い怖いと言われ、女性は足がすくむことが多い俺を見ても……だ!
もしかして、彼女も俺に何かを感じている? そうなのか?
顔を改めてみる。美醜……世間の美醜基準で彼女の容姿はどう評価されるのかは分からないが……俺から見れば、それは素敵な顔をしている。
信念のある顔だ。迷いのない、信念に向かって日々努力を重ねている人の顔。
目に曇りはないし、口元にゆがみもない。
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いや、違う。そうじゃない。
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ハナは……もう、大人になっていたんだ――。
マリーゼに、ハナがもう戻らないかもしれないと言われた。
氷の将軍に会って……うまくいけば戻らないということなのだろう。
俺は……それでも……。
ハナ、お前が戻ってくるのを待つよ――。
俺には、お前が必要だ。
==============
さて、お知らせしましたとおり、なんと書籍化します!
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うわーい。書籍化嬉しいです(*'ω'*)
もう、なんていうか……イラスト見てほしい。
やばい、ガルン隊長ないわと思ってたけどありかもとか
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いろいろ、思うことがあると思うのでーす。
んでもって、かつてないほど、改稿がんばり、がんばり、まし……た……よ。
いや、どこがかってのは、比較してもらえば一目瞭然……って、比較できないじゃん!おおう、じゃ、新たな気持ちでお楽しみいただけるとうれしいです。
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