上 下
70 / 111

スマホ

しおりを挟む
 酒くせぇ。
 男くせぇ。
 汗くせぇ。
 とにかく、くせぇ!
 あまりのひどいにおいに顔をしかめる。
 なんだよ、これ!勇者ってのは、いい匂いのするかわいい女の子や、綺麗なお姉さんに囲まれるんもんだろう?
 なんで、俺は、こんなむさくるしいおっさんに囲まれてんだ?
 向かい側の牢を見ると、相変わらず背中を丸めて一人寝転んでいる。
 って、あっちは一人じゃん。なんてこっちにおっさんたち詰め込んだ!
 アイラの差し金で、嫌がらせか?
「おい、ひょろいの、お前もそんな仏頂面してないで、飲め、飲め」
 まったく、世界は違っても、よっぱいはどこも同じだな。
 円座に座ったおっさんたちは、床に適当に置いた食べ物を肴に、大きな陶器の酒瓶からめいめいにコップに酒を注いで飲んでいた。
 常連とか言ってたが、ずいぶん持ち込んだな。
 干し肉、パン、チーズ、煮干のような小魚に、謎の食べ物。
 ぐぅーっと、お腹が空腹だということを思い出させる。
「あははは、兄ちゃん腹減ってんのか?なら、酒の前に食え。空腹に酒を入れるのはおすすめしねぇ」
 食べていいのか?
 なんだ、おっさんたち、意外と気がきくじゃねぇか。臭いけどな。
 さっそく、並べられたおいしくもない食べ物を口に運び空腹を満たす。勇者になったら、美味しい物食うぞ。こんな底辺のやつらとは違うんだからな、俺は。
 気が付けば、酒も飲み、すっかり酔いも回ってきた。
「俺はねぇ、勇者なの。なのに、あのアイラって女、俺の言うことハナっから信じねぇし」
「あはは、勇者か、そりゃ勇ましいなぁ」
「オイラは信じるよ、お前は勇者だ。アイラ様のことを呼び捨てにするなんて、勇者にちげぇねぇ」
「ぶはははは、確かに、確かにそりゃいえる」
 酔っぱらいが楽しそうにげらげら笑っている。
「本当なんだって、ほら、これ見ろよ、こんなものこっちの世界にゃないだろ」
 ポケットからスマホを取り出して見せる。
「んあー、なんだそりゃ?黒い石か?」
 電源の入っていない黒い画面を見た男が顔を近づけて覗き込む。
「たいそうな鏡だなぁ、よく映る」
「違う、これは、スマホといって」
 電源は切ってある。充電できないから、電池の節約のためだ。この世界に来た時点で、充電は90%以上あったが、あと何日もつか。
「スマホだ?」
 男が手を伸ばしてきたので、慌ててポケットに戻す。下手にいじくられて壊れたら大変だ。

=================
あ、うっかりタイトルに浩史視点って入れるの忘れてるけれど、視点が戻る時に注意書き入れるんで、まだしばらく続きます。
……(´・ω・`)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】クローゼットの向こう側〜パートタイムで聖女職します〜

里見知美
ファンタジー
3年間付き合った彼氏から結婚目前で裏切られたミヤコ。 傷心というよりも呆れて物も言えない。ずっと二股かけてたなんて。 もう結婚なんて望まない。恋愛なんて糞食らえだ。私は夢に生きてやる。 慣れない都会で恋人に合わせていた生活を切り捨て、住み慣れた田舎の実家に戻ったミヤコは祖母の残した家に住むことになった。ある日、祖母の家の廊下の突き当たりに普通のドアの半分位の大きさの扉を発見。鍵を探し出して、扉を開けてみると、そこは異世界の食物庫だった……。 カクヨム・なろうでも投稿しています。 以前書きかけで止まっていたものを完結済みにして再投稿しています。 随時誤字脱字チェックをしており、他サイトと細かい言い回しが変わっているところもありますが、本筋は変わっていません。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

加護がなくなっても、私には関係ありません。~二人の愛の力で、どうにかしてくださいね?~

猿喰 森繁
ファンタジー
「オリビエ。お前とは、婚約破棄をする」 「あなたは、存在が粗相なの。早くこの国から出ていきなさい」 ある日、私はこの国を追い出されてしまいました。 私は、魔女の血筋を持つ母から生まれました。 そのおかげか、小さいころから妖精や精霊の姿を見ることが出来ました。 彼らの姿を絵や文字に書き起こすことによって、人外なる存在の力を借りることが出来たのです。 それを知った父は、「神の宿る絵」として、私の絵を売り、その噂を聞きつけた陛下が、「我が軍が勝利できるよう、軍神の加護込められた絵を描け」と言われ、書いたところ、軍は大勝利を収めました。 そして、神の加護を永遠にしようと、陛下は自身の子どもである王太子殿下と私を婚約させましたが、それが面白くないのは、殿下と、その恋人でした。 どこの生まれかも分からない女が、突然、王太妃になったのですから、当然のことかもしれません。 ですから、愛し合う二人は、私が二人の仲を引き裂く悪者に見えたのでしょう。 仕方ないので、人外の友人たちの力を借りて、ほかの国に渡ることになりました。 私がいるから、という理由で力を貸してくれていた、神様、妖精、精霊たちは、一気に国から離れることになりましたが、二人の愛の力で、どうにかしてくださいね?

家族はチート級、私は加護持ち末っ子です!

咲良
ファンタジー
前世の記憶を持っているこの国のお姫様、アクアマリン。 家族はチート級に強いのに… 私は魔力ゼロ!?  今年で五歳。能力鑑定の日が来た。期待もせずに鑑定用の水晶に触れて見ると、神の愛し子+神の加護!?  優しい優しい家族は褒めてくれて… 国民も喜んでくれて… なんだかんだで楽しい生活を過ごしてます! もふもふなお友達と溺愛チート家族の日常?物語

前世で医学生だった私が、転生したら殺される直前でした。絶対に生きてみんなで幸せになります

mica
ファンタジー
ローヌ王国で、シャーロットは、幼馴染のアーサーと婚約間近で幸せな日々を送っていた。婚約式を行うために王都に向かう途中で、土砂崩れにあって、頭を強くぶつけてしまう。その時に、なんと、自分が転生しており、前世では、日本で医学生をしていたことを思い出す。そして、土砂崩れは、実は、事故ではなく、一家を皆殺しにしようとした叔父が仕組んだことであった。 殺されそうになるシャーロットは弟と河に飛び込む… 前世では、私は島の出身で泳ぎだって得意だった。絶対に生きて弟を守る! 弟ともに平民に身をやつし過ごすシャーロットは、前世の知識を使って周囲 から信頼を得ていく。一方、アーサーは、亡くなったシャーロットが忘れられないまま騎士として過ごして行く。 そんな二人が、ある日出会い…. 小説家になろう様にも投稿しております。アルファポリス様先行です。

男爵令嬢が『無能』だなんて一体誰か言ったのか。 〜誰も無視できない小国を作りましょう。〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「たかが一男爵家の分際で、一々口を挟むなよ?」  そんな言葉を皮切りに、王太子殿下から色々と言われました。  曰く、「我が家は王族の温情で、辛うじて貴族をやれている」のだとか。  当然の事を言っただけだと思いますが、どうやら『でしゃばるな』という事らしいです。  そうですか。  ならばそのような温情、賜らなくとも結構ですよ?  私達、『領』から『国』になりますね?  これは、そんな感じで始まった異世界領地改革……ならぬ、建国&急成長物語。 ※現在、3日に一回更新です。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

聖女は断罪する

あくの
ファンタジー
 伯爵家長女、レイラ・ドゥエスタンは魔法の授業で光属性の魔力を持つことがわかる。実家へ知らせないでと食い下がるレイラだが…… ※ 基本は毎日更新ですが20日までは不定期更新となります

処理中です...