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26 侯爵家

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■そのころのリリアリスの実家の侯爵家では■

「おい、これはどういうことだ!」
 侯爵が真っ赤になって怒り出した。
 いつものように朝食を食べていた時の出来事だ。
 慌てて配膳をしていた侍女が付きだされた皿を確認する。
「何か問題がございましたでしょうか?」
 いつもと同じメニューだ。
 庶民ではめったに口にすることができない卵。
 それに、分厚く切ったベーコンと甘く煮たニンジンが乗った皿。
「大問題だ!卵の殻が入っていたじゃないか!一体どういうことだ!料理人を呼べ」
 侍女が大慌てで料理人を呼びに行く。
「おい、卵の殻を私に食べさせるとはどういうことだ!」
「も、申し訳ございません」
 頭を下げたのは、料理長を務める男だ。侯爵家に仕えて20年になる大ベテラン。
「卵の殻にも気が付かないとは、もうろくしたのではないか?」
「いえ、その……灯りが暗かったため、気が付きませんでした。今後はもっと注意深く作業いたします。申し訳ありません」
 ちっと、侯爵が舌打ちをする。
「自分の不注意を明かりのせいにするとは、無能め!もういい、二度目はないと思え。さがれ!」
 料理長は深く頭を下げてから、食堂を出て行った。
 調理場に戻ると、小さくため息をつく。窓から入る明かりは調理場の奥にまでは届かない。
「ああ、暗い……。いいや……。10年前はこんなものだったか……。リリアリスお嬢様が光魔法を使いだしてから8年が明るすぎただけだ。明るさになれると、この暗さはつらいな」
 今はまだ朝日が昇ってから朝食の支度をすればいい。冬になり日が短くなってからは日が昇らないうちから支度をはじめなければならないが、あの暗い中、昔はどうやって支度をしていたのだろうか。
 料理長は記憶を手繰りながら、次からは卵を割るのは窓際の明るい場所で行わなければと気持ちを引き締めた。

 侯爵がいらいらしながら朝食を終え、執務室に入ると机の上に積みあがった書類に仕事の補佐をしている執事を呼んだ。
「この書類の量はなんだ?仕事をさぼっているのではないだろうな?」
 侯爵がにらみつけると、執事が首を横に振った。
「いいえ。皆、さぼっているわけではございません。私を含め3名の補佐も、すでに2時間前から仕事をしております。ただ、いつもでしたら夕食後も作業ができるのですが、それができずに少しずつ処理しきれず、たまってしまっております。旦那様にももう少し早起きして仕事をしていただかないと難しいかと」
 執事のとげのある物言いに、その態度は何だと怒鳴りたい気持ちをぐっと侯爵は抑えた。
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