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殿下の思い人

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 私の顔色が変わったのを見て、お兄様が口を開いた。
「父上、せっかくできたリリーの友達ですよ。もし、皇太子妃になってしまえば、なかなか会うことができなくなってしまいます。こんなにリリーも辛そうな顔をしているじゃないですか。それに、ローレル嬢の気持ちも無視するつもりですか?」
「いや、ローレル嬢は、ロイホール公爵邸で開かれているパーティーにオレンジ色のドレスを着て参加していたという情報も得ている」
「それが何か?」
「いや、オレンジ色のドレスは、皇太子の髪色に合わせたドレスだろう?皇太子妃になりたい女性がこぞって着ているドレスの色だ。まぁ、あまりにその数が多すぎて、ブーケ・ド・コサージュの花の色から女性を特定するのが難しくなっているのだがな……。まぁつまり、ローレル嬢としても、オレンジ色のドレスを着ていたということは、皇太子妃になるつもりがまるっきり無いということではないだろう」
 お兄様がはっとして口を閉じる。
「まぁ、うちは公爵だからな。私も宰相の地位にある。いくらローレル嬢が皇太子妃……のちに王妃になろうが、リリーが全く会えなくなるようなことはない。むしろ……」
 お父様が私の顔を見る。
「もし、リリーが結婚せず、働きたいというのであれば、ローレル嬢の相談役だとか、生まれてくる子供のマナー教師など公爵令嬢であり、皇太子妃と親しいからこそできる仕事も見つかるかもしれない」
 ローレル様とシェミリオール殿下のお子様の教育係……。
 唇をぐっと噛みしめる。
「もし、記憶を取り戻したとしても……シェミリオール殿下であれば納得してくれるであろう。こうするのが国のためであったと……」
 国のため。
 そうだ。男として生きられるのであれば、その方がシェミリオール殿下も楽になるかもしれない。国のためにお世継ぎが生まれることは良いことだろう。
「殿下の思い人にまだ情報が行き届いていない可能性もあるが、1カ月もあれば殿下と会える場所にいる人間の耳には間違いなく届くであろう。貴族令嬢でなくとも、接触がありそうな者……城や屋敷で働く者たちの耳にも。その間に、名乗り出なければ殿下には候補者……ああ、今だと最有力候補はローレル嬢だな……と、婚約してもらうことになろう」
 お父様の言葉に、お兄様が小さく息を吐きだす。
「……名乗り出ないということは、皇太子妃になりたくないということでしょうね。殿下がその地位を捨てて一緒になろうとしていたというのであれば、その女性は……皇太子妃の地位を求めていない……。女性側も、このまま知られずに生きていった方がきっと幸せでしょう」
 ずきりずきりと心臓が痛む。



==============
く、くおうっ!
このままでは、ローレル様が殿下と……

エミリー「いやよ、いやっ!なんでそうなっちゃうのよ!」

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