異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと

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皮むき

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 侍女には侍女のネットワークがあることも学んだ。案外貴族同士の情報よりも貴重な情報を持っていることもあって驚いたものだ。特に美味しいお菓子の売っている店情報は素晴らしかった。
「は、はい。あの、確か調理場で働く者にいたかと……その、王宮では色々な領地の味が楽しめるようにと人を雇っているはずですので」
 ああ、なるほど。
「案内していただけるかしら?あ、あなたの仕事に差しさわりがあるようなら別の者に頼むわ」
「いえ、エリータ様。ご案内させていただきます。お気遣いありがとうございます」
 調理場につくと、貴族令嬢の登場に料理人たちに緊張が走った。それぞれの作業を止めてしまう。
 すぐに侍女に耳打ちして料理長に辺境伯領出身の者を呼ぶように頼んでもらった。
 入口付近では見習いの若い子がジャガイモの皮を不器用な手つきでむいていた。
 その動きを見ていると、緊張させてしまったのか、見習いがジャガイモを手から滑らせた。
 コロンコロンと転がったむきかけのジャガイモが私のドレスの裾に当たって止まる。
「ひっひゃっ」
 見習いが息を飲み込み、床に頭をこすりつける。
「も、も、も、申し訳ございませんっ、おいら、あ、あの、そ……」
 声が掠れて良く聞こえない。よほど緊張でカラカラになっているようだ。……まぁ、そりゃそうよね。見習い料理人が公爵令嬢のドレスを汚したとなれば、普通ならとんでもないお叱りを受けるだろう。怯えるのも分かる。
 だけど、わざとじゃないのはよくわかる。
 ジャガイモって手から逃げていくよね。
 ……セイラにむちゃぶりされたことを思い出す。
『あー、ジャンクフードが食べたいっ!ポテチ、ポテチ、ポテチが食べたい!そうだわ、エリータ、ポテチを作って持ってきて頂戴。作り方は簡単よ』
 って、命じられ、真面目は私は料理人に作らせればいいものを聖女であるセイラが私に作れと言ったからには自分で作らなければと初めて包丁を握ったのよね。
 足元に転がって来たジャガイモを拾い上げて、ぽんっと見習いの肩を叩く。
 その様子を、周りの料理人がかたずをのんで見守っている。
 弁償しなさい!とか、あんたみたいな人間はクビにしてもらうわ!とか、どんな言葉が飛び出すのかと思っているのだろう。あまりにも理不尽な言葉が出てきたら間に入るつもりかもしれない。
「あなた、見習いをはじめてどれくらいなの?」
 見習いは頭を下げたまま小さな声で答えた。
「ひ、一月になりま……す」
「一月で、随分うまくジャガイモの皮を向けるようになっているわね」
 私がむいたジャガイモは、皮よりも実が小さくなってしまったほどだ。見習いは薄く綺麗に皮をむいている。
 驚いて見習いが顔を上げた。そばかすがいっぱい散った日に焼けた男の子の顔。
 あ……この子、若くして副料理長補佐になる子だ。
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