90 / 103
90
しおりを挟む
無理やり女性に引っ張られてきた男性もいるようだ。
たくさん集まってきているけれど、もう顔と名前が一致する人が見つからない。
ポケットから手紙を取り出す。
「こちらのカードはシャルム様にいただいたもので」
一人の男性が声を上げた。
あれがシャルム様だろうか?
「騙されるな!あの女は、自分が被害者みたいな顔をしているが、男を誘って罠にはめたんだ!無理やりとか嫌々とか嘘に決まっている!」
「そうだ!そうだ!大方思い通りにならなくなって嫌がらせのためにありもしないデマを流してるんだ!」
「その手紙をよこせ!まだあるんだろう!どうやって偽造したか知らないが」
私の手を一人の男がつかむ。
別の男が、ポケットから手紙を奪い取ろうと手を入れる。
「やめろ!女性に対して行うことか?」
制止の声に、男たちが動きを止めた。
「女性の手を乱暴につかむことも、勝手にポケットに手を突っ込むことも、許されることではない。そのような行為を平気で行うことが、彼女に無理やり関係を迫っていた証拠ではないのか?」
騒動の渦中に飛び込んできたのは……。
「ハルーシュ様……」
ハルーシュ様が私の前に立った。
「僕が承認になろう。彼女が自分から男性に迫ったことはないと。彼女が男性から必死に逃れようとしているところは確かに僕がこの目で目撃している」
集まった人々をにらみつけるように見回した。
黙りこくる人たちの中から声を上げるものがいた。人の陰にかくれて姿も見せずにだ。
「ヴァイオレッタの愛人の言葉なんて信用できるか!」
その一言がきっかけとなり他の者も声を上げる。
「そうだ!自分が誘惑されててよくゆうぜ」
「その通りだよなぁ。自分だってヴァイオレッタに誘惑されて愛人になってるじゃないか!」
ぐっと奥歯をかみしめる。
「彼は、愛人ではないわ!私があなたたちのような下種な男に襲われないように、私を守るために愛人のフリをしてくれていただけよ!」
ハルーシュ様の名誉を傷つけるわけにはいかない。
「どうせ、証拠は?というのでしょう。夜会の行われた屋敷の使用人にでも聞けばいいわ。私たちが二人で入った部屋にベッドの乱れがあったかどうか。私の服を整えるために侍女が呼ばれたかどうか。聴取しなさい。納得するまですればいい」
アイリーンの日記では二人に関係がなかった時期も確かにあった。だけれど、そのあとは関係を持っているのだから本当に聴取されては困る。だけど……。
困るのはこちらばかリではないはず。
「ただし、私が嫌がって逃げようとしていたことや、部屋で私がひどい仕打ちを受けていたことも、使用人からの証言からはっきりするでしょうね……ああ、もちろん使用人は記憶をたどるうちに、別の誰かと誰かが部屋を使ったことまで思い出すでしょうけれど」
後ろ暗い人間が、わざわざ証言を取るとは思えない。
まだ何か言いたげな者もいる。
たくさん集まってきているけれど、もう顔と名前が一致する人が見つからない。
ポケットから手紙を取り出す。
「こちらのカードはシャルム様にいただいたもので」
一人の男性が声を上げた。
あれがシャルム様だろうか?
「騙されるな!あの女は、自分が被害者みたいな顔をしているが、男を誘って罠にはめたんだ!無理やりとか嫌々とか嘘に決まっている!」
「そうだ!そうだ!大方思い通りにならなくなって嫌がらせのためにありもしないデマを流してるんだ!」
「その手紙をよこせ!まだあるんだろう!どうやって偽造したか知らないが」
私の手を一人の男がつかむ。
別の男が、ポケットから手紙を奪い取ろうと手を入れる。
「やめろ!女性に対して行うことか?」
制止の声に、男たちが動きを止めた。
「女性の手を乱暴につかむことも、勝手にポケットに手を突っ込むことも、許されることではない。そのような行為を平気で行うことが、彼女に無理やり関係を迫っていた証拠ではないのか?」
騒動の渦中に飛び込んできたのは……。
「ハルーシュ様……」
ハルーシュ様が私の前に立った。
「僕が承認になろう。彼女が自分から男性に迫ったことはないと。彼女が男性から必死に逃れようとしているところは確かに僕がこの目で目撃している」
集まった人々をにらみつけるように見回した。
黙りこくる人たちの中から声を上げるものがいた。人の陰にかくれて姿も見せずにだ。
「ヴァイオレッタの愛人の言葉なんて信用できるか!」
その一言がきっかけとなり他の者も声を上げる。
「そうだ!自分が誘惑されててよくゆうぜ」
「その通りだよなぁ。自分だってヴァイオレッタに誘惑されて愛人になってるじゃないか!」
ぐっと奥歯をかみしめる。
「彼は、愛人ではないわ!私があなたたちのような下種な男に襲われないように、私を守るために愛人のフリをしてくれていただけよ!」
ハルーシュ様の名誉を傷つけるわけにはいかない。
「どうせ、証拠は?というのでしょう。夜会の行われた屋敷の使用人にでも聞けばいいわ。私たちが二人で入った部屋にベッドの乱れがあったかどうか。私の服を整えるために侍女が呼ばれたかどうか。聴取しなさい。納得するまですればいい」
アイリーンの日記では二人に関係がなかった時期も確かにあった。だけれど、そのあとは関係を持っているのだから本当に聴取されては困る。だけど……。
困るのはこちらばかリではないはず。
「ただし、私が嫌がって逃げようとしていたことや、部屋で私がひどい仕打ちを受けていたことも、使用人からの証言からはっきりするでしょうね……ああ、もちろん使用人は記憶をたどるうちに、別の誰かと誰かが部屋を使ったことまで思い出すでしょうけれど」
後ろ暗い人間が、わざわざ証言を取るとは思えない。
まだ何か言いたげな者もいる。
30
お気に入りに追加
1,879
あなたにおすすめの小説
採取はゲームの基本です!! ~採取道具でだって戦えます~
一色 遥
SF
スキル制VRMMORPG<Life Game>
それは自らの行動が、スキルとして反映されるゲーム。
そこに初めてログインした少年アキは……、少女になっていた!?
路地裏で精霊シルフと出会い、とある事から生産職への道を歩き始める。
ゲームで出会った仲間たちと冒険に出たり、お家でアイテムをグツグツ煮込んだり。
そんなアキのプレイは、ちょっと人と違うみたいで……?
-------------------------------------
※当作品は小説家になろう・カクヨムで先行掲載しております。
捨てられた第四王女は母国には戻らない
風見ゆうみ
恋愛
フラル王国には一人の王子と四人の王女がいた。第四王女は王家にとって災厄か幸運のどちらかだと古くから伝えられていた。
災厄とみなされた第四王女のミーリルは、七歳の時に国境近くの森の中で置き去りにされてしまう。
何とか隣国にたどり着き、警備兵によって保護されたミーリルは、彼女の境遇を気の毒に思ったジャルヌ辺境伯家に、ミリルとして迎え入れられる。
そんな中、ミーリルを捨てた王家には不幸なことばかり起こるようになる。ミーリルが幸運をもたらす娘だったと気づいた王家は、秘密裏にミーリルを捜し始めるが見つけることはできなかった。
それから八年後、フラル王国の第三王女がジャルヌ辺境伯家の嫡男のリディアスに、ミーリルの婚約者である公爵令息が第三王女に恋をする。
リディアスに大事にされているミーリルを憎く思った第三王女は、実の妹とは知らずにミーリルに接触しようとするのだが……。
素敵なものは全て妹が奪っていった。婚約者にも見捨てられた姉は、「ふざけないで!」と叫び、家族を捨てた。
あお
恋愛
「お姉様、また新しいアクセサリーを貰ったのね。ずるいわ。私にちょうだい」
「ダメよ。これは婚約者のロブに貰ったものなの。あげられないわ」
「なんて意地悪なの! ロブだって私に使って貰った方が喜ぶわよ。早くちょうだい」
ダメだと重ねていったが、アクセサリーは妹のエミリーにひったくられてしまった。
「ふふ。綺麗。ねぇ、素敵でしょう」
そしてエミリーは戦利品を首にかけ、じっとりとした目でこちらを見てくる。
婚約者からもらったものだ。できることなら取り返したいが、エミリーが金切り声をあげて両親に訴えれば両親はエミリーの味方をするだろう。
「ロザリー、あなたは姉なのだから、妹に譲ってあげなさい、と」
それでも取り返すべきかと躊躇したが、お披露目して満足したのかエミリーはパタパタと足音をたてて去って行った。
プレゼントされたばかりのアクセサリーを次のデートにつけていかなければ、またロブの機嫌が悪くなるだろう。
困ったものだ。
どうせエミリーにとられてしまうのだから、プレゼントなどくれなければいいのに。
幼なじみのロブは、エミリーが姉のものならなんでも欲しがることを知っている。それでも折々に洒落た小物をプレゼントしてくれた。「僕がプレゼントをしたいだけだから」と。
エミリーにとられる前に、二人でプレゼントを眺め、そっと笑い合う。婚約したばかりの頃は、そんな穏やかな空気が二人の間に流れていた。
だが近頃は、妹にやられっぱなしのロザリーをふがいなく思っているのか、贈られたプレゼントをロザリーがデートにつけていかないと、小さなため息を吐くようになっていた。
「ロザリー、君の事情はわかるけど、もう成人するんだ。いい加減、自立したらどうだ。結婚してからも同じようにエミリーに与え続けるつもりかい」
婚約者にも責められ、次第にロザリーは追い詰められていく。
そんなロザリーの生活は、呆気なく崩れ去る。
エミリーの婚約者の家が没落した。それに伴い婚約はなくなり、ロザリーの婚約者はエミリーのものになった。
「ふざけないで!」
全てを妹に奪われたロザリーは、今度は全てを捨てる事にした。
聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です
光子
恋愛
私の双子の妹の《エミル》は、聖女として産まれた。
特別な力を持ち、心優しく、いつも愛を囁く妹は、何の力も持たない、出来損ないの双子の姉である私にも優しかった。
「《ユウナ》お姉様、大好きです。ずっと、仲良しの姉妹でいましょうね」
傍から見れば、エミルは姉想いの可愛い妹で、『あんな素敵な妹がいて良かったわね』なんて、皆から声を掛けられた。
でも違う、私と同じ顔をした双子の妹は、私を好きと言いながら、執着に近い感情を向けて、私を独り占めしようと、全てを私に似せ、奪い、閉じ込めた。
冷たく突き放せば、妹はシクシクと泣き、聖女である妹を溺愛する両親、婚約者、町の人達に、酷い姉だと責められる。
私は妹が大嫌いだった。
でも、それでも家族だから、たった一人の、双子の片割れだからと、ずっと我慢してきた。
「ユウナお姉様、私、ユウナお姉様の婚約者を好きになってしまいました。《ルキ》様は、私の想いに応えて、ユウナお姉様よりも私を好きだと言ってくれました。だから、ユウナお姉様の婚約者を、私に下さいね。ユウナお姉様、大好きです」
――――ずっと我慢してたけど、もう限界。
好きって言えば何でも許される免罪符じゃないのよ?
今まで家族だからって、双子の片割れだからって我慢してたけど、もう無理。
丁度良いことに、両親から家を出て行けと追い出されたので、このまま家を出ることにします。
さようなら、もう二度と貴女達を家族だなんて思わない。
泣いて助けを求めて来ても、絶対に助けてあげない。
本物の聖女は私の方なのに、馬鹿な人達。
不定期更新。
この作品は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。
あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。
貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。
…あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?
生まれたときから今日まで無かったことにしてください。
はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。
物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。
週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。
当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。
家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。
でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。
家族の中心は姉だから。
決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。
…………
処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。
本編完結。
番外編数話続きます。
続編(2章)
『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。
そちらもよろしくお願いします。
【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??
新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる