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「この間のお礼のハンカチは、手紙に自分で刺繍したと書いてあったけれど、まさかと思ったのよ。それで、今回はもしかしたらと確かめさせてもらったの」
 ふぅと、侯爵夫人がため息をついた。
「寝ていないのでしょう?徹夜で刺繍をしたのよね?」
「え?」
 侯爵夫人の手が私の頬に触れた。
「目の下に隈もできているわ。無理させてしまってごめんなさいね……」
 無理なんてっ!
 していないと否定しようとしたときに、ノックの音が響いた。
「入って頂戴」
 誰が来るのか分かっていたのか、声をかけられる前にジョアン様が入室の許可を出した。
「それで、どうだったんだ」
 入ってくるなり、ルーノ様は声を上げた。
「ルーノ様」
「ああ、アイリーン……かわいそうに。ひどい顔だ」
 ひどい顔?
「ルーノ落ち着いて、座って。……でも、あなたの言う通りだったわ」
 ジョアンナ様が首を横に振った。
「この間いただいたハンカチも、翌日には届けられたから。誰かに刺繍させたものか、買った物だと思ったのよ。いくら何でも、それほど短時間で刺繍ができるわけないから……。自分で刺繍したというのも、せいぜい仕上げのいくつか針を刺しただけなんじゃないかと……」
 ジョアンナ様の言葉に、ルーノ様が口を挟んだ。
「アイリーンは嘘をつくような人じゃない」
「ええ。ルーノがそう言うから、思い出したのよ。そもそもハンカチを贈られる元となった事件を。お茶会が続いていて直接顔を合わせたわけではなかったから、侍女からの報告も詳しくは聞かなかったけれど……。確認したら思ってた以上にひどい話を聞かされたわ」
 ジョアンナ様が心配そうな顔を私に向ける。
「もう、背中の傷は大丈夫なの?」
「あ、はい。もうすっかり痛むこともなく……」
 ジョアンナ様が心を落ち着かせるように息を吐き出すと、思い出したかのように、お茶を勧めた。
「さぁ、ルーノも急いで駆けつけて喉が渇いているでしょう。お茶をどうぞ。アイリーンも。お菓子も口に合えばいいのだけれど」
 並べられた美味しそうな焼き菓子を見たとたんに、お腹が鳴った。
 は、恥ずかしい。なんてはしたない。
「申し訳ありません」
 食いしん坊だねと笑い話にしてくれないかと思って二人の顔を見ると、泣きそうな表情をしている。
「ろくに食事も食べさせてもらっていないのね……」
「いえ、あの、そういうわけでは……。刺繍に没頭してしまって……」
 嘘ではない。昨日は食事で刺繍を中断されたくなかったから……。まぁ、朝食はタイミングが悪かったのだけど。
 ジョアン様が首を横に振った。
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