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 公爵様とも侯爵様とも親し気な関係なら、高位貴族なのだろう。
 ……子爵令嬢と結婚など、いくら子供ができたからと言って簡単なことではないはずだ。せいぜいが愛人。
 子供を取り上げられるのだけは嫌だ。
 はぁーっと、大きく息を吐き出す。
 落ち着こう。何も、アイリーンの子の父親がルーノ様の弟だと決まったわけじゃない。
 それに、よく思い返すとルーノ様は、ヴァイオレッタの体調も尋ねていた。
 ということは、弟の不始末とは、もしかしたらあの日……アイリーンが倒れた日のことかもしれない。
 休ませるわけでなく、医者に見せるわけでもなく、家に放り捨てるように送り届けられたアイリーン。
 倒れた令嬢に対する対応としてはあり得ない話だ。いくら嫌われ者だとしても……。
 そのことを謝罪しようというだけかもしれない。
 いや、むしろその可能性の方が高そうだ。
 だとしたら、体調に問題はない。家に送り届けてくれて感謝していると伝えればそれで終わりの話。
「ヴァイオレッタ、いや、アイリーンはいるか!」
 ノックもせずにお父様が部屋に入ってきた。
 慌てて、お母様の日記を机の引き出しに入れる。
「あ」
 ここはアイリーンの部屋だった。机にはすでに何かが入っていて入らなかった。
 慌てて立ち上がり、お父様に見つかりませんようにと体で隠す。
「どうなさったのですか?」
 お父様は幸い、何かに興奮しているようでまるっきり私の行動を気にした様子もない。
「すぐに、刺繍だ。ハンカチに刺繍しろ!」
「え?」
 お父様が、手紙を私に見せた。
「侯爵夫人からの手紙だ」
 手紙には、ハンカチのお礼とともに、をとても気に入ったということが書いてあった。
 たくさんのハンカチを持っているけれども一番気に入っている。
 私のためだけに作られた者だと言うのが伝わった。
 ……と。
 ほっと息を吐き出す。
 紫のヒヤシンスを選んでよかった。
「私がお前にハンカチに刺繍して贈るように言ったのがよかったんだな。下手に宝石なんか贈らなくて成功だ。やはり私の判断は正しかったんだ」
 お父様の言葉を聞きながら手紙を読み進めていく。
 知り合いがとてもうらやましがっていたので、その人に贈りたいので刺繍をお願いできないかと書かれている。
 なるべく早く欲しいと。出来上がったら、刺繍をした本人に侯爵邸まで届けてもらえないかとも書かれている。
「侯爵夫人に気に入られれば、子爵の中でも一歩頭を出せる。流石私だ。お前も、私の言う通りにしていれば間違いないんだ」
 手紙を持つ手が震える。
 侯爵様の最後には『無理を言って、許してくださいね』と書かれていた。
 そして、紫のヒヤシンスの押し花がつけられている。
 もしかして……。
 ドクンと心臓が高鳴る。
 侯爵夫人の言う知り合いというのは……。ルーノ様?
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